インフィニット・ストラトス ~神に抗った少年と少女の物語~ 作:ぬっく~
楯無との口論があり、その日は千冬姉さんの散らかった部屋を軽く片付け寝た。
そして何時のように私は登校し、普通に授業を受ける。
放課後は、第三アリーナで簪ちゃんのIS作りを手伝う。
「出力系は取り敢えず平均値で押さえておくね」
「うん」
マルチ・ロックオン・システムと呼ばれるデータの設計は簪ちゃんに任せ、私は機体本体の完成を目指した。
形はある程度完成していたので、出力系などのパラメーターから伝達系のシステムチェックを行っていた。
これが特に難しく、エラー摘出が多発する為、一度基本値に設定してから簪ちゃんに合わせて調節する必要があるのだ。
(この子の元の型は打鉄だから、ブーストの出力はこの位だったはず)
打鉄弐式は元は打鉄を改良した機体。
基本構造は変わらないが、殆ど手を加えられたこの機体ではあんまり当てはまらない。
だが、可能な所は直す。
後は、エラーが出ないように調節するだけ。
「これでどうかな?」
最後にEnterを押して、チェックする。
返って来た答えは……
『No problem』
機体の完成を示す文字だった。
「簪ちゃん、こっちは終わったよ」
「あり……がとう……」
簪ちゃんは照れながらも、お礼を言う。
丁度、簪ちゃんもシステムチェックに入っており、終了の合図が鳴った。
「こっちも……出来た」
「よっし、これで後は打鉄弐式にインストールするだけだね」
「うん……」
私たちは最後の仕上げに入った。
インストール完了した後、最適化に入る。
「これで終わるね……」
「うん……」
「消える訳じゃあないから、悲しまないの」
「うん……」
数日しか一緒になれなかったけど、簪ちゃんにとっては私と言う存在はどうも傍にあってほしいらしい。
しかし、物影に隠れている痴女がどうやら、それを認めてくれないようだった。
部屋に戻れば機嫌が悪いし、時々監視されている事に気付く。
今もその視線を感じていた。
「貴女の未来は貴方が開きなさい。それが、私から言える最後の贈り物さ」
最適化が終わり、全ての作業が終わる。
簪ちゃんは打鉄弐式を待機状態にする。
私は時間を確認するともう門限だった。
「そろそろ、戻ろうか」
「うん……」
寮まで同じ道のりだったので、私たちは並んで歩く。
その時、たまたま私たちの手がぶつかる。
「っ! ごめんさい」
「ん? 大丈夫よ」
あんまり人との関わり合いが無かった簪ちゃんは手がぶつかったことに驚くが、私は特に気にしていなかった。
「……手を繋ぎながら歩く?」
「え?」
私は空いている左手を簪ちゃんに差し出す。
簪ちゃんは一瞬迷うが……
「うん……」
私の手を握った。
◇
「またね、簪ちゃん」
「うん……またね、春名さん」
あれから何分たったのだろうか。
私たちは一緒に同じ道を歩き、寮に入った。
それぞれ、自分の部屋へ向かう為別れ、簪ちゃんは駆け足で行ってしまった。
「…………私たちも戻りましょうか。楯無さん」
「…………」
「気に食わないなら、気に食わないで別にいいですよ」
物影に隠れている楯無に私は話掛けるが返事は返ってこなかった。