黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

給水のペースが半端ない…(;^ω^)

それではどうぞ!



第127Q~やれること~

 

 

 

第3Q、残り3分57秒

 

 

花月 59

海常 66

 

 

OUT 松永

 

IN  室井

 

 

松永が負傷によりベンチに下がり、代わりに室井がコートに入った。

 

「さて、ここからどないする?」

 

空に歩み寄った天野が尋ねる。

 

「海兄を止められない事も問題ですが、それ以上に問題なのは点が取れない事です。ここでまた点差が広がるのはまずい」

 

顎に手を当てながら思案する空。すぐにでも広がりつつある点差をどうにか出来なければまずい。対処が遅れれば花月の敗北は必至である。

 

「(松永下がる以上、とにかく点を取る必要がある。生嶋をコートに戻してもらうか? …いやダメだ。現状で下げられる奴がいない。くそっ、うちにも黒子さんみたいなパスの中継が出来る奴でもいれば……黒子さん?)」

 

ここで空の頭の中にとあるアイディアが浮かんだ。

 

「…」

 

「? キャプテン、どうかしましたか?」

 

考え込む空を見て竜崎が怪訝そうな顔で尋ねる。

 

「……竜崎」

 

「何ですか?」

 

暫し考えた後、空は同じく傍まで来ていた竜崎を呼んだ。

 

「ここからのオフェンスだが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

花月のオフェンスが始まり、竜崎がボールを運ぶ。

 

「…」

 

海常のディフェンスは変わらず、大地にダブルチームでマークし、コートに入った室井には三枝がマークしている。

 

「…っ」

 

ゆっくりドリブルをしながらゲームメイクをする竜崎だが、攻め手が定まらない。厳密にはパスは出せるのだが、得点に繋げる事が出来ないのだ。

 

「(さっき、キャプテンはああ言ったけど…)」

 

ここで、先程空が竜崎に出した指示を思い出す。だが、実行するのが躊躇われる。

 

「(…いや、信じよう。キャプテンが言った事なら間違いないはずだ!)」

 

 

――ボムッ!!!

 

 

迷いを消した竜崎は中に無造作にボールを放った。そこは味方のいない場所であった。

 

『パスミスか!?』

 

「(連携ミスか? いずれにしても、いただきだ!)」

 

末広がボールを拾いに向かう。

 

「(…この感じ、どこかで――っ!?)」

 

黄瀬がボールの行方に視線を向けた瞬間、目の前から何かが通り過ぎた。

 

 

――バチィッ!!!

 

 

末広がボールを拾うとしたその時、それよりも早く空が手の平で叩き、ボールの軌道を変え、大地の手に収まった。

 

「…えっ?」

 

何が起こったか頭で処理出来ていない小牧は思わず声を上げた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

大地はそこからミドルシュートを放ち、得点を決めた。

 

『……おっ――』

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

何が起きたか理解した観客が歓声を上げた。

 

「…今のは…!」

 

「何驚いてんだ? 2番のポジションは点を取るだけが仕事じゃねえ、ポイントガードの補佐をするのも仕事だろ?」

 

茫然とする小牧に対し、空はニヤリと笑みを浮かべながら告げた。

 

「パスの中継……今のはまるで、誠凛の黒子テツヤの!?」

 

今、行われた事の詳細を理解した氏原が驚きを声を上げた。

 

今のは帝光中の幻のシックスマンであり、現誠凛の黒子テツヤの十八番であるパスの中継プレーである。

 

「いや、ありえないッス。あれは黒子っちの影の薄さとミスディレクションがなければ出来ないはずッス!」

 

黒子を良く知る黄瀬がそれを否定する。

 

「落ち着け! 所詮は付け焼き刃だ。冷静になれば対処出来る」

 

ベンチから立ち上がった武内が選手達に声をかける。

 

「ベンチから奴(空)の姿ははっきり見えていた。ただの思い付きのプレーに過ぎん」

 

再びどっしりベンチに腰掛け、呟いた。

 

 

海常のオフェンス…。

 

「(そうだ。焦る事はない。点差は僅かであれどこっちがリードしてるんだ。それに…)」

 

ボールを運ぶ小牧。ここでチラリと室井の方に視線を向ける。

 

「(大きな穴も1つ出来たんだ。ここで攻めれば問題ない!)」

 

小牧はパスを出した。ボールの先は…。

 

「容赦はせん。おどれもさっきの奴同様、しごうしちゃるわ!」

 

「…っ、やれるものならなってみろ」

 

ローポストでボールを掴んだ三枝。その背中に室井がディフェンスに入る。血走った目で言い放つ三枝に対し、室井は力強い目で言い返した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

リングに背を向けながら三枝がドリブルを始める。

 

「…っ」

 

ポストアップで室井を押し込んでゴール下に侵入しようとする三枝。

 

「…むっ?」

 

しかし、三枝はゴール下に進む事が出来ない。室井は腰を落として侵入を阻止していた。

 

「大したパワーじゃ! じゃけん、それがどうしたぁっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで三枝がフロントターンで反転。ゴール下に切り込んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

直後にボールを右手で掴み、リングに叩きつけた。

 

「パワーだけでワシを止められると思ったら大間違いじゃ」

 

「…」

 

室井にそう告げ、三枝はディフェンスに戻っていった。

 

「スマン、ヘルプ遅なってしもうた。次からはもっと早く――」

 

「いえ、大丈夫です」

 

駆け寄った天野の提案を室井は遮るように否定した。

 

「あの人は俺1人で止めます」

 

「1人でやと? 何言うてんねん。マツでもどうにもならへんかったのをお前1人で――」

 

「確かに、三枝さんは俺では勝てない。ですけど、今の三枝さんなら俺1人でもやれそうな気がするんです」

 

強がりではなく、ある程度の根拠をもって室井はそう答えた。

 

「分かった。存分にやれ」

 

その時、空が室井の言葉を了承した。

 

「ただし、言い出したからには絶対止めて見せろよ」

 

「はい! 任せて下さい!」

 

天野がボールを拾い、ボールを竜崎に渡し、リスタートした。

 

「ええんか空坊。正直、無謀な賭けやで」

 

フロントコートに進む際、天野が空に尋ねた。

 

「あいつがハッタリであんな言葉を吐くとは思えないですし、何より、何となく室井ならやってくれそうな気がするんで」

 

天野の心配をよそに空はあっけらかんとした表情で答えた。

 

「さてオフェンスです。行きますよ」

 

そう言って、空はポジションに付いた。

 

 

竜崎がフロントコートにボールを運び、花月の選手達がポジションに付いた。

 

『…』

 

海常の選手達はそれぞれマークする選手を気にしながらも空の動向に注目していた。

 

「…」

 

ドリブルをしながらゲームメイクをする竜崎。今度は自身の横にボールを放った。

 

『っ!?』

 

ボールが放られるのと同時に空が黄瀬のカットで振り切り、ボールに向かって走り出した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

再び空はボールを叩き、ハイポストに立つ天野にボールを中継した。

 

「ナイスパスや!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークの天野は落ち着いてそこからジャンプショットを決めた。

 

『スゲー!? またとんでもねーパスが出たぞ!?』

 

「……これは…!」

 

先程に続いて竜崎のパスを空が中継、そこからの得点。

 

「ミスディレクションの代わりにスピードと瞬発力で再現しているのか…!」

 

ベンチから武内が唸るように呟く。

 

誠凛の黒子テツヤのお株を奪うパスの中継。空が竜崎にこう指示を出していた。

 

『もし、パスの出し手に困ったら、俺の位置を確認して、俺の近くの空いてるスペースにボールを出せ』

 

この指示の通り、竜崎は空のポジションを把握し、ボールを放った。後は竜崎がボールを放るタイミングに合わせ、空がスピードと加速力を駆使して黄瀬のマークを外してボールに向かい、元々の広い視野で瞬時にパスコースを割り出し、タップをしてパスを中継した。

 

空の身体能力とパスセンスがあってのプレーであった。

 

「厄介ッスね…」

 

思わずぼやく黄瀬。黒子テツヤのように姿を見失う訳ではない。だが、空のスピードは今や高校最速。黄瀬以上である。つまり、姿を捉えたりパスコースから先読みすればある程度防げる黒子と違い、空のパスの中継は防ぐのはまた違った意味で困難。

 

「ドンマイ! 1本確実に返しましょう!」

 

スローワーの末広からボールを受け取った小牧がチームメイトに声を出した。

 

「1本! 止めるぞ!」

 

ディフェンスに戻った空が声を上げる。

 

「…むっ?」

 

ベンチの武内が唸り声を上げる。花月のディフェンスが変わったのだ。

 

「っ!? マンツーマン?」

 

花月は2-3ゾーンディフェンスからマンツーマンディフェンスに変わったのだ。

 

小牧には空。氏原には竜崎。末広には天野。黄瀬には大地。そして…。

 

「ええ度胸じゃ、と、言いたいがのう、ちぃとばかし調子に乗り過ぎじゃのう…!」

 

自身の背中に立った室井を見て、若干声色を荒げて言う三枝。

 

「止める。止めて見せる!」

 

怯む事無く室井は言い返す。

 

「(あくまでも海さんを1人で止める気か…)こっちとしては好都合だ。遠慮なく行かせてもらうぜ」

 

小牧はローポストに立つ三枝にパスを出した。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ポストアップに立った三枝が室井を押し込み始める。

 

「おぉっ!」

 

それを室井は腰を落として堪える。

 

「無駄じゃと言っとるじゃろうが!」

 

先程同様三枝がターンで反転し、室井の背後に抜ける。そのままボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「うおぉぉぉぉーーーっ!!!」

 

咆哮を上げた室井が三枝とリングに間に割り込み、ブロックに飛んだ。

 

「むぉっ!?」

 

予想外の出来事に三枝は一瞬驚いたが、すぐさま右手で持ったボールをリングに放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはリングの上を何度か弾みながらリングを潜り抜けた。

 

「(今の、結構危なかったぞ!?)」

 

2人の勝負の行方を見ていた末広は、何とか決まったのを見て懸念を示した。

 

「くそっ! 今度こそ…!」

 

失点を防げなかった室井は悔しがる。

 

「いいぞ室井。海兄はこのままお前に任せる。存分にやれ」

 

「はい!」

 

空が室井の傍まで駆け寄り、声をかけると、室井は大声で応えたのだった。

 

 

フロントコートまでボールを運ぶ竜崎。

 

「(落ち着け、自分のマークをきっちりするんだ!)」

 

「(姿は見えているんだ。冷静に対処すれば…!)」

 

海常の選手達は空の動向に気を配りつつ、自身のマークをきっちりこなしている。

 

「…」

 

落ち着いてボールを運ぶ竜崎。

 

「(傾向は見えてきたッス。彼(竜崎)は神城君の近くの空いたスペースにパスを出してくる。恐らく思い付きだからそれが限界。それさえ分かれば…!)」

 

過去にも本家とも言える黒子を相手にした経験がある黄瀬は、自身の洞察力も加わってパスの仕組みを見抜き備える。

 

 

――スッ…。

 

 

ここで竜崎が動く。パスを出そうとボールを掴んだ。

 

「(来た! パスの先は……そこだ!)」

 

パスの先を特定した黄瀬。読み通り空がその場所へ移動を開始した。

 

「何度も同じ手は食わな――っ!?」

 

追いかけようとした黄瀬だったが何かに阻まれた。

 

「さすが2度もやればいい加減見抜かれるやろな。そこで俺の出番や」

 

黄瀬に対して天野がスクリーンをかけていた。このスクリーンによってフリーになった空は出されたパスの先に移動した。

 

「(しっかりパスのルートを塞げば問題ない!)」

 

各海常の選手達はそれぞれが受け持つマークをきっちりこなし、パスの出された地点から見えるパスルートを塞ぎにかかる。

 

「確かにそれでは空でもパスの中継は出来ないでしょう。ですがよろしいのですか? ボールを持つのは空なのですよ?」

 

薄く笑みを浮かべながら大地が呟く。

 

「…こりゃパス出せねえな。なら、仕方ねえ」

 

パスの中継を諦め、ボールを掴む空。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

そのままリングまで一直線に突っ込み、そのままリングに向かって飛んだ。

 

「ぬぅっ! おのれ!」

 

慌てて三枝がヘルプに向かうが…。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

それよりも早く空はリングにボールを叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

「っしゃぁっ!」

 

ダンクを決めた空は拳を握って喜びを露にした。

 

「…っ、考えが甘かった…!」

 

思わず拳をきつく握る小牧。

 

黒子と同じ感覚で考えていた海常の選手達。しかし、黒子と違って空はドリブルもシュートもこなす。しかも、同じ特性を持った黛と違って身体能力もテクニックの桁が違う。

 

「切り替えろ! オフェンスを確実にモノにするんだ!」

 

浮足立つ選手達に武内がベンチから檄を飛ばした。

 

 

「(そうだ。いくら相手を止められなくても、こっちがきっちり決めれば点差は変わらないんだ。今は自分の役割をちゃんとやるんだ!)」

 

迷いを振り切った小牧はゲームメイクに集中する。

 

「…っ!?」

 

その時、小牧は目を見開いた。空が突然小牧の持つボールを狙い打ったからだ。

 

「くっ…そ…!」

 

グングンボールに迫る空の手。

 

「舐めるな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意表を突いた空のスティールだったが、小牧はバックロールターンで反転し、ギリギリの所でその手をかわした。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

「残念やが、二段構えや」

 

空のスティールをかわした直後、現れた天野によってボールをスティールされてしまった。

 

「(ええ読みやで空坊!)」

 

天野は心の中で親指を立てた。

 

突然の空のスティールは計算されたものである。小牧が突然の状況ではバックロールターンでかわす癖がある事を見抜いての行動。動く前に空は天野に合図を出し、天野は空の合図の意図を即座に理解し、空のスティールが成功すればそれでよし。かわされれば天野が抜いた直後を二段構え。

 

「下さい!」

 

スティールを見て速攻に走っていた大地がボールを要求する。

 

「さっすが相棒! 速攻!」

 

即座に空がボールを拾い、速攻に走る大地に縦パスを出した。

 

「くそっ! 戻れ!」

 

慌ててディフェンスに戻る海常の選手達だが、先頭を走る大地には追い付けない。

 

『大チャンスだ!』

 

『ダンクを見せてくれ!』

 

完全なノーマークで先頭を走る大地に観客からリクエストが飛び交う。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

スリーポイントライン目前で大地が急停止する。

 

「(勢い付けるダンクはさっきの空のもので充分でしょう。申し訳ありませんが、今は点差を縮めるのが最優先です)」

 

急停止直後、大地がそこからスリーを放った。

 

『っ!?』

 

この選択に海常のみならず、花月の選手、観客までもが目を見開いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を的確に射抜いた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『トランジションスリー! 決めやがったぁっ!!!』

 

観客からはどよめきに似た歓声が上がった。

 

ワンマン速攻からのスリー。いくらノーマークでもスリーとなれば決められるとは限らない。外せばみすみす確実に決められた2点を失う事になる。

 

「(あそこでスリー打つのは緑間っちくらいだ。去年までの彼なら考えられない選択だ…)」

 

スリーを沈めた大地に視線を向ける黄瀬。

 

「ナイス大地!」

 

「ナイスパス空」

 

ハイタッチを交わす2人。

 

「ディフェンスだ! ここを止めて流れを掴むぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が声を張り上げ、選手達が応える。

 

『ディーフェンス! ディーフェンス!』

 

それに呼応するようにベンチからも声が上がった。

 

 

「海さん!」

 

海常のオフェンスとなり、小牧がローポストに立つ三枝にボールを託す。

 

「止める!」

 

背中に立ってポストアップに備える室井。

 

「調子腐るな! トーシロにしてやられる程はワシはぬるないんじゃボケ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

フロントターンで反転して室井の背後を抜け、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「(来た!)」

 

ここまで何度も見せてきた三枝のオフェンス。タイミングを学習し、ターンに合わせてブロックに飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

三枝がリングに振り下ろしたボールに室井の右手が互いの手でボールを挟み込む形になる。

 

「なんのぉっ!!!」

 

それでもお構いなしに三枝はリングに向かって右手を振り下ろしていく。

 

「(…っ! 確かに俺はまだ素人だ。この舞台に立ってる者に比べればキャリアは浅い。だが…!)」

 

「っ!?」

 

振り下ろされた右手が徐々に押されていく。

 

「(俺には陸上で培ったキャリアがある。一瞬の力の引き出し方はこのコートに立つ誰よりもよく知っている。そして、身体能力なら誰にも負けない!)…おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

咆哮を上げながらブロックに行った右手に力を集約させた。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

三枝の右手に収まったボールを掻きだした。

 

「止めたぁっ!!!」

 

ベンチの菅野が立ち上がりながら拳を握った。

 

「やるやないかムロ! 大成!」

 

ルーズボールを天野が拾い、竜崎にボールを渡す。

 

「よし、速攻!」

 

先頭を走る竜崎がボールを受け取ってすぐにフロントコートまで駆け上がる。

 

 

――バス!!!

 

 

そのままレイアップを決めた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『再び花月が海常の背中を捉えたぁっ!!!』

 

「よーし!!!」

 

同点の速攻を決めた竜崎は拳を握って喜びを露にした。

 

『…っ』

 

再び同点に追い付かれた海常の選手達は表情を歪めた。

 

「…っ」

 

黄瀬がベンチに座る武内に視線を向ける。

 

「…(フルフル)」

 

意図を感じ取った武内は首を横に振った。

 

「残り5分まで我慢だ黄瀬。まだ振り出しに戻っただけだ。慌てる状況ではない」

 

パーフェクトコピーの使用許可を求めて視線を送った黄瀬に対し、我慢を強いた武内。

 

「…仕方ないッスね」

 

許可が下りず、嘆息する黄瀬であった。

 

 

ボールを運ぶ小牧。

 

「へい!」

 

黄瀬がボールを要求。小牧は黄瀬にパスを出した。

 

「…」

 

「…」

 

右45度付近で対峙する大地と黄瀬。

 

 

「ここで黄瀬を止められれば流れは完全に花月に向く」

 

対峙した2人を見て青峰が言う。

 

「(パーフェクトコピーはまだ使えねえ。そして平面では恐らく黄瀬と綾瀬はほぼ互角。…どうする)」

 

勝負の行方に青峰が注目したのだった。

 

 

「…」

 

「…ふぅ」

 

対峙する最中、黄瀬が一息吐く。

 

「思ったとおり、やるッスね。なら、こんなはどうッスか?」

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

ドリブルを始める黄瀬。だが、黄瀬はボールは今まで以上に強く突き始めた。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

『…っ!』

 

そのあまりの轟音は観客席にも響き渡る。

 

「(っ!? これは!?)」

 

大地は理解した。黄瀬がこれから何をしようとしているのかを。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

ボールを勢いよく叩きつけながら黄瀬は切り込んだ。

 

「…くっ!」

 

意表を突かれるも大地は何とかこれに対応。斜めに下がりながら食らいついた。

 

 

――ダムッ!!!!!!

 

 

が、直後、黄瀬は瞬時にクロスオーバーで切り返し、逆を付いて大地を抜き去った。

 

「っ!?」

 

体重が右足に乗っていた時に瞬時に逆に切り返されてしまい、大地はこれに対応出来なかった。そのままリングに向かって突き進む黄瀬。ペイントエリアに侵入すると、ボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるかい!」

 

黄瀬とリングの間に割り込むように天野がヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、黄瀬は天野の上からボールをリングに叩きつけた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

「今のは…!」

 

「…えぇ、見覚えがあります。昨年の夏、五将の葉山さんが見せた、雷轟のドリブル(ライトニングドリブル)です」

 

たった今、黄瀬が大地を抜き去ったドリブルは、去年まで洛山に在籍していた無冠の五将の葉山小太郎が得意としていた雷轟のドリブルであった。

 

「そうだ。しかも、直後には俺のキラークロスオーバーで切り返しやがった」

 

ぼやくように空が言う。

 

雷轟のドリブルで切り込んだ直後、黄瀬は大地の体重が片方の足に乗っかったのを見計らってクロスオーバーで切り返した。

 

「そッス。彼(葉山)の技に君(空)の技を組み合わせた、名付けるならライトニングキラークロスオーバーって所っスかね」

 

「「…」」

 

「俺のバスケのキャリアはそれほど多くない。けど、引き出しは結構多いんッスよ? パーフェクトコピー以外にも切れる手札はある。技同士を組み合わせれば、パーフェクトコピーに匹敵する威力になったりもする。俺の本領はまだまだこれからッスよ」

 

ドヤ顔で2人に告げると、黄瀬はディフェンスに戻っていった。

 

「…ちっ、キセキの世代の技をコピー出来るんだから五将の技だってコピー出来るわな。…行けるか?」

 

「何とかしますよ。と言うより、出来なければ話になりません。結局あれも手札の1つに過ぎないのですから」

 

尋ねる空に対し、大地は真剣な顔で返事をしたのだった。

 

 

「(…残り時間を考えて、これがこのQの最後の攻撃。何としても同点で…!)」

 

第3Q残り僅か。決めて同点で終わりたい竜崎は慎重にボールを運ぶ。

 

「竜崎!」

 

空が竜崎の横の位置まで移動してボールを要求。黄瀬もすぐさま追いかける。

 

「キャプテン!」

 

空を呼んだ竜崎。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

しかし、竜崎はパスを出さず、中に切り込んだ。

 

「っ!?」

 

目の前の氏原はその声掛けに騙され、パスを警戒した為、抜き去られてしまう。

 

そのままリングに向かう竜崎。空の動きに釣られて黄瀬が外に連れ出されてしまった為、中は手薄になっていた。

 

「無駄だ。お前では中からは点は取れない!」

 

確信を以て小牧が言い放つ。ゴール下には三枝が待ち構えている為、まともな攻めでは竜崎では点は奪えない。だが…。

 

「行け!」

 

その時、室井が身体を張って三枝をゴール下から追い出し、スペースを作る。

 

「…っ、おのれ!」

 

ヘルプに向かいたい三枝だったが、室井が身体を張って抑えている為、行けない。

 

 

――バス!!!

 

 

室井が身体を張ってスペースを作り、三枝を抑え込んでくれた為、竜崎は邪魔される事なくレイアップを決めた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

ここで、第3Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第3Q終了…。

 

 

花月 72

海常 72

 

 

「ナイス室井! クリアアウトなんていつの間に覚えたんだ!?」

 

喜びを露にしながら竜崎が室井に駆け寄り、ハイタッチと同時に尋ねた。

 

「俺はオフェンスでは役に立てる事は少ない。俺にも出来る事をやったまでだ」

 

特に表情を変える事なく淡々と答える室井。

 

「よくやった2人共!」

 

駆け寄った空が2人の肩を叩いて労った。

 

「キャプテンが黄瀬先輩を引き付けてくれたおかげで助かりました」

 

「このQをイーブンで終われたのはデカい。まだまだ頼むぜ」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

かくして、試合の4分の3が終了し、試合は再び振り出しに戻った。

 

まだ切り札を残している海常。状況は決して喜ばしいものではない。

 

両チームの選手達はベンチへと下がり、この試合最後のインターバルに入る。

 

試合は、最後の10分へと突入するのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





何度か消しては書いて消しては書いてを繰り返し、だんだん何が良いのか分からなくなる現象に陥ってしまった…(;^ω^)

ネタを集める為にバスケ動画を見ているのですが、見ている内にバスケの奥深さを知れてちょっと感激しています(今更)。

試合は次話から最後の第4Q。クライマックスになるので、陽泉戦にも負けないものにしたいんですが、出来っかなぁ…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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