インフィニット・ストラトス ~神に抗った少年と少女の物語~   作:ぬっく~

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12話

「ねえ、春名……」

 

「ん?」

 

その日は何故か、私は懐かしい夢を見ていた。

小柄で妹のような彼女は私の数少ない友達で、親友でもある。

あの事が無ければ……。

 

「もしよ。もし、全ての記憶を思い出したらさ……」

 

「大丈夫だよ。私は皆の事を覚えていてみせるよ」

 

私は微笑みを見せ、彼女の頭に手を乗せる。

 

「そっか……」

 

そして、彼女は故郷へと帰った。

 

 

    ◇

 

 

「ねぇねぇ聞いた? この話」

 

「二組に転校生が来るんだって! さっき職員室で聞いたって人がいたらしいよ」

 

朝早くから教室ではその話でいっぱいだった。

入学式から一か月たった今、このIS学園に転入すること自体が難しい。

国の推薦がないと、試験自体ができない。

つまり、二組に転校して来る生徒は……。

 

「なんでも中国の代表候補生らしいですわ」

 

「セシリアさん」

 

「わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」

 

「このクラスに転入して来る訳ではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

いつの間にか一夏と箒が来ていた。

と言うよりも、相手が代表候補生となると色々とまずいんだよ。

特に一夏が。

 

「代表候補生か……どんな奴なんだろうな」

 

「気になる(のか……?)んですの……?」

 

「え……ああ……まあ少しは」

 

確かに中国と言いたら、()()()の故郷だもんね。

ああ……元気にしているかな……。

 

「今のお前に女子を気にしてる余裕はないぞ! 来月にはクラス対抗戦があるんだからな!」

 

「そうですわ、一夏さん! 対抗戦に向けて、より実践的な訓練をしましょう! 相手は専用機持ちのわたくしが、いつでも務めさせて頂きますわ!」

 

「確かに実戦経験は必要だよな……」

 

まあ、一夏の場合、ISとは殆ど無縁だったからね。

こう言う所は専用機持ちのセシリアさんに扱いてもらうのが、強くなる秘訣だろう。

 

「そうそう! 織斑くんんは是非勝ってもらわないと!」

 

「優勝商品は学食のデザートの半年フリーパス券だからね!」

 

「それも、クラス全員分の!」

 

「織斑くんが勝つとクラスみんなが幸せだよ~~!」

 

「お……おう……」

 

クラスの皆から期待されているけれど、流石に優勝は難しいだろう。

 

「まあうちには、専用機持ちが二人もいるし」

 

「楽勝だよ! ね! 織斑くん」

 

「えっ……ああ……」

 

と言いたい所だがいくら専用機が強いからと言って必ず勝てる訳ではない。

現に私は訓練機で専用機を倒している。

 

「―――その情報……古いよ」

 

その時、懐かしい声を私は聞いた。

教室の前の入り口にその子はいた。

 

「えっ……」

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には勝てないから」

 

生徒は少しざわつくが、私と一夏はそんな事よりも彼女の事で驚いていた。

 

「お前……」

 

あの日、故郷に帰ったはずの私の親友がそこにいたのだ。

 

「鈴……お前……鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、(ファン) 鈴音(リンイン)。久しぶりね―――一夏、春名」

 

中国(故郷)に帰ったはずの、私の親友にして幼馴染の彼女の登場に私と一夏は驚くことしか出来なかった。

そして、同時に嵐の前兆だと言う事は誰も予想していなかった。

 

 

 

    ◇

 

 

鈴がこのクラスに挨拶をしてから、昼休みになった。

食堂の一角の席では……一夏、箒、セシリア、私、鈴が座っている。。

 

「鈴、いつこっちに帰って来たんだ? いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。アンタこそ男なのにISとか使っちゃって、ニュース見てびっくりしたわ」

 

鈴はラーメンを置いて、話に区切りを付ける。

まあ、言いたいことは解らなくもない。

 

「一夏さん! そろそろどういう関係か説明していただきたいですわ!」

 

「そうだぞ! 付き合ってるなんてことはないだろうな!?」

 

ええい。うるさいわね、あんたらは!!

一夏が告白される所はあったが、全部その日に終わってしまう程の唐変木なのよ?

 

「べ……別に付き合ってる訳じゃ」

 

「そうだぞ。何でそんな話になるんだ? ただの幼馴染だよ」

 

「幼馴染……?」

 

「あ~……えっとだな」

 

一夏はそのことについて話だす。

 

「箒が小四の終わりに引っ越しただろ? 鈴は小五の頭に越してきて、中二の終わりに国に帰ったんだ」

 

追加で言えば、小六の時に私が織斑家に来たんだけどね。

 

「ほら鈴……前に話したろ? 俺の通ってた剣術道場の娘」

 

「ああ……そう言えば、聞いたわね……。ふーん……そうなんだ……」

 

そう言えば、鈴って一夏の事を……

 

「初めまして、これからよろしくね!」

 

「篠ノ之 箒だ。こちらこそよろしくな」

 

うん。どうやら、どちらとも一夏が好きだと言う事に気付いたようだね。

 

「コホン。わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ……。中国代表候補生、凰 鈴音さん」

 

「…………」

 

そう言えば、忘れていたね。

あまりにも静かだったから……

 

「……誰?」

 

「なっ……!」

 

そりゃあ、そうだよ。

 

「イギリス代表候補生のこのわたくしまさか、ご存知ないの!?」

 

「うん。わたし、他の国とか興味ないし」

 

「なっ、なっ、何ですって……!!」

 

まあ、()()()()()程度だと調べない限り知ることはないだろうね。

 

「い……言っておきますけど! わたくし……あなたのような方には負けませんわ!」

 

「あっそ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

相変わらず、自信満々に言うのね。

まあ、それが鈴か……。

 

「そう言えば、春名!」

 

「ん?」

 

「なんでクラス代表にならなかったの?」

 

「ああ、そのことね」

 

鈴と付き合いは僅かにあったので、私の実力は知っている。

だからこそ、クラス代表にならなかったことに鈴は疑問を持ったのだ。

 

「私、そういうの得意じゃないし、専用機すら持っていないのよ?」

 

「春名なら訓練機でも十分じゃない」

 

「まあ、確かに……」

 

そう言うが、訓練機を借りるだけで一週間以上かかる。

その一週間で一体どれだけ差を付けられるかわかったもんじゃない。

だから、私はクラス代表にはならなかったのだ。

 

「そろそろ、時間みたいだし戻りましょうか」

 

「……そうね」

 

腕時計を見ると後五分もしない内に予鈴がなる。

全員、手持ちのトレイを返却したのち、教室に戻った。


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