黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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第12Q~決勝戦~

 

 

 

『…』

 

星南中の控室。つい先程までは選手同士で談笑をしていたが、今現在は沈黙に包まれていた。

 

刻一刻と決勝戦の時間が迫っており、時間が経つにつれて次第に選手達の緊張感は増していく。

 

相手は帝光中学校。キセキの世代を輩出し、今大会も圧倒的な強さで勝ち進んだ強豪校。中学校のバスケ部に所属する者にとって、畏怖と憧憬を抱く相手だ。星南にとっては、今現在自分達が全中決勝に辿り着いたこともそうだが、帝光中と試合をすることすら少し前までは夢のまた夢であった。

 

だが、彼らは今、この舞台にいる。観客としてではなく、敵として、対戦相手として…。

 

その時、控室の扉が開かれ、そこから監督の龍川がやってきた。

 

「時間や、会場に行くぞ」

 

ついにこの時が来た、と、選手達は一瞬息を飲み…。

 

『はい!』

 

不安と緊張を振り払うかのように大声で返事をし、立ち上がると会場に向かっていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!!!!!!』

 

『っ!?』

 

星南の選手達が入場した瞬間、会場の観客達の歓声が地鳴りの如く会場中に轟いた。星南の選手達は思わず身を竦めた。

 

観客はほぼ満員。準決勝の時にはちらほら見えた空席も軒並み満席になっていた。

 

「すごい観客の数だな…」

 

その埋め尽くすような観客と歓声に田仲は思わず圧倒される。

 

「これ全員この試合見に来たのかよ…」

 

森崎が顔を引き攣らせながらポツリと感想を漏らす。

 

「違うな。この観客は目当てはこの試合じゃねぇ」

 

「えっ、それってどういう――」

 

空が森崎の感想を否定すると、駒込が理由を尋ねようとした時…。

 

 

 

 

 

『来たぞっ!!!!!!』

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

その瞬間、先程星南の選手達が入場した時より以上の歓声が会場中に響いた。

 

「そのとおりです。この観客達の目当ては…」

 

大地の視線の先、そこから帝光中の選手達が入場してきた。

 

「帝光中ですよ」

 

帝光中の入場により、観客達が大いに盛り上がり始めた。

 

『…(ゴクリ)』

 

目の前で帝光中の選手達を目の当たりにし、星南の選手達は息を飲んだ。彼らの発するオーラは、確実に一線を越えていた。

 

「ボーっと突っ立ったっとらんで、さっさと準備を始めんかい!」

 

ベンチに座っていた龍川が怯える選手達に痺れを切らし、檄を飛ばす。

 

『は、はい!』

 

星南の選手達は、空と大地を除き、慌ててジャージを脱ぎ、準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「スタメンはさっきと同じ、田仲、神城、綾瀬、森崎、駒込や、1試合まるまるこなした後やが、これで最後や。こんなんでばてる程ヤワな鍛え方はしとらんはずや。最後の一滴まで搾りだせ!」

 

『はい!』

 

そこから、龍川が決勝の戦術プランを伝えていく。選手達はそれを返事をしながら頭に叩き込んでいく。

 

「観客もぎょーさん入っとるな。…お前ら、この場におることが場違いやと思っとるか?」

 

『?』

 

「過去のお前らの実績から考えれば、この舞台は夢のまた夢やな。だがな、お前らはここにおる。それは決して運でもなければ奇跡でもない、お前らの実力でや」

 

龍川はそのまま言葉を続ける。

 

「ええか? この舞台に来たことだけで満足するなや。お前らの頂点はあの調子こいとるクソガキ共(帝光中)へこませた時や。…まどろっこしい話を抜きにして一言で言うなら…」

 

龍川スーッと息を飲み…。

 

「勝てぇ!!! それだけや」

 

『はい!』

 

龍川の鼓舞に選手達は大声で返事をした。

 

「行ってこい、ガキ共ぉっ!!!」

 

星南のスタメン達がコート中央へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

コート中央に集まる星南と帝光のスタメン達。緊張な面持ちの星南とは対照的に帝光には余裕が見られる。

 

 

星南中学スターティングメンバー

 

4番C :田仲潤  187㎝

 

5番PG:神城空  177㎝

 

6番SF:綾瀬大地 179㎝

 

7番PF:駒込康平 181㎝

 

9番SG:森崎秀隆 171㎝

 

 

帝光中学スターティングメンバー

 

4番PG:新海輝靖 178㎝

 

5番C :河野雄大 194㎝

 

6番PF:池永良雄 190㎝

 

7番SG:沼津孝信 179㎝

 

8番SF:水内彰  188㎝

 

 

「(…でけぇ奴が勢揃いしてるな)」

 

去年も同様だが、今年の帝光中のスタメンも、高さのある選手達が揃っている。190㎝代が2人、180㎝後半が1人。

 

「(これは、いよいよインサイドはやばいな)」

 

バスケにおいて、高さは絶対的な武器の1つであり、高ければ確実に勝つということではないが、高さで…空中戦を制すことが出来れば自ずと勝率は跳ね上がる。星南のインサイドの要は事実上キャプテンである田仲1人。彼とて今や全国でも有力のCの1人ではあるが、彼1人であまりにも分が悪過ぎる。

 

空も大地も驚異的な跳躍力を有しているが、空中戦と肉弾戦は別物なので、必ずミスマッチが出てしまう。

 

「(けどまあ、そんなもんは始めからわかってたことだ。今までもそうだった。やることは変わらねぇ!)」

 

空は新たに気合を入れなおす。

 

「この試合は俺40点は取らないとな」

 

「はぁ? 言っとくけど、この試合、俺の方が多く点取ったらジュース2本だからな」

 

「お前らもう少しパスくれよ。ポジション的に俺不利じゃん」

 

「言い訳か? そんなこと言っても勝負のルールは変えないからな」

 

「…はぁ」

 

試合開始を前にしても、帝光中のスタメン達に緊張感はなく、余裕ばかり窺える。

 

空はそんな彼らを見て前に出て、帝光中の6番、池永に手を差し出した。

 

「ん? あ~はいはい」

 

それに気付いた池永は面倒くさそうに握手を交わした。手を握ると、空はその手を力一杯握りしめた。

 

「っ! …あん?」

 

「おめぇらの相手はこっちだろう。相手を見間違えてんじゃねぇ」

 

空は睨み付けながら池永に囁くように言う。それを見て池永は薄ら笑いを浮かべ…。

 

「あ~悪い悪い、興味が…じゃなかった――」

 

 

 

 

「――眼中になかったから忘れてたよ」

 

 

 

 

「あっ?」

 

その言葉を聞いて空は不快感を露わにする。

 

「てっきり、城ケ崎が来るかと思ったんだけなぁ…ま、いいや、どうせ結果は同じだし」

 

空達を侮辱する言葉を吐き続ける池永に、空のボルテージはどんどん上がっていく。

 

「この試合、ダブルスコアくらいには頑張ってよ? あんまり圧勝すると俺達が弱い者いじめしてるみたいだからさ。ただでさえ、負け犬達の逆恨みがうるさいからさ。少しは楽しませろよ…『ほしみなみ』中、さん?」

 

「『せいなん』だ。おちょくるのも大概に――」

 

「あー、いい。どうせ2時間後に忘れてる名前だから。ま、健闘を祈るよ」

 

池永は手をヒラヒラさせ、薄ら笑いを浮かべながら下がっていった。

 

「…」

 

一連の会話を聞いていた星南のスタメン達は苛立ちを隠せないでいた。彼の言葉は戦略上の挑発ではなく、ただの侮り。

 

「…気持ちは分かりますが、熱くなり過ぎないでくださいよ」

 

空を大地が諌める。

 

「…分かってるよ。お前こそ、こえー顔してるぞ」

 

大地もまた、憤った表情していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「始めます!」

 

審判がボールを構える。

 

センターサークルに立っているのは田仲と河野。

 

緊張感に包まれた中、審判がトス…ティップ・オフ!

 

田仲と河野が同時に跳ぶ。…そして。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

身長で勝る河野がジャンプボールを制した。弾かれたボールを池永が拾う。

 

「それじゃ、1本サクッとかますかな!」

 

池永がそのままドリブルを開始する。そこをすぐさま森崎がディフェンスに入る。

 

「あらよっと」

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

池永はドライブで一気に森崎の横を抜ける。

 

「(は、早い!)

 

その速さに、森崎は驚愕する。

 

間髪入れずに駒込がヘルプに入るが。

 

「はいはい、ごくろうさん」

 

バックロールターンで駒込もかわす。

 

「くっ!」

 

そのまま星南のペイントエリアまで侵入すると…。

 

 

 

――スッ…。

 

 

 

下からボールをすくいあげるように投げ、バックボードにボールを当てる。そして跳ね返ってきたボールをジャンプして掴んだ。

 

「まさか!?」

 

観客の何人かが池永のやろうとしていることに気付き、思わず声を上げる。池永は空中で自らが投げて跳ね返ってきたボールを掴み、そして…。

 

 

 

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

 

 

 

そのままリングに叩きこんだ。

 

「おぉぉぉーーーっ!!!」

 

「すげぇ! 1人アリウープだ!」

 

帝光の派手なプレーに観客が沸き上がる。

 

「ま、こんなもんでしょ」

 

池永はケラケラ笑いながらディフェンスに戻っていく。

 

開始早々のビックプレーに、星南中にも動揺が走る。

 

『帝光! 帝光――!』

 

会場中に帝光コールが響き渡る。

 

『…』

 

その重圧に、星南のメンバーは飲まれ始めていく。

 

「やられましたね。きっちり返したいところですが、ここで私達2人のどちらかが攻撃を失敗すれば最悪、勝敗を決しかねません。ここは慎重にいきましょう」

 

「…ちっ! しょうがねぇか…」

 

大地の懸念による忠告を空は渋々承諾する。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

空はゆっくりとボールを進めていく。

 

「何か、神城は随分落ち着いてるな…」

 

観客席で試合を観戦する城ケ崎の4番である小牧がポツリと感想を漏らす。

 

「仕方ないんじゃないかな? ここで彼か綾瀬が攻撃に失敗すれば流れは完全に帝光中に持っていかれる。ここはじっくりチャンスを窺うべきだと思うけど?」

 

「まぁ、それもそうなんだけど…」

 

小牧の感想にチームメイトである生嶋が自身の意見を述べる。小牧はどうも納得がいっていない様子だ。

 

「(…あいつ(空)がそんな大人しい気性の奴だとは思えないんだけどな。てっきり、すぐさまやり返すとばかり…)」

 

小牧は、空に対し、いくらか違和感を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

空はゆっくりゲームメイクを始める。空に相対するは帝光中のPGであり、キャプテンでもある新海。一定の距離を保ち、ディフェンスをしている。

 

 

 

――ダム…ダム…。

 

 

 

空はゆっくりボールを付いている。そして…。

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

チェンジ・オブ・ペースからのドライブで一気に加速する。

 

「っ!」

 

新海もそれを読み切り、遅れることなくピタリとマークする。空の得意パターンの1つであり、必勝パターンの1つで抜くことが出来なかった。

 

 

 

「「神城が抜けない!?」」

 

 

 

これを目の当たりにした城ケ崎の小牧と東郷の三浦が驚愕の声を上げる。彼らはいずれも空とマッチメイクし、空をほとんどまともに止めることが出来なかったからだ。

 

「…」

 

空は特に気にする様子はなく、途中で止まると、マークを外した大地にビハインドパスを捌く。ボールを受け取った大地はすぐさま走り込んている空にリターンパスを出す。

 

ボールを受け取った空はそのままゴール下まで進み、レイアップの体勢に入る。だが…。

 

「あめぇーよ!」

 

池永が高く跳躍し、ブロックにやってくる。

 

「うおぉっ! 池永高ぇー!」

 

空を超える高さでブロックにやってくる池永。空は特に動揺することもなくボールを手放すようにトスし、ゴール下の田仲にボールを渡す。

 

「よし!」

 

田仲はボールを受け取るとそのままシュート体勢に入る。

 

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

 

「っ!?」

 

だが、そのシュートは河野によってブロックされる。

 

「速攻!」

 

ボールを拾った新海は一気にドリブルで駆け上がる。

 

「ワンマン速攻だー!」

 

先頭を走る新海。星南ゴールにグングン近づいていく。3Pライン目前まで近づいてところで…。

 

「いかせねぇ」

 

空が追いつき、新海の進路を塞ぐ。

 

「…」

 

追いつかれた時点で新海はその場で停止した。すぐに大地も自陣のフロントエリアまで戻る。その後を続くように星南の選手と帝光の選手がやってきた。

 

「…」

 

新海は一度停止すると、ボールを付きながらチャンスを窺う。

 

 

 

――ダム!!!

 

 

 

3度程ボールを付いた後、一気に加速し、クロスオーバーで空の左側を抜けようと試みる。空もそれに遅れることなくついていく。

 

そこから切り替えし、今度は逆を狙う。

 

「っ!」

 

空はそれに難なくついていく。

 

「…」

 

新海の表情に動揺なく、このくらいは想定していたかのような面持ち。新海はそこでボールを両手で掴み、そのままノールックで左の3Pラインの外側でボールを待つ沼津にパスをする。

 

「ナイスパス」

 

ボールを貰うとすぐさまトリプルスレッドの体勢に。森崎がマークに付く。

 

沼津がフェイクを入れると、森崎が僅かに反応してしまう。そこを見逃さず、ドライブで森崎の横を抜ける。そのままシュートを放ち…。

 

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

 

ボールはリングを潜る。

 

 

星南 0

帝光 4

 

「ちっ!」

 

思わず舌打ちをする空。

 

『帝ー光! 帝ー光!』

 

会場がさらに帝光一色に染め上っていく。

 

開幕から1人アリウープで試合の空気と流れをものにし、さらにターンオーバーからの得点でさらに波に乗る帝光。

 

帝光中の強さを今、目の当たりにする…。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 


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