黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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第13Q~苦戦~

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

「沼津のスリーだ!」

 

森崎のマークをかわして帝光の沼津のスリーが決まる。

 

 

第1Q、残り4分。

 

星南 4

帝光 13

 

さらなる失点により、点差が開く。

 

「いいぞいいぞ沼津! いいぞいいぞ沼津!」

 

帝光中のベンチ入り出来なかった観客席の2軍、3軍達の応援が会場中に響き渡る。そして、さらに沸き上がる観客。

 

「くっ、くそ…」

 

帝光一色の会場の空気に星南の選手達の気持ちが徐々に押しつぶされていく。

 

「暗くなるな。まだ試合は始まったばかりだ」

 

「そうです。ある程度やられることは想定していたことです。これからですよ」

 

暗くなる星南メンバーを空と大地が励ます。

 

「あ、あぁ…」

 

ここまで勝ち抜いてきた原動力の2人の頼りになる言葉を聞いてもなお、不安は拭うことはできなかった。空と大地のマッチアップの相手である新海と池永。この2人は空と大地を相手に互角の戦いを繰り広げていた。

 

これまでの試合では、例え、自分が抜かれても空か大地が持ち前の運動量とスピードでカバーしてくれた。だが、今回は自身の相手で手一杯でヘルプに来る余裕がない。つまり、自分が抜かれたら2人のフォローはあまり期待できないということだ。そのプレッシャーがまた田仲、森崎、駒込を追いこんでいく。

 

「…基本に立ち返りましょう。田仲さん、森崎さん、駒込さんは我々のフォローを頼みます」

 

大地が3人に指示を飛ばす。

 

「俺達で何とか帝光を切り崩す。隙を見てボールも回すから、集中しとけよ?」

 

空が笑みを浮かべながら伝える。その笑顔に他の3人も幾ばくか余裕が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「よし、1本! 行くぞ!」

 

空がボールを貰い、ゲームメイクを始める。

 

「5番、オッケー」

 

空に新海がマークにつく。

 

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

 

空がゆっくりボールを付きながらチャンスを窺う。

 

「(よし!)」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

空が一気にドライブで抜きにかかる。だが、新海は遅れることなくついていく。

 

「ダメだ! やっぱり抜けない!」

 

星南ベンチから絶望の声が上がる。

 

空は、ハイポストで待ち構える駒込に鋭いパスを出す。駒込はボールを受け取ると右側のアウトサイドのポジションにいる森崎にすぐさまパスを出す。

 

「打たせないよ」

 

沼津が間髪入れずにチェックに入る。森崎は動じることなく中にパスを出す。そこに駆け込んだ空は右手で受け取り…。

 

 

 

――ブン!!!

 

 

 

そのまま腕を回し、逆サイドでフリーになった大地にボールをまわす。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

大地はブロックに阻まれる前にシュートを放ち、落ち着いて点を決める。

 

「星南の連携プレイだ!」

 

内、外、内からのパスで得点。1ON1で得点を決める帝光に対し、星南は連携で得点を決めていく。

 

「これが星南の強みだな」

 

東郷中のC(センター)、高島がポツリと言う。

 

「星南は神城と綾瀬だけのチームと思われがちだが、その他のメンバーの戦術理解度と連携度が高い。彼らのフォローあっての星南だ」

 

「確かに、神城と綾瀬だけのチームだったら、少なくとも、俺達も、城ケ崎も負けることはなかったかもな」

 

三浦も3人の実力を認めており、同様の感想を述べた。

 

 

 

 

「ふーん。伊達に決勝まで来てはいないみたいだな」

 

水内が感心した表情で星南の選手を見つめる。

 

「1人でダメなら皆でことだろ。雑魚はそうしなきゃ戦えませんってか? 健気過ぎて同情したくなるな……新海、ボールくれ」

 

池永がボールを要求する。

 

「小物の小細工は、王者には通用しないってことを…、力を合わせれば勝てるなんて思ってる奴等の考えが無意味だってことを教えてやる」

 

ボールを受け取った池永。マークするのは大地。

 

「1つ忠告しておいてやるよ」

 

「?」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

クロスオーバーで大地の左側から抜きにかかる。大地もそれにピタリとついてくる。そこから池永は自身の背中からボールを通し、ビハインド・ザ・バックで切り替えした。

 

「ちっ!」

 

大地は不意を突かれたものの僅かに遅れながら池永の横についてくる。インサイドまで侵入すると、ジャンプする。

 

「小物の努力なんてのはなぁ、王者の前では無駄な努力に過ぎないんだよ!」

 

池永がレイアップの体勢に入る。

 

「させるかよ!」

 

そこにヘルプにきた田仲がブロックに跳ぶ。池永はボールを下げ、田仲のブロックをかわす。そのままリバースレイアップ、ダブルクラッチでボールを放つ。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

池永のダブルクラッチはブロックされる。ブロックしたのは…。

 

「神城のブロックだ!」

 

空がダブルクラッチを叩き落とした。

 

「っ! てめぇ…」

 

決まると思ったダブルクラッチ。それはブロックされる。池永はその張本人の空を苦々しく睨み付ける。

 

「無駄な努力なんてねぇし、俺達は小物でもなければお前らは王者でもないだろ」

 

空はフフンと笑みを浮かべながら言った。

 

「くそっ!」

 

池永は舌打ちをする。

 

「ハッハッハッ! 池永ちょーだせぇ!」

 

「うるせぇよ!」

 

水内が大笑いをし、池永が怒りを露わにする。

 

「お手数をおかけしました」

 

「はっ! 気にすんな。こっちもスカッとしたしな」

 

頭を下げる大地に空が笑みを浮かべながら肩に手を置いた。

 

「向こうは去年と同じ個人技主体の攻撃バスケ。パスはPGの新海以外は最小限しかしないし、他の奴のフォローもほとんどしない」

 

「…確かに、我々が抜いても積極的にヘルプに来る様子はありませんでしたね」

 

空と大地がスピードとテクニックを駆使してぶち抜いても帝光中はほとんどヘルプにこない。これはひとえに抜かれた者の自己責任という考えであり、その尻拭いをするつもりはないということである。

 

そして、たとえ点を取られても難なく返せるという自信と驕りのあらわれである。

 

「向こうがその気なら、こっちだってやりようがあるな」

 

帝光中の戦い方の方向が見えてきたことにより、攻め方も決まってくる。

 

「よし。…駒込、お前はガンガンスクリーンかけてフリーの選手を作ってくれ。森崎はボールの動きに注視しろ。外を決めてディフェンス意識を外に向けさせるんだ。神城と綾瀬は今までどおり、俺達がフォローするからガンガン行ってくれ」

 

「うん」

 

「おう!」

 

「任せな」

 

「もちろんです」

 

キャプテンの田仲が指示を出し、他の4人が頷きながら返事をし、散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は進み、どんどん加速していく。

 

星南はこれまでどおり、空が起点となり、大地がフィニッシュを決め、他の者達が2人をフォローし、帝光中と戦っていく。

 

帝光中はとにかくボールを持ったら個人技を仕掛け、得点を量産していく。

 

 

 

――連携 対 個人技

 

 

 

大筋予想どおりの様相を繰り広げている。

 

第1Qは星南の連携がうまくはまったことと帝光が積極的に他者のフォローをしないことが要因で20対12と、失点差を一桁で終わることができた。

 

試合は第2Q。試合が動きを見せ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

空がボールをキープしながらチャンスを窺う。

 

「(…ここだ!)」

 

 

 

――ダムッ!!!

 

 

 

空が一気に加速し、新海の脇をドライブで抜けようとする。新海がそれに対応し、空を追いかける。

 

「っ!? …ちっ!」

 

新海は駒込のスクリーンに捕まり、舌打ちをする。

 

空がぺネトレイトでインサイドに侵入する。ここまでなら帝光のフォローはこず、難なくシュートに行けたのだが…。

 

「…ようやく来たか」

 

侵入してきた空に対し、素早く池永と水内がヘルプにやってきた。空の進行を阻む位置に陣取る。

 

第1Q終了後のインターバルで、帝光中の監督である真田から檄が飛んだこともあるが、それ以上に失点されることが勘に障った帝光中のスタメン達がヘルプで潰しに行くことを決意した。

 

「ふっ!」

 

空は構わずボールを持って跳躍する。

 

「調子に乗るな!」

 

「潰す!」

 

池永と水内がブロックに跳び、リングを塞ぐ。

 

『おー! 高ぇーっ!』

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

空は2人がブロックに跳んだのを見計らい、2人の足元でバウンドさせながらパスを捌き、ゴール下に陣取る田仲のボールを渡す。

 

リングに背を向ける形で田仲がボールを受け取ると、河野がすぐさま田仲の背中に付き、ディフェンスに入る。

 

「(…ダメだ! 押し切れない!)」

 

田仲は背中でジリジリと押しながらシュートチャンスを窺うが河野はビクともせず、反転しようにもそれをする隙がない。

 

「田仲! 3秒!」

 

星南ベンチから悲痛の声が上がる。

 

「くそっ!」

 

田仲は悔し紛れにボールを外に捌く。左サイド3Pラインの外側に走っていた森崎がボールを受け取る。

 

「やっば!」

 

沼津が慌ててチェックに向かう。森崎はボールを受け取るとすぐにシュート体勢に入る。

 

「させっかよ!」

 

沼津がブロックに跳ぶ。

 

 

 

――ピッ!

 

 

 

ボールは沼津に触れることなくリングへと向かう。

 

「入れ!」

 

3Pを放った森崎が決死の願いを込めて叫ぶ。

 

 

 

 

「…ダメだ。体勢が崩れてるし、何よりリズムが悪い…」

 

観客席の生嶋が眉間に皺を寄せてボソッと呟く。

 

 

 

――ガン!!!

 

 

 

「っ!?」

 

ボールはリングに弾かれてしまう。

 

「リバウンド!」

 

新海が外れたボールに叫ぶ。

 

「任せろ!」

 

田仲と河野がリバウンドを制するため、ゴール下でポジション争いを始める。両者が同時に跳ぶ。

 

「っしゃぁ!」

 

「くっそ…」

 

リバウンドを制したのは河野。河野はボールを新海に渡し、帝光ボールに変わる。

 

 

「…田仲も全国上位クラスのセンターだ。だが、帝光の河野はそのさらに上だ」

 

東郷中のセンター、高島が今のリバウンド争いを見て感想を漏らす。

 

「あいつはセンターとしてはあまり大柄の選手ではないからな。空中戦、肉弾戦においては河野に軍配が上がる」

 

今までの試合を見た限り、帝光の河野の方が上だと言い切る。

 

「…このままではまずいぞ」

 

「えっ?」

 

東郷中のポイントガード、三浦がポツリと喋り始める。

 

「星南はリバウンドが取れない。これではおもいきってシュートが打てなくなる。神城にしても綾瀬にしても、確実にシュートを決められるわけじゃない。このままじゃ、点差はどんどん開くばかりだ」

 

三浦がこの試合の星南にとっての不安要素を口にする。そして、この不安は的中することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

試合は第2Q終盤。残り10秒のところまで進む。

 

 

星南 26

帝光 44

 

三浦の不安どおり、点差はどんどん開いていった。要因はやはり、リバウンドが取れないことだ。オフェンス、ディフェンス共に外れたボールは帝光がことごとく制し、ピンチを拾い、チャンスはことごとくものにしていった。

 

空と大地が要所要所で得点を重ねるが、失点はそれ以上に取られてしまう。

 

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

 

新海がボールを運びながらチャンスを窺う。

 

 

「…この1本。星南はなにがなんでも止めなければならない」

 

「えっ?」

 

生嶋がボソリと呟くと、小牧が振り向く。

 

「ここで決められたら点差は20点。点差が10点代ならまだ後半粘るだけの気力も残るけど、20点差付いたら心の中に諦めの言葉が出てくる。…つまり、ここを防げなかったら――」

 

「(…ゴクッ)」

 

「――星南は負ける」

 

 

新海はゆっくりボールを付く。第2Qの時間が残り7秒になったところで動きを見せる。

 

 

 

――ピッ!

 

 

 

新海はマーカーを振り切った沼津にボールを渡す。

 

ボールを受け取った沼津はヘルプに来た森崎をかわし、急停止すると、そのままミドルシュートを放った。

 

「させねぇーーーっ!!!」

 

田仲が決死のブロックに跳ぶ。

 

 

 

――チッ…。

 

 

 

ブロックに行った甲斐があり、そのミドルシュートは田仲の指先を僅かに掠る。

 

 

 

――ガン!!!

 

 

 

ボールはリングに弾かれる。

 

「やった、外れ――」

 

シュートが外れたことに一瞬安堵するが…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

池永がダンクでリングに押し込む。

 

「あぁ…」

 

池永のリバウンドダンクにより、絶望にも似た嗚咽が漏れる。

 

 

「……終わった」

 

生嶋が深くを目を瞑り、声を漏らす。

 

残り4秒。点差が20点にまで開いてしまう。

 

 

「「「…」」」

 

田仲、森崎、駒込。そして、星南ベンチのメンバーにも絶望がよぎる。20点も開いたスコアボードを見て茫然とする。

 

動くことができない星南のメンバーの中で、唯一次の行動に移していた2人がいた。

 

「っ! …まだだ! ディフェンス!」

 

「遅ぇーよ」

 

それにいち早く気付いた新海が声を荒げるが…。

 

 

 

――ブォン!!!

 

 

 

得点を決められたボールをすぐさま拾った空が前方に大きくボールを投げる。そこには、フロントコート内にダッシュしていた大地がいた。

 

「あっ、やっべ」

 

他の帝光メンバーもそれに気付いたがもう手遅れだった。

 

ボールを受け取った大地はそのままドリブルでボールを進め、そして…。

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

そのままワンハンドダンクを決める。

 

『うおぉぉぉーーーっ!!!』

 

そのダンクに観客が沸き上がる。

 

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

それと同時に第2Q終了のブザーがコート内に鳴り響いた。

 

2点が星南に加算される。

 

「終わらせませんよ。まだ試合は折り返しです」

 

「そうそう。勝負はこれからだ」

 

空と大地が帝光中のメンバーを睨みつける。

 

 

星南 28

帝光 46

 

第2Qが終わり、試合は半分を消化する。

 

試合の行方は、まだまだ決まらない……。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 


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