黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

諸事情により投稿が遅れました…(;^ω^)

それではどうぞ!



第176Q~人事を尽くす~

 

 

 

「あー、こってり絞られてもうたな」

 

げんなりしながらぼやく天野。

 

「仕方ないですよ。僕達が気を抜いてしまった事は事実ですし」

 

そんな天野に苦笑しながら声を掛ける生嶋。

 

3回戦を無事突破した花月だったが、試合終盤で大仁田に追い上げられた事に対し、選手達は上杉からお説教を受けていたのだ。

 

「天さん達はまだいいじゃないですか。俺なんか2年連続で説教受けたんですよ」

 

同様に苦い顔をする空。

 

「去年は自業自得やろ。今年にしても空坊がいらん発破相手にかけよるからやないか」

 

そんな空にジト目を向ける天野。

 

試合終盤の追い上げは大仁田が奮起した事が要因だが、その要因となる引き金となったのが空が相手エースに発破をかけた事によるものであったのだ。

 

「まあまあ、私達が終盤に油断をしていたのは事実ですし、実際そこは反省すべき所でしょう」

 

空と天野を宥める大地。

 

「スマンな。綾瀬は試合に出ていないのに半ば連帯責任のような形を負わせてしまったな」

 

大地に謝る松永。大仁田戦に出場しなかった大地だったが、他の選手達と同じように説教を受けたのだ。

 

「お気になさらず。私の中にも少なからず、桐皇戦に勝利した事による慢心はありました。それを払拭するいいきっかけになりましたから」

 

そんな松永を大地は手で制した。

 

「しっかし、もう秀徳と海常の試合はとっくに始まっちまってるよな。もしかして、もう終わっちまったか?」

 

「いえ、時間的に、第4Qが始まったばかりのはずです」

 

空の疑問に、大地が時間を確認しながら答える。

 

「空坊の予想はどない感じや?」

 

「そうですね…」

 

天野が尋ね、空が顎に手を当てながら考える。

 

「緑間さんは去年に俺達とやり合った時とプレースタイルがかなり変わってるから未知数な部分があるんですが、仮にここは黄瀬さんと互角として、インサイドに海兄がいる分、海常が有利だと思います」

 

「ほうほう」

 

「そこを踏まえて、5点から10点差くらいで海常リードって所ですかね」

 

空の予想に耳を傾ける天野と。

 

「ただ、黄瀬さんにはパーフェクトコピーがある。さすがに試合終盤までまるまる温存出来るはずはないでしょうけど、それでもそれなりに使用時間は残しているはずですから、最後は海常が逃げ切って勝利…って、所ですかね」

 

「無難な予想だね。僕も同意見かな」

 

生嶋が頷きながら空の予想に同意した。

 

「私も同じ予想ではあるのですが、やはり気になるのが緑間さんの存在です」

 

大地も同意しつつも緑間について言及する。

 

「今日の試合、緑間さんが凄い事をやる。そんな気がしてならないのです」

 

「そこなんだよな。俺もそんな気がするんだよ」

 

緑間の存在について、大地の意見に空が同意した。

 

「…まあ、ここで予想してもしょうがねえわな。全てはコートに行けば分かる事だ」

 

そう締め、空達はコートが一望出来る観客席のあるフロアに足を踏み入れた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「…おっ、スゲー盛り上がり」

 

観客席にやってくると、会場は大歓声に包まれていた。

 

「点数はっと、…っ!? …なるほど」

 

点数が表示されている電光掲示板を見て空は一瞬目を見開き、そして頷いた。

 

 

第4Q、残り8分51秒

 

 

秀徳 76

海常 67

 

 

「秀徳がリードしとるやないか」

 

秀徳リードの展開に驚く天野。

 

「…おっ? 高尾さんじゃなくて緑間さんがボール運んでる」

 

点数に驚いていた空だったが、ボール運びを従来のポイントガードである高尾ではなく、緑間がしている事に気付く。

 

「そう、これが今日の秀徳が敷いて来た戦術なのよ」

 

先に観客席で観戦していた姫川が説明する。

 

「第2Q入ってから秀徳は緑間さんがボール運びをするようになったわ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを運んだ緑間がカットインを仕掛ける。直後に高尾にパス。同時にダッシュでフリースペースまで移動する。移動した緑間に高尾が的確にパスを出す。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

黄瀬のマークを振り切った緑間がジャンプシュートを決めた。

 

「…なるほど、ボール運びをしてるって言っても、ゲームメイクそのものは高尾さんに任せてんのか」

 

今のカットインから得点までの一連の流れを見た空が仕組みに気付く。

 

「外もあって中に切り込める緑間さんにボール運ばせて、自分で決められればそれでよし。出来なければ高尾さんに渡して自分はフリーになる為に動いて決める。他の奴もそのケアしっかりやってる。万一にパス出せなくても緑間さんがディフェンス乱してくれるし、高尾さんが瞬時に別のノーマークの選手にパス入れてくれるからかなり厄介なオフェンスだな」

 

「…今のワンプレーで分かったの?」

 

あまりの空の戦術理解度の高さに驚く姫川。

 

「…ん? ここからなら選手全員の動きが見れるし、向こう(アメリカ)に行った時に司令塔としての訓練の一環で色んな試合を解説付きで見まくったからな」

 

アメリカでの体験を口にした空。

 

「……海常は黄瀬さんがボールを運んでいるようですね」

 

オフェンスが海常に切り替わると、今度は黄瀬がボールを運び始めた。黄瀬がカットインを仕掛け、小牧にパス。同時に緑間のマークを引き剥がしながらフリースペースに移動し、決めた。

 

「見た所、海常も秀徳と同じオフェンスをしているみたいだな」

 

先の秀徳と似た攻め方、得点の仕方を見て松永が断言する。

 

「秀徳のこのオフェンスで1度は20点近く点差が開いて、黄瀬さんがパーフェクトコピーを使って10点差にまで詰めたの。その後、第3Q開始と同時に秀徳と同じオフェンスで攻めるようになったわ」

 

「凄いですね。個人の技のコピーならいざ知らず、戦術をコピーしてしまうとは…」

 

事前に練習を重ねてきた秀徳とは違い、海常はハーフタイム内で打ち合わせをした程度。それで点差を均衡に持って行った黄瀬及び海常の選手達に驚く大地。

 

「奇策がハマってそれでも試合は拮抗状態。さて、どうなるか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(策は上手くハマった。俺も上手くやれてる。それなのに追い付けない…!)」

 

「(忌々しい奴だ。俺が…いや、俺達がこの戦術を完成させるのにどれだけ鍛錬を重ねた思っている。黄瀬め…!)」

 

一方は点差が縮められず、一方はリードを広げられず、焦りを露にする黄瀬と緑間。時折連続得点やスリーで点差が変動するもすぐさま返され、点差は均衡を保っていた。

 

「(今は耐えるんだ。残り5分までこの均衡を保てれば、そこから逆転出来る!)」

 

パーフェクトコピーと言う切り札を残る黄瀬。それに望みをかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り5分2秒

 

 

秀徳 83

海常 72

 

 

試合はその後も均衡が崩れる事無く時間が過ぎていった。

 

「(残り時間5分。ようやくッスね!)」

 

遂に来た黄瀬にとっての大望の時。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「っ!?」

 

黄瀬が左右にボールを切り返すと、緑間がアンクルブレイクを起こし、尻餅を付く。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

同時にカットイン。一気に加速。そのままボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「くそっ!」

 

「ちぃっ!」

 

カットインした黄瀬を見て戸塚と木村がヘルプに飛び出す。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

2人のブロックもお構いなしにその上からダンクを叩き込んだ。

 

 

秀徳 83

海常 74

 

 

「黄瀬!」

 

圧倒的なダンクを見て氏原が歓喜しながら駆け寄る。

 

「フー、待ちかねたッスよ。これでようやく我慢の時間が終わりッス」

 

一息吐いた黄瀬が緑間に振り返る。

 

「ここからは俺の時間ッス。この試合、貰うッスよ」

 

そう宣言する黄瀬。

 

「…」

 

緑間は何も言い返さず、ただ立ち上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

秀徳のオフェンス…。

 

「…おっ? 高尾がハンドラーに戻ったで」

 

司令塔が緑間が高尾に戻った事に気付く天野。

 

「パーフェクトコピーを使った黄瀬相手にボール運びは難しい…ていう判断か?」

 

その真意を菅野が予想する。

 

 

「…」

 

緑間はスリーポイントラインから数メートル離れた所に立っている。

 

「…どうしたんスか? もう司令塔は廃業スか?」

 

目の前に立つ黄瀬。緑間に対して茶化すように尋ねる。

 

「…」

 

それに対して緑間は特に反応を示さない。

 

「(どういうつもりかは分からないが、再びこの人(高尾)がボール運びをするなら、今度こそ俺が止めて見せる!)」

 

意気込みを内心で露にする小牧。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「(来た! 止め――っ!?)」

 

カットインする高尾を追いかけようとした小牧だったが、木村の仕掛けたスクリーンに阻まれる。

 

「ちぃっ! 貴様かい!」

 

切り込む高尾に対し、三枝がヘルプにやってくる。

 

「…っと」

 

三枝がやってくると、高尾はビハインドバックパスでボールを左へと放る。するとそこには先程スクリーンを仕掛けた木村が走り込んでいた。

 

 

――バス!!!

 

 

パスを受けた木村がそのままレイアップを決めた。

 

 

秀徳 85

海常 74

 

 

「ナイス、孝介」

 

「うす」

 

ハイタッチを交わす高尾と木村。

 

「くそっ…、ピック&ロールか」

 

高尾と木村の連携に悔しがる小牧。

 

「気にせんええ! 直に追いつく。しっかり集中せえ!」

 

手を叩きながら三枝がチームを鼓舞する。

 

 

続く海常のオフェンス…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ボールを持った黄瀬が青峰のコピー。チェンジオブペースで中に切り込む。

 

「…っ」

 

本家顔負けのカットインに緑間は歯を食い縛って対応。黄瀬を追いかける。

 

「打たせるか!」

 

切り込んだ先には戸塚が待ち受ける。

 

「決めさせてもらうッスよ!」

 

ボールを掴んだ黄瀬は回転をしながらリングに向かって跳躍する。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

「うぁっ!」

 

紫原の技であるトールハンマーで緑間と戸塚を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

 

秀徳 85

海常 76

 

 

「(…おかしい)」

 

黄瀬は何処か腑に落ちない何かを感じ取った。やけに呆気なさ過ぎる。自身のパーフェクトコピーに対して何か対策をしてくるかと思いきや、その様子が見られないからだ。

 

「(今度は何考えてるんスか。俺を止めなきゃ勝てないッスよ…)」

 

胸中で黄瀬は緑間に忠告したのだった。

 

 

変わって秀徳のオフェンスも、再び高尾がボールを運び、緑間は先程同様、スリーポイントラインから数メートル離れた位置に立った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

今度は氏原が木村のスクリーンでマークを引き剥がし、ジャンプシュートを決めた。

 

 

――バス!!!

 

 

続くオフェンスも、黄瀬が自ら決めた。

 

 

再び秀徳のオフェンス。緑間はこれまでのポジションに…。

 

 

「なるほど、考えたな」

 

何かに気付いた青峰が頷きながら納得する。

 

「あの位置に立っちまえば黄瀬はパーフェクトコピーを生かせねえ」

 

「…あっ!? そっか!」

 

桃井も気付き、頷いた。

 

黄瀬は紫原のコピーで本家と同等のディフェンスエリアを再現している。しかし、本家のポジションと陽泉のチームディフェンスによってゴール下に立つ紫原はディフェンスの1番最深部にいる為、全選手の動きが把握出来るのでツーポイントエリア内全域のブロックが可能だが、スリーポイントラインから離れた位置に立つ緑間をマークする黄瀬は秀徳の選手全ての動きを把握出来ない上、一瞬でも緑間に間を与えてしまえばスリーを打たれてしまう為、長く意識を外せない。

 

「ボール運びをホークアイを持つ5番(高尾)に戻してるから迂闊に緑間のマークを外してブロックに行けば即座にパスを出される。これなら例え黄瀬を止められなくとも点は取れる。点さえ取れれば点差は縮まらねえ」

 

「秀徳にしか出来ないミドリンを生かしたきーちゃんのパーフェクトコピー対策。大ちゃん言う通り、ミドリンって凄い」

 

「…」

 

感心する桃井。青峰は試合の行方を見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(くそっ! 点差が縮まらない!)」

 

黄瀬は焦っていた。

 

試合時間残り5分を切って満を持してパーフェクトコピーを再解放した黄瀬。点を取る事には成功しているが、秀徳のオフェンスを止める事が出来ていなかった。

 

 

――バス!!!

 

 

三枝の裏を取った戸塚にすぐさま高尾がパスを出し、リバースレイアップを決めた。

 

「…」

 

海常オフェンスになり、黄瀬がボールを掴む。

 

「(…っ、やっぱりスリーは打たせてもらえない…!)」

 

点は取れてる黄瀬だが、緑間はスリーだけは要警戒しており、如何にパーフェクトコピーでも要警戒されてしまえば打てるものではない。

 

「…くそっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

仕方なく青峰のコピーで中に切り込み、そのままフォームレスシュートを決めた。

 

秀徳のオフェンス…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

高尾がボールを運び、秀徳の選手達がボールを回し、チャンスを窺う。

 

「ちぃっ!」

 

何とか止めようと奮闘する三枝だったが、1ON1ならいざ知らず、チームプレーには対応しきれない。

 

「…っ」

 

その状況を離れた位置で歯を食い縛りながら見ている黄瀬。試合終了が迫る中、一刻も早く逆転したい海常。しかし、黄瀬が動けば緑間がフリーとなってしまう。

 

「(こんな所で…、こんな所で…!)」

 

耐え切れず、黄瀬が動いた。

 

「そう来るのを待ってたぜ!」

 

待ってましたとばかりに高尾が緑間にパスを出した。

 

「決めろ緑間!」

 

フリーでボールを掴んだ緑間に戸塚が叫ぶ。緑間はすぐさまスリーの体勢に入る。

 

「(負けれないんスよ。これが最後なんだ。チームを1度も優勝させずに終わらせるなんて…)出来ないんスよ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

フリーと思われた緑間。黄瀬が猛烈な速さで距離を詰め、緑間の放ったボールを叩き落とした。

 

「やべぇ!」

 

思わず叫ぶ高尾。緑間の後方に零れたボールを黄瀬がすぐさま拾い、そのままワンマン速攻。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

そのままダンクを決めた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「絶対に勝つ。これが最後なんだ。絶対勝って優勝するんスよ!」

 

『っ!?』

 

気迫の籠った宣言をする黄瀬。その迫力に圧倒される秀徳の選手達。

 

 

「空!」

 

「…ああ。間違いねえ、黄瀬さんが、入りやがった」

 

声かけた大地に空が答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――黄瀬涼太が、ゾーンの扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

変わって秀徳のオフェンス。高尾の出したパスを黄瀬がカット。そのまま再び速攻に走った。

 

「…黄瀬!」

 

そんな黄瀬の前に、緑間が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

緑間がディフェンスにやってくると、黄瀬は青峰のコピーに五将の葉山のライトニングドリブルを複合させ、緑間を抜きさり、そのまま決めた。

 

「…くっ!」

 

焦りの色が隠せない緑間。黄瀬がゾーンの扉を開いてから立て続けにオフェンスは失敗。ターンオーバーからの失点を喫し続け、みるみる点差は縮まっていった。

 

「…っ」

 

黄瀬のマークを引き剥がすべく動いていた緑間だったが触れきれず、立ち止まった緑間はボールを持たないままシュート体勢に入った。

 

「あれは緑間と高尾のスカイダイレクトスリー!!!」

 

ボールを持つ高尾。高尾の横に移動した緑間が2人の究極連携である空中装填式(スカイダイレクト)スリーポイントシュートの構えに入った。

 

「真ちゃん!」

 

タイミングを合わせて緑間の手元に正確無比なパスを送る高尾。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

しかしそのパスはパスコースに割り込んだ黄瀬にカットされる。

 

「焦ってるんスか? 身長のない赤司っちならともかく、俺ならタイミングさえ合えばカット出来るんスよ」

 

かつての赤司は20㎝以上のミスマッチであった為、ダブルチームとエンペラーアイを利用して高尾のパスをカットしたが、身長差がない黄瀬。ましてやパーフェクトコピー+ゾーン状態である黄瀬は即座に青峰のアジリティに紫原のディフェンスをコピーした黄瀬ならばよほど不意や意表を突かれなければ止める事は可能なのだ。

 

「…っ」

 

再びオフェンスを失敗し、窮地に陥る秀徳。

 

「止めろ! ファールでもいい、止めるんだ!」

 

ベンチから指示を飛ばす中谷。

 

「止める。何としてでも…!」

 

集中力を最大にして黄瀬の前に立ち塞がる緑間。

 

「…」

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールを止めた黄瀬は青峰のコピーで独特のハンドリングを始める。

 

「(青峰のコピーか!?)」

 

ドライブに警戒する緑間。しかし…。

 

「っ!?」

 

右ウィングの位置に立つ黄瀬だったが、突如としてボールを掴んだ。

 

「忘れたんスか? 今の青峰っちには『これ』があるんスよ」

 

そう言ってスリーを放つ黄瀬。

 

「しまった!」

 

完全に意表を突かれ、そのスリーを見送ってしまう緑間。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたスリーはキレイにリングを潜り抜けた。

 

 

第4Q、残り2分39秒

 

 

秀徳 89

海常 92

 

 

このスリーで遂に海常が逆転した。

 

『遂に逆転だ!!!』

 

歓喜する海常ベンチ。

 

『…っ』

 

対して静まり返る秀徳ベンチ。

 

 

「…決まったか?」

 

試合展開を見て松永がポツリと呟く。

 

「かもな。ゾーン状態でパーフェクトコピーを使用した黄瀬は俺と大地が2人がかりでも止められなかった。点も取れねえ上に止められねえんじゃ秀徳に勝ち目はねえ」

 

今年の夏に今の状態の黄瀬とやり合った空にはこの黄瀬の恐ろしさは痛い程理解している。その上でそう結論付けた。

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

下を向きながら呼吸を荒げる緑間。何とか黄瀬を止めようと奮闘するも歯が立たず、窮地に陥っていた。

 

「(今日まで人事を尽くしてきた。それでも届かないと言うのか…!)」

 

こだわりを捨て、新たな武器を死に物狂いで身に着けた緑間。しかし黄瀬はそれを嘲笑うかのようにコピーし、遂には自分を圧倒…追いつめていた。

 

「(…ふざけるな。ふざけるな!)」

 

それでも緑間の中に諦め等なく、その胸中は怒りで占めていた。

 

「(秀徳は…、俺達は今日まで皆人事を尽くしてきたのだ。こんな所で負けられないのだよ!)」

 

今、コートに立っている選手達。ベンチ及びベンチに入れなかった秀徳の選手達。その者達が全員、全国制覇を果たす為に今日まで努力してきた事を緑間は誰よりも知っている。そんな者達の努力が報われない事など、あってはならない。

 

「――」

 

その時、緑間の視界が変わる。

 

「高尾。ボールをくれ」

 

「お、おう」

 

スローワーとなった高尾がすぐさま緑間にボールを渡す。

 

「…」

 

ボールを運ぶ緑間。

 

「(流れはうちにある。ここを止めて一気にトドメ――)…っ!?」

 

緑間のディフェンスに入ろうとした黄瀬だったが、フロントコートに入った瞬間、緑間がクイックリリースでスリーを放ち、目を見開いて驚愕する。

 

『っ!?』

 

まさかの行動に海常の選手だけではなく、秀徳の選手達も驚き、ボールの行方に注目した。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

「…っ!」

 

驚きながら黄瀬が緑間に振り返る。

 

「勝ちたいのがお前達だけだと思うな。俺達は今日まで皆人事を尽くして来たのだ。勝つのは、俺達だ!」

 

気迫の籠った声で言い放つ緑間。

 

『っ!?』

 

その迫力に海常の選手達は圧倒。そして気付いた。

 

「…ハハッ、やっぱり緑間っちは一筋縄では行かないッスね」

 

そんな緑間を見て黄瀬が苦笑しながら呟いた。

 

 

「大ちゃん!」

 

「…ああ。緑間の奴、入りやがった」

 

青峰が呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――緑間真太郎が、ゾーンの扉を開いたと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ここから試合はゾーンの扉を開いた緑間と黄瀬のぶつかり合いとなった。

 

「緑間っち!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

赤司のコピーで緑間にアンクルブレイク起こさせ、直後に青峰のコピーで抜きさり、ダンクを決める黄瀬。

 

「黄瀬ぇっ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

スリーポイントラインをなぞるようにドリブルをした緑間が身体が横に流れながらもクイックリリースでスリーを放ち、決めた。

 

ゾーンに入った者同士、勝負は互角……ではなく…。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

パーフェクトコピーを使用している黄瀬が僅かに押しており、未だ黄瀬を止められない緑間に対し、黄瀬は緑間のブロックに成功していた。

 

 

「…やはり、ゾーンに入っても黄瀬さんの方が優勢のようですね」

 

「…ああ。だが…」

 

黄瀬優勢と断ずる空と大地だったが…。

 

 

「…くっ!」

 

ハイポストでポストアップをしながらチャンスを窺う緑間だったが、目の前の黄瀬の牙城に四苦八苦していた。ゾーンに入ってある程度拮抗し始めたが、それでもパーフェクトコピーを使用する黄瀬に届かない緑間。

 

「…っ」

 

ここで緑間は前に前進。リングから離れるようにドリブルで前進する。そしてスリーポイントラインを越えると…。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールを掴み、飛びながらリングに振り返り、フェイダウェイのような体勢でスリーを放った。

 

「っ!?」

 

黄瀬もブロックに向かうも僅かに間に合わず…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

緑間の放ったスリーが決まった。

 

「(黄瀬…、恐ろしい男だ。ゾーンに入って尚届かないとは…)」

 

「(スリーは要警戒してる。それでも緑間っちは決めてくる。化け物ッスよ)」

 

互いに認め合う2人。

 

「(…だが!)」

 

「(…でも!)」

 

「「(勝つのは俺なのだよ(だ)!!!)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後もぶつかり合う緑間と黄瀬。2点で確実に決める黄瀬。2回に1回は止められるもスリーで猛追する緑間。試合はキセキの世代同士のぶつかり合いとなっていた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

緑間がスリーをフェイクに中からジャンプシュートを決めた。

 

 

第4Q、残り28秒

 

 

秀徳 100

海常 102

 

 

残り時間30秒を切り、点差は海常が2点差でリードしていた。

 

「ここは死守だ! 絶対死守しろ!」

 

ベンチから中谷が立ち上がりながら選手達に指示を出した。

 

『…っ』

 

慎重にボールを回しながら得点チャンスを窺う海常。

 

『…っ』

 

ここを止められなければ敗北がほぼ確定する秀徳は死に物狂いでディフェンスをしていた。

 

「…」

 

「…」

 

黄瀬をマークする緑間。決してフリーにさせまいと必死に食らいつく。

 

「……へい!」

 

試合時間が残り時間が20秒となった所で黄瀬が中に走り込み、ボールを要求した。

 

「…っ」

 

即座に追いかけようとした緑間だったが、目の前には末広のスクリーンがあり、これをロールしながらかわし、追いかける。が、これによって僅かに黄瀬がフリーとなってしまった。

 

「これでトドメッスよ!」

 

ローポストに立った黄瀬。その背中に緑間が張り付くように立つ。黄瀬がボールを掴むと…。

 

『っ!?』

 

回転しながら黄瀬がリングに向かって飛んだ。

 

『あれは紫原のトールハンマー!?』

 

『パワーなら黄瀬の方が上だ! 決まったか!?』

 

インサイドでボールを掴んだ黄瀬は紫原のトールハンマーを選択した。

 

「…っ!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

緑間がブロックに飛び、両手でトールハンマーをブロック。抑え込んだ。

 

「っ!?」

 

やはりパワーでは黄瀬が勝り、少しずつリングに向かって押されていく。

 

「頼む緑間!」

 

『止めてくれぇっ!!!』

 

必死に緑間に想いを託す秀徳の選手達。

 

「(今日まで皆人事を尽くしてきたのだ。振り絞れ! 俺の身体の全ての力を!!!)…おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

咆哮を上げながら身体から力を振り絞る緑間。

 

 

――バチィィン!!!

 

 

「…っ!?」

 

緑間は黄瀬の両手に収まるボールを掻きだした。

 

『よっしゃぁぁぁぁっ!!!』

 

秀徳ベンチの選手達が同時に立ち上がりながら咆哮を上げた。

 

「ルーズボール! 抑えるんだ!」

 

中谷も興奮しながらも選手達に指示を飛ばす。

 

「さっすが真ちゃんだぜ!!!」

 

ルーズボールを高尾が抑えた。残り時間15秒となった所で秀徳がボールを奪った。

 

「止めろ! 何としてでも止めるんだ!」

 

今度は海常ベンチの武内が選手達の指示を飛ばした。

 

「…」

 

ボールを奪った秀徳。高尾は焦って攻めたりはせず、冷静にゆっくりボールを運びながらゲームメイクをしていた。点差は2点。2点と取って延長戦に望みを繋げるか、スリーで逆転を狙うか…。

 

『…っ』

 

試合時間が刻一刻となくなっていく試合。会場にいる全ての者がその結末を固唾を飲んで見守っていた。

 

 

「…秀徳はどう攻めるかな?」

 

青峰に尋ねる桃井。

 

「緑間がスリーでトドメ刺しに行くだろうな」

 

そう断言。しかし…。

 

「もっとも、俺の知る緑間だったらな…」

 

そう補足した。

 

今日の緑間は青峰の予想をことごとく裏切ってきており、もはや予測は困難。スリーと見せて2点と取って延長戦を迎えるか、あるいは緑間以外で決める可能性もある。

 

「…」

 

緑間をマークする黄瀬。

 

「(絶対緑間っちが決めてくる。絶対にマークは外さない!)」

 

フィニッシュは緑間と断じてピタリとマークする。

 

誰もが結末を予想出来ないこの試合。試合時間が残り8秒となったその時!

 

「こっちだ高尾ぉぉぉぉっ!!!」

 

その時、斎藤が右アウトサイドのコーナーに移動し、ボールを要求した。次の瞬間、この会場にいる全ての者が驚愕に包まれることとなった。

 

「打たせ――っ!?」

 

斎藤を追いかけようとした氏原だったが、スクリーンによって阻まれた。

 

『緑間がスクリーン!?』

 

予想は困難なれど誰しもが緑間が決めに来ると思っていた。だがその予想を覆され、まさかの緑間が斎藤をフリーにする為にスクリーンをかけた。

 

「させるか!」

 

すぐさま末広がヘルプに飛び出し、斎藤に詰め寄る。そして高尾がパスを出した。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、再び会場は驚愕に包まれることとなった。高尾は外の斎藤……にではなく、中にパスを出したのだ。そしてボールを掴んだのは…。

 

『緑間!?』

 

先程スクリーンをかけた緑間が中でボールを受け取ったのだ。

 

 

「ピック&ロールかい!?」

 

天野が叫ぶ。

 

 

緑間はスクリーンと同時に中に走り込み、パスを受けたのだ。斎藤が声を張り上げ、自分で決めに来ると印象付け、海常の選手達の意識を自分へと向けるファインプレーを見せ、その間に緑間が中に走り込む。

 

「「っ!?」」

 

小牧と氏原はもはや対応に間に合わず…。

 

「っ!?」

 

末広は斎藤にヘルプに釣られ…。

 

「…おのれぃ!」

 

戸塚が三枝を背中で抑え込む。

 

 

――緑間の前には阻む者は何もなかった。

 

 

そのはずだったが…。

 

その時、ゴール下に黄瀬が現れた。

 

「よく戻った黄瀬!!!」

 

ベンチで叫ぶ武内。

 

誰しもが斎藤の声で緑間から一瞬意識を外してしまったが、黄瀬だけは別だった。黄瀬だけが緑間の動向に注意を払っており、1人戻っていた。

 

それでも緑間はボールを掴んでレイアップの体勢に入った。

 

 

「延長戦狙い!?」

 

まさかの決断に桃井が驚く。

 

「いや…ちげぇ!」

 

青峰が前のめりになる。

 

 

「おぉっ!!!」

 

黄瀬がブロックに飛ぶ。

 

「俺はスリーへの執着は捨てても、こだわりまでは捨てた覚えはないのだよ!」

 

 

――ドン!!!

 

 

空中で緑間と黄瀬が交錯する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に鳴り響く審判の笛。

 

緑間の手から離れたボールはリングの縁をクルクルと回り…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

リングを潜り抜けた。

 

「3点。これでトドメなのだよ」

 

緑間が眼鏡のブリッジを押しながら呟いた。

 

『っしゃぁぁぁぁっ!!!』

 

同時に大歓喜する秀徳ベンチの選手達。

 

「真ちゃん!!!」

 

「緑間!!!」

 

緑間に駆け寄るコート上の選手達。

 

緑間の狙いはスリーでの逆転でなければ2点と取って延長戦に繋げる事でもなく、ファールによるフリースローによるボーナススローでの逆転だった。黄瀬だけは必ず最後に立ちはだかる予測した緑間が描いた究極のシナリオ。

 

 

「決めやがった…」

 

「何て人だ…」

 

この結末に空も大地も驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀徳と海常の激突は、緑間の手によって秀徳の勝利――

 

 

『ピピピピピピ!!!』

 

 

と思われたその時、審判が笛を吹いた。

 

 

『オフェンスチャージング!!!』

 

 

そうコールした。

 

『っ!?』

 

このコールに会場全ての者が耳を疑った。

 

「なんだと!?」

 

これには緑間も同様であった。

 

「どういう事だよ!? 今のディフェンスのファールだろ!?」

 

納得が行かない高尾が審判に詰め寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ。あー心臓に悪い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

その声にハッと振り返る緑間。

 

「お前、まさか…!?」

 

その緑間の問いに、黄瀬はニヤリと笑みを浮かべたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





リアルでトラブルが続いたのと年末の多忙により、投稿が遅れました。まだトラブルの方は完全には解決していないのですが、とりあえず合間を縫って投稿です。

と言う事で、秀徳・海常戦の集結です…(;^ω^)

賛否はあるかと思いますが、こういう結末と致しました。

原作では何かと不遇な者(かたやチート能力も持ってしまったが故、かたや原作者に嫌われてしまった故)同士の激突。緑間の成長は書いていて面白かったのですが、やはり原作での黄瀬の無念を果たしてあげたかったので、この結末です。…本音は、これ以上緑間に試合をさせると収拾が付かなくなると言うの理由なのは内緒です…(;^ω^)

これから先もまだまだ別の試合があるので、ここからさらに試合展開を考えなければなりません。頑張れ俺…(^_^)v

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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