ゴッドイーター アンソロジーノベル~the memory of love~ 作:鷹師
「アリサさん到着しました」
「ありがとうございます。お疲れ様でした」
様々な思い出を抱える地フェンリルロシア支部にファルコムは到着した。
前と同じ雪景色は凍りつくような空気を肺の中に送り込む。
再び自分は戻ってきたのだ愛する人にまた会うために。
「変わらないようだねアリサ君」
「そちらもお変わりなくアレクサンドル副・・・・・・いえ支部長」
この四年間で前支部長は退任、アレクサンドル副支部長は支部長になっていることは耳に入っていた。
「そんなことはないさ、私も歳をとったよ」
「リズや劉は元気ですか?」
極東に戻っても二人のことが気がかりだった。リズは原職不帰を果たしたそうだが劉については聞いていない。
「いろいろ聞きたいこともあるだろう、長くなるから中へ入りなさい」
「そうですね、またここでオウガテイルに襲われても彼はいませんから・・・・・・」
チクリと胸の奥で鋭く痛みが走るが、アレクサンドル支部長に連れられてロシア支部の重たいゲートを再びくぐった。
ロシア支部の談話室。暖かい空間に数人が集まりアリサを出迎えた。挨拶などが終わると支部長が口を開く。
「アリサ君、今は任務に出ているがリズは元気だ、明日にでも戻るだろう。しかし劉は・・・・・・」
「やはり復帰は難しかったのですか?」
「そうだな・・・・・・今は一線を引いて・・・・・・」
「ご飯が出来たアルー食べるアルー」
支部長の説明途中にすっきょんとうに明るい声と共に扉の置くから劉が現れた。
「劉!元気そうですね!」
「おかげさまアル隊長さん。今ではここのチューボーを任されているアルよ。ロシア人味付け濃いね、私は体が温まる料理研究中ヨ。チャーハン食べるアル!」
どんと目の前に置かれた器の中にはチャーハンが山盛りで入っている。ほんの少し生姜が入っているのだろうかいいにおいがする。
「ありがとう劉!いただきますね」
機内から軽いものしか食べていなかったのでこの出迎えはありがたい。
私が食べている間にみんなは解散し、支部長と劉が簡単にこれまでの経緯など説明してくれたがチャーハンに夢中で半分くらい聞き流していたのは内緒だ。
「ふぅ、ご馳走様でした」
「お粗末!アルね」
「はやいな・・・・・・さて、では本題に入るぞ」
新種のアラガミの目撃情報、サカキ博士に頼まれた任務を思い出す。
支部長はモニターに映像を映し出す。
四本腕のシユウ種がアラガミ四体を相手にそれぞれの腕を使って攻撃しているようだ。その腕の一本には神機と思われる武器が握られている。
「コードネームは『カンウ』と名づけられたがあれは・・・・・・」
「タカシですね?」
思わず呟いた。あの神機、そして腕輪はまさしく彼のもの。
「その通りだ。このカンウは人を決して襲わない、アラガミのみを捕食対象として動いている。そのカンウを最近このロシア支部周辺で見かけるようになった。そこでだ、アリサ」
支部長はまっすぐ私の目を見る。
「君の任務はカンウの調査および接触だ」
「討伐ではないのですか?」
本来アラガミとなってしまったものは仲間であろうと始末する。それがフェンリルのやり方だったはずだが今回の任務は討伐ではなく接触?
「そうだ。本来ならば情けは無用というところだが人を襲わないアラガミなどイレギュラー中のイレギュラーだ。うまくいけば懐柔して大きな戦力に出来るかもしれないと上は考えているらしい」
「そんな・・・・・・」
それじゃあまたタカシは実験動物のように利用されるだけ・・・・・・
「アリサ、アラガミが少なくなったこのロシア支部周辺にあいつが現れたのは何か伝えたいことがあるのではないかと私は見ている」
「なにか・・・・・ですか?」
「それが何かかはわからん。だがお前が適任だと思いサカキ博士に連絡したのだ。あいつは私たちの仲間だ。上に利用などさせん」
「それじゃあ・・・・・・!」
「あいつに伝言だ。『自由に飛べ』とな」
少し寂しそうだがやわらかい笑顔を支部長は浮かべた。
翌日、目撃情報を元に私は崖を下っていた。
一応極秘扱いであるため護衛はなく、移動用の車はあるが崖では使い物にならないため上に止めてきた。
落ちないようにゆっくりと慎重に崖を降りてゆく、ロシア支部のアラガミは減少したと聞いたが下のほうからアラガミのうなり声が聞こえるため注意している。
この高さでは満足に戦えない上に落ちたら一巻の終わり・・・・・・
そんなことを考えながら下っていると下のほうから風を切るような音が聞こえる。
――まさかコンゴウが私を狙って・・・・・!?
思わず下を見たそのときものすごいスピードで上がってくる影が見えた。
それだけじゃないそいつは飛んでいて腕が「四本」ある!
とっさに脚に飛びついたが間違いない!これはタカシだ!
「タカシ!!!」
カンウはそのまま一気に崖の上に出て脚にしがみつく私をつまみ上げ少し遠いところにおいた。
やっと会えた!言いたいことはたくさんあるがまずいわなければならないことがある。
「あの時はありがとう!あなたがいなかったら私はここにいることができませんでした・・・・・・それからごめんなさい、あなたをこんな姿にしてしまって・・・・・・・」
カンウは目を細め(たように見えた)翼ではない腕で私の頭の上に手を置いた。
私の言っていることは伝わっているだろう、しかし彼は言葉を発しない。
「しゃべれないの・・・・・・?」
――クゥァ・・・・・・
カンウは悲しそうに一鳴きすると体の一部からあるものを取り出した。
「・・・・・・これは!」
彼が取り出したのはメガネ、捨てられてなおも大切に持ち続けた母親のメガネ。
アラガミになってなおも彼はこのメガネを持っていたのだ。
――人間だったときの記憶を忘れないため・・・・・・
そう彼が言っているように思った。
「私は忘れません、タカシと出会い生きてきたこの毎日を!」
彼は満足そうに頷くと腕についている腕輪を外して渡してきた。
そして後ろを向くと大きく翼を広げる。
「支部長が!自由に飛べと言ってました!タカシ!愛しています!」
目から零れ落ちる涙を止める事ができずに私は彼の背中へ思い切り叫んだ。
彼も私もわかっている、アラガミになってしまった彼と私の糸は再び交わることはないのだと・・・・・・
カンウは苦しそうな咆哮と一緒に大空へ向けて飛び立っていった。
私は車に戻って彼との思い出を懐かしむように腕輪を眺め、あることに気がついた。
内側に何か彫ってある?腕輪をひっくり返してそれを見る。
――アリサへ、これはアラガミになってから書きました。だんだん文字の書き方も忘れてきてしまっていますがアリサの活躍も空から見ていました。とっても誇らしくうれしく思ってます。一緒にアラガミのいない世界を目指してがんばろうね愛しています――
腕輪のスペースを目いっぱい使った最後の彼のメッセージ。
私は涙を拭うと車のエンジンをかける、休んでなんかいられない。
彼の目指す世界のためにも一匹でも多く一日でも早くアラガミを駆逐しなければ!
私と共に彼もまたどこかで戦っているのだから!
景気よく元気よく車は走り出した。
――これが私の愛の記憶 アリサ・イリーニチナ・アミエーラ
完結しました!
応援してくださった皆さんありがとうございました。
今後また何か書きたくなるかもしれないのでそのときはまたよろしくお願いします。