東方紅緑譚   作:萃夢想天

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一週に一回は投稿しようと考えているこの作品ですが、
流石にペースが危うくなってきそうです…………参ったなぁ。

紅夜がヤバそうな所で再びの縁編。
彼も彼でヤバ気な雰囲気が漂っていますが。

それと前回の次回予告で出した題名を変更しました。
本当なら未明に書き終わるはずでしたがアクシデントで………。
今回は短くなってしまいますが、お許しを‼



それでは、どうぞ!


第参十壱話「緑の道、古道具屋と正体」

 

 

 

幻想郷の南部に位置している荘厳な寺社、命蓮寺。

その木製の扉が開き、中から数人の影が歩いて出てきた。

一人は鼠色の髪の毛の小柄な少女、ナズーリン。

さらには濡れているような髪の少女、村紗 水蜜の二人だ。

二人は畑作業などで使われる荷車を引いて命蓮寺を発った。

 

しばらく参道を行くと、何人か知った顔に出会った。

命蓮寺の住職である『聖人』の説法を聞きに来る里の男衆の内の数人で、

今日も朝早くから畑で採れた野菜やら芋やらをお裾分けに寺へ行く途中だったようだ。

いつもいつも村紗達の尊敬するその聖人に気に入られようとしている態度が

見え見えの男達を見てげんなりするが、ナズーリンは気にしない。

そんな人達に手を振ってから、二人は再び歩き始めた。

途中で村紗はナズーリンに気になっていたことを聞いてみた。

 

 

「ねえナズー、さっきからずっと気になってたんだけどさ」

 

「ん? 何だい?」

 

 

後ろから荷車を押しているナズーリンはいつもより大きめの声で応える。

その応答に対して、同じようにいつもより少し大きめの声量で村紗は続けた。

 

 

「あのさ、何でコレを結局外に出すのさ? 何か訳があったんじゃないの?」

 

「…………………その事だけどね」

 

 

荷車を押しながら苦虫を噛み潰したような表情で村紗の後頭部を見つめる。

視線を感じた村紗は顔を後ろに少しだけ向けながらナズーリンの声に耳を傾ける。

村紗の行動を理解したナズーリンは言葉を続けた。

 

 

「実は、この荷物(・・・・)はかなりの曲者でね。ただの凍傷でもただの人間でもないようだ」

 

「………と、言うと?」

 

「布で隠していた顔の部分は、全て機械で埋め尽くされていたんだ」

 

「機械? 妖怪の山の河童達がいつもいじくってるアレ?」

 

「そうだ。しかもどうやら壊れているようでね、厄介極まるよ」

 

「あー、それで手に余るから質屋に出そうって事か!」

 

「誰がそんな事をするかい、この罰当たりめ」

 

ナズーリンが困ったような顔をして村紗の言葉に苦笑する。

それに対して村紗は何で、といった驚きの表情で振り返っていた。

 

「何であたしが罰当たりになるんだよ」

 

「………分かるように説明しなきゃならないかな。うん、そうしよう。

そうだな船長、君はもし自分の大切な商売道具が壊れたらどうするね?」

 

「商売道具? 桶とか柄杓とか?」

 

「そうだ。まあ答えは分かっているさ、もちろん直すだろう?」

 

「そりゃ、まあ」

 

 

うんうん、と荷車を引く手を止めて頷く村紗。

その為止まった荷車にナズーリン共々当たってお互い腰と頭をぶつける。

涙目になった二人は荷車をどかして少し語ろうと横道にそれた。

 

 

「…………とにかく、彼といっていいのかはよく分からないが、

彼は『道具』なんだよ。その視点で考えてみると、君は罰当たりになるぞ」

 

「いやだから、どうしてさ?」

 

「分からないかい? 私がお仕えしているのは『毘沙門天』、神様なんだよ?

毘沙門天様は戦の知をお授けくださる神としてもご高名だが、商業に携わる人間からは

財宝を管理する神様として重宝されているのだよ。道具もまた商売人には宝であるし……」

 

「あ、ああ…………そういう事か。なるほど、罰当たりにも納得だわ」

 

 

全て納得がいったという表情で村紗が大きく頷いている。

だがすぐに新たな疑問が浮かんだようで、視線をナズーリンに戻す。

ナズーリンはその視線に気付いて、またすぐに口を開いた。

 

 

「分かっているよ船長。何故彼を『道具』として見るのか、だろう?

その疑問には、目的の場所に着いてからゆっくり語ってやるとしよう。

少し時間を使いすぎてしまった、さあ早く行こう。時間は有限であるべきだ」

 

「いいとこまで引っ張っといてそりゃないでしょ…………」

 

 

急ぎたまえとせかすナズーリンに従って、再び荷車を二人で押し始める。

朝もそれなりの時間帯になってから出発したためか、目的地に着いたのは昼時前だった。

そこは、昼も夜も関係なくどんよりとした空気に覆われている鬱蒼と茂った大きな森林。

辿り着いた場所の近くに建つソレを見て、村紗がまたも納得したように快活な笑顔で言った。

 

 

「ああーなるほど! ここなら確かにうってつけだわ!」

 

「そう、『香霖堂(こうりんどう)』さ。ここの店主とはそれなりの縁があってね」

 

「へー、なんか意外だわ」

 

「商売の何たるかを教え込んでやって以来、私と彼は何かと語らっているよ」

 

「お、思ったより意外だったわ…………」

 

「それよりも鑑定だ。店主よ、邪魔するぞ」

 

 

村紗の驚愕を軽く流したナズーリンは、店の扉を声をかけながら開け放つ。

古ぼけた木製の扉を開けると、内側から少し埃っぽい感じの空気が漂ってきた。

ナズーリンは慣れているようだが、村紗は慣れずに数回咳込んで呼吸を乱す。

店に先に入っていったナズーリンの声に反応して、カウンターから一人の男が歩いてきた。

 

 

「おや、これはこれは。毘沙門天様の……………本日はどういったご用件で?」

 

「様になっているじゃないか店主よ」

 

「いえいえ、いつも御贔屓にどうも」

 

「…………ナズーが敬われてる」

 

「聞こえてるぞ船長。そうだ店主よ、実は頼み事があってね」

 

 

驚愕が未だに抜け切らない村紗をさておいて、ナズーリンが香霖堂の店主に向き合う。

 

 

「向こうにある荷物を、少し融通してほしくてね」

 

「ん………あの荷車の荷台かい?」

 

「そうだよ。頼めるかい?」

 

「お任せあれ」

 

そう言って眼鏡をかけた灰色の髪の男はゆっくりとした足取りで荷車に向かう。

 

彼の名前は『森近 霖之助(りんのすけ)』、古具屋『香霖堂』の店主だ。

青と黒の二色異なる生地を使った不思議な印象を抱かせる着物を着こなしていて、

顔にかけている眼鏡と物腰の柔らかそうな口調も相まって知的な雰囲気が漂っている。

そのゆったりとした足取りは高貴なものだが、住居や暮らしぶりを見るとそうは思えない。

そんな曖昧な彼だが、その商売人としての腕は間違いなく一級品だ。

 

 

「さてさて………………コレは、何だい?」

 

「見ての通りだ」

 

「…………僕は古道具屋だが人身売買はしたことが無いし、する気も無いんだが………」

 

「いやいや、人なんだが人ではなくて………そんな目で見るな」

 

「ああいや、失敬。ただ毘沙門天様の懐刀たる貴女がそんなあやふやな発言を」

 

「仕方ないじゃないか、現状ソレは正体が分からないんだ」

 

「正体が? それは君らの寺に住み着いたあの妖怪の仕業では?」

 

「私がそんな二度手間をすると思っているのかね、店主?」

 

荷台に積んであったものを見た霖之助はナズーリンを訝しげな表情で見つめる。

彼の視線に物申したナズーリンの言葉に、霖之助はおどけた様に後ずさった。

村紗は一連の会話と動作を眺めて、改めて二人の関係性が分からなくなっていた。

そんな村紗の動揺を差し置いて、霖之助はもう一度荷台のソレを確認する。

 

 

「うーん、しかし貴女はコレをどうしたいのかな?」

 

「鑑定を頼もう。値段ではなく、コレが道具か否かをだがね」

 

「それはどういう……………いや、まずはやってみようか」

 

 

ナズーリンの言葉に異を唱えようとした霖之助だが、ソレを止めて言われた通りにする。

彼の言葉に頷いたナズーリンは、手頃な椅子を二人分持ってきて村紗に座るよう促す。

椅子に座った二人は霖之助の査定を待つ間、ナズーリンは道中での質問に答えようと言った。

 

 

「さて船長、先程保留していた質問に答えようじゃないか。

何故アレを『道具』として見るのか、だったね。それについては私はこう考えている。

来るまでに話したが、アレの顔の部分には機械が埋め込まれ………いや、顔が機械だった。

無論そんな人間は存在しない。だが気配を察してみれば多少の妖力や神通力があるものの

ほとんど人間のソレと変わらないのに、彼が寺に運び込まれた時その体はどうなっていた?」

「え? そりゃナズーも見てただろ、全身が凍ってて…………あ」

 

「気付いたか。例え貧弱な人間でも、『全身氷漬け』になんてなる訳がないんだよ」

 

「言われてみれば確かに。凍っちまったら普通、体は壊死しちまうもんだしね」

 

「そう。つまりどうあれ、アレは『人間に近い何か』か、『元は人間だった何か』という

不思議だがそう言った常識から飛躍した仮説が立てられる」

 

「常識どうこうをあたしらが言っていいもんかね?」

 

「そこはこの際置いておけ。とにかく、前者ならまだしも後者ならば。

機械だったのであればアレを製作した者が必ずいる、もしくはいたはずだ。

ならばそれを突き止めるのには、ここの店主の能力がうってつけというわけさ」

 

 

そこまで言ってナズーリンはふぅと小さく息を吐く。

彼女の視線の先には、眼鏡の奥の瞳を普段より僅かに大きく開いた霖之助がいた。

 

 

森近 霖之助もまた、この幻想郷で『程度の能力』を持つ存在だ。

彼の持つ能力は、『道具の名前と用途が判る程度の能力』というもの。

具体的に説明させて貰うと、彼は眼で見た道具の名前と利用法が判るのだ。

だが、利用法が判るだけであって使用方が判るわけではない。

例えば、シャーペンを彼に見せ、能力を発動させたとしよう。

すると彼にはシャーペンの『名前』と『芯を入れて文字を書く物』という事が判る。

しかし判るのはそこまでで、どうすれば芯が出せるのか、芯を入れられるのかといった

使い方までは理解できない。中々難儀な能力なのだ。

近代の掃除機であれば、名前とゴミを吸引する道具というところまでしか分からない。

正直言って、他人に無害で自身に有害な能力は彼以外にはいないだろう。

 

だがナズーリンは今回に限って、彼の能力が有効活用出来ると確信していた。

 

 

「鑑定の結果、名前や用途が判らないのであればそれでいい。

引き返して『竹林の診療所』に担ぎ込んで手当てしてもらえばいいだけの話だ。

だがもしも名前と用途が判ってしまったのなら(・・・・・・・・・・)、厄介なことになる」

 

「どうして? 寺から患者出すほうが厄介って前言ってなかったっけ?」

 

「言ったさ。だがそれは彼が人間であったならの話だ。

人間でなく店主に名前と用途が判ってしまったら、彼は『道具』という扱いになる。

つまりさっきも言ったが、アレを管理あるいは製作した者の存在が確かにあるということだ」

 

「…………………あ、ああ!」

 

「理解出来たようだね。つまり私達は理由はどうあれ、

『他人の所有物を氷漬けにしてしまった』、いわば加害者の立場に立たされている」

 

「いやいや、でもあんな風にしたのはあの氷の妖精でしょ⁉」

 

「ああ、確かにあの氷精のようだ。話が支離滅裂だったが何とか解読出来たよ。

だとしても私達の土地の目と鼻の先で起こった出来事だ、干渉は疑われて然る。

言い逃れは出来そうにない。だから厄介だと言ったのだ」

 

「ははぁ………………よくぞそこまで考えるもんだね」

 

「なに、私がたまたま知能に秀でているというだけさ」

 

「たまたま、ね」

 

「そうだ、たまたまだ」

 

 

ナズーリンの解説を聞き終えて、村紗が心の底から感嘆する。

そんな村紗の発言に対してナズーリンは軽く笑ってあしらう。

その直後に店の外に置いておいた荷車から、霖之助が戻ってきた。

先程の話を聞いた今となったは、村紗も鑑定の結果が非常に気になっている。

二人の視線を維新に受けて霖之助は、間を置いてからゆっくりと結果を話し始めた。

 

 

「…………結論から言おう。アレは、道具だった」

 

「あらら…………悪い方に当たっちまったね」

 

「そのようだね。店主、それでアレは何だったんだい?」

 

「まぁまぁ落ち着いて。順を追って今から話すから」

 

 

せかす二人をなだめる様にして、霖之助は店の奥に入っていく。

少し経ってから戻ってきた霖之助は二人分の粗茶を淹れて持ってきた。

それを二人に渡してから、改めて話を切り出した。

 

 

「さっきも言ったけど、アレは道具だったよ。

僕の能力で名前と用途が判ったんだ。だがこれがどうにも難癖でね。

………………あの道具の名前は、『八雲 縁』と言うようだ」

 

「八雲?」

 

「しかも縁って………顔の布に書いてあるまんまじゃん」

 

「そうだ、僕もそれが気になってはいたんだよ。

でも名前の次に分かった用途、こっちが非常に不思議なんだよ」

 

「不思議?」

 

「そう、普通道具とは大抵が一つの用途の為に作られている。

複数の用途の為に作られている道具というのは、滅多にあるもんじゃない。

だけど、あの道具がまさにそれだったんだ。

一つ目は『あらゆる戦闘行動における無条件勝利』というものだった」

 

「……………それはどういうことだい?」

 

「そこはお得意の頭脳で察してもらいたい。僕にも判らないんだ。

名前と用途は判っても僕には使用方法は全く判らないんだからね」

 

「使えるんだか使えないんだか判らない能力だね」

 

「船長!」

 

「いいんだよ、実際その通りなんだし。

さて、一つ目も問題だったが、こちらの方がさらに問題だ」

 

「どんなの?」

 

「二つ目の用途は、『八雲 紫の完全なる保護・防衛』だそうだ」

 

「八雲 紫? スキマ妖怪の?」

 

霖之助の査定の結果から出てきた名前を村紗が聞き直す。

その間、ナズーリンはずっと思案顔で俯いてた。

村紗の問いに頷き、霖之助が再び話を始める。

 

 

「どうもそうらしいが、理解出来ないね。

八雲 紫は幻想郷にいる誰もが名を知っているほどの超大物妖怪だ。

その能力も群を抜いているし、弾幕ごっこでも他の追随を許さない。

おまけに普段は九尾の妖狐を式神を使役しているんだから、ほぼ隙なんて無い。

そんな彼女に保護や防衛なんて必要あるのだろうか、と思うんだが」

 

「店主の言う通りだ。私もそこが気になっている」

 

「……………とにかく、アレの所有者はスキマ妖怪って事でいいの?」

 

「そのようだ。でも、なんでそれを君達が?」

 

「察してくれ」

 

「………………聞かない方が良さそうだね」

 

「君は頭が回るから良い。回り過ぎても困り物だが」

 

「そこまででは…………………さて、他にご注文は?」

 

「そうだな…………では店主、出張を頼めないか」

 

「出張?」

 

霖之助の査定結果を聞いた二人は浮かび上がる謎を一先ず捨て置く。

そしてナズーリンは霖之助に新たな依頼を申し出た。

ナズーリンの言葉に彼は難色を示し、理由を尋ねる。

 

 

「一体どこに?」

 

「決まっているじゃないか。この幻想郷で機械を扱える場所なんて、

私はたった一か所しか知らない。そこまでソレの運搬を手伝ってもらいたくてね」

「ま、まさか………………」

 

「そう、河童達の暮らしている『玄武の沢』だよ」

 

 















短くてすみません。
大した文章力も人気もないくせにスランプのようですたい………。

あ~あ、最初は自己満足の為に書いていたというのに
今となっては読者数の伸び悩みに悶絶する始末、救い難い‼‼


それでは次回、東方紅緑譚


第参十壱話「緑の道、玄武の沢の機工廠」

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