その転生の先へ   作:夢ノ語部

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手に汗握るボス戦です


三歳児のレベル上げ

「……これって本当に経験値入ってるのか?」

「そ、そう言われるとあんまり自信ないですけど……でもでも、罠師の人や、システム検証チームの検証まとめによると、一応経験値が入るそうですよ」

 

 まとめサイトって。いや、今更か。本当に何でもあるな。

 

「一応っていうのは?」

「罠師の人が、ダンジョン内を要塞化したそうなんですが、視界の外でモンスターが死んだ際は経験値が入らないそうです。まぁ視界の外でも経験値が入るパターンがあったとかいう情報もあるので、まだまだ要検証だそうです」

「……でもなぁ」

「分かりますよ、提案した私が言うのも何ですが、すっごい今疑心暗鬼ですもん」

 

 第一層ボス部屋。

 俺たちは入ってすぐに放置レベル上げの準備をした。

 2箇所開く襖のうち、片方を速攻で閉める。これでコボルトが出てくる前に閉める事ができた。

 もう片方の襖の前にはミユミさんが武器を設置した。センサー感知型の自動小銃だ。

 

「ひどい、ひどすぎる」

 

 コボルトが出現した途端、コボルトの体に穴が開く。死んだモンスターは魔化するので銃が死体を感知して撃ち続けることもない。

 30秒ほどでコボルトが増援してくるので、同じ間隔で火薬の破裂音が部屋に響く。とても硝煙くさい。

 マガジン内の弾薬がきれれば交換する必要があるが、ロングのダブルマガジンになっており、弾切れのスパンも長く、弾切れ時もマガジンを素早く交換できるため、次のコボルト出現までに交換が間に合っている。

 

「ダンナさん、弾切れが近い時と、マガジン交換の時は警戒してくださいね。本当は土嚢も持ってきたかったんですが、アイテムボックスの容量が足りなくて持ってこれなかったんで無防備になっちゃうので。その分、銃の性能を良いのに変えたんで、弾切れ以外の時は大丈夫でしょう。ほら」

 

 襖の範囲ならコボルトも自由に出現できるのか、右端から出てきたり逆から出てきたり、中には匍匐前進してくるコボルトもいたが、首振りして狙い撃ちしている。すごい。

 さて、ここまで話せばおわかり頂けるさろうか。この半放置レベル上げ中、俺達はほとんど動いていないことに。

 これでレベルがあがると言われても、運動しなくても筋肉がムキムキになるプロテインをオススメされているような気分だ。何かおかしくないかと違和感が付き纏う。

 

「放置レベル上げっていうと野生のバルバトスだよな」

「ああ、デスティニーのリメイクですね、あれは衝撃でした。シンフォニアとデスティニー2でできたし大丈夫だろって思ってたらアレですもんね」

「お、話せるね」

「マヨネーズセンパイがレベル上げて挑んでましたよ」

「マヨネーズってあれか、サラダ倶楽部の」

「そうですそうです。ダンナさんは何でも知ってますね」

「何でもは知らないよ、知ってることだけ」

「超キモいです」

「うっせ」

 

 野生のバルバトスは死なないんだよ……マヨネーズにちょっと親近感を覚える。あ、マヨラーじゃあないぞ。

 『その無限の先へ』しか読んでない人は、二ツ樹五輪さんのページから『サラダ倶楽部の奇妙な面々』を読もう。

 しかし、暇だな。

 

「こういう元ネタありの会話って他の人とだとできないんだよな」

「そもそもの元ネタが存在しませんからね。あ、ダンマスはイケる口ですよ」

「あー原作でも、アイテムボックスから武器を射出するとか、武器の投影なんて話してたな」

「おおぅ、二次創作ネタとか大丈夫なんですかその小説」

「知らん。商業化したら修正されてたりしてな」

 

 二次創作を読まない人ならポカーンだろうな。TRPGネタもあったりと、あの作品は分かる人にしか通じないネタって結構あったな。

 

「実際にトレースオンできちゃう冒険者がいるんでしょうか。いるなら動画見たいんですけど」

「ダンマスなら出来るんじゃないか? そのスキルに特化しないと役に立たないとか言ってんだよ。んで、元ネタ知ってるのはダンマスだけだから経験則での話だったんじゃないかな」

「今度ダンマスを厨二乙って煽りましょう」

「おいバカやめろ」

 

 二次創作小説まで読み漁ってる時点で厨ニ病が治りきっていないが、それを言ったら俺達にも刺さる諸刃の剣だ。

 

「いやそこは自爆してでもですね……お」

「お?」

「レベルが上がりました」

「……なんかヤケにあっさりだな」

「GPを消費すればファンファーレが鳴るようにできますよ」

「わざわざGPを使うのか……しかも想像しただけでアホっぽいな」

「ファンファーレの中には声を入れてるのもあるそうです」

「PCの起動音をギャルゲ音声に変えてる友人がいたなぁ……」

 

 レベルが上がったら『いっぱい頑張ったね、えらいえらい』とか言われる訳か。ソロならありかもしれん、検討しておこう。

 

「マッスル・ブラザーズのメンバーがレベルアップした時は『バァンプアァップッッ!』って野太い声で響くそうで、その音でモンスターが近寄ってくるそうです」

「バカだろ」

 

 うん無しだな。検討終わりだ。臨時でパーティ組んだ時に死ぬ、社会的にも物理的にも。

 ソロ冒険者なんてリスキーな事もする気がないし、そもそも自発的にダンジョンに潜る気がないから俺には関係のない要素だ。

 

「なんで俺ダンジョンにいるんだろうなぁ……」

「まだ言ってるんですか、自主的に入ったんじゃないですか」

 

 そうだけどさぁ……。

 

[ レベルアップしました ]

 

「お、上がった」

「おお、やりましたねっ!」

 

 良かったぁ〜。ラディーネさんが脅すから、レベルが上がらなかったらどうしようかと思った。やばい普通に嬉しい。

 しかし、このシステムメッセージ邪魔くさいな。急に出てくるからふと見ちゃうし、乱戦の時は気をつけないと。いやダンジョンは二度と入らないけど。

 

「よし、それじゃあこの調子でじゃんじゃんじゃんじゃんレベル上げましょう!」

「おー」

 

 まぁ、こうしてレベルが上がるのは嬉しい。

 レベルが上がれば上がるほど安全になるって事だし、前世からレベル上げの作業は嫌いじゃなかった。じゃないと野生のバルバトスに挑もうなんて思わない。

 

「目標はレベル30です!」

「おー、お、え?」

 

 でもさ、それは目標厳しくない?

 

 ◇◆◇

 

 レベル30といえば、初級冒険者から中級にあがるレベルの目安だ。

 クラスレベルが30で伸び悩むとか、補正値が大きくなって、素の能力差によって実力がはっきりと分かれるからとか、単純に無限回廊の30層をクリアするのがレベル30ぐらいだとか、色々な事情があって目安とされている。らしい。

 目標の下方修正を訴えたら、そういって反対された。

 ミユミさんは『今のレベルのまま1人でトライアルダンジョンに初挑戦したとすると、クリア出来ますか?』と冒険者を対象にアンケートをとってみたそうだ。なんでも、クリア率から初回挑戦時の難易度があがっている事に検討をつけて、ヴェルナーさんが15分程で攻略出来ると話していたことから、認識阻害を抜けれる質問だと判断したそうだ。

 結果は、中級冒険者でも『厳しい』と答える人が居たそうだ。

 もちろん戦闘職ではない人ばかりだそうだが、レベル30が初回クリアに最低限必要なレベルなのだとか。

 

「ど〜ですか、このトマトちゃんの圧倒的情報収集能力! ふふん、褒めてくれても良いんですよっ、ほらほらぁ!」

 

 と、ドヤ顔で訴えてくるミユミさんに、二層クリア時に出てくるワープゲートで帰るつもりでしたとは言えなかった。NOと言えない日本人だ。

 単純に凄いとは思うんだよ、うん。

 

 そうして、レベル上げの日々が始まった。

 

 初日は交代制で休みをいれるも、破裂音の中で中々休むことが出来ず、緊張感を保っていた。

 

 二日目。とは言っても、ダンジョン内は一定の明るさで日数は分からない。大体二日目なんじゃないかなといった感じだ。今日は襖の所に落ちている大量のドロップアイテムをかき集めた。

 30秒で1体のコボルトが出てくるとすると、1日で2,880体のコボルトを殺していることになる。ドロップ率が1%としてもカードは30枚だ。パッと見100枚はあるので、ドロップ率はもう少し高いんだろう。地味に嵩張る。

 折角なのでカードをアイテム化する《 マテリアライズ 》の無声起動の練習をする。

 レベルは10になった。

 ところで、カードでしかドロップアイテムが出てこないのは、トライアルダンジョンの仕様だろうか。

 

 三日目。弾薬の残りが怪しくなってきたそうだ。それはそうだろう。もう1万発以上は撃っているはずだ。逆にまだ弾薬があることに驚愕を隠せない。

 するとミユミさんがドロップアイテムの槍を束ね始めた。聞けば弾薬を使わないで放置レベル上げができるかもという話だった。

 もう良いから家に帰りたい。

 

 四日目。起きたら槍の束が穂先を襖に向けて置かれていた。天井に届くかというそれは壁のよう……いや正しく壁なのだろう、数えるのもバカらしくなる槍の本数は動かせるもんじゃない。

 たまに、ガァとかグゥとか鳴き声が聞こえる。もしかして、コボルトが出てこようとして、槍に刺さってるのか? いやそんなバカな……。

 あ、もしかして、一定時間で出現するコボルトが渋滞して後ろから押されてるのか……? あ、レベルがあがった。あれ? 今の俺何レベルだっけ?

 冒険者カードを貰っていないことに気付いた。

 

 五日目。弾薬の制限がなくなり、マガジン交換の必要が無くなったので、本格的にやることが無くなった。

 破裂音がない事に物足りなさを感じるあたり重症だと思う。ミユミさんも同じ事を言ってる。

 今日は快眠だった。レベルは今日は上がらなかった。

 

 六日目。槍の束が倒れてきた。焦った。飛び出してきたコボルト達を槍で殺していく。体が軽くて強くなっている事を実感する。

 槍束が倒れたのは、槍束の下にドロップアイテムが山になっていて、槍束を押し上げたからのようだ。

 ドロップアイテムを回収して槍束を再度設置することにする。

 

 七日目。改良した槍束が完成。下にコボルトが通れないほどの隙間を作り、槍を2本繋げた物で隙間をかき出すとドロップアイテムが出てくる仕組み。

 これで倒れてくることはないだろう。マイクラのトラップタワーを思い出した。満足。

 ここで重大なお知らせ。圧縮乾パンに飽きた。

 

 八日目。今日も圧縮乾パンだ。嫌気が差したので、ドロップアイテムの焼コボルト肉を食ってみる。これ何で調理済み出てきてるんっがはぁあああああああ!

 ダンジョンに入ってから一番のダメージ。

 

 九日目。口内にまだ焼コボルト肉の衝撃が残っている気がする。ゴブリン肉ってこれより不味いのか……。

 

 十日目。特になし。

 

 十一日目。ドロップカードで決闘者ごっこ。レベルがあがらない。

 

 十二日目。太陽の光を浴びたい。暗闇で寝たい。レベルがあがらない。

 

 十三日目。レベルがあがらない。

 

 十四日目。レベルがあがらない。レベルがあがらない。レベルがあがらない。レベルがあがらない。レベルがあがらない。レベルがあがらない。

 

 十五日目。ミユミさんの冒険者カードを見せてもらった。レベルは16だった。

 

 十六日目。スキルが生えた。経験値が見れるようになった。最初に生えてきたスキルがこれか。システムメッセージのように表示できるようだ。

 これで少し気分的に楽になるかと思ったが、数字を見て考えるのを止めた。

 

 大体三十日目。一ヶ月ぐらいだ。ミユミさんに背が伸びたのではと指摘される。まじか。

ダンジョン内では時間の流れが違い、外ではほとんど時間が流れていない。だからダンジョン内で成長しても、外で戸籍を管理している為、戸籍上は三歳児のままだ。三歳児(詐欺)にはなりたくないぞ。母親と逆ジャンルとか嫌だよ。

 この日はレベルがあがった。次のレベルまでの経験値を見る勇気はない。

 

 多分三ヶ月ぐらい。暫くレベルアップしていない。

 ミユミさんのアイテムボックスがドロップのカードで埋まった。アイテムは魔化しない為、部屋の片隅にカードが溜まっていく。

 無駄に《マテリアライズ》したアイテムも溜まっていく。

 もう良いんじゃないか。クリアしちゃっても。そうは思うが口にはしない。ミユミさんが変な笑い方をしているのが怖いとか、そういう理由ではない。ないと思う。

 気付けば俺も笑っていた。

 

 その次の日。二人で羞恥に悶える。精神的な限界を感じた。もうクリアしても良いんじゃないかと提案する。

 あと1レベルだけ上げて、外に出ようという話になった。

 

 更に一ヶ月ぐらい経過。ミユミさんのレベルがあがった。が、俺の経験値がもうすぐ溜まりそうだ。

 もう少し、もう少しだけ……。

 

 俺のレベルがあがった。なんとなく分かっていたけどレベル上げをやめようという話にはならなかった。

 暇に耐えるだけでレベルがあがる環境を手放す事が惜しいと感じるのだ。圧縮乾パンにはとっくのとうに飽きたが、この環境にお互い慣れ始めていた。

 上げれるだけ上げちゃおうよ。そういう話になった。

 

 それから二月ぐらい。放置レベル上げを始めて、おそらく半年が経過。

 食料が尽きた。

 

 

 焼きコボルト肉を片手に続行を決意。

 

 

「レベルレベルレベルがあがっちゃうのーヒーヒーよろろよもへ~」

「あっはっはははははっはっはっは、グヘヘひひゃー」

 

[ スキル《 悪食 》を習得しました ]




ミユミさんって酷いことになっても違和感がないから好き。

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