黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

試合での得点を分かりやすくする為、点が入ったらその都度記載する事にしてみました…(^_^)/

演出上の都合で記載しない事もありますが、これからは基本的に記載します。書いてる自分が分からなくなる事があるので…(;^ω^)

それではどうぞ!



第142Q~譲れないもの~

 

 

 

残り時間、8分14秒。

 

 

花月 65

洛山 71

 

 

花月が申請したタイムアウトがコールされ、両校の選手達がベンチへと戻っていった。

 

「完全に流れは洛山に向いたッスね。花月としては流れをもう1度引き戻す為に何か欲しい所ッスけど…」

 

観客席の黄瀬が視線を竜崎に向けた。

 

「彼(竜崎)では無理そうッスね。昨日の試合を見た限り、器用で卒なく幅広く対応出来る選手。状況を維持したり繋いだりするには適役ッスけど、流れを変えられる選手ではない」

 

黄瀬が竜崎を評する。

 

「あの12番(室井)も、インサイドのディフェンスが出来るだけでそれ以外は大してやれる事がない。この悪い流れを変えられる選手が花月にいたら良かったんスけど…」

 

「テツ君、みたいな?」

 

流れを変えられる選手と聞いて桃井が黒子の名前を出した。

 

「だが、花月にはテツはいねえ。今ある戦力で切り抜けなくちゃならねえんだよ」

 

眉を顰めながら青峰が言ったのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

『…』

 

ベンチに戻ってきた選手達。しかし、その表情は暗いものであった。

 

「…監督、俺をコートに戻して下さい!」

 

立ち上がった天野が上杉に懇願する。

 

「俺がインサイドもリバウンドも抑えたります。頼んます!」

 

「…ダメだ」

 

少し考えてから上杉が却下した。

 

「このままやったらジリ貧ですやん! リスク覚悟で押し通さんと負けまっせ!?」

 

普段なら上杉の指示を聞き分ける天野が今は食い下がる。

 

「まだお前を投入するには早い」

 

「やけど!」

 

「天野、今は耐えてくれ。流れはもう1度必ずうちに来る。その時にお前がコートにいなければ意味がない。…だから我慢だ」

 

食い下がる天野を強い口調で上杉は告げた。

 

「~~っ!」

 

納得が行かない天野は歯を食い縛りながら渋々聞き分け、ベンチに座った。

 

「ここからどうしよう…」

 

生嶋がポツリと囁くように呟いた。

 

第4Qに入って未だ花月は得点は0。あっという間に逆転され、今は6点のビハインドを背負っている。

 

「止められないのなら点を取るしかあるまい」

 

対抗策を考える選手達に上杉がそう指示を出した。

 

「ディフェンスはスリーを要警戒で中からのある程度の失点は覚悟する。松永はノーファールでディフェンスに努めろ。竜崎は先程同様、止める事が困難ならファールでも構わん。恐れずに行け」

 

「分かりました」

 

「はい!」

 

ノーファールの指示を受けた松永、対してファールで止める事を指示出された竜崎が返事をした。

 

「オフェンスは速い展開に持ち込む。向こうのディフェンスが整う前に決める」

 

「ラン&ガンですね」

 

大地が上杉の指示に頷く。花月本来のスタイルである。

 

「そうだ。相手がそれを嫌ってディレイドオフェンスを仕掛けてきたら即座にオールコートを仕掛けろ」

 

『はい!』

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここでタイムアウト終了のブザーが鳴った。

 

「行って来い!」

 

上杉の檄と同時に選手達が立ち上がった。

 

「行くぞ!!!」

 

『おう!!!』

 

空が声を声を出し、選手達がこれに応えた。

 

「頼む。俺が戻るまで粘ってくれ!」

 

ベンチから天野が願うように言った。

 

「(俺が赤司を抑えられれば勝てるんだ。絶対に俺が赤司を倒す!)」

 

胸の内側で闘争心を燃やす空。

 

「…」

 

そんな空を大地が心配そうな表情で見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コートへと戻って来る両校の選手達。両校共に交代はなし。

 

スローワーとなった生嶋から空にボールが渡り、試合は再開された。

 

「…」

 

空の前に立ち塞がり、無言でプレッシャーをかける赤司。

 

「…っ」

 

対して空は僅かに怯んだ表情を見せる。

 

 

「…あのバカ、完全に雑念だらけになっちまってるな」

 

空の様子を見て何かを悟る青峰。

 

「大方、終盤でミスが出来ねえとか考えちまっていつもの思い切りの良さがなくなっちまってやがる」

 

呆れた表情でコート上の空を見つめる青峰。

 

「(バカが。未だに赤司に勝とうとか考えてやがるのか? 身の程を知れってんだよ…)」

 

内心で怒りを覚えた青峰だった。

 

 

「…ちっ」

 

意を決して仕掛けようとする空。

 

「(…ピクッ)」

 

「っ!?」

 

赤司が空が動くのと同時に反応を示した。これを見て空はギリギリの所で動作を止めた。

 

「(ほう。並の者ならあそこまで動いていては止められなかった。さすがだな。だが…)」

 

言葉には出さないが空に称賛の言葉を贈る赤司。

 

「…くそっ!」

 

仕掛ける事を諦めた空はその場で飛んで頭上からハイポストに立つ竜崎にパスを出した。

 

「この距離なら!」

 

フリーでボールが渡る竜崎。即座にシュート態勢に入る。

 

「…ちっ」

 

これを見て五河がヘルプに飛び出した。

 

 

――スッ…。

 

 

五河が現れると、竜崎はシュートを中断。飛び出した事でローポストでフリーになった松永にパスを出した。

 

 

――バス!!!

 

 

松永は落ち着いてそこからジャンプショットを決めた。

 

 

花月 67

洛山 71

 

 

『よーし!』

 

第4Qが始まってようやく花月のスコアが動いた事に花月ベンチの選手達が喜びの声を上げた。

 

「スマン」

 

「今のは仕方ない。次だ、行くぞ」

 

謝罪をする五河に対し、赤司は次を促し、ボールを受け取った。

 

「44だ」

 

フロントコートに赤司及び洛山の選手達が進んだのと同時に今年の洛山のお家芸である高速のパスワークが始まった。

 

『…っ』

 

どうにかパスカットを狙う花月の選手達だったが、洛山のパスワークはパススピードが速く、しかもパスコースも巧み考えられており、その隙を与えてくれない。

 

「来い!」

 

突如、左隅のアウトサイドへと走り出した四条がボールを要求した。

 

「…っ、させるかよ!」

 

その四条に対して空が猛スピードで走って距離を詰めていく。

 

「キャプテン!」

 

同時に竜崎が慌てた声を上げる。

 

「っ!?」

 

その声の意図に気付いた空だったが、もう遅かった。

 

「っしゃ!」

 

ボールは四条にではなく、左45度付近のスリーポイントライン手前に移動した二宮にボールが渡ったのだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

フリーでボールを受け取った二宮はすかさずスリーの体勢に入り、決めた。

 

 

花月 67

洛山 74

 

 

「くそっ!」

 

スリーを要警戒と言われていたのにも関わらず、決められてしまい、悔しがる空。

 

「(どうしたんだ? いつものキャプテンなら簡単に気付きそうなものなのに…)」

 

何処か様子がおかしい空に竜崎が違和感を覚えた。

 

「神城!」

 

ボールを拾った松永がスローワーとなって空にボールを渡す。

 

「よし、決め返すぞ。全員走れ!」

 

号令と同時に花月の選手達がフロントコートへと雪崩れ込んだ。

 

『ここに来て花月はラン&ガン!?』

 

『洛山と点の取り合いをするつもりか!?』

 

花月の行動に驚愕の声を上げる観客達。

 

ボールを回し、足を絶えず動かしながら速い展開に持ち込もうとする花月。

 

「空!」

 

大地がボールを要求する。

 

「頼む!」

 

その声を聞いて空は大地にパスを出した。

 

「止める!」

 

「お前には何もさせないぜ!」

 

ボールが大地に渡ると、利き手である右手でのプレーに制限をかける為に大地の右側に立つ三村と正面に四条の変則のダブルチームでディフェンスに付いた。

 

「…」

 

 

――スッ…。

 

 

大地はバックステップで後ろに下がり、自分をマークする2人を正面に見据えれるポジションに移動した。

 

「(今だ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

三村を右側から正面にかわした事で右手の制限がなくなったタイミングで大地は仕掛ける。一気の加速して三村を抜きさり、次の四条をクロスオーバーで抜きさった。

 

「「っ!?」」

 

一瞬で抜きさられた2人は目を見開きながら後ろを振り返った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

その時にはもう大地はシュート態勢に入っており、大地はきっちりとジャンプショットを決めた。

 

 

花月 69

洛山 74

 

 

『スゲー! 一瞬であの2人を抜いちまった!』

 

これには観客も驚きの声を上げていた。

 

「さすが大地だぜ!」

 

ディフェンスに戻る大地に駆け寄った空が称賛の言葉を贈った。

 

「ありがとうございます。それより空…」

 

「任せろ。俺の方も何とかする。絶対に赤司を倒してやるからよ」

 

大地が言い終える前に空は大地にそう告げ、前を走っていった。

 

「空…」

 

意気込む空を見て大地はただ名前を呼ぶ事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「今度こそ止める!」

 

赤司がボールを運ぶと、空は意気込みを露にしながらディフェンスに付いた。

 

「無駄だ。お前では僕を止める事は出来ない」

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ゆっくりと空の目の前で左右に切り返しながら揺さぶりをかける赤司。

 

「…っ」

 

切り返しに合わせて空は左右へと足を踏み込みながら赤司の仕掛けに備える。

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

数度切り返すと、赤司がテンポアップして一気に切り込んだ。

 

「っ!?」

 

テンポアップした最初の右から左への切り返しに身体が反応してしまい、右足に体重をかけてしまい、直後のクロスオーバーに為すが儘で対応出来ず、横を抜けられてしまう。

 

「くっそっ…!」

 

それでも空は動かない身体を強引に後方に倒し、倒れ込みながらボールに手を伸ばす。

 

「さっきは不覚を取ったが、所詮は足掻きだ」

 

空の伸ばした手がボールに届く直前、赤司はパスを出した。

 

「ナイスパス赤司!」

 

パスを出した先に三村が走り込み、ボールを掴んだ。三村はそのままドリブルで進み、リングに向かって飛んだ。

 

「おぉっ!」

 

そこへ、松永がブロックに現れ、三村とリングの間へと割り込む。

 

 

――スッ…。

 

 

「っ!?」

 

松永がブロックに現れると、三村は上げたボールを下げ、ブロックをかわす。

 

 

――バス!!!

 

 

ブロックをかわした後にボールを放り、バックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「よっしゃ!」

 

ダブルクラッチで得点を決めた三村は四条とハイタッチを交わす。

 

「…くっ!」

 

「…っ」

 

みすみす抜きさられた空は悔しさから拳を握りしめ、ブロック出来なかった松永は歯をきつく食い縛った。

 

「ドンマイ! それよりオフェンスだ! 切り替えろ!」

 

そんな2人の様子を見た菅野が立ち上がりながら声を出した。

 

「…そうだ、取られたなら取り返せばいいだけだ。ボールをくれ。行くぞ!」

 

松永からボールを受け取った空は勢いのままフロントコートへと突き進んでいった。

 

「…ちっ」

 

洛山のディフェンスが整う前に仕掛けたかったが、既にディフェンスへと戻っており、舌打ちをする空。仕方なくボールを回す。

 

ボールを回してチャンスを窺う花月だったが、洛山のディフェンスがそれを許さず、ボールを回し続ける。

 

「…っ」

 

大地はダブルチームで徹底マークをされており、ボールを掴めない。

 

「…くっ!」

 

フリーの竜崎も、ヘルプが速く、ツーポイントエリア内ではシュートへと持ち込めない。結局シュートチャンスを作る事が出来ず、空の下へボールが戻って来る。

 

『スゲー、終盤になっても洛山の足が全く止まらねえよ…』

 

疲労もピークとなる第4Q。洛山はピタリと花月の選手をマークし続けている。

 

「どうした、仕掛けて来ないのか?」

 

煽るように赤司が空に問い掛ける。

 

「…うるせえ」

 

苛立ちを抑えながら空はそう返した。

 

「(大地にはボールが通らねえ。他の奴でも得点チャンスが作れねえ。だったら、俺がやるしかねえだろ!)」

 

自らの手で活路を見出す覚悟をした空。

 

「(…来るか。若いな)」

 

その覚悟は赤司にまで伝わり、その分かりやすさに内心で皮肉った。

 

「(どうせ俺の動きはエンペラーアイで見抜かれるんだ。フェイクや揺さぶりは無意味。だったら、俺の最速でぶち抜く!)」

 

空は力を込めて一気に加速。仕掛ける。

 

「無駄だ」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

動き出そうとした瞬間、赤司の伸ばした手が空の持つボールを捉えた。

 

「何度も同じ事を言わせるな。お前が何をしようと、僕のこの眼の前で無力だ」

 

そう見下すように赤司が空に告げると、零れたボールをすぐさま拾い、そのまま速攻に走った。

 

「くそっ!」

 

空はすぐさま反転し、赤司を全速力で追いかけた。

 

「これ以上はやらせねえ! 絶対止めてやる!」

 

ツーポイントエリアに赤司が侵入した所で空が赤司を捉え、横に並んだ。

 

『あの体勢から追いつくのかよ!? やっぱりスピードだけはスゲー!』

 

決して遅くはない赤司をシュートを打つ前に追い付いた空のスピードに観客が驚嘆した。

 

「それがどうした?」

 

だが、そんな事に赤司を意にも介さず、ボールを斜め後ろへと放った。

 

「…っ!」

 

空が振り返ると、そこには二宮が走り込んでおり、スリーポイントライン手前でボールを受け取った。そしてすぐさまスリーの体勢に入った。

 

「させません!」

 

次の瞬間、大地が後ろからブロックに現れた。しかし、二宮はそれよりも早くボールをリリースした。

 

「(外れ――違う、これは!?)」

 

ボールの軌道を見て外れると予想した大地だったが、すぐさま気付いた。リングに向かって走っている三村の姿を見て…。

 

「おっしゃ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

走り込んだ三村が空中でボールを掴み、そのままリングに叩きこんだ。

 

 

花月 69

洛山 76

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

二宮のリリースしたボールはスリーではなく、三村へのパスだったのだ。

 

『…っ』

 

ターンオーバーからの失点。それも大技を決められ、悔しさを露にする花月の選手達。

 

「これが現実だ。お前も花月も、僕達には勝てない」

 

ディフェンスに戻る赤司。空とすれ違い様に立ち止まる。

 

「ナンバーワンポイントガードか。なるがいいさ。僕のいない来年にでもな」

 

そう言い、赤司はディフェンスに戻っていった。

 

「…ちくしょう」

 

その赤司の言葉に、空は何も言い返す事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「あの神城君でも、赤司君のエンペラーアイからは逃れられなかった」

 

絶対的にスピードに定評がある空。その空ならばもしやと期待をしていた桃井だったが、結果を見て残念がる。

 

「おかしいッスね。俺とやった時はもっと速かった。あれが神城っちの全速ではないはず」

 

首を傾げ、眉を顰めながら黄瀬が言う。

 

「…あのバカ。完全に飲まれてやがる」

 

溜息を吐きながら青峰が呟いた。

 

「速く動く事を意識し過ぎるあまり身体に余計な力が入りまくってる。あれじゃ、動き出しが遅くなる上にスピードも乗り切らねえ」

 

空の動きの問題点を指摘する青峰。

 

「挙句、雑念だらけで集中出来てねえ。あんな様じゃ、ゾーンどころか、赤司相手にまともな相手も出来やしねえだろうよ」

 

「同感ッスね。もう時間もない。このままだと…」

 

黄瀬はこれ以上言葉を続ける事が出来なかった。

 

「(あの赤司がここまでお前(空)を潰しに来てる。つまり、赤司にも余裕がない。それだけ必死だって事だ。その事にいい加減気付けバカが…)」

 

口には出さないが、青峰は苛立ちながら空を睨み付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「っしゃぁっ! 行くぞお前ら!」

 

もう1組の準決勝に勝ち残った1校である誠凛の選手達が次の試合の為にコートへとやってきた。

 

『…』

 

相手はキセキの世代緑間擁する秀徳高校。激闘は避けられない。自ずと選手達の中にも緊張感が漂っていた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

コートのあるフロアへやってくると、会場は歓声に包まれていた。

 

「なっ!?」

 

「これは!?」

 

点数が表示されている電光掲示板に視線を移すと、誠凛の選手達の表情が驚愕に染まった。

 

 

――キュッキュッ!!!

 

 

絶えず、両校の選手達が足を動かしている。試合は完全に洛山のペースとなっていた。タイムアウトを取っても流れを変える事は出来なかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

空の横を赤司が駆け抜ける。

 

赤司が完全に試合を支配し、自在に味方を操り、花月を翻弄していく。

 

「…っ」

 

空も、エンペラーアイを再び使い始めた赤司に抑えられ、精彩を欠いていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

時折大地がダブルチームをかわして得点を決めるも単発。流れを変える事は出来なかった。

 

 

第4Q、残り4分18秒。

 

 

花月 73

洛山 86

 

 

試合時間残り5分を切った所で、点差は13点にまで開いていた。

 

『…っ』

 

じわじわと開いていく点差を見て花月の選手達の表情が曇っていく。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

現在、洛山のオフェンス。ボールは赤司がキープしている。

 

 

「ここが正念場だ」

 

コートに視線を向けながら青峰が喋り出す。

 

「ここを決められれば点差は15点。残り時間と戦力、今の現状を考えて、洛山に逃げ切られる」

 

「何か…、何かこの状況を変える何かがあれば花月にも勝機があるんスけど…」

 

苦い表情しながら考える黄瀬。

 

 

「止める…!」

 

真剣な表情で赤司に対峙する空。ここが正念場だと言う事は空自身も理解しており、気合いが入る。

 

『…っ』

 

他の花月の選手達も理解しており、ディフェンスに全神経を注いでいる。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをする赤司。

 

「(パスか…、それとも仕掛けてくるか…、どっちが来ても止めてやる!)」

 

赤司の次のプレーに備える空。

 

「……フッ」

 

「?」

 

ふと、空を見て赤司が含みのある笑みを浮かべる。次の瞬間…。

 

『っ!?』

 

赤司がシュート体勢に入った。赤司がいた場所はスリーポイントラインから2メートル近く離れている。そこからのまさかのスリーに花月のみならず、洛山の選手達も意表を突かれていた。

 

「…っ」

 

まさかの行動に空は反応出来ず、その姿を目を見開いたまま見送ってしまう。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは、リングの中心の吸い込まれるように向かって行き、潜り抜けた。

 

 

花月 73

洛山 89

 

 

『うおー!? あんな離れた所から決めやがった!!!』

 

まさかの赤司のスリーに観客は大歓声を上げた。

 

『…っ』

 

ここ1番の状況で最悪の1発を決められ、言葉を失う花月の選手達。

 

「…」

 

それは空も同様であった。

 

「…」

 

値千金のスリーを決めた赤司は、空には一瞥もくれず、踵を返してディフェンスに戻っていった。

 

 

「決まったな」

 

この1本を見て青峰が断言をした。

 

 

「スゲーな赤司。よく決めたな」

 

「自信があったのか?」

 

驚いたのは洛山の選手達も同様であった為、四条と五河が声をかけた。

 

「まさか。真太郎じゃあるまいし、自信があった訳ではない。奴(空)が無警戒だったから打っただけだ」

 

聞かれた赤司は淡々と返事を返した。

 

「驚いたな。絶対が口癖の赤司が入るか分からないシュートを打つとはな」

 

皮肉交じりに四条が言うと…。

 

「例え外れても、お前達が『絶対』取ってくれたのだろう?」

 

フッと笑みを浮かべながら赤司はそう返した。

 

「赤司…」

 

赤司からの信頼が感じられる言葉を聞いた四条は、思わず込み上げるものを抑えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

茫然と立ち尽くす空。

 

「…空」

 

そんな空に大地が歩み寄り、話しかけた。

 

「空。もう認めましょう。今のあなたでは赤司さんには敵いません」

 

「…なに?」

 

自身の信頼する相棒である大地にそう告げられ、思わず苛立つ空。

 

「そんなつまらない事にこだわってる場合ではないでしょう。そんな事より――」

 

「そんな事だと?」

 

その言葉に空が怒りを覚え、掴みかかった。

 

「お前こそ分かってんだろ!? 俺が赤司に勝てなきゃ――」

 

「勝てなければ何ですか?」

 

掴んだ空の手をバッと手で払いのけた大地は逆に空のユニフォームを掴んだ。

 

「あなたが勝てなければ花月が負けるとでも言うつもりですか?」

 

「…っ」

 

「あなたがそんなつまらない事にこだわっていたら、私達は負けるんですよ。あなたは赤司さんだけではない、試合にすら負けるつもりですか!?」

 

普段感情を露にする事がない大地が語気を荒げて言い放つのを見て軽く怯む空。

 

「あなたは花月の司令塔で、キャプテンなんですよ。天野さんもいない今、この状況を覆せるのはあなただけなんですよ! 大事な事を見失わないで下さい!」

 

突き飛ばすようにしながら大地はユニフォームを掴んでいた手を放し、その場を離れていった。

 

「(そうだよ。俺は何を勘違いしていた? 俺は、俺が赤司に勝てなきゃ洛山には勝てないって思っていた…)」

 

大地の言葉が胸に突き刺さり、ここである事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

『お前が海兄に勝てなければ花月は負けちまうのか?』

 

『俺も同じ事を思ってたよ。俺がキセキの世代に勝てなければ花月は勝てないって。主将になってからもそれは同じだった』

 

『けどな、陽泉の試合、途中で俺が抜けて、それでも花月は勝った。昨日の試合も俺がいなくとも勝った』

 

『それで分かった。俺が花月の全てを背負い込む必要なんてないんだって事を。俺は試合に勝つ為にはどうすればいいか。今はそれしか考えてない』

 

『例えお前が海兄に勝てなくとも、花月は負けたりはしない。バスケは力を合わせればミスを帳消しに出来るしチャンスも作り出せる。誰かが勝てなくても試合には勝てるんだよ。だからよ、1人で戦うな。一緒に勝とうぜ。もちろん、俺もどうにもならなくなったらお前を頼らせてもらうからよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それは昨日の海常との試合の折に三枝とのマッチアップで苦しんでいた松永に空がかけた言葉だった。

 

「(…ハハッ! 偉そうな事人に言っておいて、俺が1番分かってなかったじゃねえかよ)」

 

かつて松永にかけた言葉が自分に返ってきて、思わず自嘲気味に笑ってしまった空。

 

「スー…フー…」

 

空は目を瞑り、大きく深呼吸をした。

 

「神城…」

 

ボールを拾い、スローワーとなった松永が歩み寄ってきた空に心配そうに声をかけた。

 

「いろいろ情けない姿を見せちまったな。わりぃ。けどもう大丈夫だ。吹っ切れた」

 

ニコッと笑顔を浮かべながら返事をする空。ボールを受け取ると、ゆっくりボールを運び始めた。

 

「…」

 

フロントコートへと進むと、空の前にやってきたのは当然赤司。

 

「認めるぜ」

 

「?」

 

突然空に話しかけられる赤司。

 

「俺はあんたには勝てねえ」

 

「…」

 

「大事な事を見失う所だった。ナンバーワンポイントガードの称号はあんたものでいい。…今は」

 

ここで空が動き始める。

 

「(来るか。…右から左へのクロスオーバー!)」

 

エンペラーアイを発動させた赤司は空がボールを左手に切り返したのと同時にボールに手を伸ばした。

 

「(取れる、貰った!)」

 

スティールを確信する赤司。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

次の瞬間、赤司の伸ばした手が空を切り、目の前にいた空が姿を消した。

 

「っ!?」

 

振り返ると空は赤司の後ろを抜けていた。

 

「…ちっ」

 

すかさず三村がヘルプに飛び出し、チェックに入った。

 

 

――スッ…。

 

 

目の前に三村が現れると、空はバックロールターンであっさりと抜きさった。

 

「打たせん!」

 

「おぉっ!」

 

フリースローラインを越えた所で空が視線をリングに向け、ボールを掴んで頭上に掲げると、四条と五河が目の前で空の視界を塞ぐようにブロックに現れた。

 

 

――スッ…。

 

 

「「っ!?」」

 

しかし、空は飛ばず、掲げたボールを下げ、ブロックに飛んだ2人の間を抜け、そこから改めてボールを掲げ、右手でリングに放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

 

花月 75

洛山 89

 

 

『…』

 

静まり返る会場内。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

直後に大歓声が響き渡った。

 

赤司、三村、四条、五河の4人を抜きさって得点にこの日1番の歓声が空に贈られた。

 

『っ!?』

 

この空のプレーを見て洛山の選手達が驚愕の表情で空を見つめた。

 

「ナンバーワンポイントガードの座は今日の所は諦める。…だがな、この試合の勝利と優勝だけは譲らねえ」

 

赤司の下まで歩み寄った空が目の前でそう告げた。

 

「そうです。それでこそ空ですよ」

 

その空の姿を見て大地が微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――空が、ゾーンの扉を開いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「前言撤回だ。試合は分からなくなった」

 

空の変化に気付いた青峰がそう言い放つ。

 

「みたいッスね。ここからまだドラマが起きるかもしれないッス」

 

同じく気付いた黄瀬が続いて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「…真ちゃん」

 

誠凛と同じく迫る準決勝の為にコートのあるフロアに来ていた秀徳の選手達。高尾が緑間に話しかける。

 

「あぁ。花月の目はまだ死んでいない。そして、花月はここからが手強いのだよ」

 

かつて戦い、敗北を味わった緑間がそう断言する。

 

試合は、クライマックスへと突入しようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー、年末は忙しい…(>_<)

仕事は年末の最後の追い込みが来て、家に帰ってもやる事があったり、年末特番でみたいものがあったりで執筆時間が取れなくて困ります…(;^ω^)

ここ最近反響がなくて悲しいな…なんて…(ノД`)・゜・。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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