投稿します!
本年度初のこの二次の投稿です…(^-^)
それではどうぞ!
第4Q、残り7分37秒。
花月 76
陽泉 83
ゾーンに入った大地の奮闘で点差を7点にまで縮める事に成功した花月。ターンオーバーからさらに点差を詰めようとしたその時、ゾーンに入った紫原にブロックされた。
ここで陽泉のタイムアウトがかかり、試合は1度中断された。そして、タイムアウトを終えた両校の選手達がコートへと戻ってきた。
『来た!!!』
試合はクライマックスに突入しており、会場のボルテージも最高潮である。
「綾瀬先輩!」
審判からボールを受け取った竜崎が大地にボールを渡す。
「っ!? …そう来ましたか」
スリーポイントラインの外側でボールを受け取った大地。その大地の目の前に…。
「もうお前には何もさせないよ」
紫原が立っていた。
ゴール下の要である紫原がゴール下を離れ、大地にマンツーマンでマークに付いている。他の4人はゾーンディフェンスを組み、陽泉はボックスワンにディフェンスを切り替えた。
「…」
「…」
ゆっくりドリブルをしてチャンスを窺う大地。紫原も腰を落とし、全神経を集中させてディフェンスに臨んでいる。
――ダムッ…ダムッ…ダムッ!!!
バックチェンジで左へ切り返す。紫原もこれに対応。大地の進路を塞ぐ。
――ダムッ!!!
同時にクロスオーバーで逆を付き、紫原の左手側から駆け抜けていく。
『抜いたか!?』
「っ! この程度で!」
即座に紫原は反応し、大地に並走しながら追いかける。
――キュッ!!! …ダムッ!!!
並ばれるのと同時に大地は急停止、すぐさまバックステップをして紫原と距離を空け、シュート態勢に入る。
「…くっ! 何度も…!」
紫原もこれに反応して距離を詰めてブロックに向かう。
――ザシュッ!!!
迫る紫原のブロックをフェイダウェイで後ろに飛びながらシュートを放ち、ブロックをかわしながら決めた。
「よし!」
得点を決めた大地は拳を握りながら喜びを露にする。
タイムアウト終了直後のオフェンスをものにした花月。続いて、陽泉のオフェンス。
『なっ、これは!?』
その光景を見て観客がどよめく。
ボールを持つのは紫原。だが、ゴール下ではなく、ゴール下から離れ、スリーポイントラインの外側まで移動した所でボールを所持している。
「…紫原に全て託すつもりか」
隣の相手ベンチに座る荒木に視線を向けながら呟く上杉。
「うち(陽泉)の柱は紫原だ。本気になったあいつに勝てる者はこのコート上…いや、今の高校生にはいない。そう信じている」
絶対的な紫原への信頼を寄せる荒木。故に、荒木は試合の命運を紫原に託したのだ。
「止めてみせます」
紫原の前に立ちはだかったのは大地。静かに気合いを込めてディフェンスに付いた。
「エース対決か…」
対峙する2人を見て火神がボソリと呟いた。
「…」
「…」
対峙する2人。
――ダムッ!!!
紫原が一気に加速。クロスオーバーで切り込む。
「…っ!」
タイミングを読み切った大地は同時に動き、紫原と並走する。
――ダムッ!!!
バックロールターンで紫原が反転。大地の逆を付いた。直後、紫原がボールを右手で掴んでリングに向かって跳躍した。
――バキャァァァッ!!!
「…くっ!」
大地もブロックに飛ぶも、ブロックの上から紫原はボールをリングに叩きつけた。
「っしゃぁっ!」
大地に誇示するようにガッツポーズをする紫原。
「…っ」
そんな紫原を見て大地は悔しさを露にする。
変わって花月のオフェンス。リスタートするとすぐさま大地にボールを渡した。
――ダムッ!!!
フロントコートまでボールを進め、紫原が立ち塞がるのと同時に大地は間髪入れずにすぐさま切り込んだ。
「…っ!」
僅かに意表を突かれるも、持ち前の反射神経ですぐさま反応し、大地を追いかける紫原。
――キュッ!!!
直後、大地は急停止する。その後、大地は重心を後方へと下げた。
「(下がるのか!?)」
重心が下がった事を見極めた紫原はバックステップを警戒する。
――ダムッ!!!
しかし、大地は下がらず、ロッカーモーションで下がるフェイクを入れて再加速。紫原をかわして中に切り込んだ。
「止めろ!」
永野が声出す。中で待ち構えているのは4人が集まったゾーンディフェンス。
「止められなくてもいい! 紫原が戻る時間を稼げ!」
ベンチから荒木が指示を出した。
「…」
待ち受ける4人のディフェンス。時間を稼がれれば紫原がディフェンスにやってきて得点チャンスを潰されてしまう。紫原を止める事が容易でない今、1本の取りこぼしが命取りになりかねない。
「…っ!」
意を決して大地はボールを抱えるように掴むと、大きくかつジグザグに動き、ゾーンディフェンスの隙間を縫うようにステップを踏んだ。
――バス!!!
1歩目でゾーンディフェンスの中心に入り込み、2歩目で駆け抜け、やや不安定な態勢ながらもリングに背を向けながら、リバースレイアップの形で得点を決めた。
『スゲー!!!』
『紫原をかわしたのもスゲーけど、その後のもスゲー! 何だ今の!?』
大地の見せたテクニックに観客は騒めいていた。
『…っ』
止める事はおろか紫原が戻る時間すら稼げなかった事に陽泉の4人は表情を歪めたのだった。
「あの不規則なのステップは…」
「ユーロステップだ」
思わず言葉が出た朝日奈、池永が答えるように口を出す。
「ジノビリがNBAで使った事で有名になった独特のステップだ。俺も紅白戦で火神を相手にする時に良く使う」
「ジノビリステップか。珍しくお前が猛練習して身に着けた奴だな」
「うるせーよ」
軽く茶々を入れる新海に対し、少し顔を赤らめながら突っ込み入れる池永。
「あいつ、あんなのも出来たんだな」
「少なくとも俺は初めて見るよ。どっちかと言うと、あの手のプレーは神城がやりそうなプレーだったんだけどな」
かつてのチームメイトである田仲も初見であり、イメージのない大地のプレーに面を食らっていた。
「咄嗟の思い付きでやったんだとしたら、あいつのセンスも計り知れねえな…」
改めて大地を見た火神は大地のセンスの高さに驚愕したのだった。
気落ちするも、すぐさまオフェンスに気持ちを切り替えた陽泉。迷わずボールを紫原に渡した。
――ダムッ!!!
レッグスルーからのクロスオーバーで切り込んだ紫原。
「…ぐっ!」
体格差と長い手足を生かして強引に中へと切り込み…。
――バキャァァァッ!!!
大地を押し込みながらそのままワンハンドダンクを決めた。
「(…っ、中に入られたら私では止められない。その前に止めなければ…!)」
高さとパワーで大きく劣る大地ではインサイドで紫原と戦うのは分が悪すぎる為、中に切り込まれる前が勝敗を握る鍵だと判断した。
――ダムッ!!!
花月のオフェンスとなり、切り込んだと同時に急停止からのバックステップで大地と紫原の間にスペースを作り、大地はミドルシュートを放った。
――ザシュッ!!!
ボールはリングに中心を潜り抜けた。
「(…ちぃっ! 左右はともかく、高速で前後の揺さぶりがマジで厄介だ!)」
未だかつて味わった事のない高速での前後の切り返しで紫原は翻弄されていた。
試合は大地と紫原による戦いへと移行した。
――ザシュッ!!!
大地が紫原をかわして決めれば…。
――バキャァァァッ!!!
紫原が身体能力を生かして得点を決める。
試合の行方は、両校のエースに手に委ねられていた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「こうなってしまったわね。キセキの世代を擁するチーム同士がぶつかり合うと必ずこういう展開になると言われているけど、キセキの世代と同格の素質を持つ綾瀬君が相手なら同様の展開になってしまうのは必然だわ」
10年に1人の才能を持つキセキの世代の紫原。同等の才能を有する大地。互いがゾーンに入った今、この2人以外の選択肢はリスクしかない。故に、両校とも試合をエースに委ねる展開となった。
「…信じられねえ、あいつ(大地)、紫原先輩と互角にやり合ってやがる…!」
1歩も引かず、紫原と互角に渡り合っている大地を見て池永は驚愕する。
「…目の前で起こっているにも関わらず信じられないな。同じゾーンに入った者同士なら、紫原に分があると思ったんだが」
「確かに、本来、ゾーンに入った紫原を相手に対等に渡り合うのは同じゾーンに入った者でも至難の業だ。綾瀬大地がここまで渡り合えているのにはいくつか要因がある」
2人の対決を見て疑問を抱いた四条に応えるように赤司が解説をする。
「身体能力が勝敗を分ける大きな要因となるゴール下の攻防なら、圧倒的な身体能力と反射神経を持つ紫原に軍配が上がるだろうが、だが、リングから距離が離れた1ON1ならば話が変わってくる」
「…」
「平面での1ON1では、身体能力だけではなく、テクニックや駆け引きも重要だ。ゴール下が主戦場の紫原はあの距離に立つ経験はそこまで多くない。テクニックはセンスでカバー出来ても、駆け引きに関しては経験を重ねる事でしか磨かれる事はない。あの場所での勝負なら、普段からあの距離で戦っている綾瀬に軍配が上がるだろう」
「…」
「後はあの前後の切り返しだ。さっきも少し触れたが、あんな高速で前後に切り返しが出来る者などまずいない。左右と違って前後となると僅かな間となれど綾瀬の姿が視界から消える瞬間がある。姿が見えなければ紫原が如何に驚異的な反射神経を持っていても生かしきれない。常に後手に回ることとなる。そうなると、読みや駆け引きが苦手な紫原では止める事は困難だ」
「なるほど…」
赤司の説明を聞いて納得する四条。
「だが、2人の間に高さとパワーの面で大きなミスマッチがある事も事実。綾瀬はオフェンスでは僅かでも動きが鈍れば止められてしまうし、ディフェンスでは中に切り込まれてしまえば止める手立てはない」
「…」
「試合の流れは今や拮抗している。恐らく、先に止めた方に流れが傾くだろう」
「…なら、紫原が有利だな。高さとパワーの差はどうにもならないが、前後の揺さぶりに関して言えば、その内慣れてくる。そうなれば、紫原の身体能力がモノを言うはずだ」
話を聞いていた五河が紫原勝利を断言する。
「確かに、2人のスペックだけ見れば、紫原が優勢だろう。しかし、話はそう簡単ではない。何故なら――」
「――あいつには外があるからだ」
場所か変わって桐皇の選手達が集まる観客席。
「あいつはこの対決が始まる前に3本のスリーを見せてる。しかも、その内2本はかなり後ろからのスリーだ。紫原の頭にはあのスリーがこびり付いている。対して、紫原には外がねえ。万が一スリーを決められれば点差は縮まる。だから紫原は止めきれねえ」
青峰がコートに視線を向けながら解説をする。
「けどよ、2メートル離れてのスリーはさすがにハッタリだろ。あんなの何本も決められるわけ…」
「いや、あいつは決めてくる。…駆け引きにも好みがある。仮に神城なら博打やハッタリを打って狙って出来ねえ事をさもいつでも出来るかのように見せてくるかもしれねえが、あいつはリスクを犯してまでやるタイプじゃねえ。さっきのスリーも、目的はゾーンディフェンスのスペースを広げさせる事なんだろうが、スリーに関して言えば、決められる自信があったから打ったんだろうよ」
「マジかよ…」
青峰の解説を聞いて福山は思わず驚愕する。
「ここまでも、あいつは隙あらばスリーを打とうとはしてからな。外を意識させてあの前後の動きで揺さぶられれば、紫原と言えど止める事は至難の業だ」
「…この勝負、どうなりますかね?」
結果が見えない試合に桜井が尋ねる。
「…」
青峰は答える事なく、コート上の試合の行方を見続けたのだった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
ボールを受け取った大地はフロントコートまでボールを運ぶ。当然、目の前には紫原が立ち塞がる。
「…」
「…」
まだフロントコートに入ったばかりだが、紫原はスリーポイントラインのやや内側でディフェンスをしている。
「……随分と距離を取っているようですが、良いのですか? そんなに距離を取っては私がここから打てばブロックに間に合いませんよ?」
含みを持った笑みを浮かべながら紫原に告げる大地。
「打ちたければ打ったらー? どうせ決めらんないでしょ?」
対して紫原は動じる事無く淡々と返した。
大地の現在立っている場所はスリーポイントラインから3メートルも離れている。先程2メートル程離れた所から決めた手前、決めてきそうなものだが、いくらゾーンに入っていると言ってもその距離では緑間のような特殊な才能がなければ決める事は至難の業。
「決められる自信があるならとっくに打ってるはずだろ? そうしないって事がお前がその距離では決められないっていう証拠――」
「――では遠慮なく」
言葉の途中で大地はその場からシュートを放った。
『なっ!?』
その瞬間、コート上の選手及び両校のベンチの選手達、さらには観客席の者達全員がその行動に驚愕した。
「…はっ?」
それは紫原も同様であった。
「(嘘…だろ!? その距離からでも決められるのか!?)」
まさかのスリーに紫原は茫然とボールを見送る。
――ダッ!!!
次の瞬間、紫原の横を大地が高速で駆け抜けていった。
「っ!? そういう事かよ!」
すぐさま大地の行動の真意に気付いた紫原は慌てて大地を追いかけた。
――ガン!!!
ボールはリングに弾かれてしまう。
『外れた!?』
「っ!? 外れた! リバウンドだ!」
弾かれたボールを見て永野が声を出す。それに呼応してアンリと渡辺がリバウンドの態勢に入る。
――バキャァァァッ!!!
『なっ!?』
その直後、大地が弾かれたボールを右手でリングに叩きこんだ。
『うおぉぉぉぉぉっ! 自ら押し込んだぁぁぁぁっ!!!』
「…っ! 綾瀬ぇっ…!」
「…ふぅ、さすがにあの距離を決めるのは簡単ではないですね」
一足遅くやってきた紫原が大地を睨み付けると、大地はコートに着地し、一息吐きながら自嘲気味に言った。
スリーが決まればそれでよし。決まらなければ自らが押し込む。それが大地の狙いであった。2度も通じない戦法ではあるが、最初1回目だけに関しては高確率で成功する確信があった大地がとった大胆な作戦であった。
「昔、どっかの誰かさんが一時使っていた技ね」
「…さすがに俺でもこの局面では使う気にはならないっスよ。不意を突いたから上手く行ったが、もししくじれば流れを持っていかれるってのに。…あいつ、なんて度胸してやがる…」
からかうように言うリコに、火神は戸惑いながら返したのだった。
――ダムッ…ダムッ…。
ボールを受け取った紫原がゆっくりドリブルを始める。
――ダムッ!!!
数度ボールを突いた所で紫原が発進。スリーポイントラインを沿うようにドリブルで突き進む。
――キュッ!!! …ダムッ!!!
左45度の地点から右45度地点まで進み、急停止。そこからクロスオーバーで切り返し、中へとカットインした。
「…っ!」
急停止とクロスオーバーの両方に対応する大地。中へ切り込む紫原を並走しながら追いかける。
「…ぐっ!」
中へ切り込むと体格差を生かして強引に突き進む紫原。大地は何とか止めようとするもそのパワーの差によって止めきれない。
フリースローラインを越えた所で紫原がボールを掴んだ。
「…っ! まだです!」
――ポン…。
強引に伸ばした大地の指がボールに触れる。ボールが紫原の手から零れる。
『ついに綾瀬が紫原を止めたぁっ!!!』
「ルーズボールを拾え!」
すぐさま松永が声を出す。
「…っ! 舐めんなぁっ!!!」
紫原は持ち前の反射神経で即座に反応し、零れたボールに左手を伸ばしてボールを掴み取った。
――バキャァァァッ!!!
そのまま跳躍してボールをリングに叩きこんだ。
『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
『チャージドタイムアウト、花月!』
ここで、花月のタイムアウトがコールされた。選手達は、各々のベンチへと戻っていった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
第4Q、残り3分48秒
花月 84
陽泉 91
花月ベンチ…。
「全員、ゆっくり呼吸を整えろ。栄養補給と水分補給も忘れるな!」
ベンチに座る選手達に指示を出すと、姫川と相川がタオルとドリンクを配り、栄養補給の為のはちみつレモンが入ったタッパーを選手達の前に差し出していく。
『ハァ…ハァ…!』
試合は第4Qの終盤。ここまで激闘を繰り広げてきた事もあり、選手達の疲労も激しい。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…!」
その中でもひと際息を乱しているのは大地だった。
「…監督、自分に何か出来る事はありませんか?」
誰もが呼吸を整えている中、室井が上杉に尋ねる。
「このままでは綾瀬先輩の負担が大き過ぎます。何か、少しでも綾瀬先輩の負担が減らせるように――」
「――綾瀬の邪魔をしない事と邪魔を入れさせない事。これが今のお前に出来る最善の事だ」
尋ねられた上杉は視線を向けながらそう指示を出した。
「監督!」
指示に納得がいかなかった上杉に食って掛かろうとする。そんな室井の肩に天野が手を置く。
「気持ちはよー分かる。せやけど、それが今出来る事なんや」
窘めるように天野が室井に言い聞かす。
「皆同じ気持ちや」
「…っ」
その時、肩に置かれた手に力が籠る。
大地1人に負担が掛かっている事は全員承知の事である。誰もが何とかしたい。だが、ここで下手に手を出せば手助けどころか足を引っ張る結果になりかねない。大地と紫原の戦いはもはや別次元のレベルとなっており、同じ領域の者でなければ割って入る事は許されない。それが分かっているから誰しもが手出し出来ない。
『ビーーーーーーーーーーーーーー!!!』
ここで、タイムアウト終了のブザーが鳴った。
「ありがとうございます。室井さん。そのお言葉だけでも力が湧いてきます」
頭からかぶっていたタオルを取りながら立ち上がった大地は室井に感謝の言葉を贈った。
「さあ、後もう少しです。絶対に勝ちましょう!」
笑顔で鼓舞をする大地。
「せやで。背中は見えとるんや。追い付き追い越しや!」
大地の言葉に続くように天野が言った。
「気持ちで負けるな。死に物狂いで戦い、そして勝ってこい!」
『はい!!!』
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
試合は花月ボールで再開される。
――ザシュッ!!!
大地が紫原をかわし、得点を決め、点差を5点差にした。
――バキャァァァッ!!!
ゴール下に切り込んだ紫原が大地の上からリングにボールを叩きつけ、7点差に戻した。
試合が開始されると再び大地と紫原の一騎討ちの様相となった。その後も互いに1本ずつ決め、点差は変わらず5~7点差を行き来した。
「…っ!」
――ダムッ!!!
前後の揺さぶりを入れず、大地は真っすぐドライブで切り込んだ。
「…ぐっ!」
――バキャァァァッ!!!
紫原を抜き去った大地はそのままリングにボールを叩きつけた。
「よし!」
拳を握って喜びを露にする。
「(…チラッ)」
横目で残り時間を確認する大地。
「(…あまり時間もありません。そろそろ仕掛けましょう)」
そう決意した大地の瞳に力が籠ったのだった。
第4Q、残り2分41秒
花月 88
陽泉 93
「…」
「…」
ボールをキープする紫原。目の前に立つのは大地。
――ダムッ…ダムッ!!!
スピードとキレのあるクロスオーバーで紫原が仕掛ける。大地もこれに対応する。
――ダムッ!!!
直後、さらにクロスオーバーで反対側に切り返した。
『抜いたぁぁぁぁっ!!!』
大地を抜いた紫原はボールを掴んでリングに向かって跳躍する。
――バキャァァァッ!!!
そのままボールをリングに叩きつけた。
『おぉぉぉぉぉーーーーっ!!!』
会場中が歓声に包まれる。
『ピピピピッ!!!』
その時、審判が激しく笛を吹いた。
『オフェンスチャージング、白6番!』
審判はオフェンスファールをコールした。
『なっ!?』
これには陽泉の選手達だけではなく、観客も言葉を失っていた。
「はぁっ!? 何で――っ!?」
判定に納得が出来ない紫原だったが、ここである事に気付いた。
「……ふぅ」
コートに座り込みながら一息吐く大地。
抜かれるのと同時に後ろへ尻餅をつくように倒れた大地。僅かに身体も接触していたので審判はオフェンスファールをコールした。
「(ちょっと触れただけなのにこいつ…!)…ちっ、狡い真似してくれるじゃん」
苛立った表情で座り込む大地に手を差し出す。
「そう言わないで下さい。こっちもそれだけ必死なんですよ」
そう返し、その手を取って立ち上がった。
大地にしても賭けであった。これまで見てきた紫原の動くと審判の位置を図ってのファール。しくじればみすみす1本決められる事になるからだ。
ノーカウントで終わった陽泉オフェンス。これにより、第4Q途中から膠着していた試合に変化が訪れることとなった。
「…」
「…」
対峙する大地と紫原。
この1本、決めれば点差が3点となり、スリー1本分。花月が流れを掴む事になる。止めれば再び先程までの膠着状態に。花月からすれば是非ともものしたい1本であり、陽泉からすれば何としても止めたい1本である。
「…っ」
――ダムッ!!!
クロスオーバーで右から左へ切り返し、中へとカットイン。直後、ボールを掴んで斜め後ろへとステップを踏み、後ろに飛びながらシュート態勢に入った。
『ステップバックからのフェイダウェイシュート!?』
「…っ! ざっけんな!」
クロスオーバーに対応し、そこからのステップバックフェイダウェイシュートにブロックに向かう紫原。しかし、ボールはリングへと向かって行った。
『入れー!!!』
放たれたボールに願いを込める花月の選手達。
――ザシュッ!!!
ボールはリングを潜り抜けた。
『キタァァァァァァッ!!!』
5点差と7点差を切り返してきた均衡が遂に崩れた。
「遂に均衡が崩れた!」
「流れが変わる…!」
洛山の四条と五河が目を見開きながらコート上を見つめる。
「…あぁ、だが――」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
陽泉がリスタートし、ボールが紫原に渡される。
「ハァ…ハァ…」
肩で大きく息をする大地。
――ダムッ!!!
紫原が仕掛ける。
「…っ!?」
即座に対応しようとした大地だったが、追いかけようとした瞬間、膝から力が抜け、その場で膝を付いてしまう。
――バキャァァァッ!!!
紫原はそのままボールをリングに叩きつけた。
「ようやく限界が来たか。よくここまで持たせたものだ」
陽泉ベンチの荒木が横目で視線を向けながら言った。
「何だ? 何処か様子が……っ!? まさか!?」
観客席の田仲がその場で膝を付いたまま動かない大地を見て異変に気付いた。
「遂に限界が来てしまったわね」
コート上の大地の身体の数値を見たリコが断言する。
「第3Qの終盤からここまでずっとゾーンに入って、しかもあの紫原とマッチアップしてきたんだ。それがなくてもあいつはここまで攻守で走り続けていたんだ。むしろ、ここまでもっただけでも大した奴だよ」
ゾーンに入った経験のある火神がここまでの大地を称えた。
「先に止めた方に流れが傾く。事実、流れは花月に傾いただろう。…だが、残り2分。最後まで綾瀬が持たなかった…」
淡々と実情を語る赤司。
「これでこの試合の結果は決まった」
『ハァ…ハァ…!』
残り2分。押し寄せる絶望を何とか押し込もうとするコート上の花月の選手達。
「ハァ…ハァ…! ま、まだ…です。…っ!」
膝に手を置き、何とか立ち上がろうとする大地。
「(まだ…、諦める訳には…行かない…! 試合に……勝つまでは…)」
再び試合に臨もうと全身から力を振り絞る。
『ビビーーーーーーーーーーーーー!!!』
「メンバーチェンジ! 緑(花月)!!!」
その時、花月のメンバーチェンジがコールされる。交代をコールされたのは6番の大地。
「っ!? 待って…下さい。…私は…まだ…!」
交代を告げられても交代を受け入れられず、拒否をする大地。
――下がる訳にはいかない。逆転して試合を終えるまでは…。
「おらおら! いつまでそうやって駄々こねてるつもりだ!」
その時、大地の耳にとても聞き慣れた声が聞こえ、コート上に響き渡った。
「…っ!?」
大地は慌ててその声が聞こえてきた方へ振り返った。そこには…。
「…ハハッ、ハハッ!」
その声の主の姿を目の当たりにした大地の顔から思わず笑みが溢れた。
そこには、大地が…、皆が待ち望んだ…。4番の背番号を着けた男が立っていた……。
続く
本当は先週投稿するつもりだったんですが、まさかのインフルエンザに感染し、寝込んでました…(>_<)
いやー、ホントきつかった。小学生の時以来でしたが、約2日間熱が39度台から下がらず、死ぬかと思いました。皆さんも風邪やインフルエンザには気をつけてください…m(_ _)m
感想アドバイスお待ちしております。
それではまた!