黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

足を痛め、足が快方に向かい始めた瞬間、今度は腰やったorz

それではどうぞ!



第133Q~決意~

 

 

 

準々決勝終了後、準決勝前夜…。

 

「…改めて見ても、言葉が出ないな」

 

場所は花月の選手達が泊まるホテルの一室。ホテルに戻った選手達は各々汗を流し、夕食を終えた後、明日の試合のスカウティングの為に集まっていた。

 

「率直に、今年の洛山は付け入る隙が見当たりません。海常も攻守共にバランス取れたチームでしたが、チーム単位で見れば、洛山は海常を凌いでいます」

 

情報を纏めた自身のノートを見ながら姫川が説明をしていく。

 

「スタメン全員が外からでも切り込んで中からでも点が取れる上、連携も抜群。そして身体能力もテクニックも全国上位レベルと来たもんだ。去年もそうだが、相変わらず洛山は反則レベルだな…」

 

苦笑する菅野。

 

万能型のオールラウンダーを揃えた洛山。その高い総合力と連携は全国随一。

 

「圧倒的な個で戦う去年の洛山の方がまだやりようがあった。ここまでのチームの練度は俺も長い事高校バスケを見てきたが今までに見た事がない。恐らく、大学、社会人を見渡してもあるかどうか…」

 

上杉も洛山を高く評価した。

 

「バスケに限らず、学生スポーツでは短所を直すより長所を伸ばすのが一般的やけど…」

 

「中学時代にはキセキの世代、高校に入ってからは無冠の五将と、圧倒的な才能を持った選手がいたので長所を伸ばすより短所をなくして試合出場機会を増やすようにしたのでしょう」

 

大地が自身の考察を口にした。出来る事が多く、欠点がなければ試合出場の機会にも恵まれやすくなる。

 

「…さて、どう戦うか。これだよな」

 

空が本題を口にする。

 

『…』

 

この問いかけに、誰も答えを口にする事は出来なかった。

 

「とりあえず序盤は綾瀬を中心に戦うってのはどうだ? 神城には恐らく赤司が付くだろうし、黄瀬と互角に戦った綾瀬ならいけるんじゃないのか?」

 

室内に沈黙が占める中、菅野が代案を口にした。

 

「…まぁ、それも1つの手ですよね」

 

賛同はするものの、何処か乗り気ではない空。

 

「何か気にかかる事があるのか? お前ならてっきり賛成かと思ったんだがな」

 

大地を強く信頼する空が渋った表情をしているを見て、松永が疑問を口にした。

 

「いや、大地ならこの洛山の誰が来ても勝てるとは思うぜ。けどよ、向こうがそれを予想してこないと思うか?」

 

賛同しきれない理由を空が述べる。

 

「それに、どのみち大地一辺倒じゃ早いうちに対策を敷かれる事は間違いないでしょうから、大地と、他に何かと併用して攻めたい所だな」

 

『…』

 

再び室内を沈黙が支配する。その後も各自が意見を出すが、決定打になるような作戦を出なかった。

 

「…」

 

空がおもむろに立ち上がると、部屋を後にしようとした。

 

「何処へ行くの?」

 

そんな空を見て姫川が尋ねる。

 

「ちょっと外歩いてくる」

 

そう返し、空は部屋を後にした。

 

「ちょっと、神城君!」

 

部屋を出ていった空を追いかけようとする姫川。

 

「構わん。行かせておけ」

 

追いかけようとした姫川を制止する上杉。

 

「ですが…」

 

「今は気分転換をさせておきましょう。明日の試合、空が負う責任は重大ですから」

 

尚も気に掛ける姫川に対し、大地が言葉をかける。

 

「そっか、くーは主将だし、何より、明日くーが相手するのは間違いなく…」

 

ここで生嶋は言葉を止める。

 

明日の試合、空がマッチアップするのは間違いなくあの赤司である。昨年はどうにか食らいつくので精一杯で、力の差を見せつけられた相手。今回は三杉と堀田の助力はなく、自身の手でどうにかしなければならない。

 

「うちは何だかんだ空坊の調子に左右される所があるからのう。せめて開き直ってもらわんとな」

 

ケラケラ笑いながら天野がその場を和ませたのだった。

 

「ふぅ、とりあえず、ミーティングはここで一旦中断だ。1時間後にもう1度この部屋に集合だ。それまでは各自自由時間とする」

 

上杉がそう言って部屋を後にする。

 

『…』

 

これに続いて部屋を後にする者、再度試合映像に目を通す者と別れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

部屋を出て、ホテルの外を出た空は辺りを散歩していた。

 

「…さて、どうすっかな」

 

誰に言ったのではなく、1人呟く空。

 

これまで空がマッチアップを担当してきた相手は、空自身自分の方が上だと言う自負があった。しかし、明日の相手は赤司。実績、テクニック面では間違いなく格上の相手である。

 

「…」

 

赤司を相手に昨年と同じ結果になれば間違いなく花月は負ける。今日の試合で1人で何かも背負い込む事はないと松永に言った空だったが、それでも自分には責任があると考える。

 

「さて…」

 

自販機を見つけた空は小銭を取り出して硬貨を投入口に入れ、ボタンを押した。ガチャン! の音と共に落ちてきた飲み物を取り出し、蓋を開けて口にした。

 

「まっず! やっぱ冒険なんかするもんじゃねえな…」

 

地元では見た事のない飲み物があったので物珍しさで買ってみたものの、あまりの不味さに思わず吹き出した。

 

「何やってんだお前?」

 

そんな空に話しかける声が聞こえた。

 

「あん? ……っ!? あんた、青峰大輝?」

 

薄暗くて当初は姿を確認出来なかったが、建物の影から現れたのは青峰だった。

 

「ちっ、呼び捨てかよ。俺のが1個上だ。ちったぁ言葉に気を付けろ」

 

呼び捨てにされた青峰は軽く眉を顰める。

 

「あんた偉そうに人に言葉遣いを注意出来るような玉じゃねえだろ。去年のあんたらの主将にメチャメチャタメ口聞いてたじゃねえか」

 

「あいつは別に良いんだよ。うるせーだけの奴だったからな」

 

「…あんたみたいな後輩絶対持ちたくねえ」

 

傍若無人の振舞いに空はげんなりしたのだった。

 

「つうか、何であんたこんな所にいるんだよ。確か地元東京だろ?」

 

既に桐皇は3回戦で敗退している。チームは当然地元に帰省しているはずなのだが…。

 

「これだよ。東京に戻ってもこの足じゃバスケは出来ねえからな。そんで暇だから、さつき……俺ん所のマネージャーの親戚の家が近くにあっからそこに泊まりながら試合観戦してんだよ」

 

足元のサンダルの下のテーピングを指差しながら事情を説明する青峰。

 

「んで? お前はこんな所で何しょぼくれてんだ?」

 

「あぁ? 誰がしょぼくれて――」

 

「洛山の試合でも見てビビったのか?」

 

「っ!? 誰がビビるかこらぁ!」

 

確信に近い事を言い当てられ、思わず怒鳴る空。

 

「図星か。情けねえ奴だ」

 

「だからちげーって言ってんだろが!」

 

「デケー声出すな。時間考えろ」

 

小指で耳をほじりながら青峰は自販機で飲み物を購入した。

 

「洛山か、確かに、少しばかりは手こずりそうな相手だな」

 

「…そういや、今年の洛山のスタメンは全員帝光出身なんだってな?」

 

「赤司以外の奴はよく知らねえな。そういやいたような気がすっけどな」

 

「あんた、とことんいい性格してんな」

 

かつてチームメイトの顔すら忘れている青峰に呆れる空。

 

「所詮その程度の奴等って事だ。そんな相手に何ビビってんだ? 昔のお前はそんなビビりじゃなかっただろ」

 

「昔の俺って、あんたに俺の何が…! ……ん? そういえば…」

 

この言葉に何か記憶に引っ掛かるものを覚えた空。

 

「………あっ!? 思い出した! あんた、昔東京で迷子になった時にストリートバスケのコートにいたガングロか!?」

 

ここで昔の記憶が蘇った空。

 

「思い出した。今思い出した! あんたのせいで俺は親父に拳骨食らったんだぞ!」

 

「それはてめえの自業自得だ。都合の良い様に記憶を変えてんじゃねえ」

 

呆れた表情で言い返す青峰。

 

「相変わらずうるせーバカだ。そんなバカでよく司令塔やってんな」

 

「誰がバカだ! あんたには言われたくねえ!」

 

「…ふん」

 

鼻で返事をして青峰は飲み物を一口飲んだ。

 

「洛山に勝つには赤司を止める事が必須だ」

 

「あん?」

 

表情を改めた青峰が不意に語り出した。

 

「マークすんのはお前だろ? 止められんのか?」

 

「止めるに決まってんだろ」

 

睨み付けながら返事をした。

 

「…てめえには無理だな」

 

「何だと?」

 

即答で否定され、カチンときた空。

 

「あいつは中学から今まで全ての大会で予選から決勝まで戦ってきた。お前とは経験値がまるで違う」

 

「…」

 

全中三連覇。高校に進学しても、これまで全ての大会で決勝まで勝ち上がってきており、キャリアの面では空とはかなりの差がある。

 

「スピードしか能がねえお前の何処に勝機があるってんだ?」

 

「んなもんやってみなきゃ分かんねえだろうが」

 

「ふん、行き当たりばったりか。そんなんじゃ結果は知れてるな」

 

「うるせーよ」

 

持っていた飲み物を投擲し、ゴミ箱に投げ入れた。

 

「戦うのにグダグダ理屈なんざ必要ねえ。要は俺が赤司を…俺達が洛山を超えて勝てばいいだけの話だ」

 

そう告げると、空は元来た道を歩き始めた。

 

「あんた、明日も試合見に来るんだろ? だったら見せてやるよ。俺が赤司を倒してナンバーワンの司令塔になる所を。そして、俺達が勝つ所をな」

 

そう言い残し、空はその場を去っていった。

 

「…いちいちイラつく事言いやがって」

 

悪態を吐く空。だが、その表情は霧が晴れたように爽やかなものとなっていた。

 

「見てろよ。俺が絶対赤司を超えてやるよ」

 

誰にでなく、自分自身にそう宣言し、走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・

 

 

「大ちゃん」

 

空が去った後、物陰から桃井が現れた。

 

「んだよさつき。先帰ってろって言っただろうが」

 

「怪我人ほっといて帰れるわけないでしょ」

 

鬱陶しい気な顔する青峰。桃井は口を尖らせながら返した。

 

「道を歩いている神城君を見つけたと思ったら…、随分お節介焼きなんだね」

 

「そんなんじゃねえよ。…見るからに余計な事グダグダ考えてこんでる顔してやがったからな。仮にも黄瀬と紫原に勝った奴に無様な姿をさらされでもしたら腹が立って仕方ねえんだよ」

 

「明日はテツ君とかがみんとミドリンも試合するんだよね。どっちが勝つかな?」

 

「誠凛と秀徳は予想が付かねえな。ま、五分五分だろ。洛山と花月は、どういう見方しても優勢なのは洛山だな」

 

桃井の疑問に青峰が私見を述べた。

 

「…だが」

 

「?」

 

「花月の力は未知数だ。特に神城と綾瀬は試合をする事に進化してやがる。明日の試合中の間でも化ける可能性はある」

 

「…」

 

「さっきも言ったが、洛山に勝つには赤司を止める必要がある。赤司とは性格もタイプも歩んできた道も対極に近い神城なら、万が一の事が起こる可能性は、あるかもな」

 

飲み終えた缶ジュースを握り潰した青峰は、後ろ手でゴミ箱に投げ入れ、歩き出した。

 

「ちょっと大ちゃん! 先歩いて行かないでよ!」

 

その後を桃井が追って行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

1時間後、先程の部屋に選手達が戻ってくる。しかし、空の姿だけまだなかった。

 

「綾瀬、神城には連絡したんだろうな?」

 

「えぇ。1時間後に再集合とは連絡はしておきました」

 

松永に尋ねられた大地はそう返した。

 

「ったく、仮にも主将やねんから、その辺りはしっかりしてもらいもんやで」

 

苦笑しながら愚痴る天野。その時…。

 

「すいません、戻りました!」

 

勢いよく扉が開かれると、空がやってきた。

 

「遅いねん! それともうちょい静かに扉開け――って、何やその大量の汗は?」

 

入室してきた空は全身汗まみれとなっていた。

 

「上手く考えが纏まらなかったので、少しその辺走ってました」

 

「…元気だねー。今日は試合開始から延長戦までフル出場したのに」

 

そんな空を見て呆れ顔となる生嶋。

 

「それで、答えは出たのですか?」

 

そんな空に大地が尋ねる。

 

「あぁ。別に難しく考える事はなかった。俺達が洛山に勝つには、洛山を超えればいい。それだけだ」

 

真剣な表情で言う空。

 

『…』

 

冗談でも何でもなく言った空の真剣な言葉にその場にいた者達は言葉を失う。

 

「フフッ、空らしいですね」

 

最初に大地が吹き出し、沈黙を破った。

 

「あははは! マジな顔して何言うとんねん! …けどま、詰まる所、それしかないやろな」

 

続いて笑い出した天野。その後、頷いていた。

 

「フッ、どうやら俺達は戦う前から負けてたようだな」

 

「くーらしいね。…だけど、僕達はいつでもそうだったよね」

 

表情が晴れた松永と生嶋。見渡すと、花月の選手達全員、これまで固かった表情が柔らかくなっていた。

 

「(どうやら、試合前に乗り越えなくてはならないものを乗り越えたようだな…)」

 

選手達を見て頷く上杉。

 

圧倒的な選手達とそれを従える天才。抜群の連携を誇る最強のチーム、洛山。絶対に勝つという断固たる決意がなければ勝機すら生まれない。

 

「(…フッ、あの問題児だった神城が立派に主将の顔をするようになったじゃないか。三杉。これもお前は予想していたのか?)」

 

かつて花月に在籍していた異国に旅立った天才を思い出す上杉。

 

「よし、全員こっちを向け」

 

そう言って選手達の注目を集める上杉。

 

「仕切り直して再び洛山のスカウティングを始める」

 

再び資料映像を再生、スカウティングを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって、花月が泊まるホテルは別のホテルの一室…。

 

『…』

 

洛山のレギュラーに選ばれた選手達が集まり、一同が花月の試合の映像に注目していた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで試合終了のブザーが鳴った。

 

「これが今年の花月だ」

 

そう選手達に告げて洛山の監督である白金が映像を停止させた。

 

「良いチームだな。得点力とパスセンスのある司令塔に絶対的なエース。正確無比のシューターにディフェンスの強いリバウンダーに万能型のインサイドプレーヤー」

 

まず感想を述べたのは四条。

 

「オフェンスは機動力を武器としたラン&ガン。ディフェンスは基本はマンツーマンだが、状況に応じてゾーンディフェンスを組んだりもする」

 

続いて意見を言ったのが五河。

 

「2年生が主体の若いチームだけあって流れに乗った時のオフェンス力は凄まじいな」

 

神妙な表情で言ったのが三村。

 

「ディフェンスは生嶋と松永の所が狙い目だな。そこを主体に攻めた方がいい」

 

映像を指差しながら意見を言うのは二宮。

 

「だが、狙われてるのが分かれば向こうもすぐにヘルプが来るようになるだろう。そうなればそこのポジションがフリーになるから声掛けは徹底しよう」

 

映像を見直しながら花月の分析をしていく。

 

「とりあえずの方針は決まったな。問題は、花月と戦う上で重要となる、この2人だ」

 

白金が映像の空と大地を差し棒で差した。

 

「…っ、これだけのメンバーが実績の少ない花月に集まっただけでも驚きだが、1番驚きなのがこの2人だ。こんな逸材がいただけでなく、同じチームにいるとは…」

 

眉を顰めながら映像に映る2人を見つめる四条。

 

「まずは花月の得点源である綾瀬だ。ポジション的にはマークするのは三村、お前になるが…」

 

「…」

 

二宮に聞かれ、映像を見つめ続ける三村。

 

「俺がダブルチームで付くか? 天野は得点能力はそこまで高くない。無視は出来ないが俺が――」

 

「いや、俺にやらせてくれ」

 

ダブルチームを提案する四条だが、三村はそれを制した。

 

「綾瀬は特性上、外から打ってくる事も多い。お前がマークに付いちまうとインサイドの負担が五河に集中しちまう。それは避けた方がいい。他は空ける事はリスクの方が多い。なら、俺が1人でマークした方がいい」

 

あらゆる面を考慮した三村が1人で大地をマークする事を志願した。

 

「いいだろう」

 

ここで、今まで言葉を発せずに映像を見ていた赤司が口を開いた。

 

「ディフェンスに長けたお前だ。綾瀬は任せる。止めて見せろ」

 

「任せろ!」

 

赤司に任命され、三村は右拳を左の手のひらでパチン! とぶつけ、音を鳴らしながら返事をした。

 

「もう1人。神城は…」

 

「無論、俺がマークする」

 

「だよな。そこは特に言う事はない。頼んだぜ」

 

もう1人のキーマンである空は、同じポジションである赤司が担当する事で話は決まった。

 

「基本方針は決まった。ならば、ここからは試合に向けてのプランを決める。まずは――」

 

白金が試合を進めるにあたってのプランの話を始めた。

 

「…」

 

映像に映る空に視線を向ける赤司。

 

「(…珍しいな、赤司があんな顔をするなんてな)」

 

赤司の表情の変化に気付いた四条。赤司は薄っすらと笑みを浮かべていたのだ。洛山入学時の圧倒的な実力からくる不敵な笑みではなく、何処か嬉しそうな表情である。

 

「(洛山に入学した時の赤司なら考えられない事だな。まるで全中二連覇したあの時に戻ったみたいだ…)」

 

かつての母校である帝光中。その時の赤司を思い出した四条。

 

その後もミーティングは続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

そして勝ち残った各校が準決勝に向けて準備をし、眠りに付いた。そして…。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

翌日、ほぼ満員にまで埋まった観客席に座る観客達が試合開始を今か今かと待ち構えている。。

 

 

第1試合 花月高校 × 洛山高校

 

第2試合 誠凛高校 × 秀徳高校

 

 

ここまで勝ち残った4校。ファイナルへの切符をかけてこれから激闘が繰り広げられようとしている。

 

『…』

 

コートへと続く通路を歩く花月の選手達。誰も口を開く事なく、コートへと足を進めていた。通路の終着点であるコートに出る手前で先頭を歩いていた上杉が足を止めた。

 

「ここからは戦場だ。お前達、戦う準備は出来ているな?」

 

「当然!」

 

「はい! もちろんです!」

 

空が不敵な笑みを浮かべながら返事をすると、続いて大地が返事をした。

 

「今日もガンガンリバウンド取るでー」

 

「何十本でもスリーを決めるよ」

 

「インサイドは俺が支える」

 

天野、生嶋、松永も気合充分で返事をした。他の選手達も同様の表情をしていた。

 

「ならばいい。…では、行くぞ」

 

満足のいく返事を聞けた上杉はコートに続くフロアへと足を踏み入れた。

 

「っしゃぁっ!!! 行くぞぉっ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の大きな掛け声を合図に、他の選手達がその声に応え、コートに続くフロアへと足を踏み入れた。

 

 

『来た!!!』

 

『一昨年の誠凛に次ぐキセキの世代を撃破した不屈の旋風、花月高校!』

 

花月の選手達がコートに現れると、観客達の歓声が上がった。歓声をその背に受けながら花月の選手達はコートへと向かって行く。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

続いて歓声が上がる。すると、歓声のその先には、洛山高校の選手達の姿があった。

 

『高校最強の名を取り戻し、再び王の座を手に入れた開闢の帝王、洛山高校!』

 

『無冠の五将が抜けて、戦力ダウンするどころか、今年の洛山はここ10年で最強と呼び声高い布陣だ!』

 

続いて洛山高校がコートへとやってきた。上がる歓声を前に動じる事もなく集中した顔付きでコートへと向かって行った。

 

『これより、洛山高校、花月高校はアップを開始して下さい』

 

『しゃす!』

 

双方のエンドラインに並んで選手達が礼をすると、両校の選手達がコート入りした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

場所は変わって誠凛の選手達が待機している控室。

 

「…そろそろ花月と洛山の試合が始まる頃合いか」

 

柔軟運動をしていた田仲がこの控室にまで届いた歓声を聞いてふと呟いた。

 

「どっちが勝つかな…」

 

素朴な疑問を降旗が口にした。

 

準決勝に勝利すれば決勝で戦う事になる相手。当然、気になる事である。

 

「洛山に決まってんだろ」

 

身体を曲げながら池永が断言した。

 

「お前いつもそれだな。そこまで行くともはや花月に勝ってほしいとしか聞こえないぞ」

 

呆れた顔をする新海。

 

「けどさ、実際どっちが勝つか気になるよな。準決に勝ったら戦う相手になるんだからさ」

 

腕をクロスさせながら朝日奈が口を挟んだ。

 

「あなた達、試合が気になるのは分かるけど、決勝云々はまずこの準決勝に勝たなければならない事を忘れんじゃないわよ」

 

目先の決勝の話で盛り上がる選手達に活を入れるリコ。

 

「控室にいる間くらいいいじゃねえか。試合までには切り替えるからよ。それより監督はどう見てるのか教えてくれよ」

 

僅かに怒ったリコを宥め、逆に質問をして誤魔化した池永。

 

「ったくもう。…そうね」

 

唇を尖らせて呆れると、リコは顎の手を当てて予測を始めた。

 

「率直に、洛山有利ね。花月は立て続けに強敵を撃破して勢いに乗ってるけど、裏を返せば手の内をさらけ出したとも言えるし、何より、…黒子君。今年の洛山のスタメンは全員帝光中出身なのよね?」

 

「そうです。僕の中学の同級生です」

 

尋ねられた黒子が答えた。

 

「準々決勝の試合を少し見たけど、あのチームワークの練度は異常だわ。いくら指導者が優秀でもあそこまで出来るものではないわ」

 

試合の関係で試合は見られなかったリコだが、後に映像で見て背筋を凍らせた。

 

「しかも1人1人のレベルもあの五将に引けを取らない実力者で、何でもこなせる器用さを兼ね備えてる。監督からすれば1度でも率いてみたいくらいだわ」

 

リコから見ても理想のチームだと発言。

 

「そしてそんな4人を従えているのが…」

 

「キセキの世代、赤司…」

 

ここまで無言を貫いていた火神が口を開く。

 

「完璧なチームを完璧なゲームメイクが出来る司令塔が操る。攻守において隙がない、高度な精密機械のようなチームよ」

 

『…』

 

リコの解説を聞いて誠凛の選手達が言葉を失う。

 

「これから花月はそんなのを相手にするんですか…」

 

思わずそんな言葉が漏れる夜木。

 

「けどね、私は花月にもチャンスはあると思うわ」

 

続いてリコが発した言葉に誠凛の選手達が顔を上げる。

 

「洛山はやっぱり赤司君の調子によって左右される面があるのは否めない。その赤司君をマークするのは神城君。さっき、精密機械って言ったけど、神城君はその精密機械を狂わせるだけの力と意外性を有しているわ」

 

試合で赤司をマークするであろう空を引き合いに出すリコ。

 

「それに花月は完璧ではなくとも、スペシャリストを有する選手が多いチーム。それぞれが力と特性を十二分に生かしきれれば、花月にも勝機が生まれるわ」

 

「つまりは、この試合の勝敗を分けるのは互いの主将であり、司令塔でもある赤司と神城次第ってわけか」

 

リコの解説を聞いてそう結論付けた火神。

 

「正直、百戦錬磨の赤司君を相手に神城君はかなり苦しめられると思います。…けど、彼には困難を乗り越える強さと何かを成し遂げる為の何かを持っている選手です。きっと赤司君が相手でもやり遂げると思います」

 

黒子はそう言って、歓声が聞こえるコートの方向に視線を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

コート上では花月と洛山の選手達がアップをしている。

 

 

――バス!!! …バス!!!

 

 

淡々とレイアップを決め続ける洛山の選手達。

 

 

――バス!!! …バス!!!

 

 

同じくレイアップを決める花月の選手達。

 

二校がコートにやってきた当初はこれから始まる激闘に期待と興奮で胸を膨らせて歓声を上げていた観客だったが、アップをしている選手達の緊張感が伝わったのか、今では鳴りを潜めている。

 

『…』

 

試合前の練習時間で調子と身体を整えていく両校の選手達。

 

「…っ」

 

空は身体から沸き上がる力が抑えきれないのか、身体をうずうずさせている。

 

「そろそろラストか。…よし」

 

時間を確認し、何かを決意した空はドリブルを始め、リングへと突き進んでいく。フリースローラインを越えた所でボールを掴み、リングに向かって跳躍。

 

「らぁっ!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

右手で持ったボールをリングに叩きつけた。

 

『うぉっ!? 相変わらずあの身長でスゲー!』

 

空のダンクによって観客が沸き上がった。

 

「試合前に無駄な体力使いよって…」

 

「いえ、違いますよ」

 

呆れる天野。横に立っていた大地が否定する。

 

「きっと、力が有り余って仕方ないのですよ。少しでも発散させる為にああやって力を解放したんです」

 

「なるほどのう…」

 

大地の説明を聞いて納得する天野。

 

 

試合開始まで僅かとなり、コートから両校の選手達がベンチへと下がっていく。

 

「随分と気合が入っているようだね」

 

ベンチに下がる最中、赤司が空へと話しかけた。

 

「どうも。そりゃ、ファイナルの切符がかかった試合だからな。…それに」

 

「?」

 

「現時点で最強のポイントガードはあんただ。この試合でナンバーワンポイントガードの称号が手に入るかもしれないって考えたら、気合が入らない訳ないでしょ」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら赤司に告げた。

 

「なるほど。…だが、俺が求めているのはこの試合の勝利だ。生憎と、そんな称号など、どうでもいい」

 

「そうかい」

 

返事を聞いた空はつまらなそうに返事をし、踵を返した。

 

「…だが」

 

「?」

 

「もし仮に、この手の中にナンバーワンポイントガードの称号があるとするなら、それを君が手にするのは100年速い」

 

赤司が言葉を続けると、空は振り返る。そして空に赤司はそう告げた。

 

「100年か。生憎と、俺はせっかちでね。そんなに待てねえよ。だから、今日頂いていくわ」

 

不敵な笑みを浮かべながら空はベンチへと戻っていった。

 

「面白い」

 

それを聞いた赤司も不敵な笑みを浮かべ、ベンチへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月ベンチ…。

 

「スタメンは神城、生嶋、綾瀬、天野、松永に変更はない」

 

ベンチに座る選手達、その前に立った上杉が選手達に伝える。

 

「今日はこれまでの試合とは一味違う。1度でも相手に主導権を握られてしまえば簡単には手放さないだろう」

 

『…』

 

「故に、こちらが先手を取る。まずは先取点だ。必ず奪い取れ。もし奪われれば7割方こっちが負けると思え」

 

『はい!!!』

 

「よし、行って来い!」

 

「全員集まれ」

 

空が皆に声を掛けると、ベンチの前で円陣を組むように集まった。

 

「相手は洛山。はっきり言ってつええ。…だが、俺達のやる事は変わらねえ」

 

周囲を見渡し、1人1人視線を向ける空。

 

「全力で攻めて、全力で守って、全力で走る。それだけだ。行くぞ!!! 花月ー、ファイ!!!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声を合図に選手達が大声で応え、スタメンに選ばれた選手達はコートへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

センターサークル内に集まる両校の選手達。

 

 

花月高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:神城空  180㎝

 

5番SG:生嶋奏  182㎝

 

6番SF:綾瀬大地 185㎝

 

7番PF:天野幸次 193㎝

 

8番 C:松永透  196㎝

 

 

洛山高校スターティングメンバー

 

 

4番PG:赤司征十郎 175㎝

 

5番SG:二宮秀平  186㎝

 

6番SF:三村彰人  189㎝

 

7番PF:四条大智  193㎝

 

8番 C:五河充   202㎝

 

 

「…」

 

「…」

 

センターサークル内で握手を交わす両校の主将の空と赤司。既に先程挨拶を済ませている為、握手をするだけで特に挨拶は交わさなかった。

 

「これより、花月高校対洛山高校の試合を始めます。礼!」

 

『よろしくお願いします!!!』

 

整列が終わると、選手達が散っていく。センターサークル内にジャンパーである松永と五河だけが残った。

 

『…』

 

審判がジャンパーの間に入り、2人の顔に視線を向ける。そしてボールを構えると、ボールは高く上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ティップオフ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決勝進出をかけた試合の火蓋が、切って落とされた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





どうにか試合開始まで漕ぎつけました…(;^ω^)

ただここから大雑把なプロットしかなく、はっきり言ってネタ不足です。もしかしたら投稿がかなり遅れるかもしれません。

こんな時未経験なのが痛い…(>_<)

後腰も痛い…(T_T)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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