黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

うーん、雨が鬱陶しい…(>_<)

それではどうぞ!



第124Q~気付かぬ枷~

 

 

 

第2Q、残り1分58秒。

 

 

花月 37

海常 46

 

 

タイムアウト終了後、海常が落ち着いて得点を決め、直後の花月のオフェンス。黄瀬が空をマークした事で花月の選手達を驚かせた。黄瀬の挑発にあえて乗った空は真っ向勝負を挑み、自身の必殺技とも言えるインビジブルドライブで黄瀬を抜き去り、得点を決めた。

 

「…」

 

「…」

 

空が得点を決めた姿を観客席から見ていた青峰と紫原。双方共、過去の試合で同じ技を受け、抜き去られている。

 

「ココカラ見テイテモスゴイナ…」

 

同じく、一昨日の試合で抜き去られているアンリが驚いている。

 

「…去年に試合をした時から思ったけど、神城君って、大ちゃんに似てるよね?」

 

「あぁ? あんなバカと一緒にすんじゃねえよ」

 

鬱陶し気に反論する青峰。

 

「…」

 

コート上で不敵に笑う空に視線を向ける青峰。そんな空を見て、青峰の奥底にある記憶が蘇って来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

それは今から8年前…。

 

とあるバスケのリングがある公園で、青峰が1人、バスケのボールで遊んでいた時の事。

 

「?」

 

視線を感じた少年青峰が振り返ると、ジーっと自分を見ている1人の少年の姿があった。

 

「よう、俺に何か用か?」

 

そんな少年に青峰が近寄り、話しかけた。

 

「迷った。親父とはぐれた。何処だここ?」

 

話しかけられた少年は何故か胸を張りながらそう答えた。

 

「お前迷子か?」

 

「そうとも言えるな!」

 

何故か偉そうに答える少年。

 

「じゃあ、今暇なんだな? ならよ、俺とバスケしよーぜ!」

 

生粋のバスケバカでもある青峰が1人で退屈をしていた所に渡りに船とばかりにバスケに誘う。

 

「やる!」

 

少年も乗り気満々で誘いを受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「スゲー! 何でそんなのが入るんだ!?」

 

「お前、なかなかやるじゃねえかよ!」

 

1ON1を始めた2人。互いの名前すら知らない同士にも関わらず、互いに笑いながら勝負をしていた。

 

「お前、かなりセンスあるぜ。同い年くらいで俺と互角にやれる奴なんてほとんどいなかったからな」

 

「海兄にバスケを習ったからな!」

 

2人の勝負は僅かに少年青峰に軍配が上がるものの、互角の様相を見せていた。その時…。

 

「…ん?」

 

「あっ!? 親父だ!」

 

少年の名を呼ぶ1人の大人が現れた。

 

「スゲー面白かった! ありがとな!」

 

「俺も楽しかったぜ。いつか試合で戦おうな!」

 

そう言って、少年は父親の下に駆け寄っていった。父親の傍まで駆け寄ると、父親に盛大な拳骨を落とされ、涙目になった。父親がペコリと頭を下げると、2人は去っていった。

 

「お待たせ大ちゃん!」

 

そこへ、桃井がやってきた。

 

「遅ぇーぞさつき」

 

「ごめんごめん! …今の子は誰?」

 

「分かんねー。暇してからバスケに誘っただけだ。…あいつ、かなりやるぜ。いつか俺と本気でやり合う時が来るかもな」

 

そう言って、少年青峰は去っていった少年の遠くなった姿を見つめたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「…そうか、始めた見た時から何処かで会った気がしてたが、あの時のガキか」

 

かつて体験した既視感の正体が分かった青峰はポツリと呟いた。

 

「何の話ー?」

 

「何でもねえよ。ただの独り言だ」

 

声が耳に入った紫原が尋ねるも、ぶっきらぼうに返した。

 

「それにしても、きーちゃんが神城君をマークするなんて…」

 

「ま、良い判断じゃねぇの? あいつ(空)にダブルチームしても意味がねぇどころか無駄にノーマークの選手を作るだけだからな。それならいっそ黄瀬を付けて綾瀬にダブルチームした方がマシだ」

 

桃井の言葉に青峰が解説をした。

 

「…でも、きーちゃんでもあのドライブは止められなかったね」

 

「(…黄瀬の野郎、やけにあっさり抜かれたな。…わざとか?)」

 

指摘を受けて青峰が考え込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「……ふぅ」

 

黄瀬が思わず溜息を吐いた。

 

「キャプテン…」

 

そんな黄瀬を見て心配そうに駆け寄る小牧と末広。

 

「何て顔してるんスか? 俺なら心配いらないッスよ。タイムアウト中に言ってた事忘れたんスか?」

 

笑顔を見せながら返事をする黄瀬。

 

 

『とりあえず、しばらくは神城君は俺が相手するッス。ひとまず最初、彼を挑発して1ON1に持ち込む。場合によっては抜かれるかもしれないッスけど、そうなっても慌てないでほしいッス』

 

 

これが、タイムアウトが終わる直前に黄瀬がチームメイトに向かって言った言葉である。

 

「例のドライブ、目の前で見せてもらったのは幸いだった。正直、俺にあれのコピーは出来ないッスね」

 

「そんな…」

 

「だから何て顔してるんスか。大丈夫ッス。技の仕組みはだいたい掴めたッスから。少し時間があれば対応策は練れそうッス」

 

「っ!? ホントですか!?」

 

朗報を聞いて小牧が驚く。

 

「だからこっちの心配いらないッス。君達は自分の役割に全力を尽くしてくれればそれで良いッスよ」

 

「うす! 分かりました!」

 

「さぁ、反撃ッス。取り返すッスよ」

 

「「はい!!!」」

 

ボールが小牧に渡され、リスタートがされた。

 

 

「っしゃぁっ! 1本、止めるぞ! このQ中にリードを縮めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の掛け声に、花月の選手達が大声で応えた。

 

「…」

 

小牧がボールを運ぶと、空がチェックに入る。

 

「…(チラッ)」

 

末広のポジションにも気を配りながら空はディフェンスに臨んでいる。

 

「(…俺と一也を同時に相手に抑えるつもりかよ。くそっ!)」

 

片手間で相手をされている事に憤りを覚える小牧。

 

「(だが、仕方ねぇ。俺と神城の差は高校でどうにもならない程に開いちまった)」

 

中学時代も空の方が上回っていたが、その時は頭1つ抜けた程度であり、そこまで差はなかった。高校に進学し、別々の道を歩いてきた2人が再びぶつかり合った時、差は歴然と開いていた。悔しくもあるが、小牧は力の差を受け入れた。

 

「(それでも負けねえ! 絶対に勝つんだ!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して小牧が中に切り込む。

 

「甘い!」

 

そのドライブに空は難なく付いていく。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

それでもお構いなしに小牧は強引に打ちにいった。

 

「舐めんな、決めさせる訳ねぇだろ!」

 

小牧のシュートコースを塞ぐように空が小牧を遙かに超える高さでブロックに飛んだ。

 

『うぉっ! た、高い!?』

 

「(分かってるよ! 本命はこっちだ!)」

 

シュートを中断した小牧はボールを下げ、後ろへとボールを放る。小牧の後ろには、氏原が走り込んでいた。

 

「(頼みます!)」

 

「(任せろ!)」

 

胸の前で両手を構え、捕球態勢に入る氏原。小牧はボールから手を放した。

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

「なっ!?」

 

パスをした小牧とボールを待っていた氏原が驚愕した。

 

「…そう来たか。だが、俺には通じねえよ」

 

何と、ブロックに飛んだ空が小牧がボールを放る直前、空中でロールしながら小牧の持つボールを叩いたのだ。

 

「(バカな!? 読んでいたのか!?)」

 

空は小牧がシュートを中断した瞬間、後方に走り込む氏原の姿を視認し、即座に反応し、手を伸ばしてスティールした。ひとえに、空の反射速度で為しえた事である。

 

「(ちくしょう、俺ではこいつ相手には何も――)」

 

「まだだ、諦めるな!」

 

心が折れかけた小牧に対し、末広が声を張る。ルーズボールを末広が抑えたのだ。同時にすぐさまシュート態勢に入る。

 

「ちっ!」

 

着地した空は間髪入れずに末広との距離を詰め、ブロックに飛んだ。だが、末広はそれよりも速くボールをリリースした。

 

「(外れる! …いや違う。これは!)」

 

咄嗟にこのシュートは外れると判断した空だったが、すぐさま改める。これはシュートではなく…。

 

「…っ!」

 

ボールの軌道はリングの僅か横付近。その軌道上に小牧が走り込み、空中でボールを掴んだ。

 

「(着地してから打ちに行ったんじゃブロックされる。だったら!)…おぉっ!」

 

 

――バス!!!

 

 

小牧はボールを空中でボールを掴み、そのままシュートを放った。ボールはバックボードに当たりながらリングを潜りぬけた。

 

「っしゃぁっ!」

 

得点を決めた小牧はガッツポーズと共に喜びを露にした。

 

『スゲー! アリウープだ!』

 

『あいつも負けてねえぞ!』

 

「ナイッシュー、拓馬!」

 

「おう!」

 

ハイタッチを交わす小牧と末広。

 

「良いぞお前らぁっ!!!」

 

バチン! と、2人の背中を叩いて労う三枝。

 

「った!? うす!」

 

2人は痛がりながら礼の言葉を言った。

 

「舐めんなよ神城。絶対負けねえからな」

 

ディフェンスに戻る際、空の横を通り抜ける折に小牧が空に告げた。

 

「…ハッ! さすがだな。だが、それはこっちだって同じだぜ」

 

告げられた空は笑いながら小牧と末広の背中に呟いたのだった。

 

 

変わって花月のオフェンス。

 

「…っ」

 

空がボールを運ぶと、黄瀬が激しくプレッシャーをかけてきた。

 

「(…ちっ、インビジブルドライブどころか、俺に何もさせねえつもりか…!)」

 

激しすぎる黄瀬の当たりに空は思わず圧倒される。

 

「ちぃっ!」

 

舌打ちをした後、空は後ろに倒れこむように上体を倒し、そのままの態勢で右サイドに展開する大地にパスを出した。

 

「止めるぞ一也!」

 

「おう!」

 

大地にボールが渡ると、小牧と末広がダブルチームで大地にプレッシャーをかけた。

 

「…」

 

2人からの激しいプレッシャーを受けるも、大地は表情を変えず、落ち着いてボールをキープする。

 

 

――スッ…。

 

 

ここでバックステップをして2人との距離を作る大地。

 

「(まずい、スリーを打たれる!)…させるか!」

 

スリーを阻止するべく、小牧がすかさず距離を詰める。

 

「(隙間が出来た!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ここで大地が仕掛ける。小牧が距離を詰めた事でダブルチームに前後の隙間が出来、切り込んだ直後にクロスオーバーで切り返しながらその隙間を縫うように通り抜け、2人を抜き去った。

 

「「っ!?」」

 

あっさりと抜き去られた2人は思わず目を見開いてしまう。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

抜いた直後に急停止。ボールを掴んで視線をリングに向けた。

 

「ぬぅっ! させん!」

 

それを見て三枝がヘルプに飛び出し、シュート態勢に入ろうとしている大地に向けてブロックに飛んだ。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

だが、大地はボールを頭上に掲げた所で中断し、三枝が飛んだ足元にボールを弾ませるようにしてローポストに立っている松永にパスを出す。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールを受け取った松永が落ち着いてゴール下から得点を決めた。

 

「ナイスパス」

 

そう言って手を差し出した松永。

 

「良いポジションにいてくれて助かりました」

 

その手を大地はパチンと叩いた。

 

「「…くっ」」

 

大地を抑える事が出来なかった小牧と末広は悔しさを露にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

その後、次のオフェンスは互いに成功させる。

 

「ふん!」

 

ローポストでボールを受け取った三枝が背中に立つ松永に対してポストアップを行い、強引にゴール下まで押し込もうとする。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「ぐわっ!」

 

背中で激しく当たる三枝。その衝撃に松永が後方に倒れこむ。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

『オフェンスチャージング、青12番!』

 

このプレーに対し、審判がファールを取った。

 

「ちぃっ!(この男…!)」

 

思わず松永を睨み付ける三枝。当たりに対して倒れ方が大袈裟である為、三枝は気付いた。松永がわざと倒れた事に。

 

「ええで、止めたもん勝ちや」

 

「っす」

 

手を差し出して労う天野の手を取って立ち上がる松永。

 

「…」

 

時計が止まり、空が電光掲示板に視線を向ける。

 

 

第2Q、残り13秒。

 

 

花月 41

海常 48

 

 

「(残り時間を考えて、次がラストワンプレーここを決めて次のQに繋げる!)」

 

決意をした空が集中力を高める。

 

「気合い入ってるッスね」

 

そんな空に黄瀬が話しかける。

 

「次がこのQのラストプレーッスからね。まぁ、決めて次に繋げたいッスよね」

 

「…」

 

空は特に返事を返す訳でもなく、視線をチラリと向けただけでボールを受け取りに向かう。

 

「…さっきの君のドライブ」

 

「?」

 

「もし、あれを止める事が出来るって言ったら、どうするッスか?」

 

「っ!?」

 

その言葉を聞いて思わず足を止め、黄瀬に振り返る。すると、黄瀬は不敵に笑みを浮かべたまま…。

 

「楽しみにしてるッスよ」

 

そう告げて、ディフェンスに戻っていった。

 

「(俺のインビジブルドライブを止めるだと…!)」

 

空が思わず黄瀬を睨み付けた。

 

青峰と紫原をも抜き去り、この試合前に遂に完成させた空の必殺のドライブ。

 

「ただのハッタリか、それとも本当に止められる方法を見つけたのか、それとも他に何かあんのか知らねえが、良いぜ、その挑発に乗ってやる」

 

ボールを受け取った空はフロントコートまで運ぶ。そして目の前に黄瀬が現れる。

 

「…行くぜ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

宣言と共に空が黄瀬との距離を詰め、足元付近まで踏み込む。

 

 

――ダムッ…ダムッ…!!!

 

 

そこから高速でクロスオーバー、レッグスルー、バックチェンジを繰り返し、時折態勢を下げながら左右に大きく切り返し続ける。

 

「(黄瀬の視線が……外れた!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬の視線が右に向いた瞬間、空はその逆にダックインしながら切り返した。

 

「っ!?」

 

その瞬間、空の表情が驚愕に染まる。黄瀬がバックステップをして距離を取っていたのだ。

 

「そのドライブの種は死角から死角への高速移動し、君の姿を探そうと視線を右か左かに向けた瞬間に瞬時に逆にダックイン。これッス」

 

「…っ」

 

「だったら、わざと視線を外して下がって距離を空けてしまえば君の姿は死角から捉えられる」

 

距離を取って視野を広げれば空の姿はその目で捉えられる。しかも、視線を外した瞬間に切り込んでくるのでタイミングと方向の予測も容易に出来てしまう。

 

「丸見えッス。君の姿が」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「なっ!?」

 

空の持つボールを黄瀬が叩いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に第2Q終了のブザーが鳴った。

 

「…っ!」

 

転々と転がるボール。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! あの無敵のドライブを止めたぁぁぁっ!!!』

 

「どんな手品も、種が知れてしまえば案外あっけないもんッス。もう俺にはそのドライブは通用しないッスよ」

 

そう空に告げて、黄瀬は海常ベンチへと下がっていった。

 

「……ちっくしょう…!」

 

思わず空は拳をきつく握りしめた。必殺のインビジブルドライブを止められ、その表情は怒りに満ち溢れていた。

 

「……空、ハーフタイムです。下がりますよ」

 

「…あぁ」

 

大地に促され、空は怒りの表情のままベンチに戻り、そのまま控室に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「凄い、きーちゃん、あのドライブ止めちゃった」

 

前半戦終了間際の攻防を見て桃井は驚く。

 

「黄瀬は相手の技を瞬時にモノに出来るから。つまりは、技の仕組みを瞬時に理解出来るって事だ。ま、既にあのドライブは何度も見せてんだから対策の1つや2つ、黄瀬でなくても考えつくだろ」

 

淡々と話す青峰。過去に自身も抜き去られるているドライブである為か、若干複雑そうであった。

 

「結局7点差かー。けど、黄瀬ちんまだパーフェクトコピーの使用時間に余裕あるんでしょー? 海常が断然優勢じゃない?」

 

つまらなそうな表情で分析する紫原。

 

「きーちゃんはパーフェクトコピーを第1Qに2分間使っただけだから、まだ5分は使えるだろうから、花月は少なくとも第4Qの残り5分までに追い付かないと…」

 

「いや、それじゃ足らねえな。確実に勝つなら10点以上のリードが最低条件だ。それが出来なきゃ9割方海常の勝ちだ。…だが、今までの試合を見る限り、その可能性は期待出来ねえけどな」

 

桃井の分析に青峰が補足して解説をした。

 

「司令塔の神城が今まさに必殺技を破られてっからな。その影響は良くも悪くも確実に出る。…ま、ハーフタイム中にどれだけ切り替えられるか、だろうな」

 

「ムムム、俺ハソレデモ花月ヲ応援スルゾ。頑張レ、花月!!!」

 

話を聞いていたアンリが花月の応援をする。

 

「…ちっ、コートに花月いねえのにうるせー奴だ。おい紫原、こいつ何とかしろ」

 

「俺に言わないでー…んぐんぐ…」

 

抗議をする青峰。紫原は聞く耳持たず、スナック菓子を食べていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

海常の控室…。

 

「よーし! 黄瀬、良くやった!」

 

控室に戻るなり、氏原が黄瀬の肩を抱きながら喜びを露にした。

 

「当然っスよ!」

 

黄瀬も満更でもなかったのか、握り拳で返していた。

 

「これであいつ(神城)も少しは大人しくなる。この試合、行けますよ!」

 

「(…だと良いんスけどね)」

 

手応えを感じて喜ぶ後輩に対し、黄瀬は心中では希望程度に留まっていた。

 

「静まれ!」

 

その時、武内が声を張り上げ、選手達を制した。この声に反応し、選手達は会話を止め、武内の方を向いた。

 

「何を浮かれている。お前達はもう試合に勝ったつもりでいるのか? まだ試合は半分。7点差。たかがアドバンテージを1つ手にしたに過ぎない。もう勝ったつもりでいる奴は今すぐ考えを改めろ!」

 

『…っ』

 

この言葉に浮かれかけていた選手達はバツの悪そうな顔をしながら表情を改めた。

 

「恐らく、あの程度では神城は大人しくはならんだろう。むしろ、さらに火が付いたとワシは見る」

 

武内はそう予想する。武内から見た空は武内の良く知る選手に似ているからだ。かつて、もっとも頼りになり、今では最大の敵となったあの男に…。

 

「ワシも同感じゃのう。あ奴の負けん気の強さと往生際の悪さはワシの知る限り他に知らん。後半戦、空はとんでもない事をしてくるかもしれんのう」

 

同じく三枝がかつての誼から同じ意見を出した。

 

「うむ。よし、皆、今あるリードはないものと思え。第3Qからはこれまで通り動いて相手の出方を窺う。動きがあればこちらから指示を出す。良いか、試合終了のブザーが鳴るまで気を抜くな。最後まで攻め立てろ!」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

花月の控室…。

 

『…ふぅ』

 

控室に戻った選手達。試合に出場した選手達は椅子に座って水分を摂りながら呼吸を整えていた。

 

「さーて、こっから先、どないしよ?」

 

開口、口を開いたのは天野だった。

 

『…』

 

沈黙が支配する控室。この問いに誰も口を開く事が出来なかった。

 

点差だけ見れば7点差。まだ試合の半分を残している為、残り時間だけ見ればまだそこまで悲観する状況ではない。しかし、第1Qから黄瀬のパーフェクトコピーで点差を付けられてから点差があまり詰められていないのだ。

 

要所要所で手を打ち、僅かに点差を縮めてはいるのだが、所詮は単発。贔屓目に見ても花月と海常は互角である。黄瀬がパーフェクトコピーを使っていない状況で…。

 

この試合に勝つには、今の時点で互角では話にならないのである。

 

『…』

 

誰もが現状を打破する策を考えている。そんな中、口を開いたのは…。

 

「どうもこうもないでしょ」

 

空だった。タオルで顔の汗を拭い、肩に掛けると、椅子から立ち上がった。

 

「点を取らなきゃ点差は縮まらなねえ。だったらガンガン点取りに行くだけだろ」

 

「そりゃそうだが、相手のオフェンスを止めなきゃそれこそ点差は――」

 

「知ったこっちゃねぇ」

 

菅野の懸念を空はバッサリ切り捨てた。

 

「もとよりウチは陽泉みたいな堅守のチームじゃないし、洛山やそれこそ海常のようなオフェンスもディフェンスも器用にこなせるチームじゃないだろ。俺達の持ち味は俺達の足を生かしたオフェンス特化のチームだ。100点、それこそ200点取られたなら101点、201点取り返せば良いんだよ」

 

「んな無茶苦茶な…」

 

空の物言いに菅野は呆れたような声を出す。

 

「いや、神城の言う通りだ」

 

その時、空の言葉に同意するように上杉が言った。

 

「花月は相手の倍走って全員で点を取りに行くスタイルだ。俺はそういう練習をさせてきた。陽泉に勝った事で油断や驕りこそなかったが、昨日…特に今日の試合は過剰に余裕を持ち過ぎたきらいがあった」

 

『…』

 

「確かにそれで鳳舞には勝てた。だが、海常相手にはこのままでは勝てん。ではどうするか? ならば、原点に立ち返ればいい」

 

「原点…」

 

その単語を松永が繰り返す。

 

「昨年の冬の秀徳戦を思い出せ。お前達は不格好でもガムシャラに走り続けて勝利を掴んだだろう? お前達はあくまでも挑戦者だ。胸を貸すだとか迎え撃つ等は似合わん」

 

「…せやな。そない昔の事やあらへんのに、忘れとったで。海常が同じ目線でかかってくるもんやからつい勘違いしとったわ」

 

「だね。改めて考えると、今の僕達って、どこか背伸びしてたのかもね」

 

「だな。いつの間にか、俺達は俺達自身を見失っていたのだな」

 

上杉の言葉に天野、生嶋、松永も何処か噛み合わなかった歯車が噛み合ったかのように自分達の原点を思い出していた。

 

「走りましょう。試合終了後、倒れて動かなくなるまで…」

 

「おう。次の試合の事はこの試合の後に考えりゃいい。後半戦、これまで以上に走る。全員、気合い入れようぜ!」

 

『おう!!!』

 

主将である空が檄を飛ばし、選手達は全員が応えた。

 

「…にしてものう、前半戦終了直前にあのドライブ防がれたばかりやのに、空坊がえらい落ち着いて驚いたで。お前も立派に成長しとったんやなぁ」

 

チームの主将らしくチームメイトを引っ張る空の姿を見て、天野は軽く茶化しながら褒めたたえた。

 

「…」

 

「…空?」

 

「……落ちつける訳ないだろうがぁぁぁっ!!!」

 

突然、沈黙したかと思えば、身体をワナワナと震わせ、持っていたタオルを床に叩きつけ、発狂したかのうように叫び始めた。

 

「せっかく完成させて名前まで付けた俺の必殺技だったのに! 披露して2回目で破るとかどんだけなんだよぉぉぉっ!!! ぜっっっっったい、後半ぶち抜いてやっからぁぁぁっ!!!」

 

「…やっぱりキレとったんかい」

 

呆れながら天野がツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ハーフタイム終了の時間がやってくると、花月、海常の選手達がコートへと戻ってきた。

 

両ベンチに控えの選手、監督、マネージャーが座り、第3Qから出場する両チームの選手達がコートへとやってきた。海常の選手交代はなし。しかし…。

 

「……むっ? 10番(竜崎)が試合に出すのか。代わりにベンチに下がったのは……なに? 5番(生嶋)だと?」

 

花月は生嶋をベンチに下げ、代わりに竜崎を投入した。

 

「…ふむ、確かにディフェンスと身体能力、高さなら10番(竜崎)の方が優れている。ほぼ外一辺等の5番(生嶋)よりプレーの幅は広いが、あの外を捨ててまで出すのか?」

 

総合的に見れば、選手として優れているのは竜崎かもしれない。しかし、生嶋のスリーは機械のように正確で、打たれればボールに触れられない限り外れる事はまず期待出来ない。故に強力な武器であり、相手に与えるプレッシャーは計り知れない。

 

「…守りを重視してきたか? いや、ゴウがこの状況でそんな保守的な選択をするとは到底思えん。では何を考えている。…相変わらず読めん男だ」

 

ベンチで胸の前で両腕を組んで座っている上杉に武内は視線を向けながら相手の手を思案したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

「…っ!」

 

コートに足を踏み入れるや否や、空は黄瀬を睨み付ける。

 

「何かすっごいこっち睨んでくるんスけど…」

 

空の視線を感じた黄瀬が苦笑しながら肩を竦める。

 

「ハッハッハッ! あのドライブを止められた事がよほど悔しかったんじゃろうなぁ!」

 

そんな空を見て三枝が笑い声を上げる。

 

「じゃけん、ああなった空は良くも悪くも何しでかすかよー分からん。注意せーよ」

 

「もちろんッスよ」

 

審判から氏原がボールを受け取り、小牧にパスを出して第3Qが開始された。

 

「1本! 止めるぞ!」

 

空の掛け声と共に花月がディフェンスを始めた。

 

「…っ!?」

 

ボールを運んだ花月のディフェンスの変化を見て目を見開いた。

 

これまでマンツーマンでディフェンスをしていた花月が2-3ゾーンディフェンスに変わったのだ。前に空と大地。後ろに右から天野、松永、竜崎の順番に並ぶ。

 

「中を固めに来たのか? …だが、うちを相手にゾーンディフェンスは悪手だ」

 

そう言い切る武内。

 

2-3ゾーンに限らず、ゾーンディフェンスは外からの攻撃に弱いのはある種の常識。海常にはシューター氏原に加え、黄瀬も小牧もスリーを得意としている。外を得意とする選手が3人もいる海常にゾーンディフェンスは最悪と言っても差し支えない。

 

ボールを回す海常。空と大地は一定の距離を保ってディフェンスをし、中にボールが入るとすぐさま包囲網を敷く。海常はスリーポイントラインの外側でボールを回し、時折中にボールを入れながらチャンスを窺っている。

 

「(向こうが中を固めてくるなら遠慮なく外を打たせてもらうだけ)…来い!」

 

ハイポストの末広にボールが渡ると、氏原が右45度付近のスリーポイントラインの外側でボールを要求し、ボールを貰う。

 

「っし!」

 

ボールを受け取るのとほぼ同時に膝を曲げ、ボールを頭上へと掲げた。

 

「…っ!」

 

同時に大地が氏原に向けて走り出し、空いていた距離を瞬時に詰め、ブロックに飛んだ。

 

「(…ちっ、相変わらずとんでもねえスピードだ。だがな)…あめぇーよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地がブロックに現れると、氏原はシュートを中断。中へと切り込んだ。

 

「(これでゾーンディフェンスが崩れる。まずは1本――)」

 

 

――バシィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

しかし、切り込んだの同時に氏原の保持していたボールが横から伸びてきた1本の手に弾かれた。

 

「そっちがな」

 

ボールを叩いたのは空だった。

 

「(…くそっ! 綾瀬のブロックは中に切り込ませる為の罠だったのか!?)」

 

氏原の推測は当たっていた。大地は氏原にボールが渡ると、わざとドリブルに切り替えられるタイミングでブロックに飛んだのだ。その場所に空が移動し、抜いた直後のボールを狙い打った。

 

「っしゃ、ボールを貰い。頼むぜ!」

 

すぐさま空がボールを拾うと、竜崎にボールを渡した。ボールを受け取った竜崎は左手の人差し指を立て…。

 

「1本! 行きますよ!」

 

ゲームメイクを始めた。

 

『なっ…』

 

『なにぃぃぃぃぃぃっ!!!???』

 

この出来事に観客達が驚愕した。

 

「神城じゃなくて、竜崎がボールを運ぶのか!?」

 

それは海常の選手達も一緒であり、小牧が戸惑いを見せた。

 

ハーフタイム中、上杉が出した指示は大きく2つ。まずはディフェンスを2-3ゾーンディフェンスに変更する事。その際に…。

 

『向こうのスリーは神城と綾瀬で全て潰せ。多少、中に切り込まれても構わん。絶対にスリーを打たせるな』

 

空と大地にこう告げられる。

 

2つ目は、ポジションチェンジ。ポイントカードつまりボール運びは竜崎が務め、生嶋のポジションであるシューティングガードには空を置き、上杉は空にこう指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――点を取りに行け。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ一言、そう指示を出したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





スポーツ漫画において、必殺技が破られるのはある種のお約束。…まあ、名前が付けられた次の話というのは早すぎるとは思いますが、技自体は結構前から出てましたからね…(;^ω^)

全中大会編で密かに出していた伏線をここで回収。(ウィンターカップで出し忘れたとは決して言えないorz)

ネタもある程度固まってきたので、時間とモチベーションさえあれば順調に投稿…出来る…といいなぁ…( ;∀;)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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