東方紅緑譚   作:萃夢想天

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どうも皆様、サボリ癖がついて情けなさを痛感する萃夢想天です。

ここ最近は本当にスランプと言いましょうか、筆が進まなくてですね。
やる気の問題と分かってはいるんですが、どうも踏ん切りがつかず、
今回もこれまでに比べて著しく品質の下がった回になるかと思います。

読者の皆様、どうか慈悲深く広い御心で見守ってください!
情けない奴めと喝を入れてくだされば、私も目を覚ますと思います!


それでは本腰を入れて、どうぞ!





第七十八話「緑の道、主に仕えし剣たち」

 

 

 

 

 

日も既に暮れ始めた頃になって、僕は文さんの案内に従って妖怪の山へと一目散に駆けていた。

彼女が言うには、つい先ほどこの場所で異常な妖気の反応があったらしい。人間である僕には

反応も何も分からないけど、僕の中にいる魔人デュリアルが何の反応も示さなかった時点で、

彼にも探知できない類のものだったのだろう。もしかしたら面倒くさがっただけかもだけど。

 

もしそうだったら後でどうしてやろうかなどと考えつつも、僕は眼前にそびえたつ薄暗い山の

斜面に目を向けながら、数メートルの距離を開けて飛行する文さんに何とか着いていっている。

この二週間ほどはまともに紅魔館の外に出られなかった彼女だけど、流石は新聞記者とでも

言っておくべきか。その速度に落ち目など見当たらず、着いていくのが精一杯な僕だった。

 

 

「あれは!」

 

「文さん? どうかしましたか⁉」

 

能力を連発して瞬間移動のような方法で後を追っていると、山の斜面の少しばかり上を飛んで

いた彼女が、どこか一点に視線が釘付けになった途端、猛スピードでそちらへと向かっていく。

僕の言葉に耳を傾ける暇などないその様子に、いよいよ只事ではないようだと気を引き締めた。

 

文さんの飛び去っていった方向へ移動していくと、少し先で大ぜいの天狗たちがぞろぞろと

動き回っているのを発見し、彼女もその中心地点へと飛び込んでいくのがかろうじて見えた。

正直なところ、妖怪の山と天狗たちには良い思い出というか関係が微塵も無いため、好んで

来るつもりも歩み寄る気もなかったんだけど、彼女が行くんだから僕だって行かないとダメだ。

 

周囲を忙しく飛び回る天狗たちと目を合わせないようにしつつ、彼女の降り立った場所へと

少し遅れてから着地してみると、そこにはあの日に僕らを見逃してくれた天狗の長、天魔さんが

部下を引き連れて立っていた。やはりというか、今回の件でも天狗の軍を指揮しているのか。

 

 

「天魔様!」

 

「_________む? おお、文ではないか。それと其方も、久しいな」

 

「どうも、御久し振りでございます」

 

 

迷うことなく話しかけにいった文さんに続いて、僕も遠慮しがちに声をかけさせてもらう。

見たところ忙しそうだったし、何より今の僕らの立場は執行猶予付きの罪人なんだから、

不用意に相手側に話を持ち掛けるべきじゃないはずなんだけど。彼女はそうも言ってられない。

なんたって、自分の種族、要するに仲間に一大事が起こったとあっては気が気じゃないだろう。

僕だって、紅魔館のみんなに何かがあったらと思うと、平静でいられる自信などありはしない。

 

一族の頭を務める相手に声をかけると、こちらの想定以上に気さくに言葉を返してくれた。

少なくとも、天狗一族の掟を破ってしまった罪人と、それを脱獄させた人間を前にしてできる

態度ではないだろうと思う。だからこそ、軽いフレンドリーさがかえって不気味さを増させる。

 

警戒を怠らぬように身構えていると、またも天魔さんがこちらの緊張を無視して語りかけてきた。

 

「なんだ、久方振りの挨拶程度に出方をうかがうか、人間。中々に小心者よな、実にらしい」

 

「…………………」

 

「心配せずとも危害を加える気などありはせんし、もうその必要もなくなるじゃろうて」

 

「え?」

 

「あの、それはどういう………」

 

 

からからと笑ってそう語った天魔さん。けど、彼が最後に漏らした言葉に妙な引っ掛かりを

僕と文さんは、どういうことなのかと尋ねてみる。すると彼は、浮かべた笑みを崩さず答えた。

 

 

「なに、簡単な事よ。其方は先日に交わした約束の通りに、八雲 縁なる侵入者をこの山へ

引っ張り出してきたではないか。そこに其方の意図が(・・・・・・・・・)あろうとなかろうと(・・・・・・・・・)、我らが言葉を以て

取り決めた約定には間違いなかろう。よって、文と其方に科せられた罪は不問となろうよ」

 

「天魔、様?」

 

「どうした文。裏切りの汚名と投獄が失せたのだ、もっと喜んでもよかろうぞ」

 

「………天魔さん。それはつまり、あと一日しかない引き渡しの期限も無くなった、と?」

 

「そういう事になるな。なんだ、其方は罪に問われていた方が幸せであったか?」

 

「いえ、そういうわけでは」

 

 

こちらの反応が思っていたより薄かったようで、天魔さんは僕と文さんの顔を交互に見比べ、

皮肉気な言葉を持ち出して強引に話を打ち切ってしまった。いったいこれは、どういう事なのか。

 

本来ならば明後日には約束の期限を迎え、文さんを再び、あの狭く汚らわしい牢屋のような場所へ

引き渡さなくてはならなかったのに、彼の話ではそれをする必要がなくなった事になっている。

嬉しくないわけがないんだけど、だからってこうもあっさり問題が解決すると逆に不気味だ。

不審に思っていた僕はそこで、二週間ほど前の天魔さんとのやり取りの状況を思い出して気付く。

あの時の彼の反応から察するに、彼自身もまた、今回の一件で文さんを天狗一族の裏切り者として

扱うことをよく思っていなかったのではないだろうか。と言うより、天狗という種族を預かる身

としては、今回のような案件は落としどころを見つけ、秘密裏に処理したかったのではないか。

 

そう考えると辻褄があってくる。思い返せば、彼は最初から文さんの事を悪く思っているようには

見えなかったし、むしろ庇おうとすらしている節もあった。まぁ、部外者である僕があの牢獄で

起きていた、おそらく不祥事と思われる事態を目撃して報告したのも一役買ってるとは思うけど。

とにかく彼は、多少無理やりになったとしても、事を早めに丸く収めておきたかったのだろうと

考えられる。ならばその手に乗らない手は無い。彼の提案を汲めば、僕らは晴れて自由の身だ。

 

 

「しからば、其方の任はこれまで。苦労であったな、人の子よ」

 

「………天狗の長を務める御身からの御言葉、平に頂戴仕ります」

 

「ふははは! 仰ぐ主君を持つ身でありながら、まこと可笑しな者よの!」

 

「気に入っていただけたのなら幸いです」

 

 

救われた形になっている以上、御礼の言葉を欠かしてはスカーレット家の従者の名前に泥を塗る

事になりかねない。そう思って必要以上の敬意を払い、僕は天魔さんへ深々とこの頭を下げた。

主人がいるのに他者に平伏するような行動がおかしいのか、彼は実に愉快そうな笑みをこぼす。

 

ひとしきり笑われてから一呼吸を置いて、僕は今一度彼に頭を下げながら、願い事を申し出る。

 

 

「天魔様。この矮小な人の身に、ひとつ願いを申す許可をいただきたく思います」

 

「くく、良いぞ、良い。其方は並に勝る非凡、好きに述べるとよい」

 

「では…………八雲 縁の捜索を手伝わせていただけませんでしょうか?」

 

「ほう? 文を救い出す役目を終えてなお、奴を探す理由が其方にはあると?」

 

「………ええ。少々、聞きたいことと知りたいことが増えまして」

 

「承知した。山は我らが領分故、其方の力は不要だが、幻想郷は広い。好きに探せ」

 

「ありがとうございます」

 

 

僕が願い出たのは、今後も彼_________八雲 縁を捜索することへの意思表明と許可。

探すこと自体に許可は必要なんてないけど、天狗の長である彼に話を通しておくという事は、

それだけで充分意味のあることだ。もしかしたらまた、この山に彼が現れるかもしれないし。

 

付け加えるなら、交友関係を広げておくという事も視野には入っている。僕の基本的な活動の

範囲は、紅魔館とその周辺、もしくは人里くらいなものだから、有事の際に手を伸ばすことが

出来る場所と人脈を作っておくことも大事だ。一番の目的は、彼に僕の事を聞きたいからだけど。

 

初めて出会ったあの日、彼は僕のことを既に知っていた。ならば他にも、多くの事を知っている

としてもおかしくはない。それに、どうして天狗一族を攻撃したのかというのも少し気になる。

 

 

「では、山の捜索は天狗の方々に任せます。文さん、僕はまた別の場所を探しますので」

 

「え、あ、はい。分かりました………って、私も行きます!」

 

 

天魔さんへと別れの挨拶を忘れず、一礼をしてから僕は山を下りるべく能力を発動した。

てっきり文さんはもう妖怪の山へ、もとい自分の拠点へ戻ってしまうものかと思ってたんだけど、

着いてきてくれるようで、能力で瞬間移動する間際に慌てふためいた声で迎合する意を告げた。

 

さて、僕らを追い詰めていた時間の制限は無くなったわけだけれど、これからどうするべきか。

八雲 縁についての情報が少な過ぎると改めて実感した僕は、とりあえず日が暮れてきている為、

お嬢様方の御世話をするべく一度紅魔館へ帰ろうと決め、進行方向を霧の湖へと変更した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜 紅夜と射命丸 文の両名に科せられていた時間の束縛が無くなり、罪の枷からも見事に

解放されていた頃、彼らと天狗が血眼になって探している件の人物、八雲 縁は冥界にいた。

 

白くうすぼんやりとした半透明の人魂が漂い、現世とは違って不安を煽るような冷たさを孕んだ

空気が肌を撫でるように流れるなか、幽玄の世界と景色の中へ、彼と彼に追従する影が現れる。

長身巨躯の『柱』の影に、二本角の『酔』の影、獣の如き耳と尻尾の『響』に、小柄な『河』と、

中心にいる縁を取り囲むようにして足元から出でた四つの影は、無言のままに佇み、主命を待つ。

 

それぞれ異なる影を従えて立つ縁は、布越しに隠された視線をただ一点に留め、見据える。

 

 

『冥界の白玉楼。こんな形で再び来ようとは、思ってもみなかったな』

 

 

どこか遠い日を懐かしむような物言いで独白した彼は、迷うことなくその足を眼前の屋敷へ向け、

本来ならば家主に取り次ぐなどの必要工程を一切無視して、ずかずかと我が物顔で侵入を果たす。

彼が悠然と踏み入れば、当然彼に付き従っている残りの四つの影たちもまた、遅れて歩を進める。

こうして一人と四つの小団体御一行は、見ることすら辟易するであろう平坂の階段を上らずに、

苦も無く冥界の亡霊姫がおわす桜の門をくぐり抜けていった。だが、彼らの歩みはそこで止まる。

 

 

「何者だ_________________って、縁さん?」

 

急接近してくる気配を察知した縁が立ち止まると、彼らの数歩先に見覚えのある少女が現れた。

おかっぱに近い髪型に純白色の髪質とくれば、縁には思い当たる人物などたった一人しかいない。

 

 

『魂魄 妖夢か。久しいな』

 

「あ、ハイ。お久しぶりです」

 

 

白玉楼住み込みの庭師でありながら剣術指南役を仰せつかっている、白髪の少女剣士と呼ばれる

人物であり、この屋敷の主人の従者も兼ねている苦労人(はたらきもの)の、魂魄 妖夢その人である。

 

彼女と縁がこうして顔を合わせるのは二度目ではあるが、一度目は今より一か月以上も前だった。

そのため、彼女はどこかしら懐かしいものを感じながら、彼からの挨拶に対して律儀に応えたの

だが、彼を取り囲むように佇む正体不明の四人を見て、ようやく違和感に気付く事が出来た。

 

妙だと理解した彼女はすぐに、目の前にいる縁自身も以前とどこか違う、おかしいということに

気付き、すぐさま腰に帯刀している得物に手を掛けて臨戦態勢を整え、念の為に会話を試みる。

 

 

「縁さん、一つお伺いしますが、そちらの方々は何者ですか?」

 

『何者かと問われると返答に困るが、そうだな…………我々(わたし)の一部となった者、と呼ぼうか』

 

「仰っている意味は分かりませんが、あなたたちから漂う気配には尋常ならざるものがあります」

 

『尋常ならざる、か。魂魄 妖夢、やはりお前は優秀だ。是非とも我々の力に欲しい』

 

「…………これはいよいよ妙な具合ですね。正体の分からぬ輩は、ここには入れられません!」

 

『仕事熱心なものだ、そうでなくてはな。だが我々はこの先に用があるのだ、一つどうだろう

この私と_______________剣で試合おうではないか。前の決着も、うやむやなままだろう?』

 

 

話し合いは可能であることに少なからず安堵を覚えた妖夢だったが、それでもよくよく集中して

気配を探ると、前に会った彼とはまるで別人のように禍々しい力をまとっていると分かり驚く。

それだけでなく、彼の周囲に佇んでいる四つの影にどことなく見覚えがあり、記憶を探って外観が

一致する相手を見つけ出すと、今度こそ驚愕に目を剥く。神の一柱に荒ぶ鬼、それに妖怪が二人。

目の前にいる彼らは、間違いなく異端であり外敵であると認識した妖夢は、今度こそ躊躇う事なく

帯刀されていた得物を抜き放ち、虚ろな冥界の風景を映す刃を構え、その切っ先を縁へ向けた。

 

彼の言う通り、以前の決着はうやむやなままに終わることとなり、結果的に彼と交友を深める

ことにはなったものの、それでも妖夢としてはやはり、剣での決着はつけたいと望んでいたのだ。

それを見透かされたことに若干憤りを感じつつも、様子のおかしい彼を正気に戻すためと理由を

付けて、彼の提案を飲むことに決める。腰を落とし、刀を両手で確かに握り、中段の構えを取る。

 

 

「受けて立ちましょう、いざ‼」

 

『ああ、手加減は無用だ。私も、今度こそ本気を出すことを誓おう』

 

 

妖夢の闘気を浴びて、縁も自身の言葉通りに決着を果たすべく、腰の業物『六色』を抜き放つ。

昼も夜も関係なく薄暗い冥界の空を、手入れされておらず所々欠けたままの刀身が映し出し、

かえってその刃の歪さと粗野な狂気を助長させる。磨かれざるが故に、出で立ちは妖刀の如し。

 

両者ともに自身の得物を手にしたことで、緊張し始めていた空気が一瞬でピンと張り詰める。

縁は刀を右手に持ったまま隙を晒す棒立ちで、妖夢は受け継がれ培ってきた魂魄流の構えで、

互いの剣の鋭さと放っている戦意を感じ取る。今自分のいる一歩先は、油断ならぬ死地なのだ。

 

 

「魂魄流剣術頭目代理、魂魄妖夢_____________推して参ります‼」

 

『銘は六色、業は八雲、名は縁_______________武勇を誇るは今‼』

 

 

己の背負うものと名を高らかに掲げ、主に仕えし剣たちは刹那の先を見据え、鬨の声を上げる。

 

 

 

 








いかがだったでしょうか?

うーーん、短い! 前は9000字が当たり前みたいになっていたのに、
今では5000も書くのがやっとな状態とは、我ながら本当に情けない!

五月になれば例大祭があるから、そこで薄れ始めている東方への愛を
再充填してくれば、きっと前みたいな本調子に戻れると願いましょう。
というか今回も、雨など降らずに晴れてほしいです。でも金ががが。


それでは次回、東方紅緑譚


第七十九話「緑の道、未熟者だから」


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最近だらけきっている作者への喝も、よろしくお願い申し上げます!

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