その転生の先へ   作:夢ノ語部

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文字数が少ないですがキリがいいので


三歳児の逃避

「なーんだ、そういう訳だったんだ。もーケンスケはやく言ってよー」

 訓練場に移動してから一時間強。原作知識をぼかしたまま説明しようとしたせいで、しどろもどろになり、言い訳っぽく聞こえたのが不味かった。

 怒れるロリ母は、流石の中級冒険者というべきか。本気の威圧感が半端なく、本当に死ぬかと思った。

 幸いと言っていいのか、訓練場は各冒険者パーティーごとに別空間になっているらしく、俺とミユミさんとロリ母の三人しかいないので注目の的になることだけは避けれた。が、それだけだ。正座していた足などとっくに感覚はなくなっていた。

 さっき落ち着いたばかりのミユミさんが「前世の話をしていたら、前世で亡くした先輩の事を思い出して泣いちゃっただけなんです」と説明してくれなければ、どうなっていたことか。

 ……そのちょっと前に、ロリ母のなぜここにいるのかという質問に「買い物していたら急に担ぎ上げられて連れてこられたんです」と答えていなければ感謝する気になっていたかもしれない。

「うんうん、つまり前世がつなぐ運命の出会いを二人は果たしたのね! キャー!」

 そして、どこをどう受け取ったのか、こんな勘違いが発生しました。

「えええ!? 違いますよ! 私が好きなのはツナ先輩で、こんな可愛げのない子じゃないです!」

「あ、こらバカ!」

「ほぅ……」

 ロリ鬼母再降臨するだろ! ほらあ!

 ……10歳女児(42)が5歳女児(10)に、我が子3歳男児(3)の素晴らしさについて語る……傍から見れば完全におままごとである。おままごとってたまにカオスな設定あるよね。

 そして一時間が経過。まだロリ母の勢いが止まる気配はない。

「生まれて3ヶ月ぐらいかな。まだ動けない頃にオシメを変えたら恥ずかしがっててね、ひん剥いたら死んだ魚のような目をするのが本当に可愛くて、でねでね」

 おいやめろ。そういう話をするのは。

 ちなみに周りの前世持ちは、一般的には物心つくころに前世を思い出す事が多いのだとか。畜生。

 っていうか、ロリ母の威圧感が増してるってどういう事だ。自慢話を強制的に聞けという事なのだろうか。威圧感のせいで身じろぎできず、俺も正座のままだ。

 あなたの大切な息子が泣きそうです。

 更に一時間。

「でね、ジョアンが私のオムライスを食べた後、君も君のオムライスも美味しいよって」

 ペド父パートに移行。聞いてて辛い、足も辛い、すでに泣いてる。……ああ、そうか、無になれば辛くないんだ……。

 そうして意識を飛ばしていると。

「じゃあミユミちゃん、息子の事よろしくね」

「ハイ、旦那様ノ事ハ任セテクダサイ母様」

「何で!?」

 待て待て待て! あまりの衝撃に意識が戻ったわ! 時計みたら30分しか経ってないし! 30分前はほぼ惚気話とかしかしてなかったじゃん!?

「え? 何について聞かれてるのか分からないって顔やめて! いやいやいや、俺が話を聞き流してる間に何があったの!? 旦那様とか、え、このウザハーフエルフとか絶対ごめんなんだけど!」

「ごめんねミユミ、うちの息子照れ屋さんで」

「え、ええええ……」

 何があったのか説明を求めようにも、三人しか訓練場にはおらず、求められる相手がいなかった。

 一体どうすれば……ロリ母は話を聞かないし、ミユミさんは……目が死んでる。首もカクカクしててとてもホラーチックだ。

 ああ、そうか……諦めればいいのか……。

 

 ◇◆◇

 

 あの地獄から生還した。ロリ母を探しに来たペド父が乱入してきたからだ。訓練場って別空間扱いだと聞いたんだけど、どうやって入ってきたのかは謎だ。それはきっと愛とかそういうものなんじゃないかな、俺は深く考えたくない。

 ちなみにその時、ペド父が「ケンスケくんがどうしてここに?」と聞いてきたので、ダンマスに無理矢理連れてこられた事を訴えたら、「お、友達とトライアルダンジョン初挑戦かい。いいね!」と言われて何も言えなくなった。

 最近まじで友達出来ないことを心配してきてたんだもんよ! いくら変な親でも、心配させるのは罪悪感がある。そこで目の前で喜んでくれている姿を見たら何も言えなくなるだろ。

「で、本当にダンジョンに行くんですか?」

 仕方ないのでトライアルダンジョンのワープゲートを目指してよろよろと歩いていたら、ミユミさんから根本的な質問がとんできた。

「え、まぁそりゃあ……」

「旦那様は人がいいですね。本気で嫌がれば、ダンマスもご両親も無理強いはしないでしょうに」

 せやろか?

「たしか、システムの恩恵を俺が受けれない可能性があるから、すぐに調べないとって話で、トライアルダンジョンに連れてこられたんだよ。無理強いずるんじゃない?」

「でも旦那様はまだ三歳ですよ? それは体ができてからでも良いでしょうし、システムの恩恵を受けれるかどうかを調べるだけならいくらでもやりようがあると思うんです。例えばスキルオーブを使うとか」

「あ」

「それにさっきの訓練場でもスキルを覚えましたしね。別にシステムを調べるだけなら、やりようはあるはずですよ」

「え? スキル覚えたんだ?」

「……」

「……」

 なんで、それ聞いちゃいます? って顔をするんだ。そういう話の流れだっただろう。

 困惑しながらじっと見ていたら、諦めたように息をついた。

「《嫁の心得》ってスキルなんですが」

「うちの母が申し訳ございません!」

 何やらかしてるんだロリ母! そりゃ言いたくないよね、気まずい、気まずいよ!

 結婚してない婚約してないお互い好きでもない。なのに第三者に既成事実を作られたような気分だ。

「っていうか、もうロリ母がいないのに旦那様って呼び続けるのって、もしかしてそのスキルのせいなのか?」

「ああ……それもあるかもしれませんね。それよりも他の呼び方をするとお母様が飛んできそうで……」

 そう言って寒さを堪えるように体を抱えガタガタ震えだすミユミさん。

 トラウマになってるよ!? 俺が見てない時間に本当に何があったんだよ!

「しかし……旦那様呼びのままは不味いよな。正直好みじゃないし誤解は避けたい。将来的にも絶対結婚対象にはなりえないし、ミユミさんもツナがいる以上誤解は避けたい筈じゃないか?」

「ストレートにズバっと言いますね!? 私だって成長ずればこう、ボンキュボンって感じに……」

「あ、原作じゃ、5年後もスルスルスルーって感じでどこにも引っかかりがない体型だったよ」

「……ま、まだ15歳ですよね。ふふんハーフエルフ的にはまだ子供ですよ」

 ハーフエルフ的に大人になるまで、ツナが他の女とくっつかなければいいな。ユキとかクロとかヒロイン候補は多いぞ。上級冒険者になってその財力でみるくぷりんの女の子を手に入れるとかも有り得そうだ。

「なんで優しい目で見るんですか。なんか腹立ちますね。ん、まぁ確かに、誤解はない方が良いでしょうし、ちょっと頑張ってみます」

「頑張れー応援してるぞー」

「せめてもう少し感情を込めて言ってくださいよ旦那様!?」

「ほら旦那様って言ってるぞ」

「ぐぬぬぬ……だ、ケ、だ……旦那……」

「……事情を知らなければ恐怖に震える少女なのだが、事情を知ってるだけにコントを見せられてる気分だ」

「だまらっしゃい!」

 こうして試行錯誤を続けて10分。どうでもいいが、ダンジョン転送施設に来てから大体3時間ぐらい経過している。ダンジョン転送施設でダンジョンにもはいらず、俺達は何をしているのだろうか。

 とにかく、旦那様という呼び方も改められたので、懸念はなくなった。さぁダンジョンに行こうか。

「ダンナぁ、本当にダンジョンに行くんですか?」

 ……なんで小チンピラ風なんだ。お前、ヒロイン街道から全速力で転がり落ちてるぞ。ま、まぁそれで落ち着くっていうんだから、俺は深く突っ込むまい。

「ああ、そういえばそんな話もあったなぁ」

 なんでだろうな。

 両親の期待に応えたいとか、ここで引き返すのが格好悪いとか、レベルを上げときたいとか。

 あと、ダンマスが監視しているだろう今だからこそ、俺が認識阻害と同じように、死者蘇生のシステム外扱いになっていた時、ダンジョン内で本当の意味で死にそうになってもダンマスがいるからきっと安全だとか……今ダンジョンに入る理由らしい理由はある。

 しかし、どれもしっくりは来なかった。

 全部が本当で、全部が嘘のように。そういった本当の理由を言い訳にして、俺はダンジョンに向かう。

 

 まるで何かから逃げるように。

 

「ダンナぁ待ってくださいよー!」

 ……逃げるように。




ミユミファンの皆様ごめんなさい。
あとこの作品で「も」ミユミルートはありません。

ユキたんはよ

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