黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

遂にゴールデンウイーク! ……だけど、このご時世ではねえ…(T_T)

それではどうぞ!



第157Q~弱点と奥の手~

 

 

 

第3Q終了

 

 

花月 47

緑川 64

 

 

第3Qが終わり、インターバルとなり、選手達がベンチへと戻っていく。

 

 

花月ベンチ…。

 

「ハァ…ハァ…! ぐっ!」

 

ベンチに辿り着くや否や、菅野が倒れ込むように崩れ落ちた。

 

「菅野先輩、大丈夫ですか!?」

 

その様子を見て慌てて竜崎が駆け寄る。

 

「心配…いらねえ。…と言いてえが、少し無理し過ぎちまった。…ハァ…ハァ…!」

 

手を振りながら無理やり笑みを浮かべる菅野。

 

「…っ」

 

駆け寄った竜崎が気付く。菅野は完全にスタミナ切れを起こしている事に。

 

「情けないのう。たかだか試合の半分しか出てへんのに。空坊と綾瀬を見習えや」

 

「うるせえ! こっちはアクセル全開で突っ走ったんだよ! 俺以上のスピードと運動量で1試合どころか延長戦まで走り抜けちまうあの2人が異常なんだよ!」

 

空と大地を引き合いに出して茶化す天野に対し、キレ気味に返した。

 

「菅野。ここまでよくやった。後は任せてゆっくり休め」

 

上杉が菅野の下に歩み寄り、声を掛けた。

 

「準備は出来ているな?」

 

「は、はい!」

 

声を掛けられ、帆足が返事をした。

 

「スガに代わって帆足を入れるんでっか?」

 

「あぁ」

 

意表を突かれた交代に天野が尋ねると、上杉は頷いた。

 

「残りは後10分だ。良いかお前ら。俺の話を良く聞け」

 

選手達の注目を集める上杉。最後の10分で試合をひっくり返す為の作戦を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

緑川ベンチ…。

 

「よっしゃ! 悪くねえぞ!」

 

ベンチに戻ってきた桶川が歓喜する。

 

「まだ試合を決定付けられる程の点差ではないぞ」

 

呆れ顔で城嶋が桶川を諫める。

 

「みんな、点差はあるが、第4Qも変わらず点を取りに行こう」

 

「だな。ここで点差を守りに入ったらみすみす向こうを勢いづけるだけだからな」

 

一ノ瀬が注目を集め、これまでどおり点を取りに行く事を提案すると、荻原が賛同する。

 

「全国行ってキセキの世代を相手にするんだからな。もっと派手に行かないとな」

 

桶川も頷いた。

 

「こんな所で足踏みしてられないんだ。一気に畳みかけてトドメ刺してやろうぜ!」

 

井上は立ち上がりながらそう叫んだ。

 

「俺達の3年間と、荻原と井上の思いを最後の10分にぶつけてやろうぜ」

 

続くように城嶋が言った。

 

「ガンガン攻め立てて俺達の力を見せつけてやろうぜ!」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

インターバル終了のブザーが鳴り、両校の選手達がコートへと戻ってきた。

 

『来た!!!』

 

全国出場を賭けた最後の10分が始まり、観客達も注目を集めている。

 

「行くでぇっ!!!」

 

『おう!!!』

 

天野の号令に他の選手達が続く。

 

「行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

対して緑川は一ノ瀬の号令に続いた。

 

 

OUT 菅野

 

IN  帆足

 

 

「(9番(菅野)が下がったのは分かる。だが、何故12番(帆足)なんだ?)」

 

この交代に疑問を覚える一ノ瀬。

 

「てっきり、11番(室井)を戻してくるかと思ったが…」

 

同じく城嶋も疑問に感じていた。

 

「この局面に出して来たって事は何かあるって事だろ? 引き続き俺がディフェンスするよ」

 

菅野との交代と言う事で荻原がディフェンスに名乗り出たのだった。

 

 

「…」

 

審判から桶川がボールを受け取り、一ノ瀬にパスを出し、第4Qが始まった。

 

『っ!?』

 

緑川のオフェンスに入ると、緑川の選手達の表情が変わった。

 

「…ゾーンディフェンスか」

 

花月のディフェンスが変わる。マンツーマンディフェンスから2-3ゾーンディフェンスへと変わった。前を竜崎と帆足。後ろを生嶋、松永、天野が立った。

 

「らぁっ!」

 

「…っ」

 

ボールをキープする一ノ瀬に対し、竜崎が激しくプレッシャーをかける。

 

「…ちっ」

 

身体と身体がぶつかる程に激しい竜崎の当たりに嫌がる素振りを見せる一ノ瀬。

 

「舐めるな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「っ!?」

 

隙を突いて一ノ瀬が竜崎をかわし、中へと切り込んだ。

 

「(竜崎が前に出た事でスペースが出来た。打てる!)」

 

竜崎が前に出た事で前と後ろで隙間が出来、チャンスと見た一ノ瀬がボールを掴んでシュート体勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし次の瞬間、ボールを頭上に掲げようとしたボールを叩かれてしまう。

 

「残念やけど、打たせへんで」

 

「(天野!?)」

 

ニヤリと笑う天野。

 

「ナイスです。天野先輩!」

 

ルーズボールをすかさず帆足が拾う。

 

「よし、そ、速攻!」

 

そう声を出し、帆足はそのままドリブルを始めた。

 

「ちっ、行かせねえぜ!」

 

フロントコートに入った所で荻原が追い付き、立ちはだかった。

 

「…っ」

 

目の前に荻原が現れると、帆足は立ち止まった。

 

「(さて、どんなもんか、お手並み拝見させてもらうぜ!)」

 

両腕を広げ、ディフェンスに集中する荻原。

 

「…うっ」

 

荻原の放つプレッシャーに圧倒される帆足。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

パスターゲットを探そうと周囲に視線を向けたその時、荻原が帆足のキープするボールを叩いた。

 

「もらい!」

 

すかさずルーズボールを抑える荻原。

 

「(隙だらけだったから思わず狙ったけど、こいつ…)」

 

一見して罠かと思う程隙を見せていた帆足。試しに狙った結果、あっさりボールを奪えてしまった。

 

「(ドリブルは高いし足も遅い。こいつ、大した事なくないか?)」

 

荻原は今のやり取りで帆足の実力を計った。

 

「帆足先輩! 固くなり過ぎですよ。リラックスして下さい!」

 

そう告げると、すぐに竜崎がディフェンスに戻り、荻原の前に立ち塞がった。

 

「ご、ごめん!」

 

謝りながら帆足もディフェンスに戻った。

 

「…ちっ、一ノ瀬!」

 

ここで無理をせず、荻原は一ノ瀬にボールを渡した。

 

「おぉっ!」

 

ボールが一ノ瀬に渡ると、先程同様、再び竜崎が激しくプレッシャーをかけた。

 

「…っ」

 

明らかに嫌がる素振りを見せる一ノ瀬。目の前の竜崎を抜きさる事は容易いが、先程のスティールがチラつき、躊躇う。

 

「こっちだ!」

 

「頼む!」

 

そこへ桶川がボールを要求。そこへ一ノ瀬はパスを出す。

 

「もう打たせませんよ!」

 

「こんの…!」

 

桶川にボールが渡ると、生嶋はすぐさま膝を曲げさせないように足元に入り込み、ディフェンスをする。

 

「(うっざ! 足元でべったり付きやがるからシュート体勢に入れねえ! かと言って中に切り込んだらゾーンディフェンスに捕まっちまう!)」

 

生嶋のディフェンスのせいでスリーは打てず、中に切り込めば囲まれてしまう為、八方塞となる。

 

「こっちだ! 俺に持ってこい!」

 

「スマン! 頼む!」

 

ローポストに立った城嶋がボールを要求し、桶川はそこにパスを出した。

 

「させん!」

 

背中に張り付くように松永がディフェンスに付く。

 

「…ちっ!」

 

ポストアップで押し込もうとする城嶋だったが、松永は歯を食い縛って耐え、リングの近くへと押し込ませない。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スピンムーブで松永の背後に抜け、直後にボールを掴み、リバースレイアップの体勢で得点を狙う。

 

「打たせるか!」

 

しかし、松永がリングと城嶋の間からブロックに現れ、シュートコースを塞ぐ。

 

「(くそっ、このまま打ったらブロックされる!)」

 

シュートコースは完全に塞がれ、焦る城嶋。

 

「こっちだ!」

 

そこへ、中に走り込んだ一ノ瀬がボールを要求する。

 

「頼む!」

 

その声に反応した城嶋は何とかレイアップを中断し、一ノ瀬にパスを出した。ボールを受け取った一ノ瀬はすぐさまシュート体勢に入った。

 

「天野先輩、ブロックに間に合いますよ!」

 

「っ!?」

 

その時、後ろから竜崎の声が一ノ瀬の耳に入る。

 

 

――ガン!!!

 

 

この言葉に動揺したのか、一ノ瀬に放ったジャンプショットはリングに嫌われてしまう。

 

「ハハッ、もうけや!」

 

リバウンドボールを天野が抑えた。

 

「…くそっ」

 

苛立ち交じりに一ノ瀬が舌打ちを飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「さっきの天野のスティールに今のイージーミス…」

 

一連のプレーを見ていた上杉が唸るように言う。

 

「はい。これで確信に変わりました。間違いありません。一ノ瀬さんは、左目がほとんど見えないか、全く見えていません」

 

姫川が真剣な表情で断言した。

 

「第3Q最後の菅野先輩とさっきの天野先輩スティール。一ノ瀬さん程の実力者なら難なくかわせるはず。スティールされた時のあの表情。まるで見えていないかのようでした」

 

『…』

 

「気付かなかった。つまりは見えていなかったからかわす事が出来なかったんです」

 

「今のジャンプショットも、竜崎の声で死角を意識してしまい、動揺した。見えていればあんな声で動揺したりはしないからな」

 

続けて上杉が補足した。

 

「試合を振り返ってみると、オフェンスでアイソレーションを仕掛けてきたのは一ノ瀬さんが左側にいる時だけでした。あれはマッチアップの優位性からのものではなく、弱点となる死角を補う為。ディフェンスでも、右側から仕掛けられた時はディフェンスしていたのに対し、左側から仕掛けられた時はトラップディフェンスで後ろからの味方に任せていた」

 

さらに姫川は補足していく。

 

「あれだけの実力を持ちながら今日まで公式戦の出場機会に恵まれなかったのは、それが原因だったのだろう」

 

「…では、ここからは――」

 

「あぁ。司令塔の歯車が狂えばチーム全体の歯車が狂う。一ノ瀬を攻め立てるぞ」

 

そう宣言し、上杉が天野に合図を出すと、コート上の天野が頷いた。

 

「……あの」

 

その時、室井が声を上げた。

 

「それが有効な手段だと言うのは理解しています。ですが――」

 

「お前の気持ちは理解出来る。仮に神城がいたなら、絶対に従わなかっただろう」

 

「…」

 

「だが、今のうちにはそんな余裕はない。何せリードされているのだからな。バスケに限らず、勝負において相手の弱点、例え、それが不本意なものであっても、そこを徹底的に突くのは勝負の鉄則だ。負ければそれで終わりだ。チームのユニフォームを着ているなら、甘さは捨てろ」

 

「……はい」

 

上杉の言葉を聞いた室井は真剣な表情で頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(今ので恐らく俺の目の事は気付かれたな…)」

 

胸中で断言する一ノ瀬。

 

姫川の推測は当たっていた。一ノ瀬は左目が見えていない。帝光中時代はそのハンデを死に物狂いの努力でカバーし、結果を出し、帝光中が実力主義だった事もあり、3年時にキセキ世代の卒業後の帝光中の未来を憂いて後輩の指導の為に2軍に降りるまでは冷遇される事はなかった。

 

だが、緑川高校に進学し、当時の監督が一ノ瀬の目の事を知ると、その監督は一ノ瀬に試合はおろかレギュラーにすら指名する事もなかった。どれだけ実力を示そうと結果を出そうと偶然の産物と認める事はなかった。

 

「(まあいい。いつかは気付かれる事だ。やりようはある。あの9番(菅野)下がった今、花月のオフェンスは限られている。きっちり止めて確実に得点を重ねれば勝てる!)」

 

来るべき時が来ただけと一ノ瀬は気持ちを切り替え、ディフェンスに臨んだのだった。

 

「…」

 

ボールを運ぶ竜崎。

 

「(俺がマークしている限り、こいつ(生嶋)にスリーは打たせねえ。どんなに正確な飛び道具も、打たせなけりゃ怖くねえ!)」

 

生嶋をマークする桶川。これまで徹底マークで生嶋のスリーを封じている。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルしながらゲームメイクをしている竜崎。

 

「…っ」

 

その時、生嶋がカットの動きをし、自身をマークしている桶川を振り切ってフリーになろうとする。

 

「スクリーン!」

 

生嶋を追いかけようとした桶川の耳に荻原からの声を届く。

 

「…っ!」

 

桶川の目の前にはスクリーンをかけている帆足の姿があった。

 

「(スクリーンのかけ方があめーよ。そんなに引っ掛かって――)…えっ!?」

 

帆足のスクリーンをかわした桶川。次の瞬間、生嶋の姿を見失う。

 

「…ハッ!?」

 

桶川が振り返ると、左アウトサイドの深い位置で生嶋がフリーでボールを受け取っていた。

 

「…うん。良い景色だ」

 

そう呟いて生嶋はスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

放たれたボールはリングに触れる事無くその中心を潜り抜けた。

 

 

花月 50

緑川 64

 

 

「ええでイク!」

 

「はい!」

 

生嶋に駆け寄った天野とハイタッチを交わした。

 

「くそっ…」

 

「ドンマイ! 今のは仕方ねえ」

 

悔しがる桶川に対し、荻原が肩を叩きながら励ます。

 

「…」

 

今のプレーを見て、一ノ瀬は渋い表情をしていた。

 

代わって緑川のオフェンス。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「らぁっ!」

 

「っ!?」

 

ローポストでボールを受け取った城嶋。強引に押し込み、シュートまで持っていったが、松永がそのシュートを叩き落した。

 

「マツもええ調子やで!」

 

ルーズボールを拾った天野。すぐさま竜崎にボールを渡し、攻守が切り替わった。

 

「…」

 

天野からボールを受け取り、フロントコートまでボールを運んだ竜崎。

 

「っ!?」

 

先程同様、カットの動きで桶川を振り切ろうとする生嶋。それを追いかける桶川だったが、再び生嶋の姿を見失ってしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーになった生嶋が再びスリーを決めた。

 

 

花月 53

緑川 64

 

 

「桶川、大丈夫か?」

 

「…分からねえ。気が付いたら生嶋の姿を見失って…」

 

駆け寄った城嶋が問いかけると、桶川が戸惑いながら答えた。

 

「…1つ覚えがある。今のは誠凛の黒子の――」

 

「違うな」

 

1つの可能性に行き着いた荻原がそれを告げようとしたが、一ノ瀬が否定した。

 

「あれは観察眼と生まれついての影の薄さが組み合わさって初めて可能となるテクニックだ。彼(生嶋)がやった所で一瞬視線から外せる程度で見失うレベルのものは出来ないだろう」

 

「…だったら――」

 

「カラクリは何となくだが見えている。次で恐らく看破出来る。今はオフェンスだ。きっちり点を取っていけば問題ない」

 

何か言いたげだった桶川だったが、とりあえず一ノ瀬は話を中断し、目の前のオフェンスに集中させた。

 

「…まさか、花月にまだこんな隠し玉があるとはな」

 

ポツリと一ノ瀬は呟いたのだった。

 

 

「…」

 

ゆっくりとボールを運ぶ一ノ瀬。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フロントコートまで進み、竜崎がディフェンスにやってくると、すぐさまカットイン。中へと切り込んだ。

 

「囲め!」

 

天野の指示に従い、カットインした一ノ瀬の包囲する。

 

 

――ピッ!

 

 

しかし、一ノ瀬は完全に包囲される前にパスを出した。

 

「ナイスパス!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールを受け取った荻原がミドルレンジからジャンプショットを決めた。

 

 

花月 53

緑川 66

 

 

「ナイッシュー荻原」

 

「おう!」

 

ハイタッチを交わす一ノ瀬と荻原。

 

「オフェンスをきっちり決めれば向こうがどれだけ小細工をしてこようと関係ないんだ。俺が必ず得点を演出する。全員、集中しとけよ」

 

『おう!!!』

 

ディフェンスに戻りながら一ノ瀬が檄を飛ばし、他の選手達が応えた。

 

「…さすが、一筋縄では行かんのう」

 

ノーマークの選手に正確にパスを出され、思わず溜息が漏れる天野。

 

『…っ』

 

気落ちしかける花月の選手達。

 

「関係ないよ」

 

その時、生嶋が口を開く。

 

「向こうがどれだけ点を取ってきても関係ないよ。だって僕が必ずスリーを決めるから」

 

「生嶋…」

 

自信満々に言い放つ生嶋に、松永は頼もしさを感じたのだった。

 

 

代わって花月のオフェンス。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

再び生嶋が桶川にマークをかわし、スリーを決めた。

 

 

花月 56

緑川 66

 

 

「例えどれだけ向こうが点を取ろうとも関係ない。こっちは僕がスリーを必ず決めるんだから。そのうち必ず追い付ける」

 

フォロースルーで掲げていた左手を下げながら生嶋が言い放った。

 

『スゲー! スリー3連発だ!』

 

3本連続でスリーを決め、観客が沸き上がった。

 

「ちっくしょー、どうなってんだよ!」

 

相変わらず生嶋にマークを振り切られ、スリーを許してしまった桶川が頭を抱える。

 

「落ち着け。まだ追い付かれた訳ではない」

 

取り乱す桶川に駆け寄り、声をかける一ノ瀬。

 

「今のではっきりした。お前が生嶋の姿を見失うカラクリが見えた」

 

「分かったのか!?」

 

その事実に思わず桶川が詰め寄る。

 

「ああ。それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「分かったんスか?」

 

「あぁ。緑川の5番(桶川)が生嶋を見失ってしまう理由が分かった」

 

観客席の黄瀬。不自然に桶川が生嶋を見失う姿に首を傾げていたが、赤司がその全容に気付いた。

 

「12番(帆足)だ」

 

赤司がコート上の帆足を指差した。

 

「12番って、第4Qから試合に出て来たパッとしない選手スか?」

 

これまであまり印象に残る活躍をしていない帆足だけに黄瀬が怪訝そうな表情をする。

 

「彼(帆足)がブラインドの役割をこなしていたんだ」

 

「ブラインド?」

 

「帆足が桶川に対してスクリーンをかける。だがこれは生嶋のマークを引き剥がす為だけのものではなく、桶川の視界から生嶋を隠す為のものだったんだ」

 

まず、帆足が桶川にスクリーンをかけ、生嶋が帆足の身体で桶川の視界から消える位置に移動する事で一時的に姿を見失ってしまう。

 

「原理はこんな所だ。黒子のミスディレクションと違い、姿を見失うのはほんの僅かだ。だが、それだけあれば充分だ。スリーを打たせてもらえるほんの僅かな時間を稼げれば」

 

これまで桶川の徹底マークでスリーを打たせる機会は少なかったが、打てさえすれば生嶋なら決められる。

 

「なるほど。…けど、そんな有効な奥の手があるならなんでもっと早く切らなかったんスかね?」

 

もっと早くに切っていればここまで点差が広がる事もなかったと黄瀬は続ける。

 

「いくら有効な手でも、相手の動きや癖をある程度把握していなければあれは出来ない。それに、奥の手は文字通り奥の手、最後の切り札だ。ひとたび切ってしまえば後はない。切るにはここぞと言うタイミングで切る必要がある。最後のインターバル終了後の第4Q、切るタイミングとしてはベストだ。俺でもここで切っただろうな」

 

黄瀬の疑問に赤司は私見を交えて解説した。

 

「赤司っちならどう止めるッスか?」

 

「止めるだけなら簡単だ。帆足をマークしている荻原にスイッチすればいい。桶川以外には生嶋の姿は見えているのだから1番近い位置にいる彼なら追い付ける」

 

「なるほど。…あの様子だと、一ノ瀬っちも気付いたみたいッスね」

 

コート上で何やら集まって会話をしている緑川の選手達。ここからでは何を話しているかまでは分からないが、一ノ瀬が荻原に何かを説明している様子が見て取れた。

 

「(確かに、あれを止めるだけなら簡単だ。止める『だけ』なら…)」

 

赤司は試合の行く末に注目したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

緑川のオフェンス…。

 

 

――ピッ!

 

 

これまでの一ノ瀬を起点にしてのオフェンスから一変。絶えずボールを動かし、素早いパスワークでのオフェンスに切り替える。

 

「っしゃ!」

 

 

――バス!!!

 

 

シュートクロックが残り10秒になった所で井上がジャンプショットを決めた。

 

 

花月 56

緑川 68

 

 

「今のはしゃーない。オフェンスや。切り替えていくでぇっ!!!」

 

手を叩きながら天野がチームを鼓舞する。

 

「1本! 行きましょう!」

 

スローワーとなった松永からボールを受け取った竜崎が左手の人差し指を立てながら声を出し、フロントコートまでボールを運んだ。

 

「…」

 

フロントコートまでボールを進めると、竜崎は足を止め、攻め手を定める。

 

「…」

 

目の前には一ノ瀬が立ち、ディフェンスをしている。

 

「…」

 

荻原がチラチラと生嶋に視線を向ける。

 

『荻原。あの12番がスクリーンを仕掛けたらすかさずスイッチして生嶋のチェックに行け』

 

生嶋の姿を見失うトリックを一ノ瀬から簡単に説明を受け、その対処法として出された指示がこれだった。

 

「(タネが分かれば何て事はない。次は止めてやる!)」

 

胸中で意気込む荻原。

 

「…」

 

竜崎がボールを運び、少し経つと、帆足が動き始め、桶川にスクリーンをかける。同時に生嶋が左手アウトサイド、サイドラインとエンドラインが交わう位置に向けて走り出した。

 

「…っ! スイッチ!」

 

「任せろ!」

 

桶川の声に反応して荻原がすぐさま生嶋を追いかける。

 

「(よし、間に合う。シュート体勢に入る前に止めてやる!)」

 

スリーの阻止を確信する荻原。

 

ボールをキープする竜崎がパスを出した。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、緑川の選手達が一斉に目を見開いた。ボールは生嶋ではなく…。

 

「よし!」

 

先程スクリーンをかけた帆足へと渡った。

 

「なっ!?」

 

生嶋を追いかけた荻原が思わず声を上げながら振り返る。

 

右45度付近。スリーポイントラインの僅か外側でフリーでボールを掴んだ帆足はそこからボールを構え、シュート体勢に入り、ボールをリリースした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『っ!?』

 

ボールはリングを潜り抜けた。

 

 

花月 59

緑川 68

 

 

『キタ! 4連続スリー!!!』

 

『遂に点差が一桁だ!!!』

 

「(こいつ、ドリブルは下手くそだけど、今のはスリーは…!)」

 

今のスリーを見て何かを感じ取った桶川。

 

「なに狐に鼻つままれた顔してんねん」

 

驚いている緑川の選手達を見て天野が口を開く。

 

「これでもこいつは経験者も逃げ出すウチで死に物狂いで練習してきた奴や。舐めとったらあかんで」

 

帆足の肩に手を置きながら天野が告げた。

 

「……ふぅ。一筋縄では行かないと言う訳か」

 

深い溜息を吐きながら一ノ瀬は一言漏らしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

最後の10分が始まり、花月が早々に奥の手を出した。

 

生嶋と帆足の活躍によって点差は遂に9点差にまで詰め寄った。

 

たった1つの全国への切符をかけた激闘は、クライマックスを迎えようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





この話で試合終了まで行きたかったんですが、思いのほか長くなったのでここで一旦切りました。次話にて試合終了まで行けたらと思います…(>_<)

思い切って原作キャラを登場させたのはいいんですが、ほとんど掘り下げが出来ていないので、……どうしようかな…(;^ω^)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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