黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

182 / 218

投稿します!

3ヶ月ぶりの投稿です…(;^ω^)

それではどうぞ!



第181Q~百戦錬磨~

 

 

 

第2Q、残り6分38秒

 

 

花月 21

洛山 27

 

 

「6点差…、大ちゃんの言った通り、ミスした分だけ点差が開いてるね」

 

電光掲示板を見た桃井が呟く。

 

「赤司君も崩れる様子が見られないし、やっぱり洛山が優勢?」

 

状況を見て桃井が青峰に尋ねる。

 

「…どうかな?」

 

問いに対し、青峰は否定する。

 

「確かに今は赤司が試合を支配しているように見えるが、赤司は赤司で、神城を止め切れてる訳じゃねえからな」

 

「…あっ」

 

ここで桃井が思い出す。回数こそ少ないが、赤司は空から抜かれている事に。

 

「それがこの先、どう影響するか、だな」

 

そう青峰は結論付けた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでタイムアウト終了のブザーが鳴り、両チームの選手達がコートへと戻って来る。

 

「…えっ?」

 

その時、桃井が思わず声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

OUT 天野

 

IN  帆足

 

 

洛山はメンバーチェンジはなし。しかし、花月は天野を下げ、代わりにコートに入ったのは何と帆足。

 

「(…ゴクリ!)」

 

思わず息を飲む帆足。タイムアウト中、天野が交代を命じられ、その代わりにコート入りした帆足。タイムアウトの少し前から既に上杉から指示が下され、準備はしていたが、いざその時が来ると自身に膨大なプレッシャーがのしかかった。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

コートに足を踏み入れると、観客の大歓声に包まれた。

 

「っ!?」

 

思わず身体が竦み上がる帆足。

 

「(俺があの洛山相手に…!)」

 

緊張で身体が強張る帆足。試合経験がない訳ではない。本選でも1回戦と3回戦に僅かながら試合に出場しているし、先の県予選の決勝では流れを変える切り札として試合に出場している。だが、1回戦と3回戦では既に点差が付いており、プレッシャーのかからない展開であったし、県予選の決勝ではガムシャラでそれどころではなかった、何より…。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

ここまで観客はいなかった。

 

「(っ!? やばいやばい! 心臓が破裂しそうだ!)」

 

ここで帆足の緊張がピークに達する。膝が笑い出し、もはやパニックに近い状況に陥ってしまった。

 

 

――ポン…。

 

 

「…ひっ!?」

 

その時、帆足の肩が叩かれ、思わず声を上げてしまう。振り返ると、空がニヤニヤとしながら肩に手を乗せていた。

 

「監督の指示、覚えてるか?」

 

空は肩に手を乗せたまま尋ねる。

 

「(っ!? そうだ、指示! ……あれ? 何だっけ!? 分からない!?)」

 

タイムアウト中に自身に出された指示を思い出そうとするも思い出せず、さらに頭がパニックとなる。

 

そんな帆足に様子に気付いた空はケラケラと笑いながら…。

 

「指示は2つだ。1つ目は、空いたら打て」

 

「空いたら……打つ…」

 

繰り返すように空の言葉を呟く。

 

「もう1つは、全力でやれる事をやれ、だ」

 

「全力で、やれる事を…」

 

空の言葉を呟きながら頭に染み渡らせる。

 

「県予選の決勝と同じように、お前が救世主になるんだ」

 

「……俺が」

 

「俺が保証する。お前ならやれる。お前は今日まであの地獄の練習を耐え抜いたんだからな」

 

「神城君…」

 

「っしゃ行くぜ。またヒーローなれ」

 

そう告げ、帆足の背中を叩き、走っていった。

 

「…空いたら打つ。全力でやれる事を……よし!」

 

空の言葉で緊張が和らいだ帆足はもう1度指示を復唱し、気合いを入れ直すと、続いて走っていったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…何だあのパッとしねえ奴は?」

 

コート入りを果たす帆足。そんな帆足を視ながら青峰は首を傾げた。

 

『誰だあいつ?』

 

『何で天野(7番)を下げるんだよ。あいつはリバウンドとディフェンスの要だぞ?』

 

『サイズダウンしちまうじゃねえか!』

 

観客からも疑問の声がチラホラ聞こえた。

 

「えっと…」

 

桃井が自身の鞄からノートを取り出し、ペラペラと捲り始めた。

 

「帆足大典君。高校からバスケを始めて、それ以前は特にスポーツ経験はなし。スリーが得意なのと、スクリーンを駆使して味方をフォローするプレーヤー…」

 

「…」

 

「あの練習が厳しい花月で2年間過ごして来ただけあってそこらの2年目の選手と比べれば基礎能力、基礎体力は高い方だけど、正直…」

 

ここで桃井は言葉を濁す。一線級の選手が揃う洛山相手にするのは力不足だと断じていた。

 

「ふーん、帆足(あいつ)、シューターなのか」

 

頬杖を突く青峰。

 

「…つう事は、花月は今、外が打てる奴がコート上に4人いるって事か」

 

「っ!?」

 

その言葉にハッとした桃井がコート上に視線を移す。

 

 

「1本、行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

コートではボールを運ぶ空が檄を飛ばし、他の選手達がそれに応える。

 

『これは!?』

 

観客達が思わず声を上げる。コートでは松永がローポストに立ち、それ以外の4人はスリーポイントラインの外側にポジションを取っていた。

 

 

「4アウト!?」

 

これに桃井が驚く。

 

生嶋は言わずもがな、大地も外が得意な選手であり、空も外が打てる。そしてたったいまコートに入った帆足。4人のシューターがアウトサイドに陣取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『っ!?』

 

「…」

 

このポジション取りにコート上の赤司を除いた洛山の選手達が驚愕する。現在、ローポストに松永。左右のアウトサイドの端に生嶋と帆足。トップの位置でボールを保持する空と、右45度付近に大地が立っている。

 

「「…っ」」

 

洛山の選手の中でも特に、三村と四条は特に困惑している。大地のダブルチームに徹している2人。天野はそこまで得点力がなかったのに加え、主な役割は味方のフォローとリバウンドであり、ハイポストに立つ事が主だった為、いざとなれば四条や五河のヘルプで対応出来た。

 

しかし、アウトサイドに立った帆足ではヘルプ対応が間に合わない。スリーが得意と言う情報も当然、洛山選手達にデータとして入っている為、このままダブルチームで大地に付いたままで良いのか判断に迷う三村と四条。

 

「(1本、様子を見る。これまでどおり綾瀬に付け)」

 

「「(…コクッ)」」

 

赤司に視線を向ける三村と四条。赤司は作戦継続のサインを出し、2人は頷いた。

 

「…」

 

ゆっくりボールをキープする空。

 

 

――スッ…。

 

 

数秒、空がボールをキープしていた所で帆足が動く。大地へ近付くように移動していく。

 

「(来た!)」

 

「(スクリーンをかけて綾瀬を自由に……動いた!)」

 

帆足の動きに呼応して大地が中へと走り込む。

 

「三村、四条、スクリーン!」

 

「分かってる!」

 

「任せろ!」

 

五河が声を掛けると、2人は返事をし、それぞれ対応していく。

 

「(俺だけではもはや綾瀬は相手に出来ない、だが、四条が来るまで時間稼ぎは出来る。密集地帯のツーポイントエリアなら俺達でも…!)」

 

出来る事に全力を注ぐ決意をする三村。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ここで空がパスを出す。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、洛山の選手達は驚愕する。空がパスを出した先は中に走り込んだ大地ではなく…。

 

「よし!」

 

帆足だった。

 

「しまった、ゴーストスクリーンか!?」

 

ここで四条は気付いた。帆足は大地にスクリーンをかけに行ったのではなく、そのまま駆け抜けてフリーとなり、ボールを受けに行ったのだと…。

 

「打て!」

 

ベンチから上杉が指示を出す。

 

「(空いた! 打てる!)」

 

すぐさまスリーの体勢に入った帆足。

 

「くそっ!」

 

慌てて四条がチェックに向かうも間に合わず、紙一重で間に合わず、スリーを許してしまう。

 

「(入れ!)」

 

リングに向かうボールに願う帆足。

 

 

――ガン!!!

 

 

「あっ!?」

 

しかし、願いは届かず、ボールはリングに嫌われてしまう。

 

「(そんなホイホイスリーを決められてたまるかよ!)…リバウンド!!!」

 

四条が声を出す。

 

「来たで! 死ぬ気で抑えたれ!」

 

ベンチから天野が声を出す。

 

「上等!」

 

「行きます」

 

空と大地がゴール下へと向かう。

 

「おぉっ!」

 

「ちぃっ!」

 

松永は五河を向かい合い、胸の前で腕を重ねて五河をゴール下から遠ざけていく。

 

「ナイス松永! 俺達じゃ、ゴール下のポジション争いじゃ勝てねえが…」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「空中戦なら負けません!」

 

大地がリバウンドボールを抑えた。

 

 

――バス!!!

 

 

リバウンドボールを抑えた大地はフックシュートを決めた。

 

 

花月 23

洛山 27

 

 

「っしゃ!」

 

「はい!」

 

空と大地がハイタッチを交わす。

 

「ディフェンス! ここ止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

ディフェンスに戻ると、空が声を張り上げて檄を飛ばし、周囲がそれに応えた。

 

「49だ!」

 

フロントコートまでボールを進めると、赤司がナンバーコールをし、同時に洛山の選手達が一斉に走り出し、高速のボール交換が行われる。

 

 

――ピッ!!!

 

 

絶え間なく動き回るボールと人。シュートクロックが残り5秒となった所で…。

 

「っ!?」

 

ボールは左アウトサイドに移動していた三村の手に。

 

『あぁっ!?』

 

『やばい!』

 

観客が思わず声を上げる。

 

ボールが渡った三村の近くには帆足がおらず、他の4人はこれまでのボール回しで右サイドに寄せられてしまっていたのだ。

 

「おぉっ!!!」

 

気合い一閃で帆足が三村のチェックに向かう。

 

「っと、スゲー気迫だな」

 

身体がバチバチと音が鳴りそうな程に激しく密着するかのようなディフェンスをする帆足。

 

「だがな…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「それだけじゃ、俺は止められねえぜ」

 

一瞬の隙を突いて三村が帆足を抜きさる。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

抜くと同時にボールを掴み、そのままジャンプショットを決めた。

 

 

花月 23

洛山 29

 

 

「よーし!」

 

ジャンプショットを決め、拳を握る三村。

 

『やっぱり狙われたか』

 

『交代は失敗だったんじゃないか?』

 

明らかな帆足狙いのオフェンスを見た観客から溜息が漏れる。

 

「…っ、ごめん」

 

「気にすんな。お前は自分が出来る事を全力でやればいいんだよ」

 

「そうですよ。さっきも得点に繋がったのですから、自信を持って下さい」

 

落ち込む帆足を空と大地が慰めた。

 

「やり返すぞ! 1本!」

 

『おう!!!』

 

オフェンスが切り替わり、空がフロントコートまでボールを運ぶ。

 

「…」

 

先程同様、帆足が動き、大地の方向へと移動していく。

 

「(またか!?)」

 

「(次はどう来る!?)」

 

大地の為にスクリーンをかけるのか、それとも先程のようにフリだけで空いてるスペースに駆け抜けるのか…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

空がパスを出す。

 

「…っ」

 

ボールは中に走り込んだ大地へ。四条は帆足のスクリーンに完全にかからなかったものの、しっかりと追走を阻まれ、大地に振り切られる。

 

「(時間を稼ぐ。最悪ファールでもいい!)」

 

ダブルチームで唯一大地を追いかけた三村が大地に立ち塞がる。

 

「…」

 

大地はボールを掴むと、三村に対して仕掛けず…。

 

 

――スッ…。

 

 

ボールを外へと出した。

 

「なに?」

 

仕掛けなかった事に声を上げる三村。ボールは左アウトサイド45度付近にパスと同時に移動した空の下に。

 

「…」

 

ボールを掴んだ空はそのままノールックビハインドパスで左アウトサイド、左隅にパスを出した。

 

「今度こそ!」

 

そこには帆足。

 

『っ!?』

 

中でパスを受け取った大地に注目が集まった隙に移動していた帆足。フリーでボールを掴み、再びスリーを放つ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

スリーは今度こそリングの中心を潜り抜けた。

 

 

花月 26

洛山 29

 

 

「やった!」

 

無事、スリーを決めた帆足がガッツポーズ。

 

「ナイス帆足ぃっ!」

 

バチンと背中を叩いて労う空。

 

「痛っ!? ああ!」

 

痛がるがすぐに笑顔になる帆足。

 

「良い流れです。この調子で行きましょう」

 

続いて大地が声を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

帆足がコート入りした事でオフェンスに良いリズムが生まれるようになった花月。ディフェンスでは止めきれずに失点する場面が増えたが、確実に得点は重ねていた。

 

 

――ガン!!!

 

 

松永が放ったジャンプショットをブロックに飛んだ五河の指が触れ、外れる。

 

「絶対取るぞ!」

 

「ええ!」

 

これを見て空と大地がリバウンドに参加した。

 

 

「ふーん、考えたな」

 

青峰が今のプレーを見て感心する。

 

「普通にリバウンド勝負したら身長とパワーで劣る神城や綾瀬じゃまず取れねえ。だが、4アウトで双方が外に散らばってる状況なら、唯一中に入る五河(8番)さえリバウンド争いから追い出しちまえば、誰よりも速くボールに近付ける上にジャンプ力のあるあの2人が有利だ」

 

「けど、もしリバウンドを抑えられなかったら…」

 

ガードの空がリバウンドに参加してしまっている為、カウンターを食らった時の危険性を示唆する桃井。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「よし!」

 

運悪くボールが2人を避けるように跳ね、五河がリバウンドボールを抑えた。

 

「こっちだ!」

 

「行け!」

 

五河がリバウンドを抑えるのと同時に速攻に走っていた二宮がボールを要求。五河は二宮に大きな縦パスを出した。

 

 

「あっ!」

 

今まさに危惧していた事が起こり、声を上げる桃井。

 

「確かに、リバウンドを抑えられなかったら、カウンターで点を奪われる可能性がある」

 

ボールを掴んだ二宮がそのままゴール下までドリブルで進み、レイアップの体勢に入る。

 

「もっとも、シュート打つまでにあいつらから逃げ切れれば、だけどな」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

放ったボールを後ろから伸びてきた手にブロックされ、目を見開く二宮。

 

「逃がす訳ねえだろ」

 

二宮の後ろから空がしたり顔で囁く。

 

「バカな!?」

 

リバウンドに参加していた空が誰よりも速く速攻に走った二宮のレイアップをブロックした事に驚きを隠せない五河。

 

「ナイスブロック、空!」

 

ルーズボールをすぐ後ろを走っていた大地が抑えた。

 

「綾瀬もか!?」

 

「速過ぎる…!」

 

理不尽なまでな2人のスピードに唖然とする三村と四条。

 

 

「そっか、例えリバウンドを抑えられなくても、あの2人なら追い付ける!」

 

青峰が感心した真意をここで理解した桃井。

 

もっと速く速攻に走れば例え空と大地でも間に合わないだろう。だが、速攻に備えるにしても味方がリバウンドを抑えるまでは走れない為、花月にしか出来ない理不尽な作戦とも言える。

 

「しかも、あれを何回でもやれるだけのスタミナも持ち合わせてるとなりゃ、手ぇ焼くだろうよ」

 

軽く洛山に同情する青峰であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

再び花月のオフェンスとなり、空がトップの位置でボールをキープする。

 

「…」

 

帆足が大地の下へと走っていく。

 

「(来た! スクリーンをかけるのか、それともゴーストスクリーンか!?)」

 

「(くそっ! ボールを持ってもスリー以外は何も出来ない奴に振り回される事になるとは…!)」

 

身長も身体能力もテクニックも、秀でたものは持ち合わせていない。キャリアすらも、高校入学と同時にバスケを始めて帆足にはない。そんな選手にかき回されている今の状況に苛立つ洛山に選手達。

 

「こんな言葉がある」

 

ベンチの上杉が口を開く。

 

「ボールを持って仕事が出来る者は一流。ボールを持たずとも仕事が出来る者は超一流、と…」

 

『…』

 

「派手なテクニックや華麗なテクニックだけがバスケではない。あのように楔となり、汚れ役となってチームを支えるプレーもまたバスケには必要だ」

 

「同意見やな」

 

上杉の持論と同じ考えを持つ天野が同調する。

 

「高校入学からバスケを始めた帆足がそれでもチームの役に立つ為に辿り着いた答えだ。今や立派な戦力だ」

 

「ホンマ、あいつ努力しよったからなあ」

 

花月のバスケ部の中で唯一、辞めようとした事を知る天野。残る道を選び、チームの力になる為に出来る事を必死に考え、その為に死に物狂いで努力し、結果、今大会の県予選決勝では勝利の原動力となり、今でもあの洛山相手に活躍している。

 

「お前が積み上げたもんが今出とるで。目に物見せたれや」

 

コート上で必死に走る帆足に天野がエールを贈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ボールを回し、チャンスを窺う花月。

 

「…っ!」

 

生嶋がスリーポイントライン沿いを走って中央へと向かう。

 

「スクリーン!」

 

追いかけようとする二宮に対し、五河がスクリーンの存在を教える。

 

「(何度も喰らってりゃいい加減慣れるぜ!)」

 

帆足のスクリーンを避け、生嶋を追いかける二宮。

 

「に、二宮!」

 

その時、三村が慌てた声で名前を呼ぶ。

 

「…っ!?」

 

スクリーンをかけた帆足を避けて生嶋を追ったその時!

 

「(いない!? 何処だ!?)」

 

二宮の視界から生嶋の姿が消え失せる。

 

「…ハッ!?」

 

周囲を探して二宮がその姿を見つけた時には、フリーで生嶋の手にボールが渡っていた。

 

「(しまった、情報は頭に入っていたはずなのに失念していた。この2人には…!)」

 

フリーで生嶋は悠々とスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を寸分の狂いもなく通過した。

 

 

花月 31

洛山 32

 

 

『キター! 生嶋(5番)帆足(12番)の連携スリー!』

 

『これで1点差! 遂に背中を捉えた!』

 

「(くそっ! 生嶋(5番)帆足(12番)の連携は事前情報で聞いていたはずなのに…、何をしてんだよ俺は!)」

 

頭の片隅にでも留めて置けば防げたかもしれないスリー。自身の不甲斐なさに苛立つ二宮。

 

「秀平」

 

「っ!?」

 

そんな二宮に赤司が声をかけると、二宮は思わず身体をビクつかせ、恐る恐る振り返る。

 

「いつまでも過ぎた事でクヨクヨするな」

 

振り返ると、赤司は怒りでも非難でもなく、ただそう励ました。

 

「だが、同じ愚は犯すな。行くぞ」

 

そう言って肩を叩き、赤司はボール運びを始めた。

 

「赤司…」

 

きつい言葉をかけられるか、最悪、交代も覚悟した二宮だったが、気落ちする自分へのフォローの声掛けをされた事に驚いていた。

 

「…っし、よし!」

 

顔を叩き、気合いを入れ直すと、二宮はオフェンスへ走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「1本! ここ止めるぞ!」

 

空が声を張り上げる。帆足のフォローもあり、遂に1点差にまで詰め寄った花月。このままの流れを維持しながら逆転したい。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『っ!?』

 

リングの中心をボールが通過する音と共に会場が静まり返る。

 

 

花月 31

洛山 35

 

 

「…っ」

 

空が振り返ると、そこにはシュート放った体勢の赤司がおり、すぐさま両腕を下ろすと、そのままディフェンスへと戻っていった。

 

『お…』

 

『おぉぉぉぉー--っ!!!』

 

ここで会場が割れんばかりの歓声に包まれる。

 

ディフェンスに切り替わった花月。洛山のナンバープレーに備えていたのだが、赤司はパスはおろか、ナンバーコールすらせず、スリーポイントラインから2メートル以上離れた所にボールを進めたと同時にそこからスリーを放ったのだ。

 

 

「さすが赤司だな。嫌な所できっちり決めやがった」

 

徐々に点差が詰まり、後シュート1本で逆転の所まで点差が詰まり、追い上げムードの花月に対して水を差す1本を決めた赤司に感心する青峰。

 

 

「…ちっ」

 

これには思わず空の口から舌打ちが出る。一瞬の隙を突かれたとは言え、その隙を作ってしまったのは空自身であったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「(流れは確実に花月(うち)に来つつあるんだ。何としてもものに…!)」

 

ボールを運ぶ空。トップの位置で赤司が立ち塞がる。

 

「(行くぞ!)」

 

空が赤司に対して仕掛ける。

 

 

「ダメだな」

 

仕掛けた空の様子を見て青峰がポツリと呟く。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

動いたのと同時に赤司の手が空がキープするボールを叩いた。

 

「余計な力が入り過ぎだ。これまでにしてもギリギリで何とかかわせてたに過ぎねえ。少しでもタイミングがズレるか、軸がブレてスピードが鈍れば、たちまち天帝の眼(エンペラーアイ)の餌食だ」

 

 

叩いたボールを掴んだ赤司がそのままワンマン速攻で先頭を駆け抜ける。

 

「くそっ!」

 

振り返った空は全速力で赤司を追いかける。

 

『相変わらずスゲースピードだ!』

 

『あの赤司に後ろから追いついちまうぞ!?』

 

後ろから赤司を追いかける空。みるみる赤司との距離を詰めていく空のスピードに観客も驚く。

 

「追い付けるぞ。止めろ神城! ここを決められると面倒だぞ!」

 

ベンチの菅野が必死に声を出す。

 

ゴール下までボールを進めた赤司がレイアップの体勢に入る。

 

「(分かってる! ギリギリで追いつける!)」

 

一足遅れて空も後方からブロックに飛ぶ。

 

「(このまま叩き落して――)」

 

 

――バス!!!

 

 

ボールに手を伸ばそうとした空だったが、中断して両腕を上げるような体勢を取って赤司のレイアップ見逃した。

 

 

花月 31

洛山 37

 

 

「…」

 

「…ふん」

 

着地した後、空に視線を向ける赤司。空は拗ねたように鼻を鳴らしながら視線を逸らした。

 

 

「ディープスリーの奇襲を受けた直後のオフェンスを失敗して、ターンオーバーからの失点。このままだと…」

 

再び洛山がリードを広げてしまう事を懸念する桃井。

 

「ああ。…だが、最悪な事態を避けた程度にはまだ周りは見えてるみてーだな」

 

「?」

 

「赤司の奴、あの状況でわざと神城を追い付かせて、ファールを誘ってやがった」

 

青峰が解説する。

 

「っ!? そっか、だから神城君はブロックを中断したんだ」

 

赤司を捉えた空がブロックを中断した事に引っ掛かっていた桃井だったが、これを聞いて納得した。

 

「夏の神城だったら間違いなくファールを食らってバスカンだっただろうよ」

 

インターハイからの成長を見据える青峰。

 

「ここで焦らずに慎重にゲームを進めれば、とりあえずは点差は広げずに済むだろうが…」

 

「やっぱり追い付くのは難しいよね」

 

赤司…そして、洛山の強かさを改めて痛感した桃井だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…ふぅ、悪い、ちょっと焦り過ぎたわ」

 

「いえ、あれは仕方のない事です」

 

深呼吸をして気分を落ち着かせた後、自身の失態を謝罪する空。大地はそんな空を手で制した。

 

「とりあえず、点は取れてるから、少なくともこのQはきっかけを掴むまでは慎重にボールを回していく」

 

「異論はありません。幸い、帆足さんのおかげで私もボールに触れられるようになりました。空いたら私に回して下さい。決めてみせます」

 

「頼りにしてるぜ。…っしゃ、行くか!」

 

スローワーとなった大地からボールを受け取った空はゆっくりとボールを運んでいったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

天野に代わり、帆足を投入した花月。

 

その甲斐もあり、オフェンスで良いリズムが生まれるようになり、順調に得点を重ねていく。

 

リードが縮まり、後1点差までに届いた所で赤司の奇襲のスリー。焦った空のドライブを止め、更に追加点を上げ、再び6点差にまでリードが広がってしまった。

 

花月へと流れ始めた良い流れも、赤司がそれを断ち、百戦錬磨の手腕を見せつけていく。

 

試合の膠着状態は、尚も続いていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





大変長らくお待たせいたしました…(;^ω^)

どうにか仕上がった為、満を持しての投稿です…(>_<)

依然としてネタ不足であり、今はもう1つの二次の執筆が楽しい為、次話の投稿は未定です。なるべく早く投稿に努められればと思います…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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