黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

126 / 218

投稿します!

あ、暑い…(;゚Д゚)

梅雨明けしたっぽいが、この暑さはヤバい。熱中症、マジ注意だわ…(;^ω^)

それではどうぞ!



第126Q~ベルセルク~

 

 

 

第3Q、残り6分20秒

 

 

花月 57

海常 57

 

 

花月はターンオーバーからのカウンターで、空からパスを受けた松永のアリウープによって遂に同点に追い付いた。しかし…。

 

「ワシがおとなしゅーしとったら調子腐りよって……しごうしちゃるわ…!」

 

目を血走らせ、松永を鬼の形相で睨み付ける三枝。三枝の秘めていた顔が現れた。

 

「っ!? …やっべ、海兄キレた」

 

その変化に気付いた空が顔を強張らせる。

 

「何やねんあれ!? めっちゃ怖いねんけど!」

 

三枝の表情を見て顔を引き攣かせる天野。

 

「…海兄は基本、懐がデカくて大抵の事には寛容なんだけど、逆鱗に触れるとあーなっちまう事があるんですよ」

 

空は思い出す。以前に三枝が同じようになった時の事を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それは今から6年程前の事…。

 

空と大地、三枝がまだ3人一緒の地域に住んでいた時の事。3人は遊びのほとんどをバスケをして過ごしていた。ある時、バスケのリングが設置してある公園で遊んでいた時の事。突然そこにやってきたガラの悪い高校生達3人が自分達がリングを使うのでそこをどけと一方的に言ってきたのだ。

 

しっかりルールと順番を守って遊んでいた3人からすればそんな横暴な言葉に従う理由がないので断る。すると、高校生達は3ON3で勝負を負けた方がコートを譲るという条件の勝負を提案してきた。

 

相手は高校生。体格は当時小学生だった空達より遙かに優れている。恐らく経験者なのか、それなり実力もあるのだろう。普通に考えれば空達が圧倒的に不利な勝負なのだが、空達はその勝負を受けた。

 

勝負は体格面で空達が不利を強いられたが、そこは稀有な才能を持った3人。高校生が相手でも徐々に圧倒。勝負は空達に軍配が上がっていった。しかし、小学生達に負ける事を嫌った高校生達は突然、悪質なプレーをし始めた。遂には…。

 

『1回戦はお前達の勝ちで良いぜ。次は2回戦の喧嘩だ』

 

と、力付くでコートを奪いに来たのだ。

 

『ふざけんな! きたねーぞ!』

 

横暴過ぎる高校生達の言葉に空が反発した。

 

『うるせーんだよクソガキ!』

 

高校生の1人が空を蹴り飛ばした。体格の小さかった空は後ろに蹴り飛ばされる。

 

『…おどれ、誰の弟分に手ぇだしとんのじゃ。…おどれら全員、しごうしちゃるわ!』

 

そこには、怒りの形相と目を赤く血走らせた三枝がいた。これまでの横暴な仕打ちに加え、空への暴力で完全に堪忍袋の緒が切れた三枝が空を蹴り飛ばした高校生を殴り飛ばした。

 

高校生達もこれを見て応戦するが、当時から体格に優れていた三枝に次々と殴り飛ばされていく。

 

『スマン! 悪かった! コートはお前らが使っていいからもう勘弁してくれ!』

 

一方的に三枝に殴られまくった高校生達は地面に座り込みながら詫びを入れた。

 

『これは喧嘩じゃ。タイムアップもギブアップも存在せん。じゃけん、ワシが飽きるまで辛抱せぇ』

 

しかし、その言葉は聞き入れられる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「バスケやっててああなった所は見た事ないけど、多分、かなりヤバい事になるかもしれない」

 

「ヤバい事て、まさかラフプレーでもしてくるんとちゃうやろな?」

 

空の言葉を聞いて天野はとある懸念をする。

 

「さすがにそれはしてこないと思いますけど、…ただ、プレーが荒くなるのは間違いないと思います」

 

「…基本的にマッチアップする事になるマツが心配やな。俺もすぐにヘルプに出れるようしとくわ」

 

「頼みます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

海常のオフェンス…。

 

「ワシに持ってこいや!」

 

「っ!?」

 

ボールを運ぶ小牧に、ローポストに立つ三枝が今までにない程にボールを要求する。その殺意とも呼べそうな威圧感が味方である小牧に突き刺さった。

 

「た、頼みます!」

 

その圧力に圧倒されながらも小牧はカットされないよう飛びながら高くボールを放ってパスを出した。三枝はジャンプして手を伸ばして掴み、着地した。

 

「…行くぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

低く、それでいて良く通る声で宣言すると、三枝がドリブルをしながら背中に立つ松永を押し込み始める。

 

「…ぐっ!」

 

強烈なアタックに思わず松永は苦悶の声を上げる。

 

「(何だ!? 力が増した!?)」

 

ここで三枝がターンをしてゴール下に侵入する。

 

「がっ!」

 

松永は三枝のパワーに押されて尻餅を付いた。

 

「はぁっ!」

 

気合い一閃、三枝がボールを右手で掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させるかい!」

 

ここで天野がヘルプに現れ、ブロックに飛んだ。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

リングに振り下ろしたボールに対して手を伸ばしてブロックした。が、少しずつリングに押されていく。

 

「…っ!? あ…かん…!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

天野のブロックもお構いなしに三枝がリングにボールを叩きつけた。

 

「うがっ!」

 

ブロックに向かった天野は床に倒れ込んだ。

 

「のけぃ、ワシを阻むなら誰じゃろうとめがすぞ」

 

「…っ」

 

リングを掴んでいた右手を放し、床に降りると、血走った目で見降ろしながら天野に告げた。

 

 

オフェンスが変わり、竜崎がボールを運ぶ。

 

「…っ」

 

先程のダンクを見て、三枝の変化を肌で感じ取った竜崎は何とか平静を保ちながらボールを運んでいく。

 

「…」

 

「…」

 

空と大地がそれぞれをマークする相手を外そうと動きを見せる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで竜崎はどちらにもパスをするでなく、ドライブで一気に切り込んだ。

 

「花月は先輩達(空と大地)だけじゃない。俺だって…!」

 

中に切り込んだ竜崎はフリースローラインを越えた所でボールを掴み、飛んだ。

 

「調子こくなガキィ! しごうするで!」

 

それを見た三枝がヘルプに飛び出し、ブロックに現れた。

 

「(…来た!)」

 

 

――スッ…。

 

 

三枝のヘルプをあらかじめ予測していた竜崎はレイアップの態勢からボールをフワリと浮かせ、リングに放った。竜崎の武器であるスクープショットを放ったのだ。

 

「よせ、竜崎!」

 

「えっ?」

 

後ろから空が制止をかけたが既にシュートモーションに入っていた為、中断出来なかった。

 

「……なっ!?」

 

しっかりタイミングを計って打った為、入ると確信していた竜崎の表情が驚愕に染まった。

 

「(想定していたより速い! それだけじゃない、高い!)」

 

ベンチから三枝の身体能力と高さ、ヘルプ対応に来るスピードを計って頭に入れていた竜崎。しかし、三枝の動きはその計算を遙かに上回っていた。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

放られたボールは三枝に手に豪快に叩かれた。

 

「ナイス海さん!」

 

弾かれたボールはセンターラインを越えて転がった。すると、既に走り込んでいた小牧がボールを拾い、そのままワンマン速攻に走った。

 

「っ!? くっそ!」

 

慌ててディフェンスに戻る空だったが、もともとの距離があり過ぎたことと小牧とてスピードには自信がある選手の為、追い付けず。

 

 

――バス!!!

 

 

小牧はそのまま速攻でレイアップを決めた。

 

「よし!」

 

得点を決めた小牧は拳を握って喜びを露にする。

 

「すいません、迂闊過ぎました」

 

「気にすんな。積極的に攻めたミスなら仕方ねえ」

 

謝罪する竜崎に対し、空は宥める。

 

「オフェンスは俺か大地に任せろ。今は俺達で何とかする」

 

浮足立つ花月の選手達を落ち貸せるように空が声を掛ける。

 

「声出せ! 1本、取り返すぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が声を出してチームを鼓舞し、選手達がこれに応えた。

 

 

竜崎がボールを運び、目の前に立つ氏原に注視しながらゲームメイクを始めた。

 

「…」

 

同点に追い付いた直後、点を取られ、その後のオフェンスも失敗してターンオーバーからの失点を喫した為、慎重になる竜崎。

 

「こっちだ!」

 

空がボールを要求、竜崎がパスを出す。

 

「…っ」

 

ボールを持ったのと同時に空をマークする黄瀬が激しくプレッシャーをかける。

 

「(…ちぃっ! 最悪、中に切り込まれても構わねえって事か…!)」

 

積極的にプレッシャーをかけ、ボールを奪いにくる黄瀬。抜かれてもゴール下には三枝がいる為、構わないという、黄瀬の三枝に対する信頼の現れであった。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「やべ!」

 

黄瀬の手が空の持つボールを叩いた。

 

「あっぶね」

 

すぐに空がボールを拾い、ピンチを防ぐ。

 

「おしい」

 

カウンターを奪えず、悔しがる黄瀬。再び空にプレッシャーをかける。

 

「…っ、やろう…、いい加減に…」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「しろ!」

 

隙を見て空は黄瀬の脇を抜けていった。

 

「来いやぁぁぁぁっ!!!」

 

中に切り込むと、そこには三枝が待ち受けており、大きな咆哮と共に空を迎え撃つ。

 

「…」

 

ここで三枝から点を奪うにはティアドロップかフィンガーロールしかないのだが、現状で三枝の迎撃エリアと身体能力を計り切れていない為、打ちに行ってもブロックされるか、されなくても外しかねない。

 

「こっちです!」

 

その時、大地が小牧と末広のマークを振り切り、中に走り込んでボールを要求した。すかさず空が大地にパスを出す。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「「っ!?」」

 

しかし、そのパスはカットされてしまう。

 

「残念。…悪いけど、通行料はタダじゃないッスよ」

 

ボールをカットしたのは黄瀬。黄瀬が空の後ろから手を伸ばしてカットした。

 

「速攻ッスよ!」

 

黄瀬が声を上げてそのままフロントコートに駆けあがっていく。

 

「くっそっ! 迂闊過ぎた!」

 

それを見て空も慌ててディフェンスに戻る。

 

「行かせませんよ」

 

「っと、相変わらず戻るの速いッスね」

 

フロントコートに到達にした所で大地が黄瀬を捉え、回り込んでディフェンスに入る。これを見て思わずフゥっと一息吐く黄瀬。

 

「…」

 

「…」

 

足を止めて大地と対峙する黄瀬。その間に花月の選手達はディフェンスに戻る。

 

「…」

 

黄瀬は視線を動かし…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速、カットインした。

 

「…っ、行かせません!」

 

大地もこれに対応、黄瀬に並走する。黄瀬はカットインしてすぐに急停止、ボールを掴んで飛んだ。

 

「(フルドライブからストップからのシュート!)…させません!」

 

これにも大地は反応し、ブロックに飛んでシュートコースを塞ぐ。

 

 

――スッ…。

 

 

しかし、黄瀬はシュート中断し、ボールを右手で掴んでその手を降ろした。

 

「フェイクかい! 中、来るで!」

 

天野が声を出し、松永が備える。

 

「甘ぇーよ!」

 

ここで空がローポストに立つ三枝のパスコースに走り込み、カットを狙う。黄瀬はボールを放った。

 

『っ!?』

 

その時、花月の選手達は全員目を見開いて驚愕した。ボールはローポストに立つ三枝……にではなく。

 

「ナイスパスだ、黄瀬!」

 

左アウトサイドに立っていた氏原にビハインドパスを出したのだ。三枝を警戒する花月の選手達の裏をかいた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ノーマークから得意のツーハンドで放たれたスリーはリングを的確に射抜いた。

 

「っ!? ちくしょう…!」

 

外の警戒を忘れ、みすみすスリーを打たせてしまい、悔しがる空。

 

 

「(…まずい、悪い流れだ)」

 

ボールを運ぶ竜崎が心中で考え込む。オフェンス失敗からの連続得点。しかもスリーを決められてしまった。中に外にと海常のオフェンスを活性化させてしまっている。何とか1本決めて悪い流れを止めたい。

 

「…っ」

 

この状況を何とかしたいと考える竜崎だったが、自分にはその手札がない。

 

「(…若いな)」

 

目の前の氏原は表情から竜崎が何を考えているのか手に取るように理解した。

 

「竜崎さん!」

 

ここでスリーポイントライン沿いに走る大地がボールを要求した。

 

「お願いします!」

 

自分ではどうしようもない竜崎は大地にボールを預けた。

 

「打たせねえぞ」

 

「止める!」

 

ボールが大地に渡ると、小牧と末広がディフェンスに入った。

 

「…」

 

2人は大地に対してとにかくプレッシャーをかけてきた。とにかく大地に外を警戒し、中に切り込まれても最悪仕方ないという考えだ。

 

「(海さんの変化を見て開き直りましたか…)」

 

外から打って返したかった大地だったが、こうも外を警戒されてしまえば大地と言えど打てない。

 

「(仕方ありませんね…)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーを諦め、大地は隙を見て中に切り込んだ。

 

「来てみぃ、大地ぃっ!!!」

 

カットインして待ち受けるのは当然三枝。両腕を広げて咆哮を上げながら大地を待ち受ける。

 

「…」

 

プレッシャーを受けてなお大地は怯まずゴール下に切り込んでいく。リングが近付くと、大地はボールを掴んで飛んだ。

 

「ええ根性しとるのう!」

 

不敵な笑みを浮かべた三枝がチェックに入る。

 

 

――スッ…。

 

 

大地は三枝がチェックに来るとすぐさまボールを放った。

 

『シュート……じゃない! これは!』

 

ボールの軌道は僅かにリングを逸れている。すると、空が走り込み、そのボール目掛けて飛んだ。

 

「ナイスパース!」

 

ボールは飛んだ空の右手に収まった。空はそのままリング目掛けてボールを掴んだ右手を振り下ろした。

 

『アリウープだ!』

 

一連の狙いを理解した観客が沸き上がる。

 

「100年速いわ!!!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「ぐわっ!」

 

しかし、そのアリウープは三枝によってブロックされてしまう。

 

「…ぐっ!」

 

バランスを崩した空はコートに転がる。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『ディフェンス、イリーガル、青12番!』

 

だが、このブロックはファールをコールされる。

 

「…ってぇ」

 

倒された空が起き上がり、痛みに顔を歪めながら三枝を睨み付ける。

 

「なんじゃい、何か文句でもあんのかい?」

 

睨み付けられた三枝が不敵に笑いながら空を見下ろす。

 

「この借りは絶対返してやっからな」

 

「そうこなくちゃのう」

 

座り込む空に三枝が手を差し出し、空はその手を掴んで立ち上がった。

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

フリースローが2本与えられ、フリースローラインに立つ空。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

1本目を落ち着いて決め…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

2本目もきっちり決めた。

 

「っしゃぁっ!」

 

フリースローを成功させた空は拳を握って喜びを露にした。

 

 

「とは言え、ファールだったとしてもブロックされたのは事実だ。これじゃ、流れは変わらねえ」

 

戦況を見て冷静に分析する青峰。

 

 

その言葉通り、海常は勢いに乗ってオフェンスを仕掛ける。スリーポイントラインの外側でボールを回しながらチャンスを窺う。

 

「「…」」

 

一定の距離を保ってディフェンスをする空と大地。先程手痛いスリーを打たれている為、ボールの行き先に全神経を集中させる。

 

「…」

 

ボールが外を行き交う中、ここで黄瀬がスリーポイントラインから距離を取った。

 

「キャプテン!」

 

そこへ小牧がパスを出した。

 

「…ちっ!」

 

舌打ちをしながら空が黄瀬との距離を詰める。リングからかなり距離があるが、黄瀬なら決めかねない。万が一ここで決められてしまえば点差はさらに広がってしまう。

 

シュート態勢に入る前に何とか黄瀬に…、そう考えたその時!

 

「っ!?」

 

ボールを受け取った黄瀬はシュート態勢ではなく、ドッジボールのような構えをした。

 

 

――バチン!!!

 

 

そこから力一杯ボールを投げ、猛スピードで一直線に花月のディフェンスの隙間を縫って通り抜け…。

 

「ナイスパスじゃ!」

 

ゴール下まで移動した三枝の手に収まった。

 

「くっ!」

 

「しまった!」

 

みすみすパスを通させてしまい、悔しがる空と大地。

 

「らぁっ!!!」

 

三枝はボールを両手で持ってリングに向かって飛んだ。

 

「…っ、何度も決めさせると思うな!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

松永がこのダンクに対し、両手で振り下ろされるボールにブロックした。それだけではなく、やや前方に飛び、その力も上乗せさせる。

 

「力の差がある相手に立ち向かうその根性には敬意を表してやるがのう…」

 

「っ!?」

 

ブロックに向かった松永だったが、少しずつ押されていく。

 

「それは勇猛ではなく、ただの無謀じゃ!」

 

「(これでもダメなのか!?)」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

松永のブロックもお構いなしに三枝はボースハンドダンクを叩き込んだ。

 

「がっ!」

 

為す術もなく松永は吹き飛ばされてしまう。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

この豪快なダンクに観客が沸き上がる。

 

「レフェリータイム!」

 

審判が笛を吹いてレフェリータイムをコールした。

 

「くそっ…」

 

ここで皆の視線が松永に向けられる。松永の眉間付近から血が滴っていたのだ。

 

「マツ!」

 

それを見て天野が駆け寄る。

 

「…いかん、室井、すぐに試合に出る準備をしろ」

 

「はい!」

 

ベンチで上杉が指示を出すと、室井は来ていたシャツを脱ぎ、準備を始めた。

 

「問題ありません。やれます」

 

起き上がった松永は試合続行の意志を示す。

 

「ダメだ。その出血では試合の続行は認められない。意識や視界ははっきりしているようだが、プレーを続けるにしても1度コートを出て治療を受けなさい」

 

審判は続行の許可を出さず、ベンチに下がるよう促す。

 

「松永、気持ちは痛いほど分かる。だが、今はベンチに下がれ」

 

駆け寄った空が松永に力強い口調で告げる。

 

「…っ、分かった」

 

主将であり、緒戦で負傷退場した経験を持つ空に促され、松永は渋々ベンチへと下がっていった。

 

 

「室井」

 

「はい」

 

準備を終えた室井に上杉が近寄る。

 

「お前のやる事は一昨日の陽泉戦と同じだ。12番、三枝を止める事に全力を尽くせ」

 

「はい!」

 

そう指示を出し、室井は返事をしてコートに向かった。

 

「…頼む。俺が戻るまで、踏ん張ってくれ」

 

入れ違いでコートから出る松永。その際に松永は室井の肩に手を置き、その手に力を込めながら室井に言った。

 

「…任せて下さい。やってみせます!」

 

松永の無念を感じ取った室井は気合いを込めて返事をし、コートに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「すごい…、今までとは別人みたい…」

 

コート上の三枝のプレーを見て驚きを隠せない桃井。

 

「あれって、ゾーン……じゃないよね?」

 

「ああ、違う。あれはゾーンとは別物だ」

 

桃井の予測を青峰が否定する。

 

「…」

 

紫原が無言でコート上の三枝に注目している。そして思い出す。これまで記憶の片隅に追いやっていたとある記憶を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

これはまだ紫原が小学生だった頃…。

 

学校のクラスメイトから誘われ、紫原はミニバスのチームに誘われ、特に断る理由もなかった為、バスケを始めた。小学生離れした体格と後にキセキの世代と呼ばれるセンスを持ち合わせていた紫原は、チーム加入後、すぐにスタメン入りし、たちまちチームの主力となった。

 

試合に出ても紫原を止められる者はおらず、たちまち敵なしとなっていった。そんな状況につまらなさを感じていた紫原だったが、他に特にやる事もなかったので、惰性でバスケを続けていた。

 

ある日の試合の対戦相手、そのチームは強力なインサイドプレーヤーがいる評判のチームだった。これを聞いて紫原は、少しは関心を示した。整列をした時、すぐに気付いた。自分とほとんど変わらない体格をした1人の選手がいたからだ。その相手は不敵に笑いながら紫原を見ていた。

 

これまでとは少し違う試合になるかも。…そう思った紫原だったが、試合が始まれば紫原がその選手を圧倒した。チーム全体の総合力も紫原のいるチームの方が優れていた為、点差はみるみる開いていった。

 

…この程度か。少し楽しみにしていた紫原はガッカリし…。

 

『少しはやれるって聞いたから期待してたけど、雑魚じゃん。ちょーガッカリ』

 

試合中、ボールを持ったその選手の背中に張り付くようにマークに付いた時、紫原は思わずそんな言葉が飛び出た。

 

決して紫原は悪気があった訳ではない。ただ思った事をそのまま口にしただけである。

 

『…このガキィ、少しばかり出来る程度で調子腐り寄って…』

 

その言葉を聞いたその選手はゆっくり振り返った。そして、赤く血走った目を向けながら紫原にこう告げた。

 

『しごうしちゃるわ…!』

 

その後はこれまでとは打って変わり、相手選手のオフェンスはほとんど止められず、逆に紫原のオフェンスはほとんどブロックされた。リバウンドもオフェンス・ディフェンス共にほとんど取らせてもらえず、ゴール下は相手選手に支配されていった。

 

点差を縮めてはいったが、試合はそれまでのリードの貯金と2人以外の選手達との差もあり、紫原のチームが勝利した。

 

『…っ』

 

しかし、紫原の胸中では悔しさが占めていた。試合は確かに勝利したが、個人の勝負ではどちらが上だったかは明白だったからだ。

 

試合終了後の整列の折、そこには勝者の顔をした敗者と敗者の顔をした勝者の姿があったのだった。礼をした後、選手達がベンチへと戻る中、紫原が相手をした選手に視線を向けると、その背中に三枝の文字。その名を目の焼き付けた。

 

紫原の記憶にある1番古い屈辱的な記憶であり、惰性でやっていたバスケに熱中するきっかけにもなった出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…っ」

 

眠っていた記憶を思い出し、手摺を握っていた手に力がこもる紫原。

 

「アツシ? ドウカシタノカ?」

 

そんな紫原に気付いたアンリが声をかける。

 

「…ちょっと花月を……いや、なんでもない」

 

「?」

 

何かを言いかけた紫原だったが、途中でやめたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

同点に追い付いた矢先、突然の変貌を遂げた三枝。

 

その三枝の猛威により、再び点差が開き始めた。

 

さらに負傷によって松永が一時離脱を余儀なくされ、さらにピンチに陥る事となった。

 

試合は、新たな局面へと移行していくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





一応ここまで。

紫原の過去について補足説明させていただきますと、紫原が過去に三枝と戦った時点では紫原はバスケを始めてすぐの事であり、ほぼ素人同然で、対して三枝はこの時点ではバスケのキャリアはそれなりにあり、結構な経験者。身長もこの時点ではほとんど差がなく、紫原は黄瀬のような器用さもないので、このような結果になった次第です。まあ、紫原は原作時点でもインサイドではほぼスペックだよりだったので、スペックに差がない状態でやりあえば仕方のない事だと思います…(;^ω^)

本格的に夏がやってきたので、皆さんもコロナだけではなく、熱中症にもお気を付けてお過ごしください…(^_^)/

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。