東方紅緑譚   作:萃夢想天

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最近仕事がクライマックスに差し掛かっていまして、
今もマトモに足が動かんのですたい………疲れました。

ですが、なるべくこの作品も二日に一話のペースでの
投稿は続けていきたいと思っています。


近況報告はここまで。それでは、どうぞ。


第七話「華人小娘、今私は此処にいる」

 

 

両者、譲れぬものの為。

 

命の駆け引きが、再び始まる。

 

 

 

 

 

最初に動いたのは、またも美鈴だった。

 

先程は不意を突かれて左肩にダメージを負わせられたが、今度こそはいける。

そう心に言い聞かせつつ、彼女は小さく息を吸い込んで力を蓄えて、自分の

目の前に立つ侵入者を排除しようと拳を構えた。

 

対して彼は、懐から取り出した刃渡り15cmほどの鋭いジャックナイフを

右手に逆手持ちにしていながら、腕の力をだらりと抜いている。

闘う意思はあるようだ。だが、まるで隙だらけの構えとも呼べぬ体勢に

美鈴は少し気を取られた。

 

しかし、その一瞬の動きの機微を彼は見逃さなかった。

 

逆手持ちにしたナイフの切っ先を美鈴に向け、一歩の跳躍で間合いを潰し

ながら、狩人は音も立てずに攻撃を仕掛けてきた。

美鈴はその右手のナイフの柄の部分を、左足の上段外払いではじく。

そのまま彼女は右の(てのひら)で打突を、突っ込んでくる少年の

下あごの辺りに撃ち込むつもりでいた。

 

だが、そうはいかなかった。

 

ナイフをはじかれる事を『読んでいた』彼は、美鈴の右の掌底よりも一瞬

早く彼女の懐に飛び込み、左手を彼女の右の掌に無理矢理組ませた。

拳や掌底は、繰り出すために一度肘を曲げて力を込めなければならない。

その時に手を添えられると、一切前に動かす事が出来なくなるのだ。

それをこの少年は瞬時に、正確にやってのけた。

美鈴は武芸者としての関心を覚えたが、すぐにその考えを振り払った。

 

彼は敵であり、今攻撃を止められている。

 

このまま追撃を止めるほど彼は生温くはないだろう。

考えを切り替えた美鈴は左手を手刀と化して、掴まれた右手に振り下ろした。

すぐさま彼は左手を放し、僅かに飛びずさる。

 

たった一瞬でこれほど濃密で、一進一退の攻防を繰り返す。

 

彼は美鈴を只者では無いと改めて理解し、

彼女もまた、目の前の彼が一筋縄ではいかない事を悟った。

 

 

「どうしました?私はまだ地上にいますよ」

「……貴女を墓下まで持っていくには、骨が折れそうです」

 

「本当に骨が折れる(そうなる)前に、お帰りいただけませんかね?」

「そうはいかない。僕にも、この戦いに負けられない理由がある」

 

「そうですか……。ですが、そろそろ終わらせますよ」

 

 

 

美鈴はそう言うと、両手を握り締めて腰の両脇に動かしつつ

両足を肩幅よりも少し広めに開き、膝を軽く曲げた。

 

 

「久々なので、長く持たないかもしれない。だから、それまでに」

 

「なるほど。本気の本気、ってヤツですか。………来い」

 

 

 

彼は知らない事だが、彼女もまた『幻想郷』の住人であり、かなりの実力者だ。

つまり、彼女も保有している『程度の能力』がある。

 

 

 

その名も、『気を使う程度の能力』と言う。

 

 

 

聞いただけでは分かりにくいので簡単に説明すると、

この世界に生きとし生けるものの全てには、その全身に『気』が流れている。

俗に言う『オーラ』や『生命エネルギー』とやらが、一番身近な言葉だろう。

紅 美鈴は自らの中に流れるそれを、能力により自在に操ることが出来るのだ。

ただ、ある程度の『気』の流れならば一流の格闘家や達人であれば、それなりに

操る事は可能らしい。しかし、彼女のソレはまさに格が違う。

 

自らの身体を流れる『気』を一ヵ所に集中させ、恐ろしい一撃を生み出したり

身体に受けた傷の部分に同様に『気』を集めると、傷の回復が早くなったりと

使い方を工夫すれば、かなり強力な力になる能力なのだ。

全身からほんのりと滲みだす、紅い『気』のゆらめき。

 

今までの彼女とはまるで雰囲気が違う。

『程度の能力』などと、そんな緩いものでは断じて無い、と彼は思った。

 

美鈴が構えを解き、自然体でこちらを向く。

しかし、決して隙があるわけではなく、寧ろ何処にも見当たらない。

 

 

 

 

「__________行きます」

 

 

 

 

 

ゴウッッ‼‼‼‼

 

 

 

 

凄まじい脚力が生み出す突風。

爆発的なまでの大跳躍で詰め寄る門番。

全身の『気』を込めた、まさに全身全霊の一撃。

その風を裂く蹴りが、彼の顔面を捉えるまで数cm。

 

 

 

 

 

 

 

完全に自分の間合い。貰った、仕留めた、『死兆星』を。

 

 

 

 

 

 

 

確信した勝利に手が届くまでの、たった0,01秒の最中に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美鈴は、ふと思った。

 

 

 

 

 

 

紅魔館の時計台を見下ろす(・・・・・・・・・・・・)ほどの高さから(・・・・・・・)落下しながら(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(___________何で、こんな所に?)

 

 

 

 

 

 

蹴りは届かず、自分は今『紅魔館』の遥か上空。

全く状況が理解出来ないし、把握出来ない。

 

 

何故自分が空から橋へと落下しているのか。

 

何故自分の蹴りに手応えが無かったのか。

 

何故、何故、何故____________。

 

 

 

 

 

詰み(チェックメイト)です」

 

 

そう言って、またしても美鈴の背後に現れた少年。

言葉の意味を理解する前に、腰背部に突き刺さる痛みが迸る。

彼が握っていたナイフが深々と突き立てられたのだろう。

痛みと、落下する風圧による体勢のグラつきで、溜めていた『気』が四散する。

 

そして__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________ドォォォォォン‼‼‼‼‼

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館門前の石橋に、一つの影(・・・・)が、轟音を上げて落下する。

 

 

そして、それを狩人は何食わぬ顔で見つめていた。

 

 

 

「………貴女は、確かに強かった」

 

 

 

誰も返事を返さない言葉を、彼はただ呟き続ける。

 

 

「格闘のセンス、持っている『能力』の性能、どれを取っても素晴らしい」

 

 

身体に着いた埃を払いつつ、彼女に刺したはずの(・・・・・・・・・)ナイフ(・・・)を懐に戻して

 

「ですが、たった一つだけ、僕が貴女に勝る点があった」

 

 

悠然と歩きつつ、紅魔館の門に手を掛ける。

 

 

「ソレは___________」

 

 

門扉を押し開き、一歩足を踏み入れる。

 

「ただ、『守る』よりも『奪う』方が戦いに向いている、それだけです」

 

 

 

 

赤く、冷たい、紅魔館の門が、閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________美鈴敗北の少し前____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん?」

 

 

飲みかけの紅茶の入ったティーカップをテーブルに置き、窓を見る。

一瞬だが、強い力の波動を感じた。外で何かあったのか。

そう思った彼女は、意識を集中させて『能力』を発動させる。

 

 

「……………これは興味深いわね。フフフ、フフフフフフ」

 

 

右手を口元に寄せてクスクスと笑う幼気な見た目の少女。

そのすぐ横には、ティーポットを持って紅茶のおかわりに備える従者がいた。

銀髪の従者は、目の前の主の当然の微笑に問い掛ける。

 

 

「いかがなさいましたか、『お嬢様』」

 

「なに、大した事じゃないわ……フフ」

 

まだうっすらと笑っている主人に対して、若干の疑問を覚えた従者だが

大した事ではない、と言われた以上は自分が気にする事も無いと割り切った。

しばらくしてようやく収まったのか、主は従者に告げた。

 

 

「咲夜、明日の朝一番に買い物に出掛けなさい」

 

「……明日の朝一番に、でございますか?」

 

「ええ、そうよ。そして……そうね、半日程度は外で過ごしなさい」

 

「外で?屋敷内のお掃除やお食事のご用意は……」

 

「要らないわ。多分、忙しくなるだろうからね」

 

「はぁ………」

 

 

これまでにも、この主人の突拍子も無い行動や命令は多くあった。

しかし、今度はどこかいつもとは違う。

朝早くに此処を出て、半日は戻って来るな。などといった命令は

仕えてから今日まで、一度もされなかった命令だった。

 

 

 

 

(たの)しい日に……いえ、愉しい日々になりそうね」

 

 

 

 

そう言って彼女、『レミリア・スカーレット』は眼を赤く輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

________________狩人侵入、数分後__________________

 

 

 

 

門番を倒して門をくぐり抜けてから数分、彼は目を痛めそうになっていた。

屋敷の内部は、どこもかしこも全てが赤一色に染まっていたからだ。

例えどんなに鮮やかで美しい赤でも、一面を塗り潰すほどの色合いでは

流石に目にも悪くなって当然だろう。

 

 

「………ずっと見てると頭まで痛くなりそうですね、コレは」

 

そう独りごちて、内部の探索を続けていると、下の方へと続く階段を見つけた。

湖の中心に建てたにしては、いささかやり過ぎでは?とも思った彼だが、

此処に来た目的を再度確認し、意識を階段へと向け直した。

 

 

「……鬼が出るか蛇が出るか、はたまた『吸血鬼』が出るか………」

 

 

薄暗い地下への階段を下ろうとした時、彼の視界の端を何かが横切った。

すぐさま階段の下へ身を隠し、様子をうかがう。

するとそこには、両側頭部にコウモリのような黒く小さな羽を生やした

赤い髪のネクタイをつけた少女がいた。

 

その手にはマグカップのような物があった。

しかも、そこから湯気が立ち込めるのを遠目から確認した。

流石にこんな所でその中身を堪能する変人には見えない。

 

つまり、

 

アレを持っていく最中なのだ。この館の何処かへと。

 

こちらに気付きもせず走り去っていった少女を目で追いつつ、彼は一先ず

この階段を下るのをやめにして、さっきの少女の後をつける事にした。

 

すぐさま無音歩走(スニークング・ラン)で赤髪の少女を尾行する。

しばらく歩くと、大きく古びた扉の前で止まり、ノックした後で中に入っていった。

 

少女の手が扉から離れ、ゆっくりと閉まる瞬間。

 

その時彼は既に、音も無く中へ侵入していた。

 

 

そこはまるで、本で構築されたような部屋だった。

 

ほとんどの壁は様々な背表紙の分厚い本で埋め尽くされ、窓などは見当たらない。

部屋の吹き抜けの二階のその奥には、巨大な振り子時計が掛けられており、

今もなお正確に時を刻み続けている。

 

__________此処は『ヴワル大図書館』

 

 

 

紅魔館に住む『魔女』の集めた、世界各地から失われた

魔導書(グリモワール)』のほとんど全てが此処に保管されている。

魔法を扱う者にとっては、禁断の楽園のような場所であろう。

 

 

そこに彼は辿り着いた。

膨大な量の書籍の数々に目を奪われる。

試しにと、適当に目に留まった一冊を手に取ろうとした。

「止めておきなさい。下手に触ると死ぬわよ?」

 

 

が、寸でのところで手を止める。

一階の奥の広間らしき所に、一ヵ所だけ明かりが灯っている場所があり

そこから先程の声は掛けられたのだった。

 

「……ご忠告をどうも。ところで、貴女は?」

 

「そっちこそ誰?こんな時間に来客なんて、私は聞いていないわ」

 

「わ、私も聞いてません!」

 

本棚の隙間から見える、紫色の長髪の女性。

その背後で、人見知りなのだろうか?小刻みに震えているのは

先程の赤髪の少女だった。

 

 

 

「僕に名はありません。なので『誰なのか』という質問にはお答えが……」

 

「……そう、つまらない答えね。それで? どうして此処へ?」

 

「色々ありましてね…。尋ねたい事も少々あるのですが」

 

「…………そうね、答えてあげてもいいわ。答えられる範囲でなら」

 

「えっ?ちょ、ちょっと『パチュリー』様‼」

 

態度の割に、随分気前のいい人のようだな、と彼は思った。

早速、幾つか聞きたい事を手短に話そうとしたが、

それは『パチュリー様』と呼ばれた紫髪の女性の言葉に遮られた。

 

 

 

「いいのよ。でも、条件があるわ」

 

「……血でも吸うおつもりで?」

 

「違うわよ、私に吸血趣味はないわ…。長年吸血鬼と暮らしててもね」

 

「……………」

 

「条件と言っても、単純な事よ。ただ__________」

 

 

 

 

 

「_______貴方の後ろにいるその娘に、勝てばいい。それだけよ」

 

 

 

 

瞬間、彼は恐怖を感じた。

 

先程まで何もいなかったはずの彼の背後に、

凄まじいほどの殺気を帯びた『何か』がそこにいたから。

 

彼は即座に振り向く。と同時に驚愕した。

 

 

 

 

 

 

 

そこに、美鈴(もんばん)が立っていた。

 

 

 






初の4000文字突破‼‼

いや、あんま嬉しくないっすねコレ。


しかし、初めて題名通りに話をまとめられた気がしますよ。
この調子で書き進めていきたいです‼

それではまた明日、仮面ライダーの方の更新で‼



次回、東方紅緑譚


第八話「紅き夜、魔女と小悪魔」

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