東方紅緑譚   作:萃夢想天

82 / 99


どうも皆様、先週の土曜日投稿をサボった萃夢想天です。

本当に申し訳ございませんでした! 特に何も無かったんですが!
強いて言えば、下書き用のメモを埋めてなかったと言いますか………。
どう転んでも言い訳にしかなりませんので、ここまでとしましょう!

前回は、縁と紫様が衝撃的な決別をしてしまいました。
今回は彼のその後と、久々にもう一人の主人公が登場します。

それと、前回の次回予告と今回のサブタイトルが変わっている点について。
本来ならば今回の話が間に入るにも関わらず、完全に忘れてしまっており、
急遽思い出したために無理やり詰め込んだので変わった、という事です。
重ね重ね、申し訳ありません。本当に深く反省しております。


長くなってしまいましたが、本編へ行きましょう!
それでは、どうぞ!





第七十七話「緑の道、ただその為だけに」

 

 

 

 

 

いつもと変わらぬ日常が続く幻想郷、その広大で小さな土地のとある場所にて。

 

心無き兵器である八雲 縁が、自らの主人である八雲 紫のもとから去り、離反した頃。

別の場所で起こっている出来事など露ほども知らない僕、十六夜 紅夜は目的地に到着していた。

 

僕が暮らしている紅魔館から出立した当初は、現在探しているある人物についての情報を求め、

命蓮寺という場所へ足を運んだのだが無駄足に終わり、次なる手がかりを探して人里に居を

構えている小さな雑貨店へ向かっていた。外出時には日が南の空に昇りきる前だったのに、

今では西にある山々に近い位置まで降りてきてしまっていることが、時の流れを感じさせる。

 

さて、ともかく今は彼についての情報を得ることが先決だ。その為にここへ来たんだから。

 

意識を過去から今へと向け直した僕は、命蓮寺の村紗という方からの情報提供を受けて、

急ぎ足でここまでやって来たわけだ。休店日の可能性も考えていたけど、どうやら杞憂らしい。

つい先ほど、店の中からお客さんが品物を買って出ていくのが見えたから、営業はしてる。

 

こんなところでいつまでも立ってるわけにもいかない。息を整えた僕は店の扉に手をかけた。

 

 

「ああ、いらっしゃい…………おや、君は」

 

 

扉を開けて店内に入ると、そこには当然と言えば当然だが、この『香霖堂』の店主がいた。

 

一本だけ妙に跳ね上がったクセ毛と、そこから流動的に垂れ下がるくすんだ白色の短髪で、

前髪の下からのぞく金の瞳の前には、上の(ふち)が無いタイプの眼鏡を着用している。

身長は高くも低くもなく、強いて言えば外見年齢から割り出した平均より少し上程度。

黒と青の左右非対称なツートンカラーの、和洋折衷の言葉が当てはまる服に身を包んでいる。

 

同性から見ても眉目秀麗で、知的かつ穏やかな雰囲気をまとう彼は『森近 霖之助』という。

 

彼は人里のはずれ、魔法の森側にこの雑貨店を構える男性で、聞けば人間と妖怪のハーフだとか。

二十代前後の外見からは分からないけど、実際はこの幻想郷でも指折りの長寿とも聞いている。

ちなみにこれらの情報は、よくこの店に買い物に来るという咲夜姉さんによるものだ。

 

初対面でありながら相手の情報を知っているというのも、何だか昔の自分に戻ったようであまり

気分がよくないけど、今は状況が状況だからなんとしてでも彼から情報を得なければならない。

 

「君は、ふむ…………」

 

 

紅魔館で匿っている最愛の人を想って決意を改めていると、森近さんが読んでいた古い本を閉じ、

眼鏡を中指で軽く押し上げてからこちらを凝視し始め、何やら探りを入れるように見つめられる。

 

最初、僕の着ている黒づくめの燕尾服が珍しいからまじまじと見ているのだと思っていた僕は、

彼から送られてくる視線が、そういった珍しいものへ向ける好奇ではないと遅れて理解した。

そうして眼鏡の奥の瞳が僕を見据えて十秒ほど経った後、ようやく彼が閉じていた口を開いた。

 

 

「ああ、済まない。着ている服も珍しいものだけど、何より君の顔つきに引っかかってね。

誰かと思ってよくよく見たら、ピンときたよ。なるほど、君が魔理沙の言っていた人か」

 

「魔理沙? 霧雨 魔理沙さんのことですか?」

 

「魔理沙のことを"さん"付けで呼ぶ人を初めて見たけど、君が言ったその魔理沙で合ってる。

新聞でも君の事は知る機会が多かったからね。初めまして、咲夜さんの弟なんだろう?」

 

「ええ。姉共々、今後はこちらに寄らせていただく事になるかと」

 

「ははは、これはまた、思わぬ得意先が出来そうだ」

 

 

言葉を交えたのはこれが初めてだし、交えた回数だってたった数回。けど、それで分かった。

よく「人は見かけによらない」なんて言うけれど、彼の場合は見かけ以上のものがあるようだ。

 

凛とした佇まいや落ち着いた物腰から、きっと冷静沈着で知性あふれる男性だと思ってたが、

今の数回の会話だけでハッキリと理解できた。イメージしてた以上に彼はクールな人だろう。

そうなると話は早い。彼ならばおそらく、話の理解も進行もつつがなく進められるはずだ。

 

こちらの想定以上の相手だと分かって内心喜んでいると、ふいに彼が話しかけてきた。

 

 

「しかし、『姉共々』か。前に魔理沙から君の話と聞いた時には、失礼ながらあまり姉弟間の

仲が良好とは言えないものだと感じていたんだけど。魔理沙にデタラメを吹き込まれたかな」

 

「いえ、魔理沙さんの仰る通りでしたよ。もっとも、以前は、ですが」

 

「改善できた、ということか。いやいや、得意先の人間関係が円滑なのは喜ばしい事だ」

 

「ありがとうございます。それにしても、まだ名乗ってもいないのによく分かりましたね」

 

「君が彼女の弟だって? 新聞に書いてあったのもそうだけど、何より君と彼女は似ている」

 

「似てますか?」

 

「ああ、そっくりだよ。彼女を男性に生まれ変わらせたら、間違いなく君と同じ外観だろう」

 

話の内容は、彼が魔理沙さんから聞いていた僕らの関係の食い違い。確かに彼女が僕と交流を

持ったばかりの頃は、まだ姉さんの記憶が戻っていなかったし、僕自身も死ぬ前だったから、

彼女が今の僕らを知らなくても当然だ。むしろ、今の姉さんを知ったらどうなることだろうか。

しかし、この森近さんは本当に優秀な人間だ。雑貨店を切り盛りする店主というだけはある。

客商売をする側としては当然か定かではないけど、相手の表情や外見を素早く的確に分析し、

自分から話しかけて流れに乗せる技法が実に鮮やかだし、相手を喜ばせる事にも長けている。

姉さんに似ていると言われて嬉しくなった僕は、これが商売人の卓越した会話技能であると

気付くのに時間を要する失態を犯した。この僕を出し抜くなんて、この人かなりのやり手だ。

 

人を乗せるのが上手いと言うのか。なんて感心していた僕に、彼は店主らしい口上を述べる。

 

「さて、本日は何をお探しかな?」

 

 

そう言って両手を軽く広げ、狭い店内に所狭しと置かれた商品を見せるようにして振り向く。

流石と言ったところだろうか、初対面であろうとも客というだけで暗に買い物を進めている。

商売人として彼ほど優秀な人間はいないだろうと感心しつつ、僕は本題を切り出す事にした。

 

 

「売ってほしいものは、物品ではなく情報なのです。店主さん」

 

「情報? 申し訳ないけど、僕は探偵紛いの事はしていなくてね。それとも、お客さんが

購入していった品物を聞きたいとかかい? けど、それも個人の問題だから遠慮願うよ」

 

 

僕が話を切り出した途端、彼は目ざとく反応して、こちらの予想以上の反論を重ねてくる。

本当に驚いた。一言だけ「情報がほしい」と言っただけなのに、そこまで思考が回るとは。

どうして彼がこんな雑貨店を営んでいるのか疑問が湧いてきたけど、ぐっとこらえて言葉を返す。

 

「僕だって別に、個人の購入した物品を聞いて回るような、怪しい探偵ではありません。

聞きたいことはこの店のことではなく、貴方自身がついこの前に見聞きしたある人物について」

 

「だから、僕は探偵の真似事はしていないよ。それに、いくらお金を積まれたとしても、

客商売をしている身としては、信頼関係が揺るぎかねない個人情報の漏えいは避けたいんだ」

 

「そこをなんとか。このままだと、僕の大事な人に危険が及ぶんです」

 

「と言われてもね…………うぅん」

 

 

彼の言い分は商売人としては当然のもので、至極もっともだ。けど、今は曲げてもらいたい。

命蓮寺で空振りの結果に終わってしまった以上、もう残された希望は彼しかいないのだから。

それに聞きたいのは彼が相手をした客ではなくて、彼が目にした八雲 縁についてなんだけど、

こうなったらもう、いっそのこと事情を全部話してしまった方が早く収まるんじゃないだろうか。

でもそうなると、文さんの名誉にも関わってくるし、どうしたらいいのかと頭を抱える。

 

どうにかして話を聞いてもらおうと粘る気でいた直後、僕の背にあった店の扉が荒々しく開かれ、

同時に強風と言う言葉では生温く感じられるほどの突風が吹き荒び、一気に店内に侵入してきた。

 

何事かと驚く僕と森近さんの視線の先には、ここにいるはずのない人物が姿を現していた。

 

 

「文さん、何故ここに⁉」

 

扉を開け放って香霖堂店内に颯爽と現れたのは、紅魔館の僕の自室にいるはずの文さんだった。

彼女がどうしてここにいるのかと尋ねたのだが、何やら慌てふためいた様子の彼女はそれを遮り、

いつもより数段早く回る口で事情を説明し始める。

 

 

「良かった! 命蓮寺に行くと言っていたので向かったんですが、香霖堂へ行くように言ったと

星さんから聞いたので、すぐに飛んできて…………じゃなくて、一大事なんですよ紅夜さん!」

 

「お、落ち着いてください。まずは何が起きたのかを」

 

「妖怪の山で先程、異常な量の妖気を感じ取ったんです! 明らかに只事じゃありませんよ!」

 

「…………妖怪の山で、ですか?」

 

「はい! もしかしたら、私たちの探してる………」

 

「分かりました、すぐ向かいましょう」

 

 

尋常ではない慌てようから察するに、よほどのことが起こっているのだろうと推測する。

妖怪ではない僕では感知できないけど、あの文さんがこれほど狼狽するのだから危険だろう。

 

すぐに妖怪の山へ向かうと決めた僕は、再度振り返って森近さんに一応礼を述べておく。

 

 

「お騒がせしてすみませんでした。今度は、ゆっくり買い物に来たいものです」

 

「あ、ああ。うん、期待させてもらうよ」

 

「では」

 

 

軽く頭を下げ、僕はそのまま店から立ち去り、待っていた文さんと共に妖怪の山へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山で二柱が弾幕ごっこを行い、そこから天狗と妖怪の賢者が介入した大事に発展した

出来事で起こった熱が沈静化された頃、その中心だった縁は、山から遠く離れた場所にいた。

人里からそれなりの距離を置いた北の森林地帯。そこを流れる小川の辺に彼の姿はあった。

せせらぐ川の水面を無言で見つめている彼の背は、見る人が見ればさぞ画になると喜ぶような、

一枚の絵画のような立ち姿だった。無論、今の彼を目視できるものなど、一人もいなかったが。

 

そんな彼は、自分の後ろについてきた二人へと振り返り、改めて自己の能力を把握する。

 

『…………私の能力は(つな)ぐ事。では我々(わたし)の能力は、こういう事なのか?』

 

 

独りでにそう呟いた彼は、自分の正面に向けて伸びている影に手をやり、ゆっくりと持ち上げる。

すると、彼の足元にあった影から黒い何かが起き上がり、それは分離して人型となって佇む。

その姿は、彼についてきた『柱』の女性や『酔』の少女と同じく、不気味な風貌であった。

 

彼の影から浮き出てきた人型の存在は二つに分かれ、それぞれが全く異なる形へ変化する。

一人は、顔を『響』の文字が書かれた布で覆い隠した、背丈が低い尻尾の生えた少女に。

一人は、顔を『河』の文字が書かれた布で覆い隠した、巨大な荷物袋を背負った少女に。

 

音も無くそこに姿を現した二人を前に、縁は自分の持つ能力を改めて、正しく理解できた。

同時に、彼が誰にも打ち明けることなく立てていた仮説も、これで立証されたと安堵していた。

 

 

『…………私はこの二人とは面識が無い。だが、我々はこの二人を知っている』

 

 

肯定も否定もされないことを分かっていながら、縁は四つの人影に囲まれながら呟きを漏らす。

自分の中にいる存在と自らの現在の力を確認し終えた彼は、そこである違和感に気付いた。

 

 

『どういう事だ?』

 

 

誰に返事を期待するでもなく呟いた彼の言葉は、周囲を取り囲むように立つ尽くす四人の内、

たった一人へ向けられる。彼が感じたのは、能力の不具合ではなく、正常が故の違和感だった。

 

現在の彼は、ラストスペルを発動したことにより、【死の概念】そのものと直結した状態にある。

元々彼自身の能力は『全てを結げる程度の能力』というもので、それこそ物質だけにとどまらず、

他者の精神との結合、果ては神羅万象なりし概念ですらもつなげられる常識外。異端中の異端。

この能力にかかれば、不可能な事象など探す方が骨を折るような、尋常ならざるその力を持つ

彼だったが、今自身を取り囲むようにして立っている四つの人影の中で一人、結がらぬ者がいる。

そのことに気付いた瞬間、彼はつながりを感知できない人物に話しかけようと体ごと振り向く。

 

 

『___________む』

 

 

しかし、彼がその行動に移るよりも早く、彼らがいる場所に彗星の如く駆けつけた者がいた。

恐るべき速度で突っ込んできた何者かから距離を取り、縁はやって来た人物の正体に納得する。

 

 

『聖 白蓮か。なるほど、響子の影(われわれ)を追って来たか』

 

「…………やはりその影は、響子ちゃんのものなのですね」

 

 

一人と四人の布に隠された視線が向けられた先には、地面に轍を刻んで停止した聖がいた。

御得意の強化魔法で身体能力を高め、通常の数倍以上の速度でここへやってきたのだろうと

推測した縁だったが、彼女がここへ来た理由よりも先に、ここへ来れた理由が気になった。

 

『解せない。今の私は、紫様や八雲 藍ですら探知不能のはず。何故居場所が分かった?』

 

「私は尼僧です。如何な妖怪の賢者や九尾の妖狐と言えども、魔を調伏することこそ本分。

いくら偽装しようと隠れようと、その本質が魔である以上は私にも追う術はありますので」

 

『理解した。私ではなく、我々(わたし)の中核を探知したわけか。紫様ならばこの方法にもすぐに

気付かれているだろうが、なるほど。考えたな、聖 白蓮。であれば逃走は困難なわけだ』

 

真正面から堂々と尋ねた縁に対して、聖もまた隠匿することなく正直に返答する。

彼女の言い分がどういう事なのかを完全に理解した縁は、自分の主人ならばこの程度の事も

考えていることだろうと持ち上げつつ、現状では目の前の尼僧から逃げる手段がないと考えた。

 

相対する聖は、追い詰められているにもかかわらず、まるで他人事のように平然としている

縁の姿に戸惑いを覚えながらも、彼のそばで無言のまま微動だにしない少女たちを見やる。

そして、その中の一人に目が向いた時、本来の持ち主が誰なのかを悟り、激憤に燃え始めた。

 

 

「響子ちゃんの影を………いえ、今まで奪ってきた全ての影たちを解放しなさい!

生まれ落ちた時から共にある、言わば半身とも言うべき存在を奪われた者が、無事でいられる

はずがないことは、貴方であれば当然理解しているでしょう! こんな事はもう止めなさい!」

 

『…………聖 白蓮。お前もこの我々(わたし)と、結がれば分かる。理解できるようになる。

このような事を起こしている私の目的と、我々(わたし)が成さなければならない事が』

 

聖の怒りを正面から受け止めたうえでそう語った縁は、それまで抜き身で右手に握っていた

業物である六色を腰の鞘へと収め、交戦の意志は無いことを暗に伝えてから聖に歩み寄る。

一方の聖も、それまで敵対者であると決め込んでいた相手から、協定とも取れる提案を

持ち掛けられたことで動揺し、そのわずかな一瞬の隙を突かれて彼の能力の発動を許した。

 

 

「こ、れは____________________」

 

『……………聖 白蓮、分かってくれ。これは私の為ではなく、我々(わたし)の為なのだ』

 

 

危険を察知して距離を取ろうとする彼女よりも早く、縁は能力で彼女と自分とを結げた。

それにより肉体的にも、精神的にも直結した状態になり、物理的な距離など意味を成さなく

なり、さらには心情ですらも結合したことで相互理解が瞬間的に行われ、全てを晒し合う。

 

時間にすればほんの三秒程度の間でしかなかったが、それだけで彼らには事足りた。

結がる能力によって互いと完全に繋がり終えたことで、目的も理由も全てを共有しきった

縁は、つい先程まで戦意に満ちていた聖から、その意欲が削げ落ちたのを見ずに察する。

 

 

「………貴方は、その為に主を裏切って?」

 

『裏切りではない。私に心などは無いが、使われるがままの道具としての自分の存在意義は、

今でもあの御方に捧げている。故に、持ち主の意に背いて動く道具は、処分される運命だ』

 

「自分がどうなるかを分かったうえで、事を成そうと言うのですか?」

 

『無論だ。それに、これは私でなければ成しえない。ならば私がやるしかない』

 

 

簡潔に、ただありのままを語りきる縁。彼の言葉を聞いて、聖は握っていた拳を緩めた。

戦闘になることは避けられたようだと安堵した彼に、彼女は俯いた姿勢のまま話しかける。

 

「貴方が成そうとしている事、成すべき理由は分かりました」

 

『………では』

 

「それでも私は、私自身の意志で、貴方とは相容れぬと表明します」

 

 

彼女の口から出た言葉は、いかにも彼女らしい明確でいて裏表が無い真っ直ぐな拒絶。

しかしその答えを聞いた途端、彼の足元で形状を変化させたドス黒い影が、ざわざわと

不気味に蠢き出し、触手の様な形を持った影をゆっくりと地面から浮かび上がらせた。

 

ぶるぶると震えながら殺意を滾らせるソレらを向けられた聖は、息を吸って話を続ける。

 

 

「貴方の行動とやり方そのものに、私は私であるが故に賛同することは出来ません。

ですが、貴方…………いえ、貴方達が行動する目的だけは、私が個人的な意見だけで

止めていいほど軽いものではなさそうです。協力はしませんが、手は引きましょう」

 

『…………そうか。道を阻まないだけ、感謝しよう』

 

「貴方達の行く道の末に、どうか幸のあらん事を」

 

 

一切の敵意すらも消え果た聖は、最後にそう言い残して彼に背を向けて歩き去っていく。

あれほどまで響子の影を取り返そうと執念に駆られていた彼女は、逆に彼の成そうとする

行動と、その辿るであろう結末を結がったことで理解したため、気を静めてしまっていた。

 

協力者とまではいかないが、理解者を得る事が出来た縁は、命蓮寺へと戻っていく彼女の

背中を無言で見つめ続けた後、改めて自分の傍から動かない四人を見やり、決意を固める。

 

 

『もう後戻りなど出来ない。賽は投げられたのだから、この道を進む他ない』

 

 

またも一人だけになってしまった彼は、返事を期待するでもなく虚空へ向けて語りかけた。

 

その場でしばらく今後についてを考えた縁だが、このままでは目的を遂げる事が出来ないと

結論付け、より成功率を高めるための措置について思考を深め、一つの答えに辿り着く。

 

 

『計画をより盤石なものとする。その為には、まだ力が足りない。

神は手に入れた。妖怪は手に入れた。鬼も、手中にある。ならば、亡霊を引き込むか』

 

 

ただそう呟いた彼は、背後に四人を引き連れた状態で、空間に大きな裂け目を造った。

空間を結げることにより、裂け目の向こうには周囲の情景とは異なる景色が映りこむ。

彼らの前にある裂け目。その先に広がっていた光景は、いつぞや見た幻想的な冥界の風景。

 

 

『魂魄 妖夢、並びに西行寺 幽々子様。その力、我々の為に貸してもらおう』

 

 

 

 

 








いかがだったでしょうか?

本当にすみません! 次回予告のタイトルを変更するだけでなく、
投稿日時まで遅らせるなんて、本当に面目次第もございません!
次回こそ次回こそはこうならぬように気を付けます!


それでは次回、東方紅緑譚


第七十八話「緑の道、主に仕えし剣たち」


ご意見ご感想、並びに質問や批評も受け付けております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。