黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

朝が肌寒くなってきましたね…(;^ω^)

それではどうぞ!



第173Q~エースの在り方~

 

 

 

審判の吹く長い笛と、その直後に降ろされた2本の指と共に長い激闘に幕を下ろされた。

 

 

試合終了

 

 

花月 121

桐皇 120

 

 

空が右手の拳をそっと突き上げると…。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

静まり返っていた会場が観客の大歓声によって割れんばかりに包まれた。

 

「空坊!!!」

 

「くー!!!」

 

そんな空に天野と生嶋が飛び付くように抱き着いた。

 

「神城ぉぉぉっ!!!」

 

「うわぁぁぁぁっ!!!」

 

ベンチから飛び出した菅野と帆足も空に抱き着いた。

 

「勝った! 勝った!」

 

「おう!」

 

ベンチでは竜崎と室井が抱き合っていた。

 

「うぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

松永が咆哮を上げながら喜びを露にした。

 

「やった! 勝ったよ姫ちゃん!」

 

「うん! 皆、おめでとう…!」

 

相川は涙を浮かべながら歓喜して姫川に抱き着き、姫川は涙を流しながら祝福した。

 

「勝った…」

 

茫然とリングを見つめる大地。

 

「勝ったぞ大地! リベンジ達成だ! …っておい、大地!?」

 

大地の下に駆け寄った空。その時、大地の異変に気付いた。

 

「お前、血が出てんぞ!?」

 

「…えっ?」

 

指摘されて大地が額に触れる。触れた手に自身の血が付着していた。

 

「…っと、どうやら、傷口が開いてしまったようですね」

 

当の本人は他人事のように呟いていた。

 

「綾瀬、はよ手当し直した方がええで」

 

「…はい。もちろんです。ですが、その前に整列です」

 

天野の心配を他所に大地が得点掲示板に視線を向ける。そこには121-120のスコアが表示されている。

 

「勝った…!」

 

そして、喜びを噛みしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

対して、桐皇の選手達は皆茫然としていた。

 

「…くっ!」

 

桜井は両膝に手を付きながら悔しさを堪えている。

 

「負けた…」

 

茫然と呟く今吉。その瞳から涙が溢れていた。

 

「くそっ!」

 

國枝は自身の不甲斐なさに腹を立て、自身の足を叩いている。

 

「ちくしょぉぉぉぉぉっ!!!」

 

福山は大粒の涙を流しながら絶叫していた。

 

「…負けた?」

 

青峰は茫然と呟く。

 

「…そうか、負けたのか」

 

現実を受け入れたかのように再度呟いた。

 

試合は最後の花月の放ったシュートを青峰がブロックに行き、そのブロックがボールに触れ、そのシュートは外れた。ここまでは去年と同じであった。違うのは、外れるはずだったボールを空が押し込んだ事だ。

 

「……そうか」

 

ここで青峰は何かを思い出し、理解した。

 

一昨年のウィンターカップ。最後は火神のリバウンドダンクをブロックしたが、その直後の黒子のパスからのアリウープで敗退した。

 

頼れる相棒の存在によって青峰は負けた。それは青峰がかつて捨ててしまったものだ。

 

「(結局俺は、てめえで捨てちまったものに負けたって事か…)」

 

 

――俺に勝てるのは俺だけだ…。

 

 

そう考え、仲間に頼る事を止めたかつての自分。そんな自分を打ち負かされた事で、仲間と力を合わせる事の大事さを取り戻した。…だが、頼れる相棒の存在だけは取り戻す事は出来なかった。

 

「…っ」

 

悔しさを噛みしめながら天を仰ぎ、拳をきつく握った青峰だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「121対120で花月高校の勝ち! 礼!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内に集まった両校の選手達が整列をし、礼をした。

 

「強かったぜ、お前ら」

 

「お前もや。キセキの世代以外でここまでやられる思わんかったわ」

 

「…絶対優勝しろよ」

 

天野と福山が握手を交わす。

 

「…おめでとうございます」

 

「試合には勝ったけど、今日はあなたにほとんど仕事をさせてもらえませんでした。そこは悔しいです」

 

「当然です。…だって僕の方が上手いんだから」

 

「いや、僕の方が…」

 

どちらが上か、言い合いながら生嶋と桜井が握手を交わす。

 

「完敗です。試合も、個人でも…」

 

「容易な相手ではなかった。来年にはどうなるか分からん。少なくとも、去年の俺ならば勝てなかったかもしれない」

 

「そう言ってもらえると、少しは救われます。…来年こそ、試合でも個人でも勝たせてもらいます」

 

「楽しみに待っているぞ」

 

松永と國枝が握手を交わす。

 

「…ホンマ、たった1年でつよーなり過ぎやで」

 

「お前も去年と比較ならないくらいやり辛かったぜ」

 

「…あないボコボコしといてそれ言われても嫌味にしか聞こえんで。…ほな、ワシら分まで勝ってや」

 

「おう!」

 

空と今吉が握手を交わす。

 

「…」

 

「…」

 

無言で見つめ合う大地と青峰。

 

「昨年の敗北から…」

 

大地が先に口を開いた。

 

「あなたに勝つ為に死に物狂いで努力してきたつもりでした。ですが、それでもあなたには追い付く事は出来なかった…」

 

「…」

 

「完敗です。あなたと戦えて良かったです」

 

そう言って、大地は右手を差し出し、握手を求めた。

 

「…バカが、俺がどれだけてめえに勝っても、試合に勝てなきゃ意味ねえんだよ」

 

そんな大地を青峰は鼻で一笑した。

 

「っ!?」

 

青峰は大地の首に腕を回し、自身に引き寄せた。

 

「俺達に勝ったんだ。無様に負けでもしたらぶっ殺すからな」

 

耳元でそう言い、腕を放した。

 

「強かったぜ、お前ら」

 

ニコッとそう言い残し、青峰はベンチへと戻っていった。

 

「ホント、キセキの世代は化け物揃いだな」

 

大地が振り返ると、そこには空が立っていた。

 

「空…」

 

「これからも試合は続く。意地でも優勝してやろうぜ」

 

「そうですね」

 

2人は、青峰の背中を見つめながら改めて誓い合ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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荷物を纏め、ベンチから引き揚げ、通路を歩く桐皇の選手達。

 

『…』

 

試合に敗北した選手達の表情は一様に暗かった。

 

「…さつき」

 

「なに?」

 

通路を歩く道中、青峰が横を歩く桃井に話しかけた。

 

「もう…、終わりなんだよな」

 

「……うん」

 

青峰の囁くような問いに、桃井がそっと頷いた。

 

「…1度も頂点には立てなかった。結局俺は、チームを優勝させられなかった」

 

「大ちゃん…!」

 

悲痛な表情で言う青峰を見て桃井の瞳から再び涙が溢れて来る。

 

「…青峰!」

 

その時、福山が青峰の肩に手を置いた。

 

「…お前とは色々あった。楽しい事ばかりじゃなかった。それでも、俺はお前と3年間バスケが出来て良かった」

 

「…」

 

「ありがとよ」

 

そう言い、福山は青峰の前を歩いて行った。

 

「……気持ちわりーんだよ」

 

そんな福山に対し、青峰は聞こえるか聞こえないかの声で悪態を吐いた。

 

「グスッ! 青峰…さん。僕、青峰さんと、一緒にバスケ出来て…良かったです…!」

 

涙を流しながら桜井が青峰に感謝の言葉を伝えた。

 

その後も青峰と苦楽を共にしたチームメイトが次々と青峰に声を掛け、感謝の言葉を告げていった。

 

「青峰君」

 

次に監督の原澤が声を掛けた。

 

「あなたのこの桐皇での3年間は、これから先、あなたのバスケ人生にきっと良い影響を与えてくれるでしょう」

 

「…」

 

「桐皇に来てくれて、桐皇を選んでくれて、ありがとうございました」

 

そう最後を締めくくった。

 

「…次から次へと…、鬱陶しいんだよ」

 

そんなチームメイト達にも悪態を吐く青峰。

 

「……俺も、もっと、お前らと…!」

 

身体を震わせながら皆に聞こえないようにそう絞り出した青峰。その瞳からは、涙が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「桐皇が負けたか…」

 

観客席の火神がコートから去った桐皇の選手達を見送りながら呟いた。

 

「決して番狂わせと呼べる試合ではないわ。去年から見て分かっていると思うけど、花月は優勝を狙えるだけのポテンシャルを持ったチームよ。この勝利は、決して奇跡ではないわ」

 

リコがこの試合をそう締めくくる。

 

「さあ皆! これから試合が控えているのよ。準備を始めるわよ!」

 

そう指示を出し、選手達は動き出す。

 

「あー、これから試合かー」

 

肩を動かしながら移動を開始する池永。

 

「おめでとう、神城、綾瀬」

 

試合の勝利を祝福する田仲。

 

「…」

 

選手達が移動を開始する中、黒子だけがその場でコートを去ろうとする桐皇の選手達…その中の1人に視線を向けていた。

 

「青峰君…」

 

かつてのチームメイトであり、自身の光と呼べる存在であった青峰。そんな彼の敗北を悲痛な表情で見つめる黒子。

 

「黒子」

 

そんな黒子に気付いた火神が声を掛ける。

 

「気持ちは察する。だが――」

 

「分かっています」

 

火神の声掛けに、黒子は遮るように言葉を挟んだ。

 

「まだ僕達の戦いは終わってません。試合までには必ず気持ちを切り替えますから」

 

「……それなら良い」

 

そう言い残し、火神はリコ達の後に続いた。

 

「…」

 

青峰がコートから去るまで見つめた黒子は、チームメイトの後を追ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「桐皇が消えたか…」

 

試合結果を見て、赤司がそう感想を呟く。

 

「今年の桐皇も、オフェンス力なら今大会ナンバーワン筆頭と呼べるチームだった…」

 

「そんな桐皇を相手に点の取り合いで勝利した花月。こりゃ、ぶつかったらまた激戦になりそうだな」

 

洛山の選手達も各々感想を言い合っていた。

 

「試合を控えている。移動を開始するぞ」

 

立ち上がった赤司が選手達にそう促した。

 

「各自、準備はしっかり行え。決して驕る事も侮る事なく試合に臨め。…勝負に、絶対等ないのだからな」

 

そう選手達に告げ、赤司はその場を後にしていった。

 

「…まさか、赤司からそんな言葉が聞けるなんてな」

 

そう四条が呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

その後、後の試合が行われた。

 

「らぁっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

誠凛の試合。火神の代名詞とも言えるダンクが炸裂する。

 

それぞれが連携及び個人技を駆使して相手チームを圧倒。交代策を駆使し、完勝した。

 

 

「…フッ」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

緑間のスリーが決まる。

 

秀徳の試合。高尾が巧みにゲームメイクをし、緑間以外の選手達も得点を重ねていく。

 

安定したゲーム運び秀徳が試合に勝利した。

 

 

「はぁ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

黄瀬のワンハンドダンクが炸裂。黄瀬が圧倒的な存在感で相手チームを圧倒。

 

「フン!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

三枝もブロックを連発。インサイドを制圧し、試合を支配。

 

圧倒的な強さで海常が試合に勝利した。

 

 

「させないし」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

紫原が相手のジャンプショットを叩き落とす。

 

圧倒的な存在感で紫原が相手チームのシュートをブロックし、相手のオフェンスを無効化する。

 

「ソレ!」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

アンリもその身体能力を駆使して攻守に渡って活躍。

 

陽泉も、絶対的な守備力で相手チームを圧倒し、試合に勝利した。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

赤司からパスを受けた二宮がジャンプショットを決めた。

 

洛山は赤司による完璧なゲームメイクで攻守において安定かつ圧倒的な支配力で試合を進める。

 

第1Qが終わった時点で赤司はベンチに下がり、その後も時間を置いてスタメン選手達がベンチへと下がっていく。第4Q開始時点ではスタメン全員がベンチに下がっていたが、それでも開闢の帝王。ベンチメンバーも層が厚く、リードを保って試合を終わらせた。

 

こうして2回戦が終わり、桐皇学園高校がその姿を消した。

 

他のキセキを擁するチームは危なげなく勝利し、その日は終えた。そして、翌日、3回戦を迎えるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌日、ウィンターカップ3回戦…。

 

「っしゃっ!!! 行くぞ!!!」

 

気合いの入る空を先頭に、花月の選手達がコート入りをする。先日の大激戦を終えたばかりだが、大会はまだ終わりではない。戦いが終われば次の戦いが待ち受けている。

 

「やかまし! 聞こえとるわ!」

 

そんな空に対し、げんなりした表情で怒鳴り返す天野。

 

「もうすぐ試合が始まるんだから気合いが入るのは当然!」

 

対して空は気にする素振りは見せず…。

 

「と言う訳で、大地、お前は今日お休みな」

 

「分かっていますよ。…それより、何でそんな嬉しそうなんですか…」

 

苦笑する大地。

 

大地は昨日の試合での怪我の影響で今日の試合はスタメンから外された。決して深い傷ではないのだが、大事を取って上杉からベンチスタートを命じられた。

 

「インターハイの時は俺が欠場した試合でお前は大活躍したんだから、次は俺の番だ。俺の時はベンチにも座らせてくれなかったからな」

 

夏を思い出して鼻を鳴らす空。

 

「落ち着け馬鹿者」

 

「あいた!」

 

はしゃぐ空の頭を叩いた上杉。

 

「皆、良く聞け。昨日話した通り、今日の試合、綾瀬はベンチスタートだ。展開次第で出場させるが、それでも第3Q中盤以降のつもりだ。そのつもりでいろ」

 

『はい!!!』

 

「スタメンは、神城。生嶋。松永。天野。室井の5人だ。3番(スモールフォワード)に松永。5番(センター)に室井。後はいつものポジションに入れ」

 

「大役だぜ。頑張れよ」

 

「あぁ」

 

スタメンに抜擢された室井に竜崎が激励する。

 

「室井。お前のスタメン起用は今後を見据えての選択だ。しっかり勉強してこい」

 

「はい!」

 

花月のバックアップセンターを任されている室井。キャリアの薄さで過去に幾度となく煮え湯を飲まれた場面があった。そんな室井の成長を促す為のスタメン抜擢であった。

 

「今日の相手は大仁田高校だ。去年、辛くも勝利を収めた相手だ。当然、今大会…ひいては今日の試合に賭ける思いは大きい。昨日の試合の勝利に浮かれたままで勝てる相手ではない」

 

『…』

 

「決して驕る事無く試合に臨め。いいな」

 

『はい!!!』

 

「よし、それでは行って来い!」

 

「っしゃっ!!! 花月ーファイ!!!」

 

『おー!!!』

 

空が先頭で号令を発し、後ろに続く花月のスタメンに選ばれた4人が応えながら5人はコートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

場所は変わって誠凛の選手達がいる控室。

 

「盛り上がってんなー」

 

柔軟運動をする池永。控室にまで届いた歓声に反応する。

 

「今コートで試合してるのは花月と大仁田か…」

 

対戦表を思い出す新海。

 

「大仁田結構つえーからな。負けてっかもな」

 

ケラケラと笑いながら言う池永。

 

「…」

 

試合に向けて黙々と準備をする田仲。

 

「いつもみたいに池永を注意しないの?」

 

かつてのチームメイトいる花月に対しての悪態に何も口出ししない田仲に尋ねる朝日奈。

 

「いつもの事だからね。あいつがああ言う時はむしろ勝って欲しいって思ってる時しかないって事は理解したよ」

 

かれこれ2年近くの付き合いとなる池永。その池永の性格をいい加減理解してきた田仲。

 

「あなた達ねぇ、もうすぐ試合なのよ? 雑談は控えてしっかり準備しなさい」

 

気が緩んでいると思われる誠凛の選手達を見てリコが注意する。

 

「監督、花月と大仁田の試合、どうなってますかね?」

 

それでも試合の行方が心配な田仲がリコに尋ねた。

 

「そうねぇ…」

 

尋ねられたリコは顎に手を当てて予想をする。

 

「花月は神城君を筆頭に機動力を駆使してラン&ガンで速い展開で点を取りに行くチーム。対して大仁田はボール回し主体のディレイドオフェンスを得意とするチーム。はっきり言って花月にとって相性は悪いチームよ。去年もギリギリの勝利だったし」

 

『…』

 

「大仁田は去年のリベンジに燃えて士気は恐らく高い。対して花月は昨日の試合で去年の敗北の雪辱を果たしている。どんなに気を引き締めていても何処か緩んでいると思うわ。うちもかつてそうだったもの」

 

一昨年のウィンターカップ。誠凛はその年のインターハイの東京都の決勝リーグで大敗を喫した桐皇を相手に勝利した翌日の試合。雪辱を果たした事による気の緩みによって苦戦を強いられた過去があった事を話す。

 

「それと、事前情報で綾瀬君はベンチスタートと言う話だわ。多分、昨日の負傷の事で様子を見ての事。対して、大仁田は去年の唯一の弱点であったエースが加入しているわ」

 

『…』

 

「それらを考慮しても花月が優勢だと思うけど、番狂わせが起こる可能性は、充分あると思うわ」

 

「……そうですか」

 

リコの予想を聞いて気落ちする田仲。

 

「心配いらねえよ」

 

その時、話を黙って聞いていた火神が口を開いた。

 

「あの桐皇に勝ったチームだ。例え相性が悪かろうとエースが不在だろうと負けるチームじゃねえよ」

 

そう言って、田仲の肩に手を置いた。

 

「火神さん…」

 

「コートに行けば全て分かるんだ。それまで楽しみにしとけ。今は試合に向けてしっかり準備しておけ」

 

「…っ、はい!」

 

火神の言葉に返事をする田仲。

 

「大差付けられたりしてな」

 

「お前はもう黙ってろ…」

 

茶々を入れる池永。新海は呆れながら諫めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

場所は変わり、コートへと向かう通路…。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

「おっ? 会場はスゲー盛り上がってんな」

 

通路を歩く秀徳の選手達。その中の高尾がコートの会場から届く歓声に感想を漏らす。

 

「今コートでは花月と大仁田が試合をしてるのか…」

 

「花月にとっては相性最悪の相手だな」

 

「確か、花月は綾瀬がベンチスタートって話だったな」

 

コートへと足を進めながら秀徳の選手達が会話をする。

 

「無駄口を叩くな。すぐに試合だ。全員、気を引き締めるのだよ」

 

会話に弾むチームメイトを主将である緑間が諫める。秀徳は緑間を先頭にコートのあるフロアへと足を踏み入れた。

 

『おぉぉぉぉぉぉーーーっ!!!』

 

秀徳の選手がコートのあるフロアに足を踏み入れると、再び歓声がコート中を包み込んだ。

 

「やってんな。さてさて、試合はどうなってるか――っ!? おいおい、マジかよ…」

 

得点が表示されている電光掲示板を目にした高尾が驚きの表情を見せる。

 

 

第4Q、残り4分15秒

 

 

花月  83

大仁田 48

 

 

「35点差…、随分開いたな…」

 

試合終盤、もはや覆す事もほぼ不可能まで開いて点差を見て斎藤が表情を強張らせる。

 

「去年は1点差でギリギリ逃げ切ったんでしたよね…」

 

これを見て木村も驚く。

 

相性が悪いと言われている相手、それもエース不在でこの点差なのだから秀徳の選手達は驚きを隠せなかった。

 

「試合はどんな感じなんだ?」

 

偵察に行かせていた部員に高尾が尋ねる。

 

「とにかく神城が凄いの一言です」

 

偵察班から出た感想はこれだった。

 

「スコアシートを見せてくれ」

 

緑間が偵察班が付けていたスコアシートに視線を移す。

 

「……ほう」

 

「どれどれ……うはっ! スゲーなマジかよ…」

 

横からスコアシートを除きこんだ今現在の空の成績を見て空の高尾が思わず吹き出し、苦笑する。

 

 

――得点33、リバウンド2、アシスト18、スティール14、ブロック3。

 

 

これが空がここまでで叩きだしたスタッツであった。

 

 

――ピッ!

 

 

大仁田が得意のパスワークでチャンスを窺う。

 

「来たぞ! 各自、自分のマークをしっかりチェックしろ! 声掛け忘れんな!」

 

パスワークが始まると同時に空が檄を飛ばす。

 

時間を使ってボールを回し、得点チャンスを窺う大仁田。花月の選手達は各々のマッチアップ相手をきっちりマークし、シュートチャンスを作らせない。

 

 

「おーおー、去年あれだけ苦しんだあのパスワークにしっかり対応してやがる」

 

大仁田の代名詞のパスワークに対応する花月を見て感心する高尾。

 

「形は違えど、花月は夏に洛山の高速のパスワークを経験し、曲がりなりにも止めている。今更動揺したりはしないだろう」

 

広い視野とパスセンスによるものと、あらかじめ決められたパターンで動くと言うちがいはあれど、花月は夏に高速のパスワークを経験しており、その甲斐もあって対応が出来ていると断ずる緑間。

 

 

「よう。来いよ」

 

ボールが大仁田の1年生エース、伊達に渡ると、空が目の前に立ち塞がる。大地がいない花月はエースのマークは空に一任されていた。

 

「…っ」

 

空が目の前に現れると、伊達の表情が強張る。今日の試合、空の徹底マークを受けた伊達のここまでの得点は僅か2点。それも、フリースローによるものだ。

 

ボールを小刻みに動かし、ステップを踏みながら隙を窺う伊達だったが、空は隙を見せる事無くディフェンスをしている。

 

「伊達、時間がないぞ!」

 

シュートクロックが残り僅かに迫り、チームメイトが声を掛ける。

 

「…くそっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

仕掛けるチャンスが訪れず、仕方なく伊達が仕掛ける。

 

「行かせねえぜ!」

 

切り込んだ伊達にピタリと追いかける空。

 

「(ダメだ、抜けない!)」

 

幾度か左右に切り返してかわそうとするも空を一向に振り切れない。

 

「…くっ!」

 

空を抜く事を諦めた伊達はボールを掴み、フェイダウェイで後ろに飛びながら素早くジャンプショット放とうとする。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、頭上にリフトしようとしたボールを空が叩き落した。

 

「(速…過ぎる!)」

 

ジャンプショットどころかシュート体勢にも入らせてもらえず、一瞬で距離を潰した空の瞬発力に伊達は声も出なかった。

 

「速攻!」

 

すかさずルーズボールを抑えた空がそのまま先頭で速攻に走る。

 

「も、戻れ!」

 

慌てて声を出しながらディフェンスに戻る大仁田の選手達。

 

「…っ!?」

 

先頭の空を追いかける伊達が絶望する。ドリブルを空に追い付く所かグングン距離を離されているからだ。

 

 

――バス!!!

 

 

誰にも追い付かれる事無く空がそのままレイアップを決めた。

 

『…っ』

 

大仁田の選手達の表情が険しくなる。オフェンスは得意のパスワークは対応され、得点に繋がらず、頼みの伊達も空に抑えられている。ディフェンスは空を止められない。かつて空を翻弄したトラップディフェンスは罠にかかる前にノーマークの選手にパスを捌かれてしまうか、罠を食い破ってそのまま自ら決めてしまうかで全く機能していなかった。

 

「ハァ…ハァ…!」

 

膝に手を付きながら肩で息をする伊達。その表情はもう戦意を失っていた。中学での実績を買われ、栃木の強豪、大仁田にスカウトされ、1年生ながらエースと言う大役を任された伊達。しかし、インターハイでは陽泉相手に何も出来ず、今日も空を相手に完全に抑えられている。

 

「…っ」

 

もはや考える事は早く試合が終わってほしい。一刻も早くコートから立ち去りたい。それだけであった。

 

「…随分としけた面してんな」

 

そんな伊達に空が話しかける。

 

「如何にももう諦めましたって言わんばかりの顔だな」

 

「…っ」

 

胸中を読まれた伊達は動揺する。

 

「良いのか? 諦めちまって…」

 

「…」

 

「お前の先輩達は、まだ試合を投げ出しちゃいないぜ?」

 

「…えっ?」

 

その言葉を聞いて伊達が周囲を窺う。

 

「ハンズアップ! ハンズアップ!」

 

「声出せ! 声掛け忘れるな!」

 

選手同士、檄を飛ばし合う大仁田の選手達。もはや勝敗は決した言っても過言ではない。それでも未だ戦意は失われていなかった。

 

「他の奴らは誰1人下を向いていない。なのに、エースのお前が真っ先に試合を投げ出すのか?」

 

「っ!?」

 

その言葉に伊達の表情が強張る。

 

「先輩達…」

 

誰1人として顔を下げず、前を向いている伊達の先輩達。

 

「…っ」

 

それを目の当たりにした伊達の表情に再び戦意が溢れだした。

 

「下さい!」

 

伊達がボールを要求する。

 

「頼む!」

 

すかさずそこへパスを出した。

 

「…」

 

「(…いいね、どうやらやる気を取り戻したみたいだな)」

 

吹っ切れた伊達の表情を見てほくそ笑む空。

 

「おぉっ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

咆哮と共に伊達が一気に加速、仕掛ける。

 

「…あの10番(伊達)、ここに来てスピードとキレが戻りやがった!」

 

先程までと様子が違う伊達に気付くベンチの菅野。

 

「(いや、戻っただけじゃない、むしろ…)」

 

大地も変化した伊達の姿に気付く。

 

そのままリングに向かって突き進み、リングに向かって飛んだ。

 

「やる気出してくれて何よりだ。…だがな、点までプレゼントしてやるほど、こっちもお人好しじゃないぜ!」

 

伊達がシュート体勢に入ると、すぐさま空がブロックに現れ、シュートコースを塞いだ。

 

「(っ!? やっぱり俺ではこの人から点は取れない…!)」

 

改めて力の差を痛感する伊達。

 

「(点が取れないなら!)」

 

ここで伊達はボールを下げ、シュートを中断。パスに切り替えた。

 

「キャプテン、打てます!」

 

「…っ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

言われるがまま、ジャンプショットを決めた。

 

「ディフェンス、1本止めましょう!」

 

ディフェンスに戻りながら伊達が檄を飛ばす。

 

『伊達…』

 

そんな伊達の姿に心を揺り動かされる大仁田の選手達。確かに今の時点で戦意は失っていなかった。だがそれは、ユニフォームを着て試合に出場している事の義務感と高校最後の試合を後悔する形で終わらせたくないと言う感情によるもの。勝利は既に諦めていた。

 

「……フッ、うちのエースがまだ頑張っているんだ。残り時間、一泡吹かせてやろうぜ」

 

『おう!!!』

 

エースの伊達に感化された大仁田の選手達の闘志に火が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「させるか!」

 

「っ!?」

 

伊達が竜崎のシュートをブロックする。

 

大仁田の選手達の動きが変わった。オフェンスでは代名詞であるパスワークに加え、ポジション関係なくスクリーン等を駆使してチャンスを作る。

 

「頼みます!」

 

エースの伊達も、自ら得点出来ないまでもスクリーンやアシストを駆使して得点を演出していた。

 

『良いぞ大仁田!』

 

『最後まで頑張れ!』

 

当初は結果の見えた試合に感心を失っていた観客だったが、いつしかその奮闘する姿を見て観客が大仁田の選手達にエールを贈っていた。

 

 

第4Q、残り7秒。

 

 

花月  90

大仁田 58

 

 

ボールは伊達が保持している。この試合、最後となるプレー。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

伊達が仕掛ける。

 

「行かせ――」

 

追いかけようとする空。しかし、そこには大仁田が仕掛けたスクリーンが。

 

「あめー、そんなのに俺が――っ!?」

 

スクリーンをかわす空だったが、かわした先にさらにスクリーンがあり、かからないまでも減速してしまう。

 

『決めろ、伊達!!!』

 

「おぉっ!」

 

ラストプレー、伊達がボールを掴んでリングに向かって飛ぶ。

 

「させん!」

 

そこへ、松永がヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。

 

「…っ」

 

 

――スッ…。

 

 

伊達はボールを下げ、松永のブロックを掻い潜る。

 

 

――バス!!!

 

 

掻い潜った後に再度ボールを放り、ダブルクラッチで得点を決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴り、試合が終了した。

 

 

試合終了

 

 

花月  90

大仁田 60

 

 

「っしゃっ!!! 準々決勝進出だ!!!」

 

ベンチで菅野が歓喜の声を上げる。他の選手達やマネージャーも勝利を喜び、上杉は頷いていた。

 

「やった!」

 

「おう」

 

生嶋と松永がハイタッチを交わす。

 

「よーやった!」

 

「はい!」

 

天野が竜崎の背中を叩きながら労い、室井は静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

整列が終わり、両校の選手達がベンチへと戻っていく。

 

「あの!」

 

「ん?」

 

その時、大仁田の伊達が空に話しかけた。

 

「ありがとうございました!」

 

空の前に立った伊達は空に頭を下げながら感謝の言葉を述べた。

 

「神城さんが発破をかけてくれなかったから、俺、試合を投げ出してました。あの時、早く試合を終わらせてこの場から去りたい。それしか考えてませんでした」

 

「…」

 

「あそこで試合を投げ出してたら、一生後悔してたと思います。だから、ありがとうございました」

 

「俺はただ、戦う気がなくなった奴と試合したって面白くないから喝を入れてやっただけだよ」

 

感謝の言葉をかける伊達に対し、空は気恥ずかし気にしながら手をフリフリさせた。

 

「……エースで1番大事なのは、最後まで諦めないで戦い抜く事。そう思ってる」

 

「…」

 

「お前は最後まで諦めず、俺達に立ち向かった。それがチームに勢いと力を与えた。エースってのは、そうでなくちゃな。今日のお前や、うちのエースみたいにな。もっとも、今日は出番なかったけどな」

 

親指でベンチにいる大地を指差しながらニコッと笑う空。

 

「それが綾瀬さんなんですね。出来れば戦いたかったな」

 

儚げな表情で大地を見つめる伊達。

 

「次は一泡だけじゃない、勝ってみせます。今日はありがとうございました!」

 

「おう! 楽しみにしてるぜ」

 

そう言葉を交わし、2人は握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「お疲れ様です」

 

ベンチに戻った空に、大地がタオルを渡しながら労う。

 

「今日の試合、お前の出番がなかったな。ざまーみろ」

 

ケラケラと笑う空。

 

「何で嬉しそうなんですか…。どのみち、私は今日の試合を出るつもりなければ、出る展開にもならないと、そう思ってましたよ」

 

「何で?」

 

「それは、コートには頼れる司令塔がいるからですよ」

 

薄っすら笑みを浮かべながら言う大地。

 

「……サンキュ」

 

タオルで顔の汗を拭い、照れ隠しをする空。

 

「これで3つ目だ。頂点まで後3つだ。一気に突っ走るぞ」

 

「はい!」

 

2人は拳をコツンと突き合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――花月高校、3回戦突破…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月高校と大仁田高校の試合が終わり、次の試合が始まろうとしている。

 

「全員、準備は出来ているな?」

 

緑間が選手達に問いかける。

 

「当然っしょ。皆いつでも戦えるぜ」

 

高尾がその言葉に応えると、選手達も一様に真剣な表情で頷いていた。

 

「ならばいい。油断も驕りも慢心も全て捨て、コートに入る。では行くぞ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「皆、行くッスよ!」

 

黄瀬が選手達に声を掛ける。

 

「ワシにとっては最初で最後のウィンターカップじゃ。必ず勝つぞ!」

 

気合いの籠った声で三枝が返事をする。

 

「俺達や先輩達の悲願、今度こそ必ず達成する。行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

花月が無事3回戦を突破を果たした。

 

次にコートではこの日1番の目玉の対戦カードが行われる。

 

 

 秀徳高校 × 海常高校

 

 

歴戦の王者と青の精鋭が、ここに激突する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





と言う訳で、一気に花月の3回戦は終わりです。久しぶりに執筆が進み、この二次1番の文章量ながら週1投稿です…(^_^)/

そろそろ花月以外のキセキの世代同士の激突が始まりますが、メインが花月である為、どうしても描写は薄くなるかもですが、最後の大会なので、出来るだけ描写出来たらと思います。また、ネタ集めの為、投稿が空くかも…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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