その転生の先へ   作:夢ノ語部

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三歳児、追い詰められる

 ミッシェル・メイソン。

 近接戦闘職の中級冒険者。

 

 冒険者としてのロリ母は、意外にも前衛アタッカーだ。

 原作だとこの隠しステージの猫耳さんは、斥候という支援職だったが、こっちは近接戦闘職だ。難易度あがってんじゃねぇか。

 

「やっほー」

 

 ……。

 

「あれ? ケンスケー? ママだよー」

「軽いなっ!」

 

 こっちの銃口は向けたままなんだが、駅前でバッタリあったぐらいの気軽さだ。っていうかロリ母の格好、普通に私服なんだけど。しもむらで買った服なんだけど。

 

「私ね、息子とのコミュニケーションって大切だと思うの」

「ああ、まぁ、うん」

 

 なんだこれ、どうすんの?

 向けた銃口を若干彷徨わせながら、気のない返事を返す。

 どうしようかとミユミさんの方を見たのと、ミユミさんが引き金を引いたのは同時だった。

 え?

 

 これが隠しステージだといっても、それは原作知識があるからこそ分かる話だ。ロリ母にとって『挑戦者は隠しステージの事を知らない』という認識の中で、会話中のいきなりの銃撃は完全に不意をうっていた。

 

「わっ」

 

 にも関わらず、ロリ母は体の中心線を狙ったフルオート射撃を、指で摘んで止めていった。……おいおい。

 

「びっくりしたー」

 

 バラバラと銃弾を落とすロリ母を見て、唖然とする。

 フィクションじゃ、主人公や敵の強さの描写としてよく見かけるが、なるほど、これはやばい。

 

「やだ、かっこいい……」

「やだ、かっこいい……」

「ミユミさんと被ったあああ!」

「嫌がることないでしょう!?」

 

 と、おどけながら頭を抱える。こちらが先に攻撃をしたわけだが、不意打ちも失敗し、このまま戦闘に入っても蹂躙されるのが目に見えている。

 だから、こうしておどけて見せて少しでも戦闘に入るのを遅らせる事で、何か作戦らしいものを思いつくのを期待する。

 まぁ、時間稼ぎというか悪あがきなのだが……ロリ母も格好いいと言われて照れてるし、効果はありそうだ。

 

 ちなみに頭を抱えているのは演技ではない。アサルトライフルのフルオート射撃はこっちの最大火力だ。ミユミさんのアイテムボックス内に、他に火器が入っている可能性もあるが……あ、ダメだ。期待してミユミさんを見たら頭を横に振った。そりゃあ不意打ちできる時に最大火力使うよな……。

 あれ、これ詰んでね?

 

「褒めても何も出ないんだからね! ミユミちゃんこそ良い不意打ちだったよ、このぅ!」

「ど、どうも」

 

 ニヤニヤデレデレとしながら、両手でミユミさんの手を包んで上下に振るロリ母に、ミユミさんも苦笑いしか返せない。

 というか、その手を掴む動きが見えてねーもん。どうしようもない事だけが嫌でも分かる。

 せめて何か防御を貫けるような火力があれば……。

 

「でもさぁ不意打ち自体は良いんだけど、その後があんまり良くないよね」

 

 何か……。

 

「まさか、格上相手に不意打ちだけで勝てるなんて思ってないでしょう」

 

 ……あ。

 

「不意打ちから封殺できるかもなーんて思われてたなら、少し、いや結構腹が立つよね〜」

「ぁ……」

 

 ぎちり、と音がした。

 何の音かは分からなかった。

 

「あと、時間稼ぎしたいのは理解できるけど、攻撃しときながら時間稼ぎが出来るって思われているなんて、バカにしてると思わない?」

「うあぁ……っ」

 

 ぐちゅっと音がした。

 これは分かる、ダンジョンで散々聞いた。

 肉から血が溢れる音だ。

 

「さ、がむしゃらに足掻きなさい」

「ミユミさんっ!」

「ああああああああああああっ」

 

 ロリ母の両手でミユミさんの手が握りつぶされる。ロリ母の両手は、その中に何かがあるとは思えない程に小さく

 馬鹿か俺は! 時間稼ぎをしようとして油断してたら世話がない!

 ロリ母とミユミさんを離す為に銃を撃つ。親を撃つことに倫理観がちらりと頭をかすめるが、そんな場合じゃない。とにかく離さないとミユミさんがやばい。

 そんな思いと裏腹に、ロリ母は一瞥もせずに左手だけで銃弾を捌き、受け止める。右手はミユミさんを掴んだままだ。

 そのまま、振り回すようにミユミさんを持ち上げる。

 

「いぎっ……! あ、あああっ!」

「そーれっ」

 

 気合いのはいってない声と共に、投げというには不格好に、無理矢理地面へと叩きつけた。

 

「カッ……!」

「ミユミさんっ!」

 

 石畳に叩きつけられたミユミさんが、ぺしゃんこになったように見えた。

 死んだ? 死んだ、死んでるだろ、これは。

 大砲でも着弾したような轟音と、飛び散る衝撃と石礫に目を細めて、必死に状況を確認する。

 

「ぁ……ぅぅ……」

 

 生きてる!

 その事実に良かったと、心が少し晴れる。

 もう良いじゃないか、トライアルダンジョンもクリアした、やめよう、降参しよう、生きてるうちに、なんならダンジョンのクリア権限なんていらない、迷宮都市の外に放り出されたって良い。泣いて、喚いて、格好悪くていい。だから……

 

 その足を振り下ろさないでくれ。

 

「えい」

 

 サッカーボールキック。

 人の体が鳴らしたとは思えないような硬質な音が響き、弾丸のようにミユミさんの体が打ち出される。いや、俺はそれをミユミさんだとは認識できなかった、ただミユミさんの居たところから飛んでいったからそうだと判断しただけだ。

 ボロ切れとかいう表現があるが、まさにそれで、布のようにヒラヒラとしていたように見えた。

 骨や筋肉といった人体を人体の形に保つものが、きっとそこに無かった。

 そのまま壁に叩きつけられる。

 

「……」

 

 絶句する。

 あまりに……あまりに……あんまりだろう。

 あれを見たロリ母は、楽しそうによく飛んだとはしゃいでいる。ああ……なんで……くそっ。

 

「お、すごいね、生きてる」

 

 生きてる?

 見れば、ミユミさんは消えていなかった。ダンジョンで死体になれば消えるはずだが、消えていないということは生きてるという事なのだろう。

 ただ、もう良かったとは思えなかった。

 

「あ……ああぁ……」

 

 死んだら死体は魔化してダンジョンから消える。

 だからアレはまだ生きているのだ。いや……

 

 まだ死んでいない。

 

 壁にもたれて座っているようなミユミさんの布のような腕と、水風船のように膨らんだ下腹部……多分、体のなかがグチャグチャで、水分が下に溜まっているのだろう。あれで死体ではないというのが信じられないぐらいだ。

 

「ふ、ふふふ、頭を庇ったのと、咄嗟にポーションを出して浴びてたよね。良い反応だよー。ビックリしちゃう。ま、それでも流石に放っておけば死んじゃうけどね、残念残念。苦しむ時間が長くなっただけだったね。……あー、聞こえてもないか。ふふふ」

 

 楽しげに喋るロリ母も信じられないが……。

 

「ま、別に苦しめたい訳じゃないから、トドメをさしてあげよう」

 

 ああ、くそ、畜生! ミユミさんへと歩きはじめたロリ母に銃を構える。行かせてたまるか、という思いは……ロリ母からの一瞥で無惨に消えた。

 

「あ、ああ……あ、かふゅ」

 

 指が震える、声も出ない。呼吸も上手くできない。怖い……アレがこっちに向けば、俺はああなるのだ。アレに攻撃するだなんて……正気じゃない。アレがあっちにいくなら、放っておくべきじゃないか? そうだ、きっとそうに違いない。

 アレはそんな俺を見て、興味を無くした様子で、向こうに行った。そう、そうだ、それで……それで……。

 

――Passive Gift《 単独行動 》――

 

「……」

 

 …………は、はは、なんて、なんて嫌な奴だ。何より明確な形として、俺がミユミさんを見捨てた事が突きつけられる。

 

――Passive Gift《 単独行動 》――

 

 ああ、そうだ、ギフトになるぐらい、俺はこんな奴だ。仕方ない。仕方ないだろう。アレを見たら誰だってそうだ、怖気づくはずだ。

 

――Passive Gift《 単独行動 》――

 

 ツナもユキもミユミさんも、怖気づかないのかもしれない。そうなりたいと俺だって思った。だけど、もう無理だろう。アレは、無理だろう。

 だって俺は『この世界の人間じゃないんだから、ここは作り物の世界なのだから』

 

――Passive Gift《 単独行動 》

――Action Skill《 この世界の全てが消えて無くな

 

 

――Action Skill《 魂の一撃 》――

 

「あ、ぐうううううぅぅぅっ!」

「え」

 

 見れば、ロリ母の腕が千切れ飛び、ミユミさんが魔化する所だった。

 何が起きた?

 あの状態のミユミさんが、何か出来たとは思えないが、何かしたのはミユミさんしかあり得ない。

 魔化しているミユミさんは死体で……当然、眼には光もなく力も抜けていて……でも、口元は微笑むように釣り上がり、その、目があったように感じた。

 ああ……なんだよ。戦えっていうのか、後は任せたとかそういうガラじゃないだろ……ああ、いや死亡フラグをあえて立てたりしてたな、そういうガラだったわ。

 ミユミさんらしいのか、らしくないのかは置いといて、つまりこれは、そういう事なんだろうか。

 

「ケンスケェ……っ!」

 

 ロリ母が睨みつけてくる。腕吹き飛ばしたの俺じゃねぇよ。八つ当たりはやめてほしい、本当。

 怖い、怖いなぁ。足も腕も無様に震える。

 だけど、なんでだろうな。立って、その目を見返す事が出来る。さっきまでは出来なかった事なのに、なんでだろうな。

 ああ、もう、恨むぞミユミさん。

 

――Passive Gift《 単独行動 》――

 

 ……ああ、それと防御を貫けるような火力があれば、とか思っていたけど冷静になればすぐに思いついた。

 

「『マテリアライズ』」

「はぁ!?」

 

 発声起動で『ミノタウロスアックス』を実体化する。銃が受け止められるなら受け止められない攻撃をすればいい。この大質量を受け止めれるなら受け止めてみ……。

 

「んおっっっ!」

 

 重っ!! いや無理! 勢い任せに単独行動とレベルで何とかなるとか思ってやったけどこれは無理!

 焦りの表情から呆れに変わったロリ母がこっちに向かってくる。片腕を吹き飛ばされたからか、もう会話も手加減も遊ぶつもりは一切なさそうだ。

 どうする? ミノタウロスアックスを手放せば逃げれるか? いや、いやいやいやいや、行けるやれる! 根性出せ俺! ここで手放したらそれこそダメージを与える手段が無くなる! ミユミさんだってあんな状態でロリ母に深手を負わしたんだ! 持ち上がれえええええええ!

 

[ スキル《 戦闘力偽装 》を習得しました ]

 

「……!」

 

 振り上げたミノタウロスアックスが突っ込んできたロリ母に直撃した。




大分遅れて更に短いです。

戦闘会な癖にその無限の先へらしさがない回で……
ケンスケくんが気持ちのいい戦いしてくれませんTT
次回は気持ちのいい戦闘頑張ります!

魂の一撃とか撃てた理由はそのうちできるよう頑張ります

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