黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

花粉症に悩まされるか薬の副作用で眠気に悩まされるか…(>_<)

それではどうぞ!



第153Q~難敵~

 

 

 

「思わぬ伏兵が現れたのう…」

 

準決勝が終わり、学校の部室へと戻った花月の選手達。決勝の相手である緑川高校と松葉高校の試合の映像を見ながらスカウティングをしていた。

 

「あの松葉があんな負け方するなんてな」

 

試合結果を見て菅野が神妙な表情をする。

 

静岡の強豪である松葉高校。空達の世代が加入する前は静岡は福田総合学園と松葉高校が覇権を握っていた。全国区の石田と灰崎が抜け、戦力ダウンした福田総合はまだしも、松葉は例年と変わらない実力を有しており、去年と今年の夏は全国出場を果たしていた。

 

「もともと、緑川高校はピュアシューターの桶川さんと好センターの城嶋さんを擁するチームで、他の選手は、悪い言い方をすれば県レベルのチームでした」

 

自身のノートを広げながら解説する姫川。

 

「しかしのう、この14番と15番は間違いなく全国レベルの実力者や。そやのに、この2人は今日まで静岡で見た事あらへん」

 

3年間静岡で戦ってきた天野も見覚えのない選手だった。

 

「……この2人、何処かで見た覚えが…」

 

「僕も。何処だっけな…」

 

松永と生嶋は記憶の何処かに覚えがあるのか、必死に記憶を巡らせている。

 

「…」

 

花月の選手達が緑川の研究をしている中、姫川はそっと部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「失礼します」

 

部室の隣の部屋の扉をノックした姫川は一声掛け、入室した。そこには上杉が椅子に座っていた。

 

「上杉監督、お願いがあります。神城君と綾瀬君を呼び戻して下さい」

 

入室すると、姫川は上杉にそう願い出た。

 

「決勝戦は神城君と綾瀬君抜きでは危険です!」

 

「…」

 

だが、上杉は沈黙を保っている。

 

「緑川の14番と15番ですが、見覚えがあったので調べてすぐに分かりました。14番は荻原シゲヒロさん、15番は井上智也さん。どちらも全中強豪校の明洸中学と上崎中学で1年生からエースだった選手です。監督もあの2人が加入し、緑川高校が勝ち上がってくることは想定外だったのではないですか?」

 

姫川自身も、空と大地の帰国が12月と聞かされた時、驚きはしたが、それでも勝ち上がれると踏んでいた。緑川高校の試合を見るまでは…。

 

「お願いします。2人を帰国させて――」

 

「ダメだ」

 

しかし、上杉は姫川の言葉を遮るように言った。

 

「ここであいつらを呼び戻してしまっては12月まで留学を伸ばした意味がなくなる」

 

「監督…」

 

「決勝戦、勝てなければウィンターカップも勝てん。今度こそ頂点を取る為に、この局面、乗り切らなければならん」

 

決意に満ちた表情で上杉は宣言したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「お前ら、もう1度、決勝の相手である緑川のスカウティングを始めるぞ」

 

部室に戻ってきた上杉と姫川。部室のテレビの前にやってきた上杉がリモコンを操作し、試合をティップオフまで戻した。

 

「まずは5番、桶川文吾さん。ポジションはシューティングガード。アウトサイドシュートを得意としている緑川の得点源の1つです」

 

紹介された5番の選手がスリーを決めた。

 

「かなり打ち込んでるね。体幹もしっかりしてるから多少のディフェンスでは簡単には外してこないだろうね」

 

同じシューターである生嶋がそう評価する。

 

「外を決められるとチームを勢いづかせるきっかけとなる。…生嶋、責任重大だぞ」

 

「任せてよ。止めてみせるよ」

 

松永に促され、生嶋は頷いた。

 

「次に6番、城嶋則之さん。ポジションはセンター。緑川のゴール下を支えるインサイドの要です」

 

映像ではターンでディフェンスをかわし、ゴール下を決めた。

 

「見た所、技巧派センターですね」

 

身体をぶつけるパワー勝負よりテクニックとスピードで攻めるパターンが多い事から竜崎がそう分析する。

 

「…」

 

室井が言葉を発する事無く城嶋を観察している。もしセンターとしてスタメン出場したならマッチアップするのは室井。相手はキャリアの短い室井の苦手とする技巧派タイプの選手。

 

「なかなかやりよるな。ゴール下での駆け引き、テクニックは相当や。ムロやと荷が重いかもしれへんな」

 

単刀直入に天野が言った。

 

「もしかしたらまっつんが相手をする事になるかもしれないね」

 

「ああ。肝に銘じておこう」

 

松永は自分がマッチアップを想定し、プレーを観察した。

 

「今年のインターハイ静岡県予選までは外の桶川さんと中の城嶋さんの二枚看板のチームでした。ですが、今回は新たに2人の新戦力が加わっています」

 

映像に14番のユニフォームを着た選手が映し出される。

 

「初めに14番から。荻原シゲヒロ。スモールフォワード」

 

相手チームのパスをスティールし、そのまま速攻、レイアップを決めた。

 

「ええ選手やな。際立って身体能力が高いわけでも高さがあるわけやない、テクニックもまあ全国標準レベルやが、ここ一番の勝負強さはかなりもんやな」

 

イチかバチか自身のマークを外してスティールを狙い、結果ボールを奪い、得点に繋げた。

 

「声もよー出とる。こないな奴が1人いるだけでチームは活性化しよるからのう。こいつ乗せたらエライ目に合うで」

 

「ある意味、決勝はこいつを如何に黙らせられるかが勝敗を左右するかもしれないな。要注意だ」

 

県予選ではスモールフォワードで試合出場している松永。自分がマッチアップする可能性もあるので、気を引き締めた。

 

「次に15番、井上智也。パワーフォワード」

 

ボールを受けると、ドライブで一気にカットイン。そのままダンクを決めた。

 

「こいつ、ポジション4番の癖に1ON1スキルスゲーな」

 

抜群のドリブル技術に菅野が称賛する。

 

「高さもあるし、全国レベルで見てもエース級の実力者だね」

 

生嶋も実力の高さを評価した。

 

「14番と15番。どっちもかなりの実力者やな。何で今まで静岡県内だけでも知れ渡っとらんかったやろな」

 

「14番の荻原さんは高校2年生の夏に緑川高校に転校したので静岡での試合出場記録がなく、1年時の時も、調べてみたのですが見つかりませんでした。15番の井上さんは、バスケ部に入部したのが今年のインターハイ静岡県予選後だったので、同じく記録はありません」

 

「どっちも高校入って公式戦に出てねーのか」

 

姫川の説明に頷く菅野。

 

「ですが、中学時代はどちらも結果を残しています。荻原さんは2年時に全中ベスト4。3年時には準優勝しています。井上さんは1年時にベスト4、2年時にベスト8で帝光中に敗れていますが、1年時にまだ才能が大きく開花する前だったとはいえ、あの青峰さんと互角の勝負をしています」

 

「っ!? あの青峰とかいな…」

 

この情報に天野は素直に驚いていた。

 

「…思い出した。この2人、明洸中と上崎中のエースだった人だ」

 

ここでようやく生嶋が辿っていた2人の記憶に行き着いた。

 

「っ! そうか、どおりで何処かで見た覚えがあるはずだ」

 

ここで全中出場経験のある松永も思い出した。

 

「明洸中と上崎中って言ったら、どっちも中学の全中強豪校じゃねえか! そこのエース張ってたならあの実力も頷けるな」

 

「どういう経緯でこの2人が緑川にいるかは分かりませんが、全国区の選手が揃った緑川は手強い相手です」

 

姫川はそう締めくくった。

 

「残りの1人はどないな感じなんや?」

 

スタメンで説明がない最後の1人の解説を求める天野。

 

「ポイントガードを務めるのはスタメンで唯一の2年生の北条勇さん。堅実でミスの少ないバスケをする選手です」

 

「…見た所、特筆してテクニックがある訳ではないな。他の4人に的確にパスを届ける選手か」

 

「見た感じ、大した事なさそうだな。決勝は竜崎にこいつの所から攻めさせるのもありじゃねえか?」

 

冷静に分析する松永。菅野は与しやすいと見て竜崎を吹っ掛ける。

 

「一理あるかもしれないですね。決勝では点も取っていきます」

 

乗せられたわけではないが、竜崎は分があると踏み、意気込みを見せた。

 

「…あれ? そう言えば、緑川って、監督がいないんですね」

 

インターバルでベンチの戻る緑川の選手達。そこに監督の姿はなく、1人の選手が出迎えた。

 

「緑川の監督はインターハイ静岡県予選終了後に監督を辞めたらしく、今は1人の選手が選手兼任監督を務めているみたいです」

 

緑川のベンチでは4番のユニフォームを着た選手がベンチに座る試合に出場している選手達の前に立ち、何やら指示を出している。

 

「誠凛も去年までは女子高生が監督してたが、現役選手が監督とは珍しいな」

 

このような感想を抱いた松永。

 

「なっ!?」

 

その時、竜崎が声を上げて立ち上がった。

 

「いきなりどないしてん!?」

 

突然声を上げた竜崎に天野が驚きながら尋ねる。当の竜崎は信じられない表情を浮かべている。

 

「まさか、あの人は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって神奈川、海常高校。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

既に全国出場を決めている海常高校は12月のウィンターカップ本選に向けて激しい練習に励んでいた。

 

「よし! 5分休憩だ!」

 

監督の武内が指示を出した。

 

「ふー」

 

黄瀬がタオルで汗を拭いながら一息吐いた。

 

「気合い入っとるのう!」

 

そこへ、三枝が隣にやってきた。

 

「三枝っち。そりゃ、高校最後の大会だし、国体で火神っち緑間っちには借りを返したッスけど、まだ返してない人がたくさん残ってるッスからウィンターカップで全員にお返しするッスよ!」

 

黄瀬がウィンターカップの意気込みを語った。

 

「そうか! だがまあ、怪我だけはするんやないぞ!」

 

バンバン! っと黄瀬の背中を叩く三枝。

 

「痛っ! 分かってるッスよ。もう怪我で泣くのは懲り懲りッスからね」

 

背中を叩かれて痛がりながら2年前の冬を思い出した黄瀬。

 

「そう言えばキャプテン、冬の県予選で花月の話、知ってます?」

 

そこへ、小牧がやってきて、黄瀬に尋ねた。

 

「何の事っスか?」

 

「何でも、神城と綾瀬が静岡県予選で試合出場どころかベンチにいなかったらしいんですよ。これ見て下さい」

 

小牧が持っていた月バスの雑誌を開き、黄瀬に見せた。

 

「……ホントッスね」

 

開かれたページにはウィンターカップ県予選の注目チーム特集であり、海常も特集されている。

 

「ふむふむ…、花月のキープレイヤーの空と大地が謎の欠場…、監督にインタビューするもノーコメント…。確かに、みたいやのう」

 

三枝が記事を読み上げる。

 

「怪我とか病気とか、そういうんじゃけりゃいいんですけね」

 

ライバル視している空と大地を心配する小牧。持っていた月バスをそっと閉じる。

 

「……ちょっと待った!」

 

月バスを閉じようとしたその時、何かを見つけた黄瀬が血相を変えて小牧から雑誌を奪い去るようにして再び開いた。

 

「…」

 

先程のウィンターカップ県予選の静岡の特集を見つめる黄瀬。

 

「……一ノ瀬っち」

 

記事の一角を見て何かを呟く黄瀬。

 

「どうかしたのか?」

 

黄瀬の様子を見て三枝が尋ねる。

 

「……高校に進学してから影も噂も聞かなかったけど、まだバスケを続けていたんスね」

 

三枝の心配を他所に、黄瀬は何やら語り始めた。

 

「あの時、彼が俺に言った言葉。今なら良く理解出来る。あの時の事を謝りたいッスけど…、今更ッスよね」

 

自嘲気味に呟く黄瀬。

 

「?」

 

黄瀬の様子に戸惑いつつ小牧が雑誌に視線を移すと、そこには緑川高校の4番のユニフォームを着た選手が載っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

さらに場所は変わって緑川高校…。

 

「…あぁ、決勝まで辿り着いた。後1つ勝てば全国出場だぜ」

 

『頑張って下さい。出来れば応援に行きたかったんですが、その日はどうして行けなくて…』

 

「気にすんなよ! っとと、そろそろ休憩時間が終わりだ。それじゃ、12月に会おうぜ黒子!」

 

電話をしていた青年が電話を切った。

 

「よーシゲヒロ! もしかしてこれか?」

 

後ろから肩に腕を回し、小指を立てながらシゲヒロと呼んだ青年にニヤケながら尋ねた。

 

「いてーよ文吾! そんなんじゃねえよ、ダチに電話してたんだよ」

 

「何だ、つまらん」

 

回答を聞いて興味をなくす桶川。

 

「もうすぐ練習再開だろ? 早く体育館に戻ろうぜ!」

 

「だな」

 

荻原がそう促すと、桶川はそれに従った。体育館に戻ると、1人の青年がシュート練習をしていた。

 

「おい智也。休む時はしっかり休もうぜ」

 

休憩時間を削って練習をしていた井上に呆れながら注意を促す桶川。

 

「休んでなんかいられねえよ。ブランクもあるからな」

 

注意されるも当の本人はその手を止める事無くシュート練習を続けた。

 

「て言うか則之、お前もパス出ししてねーで止めろよ」

 

「言って止まるならそうしてるよ。オーバーワークにならないように見てんだろが」

 

ボールを拾って井上にパスをしていた城嶋に桶川が制止するように言うも、城嶋は呆れながらそう返した。

 

「井上、また休憩時間に練習してたのか? 感心しないな」

 

その時、体育館に新たな青年がやってきた。

 

『一ノ瀬!』

 

その場にいた者達がやってきた者の名を呼んだ。

 

「決勝は目前なんだ。今はコンディションを整える方に重点を置いてほしいんだけな」

 

「そう言われてもな、俺はバスケを4年近くも離れていたんだ。せめて全盛期の実力くらいは取り戻さねえと…」

 

「それについても言ったはずだぞ。お前は身体能力は成長期と合わさってお前の言う全盛期を超えているし、テクニックもとうにブランクを解消して中学時代を上回ってる。体力も特別メニューで1試合戦える程になっている。お前は既に全盛期を超えているってな」

 

「…イマイチ実感が湧かないんだがな」

 

一ノ瀬に説明されて尚も納得しない井上。

 

「まあまあ、うちの監督がそう言ってんだから、素直に聞き分けとけって」

 

「…分かったよ」

 

肩を叩きながら言う桶川が言うと、井上は渋々聞き入れたのだった。

 

「にしても、俺達が県予選の決勝までくるなんてな。入学当時からは考えられなかったよな」

 

しみじみと城嶋が呟く。

 

緑川高校バスケ部は静岡県でここ数年で頭角を現したチームで、徐々に力を付けるも松葉や福田総合学園と言った強豪校に及ばず、全国出場を逃していた。

 

「ま、全部あのバカ監督のせいだけどな。あいつさえいなけりゃもっと早く全国出れたんだよ」

 

桶川が苛立ちながら悪態を吐いた。

 

「そう言うな。あの人だって必死にやってただろ」

 

そんな桶川を一ノ瀬が諫める。

 

「今更庇う事ねえだろ。第一、一ノ瀬、お前が一番キレていいはずだぜ。あいつは最後までお前の実力を認めずに干し続けたんだからよ」

 

「…」

 

「挙句、インターハイの県予選終わってすぐに俺達裏切って他県の強豪校に転任しやがったしよ。グダグダ御託並べてやがったけど要はここ(緑川)より強いチームに行きたかっただけじゃねえかよ」

 

前任の監督に対し憤る桶川。

 

「あの監督が着任してウチが強くなったのは事実だ。それにもう終わった事だ」

 

あくまでも前任の一ノ瀬は監督を庇う。

 

「今はそんな昔の事より、先の事を見るべきだ。3年最後の大会でようやく全国出場が手の届く所まで来たんだぜ」

 

暗くなった空気を変えるべく、一ノ瀬は話題を変えた。

 

「だな。…正直、これだけのメンバーが緑川に揃った事は奇跡に近い」

 

周囲にいるメンバーを見渡す城嶋。

 

「文吾にはマジで感謝するよ。一度は入部を断られた俺を受け入れてくれただけじゃなくて、スタメンにまで抜擢してくれて」

 

荻原が自身をバスケ部に誘ってくれた桶川に礼を言った。

 

「お前程の実力者を戦力にしない手はねえよ。むしろ、手土産に智也を連れてきてくれた事に感謝するよ」

 

当社、転校の関係で入部が2年の終わりだった為、前任監督に断られたのだが、その前任の監督がいなくなった事で桶川が再度荻原を誘い、更に試合に出られるように部員全員に頭を下げて説得した背景があった。

 

井上も、当初は入部する意思はなかったのだが、荻原の説得を受けて一緒に入部したのだった。

 

「俺も感謝してるよ。一度はバスケを辞めて、二度とする気はなかった。けど、何処かで燻っていた。荻原が俺に声をかけてくれて、俺にはまだやらなきゃならない事があった事に気付かせてくれた」

 

「井上…」

 

「必ず全国に行って、『あいつ』の前に立たなきゃならない。例え、その結末がどうであれ、それをしなきゃ、俺のバスケは終われねえ」

 

何か思い詰めた表情をしながら井上が胸の内を語った。

 

「それでいい。ここにいるのは俺含めて本気で全国出場を目指したバスケ馬鹿共だ。高校最後の大会、県予選を突破して全国制覇してやろうぜ」

 

『おう!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「一ノ瀬京志郎。帝光中時代の2つ上のキセキの世代と同学年の先輩で、かなりお世話になった先輩です」

 

竜崎が緑川の選手兼任監督を務める一ノ瀬の説明を始めた。

 

「キャプテンと綾瀬先輩、それと天野先輩には話しましたよね。俺が帝光中にいた時の事」

 

「おう、もちろん覚えとるで」

 

インターハイに向けての夏合宿の折、竜崎と誠凛の新海、池永といざこざが合った際の事を思い出す天野。

 

「全中を優勝して、何とか責任を果たせましたが、新しい代の後輩の事が気掛かりで、けど何にもしてやれなくて、その時、たまたま帝光中に顔を出した一ノ瀬先輩と再会して、その事を相談したんです」

 

『…』

 

「一ノ瀬先輩は俺の話を親身になって聞いてくれて…『良く頑張ったな。俺に任せろ』って励ましてくれて、後は、あの時、話した通りです」

 

「ほー、あの時言うとったOBはこの緑川の選手兼監督やったんか」

 

「…さっきから何の話だよ?」

 

「後で話したるから今は口挟まんとけ」

 

話に付いて行けず、説明を求める菅野を制する天野。

 

「それだけじゃなくて、俺達の代は一ノ瀬先輩に指導してもらいました。3年の時に優勝出来たのはこの時の指導があったからです」

 

「お前って確か1年の時は2軍だったよな? ならこいつも2軍の選手なのか?」

 

映像を指差しながら菅野が尋ねた。

 

「俺が入学した時は2軍ではあったんですが、けどそれは、実力がなかったからではありません。…洛山にいた4人の帝光中のメンバーは覚えていますよね?」

 

「それはもちろん。忘れられる訳がないよ」

 

敗北を喫した相手である為、当然と答える生嶋。

 

「一ノ瀬先輩もまた、キセキの世代がいたせいで脚光を浴びる事が出来なかった悲運の実力者です」

 

「…つまり、こいつも洛山の4人と同格の実力者と言う訳か」

 

無冠の五将にも引けを取らない実力を有した洛山の4人の選手達。その手強さは手を合わせた松永自身が良く理解していた。

 

「いえ、違います」

 

しかし、竜崎は首を横に振った。

 

「一ノ瀬先輩に限って言えば、5人の中で頭1つ抜けています。もし、赤司先輩がいなかったら、一ノ瀬先輩がキセキの世代と呼ばれていてもおかしくない程の実力を有していると俺は思っています」

 

きっぱりと竜崎は断言した。

 

「…っ、他の4人にしたって手強いのに、そんな奴まで相手にしなきゃならないのかよ…」

 

「それも、神城君と綾瀬君抜きで…」

 

菅野と帆足が表情を曇らせながら弱音を吐いた。

 

「…それでも勝たなあかんねん。高校最後の大会、こんな所で終いは御免やで」

 

暗くなる部員達。それでも天野は勝利を渇望する。

 

「ですね。僕も、優勝はおろかキセキの世代と戦えずに終わるのは、嫌だな」

 

「当然だ。何としてでも勝つ」

 

生嶋も続き、松永もまた勝利を望んだ。

 

「…だな。こうなりゃとことんやってやるだけだ!」

 

「…俺も、まだ先輩達とバスケがしたいです!」

 

沈みかけていた菅野と帆足も顔を上げた。

 

「それでいい」

 

選手全員が勝利を目指して戦う意思を示すと、これまで沈黙を保っていた上杉が口を開いた。

 

「相手は強敵だ。だが、お前達はそれ以上の強敵と戦ってきたはずだ」

 

『…』

 

「お前達なら勝てる。ここまでお前達を鍛え上げてきた俺が保証してやる。県予選の最後の関門、突破するぞ!」

 

『はい!!!』

 

「もう一度最初から試合を見直す。各自、自分の相手となる相手の弱点や癖をその目でしっかり焼きつけろ」

 

上杉がリモコンを操作し、緑川と松葉の試合を最初から流したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

迫るウィンターカップ出場をかけた決勝戦。

 

竜崎から語られる緑川の切り札の存在。

 

そして戦いの舞台の幕が開けるその日は、やってきのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





懐かしのキャラが登場です…(^-^)

花月にとっての最大の難関。空と大地の不在のハンデは計り知れず…(>_<)

……とまあ、またまた大きな風呂敷を広げちゃいました…(;^ω^)

ちょっとリアルが少し大変になっているので、半ば現実を忘れる為に執筆活動に勤しんでいます。…マジで心身ともにヤバイかもなあ…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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