黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

137 / 218

投稿します!

急に寒くなってきた…(;^ω^)

それではどうぞ!



第137Q~スピード~

 

 

 

第2Q、残り5分26秒。

 

 

花月 24

洛山 34

 

 

タイムアウトが終了し、両校の選手達がコートに戻ってきた。

 

 

OUT 生嶋

 

IN  室井

 

 

「ん? 5番を下げた?」

 

選手交代に気付いた二宮が声を上げた。

 

「中を固めるつもりか?」

 

「向こうは何を考えている。…だが、これで花月に外がオプションが1つなくなった。こっちとしては好都合だ」

 

相手の意図を考える三村。四条は好機と判断した。

 

「…」

 

赤司は花月選手…その中で不敵に笑う空に視線を向けたのだった。

 

 

審判から二宮にボールが渡され、赤司にパスを出し、試合が再開された。

 

「…むっ?」

 

『っ!?』

 

試合が始まると、花月が2-3ゾーンディフェンスを敷く。それを見て赤司は疑問を声を上げ、他の選手達は目を見開いた。

 

「…うちにはゾーンディフェンスはもっとも相性が悪いディフェンスだと言うのが分からない訳がないだろう」

 

ベンチの白金が顎に手を当てながら呟いた。

 

ゾーンディフェンスは外からの攻撃に弱い。そして、洛山の選手達は5人全員が外から打てるプレーヤー。普通に考えればこの選択は悪手である。

 

「何を考えている…」

 

白金は視線を相手ベンチの上杉に向けながら呟いた。

 

「…」

 

ゆっくりドリブルをしながらゲームメイクする赤司。

 

 

――ピッ!!!

 

 

赤司は左45度付近のスリーポイントライン手前に立つ二宮にパスを出す。

 

「…っ」

 

すると、即座に空が動き出し、二宮の1メートル程前に移動した。

 

「? チェックに行かないのか?」

 

距離を詰めない空に疑問の声を上げる五河。

 

「(何を考えてんだこいつ。止める気がないのか?)」

 

依然として距離を詰めてくる様子がない空を見て戸惑う二宮。

 

「(…なら、遠慮なく打たせてもらうぜ)」

 

二宮が視線をリングに向け、ボールを掲げようとした。

 

「(…ピクッ)」

 

「っ!?」

 

すると、空がこれに反応し、1歩踏み込んだ。

 

「(まさかこいつ…!)」

 

ここで二宮は理解した。空が距離を詰めないのは今立ってる位置からでも届くからだと。

 

「(思い出した。こいつは去年、実渕さんのスリーを距離を放した状態でブロックしてたんだ…)くっ!」

 

こうも距離を取られてしまえば切り込む事も出来ない。二宮はスリーを諦め、ボールを赤司に戻した。

 

「…」

 

赤司にボールを返ってくると、空も当初のポジションに戻った。

 

「…」

 

今度は右アウトサイドの三村にパスを出す。すると、大地が動き、空同様、距離を空けてディフェンスに入った。

 

「…っ」

 

ボールを掴んだ三村だが、打ちに行く事も中に切り込む事も出来ないでいた。

 

「…スリーを打って来ないな。こっちとしてはありがたいが、打てないもんなんだな」

 

ベンチでヒヤヒヤしながら見守る菅野。

 

「シュートは距離が離れれば離れる程繊細さが求められますからね。プレッシャーをかけられるだけで打ちづらくなります」

 

『…』

 

生嶋の解説にベンチの選手達が耳を傾ける。

 

「ディフェンスの時と違ってオフェンスでは天先輩がいる上、今は中を固められているからリバウンドは難しい。そもそも、洛山の方達はあくまでスリーが打てるだけで純粋なシューターではないから、これだけ悪条件が揃った状況で打てないでしょうね」

 

キセキの世代のシューターである緑間や、それこそ生嶋のような練習や試合でスリーを打ち続け、決めてきた選手なら思い切って打てるかもしれないが、彼らにはそれがない。その為、分の悪いスリーを打ちにいけるだけの自信と勇気が持てないのだ。

 

「…ちっ」

 

三村は無理に打ちに行けず、赤司にボールを戻した。

 

『スゲーぞ、花月はあの2人だけでスリーを封じてやがる』

 

ボールが戻ってきた赤司。表情を変える事なく再びゲームメイクを始める。

 

「…」

 

すると、赤司は突如としてシュート態勢に入った。

 

「っ!?」

 

これを見て空が一気に赤司との距離を詰め、ブロックに飛んでシュートコースを塞いだ。

 

『うぉっ! あっという間に距離を潰しやがった!』

 

「…」

 

目の前に空が現れ、シュートコースが塞がれると、赤司はボールを下げ、ビハインドパスの体勢に入った。

 

「あっ!?」

 

その時、ベンチに竜崎が声を上げた。赤司の左方向に二宮がパスを貰う為に移動していたのだ。

 

「…っ」

 

これに気付いた大地が二宮に向かって走り始めた。

 

「止まれ!」

 

「っ!?」

 

次の瞬間、空が大声で大地を制止した。すると、ボールは左方向ではなく右方向に向かって行った。

 

「エルボーパス!?」

 

ベンチの竜崎が立ち上がりながら驚愕した。赤司は右手でビハインドパスを出すのと同時に左肘を後ろに突き出し、当てて反対方向に跳ね返したのだ。

 

「ナイスパス!」

 

赤司の右方向に移動した三村にボールが渡る。ボールを受け取った三村はすぐさまシュート態勢に入った。

 

「…っ」

 

大地は空の制止の声を聞いて急停止し、バックステップしながら反転して三村のいる所へ駆け寄った。

 

 

――チッ…。

 

 

「なっ!?」

 

猛ダッシュで距離を詰め、ブロックに飛んだ大地。伸ばした指先に僅かにボールが触れた。

 

「リバウンド!」

 

このスリーが外れる事を確信した大地は声を飛ばした。

 

 

――ガン!!!

 

 

言葉通り、ボールがリングに弾かれた。

 

「となれば、俺やな!」

 

「任せて下さい!」

 

リバウンド争いの為、ゴール下に入る天野と室井。四条と五河。

 

「(…くそっ、やっぱりこいつのリバウンドは…!)」

 

強引に良いポジションを奪おうとする四条だったが、天野がパワーとテクニックで抑え込んだ。

 

「(っ!? こいつ、何てパワーだ! それに身体の使い方も上手い、素人じゃないのか!?)」

 

同じくポジション争いをする室井と五河。10㎝以上も身長差がある2人だが、身長で劣る室井が五河を身体を張って抑え込んでいた。

 

「室井君は確かに高校からバスケを始めた。まだまだ拙い所はあるけど、身体を使ったプレーに関しては例外です。陸上部出身の彼はどうすれば無駄なく力を引き出せるかをよく理解しています。ボールを持たないプレーに関して言えば彼は黄瀬さん相当のセンスを持ってます」

 

入学時から室井の世話係をしていた姫川。陸上で培ったノウハウを生かし、スクリーンアウトの技術をいち早く習得した。持ち前の身体能力も相まって室井の武器となった。

 

「おぉっ!」

 

ポジション争いで勝った室井がリバウンドを制した。

 

「良いぞ室井!」

 

ベンチの菅野が自分の事のように喜んだ。

 

「速攻だ! くれ!」

 

「頼みます!」

 

速攻に走った空がボールを要求。室井は空目掛けて大きな縦パスを出した。

 

「まずい、戻れ!」

 

カウンターを食らい、慌ててディフェンスに戻る洛山の選手達。

 

「っと」

 

ボールを掴んで前を向く空。すると、赤司が既にディフェンスに戻っていた。

 

「さすが、戻りが速い。…けど、今度は一味違うぜ」

 

その時、大地が空の横を駆け抜けた。

 

「今度は2枚だ」

 

空は飛びながら前を走る大地にパスを出した。大地はボールを掴んでリングに向かい、レイアップの体勢に入った。

 

「…っ」

 

赤司は反転して大地を追いかけ、レイアップの阻止に向かった。

 

 

――スッ…。

 

 

大地はボールをリングにではなく、後方へとふわりと浮かせるように放った。するとそこには空が飛んでいた。

 

「…ちっ」

 

思わず舌打ちが飛び出る赤司。ボールを掴んだ空に対してブロックに飛んだ。

 

「俺があんたに勝ってるものがスピード以外にもう1つある」

 

右手で掴んだボールをリングに振り下ろす。

 

「ジャンプ力だ」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

振り下ろしたボールを赤司の上からリングに叩きつけた。

 

『うぉぉぉぉぉーーっ!!! 綾瀬から神城へのアリウープだ!!!』

 

「っしゃぁっ!!!」

 

コートに着地し、拳を頭上で振り回しながら喜びを露にする空。

 

「ドンマイ、赤司」

 

励ましながら五河がボールを拾い、赤司にボールを渡そうとしたその時!

 

「当たれ!」

 

空が大声で指示を飛ばす。すると、花月の選手達はディフェンスに戻らず、室井が五河の前に駆け寄り、両腕を上げて立ち塞がる。空が赤司、大地が二宮、松永が三村、天野が四条に激しく当たり始めた。

 

『ここでオールコートマンツーマンか!?』

 

「これならセットプレーもくそもねえだろ」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら空が目の前の赤司に告げた。ボールをフロントコートに運ばせなければセットプレーは行えない。空の考えた対策の1つである。

 

「生嶋を下げたのはインサイドを強化するだけじゃなくて、この為か!?」

 

交代の意図を理解した四条が声を上げる。対洛山においては室井のオフェンス力は限りなく低いが、ディフェンスにおいては高さもパワーもあり、スピードもスタミナもある為、打って付けの人材である。

 

「舐めんなよ、こっちは帝光から洛山に渡り歩いてるんだ。この程度でオタオタする訳ねえだろ!」

 

三村がそう叫び、洛山の選手達が動き始める。

 

「赤司!」

 

五河が目の前でハンズアップをする室井の隙を突いて赤司にボールを渡す。

 

「っしゃ止めてやる!」

 

赤司にボールが渡ると、すぐさま空が激しくプレッシャーをかけ始めた。

 

「…」

 

空の激しいプレッシャーを受けながらも一切動じない赤司。

 

 

――スッ…。

 

 

隙を突いて左方向からスピンターンをする。

 

「させっか!」

 

これに空が反応し、左手を伸ばして阻止する。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「あっ!?」

 

次の瞬間、赤司が逆方向にターンして空の後ろを抜けていった。

 

「…ちっ、んのやろ!」

 

左からターンすると見せて右へのターン。赤司の巧みなジャブステップに引っ掛かり、抜かれてしまい、思わず舌打ちをし、すぐさま赤司を追いかける。空が再び赤司の前に立ち塞がろうとした瞬間、赤司が前へと走る二宮に縦パスを放った。

 

「っし!」

 

ボールを受け取った二宮はそのまま速攻に駆け上がった。

 

『うわー! オールコートが失敗した!』

 

観客からは溜息のような悲鳴が響いた。

 

「まだ終わりじゃねえんだよ」

 

ここで空がニヤリと笑う。

 

「っ!?」

 

スリーポイントラインの目前で大地が追い付き、二宮の前に立ち塞がった。

 

「これならセットプレーは使えないでしょう?」

 

「…っ」

 

大地がボソリと告げると、二宮は僅かに表情を顰めた。

 

今の時点でオフェンスに参加出来ているのは二宮のみ。セットプレーを行う為には洛山の選手が全員攻め上がるまで待たなければならない。だが、そうなれば花月の選手もディフェンスに戻ってしまう為、速攻のチャンスを失う事になる。

 

「このまま仕掛けるか、それとも味方を待って5人で再び仕掛けるか。…もっとも、私なら前者を選びますが」

 

「…っ!」

 

挑発とも取れる大地の言葉に二宮の表情が僅かに歪む。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

二宮が仕掛ける。クロスオーバーで大地を抜きにかかった。

 

「行かせませんよ」

 

スピードも切れ味もあるクロスオーバーだが、大地はピタリとディフェンスをする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、さらにクロスオーバーで切り返し、大地の横を抜けていった。

 

「へぇー、結構スピードもキレもあるな…」

 

キレ味鋭いドリブル技術を見て感心する空。

 

「さすが洛山のスタメン。…だが、相手が悪かったな」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

リングに向かってレイアップの体勢に入った瞬間、後ろから大地がボールを叩いた。

 

「その程度じゃ大地はかわせないぜ。…速攻!」

 

ボールを拾った空が声を出し、そのまま花月の選手達は攻め上がった。

 

「しっかりマークするんだ! 慌てるな!」

 

ディフェンスに戻りながら四条が声を上げた。

 

「…っと、やっぱり簡単にはワンマン速攻を決めさせてくれないか…」

 

空の前に立ち塞がる赤司。同時に空は足を止めた。

 

「スマン赤司、助かった!」

 

速攻を止めた赤司に礼を言う二宮。その間に洛山の選手達も自陣に戻り、各自マークに付いてディフェンスに入った。

 

『さすが洛山、戻りがはえー!』

 

『せっかくのターンオーバーだったのに…』

 

ワンマン速攻を阻止した洛山のディフェンスの構築の速さに驚きの声を上げる観客達。

 

「…」

 

「…」

 

睨み合うように対峙する空と赤司。両チームの選手達も2人の動向に気を配る。

 

「(こいつ(室井)が出来るのは補佐くらいだ。多少マークを甘くしても問題ない。いつでも神城のペネトレイトに対応出来るようにしておこう…)」

 

五河は目の前の警戒を解き、いつでもヘルプに出れる準備をする。

 

「空!」

 

その時、大地が空の下に駆け寄る。三村と四条のダブルチームをかわす為、自ら直接ボールを受け取りに行った。

 

 

――スッ…。

 

 

駆け寄る大地に手渡すようにボールを差し出す空。

 

「っ!? 五河!」

 

ここで何かに気付いた赤司が声をかける。

 

「遅ぇ!」

 

 

――ピッ!!!

 

 

そう言葉を発するのと同時に空が差し出したボールを引っ込め、矢のようなパスをゴール下に投げた。

 

「あっ!?」

 

思わず五河が声を上げる。そして、ここでようやく気付いた。

 

「ナイスパスキャプテン!」

 

ゴール下に移動していた室井がボールを掴んだ。

 

「…ちっ!」

 

慌ててチェックに向かう五河。

 

「おぉっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

だが間に合わず。室井は両手で掴んだままリングに向かって飛び、ボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

このダンクに観客は沸き上がった。

 

「ええで、よー動いたムロ」

 

駆け寄った天野が室井の肩に手を置きながら労った。

 

「相手が俺から意識を逸らしたのが分かりましたので。…ですが、凄いのはキャプテンです。俺がゴール下に移動したら即座にパスが来ました。あの赤司って人を相手にしながら周囲に気を配って、タイミングもバッチリで…」

 

「それが空坊や。今やあいつは赤司とナンバーワンポイントガードの座を争うだけの力を持っとるで」

 

天野は空の事を高く評価し、称賛の言葉を贈ったのだった。

 

「これで終わりじゃねえぜ、当たれ!」

 

スローワーとなるべく五河がボールを拾うと、空が再びオールコートで当たる指示を出した。

 

「…ちっ」

 

五河の目の前で室井がハンズアップしながら立ちはだかり、これを見て五河が舌打ちをする。

 

「五河!」

 

その時、三村がフロントコートに向けて走り、ボールを要求した。それを見て五河が持っていたボールを振りかぶった。

 

「…っ」

 

これを見て五河が縦パスの阻止する為、室井がその場で飛んだ。しかし…。

 

「っ!?」

 

振りかぶったボールを五河が左手で抑え、冷静に室井の足元にボールを弾ませながら五河に駆け寄った二宮にボールを渡した。

 

「同じ手が何度も通用すると思うよ!」

 

そう叫んだ二宮は赤司にボールを渡し、フロントコート目掛けて走り出した。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールを回しながら駆け上がる洛山の選手達。

 

「42だ!」

 

フロントコートに全員が攻め上がると、赤司がナンバーをコールした。

 

「…っ、ゾーンディフェンスでもお構いなしかい!」

 

変わらずお家芸のセットプレーのナンバーコールに顔を顰める天野。

 

「っ!? 来るぞ! ボールを見失うなよ!」

 

セットプレーが始まり、空が檄を飛ばした。

 

『…っ』

 

絶えず動き続ける選手とボール。花月の選手達は得点チャンスを作らせないようにボールと相手選手に気を配る。

 

「…」

 

「…」

 

そんな中、空と大地が冷静に周囲を観察しながらディフェンスをしている。

 

 

――スッ…。

 

 

シュートクロックが残り6秒になった所で二宮がハイポストから方向転換し、ツーポイントエリアから離れ、左45度付近のスリーポイントライン外側まで走り、リングがある方向に反転した。それに合わせるようにローポストでボールを受けた四条が二宮にパスを出した。

 

「よし!」

 

ボールを掴んだ二宮は同時にシュート態勢に入った。

 

「させません!」

 

ボールを掴んだ二宮に対して大地がすぐさま距離を詰めてシュートチャンスを潰しに向かう。

 

「残念だったな」

 

スリーを打とうとボールを掲げた二宮。頭上にボールを上げた所でボールを止め、パスに切り替えた。

 

『っ!?』

 

ボールは右サイド、サイドラインとエンドラインが交わる所に走り込んでいた三村に向かって行った。2-3ゾーンディフェンスで中を固めていた花月だったが、セットプレーによるボール回しでゾーンが左にズレてしまっていたのだ。

 

「もらうぜ!」

 

シュートクロック残り2秒。三村がシュート態勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

しかし、放たれたシュートはブロックされた。

 

「残念だったな!!!」

 

ブロックしたのは空。二宮にパスが出された瞬間、右方向に走る三村を見過ごさず、ブロックが間に合うギリギリのポジションに移動していたのだ。

 

『アウトオブバウンズ、白(洛山)!』

 

ボールはラインを割った。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、洛山!』

 

同時に洛山が申請したタイムアウトがコールされた。

 

「なるほど、さすが白金。決断が速いな」

 

上杉は白金を見て決断の速さを称賛した。

 

「…」

 

白金は、ベンチの前で無言で立ちながら選手達を待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「よく止めた神城!」

 

「うす!」

 

戻ってきた花月の選手達。菅野が空を労い、2人はハイタッチをした。

 

「それにしてもくー、よくブロック出来たね。はい、水とタオル」

 

「サンキュ」

 

ベンチに座った空は生嶋から水が入ったボトルとタオルを受け取った。

 

「セットプレーのパスのルートが分かったんですか?」

 

「んなもん分かる訳ねえだろ」

 

質問する竜崎。空は首を振った。

 

「そもそもパスルートなんて分かんなくたっていいんだよ。誰が最後に打ってくるかさえ分かればな。それが分かればそいつに気を配ればいい」

 

「なるほど。…ですが、どうやってそれを知ったんですか?」

 

「ゾーンディフェンスですよ」

 

質問に答えた空に対し、竜崎がさらに質問をすると、大地が代わりに答えた。

 

「ゾーンディフェンスにした本当の理由は、相手の動きの流れを分かりやすくする為だったんですよ」

 

「流れ?」

 

「こちらがゾーンディフェンスを敷けば、相手は外から仕掛けて来ます。ですが、それが困難と分かればゾーンディフェンスを崩しに来ます。絶えずマークマンを追いかけるマンツーマンディフェンスと違い、ゾーンディフェンスは特定の相手にマークをしませんから崩すとなれば特定のスペースを作りに来ます」

 

『…』

 

「その時作り出したスペースに走り出す選手が高確率でシュートを打ってくる選手です。シュートクロックが残り少なければ尚の事です」

 

「解説サンキュ。俺はどうもその手の説明が苦手だったからな」

 

分かりやすく説明をしてくれた大地に空が感謝の言葉を告げた。

 

「とりあえず、完璧とは言えないが、向こうのナンバープレーを止める手立ては出来た。さて、向こうはどう来るかな…」

 

ボトルの水を口にしながら空は呟いたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ…。

 

『…』

 

2度に渡るオフェンス失敗と連続失点に気落ちする選手達。

 

「…ふぅ」

 

赤司はタオルで汗を拭いながら呼吸を整えていた。

 

『滑稽だな』

 

その時、赤司の中にいるもう1人の赤司が話しかけた。

 

『見るに堪えないとはこの事だ。いつまでも無様な試合をするつもりだ?』

 

「(そう見えるか? 俺はこれでも力を尽くしているつもりだが…)」

 

『やる気がないなら僕と代われ。これ以上は見ていて不愉快だ。僕自ら花月に引導を――』

 

「(…フフッ)」

 

『何が可笑しい?』

 

「(いやなに、気付いているか? 一昨年のウィンターカップ以降、俺とお前は入れ替わった。いや、正確には戻ったか。それはいい。以前もお前が自ら表に出ようとした時、目の前には神城空がいた事に…)」

 

『っ!?』

 

「(神城空の潜在能力の高さに誰よりも早く気付いたのは誰でもない、お前だ。だから去年、お前は彼が自身の最大の障害となる前に引導を渡そうとした。違うか?)」

 

『…戯言を』

 

「(まあいい。そこまで彼と戦いたいならばやるといい。だが、くれぐれも油断しない事だ。彼は去年とは比較にならないぞ)」

 

ここで赤司は目を瞑った。

 

「…ふん、下らない事を」

 

「…赤司?」

 

おもむろに一人事を呟いた赤司に対し、二宮が声を掛けた。

 

「なんでもない。それよりも、この体たらくは何だ?」

 

立ち上がり、選手達に振り返る赤司。

 

『っ!?』

 

その時、洛山の選手達は気付いた。赤司の雰囲気が変わっている事に。

 

「充。油断をした挙句、マークを外すとは何事だ。洛山のインサイドを任されている者がそんな様でどうする。交代させられたいのか?」

 

「…っ、スマン」

 

見下ろすように睨み付ける赤司の視線に身体を強張らせながら謝罪をした。

 

「大智。お前の仕事は点を取るだけではない。お前が天野に良い様にリバウンドを取られているせいで流れに乗り切れていない。いつまでも永吉がいた去年とは違う事に気付け」

 

「…っ! あぁ」

 

同じく謝罪をする四条。

 

「秀平、彰人。お前達もリバウンド争いが不利になったくらいで消極的になりすぎた。何の為に今日まで練習をしてきた。ここで決める為だろう」

 

「…スマン」

 

「…あぁ、その通りだ」

 

続いて2人も謝罪をした。

 

「無冠の五将と称されたあの3人と資質では決して劣らないものを持ちながら最後まで彼らからスタメンを奪えなかったのはそのお前達の弱さにある。頂点を目指しながら心はまだ屈したままだ。中学時代の時のようにな」

 

『っ!?』

 

「お前達はもう敗北者ではない。僕が言える筋合いはないだろうが、お前達はもう、僕ら(キセキの世代)と戦い、頂点を目指せるだけの強さを持っている。それは僕が保証する。だから、心の弱さと甘さはこのベンチに置いていけ。それが出来ないなら交代を申し出ろ」

 

『…』

 

「僕からは以上だ。…監督、すいません、貴重なタイムアウトの時間を」

 

「構わん。細かい指示は出せなかったが、充分意義はあった」

 

頭を下げる赤司に対し、白金はそれを制したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のコールが鳴った。選手達がコートへと戻って来る。両チームとも交代はなし。

 

「…ふーん、このタイムアウト中に何があったかは知らないが、ここからまた一味違って来そうだな」

 

タイムアウト前と明らかに顔付きが違う洛山の選手達を見て何かを感じた空。

 

審判から三村がボールを受け取り、赤司にパスを出して試合が再開された。

 

「っ!?」

 

ボールをキープする赤司の前に立ち塞がる空。空は赤司の変化に気付いた。

 

「なるほど、お出ましか」

 

ニヤリと笑みを浮かべる空。

 

「ここまでこの僕に歯向かったんだ。ただでは済むと思わない事だ」

 

「上等。実質、去年凹ませされたのはあんたの方だ。まずはあんたからぶっ潰してやる」

 

表情を改める空。

 

「不可能だ。お前程度では僕には届かない」

 

そう言って、赤司は目を見開いて左右にボールを切り返し始める。

 

「…っと、俺にはアンクルブレイクは効かねえ。まさか忘れてねえだろうな?」

 

僅かに崩れたバランスをすぐさま立て直す空。

 

「無論、覚えているさ。今のは眼の試運転をしただけだ。…充分だ。次でお前の横を抜ける」

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

再び左右に切り返す赤司。

 

「っ!?」

 

空の重心が左足にかかった瞬間、赤司が一気に加速。空の右手の方向から切り込み、空を抜きさった。

 

「…んのやろう!」

 

左足に重心がかかってしまっている空は追いかける事が出来ない代わりに後方に倒れ込みながらバックチップを狙いに行った。

 

「無駄な足掻きだ」

 

 

――スッ…。

 

 

直後、赤司はボールを掴んでターンアラウンドで反転。空の伸ばした手をかわした。

 

「そのまま地べたで僕を見上げていろ」

 

赤司はリングに視線を向け、シュート態勢に入った。

 

「…っ! 調子に乗ってんじゃねえ!」

 

空は伸ばした右手を床に付け、力を込めて強引に立ち上がると同時にその場で飛び上がった。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

赤司が思わず目を見開いて。赤司がジャンプショットに空がブロックに伸ばした指先に触れたのだ。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールが触れた事で軌道が変わり、リングに弾かれた。

 

「おらぁ!」

 

リバウンドボールを天野が気合いと共に抑えた。

 

「…ちっ!」

 

睨み付けるように空に振り返る赤司。

 

「何驚いてんだよ。あんたの言ったままだ。…足掻きだよ」

 

空は不敵に笑みを浮かべたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





つい数週間前までTシャツ短パンで過ごせてたのに特に朝の冷え込みが半端ない。日中は結構ポカポカして暖かいのに…(・ω・)

お気に入りのジーンズとベルトが同時に逝きました。買いに行かんと。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。