黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

広げ過ぎた風呂敷が広すぎて畳み方を見失っている作者です…(;^ω^)

それではどうぞ!



第136Q~ナンバープレー~

 

 

 

第2Q、残り9分47秒。

 

 

花月 19

洛山 21

 

 

「(今、何て言った?)」

 

「(確かに、53と聞こえました…)」

 

赤司が口にしたナンバーを聞いて空と大地が戦慄を覚えた。次の瞬間!

 

 

――ピッ!!!

 

 

「っ!?」

 

赤司が矢のようなパスをハイポストに立つ四条に出した。ボールを受けた四条は間髪入れず右45度付近のスリーポイントラインの外側に移動した三村にパスを出した。

 

『っ!?』

 

そこから矢継ぎ早にパスが繰り返される。

 

「(あっかん…、パスが速すぎる…!)」

 

「(パスのスピードが上がった!?)」

 

「(くそっ、チェックが追い付かん!)」

 

さらにスピードが増したパスワークに花月の選手達は困惑を隠せない。

 

「あっ!?」

 

思わず生嶋が声を上げる。生嶋の視線の先、二宮が左45度付近のスリーポイントライン外側でフリーでボールを受けた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

慌ててチェックに向かった生嶋だったが間に合わず、二宮がスリーを決めた。

 

『うわぁぁぁっ!!! 何だこのパスワークは!?』

 

『何が何だか分からないうちに決まっちまった!?』

 

あまりのパスワークとパススピードに観客からもどよめきが上がっていた。

 

「1ON1だけがバスケではない。こういったパスも極めれば強力な武器になる」

 

ディフェンスに戻る際、赤司が空の横で立ち止まる。

 

「これは俺ではなく、絶望しても尚立ち上がり、勝つ為に死に物狂いで身に着けた彼らの武器だ。止められるものなら止めてみるといい」

 

そう告げると、赤司はディフェンスに戻っていった。

 

「赤司は確かに53って言いやがった。てことは、洛山にはセットオフェンスのパスルートが少なくとも53もあるって事か…っ!」

 

拳をきつく握り込む空。

 

試合中に50を越えるパスルートを特定し、かつ見破って先回りするのは不可能に近い。

 

「ちっ」

 

思わず舌打ちが飛び出る空。第2Q早々にエースで先手を取りに行った花月だったが、すぐさま洛山に取り返されるのだった。

 

 

花月のオフェンス…。

 

「もう見切りを付けやがったか…」

 

ボールを運ぶ空。大地に三村と四条がダブルチームでマークをしている。

 

「(せめてこのQくらいは粘ってくれると思ったが、決断が速い。さすがは歴戦の王と言った所か…)」

 

ベンチに座る上杉が心中でその決断の速さを称賛した。

 

ダブルチームはディフェンスの1つであるが、極論を言えばその対象を1人では止められないとマッチアップする選手に告げるようなものである。実力やプライドの高い選手程受け入れられるものではない。だが、洛山の選手は1度の攻防で力の差を認め、選手自らの決断でダブルチームを敷いた。

 

「(だが、2人で今の大地を止められるかよ!)」

 

構わず、空は大地にパスを出した。

 

『来た! 綾瀬だ!』

 

大地にボールを渡り、観客が声を上げる。

 

「っ!?」

 

すると、すかさず三村と四条がチェックに入ったのだが、そのディフェンスを見て大地が目を見開いた。

 

四条は大地の前で適度な距離を保ってディフェンスをしているのに対し、三村は大地の右側…やや後ろに立ってディフェンスをしているのだ。

 

『何だよあれは!?』

 

『それじゃディフェンスの意味がねえだろ!』

 

奇功ともいえる三村のディフェンスに観客席からも野次のような言葉が飛ぶ。

 

「何のつもりだ!?」

 

ベンチの菅野も三村のディフェンスに疑問を抱いた。

 

この会場にいる大半の者が三村のこの行動に疑問を抱いている。だが、実際目の前でディフェンスを受けている大地は本人は…。

 

「…っ」

 

僅かに表情を曇らせていた。

 

「(やり辛いですね。右側に立たれると…)」

 

かなりやり辛さを感じていた。右側に立たれている為、利き手の右手が使いづらい。強制的に左手でのプレーが強いられる為、窮屈さを感じていた。

 

「…」

 

目の前の四条にしても、純粋な1ON1ならまだしも、利き手に制限がある状況で容易く降せる相手ではない。

 

「大地!」

 

見かねた空が中へ走り込み、ボールを要求する。

 

「任せます!」

 

大地はすかさず空へとパスを出す。

 

「っと」

 

空がボールを掴むとすぐさま赤司が立ち塞がる。すると空はボールを後ろへと放った。

 

「ええパスや!」

 

そこへ走り込んでいた天野がボールを掴み、シュート態勢に入った。

 

「ちっ、打たせるか!」

 

舌打ちをしながら四条がヘルプに行き、ブロックに飛んだ。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

しかし間に合わず、ジャンプショットが決まった。

 

「ナイス天さん!」

 

「おおきに!」

 

空と天野がハイタッチを交わす。

 

「くそっ…」

 

「いい、気にするな」

 

得点を防げず、悔しがる四条、赤司が肩を叩きながら励ました。

 

 

「27!」

 

 

――ピッ!!!

 

 

洛山のオフェンスが始まると、フロントコートにボールが運ばれたのと同時に赤司がセットプレーのナンバーをコールし、今年の洛山の代名詞である高速のパスワークが始まる。

 

「…くっ!」

 

「目が追い付かんわ!」

 

矢継ぎ早にボールを人が行き交う洛山のパスワークに翻弄される松永と天野。

 

「(フィニッシュは誰で来る!? そいつさえ分かれば!)」

 

ボールの動きを注視しながら空がラストパスの相手、得点を決めにくる選手を探る。その時…。

 

「っ!?」

 

五河が松永のマークを外し、フリーになっている事に気付いた。

 

「(お前か!)」

 

ショットクロックが残り9秒になった所で二宮にボールが渡り、それと同時に空が五河と二宮のパスコースに割り込んで塞いだ。

 

「…っ」

 

すると、二宮がボールを掴んでパスを止めた。

 

「(ドンピシャ、ここだ!)」

 

好機と見て空が二宮との距離を詰める。

 

「46だ!」

 

ここで赤司が新たなナンバーをコールした。

 

 

――ピッ!!!

 

 

これを聞いた洛山の選手達が新たな動きを見せた。赤司が中へと走り込んだ。

 

「くそっ、やらせ――」

 

赤司を追いかけようとした空だったが、四条のスクリーンに阻まれてしまう。二宮から赤司にボールが渡り、フリースローラインを少し越えた所でボールを掴んで構えた。

 

「あかん、させへんで!」

 

慌てて天野がヘルプに走り、ブロックに飛んだ。だが、赤司はシュートを放たず、ゴール下に立った五河にパスを出した。

 

「ちぃっ!」

 

それを見た松永がシュートを打たれる前にチェックに向かう。しかし、五河はシュートを打たず、逆サイドに走り込んでいた三村にパスを出した。

 

「打たせませんよ」

 

そこにすかさず大地が目の前に立ち、ディフェンスに入る。三村はこれに動じず、ボールを横へと出した。そこへ、先程スクリーンをした四条がハイポスト付近に走り込み、ボールを掴み、シュート態勢に入った。

 

「…くっ」

 

すぐさまブロックに向かう大地。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

四条は後ろに飛び、大地のブロックを避けながらフェイダウェイシュートを放ち、得点を決めた。

 

「よーし!」

 

得点を決めた四条は拳を握りながら喜びを露にした。

 

「くっそ、確かに最後のパスターゲットは読んだのに、セットプレーのナンバーを変えてきやがった…」

 

パスコースを塞いだ際の二宮を反応を見て、最後は五河で得点を決める事になっていたのは間違いなかった。だが、赤司がすぐさま新たなナンバーをコールし直した。

 

「(実際の所、セットプレーの数がいくつあるかは分からねえが、それを読み切るなんざ不可能だ。だったら…)…失点が防げねえならその倍点取るだけだ。走れ!」

 

『おう!!!』

 

スローワーとなった松永からボールを受け取った空は檄を飛ばし、花月の選手全員がフロントコート目掛けて走り出した。

 

「強引にこっちのペースに引き込むだけだ!」

 

「やってみるといい。出来るものならね」

 

「っ!?」

 

フロントコートに突入した所で空の目の前に赤司が現れる。

 

「…ちっ」

 

思わず足を止めた空。その間に続々と洛山の選手達が自陣に戻り、ディフェンスを敷いた。

 

「神城の速攻に追い付いた!?」

 

「いえ、赤司さんはパスを出したのと同時に戻っていました。恐らく、神城君がラン&ガンを仕掛けてくる事が読まれていたのかと…」

 

驚く菅野に姫川が私見を口にする。姫川の考えは当たっていた。赤司は空が今のペースを嫌って得意の速いペースに切り替えてくる事を予測し、得点が決まる前に戻っていたのだ。

 

「あくまでも自分達のペースでやらせようって事かよ」

 

自分達の得意のペースに持ち込めず、苛立つ空。

 

「…」

 

「…」

 

赤司に足とボールが止められ、洛山のディフェンスが構築され、攻め手を定める。が、洛山の堅い守りを前に有効的な攻め手が決まらない。

 

「(…だったら、自分の手で作り出すだけだ!)」

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

意を決して空が高速のハンドリングを繰り出し始めた。

 

『出た、神城の必殺のドライブ!』

 

キセキの世代すら出し抜いた空の必殺ドライブ、インビジブルドライブ。

 

「…」

 

目の前で左右に高速で切り返し続ける空。

 

 

――キュッ!!!

 

 

「っ!?」

 

後ろへと下がって距離を取った赤司。広がった視野で空の姿を捉えた。

 

「…ちっ、これもダメか」

 

破られた事を悟った空は切り込まず、その場でボールを掴んでシュート態勢に入った。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、シュートを放とうとボールを頭上にリフトさせようとした瞬間、距離を詰めた赤司がボールを叩いた。

 

「くそっ!」

 

空の背後に零れるボールを空が倒れ込みながら右手を伸ばして強引に手中に収め、ボールを左サイドにいる生嶋にビハインドパスで渡した。

 

「打たせねえよ」

 

生嶋にボールが渡ると、すかさず二宮がチェックに入った。

 

「っ!?」

 

密着する程の二宮の激しい当たりに生嶋はボールをキープするので精一杯になる。

 

「イク! こっちや!」

 

ハイポストに立った天野がボールを要求。声を掛けた。

 

「お願いします!」

 

何とか二宮のディフェンスを掻い潜って天野にパスを出した。ボールを受け取った天野は反転してリングの方向に身体を向けてシュート態勢に入った。

 

「させるか!」

 

大地をダブルチームでマークしていた四条がヘルプに向かい、ブロックに飛んだ。だが、ブロックは紙一重で間に合わなかった。

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!? しもた! リバウンド!」

 

ヘルプに来た四条に動揺し、速いリズムで打たされた為、指が掛かり過ぎて外れてしまう。

 

「おぉっ!」

 

「…ぐっ」

 

リバウンド争い、五河がスクリーンアウトで松永を抑え込み、絶好のポジションを確保した。

 

「っしゃぁっ!」

 

気合い一閃で五河がリバウンドボールを確保した。

 

「赤司!」

 

「よくやった。速攻だ!」

 

五河から赤司のボールが渡り、赤司が号令を出し、洛山の選手達が駆け上がった。

 

「あかん! 戻れ!」

 

悲痛に叫ぶ天野。

 

「ここは行かさねえ」

 

「止めます」

 

空と大地が誰よりも速くディフェンスに戻り、洛山の選手達を待ち構えた。

 

「19!」

 

速攻に走りながら赤司がセットプレーのナンバーをコールした。

 

 

――ピッ!!!

 

 

ボールを回しながら速攻に駆け上がる洛山の選手達。

 

「落ち着け! 自分のマークを絶対に外すな!」

 

空が大声で鼓舞をする。

 

「そうだ。マークを外さなきゃシュートは打てないんだ」

 

「だが、話はそんなに簡単ではない」

 

祈りながらポツリと呟いた帆足。だが、上杉が顎に手を当てながら低い声で呟いた。

 

「高速で動くボールを追いながらマークをし続けるのは簡単な事ではない。パスを1つ出す度にマークが遅れる。そしてその遅れが積み重なれば…」

 

ボールがゴール下に走り込んだ五河に渡る。

 

「ノーマークの選手を作り、致命的な隙となる」

 

「くそっ!」

 

ゴール下から得点を狙いに行く五河。慌てて松永がブロックに向かう。

 

 

――ドン!!!

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『プッシング! 赤8番(松永)!』

 

ボールを放つ直前、ブロックに向かった松永と接触。ファールがコールされた。ボールはリングのクルクルと回り、リングの外側に零れ落ちた。

 

『フリースロー!』

 

審判はフリースローをコールした。

 

「すいません」

 

「今のは仕方あらへん。得点を阻止出来ただけでもよしとしようや」

 

気落ちする松永の肩を叩きながら励ます天野。

 

 

――ザシュッ!!! …ザシュッ!!!

 

 

「くそっ、きっちり決めやがった!」

 

きっちりフリースローを2本決めた五河。それを見て菅野が悔しがった。

 

「1本! 取り返すぞ!」

 

ボールを運ぶ空が指を立てながら声を出した。

 

「むしろ、深刻なのはディフェンスよりオフェンスです」

 

ベンチの竜崎が口を開く。

 

洛山のディフェンスはマンツーマン。大地に三村と四条がダブルチームで付いており、天野が空いている状態だ。

 

「天野先輩に打たせるように仕向けています」

 

コートでは、他の4人にはピタリとマークしているのに対し、天野にボールが渡るとよほどリングに近いポジションでない限りチェックには消極的であった。

 

「けどよ、天野は別にシュートが下手な訳じゃねえんだぞ?」

 

菅野が口を挟む。

 

「はい。…ですが、失礼ながら、そこまで長けている訳でもありません。多少チェックが遅れてもプレッシャーをかけてタフショットを打たせてしまえば確率はそこまで高くありません」

 

 

――ガン!!!

 

 

「っ!? ちぃっ!」

 

フリーとなった天野がジャンプショットを放つもリングに嫌われてしまう。

 

「そして、天野先輩がシュートを打ったと言う事はリバウンド争いには参加出来ません」

 

「よーし!」

 

「くそっ!(…パワーだけじゃない、スクリーンアウトも天野先輩並みに上手い…!)」

 

リバウンドボールを松永を抑え込んだ五河が抑えた。

 

「ディフェンスでは止められず、オフェンスでは確率の低いシュートを打たされ、リバウンドは取れない。このままではマズイです」

 

深刻な表情で竜崎が告げた。

 

「走れ、速攻だ!」

 

五河からボールを受け取った赤司は掛け声と共にフロントコートへ駆け上がる。

 

「ディフェンス! 絶対止めんぞ!」

 

ディフェンスにいち早く戻った空が声を張り上げる。

 

「55だ!」

 

赤司がセットプレーのナンバーをコールする。

 

「ちっくしょう、まだ上があんのかよ!?」

 

赤司の口から出た数字を聞いてその数に文句を言う空。コート上では洛山の選手達が自在に動き回りながらボールを動かしている。

 

「(自分のマークは絶対外さへん!)」

 

「(パスに惑わされるな、ボールと自分のマークから目を離すな!)」

 

自分自身の言い聞かせるようにしながらディフェンスに臨む天野と松永。ショットクロックが残り6秒になった所でボールが左45度付近のスリーポイントラインの外側に走り込んだ二宮に渡った。

 

「打たせないよ」

 

シュート態勢に入る前に生嶋がチェックに入った。

 

「よっしゃ止めた!」

 

打たれる前にディフェンスに入った生嶋を見て菅野が拳を握った。

 

「あぁ、だが…」

 

だが、上杉は胸の前で腕を組みながら神妙な表情をしていた。

 

二宮はポンプフェイクをいれてからドリブルで中に切り込んだ。

 

「…っ、行かせない」

 

生嶋は僅かにフェイクに反応するも二宮を追いかける。直後、二宮がボールを掴んでターンアラウンドで反転し、シュート態勢に入った。

 

「っ!?」

 

ハンズアップをした生嶋。しかし、二宮はまたもやポンプフェイクを入れた。生嶋が両腕を上げたのを見て後ろに飛びながらジャンプショットを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

「よし!」

 

放たれたボールはリングを射抜いた。

 

「あっ…」

 

「例え何とかマークし続けられたとしても、奴らには独力で決められるだけのテクニックがある」

 

得点を決められ、気落ちする菅野。上杉がさらに厳しい現実を突きつけた。

 

「マズイですよ。オフェンスかディフェンス。どちらか1つでも突破口を開かないと点差は開き続けます」

 

真剣な表情だが焦りを含ませた声で竜崎が言った。

 

 

続く花月のオフェンス…。

 

「空!」

 

ボールを運ぶ空に向かって大地が直接ボールを貰いに行く。空はすれ違い様に手渡しでボールを渡し、さらに追いかける三村のスクリーンの役目も果たした。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

空からボールを受け取った大地は直後に身体をリングに向け、スリーポイントラインから1メートル程離れた所からスリーを放ち、決めた。

 

「良いぞ大地!」

 

パチン! と空と大地がハイタッチを交わした。

 

「所詮は単発だ。何度も続かない。きっちり返すぞ」

 

あくまでも赤司は動じず、選手達に冷静に指示を出した。

 

 

――ピッ!!!

 

 

再び洛山の高速でのパスワークが始まる。

 

『…っ』

 

困惑しながらも花月の選手達は歯を食い縛りながらこの素早いボール回しに付いていく。パスコースが読めている訳ではないが、何度も見せられてある程度このパスワークに適応し始めていた。

 

「…なるほど、伊達に陽泉や鳳舞、海常に勝った訳ではないと言う事か」

 

がむしゃらながらパスワークに対応する花月の選手達に賛辞の言葉を贈る赤司。

 

「だが甘い。その程度で止めたと思わない事だ」

 

 

――ピッ!!!

 

 

ここで赤司はボールをリングに向かって放り投げた。すると、ボール目掛けて三村が走り込み、飛び付き、両手で掴んだ。

 

『まさか!?』

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

両手で掴んだボールをそのままリングに叩きこんだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

三村のアリウープに観客が盛大に沸き上がった。

 

『…』

 

リングを掴んだ手を放して床に着地する三村。その光景を茫然と見つめる花月の選手達。

 

「パスコースは下だけではない。上にもあると言う事だ」

 

そう空に告げ、赤司はディフェンスに戻っていった。

 

「…っ」

 

空は両手の拳をきつく握りしめたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

ベンチの上杉が立ち上がり、オフィシャルテーブルに向かい、タイムアウトの申請をした。だが、タイムアウトは時計が止まらなければコールされない。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

空から天野を中継して松永にボールが渡るも、五河にブロックされてしまう。ボールが奪われ、ターンオーバーとなり、洛山の速攻。

 

 

――ピッ!!!

 

 

高速のパスで花月のディフェンスを翻弄しながらチャンスを窺う洛山。中に走り込んだ三村にボールが渡った。

 

「…っ」

 

慌てて大地がチェックに向かう。しかし、三村はボールを掴むとすぐさま後ろへとボールを放った。すると、リングから正面付近のスリーポイントライン外側で赤司がボールを掴み、スリーの体勢に入った。

 

「させっかよぉっ!!!」

 

 

――チッ…。

 

 

賢明にブロックに飛んだ空の指先に僅かにボールが触れた。

 

 

――ガン!!!

 

 

赤司が放ったスリーはリングに弾かれた。

 

「「リバウンド!」」

 

空と赤司が同時に声を出す。

 

「…くっ!」

 

苦悶の声を上げる天野。四条はボールは二の次で天野を身体を張ってリングから遠ざけていた。

 

 

――ポン…。

 

 

弾かれたボールを五河がタップで押し込んだ。

 

「くそっ!」

 

悔しがる松永。

 

「(早く…、お願い、止まって!)」

 

開いていく点差を見て姫川が祈る。

 

続く花月のオフェンスも失敗し、ターンオーバーしてしまう。

 

 

――ドン!!!

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ホールディング! 赤6番(大地)!』

 

見かねた大地が三村に接触、ファールがコールされる。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

『チャージドタイムアウト、花月!』

 

同時に上杉が申請していたタイムアウトがコールされた。

 

 

第2Q、残り5分26秒。

 

 

花月 24

洛山 34

 

 

『ハァ…ハァ…』

 

翻弄され続けた花月の選手達疲弊しながらベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

洛山ベンチ…。

 

「悪くない。プラン通りだ」

 

ベンチに座る洛山の選手達。白金が選手達の前で労った。

 

「タイムアウト後もプランに変更はない」

 

続いて白金が指示を出した。

 

「このまま突き放す。花月を相手に点差はいくら開けても安全とは言えない。最後まで攻め立てて点を取りに行くぞ」

 

『おう!!!』

 

白金の後に赤司が指示を出した。

 

「(去年、一昨年の洛山は私が受け持った中で最強と呼べるチームであった。だが、今年の洛山は私が受け持った中で最高のチームかもしれないな…)」

 

頼もしい選手達を見て白金が心中で思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『…』

 

ベンチに戻った花月の選手達。その表情は暗い。

 

『…』

 

ベンチの選手達もかける声が見つからない。突破口の見えない現状に沈黙するしかなかった。

 

「あーつえーな。やっぱり洛山はつえー」

 

沈黙を破ったのは空。タオルで顔の汗を拭いながら喋り始めた。

 

「けど何故だろうな。スゲーワクワクする」

 

タオルを降ろして首にかけると、空は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ワクワクしとる場合ちゃうぞ。この手詰まり状況、何か考えあるんか?」

 

そんな空に呆れながら天野が尋ねた。

 

「とりあえず、メンバーとディフェンスを変える。監督、いいですか?」

 

「考えがあるんだな?」

 

上杉が尋ねると、空はコクリと頷いた。

 

「まずは、生嶋、交代してくれ」

 

「僕?」

 

自分を指差しながら尋ねる生嶋。

 

「あぁ。代わりに、室井、入ってくれ」

 

「…自分ですか?」

 

指名を受けると思わなかった室井は思わず尋ね、上杉の方へ視線を向ける。すると、上杉は無言で頷いた。

 

「ポジションはセンターだ。松永は急で悪いが3番(スモールフォワード)に入ってくれ」

 

「3番? …分かった、とりあえず従おう」

 

意図は理解出来なかったが、松永は了承した。

 

「大地は2番(シューティングガード)だ。そんで、ディフェンスはマンツーマンディフェンスから2-3のゾーンディフェンスに変える。前に左から俺と大地。後ろは左から天さん、室井、松永だ」

 

「2-3ゾーンって、相手は全員外があるんですよ? 大丈夫なんですか!?」

 

思わず竜崎が尋ねた。ゾーンディフェンスは中が厚くなる分外からの攻撃が弱点となるディフェンスである。洛山相手にゾーンディフェンスは無謀であり、事実、昨日の試合では中宮南が失敗している。

 

「心配はいらない。向こうの外は俺と大地で全てシャットアウトする」

 

『っ!?』

 

この言葉に花月の選手達は目を見開いた。

 

「やれるな、大地?」

 

「…やるしかないみたいですね。ならばやりましょう。任せて下さい」

 

大地は苦笑しながら了承した。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、タイムアウト終了のコールが鳴る。

 

「さあ行くぜ、洛山に目にモノ見せてやる」

 

不敵な笑みを浮かべながら空が立ち上がり、コートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「点差開いてきたッスね」

 

背もたれに体重を預ける黄瀬。

 

「ま、もともと戦力に差があるからな」

 

その言葉に答えるように口を開く青峰。

 

「けどまあ、それ以上に今の状況を作り出してるのは、偏に、司令塔の差だ」

 

「赤司君と神城君?」

 

青峰の言葉を聞いて尋ねる桃井。

 

「攻守で的確に指示を飛ばしてる赤司に対して、神城は完全に後手後手だ。その差は一目瞭然だな」

 

「厳しいッスね。あれでも赤司っち相手によくやってると思うんスけどね」

 

辛い評価を付ける青峰に対し、黄瀬が擁護する言葉をかけた。

 

「よくやったじゃ意味ねえんだよ。負けたら終わりなんだ。どんなに努力しようが健闘しようが、勝てなきゃ意味がねえ」

 

「「…」」

 

それでも厳しい言葉をかける青峰に黙り込む黄瀬と桃井。

 

「それに赤司はまだ指示を出してるだけでまだ派手な動きはしてねえ。このまま何も出来なきゃ花月は完敗する」

 

断言する青峰。

 

「…赤司君相手じゃ今の神城君じゃ無理かな」

 

「…普通に考えりゃな」

 

ここでタイムアウトのブザーが鳴った。

 

「このままならな…」

 

青峰は、不敵な笑みを浮かべながらコートに入ってくる空に視線を向けながら呟いた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

第2Qに入り、洛山が猛威を振るい始めた。

 

あらゆるパターンの素早いパスに翻弄される花月の選手達。

 

劣勢を強いられる花月。空のアイディアでメンバーとディフェンスを変える。それが吉と出るか凶と出るか。

 

再び試合が再開される……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





戦術が高度になればなるほど迷走していく…(;^ω^)

スポーツは経験してみないと分からない事がある。今まさにそこに直面している気分です。

ていうか、洛山の選手達は設定上は無冠の五将的な立ち位置なのに、キャラをほとんど掘り下げてないせいで、何か異常に強いモブみたいになってるな…。その辺り少し後悔してきたorz

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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