黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

ワールドカップ、日本悲願のベスト8入りならず…(T_T)

それではどうぞ!



第186Q~時~

 

 

 

時は僅かに遡る。

 

「タイムアウトを」

 

チームの劣勢、赤司のゾーンが解かれた事を見て白金がオフィシャルテーブルにてタイムアウトの申請をした。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

コートに視線を向ける白金。そこには、赤司が空からボールを奪っている姿があった。

 

ボールを奪った赤司はそのまま攻め上がり、空が目の前に対峙すると足を止める。

 

「…」

 

「…っ」

 

空を見据えながらドリブルをする赤司。先程のスティールの動揺が残っているのか、僅かに表情が曇っている空。

 

「(ここは抜かせねえ。仮にパスを出したなら、また奪ってやるだけだ…!)」

 

目の前の赤司に全神経を集中させる空。

 

「…」

 

数秒程、睨み合う両者。そして赤司が動いた。

 

「……えっ?」

 

思わず声を上げたのは大地。三村が大地から距離を取った正にその瞬間、三村の手にボールが収まっていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

慌ててチェックに向かう大地だが間に合わず、三村はスリーを決めた。

 

『――お』

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

一瞬、静まり返った会場が沸き上がる。

 

「(…フルフル)」

 

ディフェンスに戻っていく赤司がオフィシャルテーブルの傍に立っていた白金に振り返り、首を横に振った。

 

「…」

 

その様子を見て、白金は何かを感じ取り…。

 

「(…コクッ)」

 

首を縦に振り、頷いた。

 

「申し訳ない、タイムアウトの取り消しを頼む」

 

1度申請したタイムアウトを取り消した。

 

「(…そうか、赤司、お前は――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あ、赤司…」

 

ディフェンスに戻る最中、赤司に話しかける二宮。

 

「まだ試合は終わっていない。集中を切らすな」

 

『っ!?』

 

口を開く。その赤司を見て、洛山の選手達は気付いた。

 

「赤司、お前は――」

 

「話は後だ。今は試合に勝つ事だけを考えろ」

 

三村の言葉を遮るように赤司が口を挟む。

 

「これまで通り、パス回していく。…あれ(・・)をやるぞ」

 

「っ!? あれって、まさか、閃きのパス(フラッシュパス)の事か?」

 

赤司の提案に、四条が驚きながら聞き返す。

 

「だがあれは、結局、インターハイ以降、1度も上手く行かなかったじゃないか」

 

五河が赤司の提案に難色を示した。

 

「出来る。今なら出来る」

 

インターハイの折に1度、偶発的に出来た究極のパスワーク。再び再現しようとインターハイ終了後に試みたが、結局1度として上手く行かず、結局、断念した為、五河以外も難色を示したが、そんなチームメイトを余所に赤司は断言した。

 

「俺達は難しく考えて過ぎていたんだ。ただ仲間を信じればいい。それだけで良かったんだ」

 

「信じる…」

 

赤司の言葉を反芻させるように呟く三村。

 

「俺達は5年以上も同じチームメイトとして過ごした。勝利も敗北も、栄光も挫折も共に味わった」

 

『…』

 

「自分と…そして仲間を信じて動き、仲間を信じてパスを出す。今の俺達なら出来るはずだ」

 

赤司がチームメイトを見据えながら言った。

 

「そういう事か…。分かった、やってやろうぜ」

 

二宮がその言葉に頷いた。

 

「思えば、俺達、すっかり腐れ縁になっちまったな」

 

過ごして期間を思い出し、苦笑する三村。

 

「迷った事はあっても、お前らは疑った事は1度たりともなかったよ、俺は」

 

ウィンクをしながら笑みを浮かべる四条。

 

「見せてやろうぜ、俺達にしか出来ない、究極のチームワークを」

 

拳を握る五河。

 

「では行くぞ。史上最高の洛山の姿を、見せつけるぞ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…っ!」

 

洛山のボール回しが始まり、表情を曇らせる空。

 

『…っ』

 

それは、他の花月の選手達も同様であった。

 

これまでの決められたルートを通るパスとは違い、各選手が理想の位置に走り、理想の位置にパスを出す。それが噛み合った結果、パスコースを読む事も追う事も出来ず、気が付けばフリーの選手が生まれ、シュートを打たれてしまう。

 

「(くそっ! パスコースが限定出来ねえ!)」

 

今までは大地と連携してパスコースを限定…誘導出来たのでスティールが狙えたが、閃きのパス(フラッシュパス)が始まってからはそれが出来なくなり、苦悶の表情を浮かべる空。

 

「…っ! そこか!」

 

赤司から三村へと出されたパスに空が反応。パスコースを塞ぎにかかる。

 

「(くそっ! 間に合わねえ!!!)」

 

パスコースに手を伸ばした空だったが、ボールは伸ばしての数十センチ前を通過していく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取った三村がジャンプショットを決めた。

 

 

花月 91

洛山 92

 

 

『逆転! 再び洛山がリードだ!!!』

 

花月によってひっくり返された試合が今度は洛山によってひっくり返された。

 

「くそっ!」

 

悔しさのあまり、空は自身の太腿を叩く。

 

「無駄だ」

 

そんな空に対し、赤司が話しかける。

 

「パスコースを限定、先読み出来たナンバープレーとは違う」

 

「…っ」

 

「俺達の5年間の集大成がこの閃きのパス(フラッシュパス)だ。このパスは、お前がどれだけのスピードを有しようが、止める事は出来ない」

 

それだけ告げ、赤司はディフェンスへと戻っていった。

 

「言いたい事言いやがって…!」

 

その物言いに空の表情は険しくなる。

 

「それでも俺にはこれしかねえんだ。俺には赤司やナッシュのような眼もなければ、三杉さんみたいに正確に相手の動きを読む頭もねえ。俺にはスピード(これ)しかねえんだよ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

花月のオフェンス、ボールを運んだ空が赤司に対して仕掛ける。

 

「…っ」

 

しかし、空がどれだけフルスロットルで加速しても、赤司を抜く事が出来ない。

 

「(さっきまでは未来を読んでも追いつけなかった。だが、敵味方全ての未来が視える今なら、全体の動きを視て先のさらに先まで視える。もうお前のスピードに遅れる事はない…!)」

 

「…くそっ!」

 

仕方なく空は生嶋にパスを出す。

 

「打たせん!」

 

「…っ!?」

 

生嶋にボールが渡るのと同時に二宮がディフェンスに付く。

 

「(…ダメだ! こうも厳しく張り付かれたら何も出来ない…!)」

 

身体がバチバチとぶつかる程の激しい当たりをしながらディフェンスを二宮の前に生嶋はスリーはおろか、ボールをキープするだけで手一杯になる。

 

「…っ、まっつん!」

 

たまらず、生嶋のボールを中に入れる。

 

「…ちぃっ!」

 

ローポストでボールを受けた松永。その背中に張り付くように五河がディフェンスに入る。

 

「(くそっ! ビクともせん!)」

 

ポストアップでゴール下まで押し込もうと試みた松永だったが、五河はビクともしない。

 

「ならば…!」

 

 

――スッ…。

 

 

ここで松永はボールを掴んでフェイクを織り交ぜながらフロントターンを仕掛ける。

 

「それで仕掛けてるつもりか?」

 

「っ!?」

 

しかし、五河は翻弄されず、松永にシュートチャンスを与えない。

 

「松永君! もうすぐ3秒よ!」

 

ベンチの姫川がオーバータイムを知らせる指示を飛ばす。

 

「こっちや!」

 

「…っ」

 

やむを得ず、松永は天野の声の方にパスを出した。

 

「打たせん!」

 

「…っ」

 

天野がボールを掴むと、すかさず四条がディフェンスに現れた。

 

「(あっかん!? もともとオフェンスが得意やあらへん俺では何も出来ひん!)」

 

四条の厳しいディフェンスを前に、天野もまた、ボールをキープする事に追われてしまう。

 

その後も花月はボールを回していくが、一向に得点チャンスを作る事が出来ない。そして…。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『24秒、オーバータイム!』

 

シュートクロックが0になり、オーバータイムがコールされてしまう。

 

『うわー! 結局シュート打てず!』

 

観客が頭を抱える。

 

『…っ』

 

得点どころかシュートすら打てず、表情が曇る花月の選手達。

 

 

 

――ピッ!!!

 

 

続く洛山のオフェンスでも、洛山の閃きのパス(フラッシュパス)によるボール回しが行われる。

 

『っ!?』

 

正確かつ高速のボール回し。花月の選手達はシュートを打たせまいと必死に食らいつく。だが…。

 

『っ!?』

 

気が付けば、フリーの選手が出来てしまう。フリーとなった四条にパスが出される。

 

「ちくしょうがぁっ!!!」

 

空が四条に出されたパスコースへと走り込み、手を伸ばす。

 

「無駄だ!」

 

四条の言葉通り、ボールは空の伸ばした手の先を無情にも通過していく。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを掴んだ四条がジャンプショットを決めた。

 

 

花月 91

洛山 94

 

 

「よーし!」

 

四条と五河がハイタッチを交わす。

 

「くそっ!」

 

悔しさのあまり、空が自身の太腿を叩く。

 

「(もっとだ。もっと集中しろ! もっと速く…!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も洛山の猛攻は収まらなかった。

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司から始まる洛山の閃きのパス(フラッシュパス)によるボール回し。

 

「おぉぉぉぉー--っ!!!」

 

空が雄叫びを上げながらボールにダイブしながら手を伸ばすがやはり届かず、コートに倒れ込んでしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボール回しでフリーとなった五河にゴール下を決められてしまう。

 

「くそぉっ!!!」

 

悔しさから、空はコートを激しく叩きつけた。

 

 

「…大ちゃん」

 

「見ての通りだ。もう、洛山の勝利は揺るぎようがねえ」

 

試合を見守っていた青峰と桃井。2人も試合の行方を予測出来てしまっていた。

 

「せめて、綾瀬にボールを渡せりゃ、得点は取れるかもしれねえが…」

 

青峰がそう言葉にするが…。

 

 

「…っ」

 

コート上で表情も曇らせる大地。

 

…大地にボールを渡す事が出来なかったのだ。

 

生嶋、天野、松永では得点を奪えない。空も、目の前の赤司を抜きさる事が出来ず、得点を奪えない。頼みの綱はエースである大地だけなのだが…。

 

「…っ!」

 

その大地にボールを掴ませる事が出来ない。これまでは空が大地の動き出しに合わせてパスを出せていたが、赤司の天帝の眼(エンペラー・アイ)が進化してからはそのタイミングをも潰されるようになった。

 

大地が直接ボールを受け取りに行ったが、その場合はマークを赤司にスイッチし、赤司が大地のディフェンスに入った。

 

「…っ」

 

もとより、空以外では天帝の眼(エンペラー・アイ)を持つ赤司とはまともに相対出来ない。空にリターンパスを出そうにも…。

 

「くそっ!」

 

悔しがる空。

 

空でさえ、赤司を前に大地にパスを出せない状況である為、大地では尚の事、空にパスが出せない。

 

『…っ』

 

空以外から大地へパスを中継しようにも、そのパスコースは確実に塞がれてしまう為、これも出来ない。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

大地が赤司に対して仕掛けるが、動いたその瞬間を狙われ、ボールを叩かれてしまうのだった…。

 

 

第4Q、残り1分36秒

 

 

花月 91

洛山 98

 

 

点差は着実に広がっていた。

 

『これはもうダメだ…』

 

『オフェンスもディフェンスも凄すぎて手が付けられない…』

 

『花月がダメなんじゃない…、洛山が凄すぎるんだ…!』

 

観客達もその洛山の完璧な攻守のバスケに圧倒されていた。そして試合の勝敗も既に結論付けていた。

 

 

 

――ウィンターカップの優勝は洛山以外ありえない、と…。

 

 

 

もはや、洛山が今年にウィンターカップを制する未来まで結論付ける者もいた。

 

 

 

「監督! 1度タイムアウトを!」

 

姫川が上杉にタイムアウトを取るよう提案する。

 

「…」

 

しかし、上杉は険しい表情をしながらベンチから動かない。

 

「(仮にタイムアウトを取ったとして、何を指示する…!)」

 

上杉もこの状況を打破する策を思い付く事が出来なかった。花月が申請できるタイムアウトは後1回。その事実も、上杉がタイムアウトを渋る要因となっていた。

 

「(何かきっかけはないのか…。この状況は打開できるきっかけが…!)」

 

上杉は必死に頭を巡らせたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ハァ…ハァ…!』

 

花月の選手達は目の前で突き付けられた現実を振り払い、必死に抗っていた。切れそうになる集中を必死に繋ぎ合わせていた。

 

「…」

 

空は神経を更に尖らせていた。

 

「(もっとだ! もっと集中するんだ! もっともっと! もっともっともっとモットモットモット――)」

 

空の意識が更に深い集中に沈んでいく。

 

「――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ターンオーバーから洛山のオフェンス。全員がフロントコートに駆け上がると、洛山のボール回しが始まる。

 

『…っ』

 

必死に食らいつく花月。これを決められれば洛山は大台の100点目となる。残り時間を考えれば、これ以上、失点をすれば試合を決定付けてしまう。しかし…。

 

『っ!?』

 

無情にも閃きのパス(フラッシュパス)によってフリーの選手が作り出されてしまう。

 

「(これで終わりだ!)」

 

フリーとなった二宮に、五河がパスを出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――誰もがこのパスで試合の勝敗を決定付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――青峰や桃井も…。

 

 

 

 

 

 

 

 

――観客も…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――選手達でさえも…。

 

 

 

 

 

 

 

 

勝利を決定付ける、パスが、繋がる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――はずだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

『っ!?』

 

五河から二宮へと出されたパスがその手に渡る前にカットされた。

 

「(バカな!?)」

 

赤司が目を見開いて驚愕する。

 

「(取れるはずがない! そうならようにボールを回したんだ。如何にお前が驚異的なスピードを有しようが、俺と同じ眼(・・・・・)を持たない限り、不可能だ!)」

 

ボール回しは赤司の眼から視ても緻密に構築されていた。時間を惜しみなく使って人とボールを動かし、特定のスペースを創り出し、そこへ特定の選手を走り込ませる。そのパスは、空であってもカット出来ない。そうなるようにボール回しをしていたのだ。

 

「――」

 

零れたボールを空が拾う。

 

「戻れ! ディフェンスだ!」

 

それでも冷静さを失わなかった赤司が選手達に指示を飛ばす。

 

『…っ』

 

その声に正気を戻した洛山の選手達がディフェンスへと戻っていった。

 

「――」

 

ボールを拾った空がそのままボールを運んでいる。

 

「(例えマグレでパスをカット出来ても無駄だ!)」

 

「(綾瀬にはボールを掴ませない。それ以外の奴には何もさせない!)」

 

「(寿命が少し伸びただけ。次で決まりだ!)」

 

空の前にディフェンスへと洛山の選手達が待ち受ける。

 

「――」

 

正面を見据える空。次の瞬間…!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……えっ?」

 

コート上で声を上げたのは二宮。二宮が視線を自身がマークする生嶋へと向けると、そこにはボールを掴んだ生嶋の姿があった。

 

「しまっ…!」

 

慌ててチェックに向かう二宮だったが…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

それよりも速く生嶋がスリーを放ち、ボールはリングを潜り抜けたのだった。

 

 

花月 94

洛山 98

 

 

『っ!?』

 

生嶋にスリーを決められ、目を見開いて驚愕する洛山の選手達。

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

同時に沸き上がる観客。

 

「何が…起こったんだ?」

 

状況が掴めない三村。

 

「気が付いたら生嶋(5番)パスが通って…」

 

四条も同様であった。

 

「俺は確かに生嶋(5番)をマークしていた。何が起こったんだ…!?」

 

1番近くでマークしていた二宮にも状況が掴めていなかった。

 

「何だよ今の。今のはまるで赤司と同じ…!」

 

五河も驚きを隠せないでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(何が起こっているんだ?)」

 

空は周辺の変化に驚いていた。

 

 

 

――周囲のボールと人がビデオのスローモーション映像みたいにゆっくり動いていたのだ。

 

 

 

「(二宮(5番)がフリーに…! 五河(8番)からパスを出そうとしている…!)」

 

空の視界では、ゆっくりと創り出されたスペースに走り込む二宮と、そこへパスを出そうとしている五河の姿が確認できた。

 

「(追い付ける!)」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

パスコースへと移動した空が五河から出されたボールを手で弾いた。ゆっくりと零れるボールを空が抑え、そのままフロントコートまで運んだ。

 

「――」

 

いち早くディフェンスを構築する洛山。空は自身の変化への戸惑いもあり、ワンマン速攻を仕掛けなかった。

 

「(大地へは…出せそうにないな。天さんや松永も出せない…)」

 

相変わらず敵味方問わず、空の視界ではゆっくりと動いている。大地、天野、松永へはパスが出せない事が確認出来た。

 

「(……ん? 生嶋がマークを外そうとしてるな。二宮(5番)の意識はこっちに向いてる。…そこなら通せそうだ)」

 

 

――ピッ!!!

 

 

すかさず空は生嶋へとパスを出した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを掴んだ生嶋は二宮が認識するより早くスリーを放ち、決めた。

 

「(ホントに何が起こってるんだ?)」

 

空は自分の目の前で起きている現象に戸惑っていた。

 

「(過去にも似たような事はあった。まるで周囲が止まったように見えて――そうか…!)」

 

ここで空は自身に起きている現象に気付いた。

 

「(止まっているように見えたのか! …よし、これなら…!)」

 

「――ら、空!」

 

「…ん、大地か」

 

大地に肩を揺すられ、ここで始めて大地に話しかけられた事に気付いた。

 

「空、あなたは――」

 

「大丈夫だ。今は試合だ。もう心配いらねえ。…この試合、勝てるぞ」

 

心配そうに話しかける大地。しかし空はそんな大地を余所に、笑顔でそう返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「大ちゃん!」

 

一連の空の動きを見て、桃井は思わず青峰の肩を揺すった。

 

「…っ!」

 

青峰も思わず立ち上がっており、その表情が驚愕していた。

 

「…なに、今の神城君の動き? 動きもそうだけど、動くまで(・・・・)速過ぎる。…まるで赤司君みたい。…もしかして、神城君も赤司君と同じ――」

 

「いや、あり得ねえ。神城は赤司のような眼は持ってねえ。それは何度もやり合った俺自身が1番よく解る」

 

桃井の仮説を青峰が否定する。

 

「じゃあ、今のはいったい…」

 

「分からねえ。だが、今の動き、まるで神城の時間だけがズレてる(・・・・・・・・・)かのような動きだった…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「おいナッシュ! 何だ今のは!?」

 

アメリカで試合中継を見ている今のを見ていたニックが思わずナッシュに尋ねた。

 

「もしかして、ソラもナッシュやあの赤司(4番)と同じ――」

 

「違う。俺や赤司(4番)のとは別物だ」

 

アレンの言葉をナッシュが否定する。

 

「今、(サル)とそれ以外では時間の流れがズレてる」

 

「? どういう事だ?」

 

説明が理解出来なかったアレンが聞き返す。

 

「今、(サル)の視界では、周囲一帯がスローに視えてるはずだ」

 

「「…」」

 

「流れてる時間感覚が違うから、見え方が変わる。…高速の乗り物の中と外とじゃ、景色の見え方が変わんだろ? 理屈はそれと同じだ」

 

「な、なるほど。……そうか! だから、ソラは初見にも関わらず、ナッシュのパスに反応出来たり取れたりしたのか! その眼があったから!」

 

アメリカに空が短期留学した際、偶然、参加したジャバウォックの試合で、何の練習も打ち合わせも無しにナッシュのパスを取った事を思い出したニック。

 

「スゲーな。そんな眼があるなら、ソラは無敵じゃねえか!」

 

説明を聞いたニックが興奮する。

 

「(…いや、そうでもねえ)」

 

興奮するニックの言葉を、ナッシュは胸中で否定する。

 

「(あの眼を発動させるには集中力を100%の状態にする必要がある。だが、人間は余程の事がねえ限り、100%の状態、それも長い時間、集中力を維持するのは不可能だ)」

 

ここでナッシュは背もたれに体重を預ける。

 

「((サル)がこれまで自覚無しに偶発的にしかあの眼を発動出来なかったのはその為だ。今はゾーンの扉を開いて底にまで到達し、かつ試合終盤の危機的状況という、この2つの条件が揃わなきゃあの眼は発動出来ねえだろうな)」

 

ここでフンっとナッシュは鼻を鳴らす。

 

「(この俺が直々にテコ入れしてやってあの体たらくだ。今度あの(サル)が戻って来やがったら本格的に……ちっ、何でこの俺が…!)」

 

画面に映る空を苛立ち交じりに睨み付けるナッシュ。

 

「にしても、周囲と時間の流れがズレる眼ってのも凄いな。まるで神話みたいだな」

 

説明をひとしきり聞いたニックがそんな感想を漏らす。

 

「言い得て妙だな。仮に、あの眼に名前を付けるなら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――時空神の眼(クロノスアイ)…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山のオフェンス。赤司がフロントコートまでボールを運んで行く。

 

「スー…フー…」

 

待ち受けるのは空。空が大きく深呼吸をしながら集中力高め…。

 

「…っ」

 

赤司を見据える。空から発せられるプレッシャーを受け、赤司は胸中で圧倒される。

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司がパスを出す。同時に洛山の選手達が動き出し、閃きのパス(フラッシュパス)が始まる。

 

「(見える…。集中力が高めると、周りがゆっくり動いて見える…)」

 

先程同様、空以外の時間がゆっくりと動き出す。

 

「(ボールを回しながらゾーンディフェンスを乱し、フリーのスペースと選手を創り出す洛山の閃きのパス(フラッシュパス)…)」

 

空は冷静に洛山の選手達の動きを注視する。

 

「(見える…、視えるぜ、洛山(お前ら)の動きが。ラストパスは――)」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「(お前だ!)」

 

三村へと出されたパスを空がカットした。

 

『っ!?』

 

完璧と思われた洛山の閃きのパス(フラッシュパス)を、空に再びカットされ、洛山選手達は驚愕する。

 

「(パスは完璧だったはずだ!)」

 

「(何故取られるんだ!?)」

 

意志疎通は完璧で、決められたルートではなく、それぞれが独自に動き、独自にパスを出すパス。止められるはずがないパスを取られ、驚きを隠せない二宮と三村。

 

「速攻!」

 

ボールを拾った空がそのまま速攻をかけていく。

 

「行かせん!」

 

フロントコートまで駆け上がると、いち早くディフェンスに戻っていた赤司が待ち受ける。

 

「(これ以上はやらせん! お前の動きの先の…さらにその先を視る!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

赤司に対し、空はクロスオーバーを仕掛ける。

 

「…っ」

 

このクロスオーバーに赤司はすぐに対応。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後にすぐに反対にクロスオーバーで切り返す。

 

「キラークロスオーバー!!!」

 

ベンチの菅野が叫ぶ。

 

「(視えているぞ!)」

 

これを視えていた赤司が再度切り返されたボールに手を伸ばす。

 

「(赤司の勝ちだ!!!)」

 

切り返されたボールに伸ばす赤司の手を見て、四条が赤司の勝利を確信する。

 

「(これに反応するか。さすが赤司だぜ)」

 

高速で行われた空の2度のクロスオーバー。2度目の切り返しのボールに手を伸ばす赤司を見て、称賛の言葉を胸中で贈る空。

 

「(よく使われる、ありきたりな言葉だが、言わせてもらうぜ――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――止まって見えるぜ、赤司!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そこからさらに切り返し、赤司の手をかわし、抜きさった。

 

「っ!?」

 

天帝の眼(エンペラー・アイ)で先の先まで読んだ赤司。それでも空にかわされ、目を見開きながら驚愕した。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままリングまで突き進み、レイアップを決めた。

 

 

花月 96

洛山 98

 

 

『うおぉぉぉぉっ!!! 再び花月が食らいついて来た!!!』

 

『これはもう分かんねえよ!?』

 

目まぐるしく展開が変わる試合に、観客のボルテージこの試合、最高潮に上がる。

 

「よっしゃぁっ!!!」

 

バチン! と、大地とハイタッチを交わす空。

 

「(今ので確信した。今の動き、進化した俺の眼をも上回るその動き、奴は、俺と違う時間軸にいる…!)」

 

このワンプレーで、赤司も空に起こっている変化の正体を掴んだ。

 

「……ふぅ」

 

一息吐いて頭と精神を落ち着ける。

 

「(眼を1つにしても尚、圧倒出来ないか。さすが、俺達(・・)の好敵手だ。だが――)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

赤司がゆっくりボールを運んで行く。

 

「(また閃きのパス(フラッシュパス)で来るか、それとも自ら仕掛けるか…。だが、無駄だぜ…)」

 

集中力を高め、集中の海の底へと沈んで行く。

 

「(…来た。周囲がゆっくりと動き始めた。今なら、どんなプレーや動きにも反応出来る)」

 

空が周囲一帯の時間がゆっくりと流れ始めた。

 

「(さあ来い、赤司!)」

 

「…」

 

100%集中し切った空のプレッシャーをその肌で受ける赤司。

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司がパスを出す。同時に動きだす洛山の選手達。

 

「(それ(フラッシュパス)で来たか。今の俺にはもう通じないぜ。どれだけ緻密に素早く動こうと…!)」

 

入れ替わり立ち代わり、絶えず動き回る洛山の選手達。ボールを回しながら時間をシュートチャンスを創っていく。

 

「(視えるぜ。最後、得点を決めて来るのは――っ!?)」

 

フィニッシャーを特定し、チェックに行こうとした空だったが、その最短コースを塞ぐように敵味方が密集していた。

 

「大した眼だ。こと1ON1なら俺の天帝の眼(エンペラー・アイ)より優れていると言ってもいい。だが…」

 

「しまっ――」

 

ボールを掴んだ赤司はスリーポイントラインのやや内側からジャンプショットを放った。

 

「どれだけコート全体の動きが視えていようと、どれだけ素早く反応出来ようと、先が視えている訳ではないのなら、やりようはある」

 

フォロースルーで掲げていた左手を下げる。

 

「勝つのは、俺達だ」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 96

洛山 100

 

 

『うぉぉぉぉー--っ! 赤司も譲らねえ!?』

 

『遂に大台の100点目!!!』

 

『残り1分を切ってこの状況での失点は痛い!!!』

 

起死回生の赤司の得点に、興奮する者、釘付けになる者、頭を抱える者と多種多様な観客達。

 

『…っ』

 

絶対に避けたかった失点を喫し、言葉を失う花月の選手達。

 

「…」

 

その場で立ち尽くす空。

 

赤司は今回の閃きのパス(フラッシュパス)で味方だけではなく、敵すらも操り、自身のシュートチェックを妨害する為のバリケードを作り上げていたのだ。

 

「…空」

 

立ち尽くす空を見かねて大地が声を掛ける。

 

「………ハハッ!」

 

「っ!?」

 

気落ちしていると思っていた大地だったが、予想に反し、空は笑い始めた。

 

「さすが赤司だ。そうでなくちゃ、面白くねえ」

 

「空…」

 

ひとしきり笑うと、大地に振り返る。

 

「まだ時間は残ってる。後一歩の所まで来てるんだ。絶対に勝つぞ」

 

一点の陰りもない表情で宣言する空。

 

「…フッ、当然です。勝ちましょう」

 

その言葉に笑顔で返す大地。今の1本で全く動揺していなかった訳ではない。空への声掛けは、自分自身の動揺を紛らわす為のものでもあった。だが、空の迷いも疑いもない屈託の笑みに、大地の中の不安と動揺を全て吹き飛ばした。

 

「おっしゃ! まずは次決めて次を止める。その次を決めて逆転だ。…行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の檄を飛ばすと、花月の選手達は会場中に響き渡る程の声で応えたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

両チームの司令塔である空と赤司…。

 

2人の覚醒により、試合は絶えず傾きを変えるシーソーゲームとなった。

 

残り時間が1分を切る中、赤司が空を出し抜き、点差を伸ばした。

 

1歩前に出る赤司と洛山。不敵に笑う空と後を追う花月。

 

試合の勝敗を決める為の攻防が、始まるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





コスタリカ戦の敗北でモチベーションが一気に下がり、続くスペイン戦の勝利でモチベーションが爆上がりしたのですが、週一投稿間に合わず…(;^ω^)

いやー惜しかった。ベスト8の壁は大きい。ですが、日本代表は胸を張って日本に帰ってきてほしい…っと、ワールドカップの話ばかりになってしまいましたね…(・ω・)

だいぶ昔から構想していた今回の話、正直、過去にもプロットと変更した所もあるのですが、今回の話はプロット通りやりました。賛否両論あるかもしれませんが、ご了承くだm(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!


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