黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

どんどん次へと進んで行きます…(;^ω^)

それではどうぞ!



第117Q~結末と執念~

 

 

 

「お前達、戦う準備は出来ているな?」

 

コートへと繋がる通路を歩く海常の選手達。その監督である武内がコートに繋がるフロアの手前で選手達に問いかける。

 

『はい!!!』

 

「相手は桐皇だ。3年生にとっては因縁のある相手だ。…アップに参加していなかった事から今日の試合は青峰大輝は欠場するのだろう」

 

『…』

 

相手のキーマンであるキセキの世代のエース、青峰大輝の欠場。試合の勝敗の事を考えれば喜ばしい事であるのだが…。

 

「…」

 

「…」

 

無念の表情を浮かべる黄瀬と三枝の表情を見て他の選手達は表情を改める。2人…特に黄瀬は青峰を超える事を目標としており、一昨年のインターハイの舞台で果たせなかった雪辱を返したかった事は海常の選手達の全員が理解していたからだ。

 

「だが、それでも桐皇は強い。間違っても勝てる等と慢心はするな。試合終了のブザーが鳴るまで気を緩めるな」

 

『はい!!!』

 

「よし! 行くぞ!!!」

 

武内の掛け声と共に武内を先頭に海常の選手達がコートへと再び足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

コートのあるフロアに到着すると、観客が盛大に歓声を上げた。

 

「おぉっ! 盛り上がっとるのう!」

 

その盛り上がり様に三枝が思わず声を上げる。

 

「試合は終盤か。…残り時間は後5分くらいか…」

 

「折り返しの時点では鳳舞が10点以上リードしていたよな? どうなったっかな…」

 

小牧、末広が得点が表示されている電光掲示板に視線を向けた。

 

「……へぇ」

 

電光掲示板を見た黄瀬が思わず感嘆の声を上げた。

 

 

第4Q、残り5分17秒。

 

 

花月 72

鳳舞 67

 

 

「花月がリードしてる!?」

 

「あの点差をひっくり返したのかよ!?」

 

点差を見て小牧と末広が驚愕する。

 

「ハッハッハッ! そうでなくてはのう!」

 

この結果を見て満足気に笑う三枝。

 

「…むぅ、あの灰崎とかつて奴が在籍していた福田総合の戦力にも劣らない戦力にあの織田さんが率いる鳳舞を相手に神城抜きでこのスコアか…」

 

この結果に少なからず武内は驚いた。灰崎の恐ろしさは一昨年のウィンターカップで身を以て体験していたし、他の選手達も全国レベルの選手である上、何よりこのチームを率いているのは名将であり、曲者である織田だからである。明日の相手は鳳舞である可能性を大いに予測していただけに驚いていた。

 

 

「くそが! 俺がこんな所で…、こんな奴に!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

悔し気な表情をしながらドライブを仕掛ける。同時に急停止し、そこから後ろに飛びながらシュートを放った。

 

 

――チッ…。

 

 

ブロックに飛んだ大地の指先に僅かにボールが触れた。

 

「リバウンド!」

 

外れる事を確信した大地は声を出す。

 

「となれば俺の出番や!」

 

すかさずスクリーンアウトに入り、絶好のポジションに入る。

 

「ぐっ! …くそっ…!」

 

何とかポジションを奪い取ろうと試みる大城だったが、天野のパワーとテクニックがそれをさせない。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「もろたでぇっ!!!」

 

天野がリバウンドを制した。この日8本目となるリバウンドである。今日は天野が前日の鬱憤を晴らすように大城、鳴海に、松永がいるゴール下でリバウンドを量産する。

 

「よっしゃ! 速攻や!」

 

すぐさま天野は竜崎にボールを渡した。ボールを受け取った竜崎はそのままフロントコートまでボールを進めていく。

 

「これ以上やらせるか!」

 

スリーポイントライン目前で三浦が竜崎を捉え、立ち塞がる。

 

「(…この人もかなりの選手だけど、余裕がなくなった今なら俺でも戦える!)」

 

これまでボールを回してゲームメイクを続けてきた三浦。灰崎1人に頼り切らず、チーム全体にボールを散らす事で的を絞らせないようにした事が功を奏し、ここまで互角の展開となっていた。この試合の鳳舞の影の功労賞とも言える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

竜崎は思い切って三浦を相手に仕掛ける。

 

「…ちっ! 突破はさせないぞ!」

 

これに三浦も対応。竜崎のドライブに並走する。

 

 

――スッ…。

 

 

並ばれるのと同時に竜崎はボールを掴んで反転、ターンアラウンドで逆を付き、シュート態勢に入る。

 

「舐めるな! 外せてないぞ!」

 

ディフェンスをかわしてきれておらず、三浦がブロックに向かった。

 

「っ!?」

 

だが、竜崎はボールは掲げるだけで飛ばなかった。シュートフェイクに反応してしまった三浦は両腕を上げてしまう。

 

 

――ボムッ!!!

 

 

シュートを中断し、三浦の股の下からボールを弾ませながらローポストの松永にボールを入れた。

 

「…行くぞ」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

松永は背中に立つ鳴海に宣言し、左と見せかけて右からスピンムーブで鳴海を抜き去る。

 

「くそっ!」

 

直後にボールを右手で掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「させんぞ!」

 

そこへ、ヘルプに飛び出した大城のブロックが現れる。

 

「分かっている!」

 

大城のブロックを予測していた松永はボールを下げ、ブロックをかわし、リングを通り抜けた所でボールを再び、リングを背にしながらボールを放った。

 

 

――バス!!!

 

 

ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『スゲー! あいつセンターだろ!?』

 

センターとは思えない繊細なテクニックに観客が沸きあがる。

 

「ちっ!」

 

「(…まずいな。このパターンも読まれるようになってきた)」

 

鳴海は思わず舌打ちをし、大城は焦りを覚えた。当初こそ鳴海のサポートのディフェンスで松永のオフェンスをシャットアウト出来たが、回数をこなす内に松永も対応出来るようになり、パスを捌いたり、遂には抜かれるようになってしまった。

 

「(この流れを何とか変えんとまずい…)」

 

現状に不安を抱く大城だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

直後の鳳舞のオフェンス。三浦が不意を突くスリーを放り、ボールはリングを潜り抜けた。

 

「よーし!」

 

値千金のスリーを決めて喜びを露にする三浦。

 

「しまった。外を無警戒にし過ぎた…!」

 

時間をかけて慎重に攻めてくると予測していた為、突然のスリーに対応出来なかった竜崎は表情を曇らせる。

 

「ドンマイ」

 

そんな竜崎の肩に手を置いた大地が竜崎に声を掛ける。

 

「慌てる事はありません。落ち着いて次の1本を決めましょう」

 

「綾瀬先輩…」

 

にこやかな笑顔で大地はそう告げ、前へと走っていった。

 

 

ボールを運ぶ竜崎。

 

「(…では、頼らせてもらいますよ!)」

 

コーナー付近に立っていた大地にボールを渡した。

 

「来いよ」

 

「…」

 

小刻みにボールを動かし、牽制する大地。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して大地が仕掛ける。灰崎もこれに対応、大地に並びながら追いかける。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

ここで大地が急ブレーキ。ドライブの勢いを一瞬で殺した。

 

「(このガキ、打つ気か!?)」

 

シュートを警戒した灰崎がシュートチェックに出た。だが…。

 

「…っ!?」

 

大地はシュートには行かなかった。動きは確かに止まったのだが、ボールは両手で掴んでいなかった。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

再度大地が発進。今度こそ灰崎を抜き去った。

 

「…っ!」

 

リングに近づくと大地はボールを右手で掴んでリングに向かって飛んだ。

 

「おらぁっ! させっかよ!」

 

ヘルプに飛び出した鳴海がブロックに飛んだ。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

「…なっ!?」

 

しかし、大地は鳴海のブロックの上からボールをリングに叩きつけた。

 

『スゲー! あの身長差で上からかましやがった!!!』

 

10センチの身長差を物ともせずにブロックの上からダンクを叩き込み、観客は大興奮。

 

「魅せつけてくれるで!」

 

「…っと」

 

喜びを露にしながら大地の首に腕を回す天野。

 

「…っ!」

 

そんな2人の姿が横を通り過ぎる中、灰崎がきつく拳を握りしめる。

 

「(くそが! この俺があんなカス共に…!)」

 

灰崎の心中は屈辱に塗れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

これは第3Q終了時のインターバル…。

 

『くそっ!』

 

荒々しくベンチに座り、ひったくるようにドリンクを受け取る。イライラを隠せない灰崎。

 

『どうやら、灰崎君より相手のエースの方が上みたいだねー』

 

『あぁっ!?』

 

織田のその言葉に灰崎は怒りを隠しきれず、思わず立ち上がって織田に詰め寄る。

 

『君は相手の6番の技を盗めない。ここまでは君が今まで盗んだ技を駆使して戦ってきたが、さすがは上杉君の所で育った選手だ。能力はもちろん、洞察力も大したもんだ。ここに来て君に対応し始めた』

 

『…あぁっ!? 適当言ってんじゃねえ!』

 

思わず灰崎は織田に掴みかかる。

 

『君はかつては彼の前を走っていた。だけど、彼はもう君の前を走っている』

 

『…っ!?』

 

『それを認めないと君は彼に…そしてこの試合に勝てないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ※ ※ ※

 

 

「(…俺があんなガキに劣るだと? あいつら(キセキの世代)じゃねえ、リョータでもねえ奴にこの俺が…!)」

 

その事実を認められない灰崎は怒りで頭が占めていく。

 

「(ふざけんじゃねえ! そんな認められるかよ!)」

 

 

『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

「メンバーチェンジ! 白(鳳舞)!!!」

 

ここで鳳舞のメンバーチェンジがコールされる。交代に指名されたのは大城。代わりに投入されたのは東雲。

 

「うん。大城君のリバウンドはもったいないけど、点が取れないと話にならないからねー」

 

ジワジワリードが広がり、点差を詰めたい織田は突破力とスピードがある東雲を再投入する。大城のリバウンドとインサイドは勿体ないが、そもそもリバウンドもインサイドも天野に制圧されている為、ならばと東雲を投入した。織田は最後の賭けととして花月の点の取り合いを挑んだのだ。

 

コートに入った東雲から鳳舞の選手達に指示が飛ぶ。ディフェンスは大地に灰崎が、生嶋に東雲が付き、残りは中でゾーンを組む。つまり、トライアングルツーに変更するという事だった。

 

 

試合は開始され、鳴海がスローワーとなってリスタート。三浦にボールが渡り、フロントコートまでボールが運ばれる。

 

「行くぞ!」

 

「…ちっ!」

 

ここが勝負所と見た竜崎がガンガン前に出てプレッシャーをかけていく。三浦はボールを奪われないようかわしながらボールをキープする。

 

「(灰崎さんは……ダメか、マークが厳しい。…なら、ここだ!)」

 

頭上から竜崎のディフェンスをかわしながらボールをローポストに立つ鳴海に渡した。

 

「ここで流れを変えてやるよ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

「…っ!」

 

ドリブルをしながら背中で松永を押し込みにかかる鳴海。松永は歯を食い縛ってそれに耐える。

 

「てめえじゃ俺は抑えられないんだよ!」

 

鳴海はさらに身体をぶつけてきた。

 

「(来た!)」

 

試合開始当初は鳴海を抑えられていたが、第2Qからパワー負けし始めた。人が突然パワーアップする事はあり得ない。ならば何かからくりがあるはず。

 

松永は重心を今よりさらに下げた。

 

「っ!?」

 

この行動に鳴海が目を見開いた。

 

「もう俺がパワー負けし始めたからくりには気付いている。あんたは押し込む見せかけて俺の懐深くまで潜り込んで上体を無理やり上げさせただけだ」

 

松永はパワー負けし始めたからくりに気付いていた。鳴海は押し込む際にわざと深く潜り込むように松永の懐に入り、背中で強引に松永の上体を上げさせ、膝を伸ばさせた。そんな棒立ちの態勢ではポストアップに耐え切れず、たちまち力負けしてしまう。これがからくりであった。

 

「ならば、あんたよりさらに重心を下げればいい」

 

鳴海がそれを仕掛けるタイミングは自らやられ続けた事で理解していた。後はそのタイミングに合わせて鳴海以上に重心を下げれば上体を上げられる事はないしこれ以上押し込まれる事もない。

 

「くそっ!」

 

目論見が外れた鳴海は距離を取って仕切り直しを図ろうとする。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「手元が留守だぜ」

 

それを行う直前に松永が鳴海の持つボールを叩く。ボールが鳴海の手元から零れる。

 

「まだだ!」

 

ルーズボールを先程コートに入った東雲が飛び込むように確保する。

 

「灰崎さん!」

 

ボールを掴むとすぐさま灰崎にパスをした。

 

「…っ!」

 

「止めます」

 

ボールが灰崎に渡るのと同時に大地が目の前に立ち塞がった。

 

「ふざけんな…。てめえごときが俺より上なんてあり得ねえんだよ…」

 

怒りに震えながら口にすると、灰崎がグッと構えた。

 

「お前の技。…貰うぜ!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

一気に加速し、切り込む灰崎。

 

 

――キュキュッ!!!

 

 

急停止し…。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

バックステップで距離を空けた。

 

「…っ!?」

 

下がった瞬間、灰崎の表情が曇る。

 

「おぉっ!」

 

だが、すぐさまシュート態勢に入った。

 

 

『おぉっ! 灰崎が綾瀬の技を奪った!』

 

「……いや」

 

観客の言葉を黄瀬が首を横に振りながら否定する。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「っ!? なん……だと…」

 

そのシュートはブロックに現れた大地の手に当たって阻まれ、言葉を失う灰崎。

 

「まだだ! ルーズボール、抑えろ!」

 

ベンチから大城が声を出す。ボールは手に当たったのと同時に上へと舞っていた。

 

「くそっ……っ!」

 

ボールを抑えようと飛ぼうとした灰崎だったが、膝を曲げると苦悶の表情を浮かべた。

 

「…っと」

 

着地をした大地が再度飛び、ルーズボールを抑え、掴んだのと同時にボールを後ろに落とし、松永に渡す。着地と同時に前へと走り、前を指差して合図を送る。

 

「綾瀬!」

 

その合図を受けて松永は前へと大きな縦パスを出した。

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

縦パスを受けた大地がそのまま突き進み、ディフェンスに戻る鳳舞のディフェンスを引き離しながらそのままワンハンドダンクを叩き込んだ。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

大地による連続のダンクを目の当たりにして観客のボルテージは最高潮となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「勝負あった、ッスね」

 

「えっ? まだ時間と点差を見ても鳳舞にもチャンスはありそうですけど…」

 

黄瀬がポツリと呟いた言葉に末広が聞き返す。

 

「残り時間と点差だけを見ればそうッスね。けど、多分、もう鳳舞は逆転出来ないッス」

 

「何でですか?」

 

「あの灰崎という男、足を痛めたのう」

 

末広の質問に黄瀬の代わりに三枝が答えた。

 

「足を? …そんな場面あったか?」

 

答えを聞いていた小牧が末広に尋ねるも末広も首を横に振った。

 

「奴が大地の技を盗もうとした時じゃ」

 

「あの時ですか?」

 

「フルドライブのスピードを一瞬で止めるだけでも足にかかる負担は相当なもんじゃ。それをさらに下がろうとすれば、常人なら止まりきれずに前に倒れるか、無理に下がろうとすれば足を痛める。下手をすれば足の神経を痛めかねん」

 

「…っ!? 言われてみれば」

 

三枝の説明を聞いて納得する小牧と末広。

 

「高い身体能力とセンスが仇となったのう。大地のあの技はリョータですらコピーするのを避ける代物じゃからのう」

 

「えっ!? マジすか!?」

 

その事実を聞いて末広が驚愕する。

 

「技自体は単純ッスからコピーするのは容易いッス。ただ実際やるとなると完成度を落として足の負担を減らすか、身体への負担を覚悟でコピーするかッスね」

 

もともと強靭な下半身を持つ綾瀬が花月に来てさらに鍛え上げ、実戦で使えるまでに昇華させた綾瀬だけの武器。他の者が真似たり盗もうとすればリスクが伴う。

 

「(ショーゴ君のセンスは正直俺達(キセキの世代)と同格と言ってもいいッス。…けど、今日の相手が悪かったッスね…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

黄瀬と三枝の予想は的中していた。以降、目に見えてパフォーマンス能力が低下した灰崎。時折、苦悶の表情を浮かべる場面もあった。

 

試合はもう花月の優勢が覆る事はなかった。

 

リバウンドは天野の独壇場であり、生嶋も狂ったリズムを調律に成功し、決まるようになり、1度は劣勢を強いられた松永も相手のからくりを見抜いた事によって再び主導権を握った。竜崎も立派に空の代わりを務めた。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

もはや、コート上に大地を止められる者はいなかった。

 

それでも最後まで勝負を諦めない鳳舞の選手達。必死に食らいついていく。だが、それでも花月が鳳舞を上回った。

 

「――3…2…1…」

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

マネージャー、相川のカウントダウンと共に試合終了のブザーが鳴った。

 

 

試合終了。

 

 

花月 86

鳳舞 75

 

 

花月が試合に勝利し、ベスト8進出を果たした。

 

「よー空坊の代わりを果たした!」

 

「うす! ありがとうございます!」

 

竜崎の傍に駆け寄った天野が功を労った。

 

「よし!」

 

「勝ったね」

 

松永と生嶋が拳を突き合わせた。

 

「やった! 勝った!」

 

「おう! さすがだぜ!」

 

「先輩方、竜崎も、見事です」

 

ベンチの帆足、菅野、室井もそれぞれ喜びを露にした。

 

「良かった! …あっ!? 姫ちゃんにも教えてあげないと!」

 

勝利を喜んだ相川だったが、姫川の事を思い出し、さっそく姫川に勝利の報告を送っていた。

 

「……ふー」

 

無事、試合に勝利し、軽く一息吐く大地。そっと花月ベンチに視線を送る。

 

「(…グッ)」

 

上杉が胸の辺りで拳を握り、頷いた。

 

「……よし!」

 

それを見て人知れず喜びを露にした。

 

 

「くそっ! くそっ!」

 

対して鳳舞の選手達、鳴海が悔しながら床を拳で叩きつける。

 

「…っ!」

 

「…負けた」

 

下を向いて拳を握りながら唇を噛む三浦と茫然とする東雲。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

天を仰ぎながら涙を流す外園。

 

「……届かなかった」

 

ベンチで座り込みながら両目を瞑る大城。

 

 

「86対75で、花月高校の勝ち! 礼!」

 

『ありがとうございました!!!』

 

センターサークル内で互いに礼をし、両チームの選手同士が握手をし、検討を称え合った。そんな中、灰崎だけが整列の後、すぐにベンチに足を向けていた。

 

「…っ!」

 

だが、足に激痛が走り、その場で倒れこむ。

 

「…ちっ、仕方のねえ奴だな」

 

倒れこみそうになる灰崎を鳴海が腕を掴み、そのまま自分の肩を貸した。

 

「…触んな。暑苦しいんだよ」

 

そんな鳴海の気遣いを他所に、灰崎は鬱陶し気に鳴海の腕を払い、自分の足でベンチに戻っていった。

 

「みんな、お疲れ様。試合には勝てなかったけど、最後まで立派に戦えていましたよ。…では、次のチームを待たせてもいけませんから皆さん速やかにベンチを空けますよ」

 

戻ってきた選手達の労いもそこそこに、織田が撤収の指示を出した。指示を受けて選手達が荷物を纏め、引き上げの支度を済ませていく。

 

「…」

 

そんな中、灰崎は頭から倒れを被りながらベンチに座っていた。

 

「…灰崎君」

 

「…」

 

「君の才能はとても素晴らしい。あのキセキの世代と劣らない程に…」

 

「…」

 

「君は確かにあの綾瀬君の前を走っていた。…だけど、足を止めてしまえばいずれ、走り続けた者に抜かれてしまうのは道理です」

 

「…っ」

 

「また走りましょう。その燻った気持ちがなくならないように…」

 

「うるせー! ……クソジジイ…」

 

そう言って、そっと灰崎の肩に手を置いた。灰崎は拳をきつく握り、肩を震わせたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――花月高校、ベスト8進出!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

ベンチの引き上げ作業が終わった花月。それぞれが荷物を持ってコートから移動を開始する。

 

「…」

 

そんな中、大地が相手側のベンチに視線を向ける。そこには、海常の選手達がベンチ入りをしていた。

 

「おいてめえ」

 

「…?」

 

そんな大地に桐皇の主将である福山が話しかけた。

 

「言っておくが、勝つのは俺達だ。明日の試合も俺達が勝つ。忘れんな」

 

睨み付けながら大地に告げる福山。

 

「そうなっていただければこちらも去年の雪辱を果たす機会が出来て光栄の限りです。リベンジマッチの舞台を是非とも作って下さい」

 

「…ふん」

 

大地の返事を聞いた福山は鼻を鳴らしながら横を通り抜けていった。

 

「…やるようになったじゃねえか」

 

次に大地の傍にやってきたのは青峰だった。

 

「あなた方(キセキの世代)に勝つ為、今日まで必死に練習してきましたから」

 

「…ようやくてめえも扉を開きやがったか。……遅ぇーんだよ(ボソリ)」

 

最後の一言だけ大地の耳に届くか届かないかの小さな声で呟き、青峰はベンチへと向かって行った。

 

「(…福山さんの気迫…、彼だけじゃない、他の選手達全員、昨年私達と試合をした以上の気迫でした。…これは、何か起こるかもしれませんね…)」

 

桐皇の選手達の気迫をその身で受けた大地はそんな予感をしたのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

花月、鳳舞の選手達がコートのあるフロアから去り、入れ替わりでそれぞれのベンチに海常、桐皇の選手達がベンチ入りした。

 

両校は粛々と試合の準備を進め、遂に、試合開始3分前となった。

 

「集まれ!」

 

海常の監督である武内が選手達を集める。

 

「スタメンに変更はない。序盤から攻め立てて主導権を取りに行け」

 

『はい!!!』

 

「三枝。今日はお前のポジションが狙い目の1つとなるだろう。頼んだぞ」

 

「ハッハッハッ! 任せといてくれぃ!」

 

豪快に笑いながら返事をした。

 

「…黄瀬、青峰がおらずとも、手を抜くな」

 

「分かってるッスよ。俺は今は海常のキャプテンッスからね。気合い入れてチームを引っ張るッスよ!」

 

黄瀬の調子を心配した武内だったが、黄瀬の表情を見て杞憂だったと心中で安堵する。

 

「他の者達も、海常はもはや黄瀬1人のワンマンチームではない。ここまで努力を重ね、勝ち抜いた立派な戦力だ。胸を張って全力で戦え!」

 

『はい!!!』

 

「よし、行って来い!」

 

「皆、行くッスよ!」

 

『おう!!!』

 

黄瀬の声を合図に海常の選手達はコートにあるセンターサークルへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・・・・・・・

・・・・

 

 

コート上のセンターサークル内に集まる両校のスタメンに選ばれた選手達。

 

 

海常高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:黄瀬涼太 193㎝

 

5番SG:氏原晴喜 182㎝

 

8番PG:小牧拓馬 178㎝

 

10番PF:末広一也 194㎝

 

12番 C:三枝海  199㎝

 

 

桐皇学園高校スターティングメンバー

 

 

4番SF:福山零  191㎝

 

6番SG:桜井良  177㎝

 

7番PF:新村守  189㎝

 

9番PG:今吉誠二 179㎝

 

10番 C:國枝清  192㎝

 

 

「…」

 

黄瀬が桐皇のベンチの一角に座る青峰の方へ視線を向ける。

 

「よろしく」

 

その時、声を掛けられ、正面を向くと、桐皇の主将である福山が手を差し出していた。

 

「よろしくッス」

 

同じく挨拶を返した黄瀬はその手を握った。

 

「…っ!」

 

その時、福山は握手を交わすと同時にその手に力を込めた。

 

「この試合では余所見してる余裕なんざやらねえからな」

 

低い声で睨み付けるように福山が黄瀬に告げ、その手を放した。

 

「そうでなくちゃ困るッスよ」

 

相手の気迫をその身で感じた黄瀬は不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

「…」

 

「…」

 

センターサークル内に海常は三枝、桐皇は國枝がジャンパーに入り、残りの選手達はその周囲に広がった。

 

審判がボールを2度突くと、ジャンパーの2人の間でボールを構え、ボールを高く上げ…。

 

 

――ティップオフ!!!

 

 

「「…っ!」」

 

ジャンパーが同時に飛ぶ。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「…っ!?」

 

ジャンプボールは國枝よりさらに高い位置で三枝が叩いた。

 

『うおぉぉぉぉっ!!! たけー!?』

 

「ナイス海さん!」

 

ボールは小牧の立つ所へと向かって行った。小牧はボールを掴む。

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

「えっ!?」

 

「おらぁぁぁっ!!!」

 

だが、それよりも早く福山が気合いの雄叫びを上げながらボールに飛び付いた。

 

「っしゃぁっ!!!」

 

ボールの確保に成功すると、福山はそのまま単独でドリブルで突き進んだ。

 

「させないッスよ!」

 

スリーポイントライン目前で黄瀬が追い付き、回り込んで進路を塞いだ。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

それでも福山はお構いなしに強引に突き進む。

 

「…っ!」

 

まさかの選択に意表を突かれるも黄瀬は身体を張って並走しながら食らいつく。

 

「おらっ!」

 

フリースローラインを越えた所でボールを掴んだ福山は強引に飛び、リングに強引にボールを放った。

 

「いくら何でもそれは強引っスよ!」

 

 

――チッ…。

 

 

同時にブロックに飛んだ黄瀬。伸ばした指先にボールが触れる。

 

 

――ガン!!!

 

 

ボールはリングに弾かれ、外れてしまう。

 

「取る!!!」

 

 

――バシィィィィッ!!!

 

 

外れたボールを後ろから走ってきた新村が掴み取った。

 

「行け!」

 

「サンキュー!」

 

リバウンドボールを制した新村すぐさま福山にボールを渡す。

 

 

――クィッ…。

 

 

ゴール下でボールを受け取った福山はポンプフェイクを1つ入れ、再び飛ぶ。

 

「何度やっても――」

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――バス!!!

 

 

再びブロックに来た黄瀬だったが、福山は強引に得点を決めた。

 

『スゲー気合い! 先制点は桐皇だ!!!』

 

「よっしゃー!」

 

得点を決めた福山は國枝とハイタッチをし、ディフェンスに戻っていく。

 

「今の気合い、今の執念…」

 

「うむ。あれはエース抜きで何とかする等と生易しいものではないのう」

 

ジャンプボールから得点に至るまで、黄瀬と三枝は桐皇の選手から放つプレッシャーを感じていた。

 

「青峰っち抜きでも勝つ。そんな想いがひしひし感じるッス」

 

昨日の試合のアクシデントによって今日の試合を欠場せざるを得なくなった桐皇。だが、選手達の士気は下がるどころか最高潮であった。

 

「かぁぁぁぁぁぁーーーーつ!!!」

 

自陣で振り向いた福山の咆哮がコート中に響いたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





久しぶりの花月以外の試合です…(>_<)

前の試合が長すぎた為、今回はコンパクトに纏めました…(;^ω^)

どんどん進んで行きますよー…(^-^)/

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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