ゴッドイーター アンソロジーノベル~the memory of love~ 作:鷹師
雨に濡れた自室の窓を見ながらベッドに寝そべる。俺にはそれしかできなかったし、たぶんそんな気分だった。
俺を見た時のアリサの怯え、困惑に満ちた顔。あれはそう……
――化け物!
――こっちへ近づくな!
――汚らわしい子供、忌むべき子供。生まれてくるべきではなかったのだ。
過去の記憶がフラッシュバックし、無意識に頭を押さえる。
副支部長に言われたことを思い出す。
「お前のおかげで我々は助かったが、私はお前を二重に傷つけてしまった。本当にすまない。」
使わざるを得なかった。たとえリスクがあるとしても、アレを使わないと誰も助けられなかった無力な自分が情けない。
短く息を吐き窓から目をそらす。
――もう眠ろう
そう思ったとき、部屋にノックの音が響き渡った。
「アリサです。お話があります」
開けるべきか少し迷ったが俺はゆっくりと立ち上がりドアへと向かった。
部屋の中に気配があるので、彼がいることは間違いない
ドアを開けてくれるかは賭けであるが私はまだ彼にお礼も言ってないしそれに……謝りたい。
ゆっくりと動いた気配はドアで立ち止まり、バシュッと音を立てて私と彼を隔てていた壁がなくなる。
「あの……!入っても……いいですか?」
絞り出すような声になってしまったが尋ねる。
「何もないけどどうぞ」
スッと身を引く彼も少し緊張しているようでこちらの表情を見ないようにしている。
私は部屋に入るとまたバシュッと音を立ててドアが閉まる。唯一の光源だった廊下の明かりがなくなり、部屋は一瞬暗くなるがすぐにタカシが明かりをつけてくれた。
「暗くてごめんね、そこにあるベッドにでも座って」
タカシの指の先にはどの部屋にもある共通のベッドがあった。椅子もあるがどうやら椅子としてではなく荷物置きになっているようだ。
彼がベッドの隣に立っているので言われたとおりにベッドに座る。心なしか人のぬくもりを感じた。
そのぬくもりに後押しされて口火を切る
「さっきは助けてくれたのにお礼も言えずごめんなさい。私……その……副支部長から理由を聞きました。」
「俺が化け物だって?」
その言い草に思わずムッとする。
「そんなことは思いません!」
「ごめん、冗談……ブラックジョークだったね。副支部長からどこまで聞いてる?」
「あなたがアラガミと双子であったこと、そしてその関係かあなたはアラガミに変化できること。そしてその力を使いすぎると体がアラガミに飲み込まれてしまうことは聞きました」
「結構詳しく聞いたみたいだね。そう、俺はアラガミと一緒の体内で生まれた。俺の母親は人間だったのだけどアラガミの集団に襲われて気絶しているところを運よく通りがかりのゴッドイーターに救われた。吊り橋効果かな?俺の母親とそのゴッドイーターは恋に落ちて数週間後、母は妊娠した。双子だった片割れが俺、そしてもう一人が……アラガミだった。」
一度口を閉じると彼は辛そうに眉を顰めそのあとの言葉を続ける。
「両親は俺たちを産まないという選択肢を選んだ。だけど誰にも予想できないことが起こった。お腹の中のアラガミの反応が消えたんだ。双子は一人になり両親は産むことを決意。そして俺が産まれた夜……父が任務で死んだ。アラガミに食われたらしい。そしてそのことで気を病んだ母は俺を研究機関に売りとばしその後薬物中毒で死んだと聞かされたよ。正直母親の顔は覚えていない。残ってるのは……」
彼はポケットからメガネを取り出した。そのメガネを見る彼の表情は胸が締め付けられる。
彼が時折見せる諦めたような表情は幼少期の出来事が関係しているのだろう、両親を亡くし、研究機関で独りぼっちの孤独の中ゴッドイーターとして育てられる……他人とは思えなかった。
彼の言葉は続く。
「研究機関での出来事だったんだ俺がアラガミに変化できたのは。薬物投与で暴走した俺は体の一部をあの時のようにシユウへ変化させた。それから先俺は化け物呼ばわりされて生きてきた。副支部長だけだよ俺を人間扱いしてくれたのは」
彼の人見知り、やさしさの理由が紐をほどくように理解できる気がした。
「だからね、アリサ。化け物である俺に近付いちゃいけないんだ」
その一言で冷たい感情が沸き起こる。
「……どんびきです」
「……え……?」
「あなたはそうやって自分が不幸だと悲劇のヒロインぶって周りの気持ちも考えずに生きてきたんですか?生死を預ける仲間でしょう?私たちは!裏切られたから誰も信じないってそういうつもりですか?」
タカシは豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くしているがさらに捲し立てる。
「私だって目の前で両親をアラガミに食べられてます!同情がほしいわけじゃありません!それで精神を病んであろうことか上司を狙撃しました。おかげでその上司はアラガミ化してその上司を止めるためにたくさんの人が傷つきました!でも前のリーダーは全部丸く収めて私に気にするなって言ってくれました。上司もです。意味わかりませんよね?全部私のせいなのに!要するにあなたが特殊な体質であっても大切な仲間だってことですよ!馬鹿にしないでください!そんなことであなたを嫌いになるわけないでしょう!?」
あとあと考えてみればかなり支離滅裂だったと思う。それでも彼に伝えたいすべてを伝えたように感じた。
タカシは少しの間下を向いていたが真下の床に滴が落ちる。
「俺は……君が……アリサが好きだから傷つけたくなくて……」
途切れ途切れの言葉と嗚咽。私は思わず彼を抱きしめていた。
「私も……あなたが好きです。あなたを守りたい」