黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

アカン、花粉症がヤバい…(ノД`)・゜・。

それではどうぞ!



第152Q~試練~

 

 

 

『ハァ…ハァ…!』

 

花月の選手達が迫るウィンターカップの県予選に向けて猛練習を積んでいた。

 

「次は3ON3だ。各自配置に付け!」

 

『はい!!!』

 

監督の上杉の指示に選手達が大声で応え、移動する。

 

昨年はインターハイを優勝した事もあり、県予選は免除されたが、今年は準決勝で敗退してしまった為、県予選を勝ち抜かなければならない。そして、その道は決して平坦な道ではない。

 

「(勝ち抜く為には僕の役割は重大だ。何十本でもスリーを決めないと!)」

 

「(冬の県予選、必ずしも俺がセンターとは限らない。場合によっては3番も考えられる。ドリブルの練習も増やさなければ!)」

 

「(俺がどれだけリバウンド取ってどれだけ相手のエースを抑えられるかで試合はかかっとる。全部と取って全部止めるで!)」

 

「(多分、県予選は俺が司令塔を務める機会が増える。俺がチームを引っ張るつもりで戦う!)」

 

「(恐らく、俺の出番は増える。俺自身が成長しなければ!)」

 

選手達は鬼気迫る表情で練習に励んでいた。

 

『ウィンターカップの県予選は、神城と綾瀬抜きで戦う。全員、覚悟しておけ』

 

先日、上杉から告げられた言葉。アメリカに留学した空と大地は呼び戻さず、残ったメンバーだけで戦うと宣言した。つまり、絶対的な司令塔とスコアラー抜きで県予選を戦わなくてはならない。

 

ウィンターカップにおける、静岡県の出場枠はたった1つ。つまり、1つの負けも許されない。夏は全勝で突破したが、それは空と大地の力によるものが大きい。頼れる2人抜きで勝ち抜けるよう選手達は死に物狂いで練習に励んでいた。

 

「バスケ部内の空気が変わりましたね」

 

練習風景を眺めながら姫川がそう呟いた。

 

「そうでなくては困る」

 

「神城君と綾瀬君の帰国をウィンターカップ本選にまで伸ばしたのは2人はもちろん、花月全体の能力アップを促す事が理由ですよね?」

 

空が大地がいないとなれば県予選を勝ち上がるのは容易ではない。選手1人1人が更にレベルアップをしなければならない。

 

「それもある。1番の理由は意識改革をさせる事にある」

 

「意識改革?」

 

「インターハイで洛山に敗れたのは神城と綾瀬がキセキの世代に及ばなかったからだけではない」

 

選手達に視線を向ける上杉。

 

「先のインターハイ…。勝ち進むにつれて神城と綾瀬は成長していった。成長と共に他の者達は2人をより信頼するようになった。だが、結果として、これが敗因となってしまった」

 

「…敗因、ですか。しかし、チームの主将であり、司令塔でもある神城君とエースの綾瀬君が信頼されるのは当然なのでは?」

 

「あぁ。そのとおりだ。『信頼』ならば問題ない。だが、『依存』となれば話は変わってくる」

 

「依存…」

 

上杉から出た言葉を繰り返すように呟く。

 

「チームとは、選手1人1人が『自分がチームを勝たせる』と言う意識を持って初めてその力を十全に発揮される。窮地や勝負所で何かに縋る選択しか出来ないようでは力を発揮される事はない」

 

「…何故そうなってしまったのですか?」

 

花月の選手達は空と大地を筆頭にキセキの世代を倒す為、練習が地獄だと有名な上杉が監督を務める花月に来た。今日までバスケ部に残った者達にはチームを勝たせる強い覚悟があるはず…。

 

「キセキを冠する者達の才能に触れてしまったからだ」

 

上杉の口から答えが出る。

 

「大きすぎる才能は知りたくもない自分の才能に気付かされる。何度も手を合わせるうちにその力の差を嫌と言う程思い知らされる」

 

「…」

 

「キセキの世代の圧倒的な才能に触れて神城と綾瀬がその才能を開花させた。そして開花した2人の才能に追従するかのようにキセキの世代もその才能をさらに引き出した。共鳴するように互いに刺激し合ってキセキを冠する者達は高みへと昇っていき、結果、キセキ以外の者達はその高みに付いていく事が出来なくなった」

 

「…っ」

 

姫川の表情が歪む。自身も妃由香里と言う圧倒的な才能によって身を滅ぼしてしまった経験があるからだ。

 

「それが特に顕著に出たのは国体だった。東京選抜はキセキの世代の緑間とその緑間と同等の資質を持つ火神を筆頭に選手層と総合力ならば選抜チームの中でトップだった。だが、急造チームだけに付け入る隙もあった。花月を主体にした静岡選抜ならばもっと競った試合が出来たはずだった。だが出来なかった…」

 

「…」

 

「既に心が敗北していたからだ。先のインターハイで神城と綾瀬抜きではキセキの世代には敵わないと…。故に、国体では力を出し切れず、不甲斐ない結果となった」

 

「……分かる気がします」

 

酷評する上杉。姫川も同意なのか、頷いていた。

 

「今の現状では例えあいつら(空と大地)が強くなって帰って来たとしても夏の二の舞となる。さっきも言った2人への依存に加え、夏以降の選手達には決定的に足りないものがあったからだ」

 

「足りないもの…」

 

「危機感だ。神城と綾瀬に期待し過ぎるあまり、どいつこいつも気が緩んでいた。キセキを擁するチームはキセキ頼りのチームではない。夏も、自分達の役割をこなしつつチームを勝たせようとしていた。今のチームの状態では戦う以前の問題だ」

 

「…」

 

「敢えて神城と綾瀬抜きで戦う事で危機感を促し、県予選大会を自らの力で勝ち抜いて全国を決める事でチーム全体の能力アップを促すと共に無くしかけている自信を取り戻させる。正真正銘、最後のキセキとの戦いに勝つ為に…」

 

並々ならぬ決意で上杉が口にする。

 

「私も力になります。もう、悔しさで涙を流すのは嫌ですから」

 

姫川も上杉の決意に応えるように言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

主将とエース抜きで県予選を戦うと告げられてから花月の選手達は練習に没頭した。2人抜きで勝ち上がるのは容易な道のりではない事もそうだが、アメリカで今も死に物狂いで練習をしている2人に負けてウィンターカップには出られませんでしたとは言わない為に…。

 

 

――ガン!!!

 

 

「おぉっ!」

 

「くっ!」

 

リングに弾かれたボールを天野が室井を抑え込んでリバウンドを制した。

 

「もっとボールの流れを見ーや! 後ポジション取りが甘いねん! それじゃどないパワーがあってもリバウンド取られへんぞ!」

 

「はい!」

 

ゴール下で天野が室井に厳しめに指導する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

「バカ野郎、あっさり抜かれてんじゃねえぞ! そんなザルじゃどんなに点取れてもそれ以上に取られちまうぞ!」

 

生嶋を抜きさった菅野が檄を飛ばす。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

「…っ! …っ!」

 

並んだカラーコーンの間を松永がドリブルで駆け抜けていく。

 

「ぜぇ…ぜぇ…! 帆足先輩、後10本行きましょう!」

 

「あ、あぁ!」

 

走り込みをしている竜崎と帆足。竜崎が声を出し、帆足が応えた。

 

冬の県予選は目の前。迫る激闘を前に選手達は最後の追い込みをかけていた。

 

「…」

 

練習風景を見つめる上杉。手に持っているボードを見つめながら考える。考えているのは県予選を戦うにあたってのスタメンである。

 

「…」

 

無論、相手に応じてスタメンを変えて試合に臨むが、それでも主軸である5人は決めなければならない。

 

「…うむ」

 

選手の名が書かれたシールが貼られたマグネットを見ながら唸り声を上げる上杉。

 

「(パワーフォワードの天野は外せん。これは決まりだ。シューティングガードも、少々ディフェンスに不安があるが、生嶋でいいだろう…)」

 

マグネットを置きながら次々とスタメンを重ねていく。そして考えるのは残りのポジション。

 

「(ポイントガードは、竜崎しかいない。経験の浅さがネックとなるが、帝光を率いた経験に加え、物怖じしない度胸の強さがある…)」

 

決まっていくスタメンのポジション。最後に悩ませるのはスモールフォワードとセンターだ。本来のスタメンである松永をセンターに置いた場合、スモールフォワードは菅野に置く事になる。だが…。

 

「…」

 

ここで上杉の視線が室井に向く。

 

「…っ!」

 

天野や松永を相手に必死に食らいついてディフェンスをしている姿が目に映った。

 

「(室井の成長も著しい。曲がりなりにも全国屈指のセンターである紫原と三枝とマッチアップした経験もある…)」

 

センターに室井を置いた場合、松永はスモールフォワードに置く選択肢が出来る。だが、松永は過去にスモールフォワード経験があるが、それは3年以上も前の話であり、ブランクもある。現在、松永は急ピッチでドリブル技術を磨いているが果たして県予選までに間に合うか…。

 

「…」

 

県予選を現状のメンバーをどのように起用し、戦い抜くか頭を悩ませる上杉。月日は過ぎ去り、遂にその日はやってきたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「行くぞ、お前ら!」

 

『はい!!!』

 

会場の前で上杉の檄に応える選手達。

 

遂にウィンターカップ出場を賭けた県予選がやってきた。100を超える静岡県の参加校からウィンターカップに参加出来るのは1校。まさに狭き門である。

 

「とは言っても、俺達の試合は3回戦からなんですよね」

 

「あぁ。俺達はシード校だからな」

 

今年の夏にインターハイに出場した花月はスーパーシード枠に組み込まれているので1回戦2回戦は免除となっている。

 

「しっかり研究せんとな。俺らかて余裕は一切あらへんからな」

 

試合がない事に僅かに気が抜けてる帆足と菅野に緩やかに喝を入れる天野。花月の選手達は会場へと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーっ!!!』

 

試合が始まると、県予選ながら、観客はそれなりに入っており、歓声が会場を包み込んでいた。コート上では花月の初戦の相手になる2校が試合をしていた。

 

「第3Q入って点差が広がってきましたね。この分だと明日の相手は八重樫高校で決まりそうですね」

 

コート上で試合をしている2校。前半戦までは2点差とシュート1本分の点さであったが、第3Q入って八重樫高校がリードを広げ始めた。

 

「よー鍛えられとるのう。序盤から飛ばし気味の相手を淡々と受け止めてから相手がペースが落ち始めてから確実に流れをモノにしとる」

 

「そうですね。特定キーマンはいませんが、スタメン全員で点を取りに来るスタイルです。…ある意味やり辛いですね」

 

天野の分析に竜崎が頷いた。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで相手チームのセンターのファールがコールされた。

 

「決まりだな。これまであのセンターがチームを支えてきたが、ここで限界が来た」

 

「そうだね。これでファール3つ目。何より、もう足にきてる。これ以上は…難しいね」

 

今のファールで試合の流れが八重樫にある事を悟った松永と生嶋。

 

試合は花月の選手達の予想通り、八重樫高校が74対61で勝利した。これにより、花月の初戦の相手が決まったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

翌週…、遂に花月の冬の県予選の初戦の日がやってきた。

 

『…』

 

控室では既にひと通りの準備が終わり、各自、試合に備えていた。

 

「便所行って来るわ」

 

天野が立ち上がると、そう言って控室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「(…でーへんな。さっき行ったしのう…)」

 

トイレの個室に入った天野。

 

「(柄にもあらへんな。まさか、おったらおったで世話焼かされるあの2人がおらんだけでこうなるとはのう…)」

 

主将とエース不在の冬の県予選。コートリーダーと同時にチームのムードメーカーを担う天野が過去最大に緊張していた。

 

負ければその瞬間、天野は引退。チームはキセキの世代の最後の戦いが出来ず、空と大地は事実上、留学が無駄となる。

 

「(あーアカンアカン。出れるもんでーへんのに嫌な事ばかり出てくるわ。さっさと切り替えて――)…ん?」

 

その時、トイレに新たな来客がやってきた。

 

「あーあ、よりにもよって花月が相手かよ。せっかくここまで勝ち上がったのによー」

 

「だよなー」

 

「(……八重樫の連中か?)」

 

会話の内容から入って来たのが八重樫の選手だと断定する天野。

 

「おい聞いたかよ!」

 

「(うるっさいのう…)」

 

その時、新たにやってきた八重樫の選手の声にイラつく天野。

 

「花月のメンバーに神城と綾瀬いないらしいぜ!」

 

「ハッ? どういう事だよ?」

 

「相手のメンバー表に神城と綾瀬の名前がなかったんだってよ」

 

嬉々として報告する八重樫の選手。

 

「いないって、怪我でもしたのか?」

 

「知らねえ。とにかく今日の試合には出てこない事は確定だぜ」

 

「マジかよ! じゃあ今日楽勝じゃん!」

 

「だよな! 花月なんてあの2人以外知らねえし」

 

「今日は20点差は目標しないとな」

 

「30点だろ」

 

八重樫の選手達は足取り軽やかにトイレを後にしていった。

 

「……言いたい事言ってくれたのう」

 

声を殺しながら個室にいた天野。

 

「ここまで舐められるとけったクソ悪いわ。やったろうやないかい!」

 

自身を侮る発言をした八重樫に敵意を爆発させた天野だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

時間は進み、遂に花月の試合の時間がやってきた。

 

「初戦だ。特に指示はない。存分にやって来い」

 

『はい!!!』

 

上杉から指示が出ると、選手達は大声で応えた。

 

「みんな、ちょい集まれや」

 

天野が選手達を集める。

 

「どうやらのう、花月は空坊と綾瀬のチームらしい。さっき便所行った時、連中言っとったわ。空坊と綾瀬おらんかったら花月は楽勝やってのう」

 

『…っ!』

 

先程のトイレでの会話の内容を天野が話すと、花月の選手達の顔色が変わった。

 

「奴等、どないする?」

 

「決まってんだろ! ぶっ潰すんだよ!」

 

即座に菅野が答えた。

 

「だね。くーとダイは頼りにしてるけど、…これにはカチンときたね」

 

「あぁ。目のもの見せてやらんとな」

 

生嶋と松永も目の色を変えて答える。

 

「やってやりましょう! 俺達の強さを思い知らせてやりましょう!」

 

「同意見です」

 

竜崎と室井も同様であった。

 

「ほな決まりや。…行くで!!!」

 

『おう!!!』

 

円陣を組みように集まった花月の選手達は天野の掛け声に応え、スタメンに選ばれた選手達はコートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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コート内のセンターサークル内に集まる花月と八重樫の選手達。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番SF:松永透  196㎝

 

10番PG:竜崎大成 183㎝

 

12番 C:室井総司 188㎝

 

 

『神城と綾瀬がいないぞ?』

 

『ベンチにもいない、どうなってんだ?』

 

『おいおい、あの2人を見に来たのに…』

 

観客席から空と大地がいない事に戸惑いと落胆の声が飛び交う。

 

「これより、花月高校対八重樫高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

整列が終わると、八重樫の主将が天野の前に歩み出た。

 

「よろしく。神城と綾瀬のいない静岡王者さん」

 

小馬鹿にするかのような表情で手を差し出す八重樫の主将。

 

「おう。よろしゅー頼むで」

 

「…っ!」

 

天野は不敵な笑みを浮かべながらその手を掴むと、力一杯握った。八重樫の主将は表情を歪めながら手を慌てて引っ込めた。

 

「…」

 

「…」

 

センターサークル内にジャンパーである松永と相手選手が残る。

 

「…」

 

審判が2人を交互に見渡し、ボールは高く上げられた。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ」」

 

同時に両校のジャンパーがボール目掛けて飛んだ。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールは松永が相手選手の上で叩かれた。

 

「ナイス松永先輩! 1本、行きましょう!」

 

叩かれたボールは竜崎がすぐさま確保し、すかさずボールを運んだ。

 

「行かせるかよ1年坊!」

 

スリーポイントライン手前で相手選手が竜崎の前に立ち塞がる。

 

「…」

 

竜崎はボールを止め、右45度付近のスリーポイントラインの外側に立っている生嶋にパスを出した。

 

「…よし」

 

生嶋にボールが渡る。

 

「そいつにスリーを打たせんなよ!」

 

相手ベンチから指示が出て、ボールを持った生嶋に対してきつめに当たる生嶋のマッチアップの選手。

 

「ハハッ、スリーしかない相手だと楽でいいぜ」

 

フェイスガードでディフェンスしながら呟く相手選手。

 

「…」

 

生嶋は表情変える事無くそこから強引にスリーを放った。

 

「焦ったな、リバウンド!」

 

ムキになってやぶれかぶれに打ったと判断した生嶋のマッチアップの選手が声を出し、速攻に備えた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

『なっ!?』

 

しかし、ボールはリングに触れる事無く潜り抜けた。

 

「…ちっ、まあいいたまたまだ」

 

スリーを決めた生嶋に囁く相手選手。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

生嶋のスリーを皮切りに、試合は花月ペースで進められた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「もらうで、いったれ!」

 

相手選手のキープするボールを奪う天野。零れたボールをすぐさま天野が拾い、竜崎に渡す。

 

「さすがです。速攻!」

 

ボールを受け取った竜崎はそのまま速攻に走った。

 

「くそっ、これ以上やらせるかよ!」

 

竜崎に追い付いた相手選手がディフェンスに入る。

 

「(ここでパスしか出来ないようならキャプテンの代わりは務まらない!)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ディフェンスに道を塞がれるも竜崎はクロスオーバーからターンアラウンドで反転してディフェンスをかわし、そのままジャンプショットを決めた。

 

「くそっ!」

 

ターンオーバーからの失点に苛立ちながらスローワーがパスを出す。

 

 

――バチィィィィッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

「ちょっと熱くなり過ぎかな」

 

不用意に出されたパスを生嶋がカットする。そのままシュート態勢に入る。

 

「させるか!」

 

これを阻止する為に慌てて相手選手がブロックに飛ぶ。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、生嶋はシュートを中断。ボールを前へと弾ませながら落とした。

 

「ナイスパス!」

 

そこへ走り込んだ室井がボールを受け取り、リングに向かって飛んだ。

 

「叩き落してやる!」

 

相手センターがブロックに飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

 

――バキャァァッ!!!

 

 

「がっ!」

 

室井はブロックもお構いなしにそのままボースハンドダンク。相手を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

「ええでムロ!」

 

「うす」

 

得点を決めた室井の頭を掴みながら天野が労った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後も花月は八重樫を圧倒。終始相手にペースを握らす事無く戦った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了

 

 

花月  96

八重樫 41

 

 

危なげなく花月は初戦を突破した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も、花月は快進撃を続ける。続く2戦目、3戦目と順調に勝利を重ねていった。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

続く4戦目、準決勝…。

 

「…っ」

 

花月は苦戦を強いられていた。

 

相手は福田総合学園高校。かつては静岡県の最強の一角であったが、ここ1年以上は全国出場を逃している強豪校。この大会にかける思いは強い。

 

「自分のマークをしっかり確認せえ!」

 

天野が指示が飛ぶ。スタメン全員が3年生の福田総合はパスを中心に攻め立て、得点を重ねている。

 

「あっ!?」

 

 

――バス!!!

 

 

室井の背後を取った福田総合のセンターがゴール下を決めた。

 

「くそっ…」

 

「ドンマイ」

 

悔しがる室井を励ます生嶋。

 

第1Q、第2Qこそ生嶋と松永を中心に得点を重ね、リードを保ってきた花月だったが、第3Qに入って福田総合が対応し始め、徐々に点差を詰められていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

そして試合時間、残り15秒、花月は逆転を許してしまう。

 

『よーし!!!』

 

逆転に成功した福田総合の選手達は喜びを露にする。

 

「(落ち着け…、こんな時だからこそ落ち着くんだ。残り時間はまだ充分にある。逆転するには充分だ)…スー…フー…」

 

ボールを受け取った竜崎は落ち着くよう自問自答した後、深く深呼吸をし、ゆっくりボールを運び始めた。

 

「時間ねえぞ、早くボールを運べ!」

 

残り時間がなくなっていく焦りでベンチの菅野が声を出す。

 

「黙っていろ菅野」

 

そんな菅野を上杉が諫める。

 

「…」

 

残り時間が10秒を切り、竜崎が花月の選手達に視線を向けながらゲームメイクをする。その時…。

 

 

――スッ…。

 

 

松永が竜崎の下に直接ボールを受け取りに走る。

 

「打たせるな!」

 

指示と同時に松永をマークする選手が松永を追いかける。松永が竜崎とすれ違い様…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

竜崎はボールを渡そうと差し出した手を引っ込め、中に切り込んだ。

 

「読めて――っ!?」

 

予測したプレーであった為、相手選手が竜崎を追いかけようとしたが、何かにぶつかった。

 

「通さへんぞ」

 

天野がスクリーンをかけており、竜崎の追走を阻んだ。竜崎はそのまま切り込み、フリースローラインを越えた所でボールを掴み、シュート体勢に入った。

 

「させるか!」

 

「勝つのは俺達だ!」

 

次の瞬間、竜崎の後ろからブロックが2人現れた。2人共、竜崎のシュートコースを塞ぐようにブロックに飛んだ。

 

「うわぁ!?」

 

この状況にベンチの帆足が悲鳴を上げる。

 

「…」

 

しかし、竜崎は動じる事無く、予測の範囲内だったのか、頭上に掲げたボールを下げ、前へと落とした。

 

「「っ!?」」

 

このプレーにブロックに飛んだ2人が目を見開いた。ボールはゴール下に走り込んだ室井の手に渡った。

 

『打てぇぇぇぇぇっ!!!』

 

花月のコート上の選手及びベンチから張り上げるような声が出る。

 

「おぉっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

声を上げながら室井がゴール下を決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴った。

 

 

花月   79

福田総合 78

 

 

「っしゃぁぁぁっ!!!」

 

ベンチの菅野が両拳を突き上げながら咆哮を上げる。

 

「やったね姫ちゃん!」

 

「うん。けど、まだ安心出来ないよ」

 

ハイタッチを交わす相川。姫川はハイタッチに応えつつ気を引き締めた。

 

「ナイスショット!」

 

ブザービーターを決めた室井に竜崎が飛び付く。

 

「あれくらい…」

 

恥ずかしながら室井は返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「勝てると思ったんだけどな」

 

「全国に忘れ物があるからのう、ここで負けられんよ」

 

センターサークル内に整列した選手達。右手を差し出す福田総合の主将と握手を交わす天野。他の選手達も握手を交わしていた。

 

「それはこっちも同じだが…、なら俺達分まで、勝てよ」

 

「任せとき」

 

そう言って、2人は手を放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「急いで荷物を纏めろ。すぐに隣の会場に移動するぞ」

 

上杉が指示を飛ばす。

 

「そうか、隣の会場では決勝の相手になるチームが試合してるんだよね」

 

荷物を纏めながら帆足が思い出す。

 

「何処と何処がぶつかっとるんやっけ?」

 

「松葉高校と緑川高校です」

 

天野が尋ねると、姫川が答えた。

 

「松葉はともかく、緑川は知らないな」

 

聞き覚えのない学校名に首をかしげる松永。

 

「緑川高校は今年の夏は予選のトーナメントの準決勝で福田総合学園に敗れてるわ。今年の夏を基準にするなら、松葉高校が決勝の相手になるかもしれないわ」

 

「ありがとう。…言葉通りなら、決勝の相手は松葉高校か」

 

「今日の福田総合と同じで、総合レベルの高い選手と抜群のチームワークで押してくるチームですから、手強いですね」

 

各々、決勝の試合相手の予想をしながら荷物を纏めていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く。

 

『…っ』

 

試合を終えて急いで隣の会場の試合観戦に向かった花月の選手達。その試合光景を見てその表情は驚愕に染まっていた。

 

 

試合終了

 

 

松葉 61

緑川 83

 

 

「松葉が…負けた…」

 

電光掲示板に表示されているスコアを見て呟く帆足。

 

第3Qの終盤から会場にやってきた花月の選手達。試合は終始緑川ペースで進み、そして終わった。

 

「あの14番と15番が特に目立っとったな」

 

天野が注目したのは試合中に特に活躍していた緑川の14番と15番だった。

 

 

「やった、決勝だ!」

 

コート上で抱き合う選手達。

 

「(やったぞ黒子! 後1つだ。後1つ勝てばお前と同じ舞台に立てる!)」

 

「(勝った。…今更お前の前に立っても罪滅ぼしにもならない事は分かってる。だが、例え自己満足であろうと、青峰。俺はもう1度、お前の前に立つ!)」

 

14番が拳を握りながら喜び、15番は何かを決意している。そんな2人を中心に緑川の選手達は勝利の喜びを分かち合うのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

辛くも決勝へと駒を進めた花月。

 

しかし、決勝には更なる強敵が待ち受けていた。

 

主将とエース不在の最後の難所にして強敵が、花月の前に現れたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





サクッと決勝まで飛ばしました…(;^ω^)

決勝戦だけはこれまでどおりある程度描写したいと思っています。現状、ある程度しか考えていないので、かなり難産になると思いますが…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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