東方紅緑譚   作:萃夢想天

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昨日は久々に、映画や感動する話以外で泣きました。
今でもこんなに泣けるんだなぁと冷静になった今になって
思い返すと、少々恥ずかしいような気もしてきます。


だからなんだよって? 何なんでしょう(困惑)


なんて自分のくだらない身の上話は捨ておきましょう。
そんな事より最近私はフリーホラーにハマってまして、
特に「殺戮の天使」という作品にベタ惚れなんです。

イケメン包帯兄さんに幸あれと賛歌しつつ、
それでは、どうぞ!


第四十話「紅き夜、愛してと言えなくて」

 

 

 

 

 

 

 

__________すごく、冷たい。

 

手術室から他の部屋に運ばれた紅夜の肌に触れた文が真っ先に思ったのは、肌の冷たさ。

人や生物特有の肉体の温もりが感じられず、ただただ冷たい皮詰めの肉塊を触って

いるかのように錯覚してしまうほど、今の彼の身体は冷え切っていた。

(そりゃあ、これだけ血が流れ出てしまえば当然ですよね……………)

 

 

元々白かった彼の肌は、今や病的なほどに白く、見ていて痛々しく感じる。

文はそんな彼の姿を見るたびに涙を流して叫びたくなる衝動に襲われたが、

眼前で横たわる紅夜の眠りを妨げないように必死に感情を抑えた。

彼がこの部屋に運ばれてどれほどの時間が経っただろうか。

文がそう考え始めた時、真一文字に閉じられていた紅夜の目がゆっくり開いた。

 

「____________ん、うぅん……………」

 

「こ、紅夜さん‼」

 

 

待ち望んだ彼の意識の回復を確認した文はすぐさま彼の名を呼ぶ。

自分の名前を呼ぶ声に反応した彼の眼はしばらく天井をぼんやりと見つめていたが、

やがて相手が誰かを認識したのか、瞳が徐々に文の方へと向けられて定まった。

まだ意識が朦朧としているであろう紅夜の口が開き、微かな声が漏れ出る。

 

 

「あや……………さ…………ん………」

 

「紅夜さん、分かりますか⁉ 聞こえてますか⁉」

 

「えぇ…………きこえ、てます…………」

 

「あぁ良かった…………すぐ、永琳さんを呼んできます!」

 

「…………まって、くださ、い」

 

 

紅夜との会話が成り立ったことに喜んだ文はすぐに永琳を呼ぼうと腰を

あげるが、未だ起き上がることのできない紅夜が小さく彼女を呼び止めた。

彼からの静止の声を聴いた文は少し躊躇するが、紅夜の言葉を聞き入れて座る。

文が腰を下ろしたのを見計らって、紅夜は再び口を開いた。

 

 

「すこし…………はなしを、きいて………ください」

 

「紅夜さん、無理しちゃだめです。何か欲しいものとかはあります?」

 

「大丈夫、です……………お気遣いなく」

 

「まだ安静にしてないと、起きちゃだめですって!」

 

「構いませんよ………………ほら、問題ありません」

 

「紅夜さん…………」

 

 

助けを借りずに一人で起き上がる紅夜を見て、文の胸中に空しさが去来する。

言えば自分が起こすのに助力したのに、という半ば自己的な理由もあるのだが、

彼の表情が、無理やり笑っている表情を繕っているのが見え見えなのが辛かった。

自分の身体が大変な目にあっているというのに、何故彼は無理にでも笑うのか。

そんな状態であっても笑おうとする彼を、誰があんな身体に変えてしまったのか。

聞きたいことが山ほどある。

でも聞いたら彼が傷つくかもしれない。

言いたいことが山ほどある。

でも言ったら彼が悲しむかもしれない。

彼が苦しみながらも吐血して倒れた姿を目の当たりにした文には、

自分が心の中で思ったことを口にする勇気はなかった。

俯いたまま何も言わない文を見て、紅夜が話す。

 

「まずはお礼を申し上げねばなりませんね、本当にありがとうございました」

 

「えっ?」

 

「だって、ここに僕を運んでくれたのは射命丸さんでしょう?」

 

「え、えぇ。そうですけど」

 

「だったら当然じゃありませんか?」

 

「はぁ……………」

 

 

上半身だけ起き上がった紅夜は、そのまま頭を軽く下げて謝意を見せる。

紅夜の謝意を受け取った文は少し混乱したものの、彼の行為を受け止めて

相づちを打つように自分も軽く頭を下げた。

 

 

「………………射命丸さん、一ついいですか?」

 

「え? あ、ハイ。何でしょう?」

 

 

今度は紅夜が下を向いて不意に文に尋ねる。

尋ねられた当の文は若干上ずった声のまま返事を返す。

彼女の返事を受け取った紅夜は、少し間を置いてから話を続けた。

 

 

「ここが医療施設なら、僕の身体を見た方がいらっしゃいますね?」

 

「ハイ、いますけど」

 

「では、その方は僕の身体を何と?」

 

「えっ………………それは、その」

 

紅夜からの問いかけに文は押し黙って再び顔を俯かせる。

だがそれこそが何よりの答えであることに気付いた時には、

既に紅夜も同じ答えに行きついていた後だった。

 

 

「やはり、僕の身体について調べられたんですね」

 

「その、あの、それはですね!」

 

「分かってますよ、仕方ないことくらいは。

怪我した人間の身体を診察しないで医療行為なんて出来ませんからね」

 

「………………………」

 

「ああ、すみません。別に射命丸さんを責めてるわけではありませんよ。

ついでに言えば、僕を診察した方の事も責めてなんていませんから」

 

「で、ですけど」

「僕が気を揉んでいるのは、僕の身体の秘密を貴女が知ってしまったことです」

 

「え?」

 

 

紅夜の口から出てきたのは、怒りによる怒号ではなく、悲嘆。

まるで自分を卑下するかのような暗い笑みを浮かべた彼は、

そのまま視線を不思議そうな表情をしている文へと向ける。

 

 

「僕の身体の事は、貴女に知られたくなかったんですよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「どうかしたんですか?」

 

「どうしたも何も、あなた自分の事分かってたんですか⁉」

 

「ええ、知ってますよ」

 

「知ってますよじゃないですよ‼

ど、どうして知ってて紅夜さんはずっと、ずっと__________」

 

 

_________ずっと、それを知ってて隠してたんですか。

 

そう続けるはずだったのに、その最後の言葉までが出なかった。

何故彼が自分の身体について公言しなかったのか、すぐに分かったから。

紅夜はこの幻想郷に来るまでに、外の世界で『殺人』を犯している。

阿求邸で彼の素性を知った時、少なからずその事実に文は驚かされた。

だが彼は阿求の元を去る時に、明確な意志をもって告げたのだ。

 

 

『でも、何故か「これ以上無闇に殺したくない」と思えるようになりました。

それが良いことか悪いことかは分かりませんけどね』

 

 

紅夜は命の尊さをこの幻想郷に来てから知り、学んだのだ。

そんな彼がどうして今さら、外の世界との因果で苦しめられなないと

いけないのか。関わりを絶った世界での呪縛で身を滅ぼさねばならないのか。

文は外の世界の事を、幻想入りしてきた人間への取材や守矢の巫女の自慢話

辺りからしか推察出来ないが、彼ほど不幸な境遇の者は聞く限りでは想像できなかった。

紅夜は他人を殺した過去があり、またそのことを後悔すらしていない。

だがそれでも、紅夜は微笑みながら阿求にそう告げたのだ。

どうしても文はその時の彼が嘘をついているようには思えなかった。

 

 

「ええ、知ってましたし、隠してました。

僕の身体の事を最初から知っていたのは、パチュリーさんと小悪魔さんだけです」

 

「レミリアさんや、フランさんにも言ってないんですか⁉」

 

「当然でしょう。僕はお嬢様の下僕で、レミリア様はお嬢様の姉君なんです。

僕如きに気をかけるなど、そんな無駄なことをさせては従者の恥ですから」

 

「恥って、そんな事言ってる場合じゃないでしょ‼」

 

「いついかなる時も、お嬢様の為に僕という存在の全てを捧げる。

僕はフランお嬢様の執事になった時に、あの方にそう誓ったんですよ。

お嬢様は吸血鬼で僕は人間、どちらが先に死んでいなくなるかは馬鹿でも分かる」

 

「だからって!」

 

「…………僕は外の世界では、他人に言われるがまま人を殺してきました。

他人を殺さなければ自分が逆に殺される、そんな世界で生きてきた僕を、

紅魔館の皆さんは温かく迎えてくれたんです」

 

「……………………」

 

「その恩義に報いたい、報いなければならない。

だからこそ外の世界で自分の為に使っていたこの『程度の能力』についても、

僕はこの幻想郷で生きている限りは自分の為に使わないと決意したんです」

 

 

そう言って紅夜はいったん口を閉ざし、話を止めた。

彼の話を聞き終えた文は彼の決意についてを理解することは出来た。

でも、だからこそ彼という人間が理解出来なかった。

その困惑が表情に表れたのか、紅夜に顔も見られぬまま告げられる。

 

 

「そんなにおかしいですかね、僕の決意」

 

「い、いえ! そんなことはありませんよ‼」

 

「顔に書いてありますよ、『気味が悪い』って」

 

「そんな事ありません‼」

 

「……………僕は自分の事、最近になってそう思うようになりましたよ」

 

「えっ?」

 

「僕は自分の事をよく分かっていない、だから気味が悪い。

射命丸さんにはもう身体の事も知られてますし、もう時間もあんまりないだろうから

今日の事のお詫びとして話しておきましょうか」

 

「時間が無い……………お詫び? 一体何の事なんですか?」

 

困惑する文を差し置きながら、紅夜は自嘲気味に続ける。

 

 

「お話ししましょう。

何故僕が、十六夜 咲夜を姉さんと呼ぶようになったかを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅夜、紅夜!」

 

 

血も滴るような深紅の館のロビーを、銀糸の髪の美女が駆け抜ける。

彼女はそのままロビーを抜けて玄関の大きな扉に到着しそれを押し開けて外へ出た。

それでもなお走る速度に近い歩みを止めないまま、館と門の間の庭園を突き抜けて

そこでようやくメイド服を着た少女が立ち止まった。

 

 

「紅夜、どこ⁉ どこなの‼」

 

 

綺麗に整った顔を焦燥に歪ませる彼女は、十六夜 咲夜。

この紅魔館のメイド長である彼女がこれほどまでに焦るのには理由があった。

「早くしないとあの子の時間が……………‼」

 

 

『完全で瀟洒な従者』の二つ名を持つ彼女が焦る理由は、ただ一つ。

最近この紅魔館に同じ従者として参入した少年、十六夜 紅夜の消息が不明だからだ。

もちろん、今までの自分なら(・・・・・・・・)気にも留めなかっただろう。

しかし自分の主人であるレミリアによってもたらされたある事がきっかけで彼女は

事の全てを思い出したのだった(・・・・・・・・・)

 

 

「早く紅夜を探さないと……………美鈴、少し館を空けるわよ」

 

 

先ほど聞かされた話を頭の中で反芻し、重要な部分だけを繰り返す。

閉ざされた門を開けた咲夜は本来門番をしているであろう美鈴に声をかける。

だが咲夜の予想通りに返答は帰ってこず、彼女もまたそれ以上は時間の無駄だと

諦めて先を急ごうとした。

しかし、咲夜の足は門を出て一歩目で止まってしまう。

 

 

「___________なに、この血溜まり…………」

 

 

咲夜が門を一歩踏み越えた直後に見つけたのは、明らかに不自然な深紅の血溜まり。

紅魔館の門前に血溜まりがあること自体異常なのに、さらにおかしいのはその量。

もしも仮にこの血が人間のものであるとすれば、それは明らかに致死量に至っている。

馬鹿げた話ではある。だが、この血が今自分の探している少年のものだとすれば。

それは単純に、かつ明快に、彼の死の宣告と同義であった。

 

 

「ッ‼ 美鈴、美鈴‼ 起きなさい、起きろって言ってるのよ‼」

 

「あ、あうぅ? 咲夜さん? おはよーござーまーす」

 

「こんな時までふざけないで‼」

 

「ハイすいません‼」

 

「あなたここの門番でしょ、ならこの血溜まりは一体何⁉」

 

「え? 血溜まりって___________え、何ですかコレ?」

 

 

急いで門に寄りかかって寝ていた美鈴を文字通りに叩き起こして詳細を尋ねるが、

当の美鈴は口の端から(よだれ)を垂れ流しながら今しがた起きるところだった。

咲夜に起こされた彼女は眼下に広がる異常な量の血溜まりを目撃して固まってしまい、

その行動が咲夜にとっては良くないことが起きていると暗に告げた。

 

 

「この血から、紅夜くんの気が感じられますけど、これって」

 

「やっぱり……………美鈴、他には何か分かる⁉」

 

「え、えぇ? やってみますけどこの血って…………」

 

「いいから早くして‼」

 

「ハイすいません‼ やります、やらせていただきます‼」

 

 

咲夜に急かされて美鈴は自分の程度の能力を発動させ、

血溜まりに残された微かな気(オーラのようなもの)を辿り始める。

そしてものの数秒もしない内に美鈴は血溜まりに残された気を探り当てた。

 

 

「…………紅夜くんの気と、もう一つ気が残ってます。

この気はおそらく、鴉天狗の記者さんの気だと思います」

 

「鴉天狗⁉ 何でアイツが紅夜を!」

 

「流石にそこまでは分かりませんけど、鴉天狗の気は確かに残ってます。

今どこにいるかまでは把握出来ませんが、多分……………」

 

「妖怪の山、ね。分かった……………ここの警備は任せたわ」

 

「咲夜さん? どちらへ?」

 

「分かり切ったこと聞かないで! 取り返しに行くのよ、紅夜を‼」

 

 

気を探り終えた美鈴から事の次第を知っているであろう人物の名と居所を

聞いた咲夜は制止の声に耳を貸さずに程度の能力を発動して眼前から消え去った。

能力で『時間を止めて』移動した彼女に追いつけないことを知っている美鈴は

しばらく血溜まりを見つめた後、意を決したように深紅の館を見上げる。

 

 

「異変の時でも名前を呼ばなかった咲夜さんが、あんなにも必死に紅夜くんを

探しているうえに当たり前のように彼の名前を連呼…………お嬢様が何かしたな?」

 

 

既に門の前で惰眠を貪っていた時の表情はどこにもなく、今あるのは自らの逆鱗に

触れた愚か者への裁きを下そうとする、怒れる華龍の覇気に満ちた顔になっていた。

自分自身の砕きそうなほど握りしめた拳をそのままに、美鈴は門を開いて館に入り、

大地を揺るがさん勢いでロビーの床を踏み鳴らして高らかに叫んだ。

 

 

「レミリア・スカーレット‼ 貴女の従者、十六夜 咲夜への振る舞いで

至急お話したいことがある‼ 御目と通り願えるか‼」

 

 

紅魔館全体が揺れるほどの声量で叫んだ美鈴の放つ気にやられた妖精メイド達が次々と

床に墜落していく中、一階ロビーの上空に数匹のコウモリが現れ、収束して塊となり、

そこからもはや美鈴にとっては見慣れた服装の彼女が姿を現した。

 

 

「随分と荒いイブニングコールね、せっかくの夕暮れが台無しよ。

それで、珍しく私の名前を呼んで一体何事かしら、美鈴?」

 

「とぼけるな。貴女は十六夜 咲夜に何を吹き込んだ?」

 

「失礼な物言いね。私が咲夜に言ったことは事実よ、紛うことない事実のみ」

 

「…………その事実が、彼女を追い込むことを承知でか」

「美鈴、人間とは過去に縛られゆく宿命を背負った生き物よ。

自分自身が犯した罪に気付かせてあげる為に追い込まれるのは必至」

 

「では何故今なんだ! 何故今でなければならない‼」

 

「今だからこそ、よ。弟の(むくろ)の前で自分の罪を認めさせることのどこに救いがあるの?

それとも美鈴、お前には咲夜を過去の罪から救い出す方法が他にあると?」

 

「……………一体何を考えている?」

 

「私が考えているのは、今も昔もただ一つ________『繁栄』よ」

 

「繁栄だと?」

 

「そう、繁栄。吸血鬼と魔女と妖怪と、そして人間。

異なる種の者共が集い、世界に歴史という名の爪痕を刻むの。

その傷跡は我らの栄華を謳い、永久に続く安全の証明となるのよ」

 

「………理解が出来ない。貴女は何故、そこまでする?」

 

お互いに場の空気を振動させるほどの力の波動を放ち続けながらも、

片や優雅に、片や荒く激しく言葉を交えんとする二人。

怒気を発し続けている美鈴と同じ目線に浮かんだレミリアが、彼女の言葉に答える。

 

 

「話題のすり替えが好きなのね、さっきからずっと逸れてるの気付いてる?

それともわざと自分から話題を逸らして言ってるのかしら?」

 

「質問に答えろ、レミリア・スカーレット」

 

「…………ふん、ああ分かった。答えてあげるわ。

何故私が咲夜にそこまでしてやるのか、だったわね」

 

「そうだ」

 

「単純よ、アレは私の下僕であり、駒であり、犬だから」

 

「………………………」

 

「どう? 満足したかしら?」

 

玩具に興味を失くした子供のようにつまらなそうな表情を浮かべたレミリアは

そのまま現れた時と同じように複数のコウモリへとその姿を変えて消えてしまった。

一人ロビーに残された美鈴は今しがた去った彼女の言葉をあらゆる解釈で考え、

やがて答えが出たのか、すっと普段の彼女に戻って一礼した。

 

 

「いやー、どーもすみませんでしたー!」

 

 

二階の自室にいるであろう自らの主人に対して詫び、美鈴はそのまま門へと戻り、

咲夜に言われたとおりに門番としての役割を果たそうと意気込んで息を吸う。

返す勢いで息を吐いた彼女の眼には、怒りも悲しみも無く、ただ透き通っていた。

 

 

「このくらいで乱されてちゃダメですね。さぁ、お仕事お仕事‼」

 

 

そう言って夕暮れ時の空を見上げた美鈴は、確かに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳がおり始めた幻想郷、その暗い夜空の下に僕は今、生きている。

明かりが灯った『永遠亭』という医療施設の一室で、僕は射命丸さんに全てを話した。

自分についての全てを、僕という人間についての全てを。

その結果がどうなろうと構わない。僕なりの決心から出した答えだった。

 

 

「___________これがお話しできる全てです」

 

「………………………」

 

「幻滅しましたよね」

 

「………………………」

 

 

射命丸さんは何も答えず、ずっと俯いたままでいる。

僕が話を始めてから今まで彼女は下を向いたまま僕の話を聞いていたが、

唐突に顔を上げた彼女はそのまま部屋を出てしまった。

 

話す相手がいなくなってしまったから大人しく寝る事にした僕をどこからか

覗いている、というより監視している奴がいるのを感覚で発見した。

どうしようか迷ったけど、一応僕を治療してくれた人のいる場所であまり

騒ぎを起こしたくないし、正直言って体を動かすのも辛かったので見逃すことにした。

 

 

「……………射命丸さん」

 

 

今しがた部屋を去った彼女の事を思い返しながら目を閉じる。

本当に彼女にこんな事を話してよかったのか今さらになって不安になってくるが、

どうせ長くも無い命だ、せめて彼女には隠し事も無く消えて逝きたい。

 

 

「最後に、もうひと眠りしますか………………」

 

 

そろそろ覚悟も決めなきゃいけない頃合いだし、一度気を休めるとしよう。

ゆっくりと目を閉じ行く中で、僕が最後に考えていたのはやはり、彼女の事だった。

 

 

「お嬢様、こんな僕を愛してくださって_________________」

 

 

 

 

____________ありがとうございました

 

 

 

 









いかがだったでしょうか?

ご意見ご感想をお待ちしております。


それでは次回、東方紅緑譚

第四十話「紅き夜、さよならも言えなくて」

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