東方紅緑譚   作:萃夢想天

58 / 99

どうも、風邪が治ってから筋トレに励む萃夢想天です。
そう言えば今日は9月9日ですね。東方好きならお判りでしょう?

言わずもがな、⑨ことチルノの日ですね‼(アタイサイキョー‼)

まぁだから何だというわけではありませんよ、ええ。
そんなことよりも皆様、実は重大なお知らせがございます。
なんとこの私、萃夢想天がSSライターとしてこのサイト様にお世話に
なり始めてから、既に一年が経過しておりました! 時間って残酷ね。

そんなわけで、これからもこの作品ともども気合を入れて書かせて頂きます。
ですのでどうか、応援よろしくお願いいたします!


それでは心機一転、一周年のはりきりと共に、どうぞ!





第伍十六話「禁忌の妹、温和な日常」

 

 

 

自分が普段慣れている環境と別の場所で過ごすというのは、想像以上に身体に負担をかける。

 

これは心理学的にも医学的にも証明されていることだが、この幻想郷には関係の無い話である

はずだったのだが、この場合に置いては先程の話題は見事に当てはまるだろうと思われる。

何故このような話題が挙げられたのかというと、それは彼女の状況に起因しているのだ。

 

 

「…………あれ? ここ、どこ?」

 

 

寝ぼけ(まなこ)をこすりつつ、睡眠から覚醒した直後の回転の鈍い頭で現状の把握に努めたものの、

その努力は徒労に終わる結果となり、目覚めた彼女は思考を放棄して再び眠りに就こうとした。

 

 

「おいこら、寝るなってのよ」

 

「うわっ⁉」

 

 

しかし二度目の睡眠への潜航は何者かの妨害を受けて失敗し、強制的に思考が活性化させられる。

自分の頭部を支えていたはずの枕を蹴飛ばした人物を仰向けの状態で視認し、ため息を吐いた。

 

 

「なぁんだ、霊夢か。おはよう」

 

「おはよう、じゃないわよ。流石に二度寝は許されないからね」

 

「んん~? あれ、霊夢がいるってことは…………ここ博麗神社?」

 

「今頃? 人の寝床奪っておいて随分とお気楽なこと言ってくれるわね、ホント」

 

「え、嘘!」

 

自分を上から不機嫌そうな顔つきで睨みながら見下ろす博麗の巫女と、姿勢そのままに会話する。

だが彼女の発した言葉の意味を、ようやく働き出した脳が理解すると同時に、鈴仙は飛び起きた。

慌てた様子の鈴仙を半ば三白眼になりつつある霊夢が、睨みを利かせて言葉を用いず黙らせた後、

着いてこいと言わんばかりに首を傾けてから卓袱台の置いてある座敷へと移り、座り込んだ。

鈴仙はもちろん一泊させてもらった家主の後ろに続いて移動し、反対側に腰を下ろした。

「あ~~、ったく。なんで私が賽銭も奉納しない罰当たりを泊めなきゃいけないんだか」

 

「…………相当不機嫌みたいね?」

 

「あったりまえでしょうが! こっちはアンタとフランに寝床貸したから寝れなかったのよ‼」

 

「あ、それは、ゴメン」

 

「……………フランは色々訳アリみたいだから許すけど、アンタはどうなのよ」

 

「え、私?」

 

「そう。だって幽香も聖も自分がフランと会った時にはアンタがいたって言うんだもん。

だったらあの二人よりも先にフランと出会ってるはずのアンタから事情聞くのが筋でしょ?」

 

席を移すなり霊夢の口から吐き出された話題は、自分とフランについての事だった。

寝起き直後の自分に昨日の出来事を話せというには、随分思いやりが欠ける対応のように

思えた鈴仙だったが、よく考えれば相手はあの霊夢だ、そう思い至って考えるのを止めた。

茶の一杯も出ないまま、不機嫌な霊夢の対面に座った鈴仙は仕方ないと折れて、事情を語る。

 

 

___________玉兎説明中

 

 

鈴仙が霊夢に自分とフランの遭遇からここまでの経緯を説明し終えた頃、朝日が昇った。

 

 

「え? ちょっと、もしかして一夜明けちゃった⁉」

 

「だからそう言ってんじゃないの、寝れなかったって私言ったわよね?」

 

「あ、そっか。いや本当にゴメン。まさかそんなに寝ちゃってたなんて」

 

「………ま、今の話を聞く限りじゃアンタも巻き込まれた側みたいだし、大目に見てやるわ」

 

「それはどうも」

 

 

早朝特有の爽やかさと肌寒さを織り交ぜた西風が、吹き抜けの座敷にいる二人にぶつかる。

少し話し込んだものの、寝起き特有のぼんやりとした感覚が抜けない鈴仙と不眠の霊夢は

お互いに身震いし、顔を見合わせて苦笑し、温かいお茶を淹れようと同時に立ち上がった。

霊夢はほとんど味の染み出なくなった茶葉の袋を取り出し、鈴仙が台所で湯を沸かす。

口数は少なかったが、別に仲が悪いわけでない二人はそろって朝の一服に従事した。

 

 

「「ほっ…………あったかぁ~い」」

 

 

沸かした湯を急須に入れて、軽く揺すって湯呑みに中身をこぼさぬよう丁寧に注ぎ、

人肌の温度を軽く超したそれを両手で大事そうに掴み、二人同時に傾けて息を吐く。

日が昇ったばかりのやや寒空の早朝に、淹れたてで熱い緑茶の温度と味を十全に愉しむ。

賽銭も貰ってないのに贅沢させすぎた、と憎まれ口をたたく霊夢と鈴仙は互いを見て、

細かい事情はともかく今だけは、普段とは違う特別な今は静かに過ごそうと目を閉じる。

 

瞳を閉じ、視覚が遮断されたことによって他の感覚器官がその不備を補おうと鋭敏になり、

肌で風を感じる触覚も、木々や葉が揺れる音を聴く聴覚も、全てがこの時に風情をもたらす。

日頃雅さだとか風流だとかには関心を示さない霊夢も、この趣あるわずかな瞬間(ひととき)に心は安らぎ、

日常的に竹林の静寂の美を感じている鈴仙もまた、隣の巫女同様に穏やかな時間に和んだ。

 

「なんか、こういうのもいいわね」

 

「………竹林も見事だけど、こっちも素敵」

 

「なんて言えばいいか分からないけど、落ち着くわ」

 

「早起きは三文の徳ってヤツかもね」

 

がらにもなく乙女らしい静かな時を過ごした二人は、湯呑みの茶をゆっくり嚥下(えんか)する。

やはり味の薄くなっていたソレも、この場に限って言えば尾を引く苦みが好ましい。

いつもの日常とはかけ離れた時間の使い方をした二人は、そろって大きくあくびした。

すると彼女らの後ろのふすまがスルスルと開き、奥からもう一人の少女が姿を現した。

 

 

「ん…………れいむ、れーせん?」

 

「あ、起きちゃったか。おはようフラン」

 

「あら、吸血鬼がこんな早起きしていいの?」

 

「………早起き?」

 

 

流れるような金髪の少女、フランは眠そうな顔のまま二人の元へ歩み寄ってくる。

やって来たフランを体の向きを変えて抱きしめた鈴仙は、その頭を軽く撫でてやると、

甘ったるいような声を漏らしつつも眠気を我慢する彼女に愛くるしさに似た何かを感じた。

そんなフランを横目にしながら、霊夢が打って変わって優しい声色になって心配する。

 

「吸血鬼のアンタは寝てる時間なのに、いいの?」

 

「ん………だいじょーぶ」

 

「本来の生活と逆転してるんだから、大丈夫じゃないと思うけど」

 

「………だいじょーぶ。紅夜が起こしてくれたから」

 

「「え?」」

 

 

目をこするフランの呟きを聞いた二人は驚き、周囲を見回してみたが人影は無かった。

再び視線を鈴仙の腕の中に戻すと、まだフランの頭は舟を漕ぐようにカクカク揺れていた。

 

「なんだ、夢か」

 

「だと思う。でもすごいね、夢の中にまで出てくるなんて」

 

「何がすごいのよ」

 

「何がって、それだけこの子があの人間の事を好きだってことよ」

 

「………レミリアと咲夜みたいなものじゃないの?」

 

「似てるけど違うと思うな。あっちは同性だけど、こっちは異性だもん」

 

「……………私にはよく分かんないけど、フランにとってアイツは大事ってこと?」

 

「んー、まぁそんな感じでいいかな」

 

 

目が徐々に細くなっていくフランを抱きながら、鈴仙と霊夢が話題の人物について語る。

その中で鈴仙はフランと彼との関係を少しだけ邪推したのだが、霊夢は気付かなかった。

二人はしばらくそのまま朝の風に体を晒した後、早めの朝食作りに取り掛かる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢と鈴仙が思わぬ安らぎを体感した早朝から約三十分後、フランは再度目覚めた。

いわゆる二度目から覚醒した彼女は周囲を見回し、自分の記憶にない場所であると

認識した瞬間、言いようのない恐怖に苛まれたが、自分の目が覚めたことに気付いた

二人がそろって顔を見せたことで安心し、ようやく体を立ち上がらせて活動を開始させた。

 

 

「おはようフラン。よく眠れた………って言うのもおかしいか」

 

「アンタんとこの朝食には劣るでしょうけど、朝ご飯できたから座りなさい」

 

今回の旅に連れ立ってくれた鈴仙はもちろん、霊夢の言葉にも素直にうなずくフラン。

しかし改めて自分のいる環境に目を向けてみると、右も左も分からず困惑してしまった。

そもそもフランは、幻想郷でも特異な、紅魔館という洋館の地下に幽閉されていたので、

そこから外の事は話で聞いた程度しか知らなかったし、教師も親もいないため、教育や

教養ですらも与えられてこなかったので、元々知らないことが多過ぎるのである。

その上で彼女は普段、地下牢に運ばれてくる食事を取るだけしかしてこなかったのだ。

今でこそ異変の影響や新たにやって来た執事のおかげで住人と一緒に食事を取る事ができる

ようにはなっていたのだが、この時点で既に、フランにはある重大な欠点が生じていた。

 

そのことに彼女自身が気付くのは、食事が運ばれてきた後のことだった。

 

 

「ハイできたっと。鈴仙、これそっちに置いて」

 

「はいはい。さ、フラン。一緒に朝ご飯食べましょ!」

 

「うん! 食べる…………あれ?」

 

「何? どうかしたの? こんな質素な食事じゃ不満?」

 

「アンタね、比べる基準がおかしいのよ。ウチと紅魔館なんて、比べられるわけないじゃない」

 

 

卓袱台に並べられた多くの皿や茶碗、その全てに、純日本の食物が盛り付けられていた。

 

麗美な(がら)も鮮やかな模様も無い普通の丸皿の上には、小ぶりな川魚の干物があり、

日持ちするようにと天日干しされて生命独特の色を失ったソレは、あまり食欲をそそらない。

食べられない内臓は取り出されているものの、内部の骨や干からびて白濁とした魚の目玉は

見ていて気持ちのいいものではなく、フランもわずかに顔を引きつらせている。

なるべく干物から目を逸らそうと移動した視線が次に捉えたのは、椀の中にある白米。

日本人であれば馴染み深い一品だが、生憎フランのいる紅魔館ではパンが主食を占めている為、

495年の時を生きてきた彼女であっても、米粒を見るのは生まれて初めてなのであった。

土釜で炊かれた直後の温もりの証拠として立ち昇る湯気を目で追い、興味津々に覗き込む

フランなのだが、その椀のすぐ隣にも同じように白い糸を揺らめかせる器を発見した。

ご飯の隣に置かれる温もりある朝食と言えば、至極の当然、味噌汁である。

木を材料に職人の腕で丁寧に作り上げられた軽めの器いっぱいに、独特な匂いの汁が揺蕩い、

具材として入れられた若菜や大根、つみれという鶏肉の団子がその中で浮き沈みを繰り返す。

赤味噌を溶かして作られた汁は、なまじ赤土の泥を煮込んだ液体のように見えなくも無い。

他にもいくつか見える小皿には、根菜の漬物などが盛られているが、フランは注視せずに

自らの手元に置かれた、これまた日本人には馴染み深いあるものへと視線を落とした。

 

そう、並べられた食品を見やったフランの視線が最後に辿り着いたのは、(はし)だった。

 

 

「コレ、なぁに?」

 

「「え"」」

 

 

手元に置かれた二本の棒をつまみ上げながら問う彼女に、あるまじきものを見る目を向ける二人。

だがそれも仕方が無い。フランは未だかつて、日本食というものを食べたことが無いのだから。

ならば当然箸も使ったことが無いに決まっている。霊夢と鈴仙はここでようやくそれに気付いた。

 

 

「あ、そうか。アンタんとこだとこういう食事出ないから、知らないんだ」

 

「なるほどね。確かに咲夜がわざわざ日本食なんて作って出すとは思えないし」

 

「完全に誤算だわ。そっか、まずはお箸の使い方から教えなきゃダメなのね」

 

「?」

 

「あーいいわ。フラン、その棒はお箸と言って、和風のご飯を食べるのに必要なの」

 

「おはし?」

 

 

先の方へいくほど短くなっている不思議な造形の棒をまじまじと見つめ、フランはお箸を知る。

食事を始めようとしたところで、食事の仕方が分からないという事実が発覚してしまい、

霊夢と鈴仙は仕方ないと肩を撫で下ろして付き添いながら日本食の食べ方を教え込んだ。

 

 

「そう、お箸はこう持って。そうそう!」

 

「それで、食べ物をこう持つの。出来る?」

 

「やってみる!」

 

 

二人の臨時講習を受けたフランは早速、目の前にある椀の中の白米に箸を向け、挑む。

慣れないどころか生まれて初めて扱う箸で、ゆっくりかつ不安定な動きで米粒を掴み、

そのまま慎重に持ち上げながら口元へ運ぼうとしたが、指が震えて椀に戻ってしまった。

 

 

「あぅ………お箸って難しいのね。霊夢もれいせんもすごいわ」

 

「慣れれば簡単よ。頑張ってみなさい」

 

「大丈夫、ゆっくりでいいわ。出来なかったら私が食べさせてあげるから」

 

「うん、もう一回がんばる!」

 

 

そばで見守る二人からの声援を受けつつ、やる気を見せるフランが再び白米に挑んだ。

だが素質と言うべきか才能と言うべきか、今度はあっさりと米粒を掴んで口に入れた。

元々彼女が地下に幽閉されたのは、そのすさまじい力と程度の能力が理由だったのだが、

あの執事、紅夜が来てからは彼の愛の鞭、もとい指導を受けた結果ある程度の制御ができた。

つまり、教え方と本人のやる気さえあれば、彼女は何でもそつなくこなせる才を発揮できるのだ。

そうとは知らず数分で使い方を覚えた本人を含め、三人は驚きと喜びを同居させたような顔で

ほんの小さな成長を喜び合った。その後もフランは急成長を続け、十分が経つ頃にはもはや

見守る事が不要なほど扱いを心得てしまい、純和風の食物も難なく食すことができた。

 

ただ、初めての味は口に合わないものがほとんどである。

 

 

「………味がしないわ」

 

 

素直な感想を呟いたフランは、無味無臭の白米を不思議そうに見つめ、再び口に運ぶ。

しかし何度繰り返しても彼女の味覚は米のわずかな旨味を感じ取れず、胃袋へと押し込む。

こうしてフランの初めての日本食デビューは、博麗神社の質素なもので果たされた。

 

けれど彼女は何度思い返しても、白米の無味と干物の骨だけは好きになれそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終えて三人はしばらくの間休んでいたが、霊夢がある事に気付いた。

 

 

「アンタら、賽銭出してないわよね?」

 

 

彼女のこの言葉をきっかけに、賽銭を持たずに一宿一飯の恩義を受けてしまった

フランと鈴仙は、霊夢への恩返しとして命令を聞かざるを得なくなったのだった。

 

そして時は現在、ちょうど昼前。

 

 

「なーんで私たちが境内の落ち葉掃きなんか…………」

 

「~~♪」

 

「フランは何で楽しそうなのよ、もう…………」

 

 

やたら疲れた顔をしている鈴仙と鼻歌を歌うフランの二人は、境内の掃除を命じられた。

今より二時間ほど前に言い渡され、それから一切の休みも無いまま二人は掃き続けている。

それほどまでに落ち葉が多いのかと言われれば、決してそういうわけではないのだが、

二人が落ち葉掃除を始めてから今まで、実は霊夢の顔見知りが何人か訪ねてきていたのだ。

無論その人物らは当然空を飛ぶ能力を有しているため、着地地点である境内にやって来る度、

掃き集めた落ち葉の山が着地の余波と風で舞い飛んで、その都度やり直して今に至る。

 

ボロボロになった竹箒をダラダラと掃く鈴仙と、初めての作業と風景や出会いに心躍る

フランと、対照的な態度で落ち葉掃除を続けている二人だったが、ここで同時に腹の虫が鳴った。

思えば鈴仙もフランも、自分たちが暮らしている場所ではもっとマシな朝食を取れていたのに、

いくら事情が事情とはいえ質素極まる博麗の巫女の朝食後にこの労働、腹が保つはずがない。

鳴り出して止まない腹部をさすりながら、鈴仙は晴れ晴れとした空を仰いで情けなく呟く。

 

 

「お腹空いてきちゃった…………今頃永遠亭ならどんなご飯が出てるんだろう」

 

少なくともこんなに質素じゃないよねぇ、と軽く拗ねた鈴仙の頭部にお祓い棒が直撃した。

 

 

「質素で悪かったわね、質素で」

 

「居たんなら居るって言いなさいよ!」

 

「私が私の家にいるだけで、なんでアンタに在宅かどうかを伝えなきゃいけないわけ?」

 

「そ、それは…………」

 

 

いつの間にか背後にいた霊夢に頭部を叩かれ、いつもの癖で少し強気に出てしまった鈴仙は、

あまりに正論で返されたために何も言えなくなってしまい、バツが悪そうに顔を背ける。

そんな態度を取る鈴仙を見て、悪そうな部分が見え隠れする笑みを浮かべた霊夢が語った。

 

「ったく、態度悪いわね。お昼は人里の定食屋に行こうと思ったけど、アンタは留守番ね」

 

「ごめんなさい霊夢さん! 私が悪かったです! ですからどうかお慈悲を!」

 

「ホント現金なヤツよね」

 

 

平伏してゴマを()り始めた鈴仙をジト目で見つめる霊夢だったが、結局は折れた。

 

 

「はいはい分かったから、さっさと準備しなさい。フランも行くわよー」

 

渋々といった体で同行を許した霊夢を見上げながら感謝する鈴仙。そんな二人の姿を見た

フランは自分が落ち葉集めに没頭している間に何が起こったのかと考えたものの、答えは

出ることはなく、霊夢が一緒に出掛けると言ってくれたことへの嬉しさが勝った。

 

 

「行く!」

 

「ちょっと待って。フラン、待っててあげるから手を洗ってきなさい。

ほらアンタも、落ち葉掃除でいろんなところが汚れてるじゃない。ほら早く!」

 

「早くって、誰がやらせたのよ………」

 

「留守番頑張ってね」

 

「あー! ちょっと待ってってばー‼」

 

霊夢に促されて手を洗いに行ったフランを追いかけるように鈴仙も駆けていき、

しばらくしてから戻ってきた二人と共に、三人は一路、人里へ向けて歩き出した。

 

 

「それにしても、あの霊夢が外食なんて珍しい」

 

博麗神社のやたらと長い参道を歩いて下ってから出た道沿いに歩き十分ほど経った頃、

思い出したように呟いた鈴仙の言葉に、霊夢は珍しく怒ることなく普通に応えた。

 

 

「まぁ自分でもそう思うけど、コレはただの外食じゃないのよ」

 

「どういう事?」

 

「この前晩御飯の具材を買いに里を通りかかったら、新しくお店が建てられてたの。

あんまり人が少ない場所に建てられてたから気になって、そこにいた人に声をかけたら」

 

「かけたら?」

 

「角を隠してた【鬼】の姉妹だったのよ」

 

「はぁ⁉ 鬼ぃ⁉」

 

「?」

 

「そ、鬼。でも何も企んでないって言ってたし、純粋に料理を作ってるだけみたい。

それにほら、その時にコレをくれたのよ。一品無料券、それもこんなに!」

 

 

霊夢の話を聞き終えた鈴仙は、差し出された何枚かの紙なんかに興味を抱かなかった。

それよりもつい先ほど話した話題の方が、よほど問題だらけで目がそちらにしかいかない。

慌てふためいた様子で落ち着きが無い鈴仙を見たフランは、スカートの裾を引っ張って

どうかしたのかと心配するが、動揺しつつも大丈夫だと応えた鈴仙を見て安堵した。

フランの心配でいくらか動揺が収まった鈴仙は、改めて霊夢に話の内容の説明を求める。

 

 

「あ、あのさ、霊夢。もう一回話してくれない? 誰が、どこで何してるって?」

 

「急にどうしたのよ? 別に鬼が人里で店開いてるだけでしょうが」

 

「それが問題なんでしょ⁉」

 

「博麗の巫女である私が問題無いっていうんだから大丈夫よ。そんなに不安なら、

今から行くから自分の目で確かめてみなさい。あの子たちに害意は無いから」

 

「………………………」

 

 

しかし説明を面倒くさがった霊夢のはぐらかしで、鈴仙はまたも何も言えなくなる。

博麗の巫女として何とかと言っているが、一種の妖怪に近い存在である玉兎と呼ばれる

月出身のウサギである彼女もまた、幻想郷の鬼の強さを知らないわけがなかった。

そんな鬼が人里で店を開いているという。何かの冗談かと思いきや霊夢は至って真面目だ。

もはや何をどうしたらいいのかも分からない。鈴仙は諦めの境地に達していた。

 

三人は並んで歩き、しばらくして目的地である人里に辿り着いた。

里の門は昼間であっても閉ざされているだが、博麗の巫女の権限があれば何ら問題は無い。

無言のまま開かれていく扉の前ではしゃぎまくるフランの真横で、鈴仙は軽く壊れていた。

 

 

(どーしてこーなるのよぉ! 姫様ぁ~‼)

 

 

鈴仙の心の叫びは露知らず、霊夢とフランは目的地の食亭へと歩き出していた。

 

 

 





いかがだったでしょうか?
一周年記念と言うことで少々、身が入りまくりましたね。

フランちゃんは才女。異論は認めるけど論争不回避。

紅魔館じゃ絶対日本食でないと思ってたんで、今回の話を思いつきました。
日本人には当たり前でも、外国の方には驚きの連続です。ジャパンショック。
その驚きの一端でも、どうにか表現できたのではないかと拙い文章ながらも
思っております、というか思わせてくださいお願いです。


それでは次回、東方紅緑譚


第五十六話「禁忌の妹、安寧の日々」

ご意見ご感想、並びに批評もドンドンいただきたいです!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。