「さぁ、張り切って行くにゃ!!」
人間界で数日の休暇を取った夏達は冥界にある家に戻って来ていた
「張り切ってるな黒歌」
「当たり前にゃ。今日はこの森に来て初めて本格的な食材の確保に行ける日にゃ」
先日、グレイフィアと夏に食材の確保に行ってもいいと言われた黒歌はこの日が楽しみで楽しみで仕方がなかったのだ。因みにグレイフィアは姫島家母娘が二人の家から転移でこの家にも来れるように堕天使側のトップを加えた小さい会談に夏の変わりに行っている
「兄様、気を付けて言って来てください。姉さまも兄様の足手まといにはならないでくださいね」
「お姉ちゃんに心配の言葉はかけてくれないのかにゃ!?」
「なんとなくですが、姉さまはこの中で一番運が良さそうなので心配してません。それに何かあったら兄様が助けてくれるでしょうから」
白音の言葉にはえらく信憑性があったとこの時の二人は心に中で思った
「それで今日は何処に行くのにゃ?」
白音に見送られ、二人は森の中を進んで行く
「そうだな~~今日は山岳方面に行ってみるか。何ていうか良い食材が見つかるような気がする」
「何それ?まぁ、私は夏に付いて行くだけだにゃん」
この森に詳しくない黒歌は夏に付いて行くことしかできないので黙って付いて行くことにした
「夏!捕えたにゃ!」
「よくやった黒歌。うりゃあ!」
黒歌が髪の触覚で捕まえた『赤毛ブタ』を夏が鉄拳で沈める
「よし息絶える前に血抜きしておかねぇと。黒歌、ナイフとってくれ」
「はいは~い」
夏に言われ、黒歌はバッグからナイフを取って夏に渡した。ナイフを受け取った夏はナイフで動脈を切って血抜きをした
「晩飯の一品ゲットだな。黒歌、この紙張って転移で家に送っておいてくれ」
「了解にゃ」
最近、グレイフィアから魔術も習っている黒歌は夏に渡された紙を『赤毛ブタ』に張り付けて転移魔法で家へと送った
「黒歌が居てくれて助かったぜ。俺は転移魔法使えないからよ」
夏が笑っていると
「夏~~私少し疲れたにゃ」
「疲れたって・・・まだ狩りを初めて2時間ちょっとだぞ?」
「食べるか食べられるかの環境にいれば2時間でも長く感じるんだにゃ」
「そう言うもんか?」
「夏は長い間この森で狩りをしてたからそう思うんだにゃ。兎に角、休憩時間が欲しいにゃ!」
「解った、解った。腹も減ってきたことだし、昼飯にしよう」
黒歌の態度を見て休んだ方が良いと判断した夏は、一息つくことを決めた
「夏、お昼は何なのにゃ?」
「『ロースバナナ』に、来る途中捕った『ベーコンの葉』、『バナナきゅうり』、『骨付きコーン』だな」
「お魚がないにゃ」
肉や野菜しかないことに黒歌が項垂れていると
「後、『カニカマの花』」
「お魚!!」
夏の取り出した食材を見て一転、元気になった
「ほんとに魚介類が好きだよな~お前。白音は甘い物が好きだって言うのに」
「あの子は甘党だからね。あ!あんな所に池があるにゃ。水汲んで来るにゃ」
「・・待て黒歌、そいつは池じゃない。足跡だ」
「え?」
水を汲んでいた黒歌は夏に言われて池をよ~~く見ると、大きな足跡が出来ていた
「にゃ、にゃんにゃのこの足跡!?」
「いったいどんだけ食べたらここまでの大きさになるんだ?」
夏達が足跡に驚いていると
「(スンスン)何か来る」
生物の匂いをかぎ取った夏が周りを警戒していると、木々の間から大量のサルが出てきた
「にゃ、何なのこの猿!?」
「・・・こいつの名前はバーバリアンモンキー。倒せるがこうも大量に来られると面倒だな。黒歌、俺の傍にこい!」
「解ったにゃ。しつこいあっちに行くにゃ!」
夏の呼ばれた黒歌は襲いかかってきた猿を触覚で吹き飛ばしてから夏の傍に行くと、夏に(お姫様抱っこで)抱えられた
「にゃ!?な、夏!?」
「いいから口を閉じてろ。舌噛むぞ」
黒歌を抱えた夏はバーバリアンモンキーが近くまで来るのをじっと待つ。そして、一斉に襲いかかってきたときに無動作からの跳躍、それと同時に両足から炎を噴射して空高く飛び上がった
「黒歌、少し我慢しろよ」
「へ?」
空から他の仲間を台に飛ぼうとしているバーバリアンモンキー達を見た夏は、黒歌に一声かけると上に放り投げた
「にゃあああああ!?」
「右手の炎と左手の炎・・・二つの炎を合わせる。これでも喰らってろ『火竜の煌炎』」
そして両手の炎を一つにして特大の火球を作り上げ、バーバリアンモンキー達に向かって放り投げた。火球はバーバリアンモンキーに当たると爆発を起こした
「にゃぁああああ!?」
「よっと」
火球を投げた後にタイミングよく黒歌が戻ってきたので受け止める
「夏!いきなり投げるなんてひどいにゃ!?」
「悪い悪い。んで、少しの間の散歩はどうだった?」
黒歌が文句を言ってきたので笑って受け流した後、空への散歩の感想を聞くと
「死ぬかと思ったにゃ」
黒歌の感想を聞いた後、少しだけ飛んで移動し、適当な所で地面に降りる
「はぁ~~散々な目に逢ったにゃ」
ため息を吐いた黒歌だが、生物の唸り声が聞こえてきたので振り返ると
「グフォオオオ!」
巨大な猪が大量にいた
「猿の次は猪!?」
「こいつは人食いイノシシ『バンブロー』か。初めて見た・・・避ける黒歌!」
夏の説明を聞いているとバンブローが二人目掛けて突進してきた。二人は横に大きく跳び突進を躱す。バンブローはそのまま木に突撃しなぎ倒してしまった
「なんてパワーにゃ・・・っというかあの猿と言い、何で私達ばっかり狙うんにゃ!?」
自分達ばかり狙う猛獣達に黒歌が文句を言うと
「野生の動物は自分より弱い奴等を狙う」
「他のを狙って欲しいにゃ!」
バンブローの突進攻撃を避けつつ、二人は森の中を走って行く
「にゃ!?」
「今度はゲロルド、しかも大群だと!?」
森の中を抜けると今度は大量のゲロルドが二人を待ち構えていた
「ゲロルドの肉は欲しいが、バンブローに追われているうえこれだけの大群を相手にするのは無理だ。黒歌、この崖に上るぞ」
「りょ、了解にゃ!」
前門にゲロルド大群、後門にバンブロー大群、この二軍を相手にするのは無理だと判断した夏は後ろにある崖を登る。その途中であることに気づいた
「(ゲロルドが追ってこない?)」
地を移動することしかできないバンブローと違い、ゲロルドは空を飛べる。それなのに追ってこない
「(一体どういう事だ?)」
夏が疑問に思っていると、登っている崖の上から強力なプレッシャーを感じ取った
「な、夏」
黒歌も感じ取ったのか、冷や汗を流す
「サーゼクスさん以外で俺がビビるなんて一体どんな猛獣なんだ?」
恐怖を抱きながらも気になった夏は一気に崖を登った。するとそこに居たの
「っ!こ、こいつは『像熊』!?」
像と熊、二つの動物を合わせた巨大な猛獣が存在していた
『バォオオオオオ!』
像熊が吠える。その咆哮だけで衝撃波が生まれる
「あ、あ、あ」
圧倒的捕食者の存在に黒歌は体を震わす
「こ、こんなの勝てるわけないにゃ」
「勝手に決めつけるなよ黒歌」
「決めつけるなって・・夏はアレが怖くないの?」
「怖いさ、今にでも逃げ出してぇ。でもよぉ・・・あいつから漂ってくる匂いを嗅いじまったら、恐怖よりも味への好奇心が勝っちまった。どっちが先に喰うか、勝負と行こうぜ像熊!」
恐怖を振り払った夏は一直線に像熊に向かう。像熊はその巨大な腕を振り上げ、夏に降り下ろしてくるが、夏はすばしっこく動き回って像熊の攻撃を躱していく。ちょこまかと動きまわれるのに怒ったのかだんだんと像熊の動きが大雑把になっていく
「隙ありだ『火竜の鉄拳』」
一瞬の隙をついて像熊の腹部まで跳び上がった夏は、炎の拳を叩き込むが、大したダメージを与えることが出来なかった。像熊はその長い鼻を振って攻撃してきたが
「『火竜の咆哮』」
夏は火のブレスを吐きながら後ろに後退した
「バァオオオ!?」
ダイレクトに火を浴びた像熊は一瞬だが後ずさりした
「何だ?火を見るのは初めてだったのか?なら、もっと見ていきな!」
地面に着地すると、夏はもう一度炎のブレスを像熊に浴びせる
「バァオオオオ!!」
だが、その炎は像熊を怒らせるだけだった。像熊は火を浴びながら夏に突撃する
「(やば、間に合わねぇ!)」
火を吐くことに集中していた夏は避けるタイミングを完全にずらしてしまい、像熊の体当たりに備えようとした時、ふわりと体が宙に浮かび、像熊の突進攻撃を躱した
「は?」
呆れた表情をしていると、夏はそのまま、黒歌のいる所におりたった
「ぎ、ギリギリセーフだにゃ」
どうやら、黒歌が見えない触覚で夏を捕まえ、窮地を助けたらしい
「お前が助けてくれたのか黒歌?」
「私以外に助ける者がいたら言って欲しいにゃ」
「・・・いないな。サンキュー助かった」
助けたのに自分に礼を言わないことに剥れた黒歌に夏は頭を撫でながら礼を言った
「助けてくれた所でもう一仕事頼んでもいいか黒歌?」
「何となく嫌な予感がするけど、一応聞いとくにゃ」
「少しの間、あいつを止めること出来るか?」
「・・・出来ると思うけど、5秒が限界だと思うにゃ」
「充分だ。俺が動き回って気を逸らす、タイミングを見つけ次第、触覚で止めてくれ」
黒歌に仕事の内容を言うと夏は像熊の猿のように像熊の周りを動き回りながら攻撃していく
「バァオオオ!」
ちょこまかと周りを動き回られる上に、空腹も加わり、像熊はその怒りをぶつけるかのように大振りな攻撃をしていく
「ここにゃ!」
動きを封じるタイミングを見つけた黒歌は今出せる全ての触覚を使って、像熊の動きを封じた
「夏!」
「おう!喰らえ像熊、『火竜の槍手』5本!」
黒歌の声を聞いた夏は跳躍+炎の噴射で像熊の胸元まで跳ぶと、炎を纏わせた5本の指を突き刺す
「4本!3本!2本!1ッ本!」
落ちながら指の数を減らした抜き手で像熊の身体を突いて行く
「そして、こいつで終わりだ!滅竜奥義『紅蓮爆炎刃』!」
そして、止めと言わんばかりに今ある全ての魔力を使って、螺旋状に振るった両手から爆炎を伴った強力な一撃を放った
「はぁ、はぁ・・・やったのか?」
魔力を使い放たした夏は肩で息をしながら像熊をみる
「バァ、バァオオオオ」
だが、夏の渾身の攻撃を喰らったと言うのに像熊は立ち上がった。その足取りはおぼつかないが
「マジかよ」
今の連続攻撃でも倒せなかったことに夏は驚いていると、像熊は腕を振り上げる
「夏――!?」
黒歌の悲鳴が響くなか、像熊の腕が夏に降り下ろされる
「させません」
だが、聞きなれた声が聞こえると、無数の魔力の塊が像熊に当たる。その攻撃を喰らった、像熊は今度こそ息絶え、地面に倒れた
「今の声は」
「大丈夫ですか、夏様、黒歌様」
聞きなれた声のする方に二人が振り返ると、グレイフィアが立っていた
「グレイフィア、何でここに?」
「会議が予想より早く終わり帰ってきたら、白音様に二人が狩りに行ったと聞き、嫌な予感がしたため二人の魔力を頼りに追いかけてきたのです。間に合ってよかったです」
「予感って、女の勘ってホント・・怖えなぁ」
グレイフィアの話を聞いた夏は意識を手放し地面に倒れそうになったが、グレイフィアがそれを支えた
「・・・お疲れさまです、夏様」
寝息を立てて眠る夏に労いの言葉をかけながら胸に抱き寄せる。討伐した像熊、寝ている夏、黒歌を連れてグレイフィアは転移魔法で家へと戻った。そして、夏の目が覚めると、知人を呼んで共に像熊の肉料理を堪能した