その転生の先へ   作:夢ノ語部

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ロリ母視点です。
どうぞ


幼女は母である

 ケンスケ達が五層を突破したという話を聞いて私は耳を疑った。ジョアンも同じ様子で二人でダンマスを問い詰めた。

 肝心のダンマスも寝耳に水というか、期待はしていなかったそうで、何度か確認したけど間違いないらしい。

 あのミノタウロス……というか、実際はブリーフやトランクスタウロスを倒すなんて、ダンマスの言うことだから真実なのだろうけれど、にわかには信じられない。

 中層の相手したくないモンスターランキングでも不動の第一位だ。ま、まぁ……その理由が生理的嫌悪感とか、トラウマがぁとかが多いけど……単純に高HP高火力というのは苦手にしている冒険者は多い。

 動画にもみんなのトラウマタグが必ずつくぐらいには、あの初回のミノタウロスは冒険者の間で共通の、痛烈な記憶なのだ。

 それが3歳と5歳……それもクラスも取得せずに、レベル1でトライアルダンジョンに入った子供が倒すなんて、親の贔屓目に見ても信じられるものじゃない。……それ以上にダンマスが嘘をつく理由もないのだけど。

 というか、信じる信じないとかそれ以前の問題で……。

「ケンスケ達、出てきてないんですけど」

 そうそれ。ジョアンが私の思った疑問と同じ質問をした。

 ダンジョンをクリアしたなら転送施設の出口に出るはず……。

 

「あー、そのな……」

 

 ……ダンマスはアホでした。

 色々テンションがあがってダンジョンに放り込んだわ良いけど、諸々の手順をすっ飛ばしたせいで冒険者カードも同伴者もないまま、ケンスケはトライアルダンジョンに入ったらしい。

 更に初回でのクリア者には隠しステージが存在するらしく、同伴者がボスになる予定だったとのこと。

 しかもその隠しステージ自体、ダンマスが設定したのに存在を忘れてたとかなんとか。

 

 へーほーふーん、と私なんかは呆れながら聞いていたわけだけど、話をしていくうちにジョアンの表情が厳しくなっていく。

 ……ダンマスに殴りかかったりしないよね? 少し不安に感じた時、ダンマスが口を開いた。

 

「隠しステージのボスをやってくれ」

 

 え、やっていいの!? オーケーオーケー。

 と、初見ミノタウロスを初めて倒したケンスケとミユミちゃんに会えることに、若干テンションをあげながら軽く請け負った。

 レコードホルダーを相手にする訳だよね。これにワクワクしないなんて冒険者じゃあないよね。

 とか言ってたら、ジョアンがダンマスに殴りかかった。うぇええい!?

 転移か病院送りか。ジョアンが跡形もなく消えたけど、ええと、正直自業自得だと思う。なんでいきなり殴りかかったんだろう?

 何事もなかったかのようにダンマスが話すものだから、きっと気にすることもないのだろうと、後は病院の中の人に任せて、私は隠しステージを楽しみにしていた。

 

 それで、隠しステージ。

 正直かなり肩透かしをくらった。銃って。こんなのでよくミノタウロスを倒せたなと思う。

 不意打ち自体は悪くなかったけど、普通の銃じゃ普通に対応できるよ、そりゃあ。

 あ、もしかしたら遠距離攻撃がないからサブウェポンとして銃を持っていて、近づけばまた何かあるのかも。

 と思って近づいても何もないっぽい。あれー? ミノタウロスってこんなのに負けるほど弱いんだっけ? もう一人も遠距離で銃を撃つだけで助けにもこない。

 投げて、蹴って。まぁ何もない。つまんない。と思っていたら、まさか生きてるなんて。あの手応えは完全に殺したと思ったんだけどな。

 首を切っても生きてる鶏を見たような気分だ。うーん、つまらないと思っていたけど、こういうサプライズがあると少しだけ嬉しくなるよね。

 

 と、ルンルン気分でミユミちゃんの近くまで歩いていった時、その異変は起きた。

 

 なに? なに!? 何!!?

 はっきり恐慌状態に陥った。よっぽどのことでないと動揺しない自信があったけど、これは想像の埒外だ。

 

 はじめは私は死んだのだとと思った。

 なんの脈絡もなく、肉体の存在が希薄になり魂がむき出しにされた。死んだ時特有のあの感覚が襲ってくる。

 でも……違う。

 ここはまだダンジョンの中であの場所じゃない。あの場所じゃないなら、魂だけになった私はどこに行くのだろうか。

 消える、消える、消える。

 ああ、私だけじゃない! ミユミちゃんも、ダンジョンも、みんな消える! 消えちゃう。ああ、ああああ……

 むき出しになった魂までも霧散していくような、ああ私がわたしがわたしだったものがなくなっちゃう、いや、やだ怖いよ、あ……。

 その時、私は感じた。全てのものの存在が希薄になる中、ただ一人その影響を受けていない人物を。

(ケンスケ)

 単独行動のギフトを思い出す。単独行動というスキルもギフトもデータバンクに載っているけど、ケンスケのソレは既存のものより明らかに強かった。ギフトだから個人差があるのだろうと思っていたのだけど……その認識が間違っているのではないか。

 

 それは空想、妄想の類に近い発想だ。だけどこの異常事態が私の考えを肯定しているように思えた。

 

 単独で行動する為のスキル

 単独になる為に行動できるスキル

 

 そもそも別物のスキルだったのではないか。

 全てを消して一人になろうとしているケンスケを見て、私はそう思った。

 ああ、駄目だ、もう、だめだ。魂までも消えようとしている。無意味に無価値にアレに統合されることもなく、ただただ消える。たすけ……。

 え? 何してるのこの子。

 思わず呆然とした。だってミユミちゃんが自分の魂をコネコネしてるんだもの。消えるという危機感とは違って、できないはずの事をやっている気持ち悪さというか、生理的な嫌悪感を感じる光景だ。

 魂だけになったのだから、肉体がどれだけ破損していても動けるのは確かなんだろうけど、何この子。ぶっちゃけ気持ち悪……は?

 

――Action Skill《 魂の一撃 》――

 

「あ、ぐうううううぅぅぅっ!」

 

 何、え、嘘!? 何、何、何!?

 あの状態でこんなバカげたスキル!? 嘘でしょ!?

 私の左腕が吹き飛んで、肉体が戻っている事に気付く。ミユミちゃんは……病院行きか消滅したか。

 助けられたのかな……いや、なんとなく攻撃できそうだから攻撃しただけな気もする。腕一本は流石にきつくて脂汗が出て来る。

 ああ、もう! とっとと終わらせよう。またあの消失現象が起こられたらたまらない。

 

「ケンスケェ……っ!」

 

 さっさと殺す。それで終わり。あの消失現象さえこなければ……。

 

「『マテリアライズ』」

「はぁ!?」

 

 ミノタウロスアックス!? 使えるの!?

 まずい、流石に片手で受け止める自信はない。あの大きさの獲物を掻い潜って殺すのは少し手間だ。時間をかけてまたあの消失現象がおきては溜まったものじゃない。

 そうして焦っていたのだけど……持ち上がらないらしい。

 えぇぇ……。

 まぁ3m以上はあるし、普通に考えれば持ち上がらないよね。

 何、本当に、何よもぅ……。消失現象に、魂を使ったバカげたスキルに、それでミノタウロスアックスなんて持ち出してきたから警戒したのにさぁ。もう。

 

 よし殺そう。

 

 まっすぐ走って貫手で心臓を潰す。

 格闘家ツリーのクラスではないから特にスキルはないけど、クラスの関係で素手で戦うこと自体は多いし、<力>と<敏捷>のステータスには自信がある。

 これでっ!

 

「……!」

 

 いきなりミノタウロスアックスが跳ね上がり、反応出来ずに直撃を受けた。

 込めてた力が変わった様子なんてなかったのに! 

 HPの壁で防げたが、左腕の治癒でHPが減少し続けている中でのダメージは中々無視できないものだ。

 

「くっ!」

 

 そのままケンスケが追撃してくる。技量も何もない愚直な突進に単純な振り下ろし。だが、その勢いだけは本物だ。吹き飛ばされた状態で対応するには厳しいものがある。

 

「なめるなぁあああ!」

 

 それでも、厳しい状況なんて何度も乗り越えてきた。そんな攻撃にやられはしない。

 

――Action Magic《 フィジカルブースト 》――

――Action Magic《 マキシマムパワー 》――

――Passive Skill《 怪力 》――

――Passive Skill《 狂戦士の憤怒 》――

 

「がああああああああああっ!」

 

 選択した行動は、空対地の力押し。細かい事はできなくなるが、受けたダメージに比例した力の強化ができるこのスキルは《狂戦士》の切り札だ。

 効果時間も短いがその効果は絶大で

空中で右腕一本でミノタウロスアックスを掴み、そのまま地面に叩きつけられるが、踏ん張り、めり込み、だが受け止めてみせた。

 

「うっそぉ!?」

「ぐぅ!!」

 

 それでも片手だと流石にきつかったな。

 でも、重量武器は勢いさえ止まればなんとかなる。

 

――Action Skill《 脳天割り 》――

 

「がっ!」

 

 止まったはずの斧が、スキルによって無理矢理動いてくる。持ち上がってなかったし、間違いなく斧は素人だったじゃん! 今覚えたっていうの!?

 力押しに対抗して更なる力押し。反応できなかった私の、斧を掴んでいた親指が千切れ飛ぶ。

 

「ああああっ!」

 

 そのまま頭に向かってくる斧を、咄嗟に右腕を振り回しぶつけて、軌道を逸らす。斧は左腕のあった場所を通過し地面に落ちた。単純な力なら《 狂戦士の憤怒 》が発動している私のほうが上だ、これぐらいならやってのける。

 

 まさか避けられると思っていなかったのだろう。技後硬直で動けない事に焦っているのが見えた。

 こっちは満身創痍であっちは無傷。どっちが格上だか分かりゃしない。

 でも、これで終わり。

 

――Action Skill《 ぶちかまし 》――

 

 ようはただの体当たりのスキルだけど《 狂戦士の憤怒 》中に使える数少ないスキルだ。

 地面にめり込んだ両足が、更に地面を破壊して疾走する。開いていた距離はミノタウロスアックスの間合い3m。それを一瞬で詰めてぶつかる。

 

「ぎひっ……!」

 

 HPの壁を貫く僅かばかりの抵抗を感じながら、肉体の中心部を打ち抜き、それでも止まらずに駆け抜ける。

 ミノタウロスアックスを掴んでいた手と、踏ん張っていた足は千切れ置き去りになり、ケンスケのただでさえ軽い体がさらに軽くなったのを感じながらそのままダンジョンの壁へとはさみ潰す。

 ぐちゃりという胴体が潰れた確実な手応えに、ミユミちゃんの時とは違い即死させたと確信する。

 

「っ……はぁ……やった……」

 

 《 ぶちかまし 》で壊れたダンジョンの壁が崩れてくる。

 《 狂戦士の憤怒 》の効果も切れ、ふらつくけれど、こんなつまらない事で死にたくはないと、壁から離れた。

 

「まぁまぁ疲れたけど……やりごたえはあったかな……」

 

 そう独りごちる。消失現象というイレギュラーもあったけど、中々悪くない戦いだったのではないだろうか。

 適度なスリルに適度な痛み。うん、悪くない。

 消失現象なんてものはダンマスに任せれば良いだろう。今はただ戦いの後の心地よさに浸ることにしよう。

 

「あっ、いつつ」

 

 ……それは戻ってからでいいか。

 血も足りないし、はやく戻らないと死にそうだ。相手を倒したのに失血死とかいうことはしたくない。

 中級に上がるときの試練で一回やらかして、もう一度ボスを倒すことになったのも苦い思い出だ。

 そういえば……出口はどこだろう?

 冒険者としてならボスを倒した後、出口になるワープゲートを通ればいいのだけど、ボスは入ってきた所に戻れば良いのだろうか。しかし、そのワープゲートはなくなっており、見渡す限りでも出口になりそうなワープゲートはない。

 

 ……これは……冒険者としてダンジョンアタックしている時も似たような現象はなかったか?

 崩れた壁を見る。

 瓦礫が山となり《 ぶちかまし 》の跡は見えない。瓦礫の間からは致死量以上の血液が染み出していて……流石に考えすぎか。

 多分、元々同伴者じゃないから、バグって出口が出てこないとかそういう……?

 

 なんで血液が魔化せずに残ってるの?

 

 瓦礫を見る。いや、様子なんて見ていられない。

 

――Action Skill《 ぶちかまし 》――

 

 《 狂戦士の憤怒 》はないけど死に体には充分。と、思った。

 だけど、見えた、見えてしまった。

 スキル発動から壁に到達するまでのコンマ秒の間に、私の顔は恐怖に引きつった。もう体は止まらない。速くもならない。スキルは発動してしまっている。

 

 瓦礫から、腕が生えていた。

 

 ケンスケの腕ではない。ミノタウロスアックスに、未だにくっついている。

 そもそもあれは成人男性の腕だ。誰だ、何だ。私は、一体何を見ている。

 

「あ、あぁぁぁあああああ!!」

 

 恐怖を振り切るように、更に力を込める。これで今度こそ終わり、これで……!

 腕一本じゃ何もできない! 何かしてもそれを力で押しつぶす!

 

 腕が近づく。掴みに来ている。

 

「おぉぉあぁあああああっ!」

 

 足りない、足りない足りない足りない足りない足りない! 捕まる捕まる、もっと速く、もっともっともっとぉぉおお!

 

「ぎいいいいいっっ!!」

 

――Action Skill《 ぶちかまし 》――

 

 アクションスキルの二重起動。噛み締めた歯が欠け、足の筋肉からぶちぶちと千切れる音が聞こえる。

 被害は大きい。だけど、腕の間に潜り込めた。

 

「あああっ!!」

 

 《 ぶちかまし 》が通る。瓦礫の向こうで潰れる感触があった。これで死んだ。死んだはずだ。これで死んでいなかったら……。

 

 技後硬直の体を、あの腕が抱きしめるように掴んできた。

 

「ひっ」

 

 短い悲鳴が漏れる。

 死んでいなかった死んでいなかった死んでいなかった!

 その腕は冷たく、強く死を連想させた。

 

 瓦礫の中から声が聞こえる。

 何かスキルが来るのか。

 耐えれるか? そう考えるも、もうHPが尽きている自分の体が耐えてくれるとは到底思えない。離れようにも、スキル二重起動の反動が大きいのか技後硬直が解けてくれない。

 あ、死んだ。

 

 そう思った私に声が届いた。

 

「か、あ……さん……」

 

 その声が聞こえた後、腕ごと魔化して消えた。

 

「……」

 

 ……なんだそれは。

 何かスキルをうつんじゃないのか。

 ダンジョンで、そんなつまらない事を言うだなんて……。

 

「あー……もぅ、ママだってば」

 

 ボスの話の時に、ジョアンがダンマスに殴りかかったのを思い出す。

 なるほど、ここまで気分が悪くなるなら私も殴りかかれば良かった。ジョアンはいつだって私より賢いのだった。

 

「はぁ」

 

 戦いにスッキリしないものがあるだなんて、思いもしなかったな。

 ワープゲートをくぐったあと、どうやってダンマスを殴るかを計画しようと心に誓った。




オリキャラ同士の戦いって需要あるんでしょうか(ぁ
これも杵築って奴が悪いんだよ!そうに違いない!

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