投稿します!
急に気温が下がったな…(;^ω^)
それではどうぞ!
試合終了。
花月 121
海常 118
延長戦を含む、計45分の長い戦いが終わった。
「……ふぅ」
「…」
激闘を制した空と大地だが、勝利に歓喜するでも涙するでもなく、ただ安堵していた。
土壇場での海常…黄瀬の猛追にただただ圧倒された。試合でも結局全力の黄瀬を2人がかりでも止める事が出来なかった。
『…』
それは他の花月の選手達も同様で、緒戦で陽泉に勝利した時のムードはなく、試合に勝てた事に胸を撫で下ろしていた。
「…っ」
悔しさで下を向き、きつく拳を握りしめる小牧。
「くそっ! くそっ!」
膝を付いて床を叩きながら悔しさを露にする末広。
「…くっ!」
涙を流しながら悔しさを噛みしめている氏原。
「…」
腰に手を当て、目を瞑りながら天井に顔を向ける三枝。
海常ベンチも、監督の武内は無念の表情で目を瞑り、控えの選手達は涙する者、茫然とする者など様々であった。
「…」
ゴール下で立ち尽くす黄瀬。無双と呼んでも差し支えない実力で花月を圧倒し、最後まで花月を苦しめた。
「(…また届かなかった。…っ!)」
歴代の先輩達、そして、自分達の悲願を果たす事が出来ず、悔しさが込み上げる。
「みんな、整列ッスよ」
自身が主将である事を思い出した黄瀬は悔しさを噛みしめ、チームメイトに声をかけていったのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「121対118で、花月高校の勝ち! 礼!」
『ありがとうございました!』
センターサークル内で整列した両校の選手達が挨拶を交わした。各選手達がその後握手を交わし、一言二言言葉を交わしていった。
「…強かったッスよ」
挨拶を済ますと、黄瀬が空と大地の元に歩み寄った。
「結局あんたを止められなかった。今まで戦ったキセキの世代の中で1番凄かったですよ」
「…それはどうも。試合に勝てなきゃ意味ないッスけどね」
素直な感想を述べる空。黄瀬は皮肉交じりで返した。
「上には上がいる事を思い知りました。ありがとうございました」
「当然ッスよ。個人的に負けたつもりはないッスからね」
礼の言葉と共に頭を下げる大地。黄瀬はそう返事をした。
「空、大地」
「海兄」
「海さん」
そこへ、三枝がやってきた。
「つよーなったやないか。正直、悔しさもあるが、そこは誇らしく感じとるぞ」
「海兄も強かったぜ」
「海さんと試合が出来て、光栄でした」
元兄貴分として、2人の成長を喜ぶ三枝。そんな三枝に2人は健闘を称え合った。黄瀬は2人の肩に手を置き…。
「俺達の分まで頑張るんスよ。神城っち、綾瀬っち」
ただ一言そう言った。
「次は負けないッスよ!」
ニコリと笑顔を作って2人に告げた。
「このまま優勝せーよ。無様に負けでもしたら承知せんからのう!」
「いたっ! おう!」
「っ! はい!」
三枝も2人の背中を叩きながら笑顔でそう伝えたのだった。
「これで終わりじゃねーぞ。冬にまとめて借りは返すからな!」
「次こそは負けない。……優勝しろよ」
続いて小牧と末広が2人に声を掛けていった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「全員、整列!」
黄瀬が選手達に大声で指示を出す。
「応援、ありがとうございました!」
『ありがとうございました!!!』
海常の選手達が並び、黄瀬が観客席に頭を下げると、選手達もそれに続いた。
『強かったぞ!』
『次は勝てるぞ!』
『また見に来るからな! 冬も来いよ!』
そんな海常の選手達に観客達は声援を贈った。
「さあ、引き上げだ。まだ後に試合は残ってるんだ。迅速に済ませろ」
花月ベンチで上杉が選手達に指示を出した。
「「…」」
荷物を持った空と大地が海常ベンチ…、黄瀬に視線を向けている。
「(俺は選手として、ましてや主将としてもまだまだだ。いつか必ず…!)」
「(私はまだ未熟。託されたエースの名に恥じないようにもっと強くならなければ…!)」
最大の強敵の背を見て、2人は胸に誓うのだった。
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・・・・・・・
・・・・
「黄瀬が…、海常が負けたか…」
終盤からではあるが、試合の行方を最後まで見届けた火神。
『テクニック、身体能力。確かに勝敗を分ける重要なファクターだ。だがな、拮抗した試合において、スタミナ…運動量が勝敗に強く影響しちまうなんてことはよくある話だ。相手より長く走れる。それだけのことでな』
昨年のインターハイの決勝の折、景虎が言った言葉を思い出していた
勝敗を分けたのは文字通りスタミナ。最後まで走り切った空と大地、最後の最後で力尽きた黄瀬。
「陽泉、鳳舞、海常を退けた花月の力は本物よ。もはや、決勝に辿り着いても何ら不思議ではないわよ」
リコが考えこんでいる火神を見て告げた。
「番狂わせは2度も起きない。三杉と堀田がいなくなった花月がここまでのチームになるなんてな」
靴紐を結び直しながら新海が続いて言った。
「決勝まで辿り着いたら、相手は花月かもしれないな」
新海の言葉が聞こえた田仲が続いた。
「どうかな。準決勝の相手は間違いなく高校最強のチームだ。あれに花月が勝てるとは思わないけどな」
そんな中、池永が水を差す。
「はいはい! 無駄話はそこまで! すぐに試合が始まるんだから余計な事考えないで集中しなさい」
雑談をする選手達を諫めるリコ。
「準々決勝。これまでのように上手くは行かないわ。けど、それでもやる事は一緒よ。さぁ、行って来い!」
『はい(おう)!!!』
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
海常の控室…。
『…』
敗戦の悔しさが残る中、選手達が片付けを済ましていく。やがて、支度が出来た選手から次々と部屋を後にしていく。
「悪いッスけど、ヘトヘトで動けそうにないスから、すこし休んでから行くから、先行っててくれないスか?」
「大丈夫ですか? 何だったら何か飲み物でも買ってきて――」
「分かった。監督には俺が伝えとく。ゆっくり休んでから来いよ」
気を遣った小牧を遮るように氏原が口を挟んだ。
「いいから、行くぞ」
小牧を引きずるように氏原は部屋を後にしていった。やがて、控室は黄瀬1人となった。
「……ふぅ」
1人となった1人溜息を吐いた。
「…っ」
そして、これまで堪えてきたものが込み上げてきた。
…試合に勝つ事が出来なかった。また海常を優勝に導く事が出来なかった。
「くそっ!」
最後までもたせる事が出来なかった自分自身に苛立った黄瀬は自身の膝を強く叩いた。
「俺が最後までもてば試合に勝つ事が出来た。たった1分ちょっともたせる事が出来れば…!」
走り込みが足りなかった。練習が足りなかった。そんな後悔が黄瀬を襲った。
――キィッ…。
その時、控室の扉が開いた。
「…悪いけど、今は――っ!?」
来客を追い返そうと顔を上げたその時、黄瀬の言葉を詰まらせた。
「笠松……先輩…」
やって来たのは、黄瀬が1年時に海常の主将を務めていた笠松だった。
「よう」
黄瀬を見た笠松は右手を上げて軽く挨拶をした。
「見に来てたんスか?」
「おう。試合前に集中を乱すと悪いから顔出さなかったけどな。…惜しかったな」
軽く笑顔で言葉を交わした後、笠松は表情を改めて労いの言葉を贈った。
「すいません、負けちまったッス」
苦笑しながら後頭部を右手で摩る黄瀬。
「どういう訳か俺が主将なんて任されちゃったッスけど、これかなり大変ッスね」
「…」
「俺には向いてないって言うか、合ってないって言うか、やっぱり俺は気軽にエースやってるくらいがちょうどいいッスよ」
砕けた口調で、笑みを浮かべながら黄瀬は行った。
――叱ってほしかった…。
『バカ野郎! 仮にも主将を任されたお前がそんなんでどうすんだ!!!』
黄瀬の知る笠松ならきっとこう言って活を入れてくれる。そうすれば自分は気合いを入れ直してこの先も主将として戦える。
笠松は黄瀬の下まで歩み寄り、肩にそっと手を置いた。
「よく頑張ったな、黄瀬」
「…えっ?」
昔のごとくきつく活を入れてくれると予想していた黄瀬は笠松のかけた言葉にただただ茫然とした。
「今日のお前は立派に海常を率いていたぜ。入学したばかりの頃のお前なら考えられねえ事だ」
微笑みながら笠松が言った。
「…っ」
「試合は負けちまったが、お前のその姿が見られて良かった。これなら安心して海常高校の主将を任せられる」
そんな言葉を笠松は黄瀬に贈った。
「笠松…先輩。…俺…、俺…!」
黄瀬が予想していた事と全く違う。そんな言葉をかけられてしまったら…。
「勝ち…たかった…! 海常を…優勝させたかった…!」
これまで抑えていたものが溢れだした。これまで堪えていた涙が両の瞳からとめどなく溢れだした。
「まだ終わりじゃねえだろ。まだお前には最後の冬が残ってる。そこで今度こそお前達の手で海常を優勝させろ」
「はい…! はい…!」
涙を流す黄瀬の横に座り、頭に手を置きながら笠松は激励の言葉を贈ったのだった…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』
コート上では準決勝進出をかけて戦いが行われている。
「らぁっ!」
――チッ…。
ジャンプショットを放つ相手選手に対してブロックに飛んだ池永。伸ばした指先に僅かにボールが触れた。
「リバウンド! 取れよ!」
「任せて!」
外れる事を確信した池永はゴール下に立つ田仲に声を出す。田仲はあいて選手をスクリーンアウトで抑え込み、きっちりリバウンドボールを抑えた。
「こっちだ!」
「頼む!」
リバウンドを制して前を向くと、既に新海と河原が走っており、田仲は新海に向けて大きな縦パスを出した。
「行かせねえ!」
カウンターを警戒して事前に戻っていた相手選手が新海の前に立ち塞がる。
「…」
目の前に相手選手が現れると新海は冷静にビハインドパスでボールを右に流し、河原にパスを出す。
「ナイスパス!」
――バス!!!
ボールを受け取ったノーマークの河原は落ち着いてレイアップを決めた。
「よっしゃー! 良いぞ、新海、河原!」
ベンチから火神が首にタオルをかけながらエールを贈った。
試合は第3Q中盤。火神は第1Q終了と同時にベンチに下がり、後を任せている。
『くそっ…!』
悔しがる相手選手。エースを早々に下げて温存策に出た誠凛。それでも尚確実に開き続ける点差を見て動揺を隠せない。
「新海君と田仲君を下げるわ。降旗君、福田君。出番よ。すぐに出られる準備をして」
「は、はい!」
「分かりました!」
リコから指名を受けた2人はユニフォームの上から来ていたシャツを脱いで準備を始めた。
「頼んだぜ、フリ、福田!」
「頑張って下さい」
そんな2人に火神と黒子がエールを贈った。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
次にボールデッドと同時に申請していた交代がコールされた。
「後はお願いします!」
「頑張って下さい!」
コートを去り際、新海と田仲がハイタッチを交わした。
「スー…フー…、よし、行こう!」
「あぁ!」
降旗と福田はコートに入り、降旗は司令塔として、福田はセンターとして試合に臨んだ。
試合は速攻主体のハイスコアゲームから時間を使って確実に点を決めるロースコアゲームへと変化した。
「池永、無理はするな! 1度戻して仕切り直すんだ!」
降旗は上級生の司令塔として的確に指示を出し、オフェンスではミスを拾いながら確実に点を決め、ディフェンスでは相手選手のスクリーンやそれに伴うスイッチディフェンスの指示を出した。
「やらせないぞ!」
福田はゴール下で身体を張って懸命に相手選手を抑えていく。
「くそっ! こんな控えなんかに…!」
次々とスタメンがベンチに下がり、それでもなかなか縮まらない点差を見て憤る相手選手。
「ウチで今日まで頑張ってきた選手よ。今では立派なウチの主力よ」
フフンと笑みを浮かべるリコ。
誠凛はメンバーを入れ替えながら試合を進める。スタメンが下がって点差が縮まる場面もあったが、それでも追い付かせず点差を保っていく。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
試合は序盤のリードを誠凛が守り切り、87対79で準決勝進出を決めた。
『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』
続いて行われた試合。秀徳の試合が行われている。緑間は第1Qにスリー1本とミドルシュートとゴール下から得点を決めた後、早々にベンチへと下がった。
――ザシュッ!!!
「ナイッシュー!」
試合は高尾が巧みにゲームメイクをして得点を重ね、緑間が下がってもリードを広げ続けた。
歴戦の強豪である秀徳は例え控えであっても高いレベルの選手を擁しており、層の厚さを見せつけた。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
試合は秀徳が安定の強さを見せつけ、91対73で制し、準決勝進出を果たした。そして、準決勝の最後の一枠をかけた試合がやってきた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「来たぜ、洛山!」
試合後の反省会を兼ねたミーティングが終わり、観客席にやってきた花月の選手達。コート上では京都代表、洛山高校対中宮南高校の試合が始まろうとしていた。
「くーとダイは今日の試合フル出場したんだから先に宿に戻って休んでても…」
「心配いらねえよ。戻っても試合が気になってそれどころじゃないだろうしな」
「大丈夫です。先程入念にストレッチをしてケアをしましたから問題ありませんよ」
今日の試合、花月で唯一交代なしでフル出場した空と大地を労わる生嶋だったが、2人はそれを制した。
「開闢の帝王、洛山高校。去年に決勝で戦って勝ったけど、三杉先輩と堀田先輩がいてもギリギリの勝利だったよね…」
昨年時の試合を思い出す帆足。
「その年のウィンターカップでは俺達に勝った桐皇に勝利して優勝を果たした」
松永が続いて冬の事を口にした。
「けどよ、去年の主力だった五将の3人がいないんだから戦力ダウンは免れないはずだぜ。陽泉と海常を倒した俺達なら――」
「その考えはどうですかね?」
菅野の言葉を遮るように竜崎が口を挟んだ。
「今年の洛山も強いですよ。個人的な意見ですけど、俺は今年の洛山は去年以上だと思ってます」
神妙な面持ちで私見を述べる竜崎。
「洛山を舐めてる訳じゃねーけど、五将の3人がいた去年より強いと思う根拠は何だ?」
「それは試合を見て貰えば俺がここで説明するより分かると思います」
あえて空の質問には答えない竜崎。やがて、両校の選手達がコートにやってきた。
洛山高校スターティングメンバー
4番PG:赤司征十郎 175㎝
5番SG:二宮秀平 186㎝
6番SF:三村彰人 189㎝
7番PF:四条大智 193㎝
8番 C:五河充 202㎝
「サイズはうち等とそこまで変わらへんな」
「全体的にポイントカード以外は私達より少し高いくらいですね。陽泉を相手にした時のような大きなミスマッチはありません」
強いて挙げるなら松永のポジションが気になる所だが、それでも勝敗に強く直結する程のものではないとする大地。
「お前らよく見ておけ、明日の相手となる者達の試合を…」
上杉が選手達に告げると、コートでは整列が終わり、ティップオフが為された…。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
『…』
試合は進み、第2Qに突入した。洛山は速いパスワークでボールを回していく。
――ザシュッ!!!
ボールを回してシュートクロックが残り3秒になった所でノーマークで三村の手に収まり、ジャンプショットを決めた。
「っし!」
得点を決めた三村は拳を握って喜びを露にしながらディフェンスに戻っていった。
「きっちりボールを回してフリーの選手を作っての得点が多いな」
「何と言うか、派手さがないと言うか…」
これまで試合を見ていた菅野と帆足が各々感想を述べていく。
「竜崎があんだけ言うからどれほどのもんかと思ったがよ、これなら陽泉や海常の方がまだ――」
「いや、ヤバいですよ」
菅野の言葉を遮る空。その表情は神妙であった。
「完璧なパスワークだ。時間内にきっちりノーマークの選手を作って確実に得点を重ねてる」
「け、けどよ、ボール回しなら去年の大仁田戦で経験してるだろ?」
昨年、花月はスタメン全員がポイントカードの適正を持った選手達による巧みなパスワークを経験している。
「菅野先輩。今の時点で相手チームのブロックとスティール数、分かりますか?」
2人が会話している中、大地が質問形式で言葉を挟んだ。
「あん? ……数えてなかったから分かんねえけど、どっちも2・3本くらいか?」
何とか記憶を辿って思い出そうとする菅野。
「0です」
「…は?」
「洛山はブロック、スティール共に未だに1本もされてないのですよ」
「っ!? マジかよ…」
答えを聞いて表情を青ざめさせながら驚愕する菅野。
県予選の弱小校との試合ならいざ知らず、全国の、それもベスト8まで勝ち上がったチームを相手に1度もブロックもスティールをさせないという異常である。
「敵だって決まった動きをする訳じゃない。いくらパスワークに長けていても普通何処かでミスは出る」
1人1人見えているもの、見ているもの、考えているものが違う以上、動きを連動させれば当然何処かで綻びが出てしまうもの。
「事前にある程度パターンはいくつか決めてはいるんでしょうけど、それを各自が状況を見て修正出来るなんて普通出来ねーよ」
「出来るんですよ」
空の考える常識を否定する竜崎。
「それが出来るのが今年の洛山なんです」
「どうして言い切れるんだ?」
断言する竜崎に尋ねる松永。
「二宮さん、三村さん、四条さん、五河さん。この4人は全員、帝光中出身なんですよ」
「…はっ? そうなの?」
その答えを聞いて空は思わず声を上げた。
「中学時代から遡って今日に至るまで5年以上同じチームで過ごしています。司令塔である赤司先輩の考えややり方は全員理解しています。そこらのチームとは連携の練度の格が違うんですよ」
「5年も同じチームかいな。そら息も簡単に合うわな」
引き笑いをしながら頷く天野。
――ダムッ!!!
コート上で三村が相手選手をキレのあるドライブで抜きさる。そのまま突き進み、リングに向かって飛んだ。
「させるか!」
そこに相手センターがヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。
――スッ…。
三村はレイアップの体勢からボールを下げ、ボールを持った腕を伸ばしてパスに切り替えた。
「ナイスパス!」
――バス!!!
パスを受けた五河がゴール下のシュートをきっちり沈めた。
「良いチームだな」
黙って試合を見ていた上杉が口を開いた。
「これほど監督のし甲斐のあるチームは他にないな」
視線を洛山ベンチに座る監督の白金に向けながら言った。
「パスワークで得点が取れないと判断すれば各自の判断で個人技を仕掛けて点を取りに行っている。パスで目立たないが、選手関係なく個人技で得点している」
「全員がパスもドリブルも出来て、中からでも外からでも点が取れ、恐らくポジションも1番から5番までこなせる。個々の実力もあの無冠の五将に引けを取らない程に…」
「おいおい、五将と同格ってのはいくらなんでも大袈裟じゃないのか?」
冷静に分析する竜崎を見て菅野が一石を投じた。
「…まぁ、個々の能力は五将の方が上かもしれないですけど、あの4人は出来る事が多い上にチームプレーを重視出来るので、俺からすれば五将以上に手強い相手だと思ってますよ」
それぞれに圧倒的な得意技を持っていた五将に対し、大きな武器はないものの、幅広くものがこなせてチームプレーが出来る4人を高く評価した竜崎。
「こうも生で見せられたら竜崎の言葉は大袈裟にやないのはよー分かる。…せやけど、あない実力があるなら何で中学時代に名が上がらんかったんや? あれだけやれるんなら少しは名が広がりそうなものやけどのう」
「キセキの世代がいたからですよ」
天野の抱いた疑問に竜崎が明確に答えを出した。
「帝光と言えば誰もがキセキの世代の名を挙げます。キセキの世代の名が有名になり始めた当初はまだその上の先輩達がいましたし、3年になった時は学校の広告の為にキセキの世代を試合に必ず試合に出場させていた事もあって、基本的に控えが試合に出るのは既に勝敗が決していて温存策を取る時だけでした」
『…』
「その為、その状況でいくら活躍しても評価をされず、キセキの世代の影に埋もれる結果になってしまったんです」
「…何とも言えない話だな」
実力も活躍も見てもらえず、見向きされない。その事に同情を覚える松永。
「無冠の五将のように敵として現れれば、多少不名誉ではあっても少なくとも名は上がるし実力も評価されただろうにな」
同じく菅野が何とも言えない感情を抱いた。
「キセキの世代は後輩の俺にとっても偉大な存在です。ですが、こういった弊害を生んでしまったのも事実です」
悲し気な表情で竜崎は言ったのだった。
「…おっ? 相手のディフェンスが変わったぞ」
空の言葉を聞いてコート上に視線を戻す花月の選手達。すると中宮南のディフェンスがマンツーマンディフェンスからゾーンディフェンスに変わった。
「マンツーマンじゃいつの間にか速いパス回しでノーマークの選手を作られてしまっている。それを避ける為にゾーンディフェンスですか」
「いいぜ、あのパス回しにゾーンディフェンスがどんだけ効果を及ぼすか、見させてもらうぜ」
大地の解説に、空はその効果を確かめる為に注目した。
――ピッ!!!
再び洛山のパス回しが始まる。中宮南の選手達は上手く連携を組んでフリーの選手を作らせない。
「効果ありか?」
菅野がそう口に出したその時…。
――ザシュッ!!!
外でボールを受け取った三村がスリーを決めた。その後も、中宮南のゾーンディフェンスに対して外を中心に攻め立てた。時折外れても洛山のフロントラインがきっちりリバウンドボールを抑え、セカンドチャンスをものにしている。
「…どうやら、ゾーンディフェンスの対策もバッチリのようですね」
「ゾーンディフェンスには外。セオリーではあるが、こうもバンバン決めちまうとはな」
苦笑を浮かべる空と大地。中を固める中宮南だったが、それを嘲笑うかのように洛山の選手達は外を中心に攻め立て、得点を重ねていった。
「しかもポジション関係なく、センターの五河さんでさえもスリーを決めてた。言葉が出ないとはこの事だね」
5人が例外なく外を決める光景を見て乾いた笑いしか出ない生嶋。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
ここで中宮南がたまらずタイムアウトを取った。
「タイムアウトを取ったがこの状況で策なんてあるのか?」
頭を巡らせる空だったが、空には何も浮かばなかった。タイムアウトが終わり、選手達がコートへとやってくる。
「今度はそう来たか」
タイムアウト後の中宮南の動きを見て空が思わず前のめりになる。中宮南はディフェンスをマンツーマンに戻した。そして…。
「赤司先輩にダブルチーム…」
洛山の主将であり、司令塔の赤司に2人マークを付けたのだ。
「こうも点差が開いてしまっては中宮南が逆転をするには賭けに出るしかない。チームの主軸である赤司を止めてチームの全体のリズムを崩して逆転を狙いに来た」
中宮南の作戦の意図を見抜いた上杉。
開きゆく点差を見て中宮南がイチかバチかの博打に打って出た。だが…。
――バス!!!
赤司は淡々とパスを出し、他の4人の選手がきっちりと得点を奪っていった。赤司のダブルチームなど無意味と言わんばかりに。そして…。
――ダムッ!!!
「「っ!?」」
ダブルチームを単独で突破した赤司。直後に来たヘルプをギリギリまで引き付け、空いた選手にパス。さらに得点を追加した。
「決まったな。赤司を止めても無駄だと知らしめた上にそもそもダブルチームでは止められない事を見せつけた。これ以上人数を割いても逆効果でしかない」
結末を予見した上杉。心なしか、コート上の中宮南の選手達の表情に絶望の影がよぎっているに見えた。
「番狂わせはなしか。ま、分かってたけどな」
背もたれに体重を預けながら言う空。
試合は第3Q開始直後に赤司と四条がベンチに下がり、第3Q半ばにはスタメン全員がベンチへと退いていた。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
試合は洛山の控えの選手達がリードを守り、109対59で洛山が準決勝進出を果たした。
「これが明日の相手だ。全員、戦勝に喜ぶのもここまでだ。すぐに気持ちを切り替えろ」
『はい!!!』
「ホテルに戻ってこの試合映像を基に明日の対策を立てる。すぐに戻る準備をしろ」
上杉がそう指示を出し、花月の選手達は席から立ち上がったのだった。
※ ※ ※
ベスト4をかけた準々決勝。激闘を制した花月が準決勝へと駒を進めた。
1つの山を越え、次にまた大きな山がやってくる。
花月高校 × 洛山高校
誠凛高校 × 秀徳高校
明日、勝ち残った4校が決勝進出をかけ、再び激闘を繰り広げるであった……。
続く
一気に準々決勝を終わらせました。
次の花月の相手は洛山。無冠の五将が抜けて新たに高校最強を気付きあげた超万能集団。東京の中学出身の選手が何故4人も京都の洛山に!? っていうツッコミはなしでお願いします…(;^ω^)
やはり洛山は最強でないと盛り上がりませんからね…(^_^)
ただ、それだけに試合は難産になりそうですがorz
感想アドバイスお待ちしております。
それではまた!