黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

遂にこの試合も決着。かなり長くなりましたが、区切る所もないので、切らずに投稿。まあ、前話が短かったので…(;^ω^)

先に、とある有名作品のオマージュがあります。

それではどうぞ!



第131Q~選択~

 

 

 

第4Q、残り2分1秒。

 

 

花月 98

海常 96

 

 

試合時間残り5分を切った所で黄瀬が切り札であるパーフェクトコピーを使って畳みかけるも、空と大地のダブルチームが封殺。逆に点差を12点にまで広げた。

 

しかし、黄瀬がゾーンに入り、パーフェクトコピー+ゾーンで攻め立て、12点もあったリードもたちまち2点にまで縮める事に成功した。

 

絶望が花月を支配しかけたその時、空と大地がゾーンの扉を開いたのだった。

 

 

「…」

 

ボールを運んでいるのは空。ゆっくりとボールを進めていく。

 

「…」

 

その2メートル程横を大地が並んでいる。

 

「…」

 

フロントコートに到達すると、ボールを持つ空に黄瀬がディフェンスにやってきた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬がやってくると、空が突如加速。クロスオーバーで切り返しながら仕掛ける。

 

「…っ!」

 

これに黄瀬が対応、遅れる事なくピタリと並走する。

 

 

――スッ…。

 

 

同時に空がバックロールターン……しながら後ろにパス。スリーポイントラインから1メートル離れた位置に立っていた大地にパスを出した。

 

「…っ」

 

その位置からシュート態勢に入る大地。すかさず黄瀬は青峰のコピーで空いた距離を一気に詰める。

 

『は、はえー!?』

 

 

――ピッ!!!

 

 

大地はシュートを中断し、ボールをリング付近に放る。するとそこに空が走り込んでいた。

 

「…っ!」

 

黄瀬は急停止して再び反転。ボールを持った空を追いかける。リングに向かって飛んだ空の前に回り込み、ブロックに飛んだ。

 

 

――スッ…。

 

 

目の前に黄瀬が現れると、空はボールを斜め後ろに放った。

 

「っ!?」

 

そこに大地が走り込み、飛びながらボールを掴んだ。

 

 

――バス!!!

 

 

大地は空中で掴んだボールをそのまま放り、ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「よし!」

 

パチン! と空と大地がハイタッチを交わす。得点が止まっていた花月にとっての大望の得点。花月の選手達の頬も綻んだ。

 

「…」

 

ディフェンスに戻る空と大地を無言で見つめる三枝。自身がバスケを教えたかつての弟分である2人。2人の持つ才能の誰よりも気付いていたのが三枝であり、いつかは自分を超える日が来る事は分かっていた。

 

「つよなったのう」

 

思わずそんな声が漏れていた。その瞬間が来て嬉しくもあるが、状況が状況の為、複雑な心境であった。

 

「海っち」

 

そんな三枝に黄瀬が声を掛ける。

 

「ボール貰っていいスか? それと、サポートお願いするッス。俺でもあの2人を同時に相手するのはきつそうスから」

 

ボールを要求しながら黄瀬がサポートを頼んだ。

 

「任せい。残り時間全てお前に託すぞ。ワシも…いや、ワシ達は全力でリョウタのサポートしちゃるわ」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら三枝は返したのだった。

 

海常のオフェンス。ボールは小牧から黄瀬に渡される。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

「…くっ!」

 

フロントコートまで進み、空と大地がダブルチームでやってくると、黄瀬が仕掛ける。赤司のコピーをし、大地がアンクルブレイクを起こす。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

直後、黄瀬が加速。青峰のコピーで切り込む。

 

「…っ」

 

アンクルブレイクが効かない空がこれに反応。持ち前のスピードで黄瀬を追いかけ、右腕を伸ばして黄瀬の進路を塞いだ。

 

「…」

 

空の右手に阻まれると、黄瀬は急停止。

 

「…っ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

何かを察知した黄瀬が咄嗟にボールを右から左に切り返す。すると、背後から大地が伸ばした手が空を切った。

 

 

――ポン…。

 

 

「っ!?」

 

ボールを切り返した瞬間、今度は空がボールに手を伸ばし、指先がボールを捉えた。

 

「…っと」

 

ボールが黄瀬の手から離れたが、すぐさま黄瀬がボールに手を伸ばし、再びキープした。

 

「(…ゾーンに入ってスピードと集中力が増しただけじゃない、2人のコンビネーションにも磨きがかかってる。一瞬でも隙を見せればボールを奪われる…!)」

 

紙一重でボールを抑えた黄瀬は心中で警戒心を高めた。

 

「(…これでもダメか。迂闊にボールを狙えばその瞬間抜かれちまう)」

 

「(空と2人がかりで抜かせないだけで精一杯とは。一瞬たりとも集中を切らせばその瞬間抜かれてしまう…)」

 

空と大地はゾーンに入り、それでも尚容易にボールを奪えない事に驚きを隠せなかった。

 

「…」

 

ゆっくり下がりながらドリブルをし、隙を窺う黄瀬。視線を2人から僅かに逸らしたその時…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

再び加速。今度は揺さぶりなしで切り込んだ。

 

「…ちっ」

 

青峰のチェンジオブペースで切り込む黄瀬。再び追いかけようとした空が思わず舌打ちをした。末広がスクリーンをかけており、それを察知した空だったが、スクリーンをかわす為に距離が膨らみ、遅れを取ってしまう。

 

「…っ」

 

大地が1人黄瀬を追いかける。並走しながらボールを奪うチャンスを窺う。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

フリースローライン付近で黄瀬がボールを掴んで急停止。直後にシュート態勢に入った。

 

「…っ!」

 

大地も黄瀬の前に回り込みながら急停止し、ブロックに飛んだ。

 

「っ!?」

 

ここで大地が目を見開いた。黄瀬が飛ぶのを見計らってブロックに飛んだ大地だったが、黄瀬は右方向に、大地のブロックを避けるように飛んでいた。

 

 

――バス!!!

 

 

横っ飛びしながらリングに放り投げられたボールは、バックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『うぉぉぉーーっ!!! 何であれが入るんだぁっ!!!』

 

本家顔負けのフォームレスシュートに観客が沸き上がった。

 

「…っ」

 

失点を防げず、思わず悔しさが表情に現れる大地。

 

「切り替えろ大地。肝心なのはオフェンスだ。きっちり決めりゃ問題ねぇーんだからよ」

 

真剣な表情で黄瀬を見据えながら大地に声を掛ける空。

 

「えぇ、そうですね」

 

その言葉に同調し、同じく黄瀬を見据えた。

 

「さっきと同じだ。合わせろよ」

 

「もちろんです」

 

スローワーとなった松永からボールを受け取った空は大地と並びながらフロントコートまで進んで行った。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フロントコートまで進んだ空は一気に加速。正面から突っ込んで行った。

 

「…」

 

当然、立ちはだかるのは黄瀬。両腕を広げて待ち受ける。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スピードが乗ったまま空が黄瀬の手前でクロスオーバーで切り返した。黄瀬もこれに対応すべく空を追走する。

 

 

――スッ…。

 

 

直後、空はボールを後ろへと放る。するとそこに大地が走り込み、ボールを掴んだ。

 

「…っ!」

 

大地にボールが渡ったのを見て黄瀬が大地のチェックに向かう。

 

「…あっ!?」

 

ベンチの姫川が思わず声を上げる。大地にボールが渡ると、大地をマークしていた小牧と末広が空のマークに付き、ディナイをかけてパスコースを塞いだのだ。これにより、大地は即座に空にパスを出せず、空が2人のマークを外す頃には黄瀬に捕まっている。空以外の選手で点を取るのは現状難しい為、ここは大地が1人で点を取りに行くしかない。

 

「…」

 

ゾーンに入っていた大地は即座に現状を把握、バックステップでスリーポイントラインのやや内側まで下がり、距離を取った。

 

「(この距離なら間に合う! 仮にパスやドリブルに切り替えられても対応出来る!)」

 

即座に予測を立てた黄瀬。

 

「(まずい、このまま打ちに行ってもブロックされる!)」

 

同じく予測を立てた大地は自身の最悪の未来を予見してしまう。パスもドリブルもダメ。

 

「(こうなったら…!)」

 

八方塞の大地はイチかバチかの賭けに打って出た。

 

「っ!?」

 

大地の行動を見て黄瀬が目を見開いた。大地はバックステップを踏んだ足で後ろに飛び、シュート態勢に入ったのだ。バックステップしながらのフェイダウェイ。大地との距離がさらに生まれた。

 

「くっ!」

 

それでも青峰のコピーで距離を詰めて紫原のコピーでブロックに飛ぶ黄瀬。しかし、先のバックステップからの即座に片足でのフェイダウェイ。それにプラスしてクイックリリースで放たれたボールに紙一重で届かなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールは見事にリングを潜り抜けたのだった。

 

「っし!」

 

得点を決めた大地は拳を握り、小さく声を出しながら喜びを露にした。

 

「やるじゃねえか」

 

駆け寄った空が大地を労う。

 

「以前から練習はしていましたが、練習でも成功確率は3割程度だったので、これまではやりませんでしたが、やはり、賭けを打つのは心臓に悪いですね」

 

軽く苦笑しながら大地は返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「何だ今の? バックステップで下がった足で後ろに飛んでシュートを打ちやがった」

 

今のプレーを見ていた朝日奈が驚いている。

 

「ノヴィツキーの得意技だ」

 

火神が口を挟んだ。

 

「ダーク・ノヴィツキー。NBAの名プレーヤーで、その代表技がステップを踏んだ足でそのまま後ろに飛びながら打つ片足フェイダウェイよ。213㎝の高身長の彼がこれを武器に得点を量産してその名をNBAに轟かせたわ」

 

続けてリコが解説をした。

 

 

「あんな隠し玉がまだあったのか。大した奴だ」

 

青峰も今のプレーを絶賛した。

 

「花月はきーちゃんがゾーンに入ってから得点が止まってたけど、神城君と綾瀬君がゾーンに入ってからまた得点が出来るようになってきたね」

 

「とは言え、どれも紙一重だけどな。さっきのも、次やっても入る保証はねえ」

 

桃井の感想に青峰が解説を入れる。

 

「(とは言っても、もう時間がねえ。どうすんだ黄瀬。そろそろ何か手を打たねえと手遅れになんぞ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第4Q、残り1分4秒。

 

 

花月 102

海常  98

 

「…」

 

黄瀬にボールを託し、海常のオフェンス。ボールを運びながら黄瀬は攻め手を定めている。

 

「…」

 

「…」

 

当然、黄瀬の目の前には空と大地がダブルチームで付いている。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬が青峰のコピーで仕掛ける。黄瀬から見て右側に立つ空のいる方向から切り込んだ。

 

「行かせねえ!」

 

遅れずにピタリと並走し、大地はバックステップで後ろに下がり、黄瀬の進路を先回りで塞いだ。直後、黄瀬がボールを掴んだ。

 

「(どういうつもりだ? まだマークは外せてねえぞ…)」

 

「(パスコースもありません。いったい何を…)」

 

その行動に空と大地が怪訝そうな表情をする。すると、黄瀬がステップバックを踏んでスリーポイントラインの外側まで移動した。

 

「…っ!?」

 

「まずい!」

 

ここでようやく黄瀬の狙いに気付いた2人が慌ててチェックに入る。黄瀬はステップバックをした足でさらに後ろに飛びながらシュート態勢に入った。

 

「ちっ!」

 

「くっ!」

 

ブロックに飛んだ2人だったが、もともと身長差がある上に距離を空けられてから後ろに飛ばれた為、届かず、放たれたボールは2人の伸ばした手の上を越えていった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングを的確に射抜いた。

 

『きたぁぁぁぁーーーっ!!! ここでスリー!!!』

 

『遂に均衡が崩れたぞ!!!』

 

起死回生のスリーに観客が盛大に沸き上がった。

 

「…っ!」

 

視線をリングから黄瀬に向ける大地。

 

「さっきはいいもの見せてもらったッスからね。早速使わせたもらったッスよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら黄瀬は大地に告げ、ディフェンスに戻っていった。

 

「…っ」

 

拳をきつく握りながら悔しさを露にする大地。自身が練習に練習を重ね、ようやく実戦で使えるレベルにまで達したものの、未だ不完全な技。それを見ただけで、しかもスリーでコピーされた事にあらゆる感情が入り混じっていた。

 

花月のオフェンス。空がボールを運び、黄瀬がチェックに来る前に大地にパスを出した。

 

「…っ」

 

左アウトサイド、スリーポイントラインの僅か外側でボールを持った大地。ボールを持ったのと同時に小牧と末広が大地に激しく当たってきた。身体がぶつかる程の激しいディフェンス。とにかく大地のスリーを警戒し、最悪抜かれても構わないという覚悟である。

 

「ヤバい、強引に切り込んでもそこを黄瀬に狙われてしまう!」

 

最悪の未来を予想した竜崎。黄瀬は空を見つつもいつでも大地のカットインに対応する準備が出来ている。このダブルチームを突破しても直後に狙われかねない。

 

「生嶋! お前がボールを貰いに行け!」

 

ここでベンチから菅野が指示を出した。これを聞いた生嶋がボールを貰いに行く。

 

「させねえ!」

 

当然、生嶋をマークする氏原が追いかける。

 

「…くっ!」

 

思わず表情を歪める生嶋。これではボールを貰ってもシュートにまで持っていけない。

 

「…おぉっ!」

 

その時、大地が動いた。

 

「なっ!?」

 

「何だと!?」

 

何と、大地は2人の激しいチェックを受けながら強引に打ちに行ったのだ。

 

「っ!?」

 

「マジか!?」

 

これには黄瀬はもちろん、空でさえも驚いていた。

 

「リバウンド!!!」

 

海常ベンチから声が上がった。

 

「黄瀬に自身のコピーをされて冷静さを失ったか。三枝! ここは絶対抑えろ!」

 

同じくベンチの武内から指示が出る。

 

「任せい!」

 

ゴール下には三枝と天野と松永。三枝が天野をパワーとテクニックで強引に抑え込み、ポジションを確保する。

 

「(っ!? あかん…、ええポジションが取れへん!)」

 

不意を突かれた天野はポジションに入るが遅れ、絶好のポジションを奪えない。

 

「(天野先輩はダメだ。俺が取るしかない!)」

 

抑え込まれた天野を見て松永が覚悟を決める。自分が絶対にこのリバウンドを制すると。

 

『…っ!』

 

ボールの行方に会場にいる全ての者が注目する。試合の行方を左右しかねないこのボール。だが、次の瞬間、会場中の全ての者が驚愕に包まれる事となった。

 

 

――バス!!!

 

 

『…』

 

ボールがバックボードに当たりながらリングを潜り抜け、会場が静まり返る。

 

『おっ…』

 

何者かが状況を理解し、声を上げると…。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

同時に会場が割れんばかりの歓声に包まれた。

 

『何であれが決まるんだよ!?』

 

『あり得ねえ!!!』

 

ビックショットが決まり、観客はとんでもないものを見たとばかりに声を上げる。

 

『…っ』

 

あまりの出来事に言葉を失う海常の選手達と監督の武内。花月にとっては希望の1本も海常にとっては絶望の1本。残り時間1分を切ってこのスリーは致命傷とも言える1本だからだ。

 

「返しましたよ」

 

黄瀬にそう告げる大地。

 

「……ふぅ」

 

とうの黄瀬は溜息を吐くしかなかった。

 

「…そういや、ああ見えて大地は俺と同じくらい負けず嫌いだったけな」

 

自身の相棒である大地の内面を思い出す空。

 

「ホント、あいつが敵じゃなくて良かったぜ」

 

頼もしいと思うのと同時にその才能に苦笑する空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「走れ!」

 

海常のリスタート後、早々にボールを受け取った黄瀬が声を出し、時間をかける事無く突き進んでいった。他の海常の選手達も黄瀬に続いて一斉に走り出した。

 

「絶対に死守だ! 何が何でも止めるぞ!」

 

花月は空が声を出す。

 

フロントコートまで進んだ黄瀬は空のチェックが入る直前に横を走る小牧にパス。ボールを受け取った小牧はすかさず黄瀬にリターンパスを出した。

 

「行かせません!」

 

ツーポイントエリアに侵入した黄瀬。強引に進もうとする黄瀬を大地が身体を張って阻止する。

 

「…っ」

 

大地の健闘によりリングに近付けない。これ以上強引に行けばファールを取られる可能性がある為、行けない。

 

「ナイスだ大地!」

 

そこへ、空が黄瀬の背後から襲い掛かる。

 

「(だったら!)」

 

黄瀬は強引に中には行かず、そのまま前に進んでいく、やがて、エンドラインが目の前にやってくる。

 

『抜けてないぞ!?』

 

『追い込んだか!?』

 

依然として大地を抜けてはおらず、すぐ傍には空が来ている。

 

「「っ!?」」

 

ボールを掴んだ黄瀬はエンドライン目前で飛びながら背中を床に向けた。

 

 

――ピッ!!!

 

 

その態勢のままボールを高く放り投げた。

 

「しまっ…!」

 

「くっ!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

エンドラインを越えた所から高く放り投げられたボールはバックボードの後ろから真っすぐリングに向かって落下し、その中心を通過した。

 

『うぉぉぉーーっ!!! ここで本家顔負けのフォームレスシュートだぁっ!!!』

 

リスタートしてすぐに黄瀬が青峰のフォームレスシュートを決め、点差を2点に再び戻した。

 

 

第4Q、残り16秒。

 

 

花月 105

海常 103

 

 

「最後の勝負だ! 力を振り絞れ! 絶対に止めろ!」

 

『おう!!!』

 

ベンチの武内が立ち上がり、選手達に声を張り上げて鼓舞する。

 

『ディーフェンス!!! ディーフェンス!!!』

 

海常ベンチの選手達も腹の底から声を出し、コート上の選手達の応援をしている。

 

『…』

 

ボールを花月ボール。それぞれのマークを激しくディフェンスをしている。花月の選手達は引いてボールを回し、時間を浪費していく。

 

「(…ちっ、1本決めてトドメ刺してーが、迂闊に攻めればボールを奪われかねねえ…!)」

 

普段の花月がすれば実に消極的な選択。だがこれは、望んでの事ではなく、海常の選手達の気迫がそうさせているのだ。

 

「…くそっ!」

 

「ちぃっ!」

 

一刻も早くボールを奪いたい海常の選手達の表情に焦りの色が出る。

 

 

「…花月は時間を使い切る選択をしたか」

 

「当然だな。この状況なら普通はそうだ。俺でもそうするさ」

 

若干不満気に口にする池永に対して、新海はこの選択を支持した。

 

 

「(…っ、速くボールを奪わないと!)」

 

残り時間10秒を切り、さらに焦りが加速する末広。

 

「(考えろ…、考えるんだ。ボールを奪う方法を…)」

 

必死に思考を巡らせる小牧。

 

「(こんな所では終われない! 絶対にボールを奪って黄瀬に…!)」

 

何としてでもボールを奪って黄瀬に渡そうと意気込む氏原。

 

「(ただ待っていても勝機はやってこん。勝機はワシらの手で手繰り寄せるんじゃ!!)」

 

勝利の為、がむしゃらに動く三枝。

 

「(黒子っちや火神っち、誠凛は何度も奇跡を起こしてきた。今度は俺達が起こすんだ!)」

 

自らの手で奇跡を起こす為、黄瀬は走り回る。

 

隙を見せず、ボールを奪うチャンスを窺う海常の選手達。外に展開していた天野から同じく外の右45度付近に移動した生嶋にパスを出す。

 

「うぉぉぉーーっ!!!」

 

パスが出される直前に三枝がゴール下を離れ、生嶋目掛けて猛ダッシュ。一気に距離を詰める。

 

「っ!?」

 

この行動に動揺を見せる生嶋。

 

「(来た!? シュート……ダメだ。まっつんもパスコースを潰されてる!)」

 

突然の事に生嶋の頭が軽くパニックを起こす。

 

「くっ!」

 

ここで生嶋は視界に入った空にパスを出す。

 

「(ここだ!)」

 

「っ!?」

 

残り時間7秒。黄瀬が勝負をかける。センターラインの僅か前に立つ空に生嶋からパスが渡った瞬間、黄瀬が一気に距離を詰め、チェックに入った。

 

「しまっ…くー!」

 

三枝のチェックに動揺したのか、僅かに緩めにパスを出してしまった生嶋。このパスを見逃さなかった黄瀬が走り、空が次にパスを出す前にチェックに入った。

 

「…ぐっ!」

 

ファールスレスレの激しい当たり。パスコースもスペースもない為、ボールをキープするだけ精一杯である。

 

「(ボールは渡さねえ! 死んでも渡さねえ!)」

 

必死に黄瀬の手をかわし、ボールをキープし続ける空。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

ボールを狙う黄瀬の手をかわす為に後ろにボールを引いたその時、空の手からボールが弾かれる。

 

「ハハッ、どうだ!!!」

 

ニヤリと笑う小牧。

 

「よくやった小牧!」

 

ベンチから武内が声を出す。

 

ボールを弾いたのは小牧。黄瀬からボールを死守するのに必死で周囲にまで気を配る余裕がなかった空は忍び寄る小牧に気付けなかった。

 

「助かったッスよ!」

 

すかさず黄瀬がボールを拾った。この時、試合時間残り5秒。

 

『よっしゃぁぁぁっ!!! 行け黄瀬ぇぇぇっ!!!』

 

零れたボールが黄瀬に渡り、海常ベンチの選手達、監督が立ち上がりながら拳を握った。

 

「これで…!」

 

センターラインの僅か手前でボールを拾った黄瀬はすぐさまシュート態勢、緑間のコピー、超ロングレンジのスリーで逆転を狙いに行く。

 

「黄瀬!!!」

 

「っ!?」

 

その時、氏原が大声を上げる。その声に反応した黄瀬は、スリーを中断した。

 

「ちっくしょう!!!」

 

すると、黄瀬の後ろから飛び上がった1つの影、空の姿があった。ボールを奪われた空だったが、すぐさまボールの行方に切り替え、ブロックに飛んでいたのだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

氏原の声でそれに気付いた黄瀬はスリーを中断してそのままドリブルを始めた。今度こそスリーを……と、思われたその時!

 

「させません!」

 

ドリブルを始めた直後、大地がやってきて、黄瀬の横に並んだ。

 

「…っ」

 

大地がやってきて、しかも利き手である右手側からチェックに来た為、再度緑間のスリーは放てず、黄瀬はドリブルを続行した。

 

「(止める! 絶対に止めて勝つんです!)」

 

チームの勝利の為、何としてもと執念を燃やす大地。

 

もうまもなくスリーポイントラインがやってくる、海常が逆転するには3点が必要。だが、大地が横にいる今の状況、しかももう揺さぶりをかける時間がない状況でスリーを打つのは極めてハイリスクだ。しかし、2点を狙って延長戦に望みをかける選択ならば比較的リスクは低くなる。

 

 

――1発逆転か…、それとも延長戦か…。

 

 

黄瀬が選ぶ選択は…。

 

 

――キュッ…。

 

 

スリーポイントライン目前で黄瀬のスピードが僅かに緩んだ。

 

「(っ! スリー!?)」

 

それを察知した大地がスリーの要警戒態勢に入る。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

だが、黄瀬は僅かにスピードを緩めた直後、再度加速をして中に切り込んだ。

 

「(くっ! フェイク…!)」

 

黄瀬は中に切り込んで確実に2点を取る方を選択した。スピードを緩めた事で大地はスリーを警戒して同じくスピードを緩めてしまった。スリーを警戒させ、確実に2点を取る為に黄瀬はスピードを緩め、スリーを意識させて大地の足を緩めさせた。

 

「まだです! まだ終わりではありません!」

 

僅かに距離が空いたが、それでも大地は諦めずに黄瀬を追いかける。

 

中に切り込んだ黄瀬がフリースローラインを踏み、さらにもう1歩踏み込み、そこでボールを掴んだ。

 

「(追い付いた!)」

 

同時に大地は黄瀬に追い付いた。

 

リングに向かって飛ぶ為、踏み込んだ黄瀬の足に力が籠る。

 

「(止める! ここを止めて――)」

 

黄瀬がリングに向かって飛んだ。…だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――大地は飛んでいなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

その場で足を止めた大地を見た黄瀬の目が見開く。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

阻む者が何もない黄瀬はそのままリングにボールを叩きつけた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に第4Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第4Q終了。

 

 

花月 105

海常 105

 

 

時間内に決まった黄瀬のダンクのよる得点が加点される。

 

『……お』

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

同時にこの日1番の大歓声が会場中に響き渡った。

 

「ハァ…ハァ…」

 

リングから手を放し、床に着地した黄瀬が振り返る。

 

「…」

 

下を向いていた大地が顔を上げ、黄瀬と視線を合わせる。そして、大地は踵を返して歩き出した。

 

「キャプテン!」

 

「黄瀬!」

 

小牧と氏原が興奮が冷めやまない様子で黄瀬に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

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・・・・

 

 

「…大地」

 

ゆっくり歩み寄った空が声を掛ける。

 

「すいません空」

 

「いやいい。それより延長戦だ。あともう少し働いてもらうぜ」

 

「もちろんです」

 

謝罪をする大地を制し、空はニコリと笑いながら冗談交じりに言うと、大地もニコリと笑いながら返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『同点に伴い、これより延長戦を開始します!』

 

会場内に放送される。

 

『あそこで同点に追い付くあたり、さすがキセキの世代だよな』

 

『最後何でブロックに行かなかったんだ?』

 

『直前に黄瀬が入れたフェイクにかかったからだよ。俺には分かったぜ』

 

観客達が各々先程の感想を言い合っていた。

 

「…」

 

コートを見つめていた青峰が踵を返して歩き始めた。

 

「ちょっと大ちゃん! 何処行くの!?」

 

そんな青峰を見て桃井が思わず話しかける。

 

「…帰る」

 

「帰るって、これから延長戦だよ?」

 

「もう結果は決まった。誠凛も秀徳も洛山も、番狂わせはねえだろうから、これ以上見る価値はねえ」

 

止める桃井。しかし青峰は構わず会場の外に向かって歩き始めた。

 

「俺も帰るわー。じゃーね峰ちん、さっちん」

 

「アツシ! 君モカイ!?」

 

続いて紫原もその場を後にし、アンリが慌てて追いかけていった。

 

「(…最後、あいつらの1ON1。文字通り勝敗を左右した)」

 

歩きながら青峰は大地と黄瀬の最後に対決を振り返っていた。

 

黄瀬にはスリーを決めて1発逆転を狙う選択肢と2点を取って延長戦に望みをかける2つの選択肢があった。黄瀬はスリーポイントライン目前で僅かにスピードを緩め、大地にスリーを意識させた。スリーを決められれば逆転されてしまう為、当然大地は無視出来ない。大地の意識にスリーが刷り込まれ、迷いが生まれたのを見て黄瀬は中に切り込み、2点を取った。

 

「(2点を取って延長戦に向かう。そう思わせる事が黄瀬の本当の狙いだった。黄瀬はフェイクをかけて中に切り込む際、わざと直前に綾瀬を追い付かせた)」

 

あの時、スリー阻止の為にスピードをかなり落とした大地では、僅かにスピードを緩めただけの黄瀬に追い付く事などあり得ない事だった。では何故追い付けたのか。それは、黄瀬本人がスピードを落として追い付かせた事に他ならない。では、何故追い付かせたのか…。

 

「(黄瀬の本当の狙いは、焦ってブロックに来たあいつ(大地)からファールを受けながら得点を決める事だった…)」

 

ファールを受けて得点を決めてバスカンをもぎ取り、フリースローを決めて逆転。それが黄瀬の思い描いたシナリオだった。

 

黄瀬は理解していた。チームの状態、そして自身の限界を。延長戦を向かった際の結果を…。故に、ここで逆転し、試合を終わらせたかった。

 

直前にそれに気付いた大地はブロックに飛ばず、延長戦で決着を付ける選択をした。

 

「…ちっ、俺のいねえ所で楽しみやがってよ」

 

嫉妬に駆られた苛立ちを胸に抱きながら青峰は会場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

延長戦が開始されると、すぐさま両ベンチの監督が動いた。

 

花月は天野と松永を下げ、竜崎と室井を投入。海常は黄瀬をベンチに下げた。この行動に、主に海常の武内の判断に疑問を抱いた者は多かったが…。

 

「ハァ…ハァ…」

 

ベンチに入るなり呼吸を大きく乱しながら座る黄瀬。その姿を見て如何に黄瀬が消耗していたのかを理解した。

 

黄瀬はもう限界…いや、限界をとうに超えていたのだ。パーフェクトコピーを使いながらゾーンの扉を開いたので当然の事であった。むしろ、ここまでもたせた事自体が奇跡と言っても過言ではないのだ。

 

武内は黄瀬を下げた。だが、これは黄瀬を休ませる為の処置。延長戦の5分の内、2分。途中タイムアウトも行使して計3分を黄瀬の休息に当て、その間、とにかく時間をかけて攻め、ディフェンスはファールを覚悟で当たる事で時間を浪費し、失点を最小限に抑え、試合時間残り3分で黄瀬を再投入し、逆転。逃げ切る作戦だった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地のジャンプショットが決まり、末広がボールを拾い、スローワーとなって小牧のボールを渡した。その時、花月が動いた。

 

「当たれ!!!」

 

花月ベンチに座る上杉が大声で指示を出すと、花月の選手達が一斉にオールコートマンツーマンを仕掛け、海常の選手達に激しくディフェンスに当たった。

 

『っ!?』

 

この行動に海常の選手達は驚きを隠せなかった。既に1試合分の時間が終了しており、限りなくスタミナが消耗している状態でこの選択。この選択が海常を追い詰めていく。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

花月のオールコートマンツーマンによりスティールを連発し、ボールを奪って行く。

 

上杉は分かっていた。黄瀬が既に限界を迎えている事。黄瀬を下げて休息させ、その間、時間をかけて攻めて来る事を。それを見越して試合開始から出ずっぱりだった天野と1度は負傷退場したものの格上の三枝とマッチアップをしてスタミナが削られていた松永を下げた。もともとの運動量が豊富な空と大地に、交代を駆使してスタミナ消耗がそれほどでもない生嶋、竜崎、室井ならばこの局面でもオールコートマンツーマンを仕掛けても何ら問題はない。

 

作戦は的中。既に1試合分、それも両チーム100点を超える試合を戦い抜いた海常は突破出来ず、花月はスティールを連発して連続得点を重ねていった。途中、海常はタイムアウトを取って対策を立てたが、気休め程度にしかならなかった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

延長戦2分が経過した所で黄瀬を再投入。黄瀬が得点を重ねていき、再び花月との点差を詰めていく。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

黄瀬が再投入され、1分半が経過した所で海常が花月を捉え、逆転を果たした。

 

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 

しかし、ここでベンチに下がって蓄えた黄瀬の僅かな体力が底を尽きた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬の横を高速で駆け抜ける大地。黄瀬はそれに反応は出来たが、鉛のように重くなった身体は動かなかった。

 

 

――バス!!!

 

 

逆転に成功した海常だったが、瞬く間に逆転されてしまった。縦横無尽に動く空と大地。外から狙い打つ生嶋。その3人を竜崎と室井が全力でフォローし、花月が得点を重ねていく。そして…。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

気合い一閃。黄瀬が自陣のゴール下から残った力を振り絞って緑間のコピーである超ロングレンジスリーを放った。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了。

 

 

花月 121

海常 118

 

 

黄瀬の最後のスリーが決まり得点が加算されるも、逆転には至らず、長い長い激闘を花月が制し、花月が準決勝進出を果たしたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





いやー、終わった…(>_<)

何気にこの試合投稿し始めたのは5月下旬。まぁ、この世界の時間軸の去年のインハイの時と比べれば速いペースか…(^-^)

前話投稿して、普段、投稿した週のUAはせいぜい2000くらいなんですが、今週は何故か4000と普段の倍になってて驚いた。ランキングに乗ったわけでもないのに何が起こった…(;^ω^)

おかげでこの試合の結末がこれで良いのか迷った。賛否両論…恐らく否が多くなりそうで怖いですが、正直、結末は試合に勝って勝負に負けたこの展開が1番だと自分では判断しました。原作最強のパーフェクトコピー+ゾーンの黄瀬は超えてはいけない。しかし、花月を勝たせる展開にしたいので、結果、こうしました。

1つの山が終わり、そしてまた次に山が来るんですが、正直、先の陽泉戦、今回の海常戦以上にネタがないんですよね…Orz

これまでは運よく浮かびましたが、次はガチで厳しい。

大丈夫かな…(ノД`)・゜・。

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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