インフィニット・ストラトス ~神に抗った少年と少女の物語~ 作:ぬっく~
あの後、私たちは各自でアリーナから解散する。
私はアリーナの外に設置された自動販売機でスポーツドリンクを買っていた。
「……っ!?」
突如、私の頭に頭痛が起こり、手に持っていたスポーツドリンクを落とし、そのまましゃがみ込んでしまった。
“織斑一夏を■ろ■!!”
私の頭の中でこの言葉がループする。
数分して頭痛が収まるが、私は立てなかった。
「何なのよ……」
エイヴィヒカイトを展開するにつれて頭痛が酷くなる一方だった。
その度にあの言葉が私の頭の中を過る。
「……私って何者なの……?」
私はただそこで立つことが出来ず、恐怖が私を支配する。
◇
どうにか寮に戻り、ベットに垂れ込む。
その後はあんまり覚えておらず、いつの間にか寝てしまった。
その数分後に部屋の灯りが点き、楯無が戻って来る。
「もう、寝ちゃったか……」
寝間着に着替えず制服のままうつ伏せ状態で寝ている春名を楯無はその上に掛け布団を掛ける。
春名の正体を聞かされた時から、前よりは警戒心を解いていた。
何のために生まれたのかが分からない少女に楯無は何故かほっとけなかったのだ。
「さて、私も寝ましょうかな……」
楯無も日々の疲れが溜まっていたので早めに寝る。
その頃、一夏の部屋ではシャルルが女だと言う事が発覚していた。
◇
月曜日の朝、教室ではある噂で溢れかえっていた。
どこから来た噂かは分からないが、『学年別トーナメントで優勝者は織斑一夏と交際できる』と言う噂が流れている。
(大分、改変されているね……)
大方、この噂の元は篠ノ之さんだと予想される。
鈴さんやセシリアさんはこんな回りくどい事はしないどろうし、クラスの女子が言うとは考えにくい。なら、残る選択肢は篠ノ之さんに絞られる。
まあ、後は誰かがそれを聞いて流したら元から大分変ってしまったと。
(そう言えば、後少ししたら楯無さんとの試合だったな……)
私がエイヴィヒカイトを展開出来るようになった日に楯無が果たし状を送り付けて来たことを思い出す。
日時は今日から数日後の放課後に行われる。
(やれるだけのことをするしかないか……)
私は心の中でため息を吐きながら、今日の授業を乗り切った。
◇
そして、当日。
楯無から渡された果たし状に書かれた通りに放課後の第一アリーナのステージに私は立っていた。
向かい側には送り主の楯無が余裕の構えで立っている。
「待っていたわよ」
楯無先輩は扇子を広げ、私のことを待っていたらしい。
その背後からは強者のプライドを感じられる。
「殺りましょうか……」
「ええ……」
お互いのプライドをかけて一世一代の幕が明けた。
「エイヴィヒカイト!!」
「ミステリアス・レディ!!」
お互いのISが展開すると、カウントダウンが始まる。
3……
春名は思い返していた。千冬姉さんと出会って色んなことがあった。一夏と一緒にいて色んなことを体験した。初めての学校……初めての友達……初めての家族。だから、私は……
2……
楯無は春名に関してのことを思い返していた。経歴不明の謎の少女。天才的頭脳を備えた第二の織斑千冬と言われても可笑しくない規格外の少女。愛しいの簪ちゃんに纏わり付く害虫。その正体を知った時は驚かされたけど、それはそれ。だから、私は……
1……
「「負けられない!!」」
カウント0と同時に春名と楯無はそれぞれの主力武器の抜刀と展開をしながら突っ込む。
春名のブレードを楯無はランスの取手で逸らし、体勢が右に寄った瞬間を楯無はランスで衝きを入れる。しかし、春名は左手にある銃剣でそれを防ぎぐ。
「ちっ!」
「…………」
お互いの初撃が防がれ、一旦距離を取った。
着地と同時に楯無は
春名もそれは予想していたかのように両刃剣を展開し、楯無のランスの軌道を逸らす。
戦いは更にギアを上げる。
「
楯無の猛攻の中、春名は詠唱を唱えていた。
そして、唱え終えると同時に春名の身体は炎を纏い、持っていた両刃剣が大太刀へと変わる。
(前見せて貰った能力と違う!?)
楯無は春名がエイヴィヒカイトを展開した時の映像を全て確認していた。そこで、あることに気付く。春名の機体に異変が起こるのは詠唱を唱えた時から発動する。
しかし、今回の変化は今までの変化とは異なっていた。
(詠唱の内容次第で効果が変わるという事は分かっていたけど、また新しい能力で来てしまったか……)
しかし、楯無にとってはこれは好機だと判断する。楯無は水、春名は炎。
楯無はランスにミステリアス・レディの「アクア・クリスタル」というパーツからナノマシンで構成された水のヴェールを纏わせる。
「「はぁあああ!!」」
春名は緋々色金を楯無目掛けて振る。楯無も蒼流旋をぶつけ春名の一撃を相殺する。
学園最強(生徒限定)である楯無を前に学年主席の春名は遅れを取らない。気を抜けば負ける。そんな戦いを二人は繰り広げていた。
「
突如、エイヴィヒカイトが沈み始めたのだ。春名は脱出を試みるが出来なかった。
「生徒相手にこれを使う事になるとは思わなかったわ……」
「
この拘束はミステリアス・レディの単一使用能力。高出力ナノマシンによって空間に敵機体を沈めるようにして拘束する超広範囲指定型空間拘束結界。対象は周りの空間に沈み、拘束力はAICを遥かに凌ぐと言われた物だった。
「チェック・メイトよ」
「メイトはまだ早いよ!」
突如、楯無の真下から数本の鎖が飛び出す。突然の事に楯無は単一使用能力を解除してしまった。
楯無の拘束が解け、春名は距離を取る。
「
春名の手元には一冊の本があった。しかし、その本から出る気は禍々しくヤバい物だと分かる。
楯無も突然の登場に驚いたが、冷静に現状を確認する。
(また、別の能力を使ったの……? 詠唱させる隙は無かった。装備だけでも能力があるって事かしら?)
春名の手元には大太刀は無く一冊の本がある。先程の一撃はあの本の能力だと楯無は判断する。
だが、春名はその本をしまう。
「!? どう言うつもりかしら?」
「これを使うためですよ」
春名の背後に大きく文様が描かれた。
「Feuer」
突然の砲撃に楯無は一気に後方へと下がる。熱風からして相当大きな物が打ち出されたと判断したが、その通りだった。
「
春名の出した能力により戦局が大きく変わる。
先程の一撃はステージに大きなクレーターを作る程の威力を容赦していた。
更にと春名の前に複数の杖が出現する。
「Feuer」
それは楯無に向けられ発射された。
「パンツァ―ファウスト!?」
第二次世界大戦中のドイツ国防軍が使用した携帯式対戦車擲弾発射器を春名は出現させて来たのだ。
楯無も予想外の事に回避と同時に蒼流旋についている四門のガトリングガンを撃つ。
春名も回避すると背後の文様から先程のを撃つ。
爆撃音が響く中、楯無は指を鳴らした。
その直後、春名の周りで爆発が起こる。
「
楯無はこの戦いの中でナノマシンで構成された水を霧状にして散布していた。ナノマシンを発熱させることで水を瞬時に気化させ水蒸気爆発を起こしたのだ。
「「はぁ、はぁ、はぁ……」」
お互いに息が上がっていた。
SEもあと僅か、後一撃を入れれば勝者が決まる。
「これが最後になるわね……」
「ええ……そうですね」
楯無と春名は構える。この一撃に全てを込めて……
「受けて見なさい! これが私の奥の手よ!!」
「来なさい!!」
楯無は今あるアクア・ナノマシンを蒼流旋に集める。
春名もそれに合わせて詠唱する。
「
そして、その一撃が放たれた……
「
「ミストルテインの槍」
お互いの一撃がぶつかり合い、アリーナは光に包まれた。