短いですが、少しずつ投稿します。
第三層のボスのゴブリンリーダー達はさっくり殺した。
三層のボスは、ゴブリンリーダーとゴブリン達で、モンスターが初めて連携してくるという話だったのだが、遠い間合いで銃で撃ち殺す分には連携もクソもなかった。あー、一応連携らしい行動といえば、ゴブリンリーダーが倒れた他のゴブリンを盾にしようとしたが、すぐに魔化して消えたので盾にならなかったという悲しい場面があったぐらいか。
「ゴブリンは犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな……」
「ダンナさん、何アホな事言ってるんですか」
ドロップアイテムとしておにぎりとポーションが出たので、ボス部屋で小休止をとる事にした。
ミユミさんは飲食に躊躇っていたけど、意を決してせいやっと気合を入れておにぎりにかぶりついた。が、まだゴブリンの呪いが継続していたようで悶絶していた。
「一気にかぶりつかずに、少し齧って確かめればよかったのに……」
「あああああ、ああ、ああぁぁ……」
という訳で第四層だ。死んだ魚の目の豚鼻ハーフエルフがタップ撃ちで出てきたゴブリンをひたすら殺していく。
口の中がゴブリン味なのは、ゴブリンに齧り付いたミユミさんの自業自得だと思うのだが、今はゴブリンを見たくもないらしい。
「あれ?」
そうして暫く進んでいると、不意にミユミさんが立ち止まり、眉間に皺を寄せてうーんうーんと唸り始めた。……前からゴブリンが来ているのだが良いのだろうか。
「ダンナさん、あの……」
凄い躊躇いがちに伺ってくるミユミさんに、不安がせり上げてくる。ミユミさんがこんな風になるなんて、きっと槍でも降るに違いない。
そんな俺の内心を他所に、ミユミさんは前方のゴブリンを指さした。
「あのゴブリン、なんか美味しそうじゃないですか?」
「」
ああ、ゴブリン肉で頭が……。
「ちが、違うんです! 考えてる事はすごい分かりますけど! ほら、ダンナさんも何か感じませんか!?」
「えぇ……」
改めてゴブリンを見ると、一層のゴブリンに比べると肉付きがよく、力があるように見える。武器も剣を持っていて……。
「爪が、凄い手入れしてある!?」
「何見てるんですか!? え、嘘、ほんとうに凄いキレイですね! 女子力高そう!?」
「メスなの!?」
「いや、見分け方とか知りませんけど」
もうなんなの。どうでもいいのに、ちょっとした発見で凄いテンション上がってるんだけど。すっごい心の底からどうでもいいのに。
「えぇ……本当に何も感じませんか? 爪以外で」
爪以外と言われても、もうそこに目がいって仕方ない。肉付きがいいといっても、力があるんだろうなといった感じで、ゴブリンはゴブリンだ。
「俺はおにぎりとかポーションとか腹に入ったから。よっぽどの状況でないと人型の形状の物に食欲とか湧きようがないから」
「あ! 言ってはならないこと言いましたね! 私だって好きで断食してる訳じゃないんですよ!」
「ゴブリンに噛み付いたミユミさんの自業自得でしょ!」
「ぐぬぬ……」
「何がぐぬぬだ!」
と、そんなこんなをやっていると、爪のきれいなゴブリンが近くまでやってきた。銃を警戒してジグザグに動きながら近づいて来るあたり中々強めのゴブリンっぽい。
まぁ圧倒的なレベル差で悲しいぐらい無意味なのだが。
「ええと、ミユミさん、食べるの?」
「食べませんよ! ええいこのっ!」
このようにミユミさんが銃を撃てば見事にヘッドショットだ。ゴブリンは魔化してカードが残った。
「あ、おにぎりだ」
「なんですと!?」
ミユミさんが驚いてるけど俺も驚いている。
ミユミさんが美味しそうといったゴブリンから、おにぎりがドロップした。これは偶然なのだろうか。もし偶然でなかったとしたら……。
「検証! 検証しよう!」
「賛成です!」
食糧問題が解決する!
◇◆◇
四層ボス部屋の手前。ここに着くまで色々と試したが、結論だけいえば、ミユミさんが何か感じたゴブリンからは、全ておにぎりかポーションがドロップした。
その検証中にミユミさんもゴブリンの呪い(後味)から解放されたようで、おにぎりとポーションで体調を回復させた。
あとはこのレアドロップの判別ができるようになった原因だが……。
「やっぱり、この豚鼻の効果でしょうか」
多分そうだろう。それ以外にミユミさんの状況で変化したものがない。こういう効果をもったスキルの可能性も考えたが、スキルなら表示が出るはずだ。
「大当たりじゃないですか! やっぱり日頃の行いがいいからですね! キャハッ☆」
……。
「これは原作知識なんだけど」
「え、なんですかいきなり」
「そのうち迷宮都市のアップデートで二つ名機能ってのが実装されるんだよ。朱の騎士だの、暴虐の悪鬼だの、食料だの、その人を周りがどう呼んでるか分かるんだけどさ、豚鼻つけたままのハーフエルフの二つ名は何になるんだろうな」
「街に戻ったらすぐ外して捨てます」
「有用なアイテムなのは間違いないからそこまでする事ないと思うよ。豚鼻かわいいじゃないか」
「二つ名扱いされたら乙女的にアウトです! なんですか食料とか、そういうよろしくない系の二つ名つけられたら表歩けませんよ!」
おっと、チッタさんの悪口はここまでだ。
しかし、あれだな、食料問題が解決したから一気に心が軽くなった。腹が減ったままダンジョンアタックなんて正気じゃない。いや、そもそもダンジョンアタックしてる時点で正気じゃなかったわ。ダンジョンにさえ入らなければ前世並み、いやそれ以上の旨いご飯が毎日食べられるだから。
……とっとと攻略して帰ろう。
とりあえず四層のボスについてミユミさんに情報を共有しておく。とはいえ、四層のボスは月毎に種族が変化し、バイトかモンスターかも不明なので、出たとこ勝負にしかならないのだが。もちろん俺は今月に出てくる種族を知らないので、本当に何が出てくるか分からないのだ。
一応、バイトの冒険者でもLV10に制限されるので、レベル差でゴリ押しできると思う。
「さ、行きましょう!」
意気揚々と二人でボス部屋に入った。
◇◆◇
ボス部屋は二層三層と同じただの広場だ。一層がおかしいのである。
その広場の真ん中に獣人が一人佇んでいる。兎耳にスキンヘッドの男だ。
……あれか、チッタさんの話題出したのがフラグだったか。どう見ても原作キャラだ。獣耳大行進のクランマスターのアインさんか、サブマスのロベルトさんだ。こんな濃いキャラが他に居てほしくない。二人いるだけで異常だ。
「来たかピョン」
駄目だ。文章でも駄目だったが実際に見るともっと駄目だ。何が駄目かは言葉にし難いものがあるが、これは駄目だ。
原作を通して知っている俺は眉間を揉んで、視覚と聴覚に対する暴力に耐えたが、ミユミさんはあまりのあまりさに愕然としている。
あ! 駄目だ! アイン、あるいはロベルトさんも、豚鼻ハーフエルフを見て愕然としている! あ、いや年齢もだな。子供というより幼児といった俺達を見て驚いているようだ。
「ええと、その、バイトの方ですよね、僕はケンスケといいます」
「ああ、噂の子ピョンね。俺はアインだピョン」
ぐっ、普通に会話しただけなのに精神的に追い詰められている。なんて恐ろしいんだ。しかし、この状況で戦闘に入るのはまずい気がする。少しでも引き伸ばして慣れる為に会話しなければ。
「なんでアルバイトを……」
「銃をもってる新人がいれば優先的に仕事を回してほしいと言っていたんだピョン。あと、獣人も俺が相手する事が多いピョン」
そう言って、アインさんは右手に持ったミニガンを持ち上げる。あの……それ片手で振り回せる武器じゃないと思うんですけど。そういえば銃を使うという話があったな。原作では描写されてなかったが、これがアインさんの武器か。
……って、避ける自信がまるでないんですけど。本来ならここでレベル5ぐらいだろ。無理ゲーってレベルじゃない。レベル20ちょいの今でこそ、自分の撃った銃弾がかろうじて見えるようになったが見えるだけだ。
「冗談……っ!」
ガチャっと砲身がこちらを向く。全力回避!
ミユミさんも慌てて横っ飛びした直後に、爆音とほぼ同時に俺達のいた後ろの壁が弾ける。
っ、嘘だろ! アインさんはミニガンを撃ち続けたまま、こっちに向かって振り回そうとしているのが見えた。片手でミニガンの反動を抑えて振り回すとか、冗談じゃない。
「っと、危ないピョン」
「ちっ」
そこにミユミさんがアインさんを狙って銃弾を放ったが、アインさんは一歩下がるだけで避けてみせた。が、ミニガンは止まったので、俺も逃げながら体勢を整える。砲身の前に立つなんて冗談じゃない。
「ふむ、避けるだけじゃなく反撃もしてくるとは中々やるピョン」
「じゃあ素直に当たって欲しいんですけど。なんであのタイミングで撃たれたの確認してから避けれるんですか」
「兎だからだピョン」
理由になってない!
「というのは冗談ピョン。慣れたら冒険者なら誰でもできるピョン」
分かりにくい冗談を……いや、そこじゃない。慣れたら誰でもできるとか信じられない。
レベル20を越えてる俺達だが、銃撃を避けれる気は一切しない。仮に銃弾が見えたとしても銃弾は音速を越えて飛んでいるのだ。それに反応して避けれるとか人間を辞めてる。……ああ、いや、人間じゃなくて冒険者だったか。これが、これこそが『本物』か。
俺達はまだ冒険者じゃない、レベルが高いだけの一般人ということだ。
レベル差でゴリ押しできるとか冒険者を舐めていた。アインさんは、確実に俺達より格上だ。
ミニガンが破壊した壁を見る。もし体に当たれば、HPの壁なんて意味もなく、あの壁のように粉々になるだろう。
「さぁ仕切り直しだピョン」
その語尾には、もう何も感じない。
ただ、
死にたくない
それだけで頭がいっぱいになっていた。
とりあえずハードボイルド系のキャラには、ミニガンを撃たせたくなりますよね