黒子のバスケ~次世代のキセキ~   作:bridge

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投稿します!

ついにこの試合に決着が…(^-^)

それではどうぞ!



第110Q~激闘の果て~

 

 

 

第4Q、残り1分1秒。

 

 

花月 96

陽泉 97

 

 

竜崎、室井 OUT

 

大地、天野 IN

 

 

残り時間1分に差し掛かった所でベンチに下がった大地と天野がコートへと戻ってきた。これにより、花月はスターティングメンバーに戻った。

 

 

「ここで綾瀬を再投入か。…さっきまで歩くのもままならなかった状態だったが、動けるのか?」

 

火神がコートに入る大地を見つめながら呟く。

 

「……さすがね。合宿の時から思ってたけど、彼の回復力の高さは異常だわ。あれなら残り1分、充分にもちそうね」

 

リコがその目で大地の身体の数値を見て確信する。

 

「けど、問題なのはもう1つ。一度は限界を迎えてベンチに下がったのも事実。その状況だと一流の選手でも集中が途切れがちになるわ。彼はどうなのかしら…」

 

意味深にリコは呟いたのだった…。

 

 

「1本! 絶対決めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

ボールをキープする空の掛け声に花月の選手達が応える。

 

フリースローを空が2本成功させ、さらにアンスポーツマンライクファールの為、花月ボールから再開される。

 

「(…こいつ、マジかよ。あの状態でたかだか1分の休憩だけで戻ってきただけでも驚きなのに集中が全く切れてねえ!)」

 

「(それどころか、未だにゾーンが解けてねえじゃねえか!)」

 

大地の状態を目の前で確認した永野と木下の表情が驚愕に染まる。

 

「この1本は死んでも死守だ! 気合い入れろ!」

 

『おう!!!』

 

主将の永野は自分とチームの嫌なムードを振り払うように声を出し、陽泉の選手達もこれに応える。

 

 

「ん? 陽泉のディフェンスが変わった?」

 

陽泉のディフェンスの変化に気付いた観客席の新海。

 

「ボックスワンから2-3ゾーン……いや、違うな、これは」

 

これまで大地、大地が空と交代してからは空に紫原がマンツーマンでマークし、残りの4人はゾーンを組んでいたのだが、今は紫原がマークを外し、元々の陽泉のゾーンディフェンスに戻したのだが、少し様子がおかしい事に気付いた田仲。

 

「2-1-2ゾーンか」

 

ポツリと火神が呟くように言う。

 

これまでの前に2人、後ろに3人の2-3ゾーンディフェンスではなく、前列に永野と木下。中央2列目に紫原。後列にアンリと渡辺の2-1-2ゾーンディフェンスとなっていた。

 

「英断ね。コート上に神城君と綾瀬君の2人がいる以上、マンツーマンでは止められない。これならカットインにも対応しやすくなるし、紫原君が通常より前を守る事になるから外に対応出来るようになる。2-1-2ゾーンは2-3ゾーンの派生のゾーンディフェンスでもあるから恐らくこの状況でも充分機能させられるはずだわ」

 

この選択にリコが賛辞の言葉を贈った。

 

 

 

――ダムッ…ダムッ…。

 

 

ボールをキープする空は慎重にゲームメイクをする。

 

「……よし!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決して空は中央にカットインする。

 

「…来いよ」

 

待ち受けるのは紫原。両腕を広げて迫りゆく空に備える。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

紫原の目前でクロスオーバー。左に切り返して紫原の右手側から抜けようとする。

 

「…っ、その程度のフェイントで!」

 

このクロスオーバーに紫原は対応。横を抜けようとする空を反転して追いかけようとする。

 

 

――スッ…。

 

 

次の瞬間、空はノールックビハインドパスでボールを右に流す。そこには大地が走りこんでおり、ドンピシャのタイミングでボールを受け取り、そのままリングに向かって切り込む。

 

「ちぃっ!」

 

これにも反応した紫原は大地を追いかける。切り込んだ大地はそのままリングに向かって跳躍した。

 

「決めさせるかよ!!!」

 

咆哮と同時にブロックに飛んだ紫原。大地のシュートコースをすっぽり隠すようにブロックに現れた。

 

『うわー! あれじゃ打てねえ!』

 

圧倒的な高さを誇るブロックに観客席から悲鳴が上がる。

 

「…分かっていましたよ。あなたが来る事くらい」

 

これを想定していた大地はボールを下げ、下に落とす。

 

「ナイスパス!」

 

そこに走りこんでいたのは空。ボールを受け取った空はリングに向かって飛ぶ。

 

「ざっけんな! 絶対に決めさせねえ!」

 

コートに着地した紫原はすぐさまブロックに向かう。

 

「態勢が不十分だぜ」

 

先程大地にブロックに向かったばかりの紫原。辛うじてシュートコースを手で塞ぐので精一杯となっていた。

 

 

――スッ…。

 

 

空はボールを下げて紫原の伸ばした腕を掻い潜るように空中で抜けていく。紫原のブロックをかわし、リングを通過した所で再びボールを上げ、リバースレイアップの態勢でボールをリングに放った。

 

『行けー!!! これで逆転だぁっ!!!』

 

逆転を確信した花月ベンチの選手達は立ち上がりながら声を上げる。

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

「っ!?」

 

しかし、その願いは叶わず。ボールを放った所で後ろから伸びてきた腕にボールを叩かれ、ブロックされてしまう。

 

『オレヲ忘レテ貰ッテワ困ル!』

 

「アンリ!」

 

突如ブロックに現れたのはアンリ。

 

「よーし! ナイスアンリ!」

 

ブロックが成功し、永野が拳を握りながら喜びを露にする。

 

「(…くそっ、察知出来なかった! 最悪のタイミングを狙われ……まさか!?)」

 

この時空はとある予感を感じた。

 

「…(グッ)」

 

「…(プイ)」

 

紫原に向けて親指を立てるアンリ。当の紫原はプイっと視線を外した。

 

今のブロックはただの偶然ではなかった。全ては狙い通りであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

それは空と天野がコートに入り、試合が再開される直前の事…。

 

『ねえ、アンちん』

 

『ドウシタ、アツシ』

 

アンリの傍まで歩み寄った紫原がアンリに話しかける。

 

『力、貸してくれない?』

 

『?』

 

『ここ決められると逆転されちゃうから止めたいんだけど、俺1人だとあの2人と同時に対応するのは難しいからさ、アンちんの力貸して』

 

『コノピンチワオレガ原因ダ。オレノ力デ良ケレバイクラデモ貸スヨ。…ダガ、オレデ役ニ立テルカ?』

 

空と大地に対して、ゾーンに入ってから全く対応出来てないアンリ。不安気に尋ねる。

 

『じゃなきゃ声かけてないよ。俺が2人を誘導するから、最後、お願い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

 

 

空か大地の一方だけなら紫原1人でも対応出来るが、2人同時には対応出来ない。そこで紫原は2-1-2ゾーンを上手く生かし、空と大地を誘い込んだ。

 

自身の身体能力と反応速度を駆使して2人を追い込み、最後のダブルクラッチまで誘導した。空がボールを1度下げてもう1度上げてボールを放る瞬間をアンリに狙わせた。

 

空中でしかもボールを放ってしまった後ならば空でもどうしようもない。ダブルクラッチで打点が低くなっている状態なら上手くタイミングさえ合えばアンリのスピードとアジリティーがあればブロック出来る。これが紫原が描いた作戦。

 

紫原の追い込みとアンリのタイミングが見事に合致し、ブロックに成功した。

 

「キャプテン!」

 

ルーズボールを拾った渡辺が永野にボールを渡す。

 

「行くぞ!」

 

永野の号令と同時に陽泉選手達が一斉にフロントコートに向かって走り出した。陽泉が一斉に速攻に駆けたのだった。

 

「あかん! 戻れ、ディフェンスや!」

 

慌てながら天野が声を張り上げながら戻る。

 

「くそっ! せっかくのチャンスを!」

 

「ドンマイ! 止めますよ!」

 

悔しがる空を大地が宥め、ディフェンスに戻っていく空と大地。

 

「行かせねえ!」

 

空がボールを持つ永野をスリーポイントライン目前で捉え、回り込む。

 

「相変わらずはえーな。だがな、遅ぇ!」

 

永野は動じずにボールを押し出すようなフォームでリング付近に高く放った。

 

「っ!?」

 

思わず空は目を見開く。永野がボールを放るのと同時に紫原が空の横を駆け抜けていき、ボール目掛けて飛んだのだ。

 

「…くっ!」

 

横を並走する大地も飛ぶが、ボールは紫原にしか届かない程の高い位置に放られた為、大地はボールをカット出来ない。

 

ボールが紫原の右手に収まる。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――バキャァァァッ!!!

 

 

ボールを掴んだ右手をそのままリングに叩きつけた。

 

『うおぉぉぉぉぉっ!!!』

 

ダンクが決まるのと同時にこの日1番の歓声が会場を包み込んだ。

 

「っしゃぁっ!」

 

ダンクを決めた紫原は力一杯拳を握りながら誇示するように叫んだ。

 

 

「最悪だ。ベストメンバーに戻した直後のオフェンス失敗に加え、この失点。勝負あったかもしれねえ」

 

「…流れを止めかねない1本には間違いないわ。火神君の言う通り、残り時間を考えて、ここで気持ちを切り替えられないようなら決まりよ」

 

火神の感想にリコは半ば同意したのだった。

 

 

『…っ』

 

ターンオーバーによる失点を喫し、表情が曇る花月の選手達。残り時間1分切った中、勝利がさらに遠のく。

 

「ハッハッハッ…!」

 

そんな中、空が1人笑い声を上げた。

 

「さすが陽泉。一筋縄ではいかねぇな。…だからこそ、倒し甲斐がある」

 

ニコリと笑顔を浮かべながら空が言う。

 

「…フッ、そうですね。手強いからこそ勝った時の喜びも増しそうです」

 

同調するかのように大地が笑みを浮かべた。

 

「俺らが相手しとるんはキセキの世代を擁するチームや。こないなピンチに今更オタオタしておれんわな」

 

表情を引き締める天野。

 

「去年もそうだった。乗り越える」

 

松永は覚悟を決めた。

 

「まだ時間はある。最後の1滴まで出し切って勝ちに行くぞ!」

 

『おう!!!』

 

空の檄によって気持ちが切り替わり、再び花月に集中力が戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

 

 

リスタートをし、空がフロントコートまでボールを運び、中央のスリーポイントラインの外側でボールをキープしている。

 

「…」

 

陽泉のディフェンスは先程と変わらず2-1-2のゾーンディフェンス。花月が勝利するにはこの1本を決め、変わる陽泉のオフェンスを止めてさらに決める必要がある。残り時間を考えればすぐさま点を取りに行きたいのだが、取りこぼせば敗北は確定。その為、空は逸る気持ちを抑えてボールをキープしている。

 

「…」

 

ここで空はボールを回す。ハイポストに立つ天野のボールを渡す。ボールを受けた天野は右45度の位置に立つ大地にボールを回す。ボールを受けた大地はすぐさま逆サイドのスリーポイントラインの外側に立つ生嶋にパスを出す。

 

「…っ」

 

これを見て木下が間髪入れず距離を詰めていく。

 

 

――ボム!!!

 

 

生嶋は迫る木下の足元でワンバウンドさせながら中へとボールを入れる。そこには空が走り込んでいた。

 

「止める!」

 

リングに背中を向けた形でボールを受けると、永野が背中に張り付くようにディフェンスに入った。

 

「…」

 

その時、大地が動く。ボールを直接受け取る為、空の正面からボールを受け取れるようグルっと円を描くように走り、空の下に向かっていく。

 

「(来るか!?)」

 

陽泉の選手達の警戒が大地に集まる。空がボールを右手に乗せて差し出す。ボールは大地の手に収まる……直前に空はボールを引っ込めて逆方向に身体を向けた。

 

『っ!?』

 

その時、陽泉の選手達は気付く。生嶋がスリーポイントラインから少し離れた位置でフリーになっている事に…。

 

「…ちっ、やらせ――っ!?」

 

木下が生嶋の下まで向かおうとするも、阻まれる。

 

「行かせへん…!」

 

そこには、天野がスクリーンをかけていた。陽泉の注目が大地に集まった一瞬の隙を付いて生嶋が天野に合図を出して移動し、それを受け取った天野がスクリーンをかけに向かった。

 

「…ちっ」

 

舌打ちをしながら紫原がヘルプに向かう。幸い、2-1-2ゾーンディフェンスで普段よりポジションを前に取っていた為、すぐさまスリーを打たれたとしても間に合う。

 

 

――ピッ!!!

 

 

空はパスを出した。

 

『っ!?』

 

次の瞬間、陽泉の選手達が目を見開いて驚く。

 

空は生嶋にパスを出すと見せかけ、ノールックビハインドでボールをリング付近に放ったのだ。そこには、先程ボールを受け取らずにそのまま走り込んでいた大地がいた。

 

「…っ!?」

 

生嶋のヘルプに出てしまった紫原は虚を突かれた事もあって対応出来ない。

 

「くそっ!」

 

1番近い場所にいた渡辺がブロックに向かう。

 

 

――バス!!!

 

 

しかし間に合わず。大地は空中でボールを掴み、そのままリングに放った。ボールはバックボードに当たりながらリングを潜り抜けた。

 

『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』

 

再び会場を先程と同等の歓声が上がった。

 

「ディフェンス! 絶対止めるぞ!」

 

『おう!!!』

 

空が声を張り上げながら檄を飛ばす。この時、残り時間21秒。

 

「落ち着いて1本、行くぞ!」

 

再び1点差に詰め寄られるも永野は落ち着いてボールを進めた。

 

「…」

 

陽泉はスリーポイントラインの外側まで引いてボールを回す。とにかくリスクを避け、時間を使って攻めていく。花月は引いた陽泉とローポストに紫原が立っている関係でディフェンスを2-3ゾーンに変えている。

 

『パスで逃げて終わりかよー。男らしくねえぞ!』

 

『勝つ為だってのも分かるけどさ、やっぱ冷めるよなー』

 

引いてボールを回して時間を使う陽泉選手達を見て観客席からブーイングや溜め息に近いものがチラホラ飛び出す。

 

「(…俺達だってこんな事やりたい訳じゃねえ! だけど…)」

 

「(神城と綾瀬のプレッシャーがきつすぎて中にボールが出せないんだよ!)」

 

ブーイングが耳に入った陽泉の選手達は心中で反論する。

 

陽泉も当初、時間をかけつつもチャンスがあれば点を取ってトドメを刺しに行くつもりだった。だが、それが出来ない。それどころかまともに中にボールが出せないでいた。その原因は、空と大地にあった。

 

現在、花月のディフェンスは2-3ゾーン.前に空と大地が立っているのだが、ゾーンに入った2人のディフェンスエリアが広すぎるせいで迂闊に切り込む事はおろか中へのパスもスティールされるリスクが大き過ぎて出せないのだ。

 

「それでいい。焦って迂闊なパスを出すな。ここは我慢だ。一番焦っているのは相手なのだからな」

 

胸の前で腕を組みながら荒木はコートを見つめている。

 

「(…くっ! ここまで引かれては…!)」

 

何としてでもボールを奪いたい大地だったが、陽泉は外でボールを回し続けている為、チャンスがない。

 

「(中に紫原だけ残っとるから完全にはガンガン出られへん!)」

 

天野は心中で焦り露にする。中で紫原にボールを掴まれたら現状メンバーで止める術がない。つまりは紫原にボールを掴まれたらその時点で敗北は確定する。その為、花月は紫原の警戒を解けない為、積極的に外にプレッシャーをかけれない。

 

残り時間10秒…。試合終了時間は刻一刻と迫ってきている。

 

「キャプテン!」

 

渡辺がボールを永野に渡す。

 

「(時間がねえ! もう行くしかねえ、取る!)」

 

ここで空が前に出て永野に激しいプレッシャーをかける。

 

「そう来るのを待ってたぜ!」

 

永野は空が前に出たのを捉えた瞬間、右アウトサイドに立っていたアンリに高いパスを出した。

 

「ナイス! アツシ!」

 

ジャンプして高い位置でアンリはボールを両手で掴み、掴んだと同時に中の紫原の頭上にボールを両手で放った。

 

「…よし!」

 

アンリと同じく紫原はジャンプしてボールを掴んだ。

 

『最悪だ! その位置でボールを掴まれた!』

 

観客からも悲鳴に近い声が響く。

 

空が外に出た事により中でのスティールのリスクが減った為、永野は仕掛けた。インサイドでポジション取りをした紫原を止めるのは至難の業。その紫原にボールを渡す為、永野から渡辺…あるいはアンリからの空中からのパス回しはこのインターハイを優勝する為に用意したオフェンスプランの1つだった。

 

「…ぐっ! くそっ…!」

 

「あかん…!」

 

背中でゴール下まで押し込む紫原。背中で侵入を阻止しようとする松永と天野だったが全く歯が立たない。

 

「決めろ!」

 

『叩き込め!』

 

荒木、そして陽泉の選手達が期待の声を上げる。

 

「これで…、トドメだ!」

 

ゴール下まで侵入した紫原はボールを掴んで回転を始める。

 

紫原の規格外のパワーに回転力が加わる必殺のダンク。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――破壊の鉄槌(トールハンマー)!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりトドメはそれで刺しに来ましたね。良かったです。あなたがそれを選んでくれて…」

 

「…なっ!?」

 

次の瞬間、紫原の表情が驚愕に染まる。

 

回転を始めた瞬間、紫原の持つボールを目掛けて大地の手がグングン迫っていたのだ。

 

「あなたのそのダンクは撃たれれば私達では如何なる策を巡らせようと止める手立てはありません。…ですが、止める事は出来ずともボールを奪う事は出来ます」

 

「…っ!?」

 

「そのダンクは飛ぶ直前の回転をし始める瞬間にボールが無防備になる瞬間がある。そこを付けばボールは奪える!」

 

 

――バチィィィッ!!!

 

 

大地の手が紫原の持つボールを弾き飛ばした。

 

「馬鹿な! 隙などほんの一瞬だ。そんなもの、完全にタイミングを読み切らなければ不可能だ!」

 

有効であってもそれを実行するのは困難であると永野が声を上げる。

 

「読んだのではありません。賭けたのですよ!」

 

大地は決してタイミングを読んでいた訳ではない。紫原がゴール下に押し込んだタイミングでトールハンマーを選択してくると賭けただけなのである。そしてその賭けは成功した。

 

ボールが転々と転がっていく。転がったボールをサイドラインを割ろうとしている。

 

「(…くっ! この距離では追い付けない! しかし、ここでボールを奪えなければ時間もチャンスももうありません!)」

 

ボールがラインを割れば陽泉ボール。残り時間を考えてチャンスはもうない。

 

サイドライン手前でボールが跳ね、ラインを越える。

 

「(…っ! ダメだ、届かな――)」

 

大地が諦めかけたその時、ボールに1人の影が飛び付いた。

 

「…空!」

 

空が誰よりも早くルーズボールに反応し、ボールを追いかけていたのだ。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

ボールがコートの外でバウンドする直前に空はボールを叩き、コートの内側へと戻した。

 

 

――ガッシャァァァァッ!!!

 

 

勢い余った空は陽泉ベンチに激突した。

 

「空ぁっ!!!」

 

そのまま動かなくなった空を見て思わず声を上げる大地。そして、空が必死の思いでコートへと戻したボールを掴む。

 

「(…あなたはそうまでして私に…!)…っ!」

 

ボールを掴んだ大地はそのまま速攻をかけた。この時、残り時間4秒。

 

「これを決められなければ私は花月のエースを……あなたの相棒は名乗れません! 絶対に決めます!」

 

涙を堪えた大地は決死の覚悟でドリブルで突き進む。

 

「行け、綾瀬!」

 

「決めてまえっ!!!」

 

それを見た松永と天野がその背中に思いを託すように檄を飛ばす。

 

「くそっ!」

 

速攻をかけた大地の前に永野が立ち塞がる。

 

 

――ダムッ!!!

 

 

大地は永野の目前まで進んだところで反転。バックロールターンで永野をかわした。

 

『いっけぇぇぇぇぇっ!!!』

 

永野をかわして目の前に障害となるものはない。リングまで無人の荒野となった事で花月ベンチの選手達が声を上げる。

 

「…ハァ…ハァ…!」

 

リングに向かって真っすぐ突き進む大地。その時…。

 

「っ!?」

 

大地の目の前に1つの大きな影が現れ、その進攻を阻んだ。

 

「よく追い付いた紫原!」

 

思わず声を上げるベンチの荒木。

 

紫原がスリーポイントラインを越えた所で追いつき、大地に立ち塞がった。

 

「これ以上負けはいらない。絶対に止める!」

 

勝利への執念が込められた表情で紫原が叫ぶ。

 

「(…くっ! どうする…!?)」

 

この時点で残り時間は1秒しかなく、味方のフォローを待ってる時間もなく、揺さぶりをかけて紫原をかわす時間もない。

 

「(やるしかない!)」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

意を決した大地はクロスオーバーで仕掛ける。しかし、紫原はこれに難なく対応し、大地の進路を塞ぐ。

 

「(…っ! 分かっています。この程度ではあなたはかわせない!)」

 

大地が歯をきつく食い縛る。

 

「(…紫原さんをかわすには反応する事も触れる事も出来ない程の速さで仕掛けるしかない! …力を貸してください。この一瞬だけでいい。空、あなたの力を今この一瞬だけ私に!)」

 

ボールが収まる大地の左手に力が込められる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――行け、相棒!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、幻聴か空耳か、大地の一番の親友であり、相棒の声が耳に入り、その左手にもう1本の手が添えられたような感覚があった。

 

「おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

 

――ダムッ!!!

 

 

渾身の力を込めてさらにクロスオーバーで切り返した。

 

「っ!?」

 

体重が右足に乗っていた紫原は僅かに反応が遅れてしまう。

 

『抜いたぁぁぁぁっ!!!』

 

観客から大歓声が上がる。

 

残り時間0.6秒。大地が紫原を抜いた。

 

『決めろぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』

 

花月の選手達が全ての思いを込めて叫ぶ。

 

ボールを掴んだ大地は跳躍した。

 

「(ふざけんな! 何の為にやりたくもないトレーニングをやってきた!? 勝つ為だ!)」

 

紫原はここで走馬灯のように思い出す。陽泉高校に入学してから歩んできた自身の道程を…。

 

一昨年のウィンターカップ、最後の最後で足が動かず、黒子テツヤにブロックされて負けた。

 

昨年のインターハイ、強大な新戦力を率いて新たに現れた花月を相手に奮闘したが、最後までもたせる事が出来ず、負けた。ウィンターカップは、悲願を果たす為に猛練習をした結果、ウィンターカップで夏に痛めた膝の怪我が再発。怪我を推して試合に出るも最後までもたず、ベンチに下がり、そして負けた。

 

「(もう負けたくはない! 俺の最後の夏をこんな所で終わらせる訳にはいかないんだよ!!!)」

 

体重が乗った足を強引に力を込める。

 

「(まだ動く! 俺の足も身体もまだまだ動く! 絶対に勝つんだ!!!)…おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

渾身の咆哮と共に紫原は反転してリングに向かって飛び、ブロックに飛んだ。

 

「…なっ!?」

 

次の瞬間、紫原は目を見開きながら驚愕した。紫原の飛んだ先に大地の姿がなかったからだ。

 

「っ!?」

 

紫原が振り返ると、そこには、リングにではなく、後ろへと飛んでいた大地の姿があった。

 

「(あの勢いを一瞬で殺した上に後ろに飛んだだと!?)」

 

これには紫原もその目で見ても信じる事は出来なかった。

 

紫原が対応出来ない程の高速のクロスオーバー。スピードが乗ったその勢いを止めるだけでも足にかかる負担は大きい。さらに後ろに飛ぶとなるとさらに足にかかる負担は大きくなる。

 

リングに向かって飛ぶと思っていた紫原は完全に裏をかかれた。紫原と言えど、空中で方向転換する事は出来ない。

 

シュート態勢に入る大地。

 

「ウォォォォォーーーッ!!!」

 

そこに、後ろから追いついたアンリが大地の後ろから手を伸ばし、シュートを阻もうとする。アンリがボールに触れるよりも速く大地はボールをリリースした。

 

 

『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

大地がボールから指が放れるのとほぼ同時に試合終了のブザーが鳴った。

 

『…っ!?』

 

放たれたボールの行く先にコート上の選手達、ベンチの選手達、そして、会場の観客の注目が集まった。

 

ボールは弧を描いてリングに向かっていき、そして…。

 

 

――ザシュッ!!!

 

 

ボールはリングの中心を射抜いた。

 

 

『ピーーーーーーーーー!!!』

 

 

審判が長い笛を吹いた。

 

『…っ』

 

次に注目が審判に集まる。

 

大地がボールをリリースしたタイミングとブザーが鳴ったタイミングはほぼ同時。ブザービーターか否か、その判定に注目が集まる。

 

審判は笛を口から放し、右手を上げ、指を2本立て、そして降ろした。

 

この瞬間、この大激闘は終了を迎えたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 





終わったー!!!

当初、やべー、この試合スゲー短くなりそう! と、思っていましたが、気が付けば11話。話数も1話1話のボリューム過去最高となってました…(;^ω^)

完璧には程遠く、内容も薄く、キャラもバスケもろくに書けてないとは思いますが、とりあえず、当初に構想していた展開どおりに話は進ませ、終わらせる事が出来ました。

とにかく終わらせられて良かった!

…さて、ここからですね…(;^ω^)

一応のこの先の大雑把な展開は決めているのですが、大まかな内容はまだ決まっていない状況です。内容が薄かったり、更新が遅れるかもしれませんが、長い目で見守っていて下さい…m(_ _)m

感想アドバイスお待ちしております。

それではまた!

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