黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

118 / 218

投稿します!

何とか今日中に書き終わった…(;^ω^)

それではどうぞ!



第118Q~不屈~

 

 

 

第1Q、残り9分44秒

 

 

海常 0

桐皇 2

 

 

試合開始、最初に得点を決めたのは桐皇。主将の福山が強引に得点をもぎ取った。

 

「ディフェンスだ! 1本止めて流れを掴むぞ!」

 

『おう!!!』

 

福山が檄を飛ばし、他の選手達がそれに応えた。

 

「1本! 返しましょう!」

 

ボールを受け取った小牧がボールを運びながらゲームメイクを開始した。

 

「よろしゅー頼むで」

 

「…っ!」

 

そんな小牧をマークするのは同ポジションの今吉。小牧がフロントコートに侵入すると、今吉は激しくプレッシャーをかけた。

 

「(スゲー圧力かけてきやがる! イメージと事前の情報と違うじゃねーか!)」

 

事前の情報とかけ離れた今吉のプレーに戸惑いを覚える小牧。

 

「事情が事情や。今日は何もさせへんで」

 

「…っ! 舐めんな!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

挑発にも似た今吉の言葉を受けて、小牧は強引に仕掛け、今吉をかわす。

 

『抜いた!』

 

「…ま、そう来るわな」

 

抜かれた今吉がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「…っ」

 

「行かせねえよ」

 

その直後、まるで切り込むを見越したかのようなタイミングで福山がヘルプに現れ、小牧のキープするボールに手を伸ばす。

 

「(やけにあっさり抜けたと思ったが、罠かよ! だが、この人(福山)のディフェンスはそれほどでもない。そのまま行ける!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

ヘルプに福山が現れた事に一瞬動揺するも、すぐさま平静を取り戻し、バックロールターンで反転し、逆を付き、福山の伸ばした手をかわす。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「…あっ!?」

 

「残念やけど予測通りや」

 

バックロールターンで反転した直後、後方から今吉が小牧の持つボールを叩いた。

 

「小牧拓馬君。スピードとキレのあるドライブと確率の高いアウトサイドシュートが武器のかつての笠松さんを彷彿させる選手。ドライブ直後にディフェンスが現れるとバックロールターンで切り返す癖があります」

 

ベンチの桃井が自身のノートを持ちながら呟く。

 

「ホンマはドライブ直後にキャプテンがボールを奪ってくれたら御の字やったんけど、そこはキャプテンやからのう」

 

「一言多いんだよてめーは! おらっ! 速攻!」

 

辛辣な言葉をぶつける今吉に突っ込みを入れながらボールを拾った福山はボールを前に走る今吉にパスを出した。

 

「戻れ!」

 

海常のベンチから武内が立ち上がりながら声を上げる。ここを決められてしまうと流れを一気に持っていかれかねないからである。

 

「…っと、とうせんぼ」

 

「…早いのう」

 

先頭で速攻に駆けた今吉だったが、スリーポイントライン手前で氏原に追い付かれる。

 

「ほな、頼んます」

 

停止した今吉はボールを右へと流した。そこには直後にやってきた桜井の姿があった。

 

「すいません!」

 

ボールを受け取った桜井はすぐさま自身の得意技であるクイックリリースでのスリーを放った。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「えっ!?」

 

だが、そのスリーは後方から伸びてきた1本の腕によってブロックされた。思わず桜井が振り返ると…。

 

「すまんのう。ここで流れはくれてやれんでのう」

 

ブロックしたのは三枝だった。

 

「(さっきまでゴール下にいたのに、そこから僕に追い付いた!?)」

 

桜井は今吉が小牧のボールを叩いたのと同時に前へと走っていた。その時点では確かに三枝は自陣のゴール下にいたのを確認していた。そこからブロックに追い付かれた事に驚きを隠せなかった。

 

「これで終わりじゃねえぞ!」

 

ブロックによって零れたボールを福山がすぐさま拾い、そのままリングに向かって突き進む。

 

「らぁっ!!!」

 

リングに近付いたのと同時に福山がリングに向かって飛んだ。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「2度は無いッスよ!」

 

「くそが!」

 

ダンクに向かった福山だったが、黄瀬によってブロックされてしまう。

 

『アウトオブバウンズ、黒(桐皇)ボール!』

 

ボールはサイドラインを割ってアウトとなる。

 

「勝ちたいのは君達だけじゃない、こっちだって一緒ッスよ」

 

「…ちっ、上等だ!」

 

指を指しながら言う黄瀬に、福山は睨み付けながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…あいつ」

 

「えっ?」

 

「あの12番、かなりやるな」

 

ベンチから試合を見ていた青峰がポツリと言った。

 

「12番……三枝海さん。今年の4月に海常高校に転校。それ以前はスペインの高校でプレーをしていた選手…」

 

桃井がノートに記載してある三枝の情報を読み上げていく。

 

「高い身長と鍛え上げられた肉体に、その体格からは見合わないテクニックを擁した選手で、3番から5番まで幅広くこなせる選手。スペインでは既にリーガACBにも注目されている程の逸材…」

 

「ほう…」

 

情報を聞いて青峰が感心の声を上げる。

 

「スペインと言えばアメリカに次ぐバスケット大国。その国のプロリーグに注目されているとなるとかなりの選手。…國枝君では荷が重いかもしれませんね」

 

昨年センターを守っていた若松に代わり、今年からセンターのポジションを任された1年生の國枝清。資質はあるもまだ三枝と戦うのは早いと断ずる原澤。

 

「…」

 

青峰がコートを見つめている。

 

そして試合はその三枝の存在によって苦しめられる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ダムッ…ダムッ!!!

 

 

「…ぐっ!」

 

ローポストでボールを受けた三枝が背中で國枝を押し込みながらドリブルを始める。

 

「むん!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

ゴール下まで押し込んだ三枝はそこからボールを掴み、そのまま両手でリングにボールを叩きつけた。力を振り絞ってブロックに向かうも吹き飛ばされてしまう。

 

「…くそっ」

 

ブロック出来ず、悔しがる國枝。彼の脅威はオフェンスだけに留まらなかった。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

ペイントエリアに僅かに侵入した所でフェイダウェイシュートを放った福山だったが、三枝のブロックに阻まれてしまう。

 

「こっちじゃ!」

 

ブロックと同時に前へと走る三枝。そんな三枝に大きな縦パスを出す小牧。

 

「行くぞ!」

 

ボールを受け取った三枝はそのままドリブルで突き進んでいく。そのままドリブルでボールを運び、フリースローラインを越えるとボールを掴み、リングに向かって飛んだ。

 

「打たせっかよぉっ!!!」

 

直前で追いついた福山がブロックに飛び、三枝の前を塞いだ。

 

 

――スッ…。

 

 

だが、三枝は動じず、ボールを下げ、下からリングに向かって放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『スゲー! あいつパワーだけじゃねぇぞ!?』

 

攻守に渡って活躍をする三枝に観客達の注目度も高まってきた。そして、海常の脅威なのは三枝だけではない。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

黄瀬の小刻みにステップ入れてからのダックインによるドライブ。

 

「…くっそぉっ!!!」

 

あっさり抜き去られ、悔しさを露にする福山。このドライブが直前に福山が使用したテクニックでもあった。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

福山を抜いた黄瀬が直後に停止してジャンプショットを決めた。

 

そう、海常には言わずと知れたキセキの世代、黄瀬涼太の存在があった。黄瀬もまた桐皇を追い詰めていく。

 

『…っ』

 

明らかに不利な状況に表情が曇る桐皇の選手達。

 

黄瀬か三枝にどちらかだけならまだ止められたかもしれない。だが、この2人が同時にコートにいる事で力の差が如実に表れていく。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

小牧がドライブで切り込む。

 

「させへん――」

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

追いかけようとした今吉だったが、末広のスクリーンによって邪魔される。

 

「(あかん! ええタイミングでかけよるやないか!)」

 

抜群のタイミングでのスクリーン。中学時代からのチームメイトであった2人ならではの阿吽の呼吸。

 

「…ちっ」

 

迫りくる小牧に対し、國枝は三枝のパスコースを消しながらヘルプに向かう。

 

 

――スッ…。

 

 

だが、小牧はそこからシュートを打たず、ボールを右へと流した。

 

「ナイスパス」

 

そこには、氏原が駆け込んでいた。

 

「そいや」

 

エンドライン近く、スリーポイントラインの外側からシュートを放った。

 

「(っ!? ダメだ、これ、入る!)」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはキレイにリングに中央を射抜いた。

 

桜井の予想通り、スリーは決まった。それよりも桜井が気になったのは…。

 

「て言うか今の、ツーハンドシュート!?」

 

氏原は今のスリーを従来の片手のワンハンドではなく、ツーハンドで放ったのである。女子バスケでは良く見られるが、男子バスケでは珍しい光景である。

 

海常は去年までの黄瀬のワンマンチームと言われるチームではなく、三枝に加え、小牧、末広、氏原も全国レベルに恥じない選手であり、決して無視は出来ない選手である。

 

 

エース青峰の不在が攻守に渡って桐皇を追い詰めていく。

 

「…っ、あかん、時間あらへん!」

 

第1Q残り僅かとなり、ボールをキープしていた今吉がスリーポイントラインから3メートル程離れた場所からシュートを放った。

 

「(リズムもガタガタな上にこの距離だ。入るわけねぇ!)」

 

不意を打ったスリー。入る訳ないとボールを見送る小牧。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

破れかぶれに放ったスリー。しかし、このスリーは見事にリングの中央を潜り抜けた。

 

「なっ!? マジかよ…」

 

予想だにしない結果に目を見開く小牧。

 

「咄嗟に打ってもうたけど、案外入るもんやのう」

 

決めた今吉は薄く笑みを浮かべた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時にここで第1Q終了のブザーが鳴った。

 

 

第1Q終了

 

 

海常 21

桐皇 14

 

 

起死回生の今吉のスリーで何とか点差を一桁で終わらせる事に成功した桐皇。

 

『…っ』

 

だが、劣勢は明らかであり、選手達の表情は暗い。

 

「おら! しけた面してんじゃねぇ!」

 

思わず顔が下を向く選手達。そんな選手達に活を入れるかのように声を荒げた。

 

「まだたった10分終わっただけだ。点差も大した事ねえ。まだ逆転出来んぞ」

 

前を向きながら真剣な表情で告げる福山。

 

「キャプテン…」

 

「俺にボールを集めろ。俺が決めてやる」

 

決意に満ちた表情で福山はチームメイトに告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

第2Qが始まり、海常は黄瀬が確実にミドルシュートを沈めた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

スリーポイントラインの外側、右45度に位置でボールを受けた福山が目の前に立つ黄瀬に対して仕掛ける。

 

「行かせないッスよ!」

 

しかし黄瀬、これに難なく付いていく。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

黄瀬のマークは外れていないにも関わらず、福山はボールを掴んで飛び、不安定な態勢で強引にシュートを放った。

 

「リバウンド!」

 

外れる事を確信した小牧は咄嗟に声を上げる。

 

 

――ガン!!!

 

 

予想を通り、このボールは外れた。その瞬間、ゴール下では三枝と國枝、末広と新村がリバウンドに備える。ボールは末広が立つ方に流れる。

 

「くそっ…!」

 

末広は身体を張ってきっちりスクリーンアウトで新村を抑え込み、ボールに向かって飛んだ。

 

「…えっ!?」

 

だが、ボールが末広の両手に収まる直前、後ろから1本の腕が現れた。

 

「入ってろぉっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

リバウンド争いをしていた2人の後ろから福山が強引にボールをリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! 強引に叩き込んだ!!!』

 

「おらっ! まだまだこれからだ!」

 

拳を握りながら福山は誇示するように叫んだ。

 

劣勢を強いられるも福山の活躍と檄によって桐皇の士気は上がり、奮闘する。だが、エース青峰不在の穴は大きく、それでも点差は着実に広がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

三枝のボースハンドダンクが炸裂した。

 

 

第3Q、残り5分39秒。

 

 

海常 60

桐皇 41

 

 

桐皇は今吉が巧みにパスを捌き、桜井が外から決め、福山が中あるいは外から決め、國枝も苦戦しながらも奮闘し、新村も今日の試合にスタメン投入された意地を見せた。しかし、点差は20点近くまで広がっていた。

 

『ハァ…ハァ…!』

 

やはり、オフェンスではここぞという所で攻めきれず、ディフェンスでは桃井のデータによる先読みがあるものの、黄瀬と三枝が止めきれず、点差を一向に縮める事が出来ない。

 

「…っ!」

 

怒りのあまり、いても立ってもいられなくなった青峰がジャージを脱ぎ捨て、立ち上がった。

 

「何処へ行くつもりですか?」

 

「決まってんだろ。試合に出る。さつき、バッシュ出せ」

 

冷静に尋ねる原澤。青峰は苛立ちを抑えながら答えた。

 

「何言ってんの!? そんな足で出られるわけないでしょ!?」

 

慌てて桃井が止めに入る。

 

「るせーよ。そもそもこんな怪我大した事ねぇーんだよ。俺が出れば逆転なんざわけねえ。早くバッシュ持ってこいよ」

 

「ダメです。今日の試合はあなたは出さないと言ったはずです。それに、まともに歩く事も出来ないその足で何が出来ますか? 座っていて下さい」

 

「んなのやって見なきゃわかんねーだろ! こんな所で負けるくれーなら歩けなくなった方がマシだ」

 

「いい加減にしなさい。あなたは――」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「何度も決めさせっかよぉっ!!!」

 

「っ!?」

 

その時、コート上では黄瀬のジャンプショットを福山がブロックしていた。

 

「マジかよ!?」

 

まさかの状況に小牧が驚愕した。

 

「ナイス福山君!」

 

「よこせ!」

 

ルーズボールを桜井が拾うと、ブロック直後にすぐさま前へと走った福山がボールを要求。桜井はそこへパスを出した。

 

「やるッスね。けど、ここまでッスよ」

 

「…ちっ」

 

ワンマン速攻をかけた福山だったが、スリーポイントライン目前で黄瀬が追い付き、立ちはだかった。

 

「(…くそっ、俺でも黄瀬相手にまともな勝負じゃ勝てっこねえ! だったら!)」

 

福山は遅れて走り込んだ今吉にパスを出した。同時に中へと走りボールを要求。パス&ゴーでローポストでボールを受けた。その背後にすかさず黄瀬が付いた。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

ドリブルを始めるのと同時に福山は背後の黄瀬に背中をぶつけ、押し込み始めた。

 

「…くっ!」

 

その圧力に黄瀬が表情を歪ませる。

 

「ファールだ!」

 

海常ベンチから声が上がるも審判は笛を吹かず。ノーファールと判断した。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

ゴール下まで押し込んだ所で福山がボールを掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「この…!」

 

それを見て黄瀬もブロックに飛んだ。

 

 

――ガシィィィッ!!!

 

 

空中で2人が激突する。

 

 

『ピピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が笛を吹いた。

 

 

――バス!!!

 

 

福山が放ったボールをバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

「ディフェンス! 白4番! バスケットカウント、ワンスロー!」

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

『スゲー! キセキの世代相手にバスカンもぎ取りやがった!』

 

まさかのプレーに観客が湧き上がった。

 

「青峰! この試合てめえの力なんざ必要ねぇーんだよ! 大人しく座ってろ!」

 

ベンチの青峰を指差しながら叫ぶ福山。

 

「っ! ……ちっ」

 

それを聞いて舌打ちをしながら青峰はベンチに腰掛けたのだった。

 

「まだ行けるぞ! 全員、死ぬ気で食らい付け!」

 

「おう!!!」

 

檄を飛ばした福山。桐皇の士気はさらに上がっていった。

 

「福山…零…」

 

そんな福山を見て黄瀬が思わず名前を呟いた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボーナススローのフリースローをきっちり決めた福山。点差を縮める事に成功した。

 

「…むぅ、福山零。侮っていた訳ではなかったが、ここまでの選手だったとは。オフェンスだけならもはやキセキの世代に匹敵するやもしれん…」

 

チームを引っ張る福山を見て思わず武内は唸ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

試合は刻一刻と進んで行った。

 

福山の奮闘によってこれ以上になく士気が上がった桐皇。しかし、それでも劣勢を覆すまでには至らなかった。

 

 

第4Q、残り3分4秒。

 

 

海常 85

桐皇 60

 

 

「25点差か、やはり開いたか…」

 

次の試合の為、コートにやってきた洛山。四条が電光掲示板を見て呟いた。

 

「いや、青峰不在を考えればこれでも大健闘だと思うぜ?」

 

横に立っていた五河が続いた。

 

「…」

 

赤司は口を開く事なく試合を見ていた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

ボールをキープするのは黄瀬。目の前には福山。

 

点差と状況を見れば試合の勝敗は99%…もはや100%と言ってもいいほど決まっている。

 

「…まだ勝てる気でいるんスか?」

 

「あぁ?」

 

目の前の福山に対し、黄瀬が尋ねた。

 

「残り時間3分でこの点差。もう君達に勝ち目はない。それでもまだ勝つ気でいるのはどうしてッスか?」

 

決して馬鹿にしてる訳でもなければ圧倒的な有利な状況から嘲笑っている訳でもなく、黄瀬は尋ねた。

 

「うるせーよ。どれだけ点差が付こうと、お前らがどれだけ強かろうと、勝つのを諦める理由にはなんねぇーんだよ。俺はこのチームのキャプテンだ。試合が終わるまで勝利を諦める気はねぇ!」

 

確かな強い目で福山は返した。

 

「…」

 

決して今の状況が分からない訳ではない。ただの義務感で言ってる訳でもない。それでも本心から言ってる事を黄瀬は理解した。

 

「…フフッ」

 

思わず黄瀬の口から笑みが零れた。

 

「てめえ!」

 

「っと、悪い。違うッスよ。決して馬鹿にした訳じゃないッスよ」

 

怒りを露にした福山。黄瀬はすぐさま訂正した。

 

「俺は笠松主将から早川主将。その後に俺が主将を受け継いだんスけど、正直、主将としてどう振舞っていいか分からなかったッス。とりあえず2人がやってきた事を見様見真似でやってきたけど、しっくりこなかった」

 

「…」

 

「今でもまだ分かった訳ではないッス。…けど、チームの為に主将と言うのがどういう存在でならなきゃいけないか、少し理解したッス」

 

「っ!?」

 

その時、黄瀬の変化に福山が理解した。

 

「理解したから…、教えて貰ったから中途半端な真似はしないッス。残り時間、俺の全てを君達にぶつけるッスよ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

驚異的な緩急とスピードで目の前の福山を抜き去った。

 

「(この動きは!)」

 

この動きを見て福山は目を見開いた。

 

「くそっ…!」

 

それを見て慌てて國枝がヘルプに飛び出し、シュート態勢に入った黄瀬のブロックに向かった。

 

 

――スッ…。

 

 

それを見て黄瀬がシュートを中断してボールを下げた。

 

「っ!?」

 

ボールを下げ、下からボールをリングに向かって放り投げた。

 

 

――バス!!!

 

 

無造作に投げられたボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『…っ!?』

 

一連のプレーを見て桐皇の選手達は理解した。今の動きは青峰の動きのそれだと…。

 

「パーフェクトコピーか…!」

 

キセキの世代のプレーを再現出来る黄瀬最大の必殺技、パーフェクトコピー。それをここに来て披露した。

 

「ここからは出し惜しみなしッス。全力を以て君達を倒すッスよ」

 

黄瀬は桐皇の選手達に告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「ぐっ!」

 

「がっ!」

 

ゴール下に侵入した黄瀬がそこから回転。紫原のトールハンマーのコピーでブロックに来た國枝と新村を吹き飛ばしながらボールをリングに叩きつけた。

 

『ここに来てパーフェクトコピーかよ!? 黄瀬えげつねー!』

 

『青峰の不在の桐皇に追いすがられてプライドに障ったか?』

 

観客から悲鳴交じりの歓声が響き渡る。

 

「違うな。黄瀬は応えたんだ」

 

「えっ?」

 

これまで無言で試合を見ていた赤司が口を開いた。

 

「点差が開いても尚勝ちに行く姿勢を崩さなかった桐皇と試合に出られなかった青峰に報いる為、黄瀬はパーフェクトコピーを出した。それが黄瀬に出来る桐皇への敬意の払い方なのだろう」

 

「あの黄瀬が…」

 

赤司の口からそれを聞いた四条はにわかに信じる事が出来なかった。黄瀬は自身が認めた者以外の者には良くも悪くも無関心な一面があるからだ。かつての黄瀬であれば特に何も思う事無く淡々とプレーをしていただろう。

 

 

残り時間3分。黄瀬のパーフェクトコピーは猛威を振るい続けた。オフェンスでは黄瀬を止められず、ディフェンスは黄瀬の牙城を崩す事が出来なかった。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

残り時間僅か。苦し紛れに放った福山のシュートが決まった。勝敗は既に決まっていたが、福山が意地を見せた。

 

 

――スッ…。

 

 

得点が決まった直後、ボールを受け取った黄瀬が自陣深くから突如腰を落とし、シュート態勢に入った。

 

『っ!?』

 

それを見た桐皇の選手達が目を見開いた。

 

深く腰を落とした溜めた黄瀬がそこから頭上高く大きな軌道を以てボールをリリースした。

 

『…』

 

コート上の選手達、ベンチの選手、監督、会場の全てがボールの軌道に注目する。そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中央を的確に射抜いた。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

同時に試合終了のブザーが鳴った。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

 

試合終了。

 

 

海常 101

桐皇  64

 

 

優勝候補同士のチームの戦いがこれで終わった。

 

「101対64で、海常高校の勝ち! 礼!」

 

『ありがとうございます!』

 

審判の号令に合わせ、両校の選手達が礼をした。

 

「ありがとよ、黄瀬」

 

「こっちこそ、戦えて良かったッス」

 

主将同士である黄瀬と福山が握手を交わした。続いて健闘を称え合った選手達が握手を交わした。

 

 

――パチパチパチパチ…!!!

 

 

観客席から拍手が上がった。

 

『桐皇! 最後まで凄かったぞ!』

 

『青峰いたら勝ててたぞ! 冬は絶対勝てよ!』

 

試合を制した海常より、最後まで諦めなかった桐皇の選手達への拍手の方が多かった。

 

「顔を上げろ! 最後まで情けねえ姿を見せるな!」

 

込み上げるものを我慢しながら福山が選手達に言った。

 

『…っ』

 

それに応えるように他の選手達も顔を上げた。

 

「すまねえ! 勝てなかった!」

 

ベンチに辿り着いた福山が青峰に頭を下げた。犬猿の仲とも言える2人。そんな福山が頭を下げる事など考えられない事だった。

 

「…俺がいねーんだから当たり前だろうが」

 

そんな福山から視線を逸らしながら素っ気なく返す青峰。

 

「…まだ終わりじゃねえ。冬は勝つ。足引っ張んなよ」

 

「…おう!!! たりめーだ!!!」

 

悪態を吐きながら言った青峰の言葉に対し、福山が決意に満ちた表情で応えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「清々しい相手じゃった」

 

「ホントッスね」

 

ベンチに戻った海常の黄瀬と三枝が言葉を交わす。

 

「点差以上に厳しい相手じゃった。もし相手のエースがおったら…、考えたくはないが、逆の結末じゃったかもしれんのう」

 

「かもしれないッス」

 

桐皇がどれだけ強かったかは対戦した海常の選手達自身が1番理解していた。

 

「これで終わりじゃないッスよ。明日は、今日以上に厳しい試合になるッス」

 

「じゃのう。ワシの弟分達との試合じゃ。腕がなるのう!」

 

激闘が終わり、次に待ち構える強敵を前に、三枝は不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

その後も他の3回戦の試合が始まった。

 

洛山は順当どおり、後半戦から主力を温存しながらも快勝。続く秀徳も圧倒的な力で試合を制した。

 

誠凛も終始リードを保ちながら試合を進め、主力と入れ替わりに黒子テツヤを投入。ベンチメンバーが中心ながらもミスディレクションを駆使してボールを中継し、リードを保持しながら試合を終わらせた。

 

これにより、3回戦が終了した。

 

激闘を勝ち抜いた8校が翌日、準決勝進出をかけて再び激闘を繰り広げる。

 

 

 花月高校 × 海常高校

 

 

この2校が明日、激突する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





決戦前夜まで行きたかったんですが、長くなったので一旦ここで止めます。

さて、これから次の試合の為のネタを集めないと…(>_<)

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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