ゴッドイーター アンソロジーノベル~the memory of love~   作:鷹師

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第十六章 傷跡

フェンリルロシア支部襲撃事件は終結した。

偏食フィールド発生装置の破壊により引き寄せられていたアラガミは我に返ったように四方へ散り、内部に残っていたアラガミは第一部隊と各地より戻ってきたゴッドイーターによって駆逐された。

 

リズの献身的な応急処置によって一命を取り留めた副支部長は息子の死を悲しむ暇もなく教団へ降伏を勧告。切り札であった偏食フィールド発生装置とスパイ件最大の戦力だったイワンを同時に失ったことにより教団側の首謀者がこれを受諾し、迅速かつ被害を抑えることに成功したが、その後すぐに再び意識を失い入院となったところに入れ違いで支部長が戻りロシア支部は統率を取り戻した。

 

タカシは連続かつ長時間のアラガミ化の影響でアラガミ化が急激に進行し、下半身が人間に戻らなくなってしまったため入院を余儀なくされた。

アラガミ化は禁止された。

 

リズは精神を病んでしまったようで精神病院へこちらも入院。

無理もない、初めての実戦で人間同士の争いに巻き込まれた上に瀕死の副支部長を自分の命が狙われているにもかかわらず出来る限りの蘇生手段を使って治療したのだから。

 

劉は事件の次の日にひょっこり帰ってきた。

服は赤黒く染め上がり、右腕にもつ神機で松葉杖のように体を支えながらボロボロの靴に生える感覚のないであろう脚を引きずり、たくましかった左腕を口にくわえて、二度と光を見ることのない左目の代わりともいえるような強い光を右目で放っていた。

その後意識を失ったが今は病院で治療を受けている。失われた左腕はなんとかつながるようだが目のほうは絶望的らしい。

強い生への執着心が彼をここまで連れてきてくれたのだろう。

 

遊撃部隊クルイローで唯一動ける私は事件で隊長を失った第三部隊の代理隊長に任命され、彼らと共に事後処理に当たっている。

その間も私はタカシの病室に欠かさず見舞いに行ったが元気そうな彼とは裏腹にゆっくりとしかし着実にアラガミ化は進行していた。こっそり医者に聞いた話だと現場復帰はもう出来ないらしい・・・・・・彼はまた私と戦うことを約束し、今日も元気に振舞っていた。

 

 

月日は流れ、リズは心のリハビリを兼ねて支部長の秘書に任命され、劉がちょうど体のリハビリを始められるようになったころ、私が極東に帰る一週間前となり私に最後の任務が与えられた。

「ウロヴォロスですか・・・・・・」

山のように巨大なアラガミ「ウロヴォロス」極東で戦ったことはあるがその威圧感を思い出し思わず呟いた。

「そうじゃ、近頃目撃情報が増えてな。警戒にあたっていた偵察隊がつい先ほど眠っているウロヴォロスを発見したのじゃ」

支部長室の椅子に腰掛けているウラジーミル支部長がパソコンをこちらに回して差し出すと、その中には言われなければ山だと思い込んでしまいそうになるほどじっと動かないウロヴォロスの姿があった。

「アリサ君第三部隊を率いてちょちょいとやってくれんかね?寝ておる今がチャンスなのじゃ。最後の任務として不足はないじゃろ?」

「任せてください。必ず仕留めます!」

第三部隊とのチームワークは良好、なおかつウロヴォロスが寝ているとあれば迷うことなどなかった。

楽しそうに頷く支部長に頭を下げて支部長室を後にした。

 

 

 

「近くで見るとやはり大きいですね・・・・・・」

体中にコケをはやした大きなアラガミ「ウロヴォロス」は寝息を立てることもなく背中を上にして丸くなっている。

「ベータ、狙撃位置につきました」

「デルタ、同じく狙撃位置に到着」

手筈どおりに狙撃手がポイントに到着したようだ。

「了解しました。あとはガンマ起こしてください」

位置についたバスターブレード使いの体が輝き、全エネルギーが剣へを注がれて大きく肥大化する!バスターブレード使いの大技「チャージクラッシュ」隙が大きい変わりに絶大な威力を誇る一撃をウロヴォロスへと浴びせかける!

――ズガァァン!

「攻撃開始!!」

驚いて体を起こしたウロヴォロスの弱点である複眼のある顔面目掛けて狙撃手が連続攻撃を浴びせかける。

嫌がるようにウロヴォロスは顔を背けるがそこに私がアサルトで追い討ちをかけると見る見るうちに顔の複眼が輝きだしついには体までもうっすらと発光する。

――ヴォォォォォォォォオオオ!

地響きを思わせるような咆哮、どうやら活性化したようだ。

活性化するとウロヴォロスの肉質は変化し銃での攻撃は効果が薄くなる。

ここからが小細工なしの真剣勝負!

しかしウロヴォロスは目の前に迫っているのにもかかわらず隊員たちは上を見上げている。

「皆さん何をしてるんですか!来ます・・・・・・よ・・・・・・」

隊員たちの視線を追っていくうちにどんどん言葉が尻すぼみになっていく。

上空に浮かぶ二つの影。圧倒的なスケールに思考がとまりそうになる。

絶望の具現化、目にしたものはウロヴォロスとウロヴォロス。

「こ、こんな・・・・・・」

地に降り立った二つの山はもとあった山と並びまさに山脈となった。

 

 

――いやな予感がする!

タカシはベッドから飛び起きて病室から空を見る。

明らかに異質な大きな三つの物体がここからでも十分確認できた。

――アリサはウロヴォロスを討伐するといっていた・・・・・・でも三体は無理だ!

思わず病室を飛び出し神機の格納庫へと向かう。

「やめるんだタカシ君!これ以上無理をすると人間に戻れなくなるぞ!!!」

後ろで医者の声がする。

自分はいつでも化け物だった。

その化け物をここ(ロシア支部)は受け入れてくれて、アリサが自分を必要としてくれた。

もう迷うことはない!

異常に気づいて格納庫の隔壁が降りてくるがアラガミの足ほど早くはない。

タカシは神機を掴むと隔壁をこじ開けてロシア支部を見上げた。

その後かぶりを振ると暗くおぞましい空へ向けて翼を広げた。

 

 

「ぐっ!!!」

ウロヴォロスの太い腕によるなぎ払うような攻撃によりガードをしてても壁に叩きつけられる。

戦場はまさに地獄絵図、ガンマは触手攻撃を受け続けて全身傷だらけ、デルタは光線に焼かれて蹲り、ベータは先ほど踏みつけられてからピクリとも動かない。

ついにガンマが跳ね飛ばされて壁面に打ち付けられると三対のウロヴォロスは次の獲物を見定めるように私を見る。

こんなところで・・・・・・こんなところで!

ふらつきながら剣を構えるも脚が言うことを聞いてくれない。

三体同時に複眼が光りだした。光線の合図だが避ける気力も残っていない。

――せめて心は屈しない!

思いっきりウロヴォロスを睨みつけて剣を構えて前へ一歩踏み出したとき。

光線を発射しようとした一番右のウロヴォロスの顔がはじけとぶように左へ向けた。

当然発射される光線はとなりのウロヴォロスに当たり・・・・・・

――ウヴォオオオ!

弱点の複眼へ味方からの攻撃を受けたウロヴォロスは更に左にいたもう一体を巻き込み転倒した。

よく見ると右のウロヴォロスの顔に何かがいる!あれは・・・・・・!

「来てくれたんですね・・・・・・」

最愛の人の姿がそこにあった。同時にもう彼が人間に戻れないことを知り夢であることを祈るが肌を焼くようなヒリつく空気が現実であることを思い知らせる。

「アリ・・・・・・サ!逃ゲ・・・・・ロ・・・・・・!」

微かに残る彼の声に突き動かされガンマの元へとたどり着く

「動けますか?」

「何とか・・・・・・」

幸い骨はやられていないようだが苦しそうだ。一刻も早くここから離れないといけない。

「ベータとデルタを回収します。辛いですがここが正念場です!彼らを救い出します」

ガンマは強く頷くとデルタを回収するべく足を引きずりながら壁伝いに移動を始めた。

すばやいバッタのような動きに翻弄されて三体のウロヴォロスは絡み合うように何度も転倒する。その間をすり抜けてベータの回収を急ぐ。

「ベータ!立てますか?」

返事がなく、かなり状態は悪そうだ。

担ぎ上げるだけの力は残ってなく、引きずるようにして現場の離脱を試みる。

何度もウロヴォロスに踏まれそうになるがそのたびにタカシは注意をそらしてすんでのところで踏まれないようにしてくれた。

自らの体が傷ついて体からオラクルが溢れ出しても彼は飛ぶことをやめない。

私がウロヴォロスから遠ざかったとき、三体いたウロヴォロスは一体動かなくなっていた。

「ガンマ、救助要請を本部に送りました・・・・・・これで・・・・・・よかったですね?アルファ」

デルタを回収したガンマが満身創痍になりながら報告する。

「よくやってくれましたガンマ。私も限界のようです・・・・・・」

限界を超えた体は言うことを聞かずにタカシの姿を捉えていた眼は目蓋の裏へと隠された・・・・・・

 

私が目覚めたのは病院で、何もかもがすべて終わった後だった。

ガンマは私が気絶した後もみんなを守るように気を保ち、救助ヘリが来るまで必死に耐えてくれていたようだ。幸い第三部隊は誰一人としてかけることなく無事に生還できた。もっとも復帰には数ヶ月かかりそうだがタカシが来なかったらやられていただろう・・・・・・

それからタカシは私が極東へ帰る日になっても戻ってこなかった。


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