東方紅緑譚   作:萃夢想天

21 / 99

みなさんどうも、一週間ぶりですね。
友人に勧められた『東京喰種』というアニメをこの間
見てみたのですが……………面白かったですw

特にあの「フォルテッシモッッ‼‼‼」がw

まぁそれはともかく、今回で恐らく『紅き夜』編が
ラストパートになるのではないかと。
緑の道も書きたかったんですが、紅夜の人気の方が
すごい高くて………若干パル嫉妬です。


それでは、どうぞ!


第十九話「紅き夜、異変解決」

 

 

 

 

 

既に湖の真上にまで昇っている月と、まだ三時過ぎ程度にも関わらず沈みかけている太陽の

両方に照らされて紅い霧の立ち込めている吸血鬼の館の内部で、今まさに二つの弾幕ごっこが

繰り広げられていた。

その内の片方、白黒の魔法使いと完全で瀟洒な従者の戦闘が佳境を迎えていた。

互いに様々な弾幕や数々のスペルカードを発動して、体力気力ともに消耗しかけていた。

二人は呼吸を荒げながらも、自分の弾幕が相手に届く一瞬まで気を抜かなかった。

そうして、終局の時が訪れた。

 

 

「コレで…………恋心【ダブルスパーク】‼‼」

 

「くっ! 幻葬【夜霧の幻影殺人鬼】‼」

 

 

魔法使いこと霧雨 魔理沙の放った二丈のマスタースパークと、従者こと十六夜 咲夜の

放った体の周囲を旋回していたナイフの激流が、真正面からぶつかり合った。

咲夜のナイフは魔理沙の極大の光線に接触する度、火花を散らしながら弾け飛ぶ。

「いっけえぇぇぇぇぇッ‼‼‼」

 

 

魔理沙は左手で帽子の鍔を押さえながら右手でミニ八卦炉をフル稼働させ続ける。

やがて咲夜の投げたナイフが底を尽き、魔理沙の光線を阻むものが無くなった。

勢いを少し削いだだけという結果に目を見張りながら、咲夜は光の奔流に飲まれた。

 

「はぁ………はぁ………おっし、楽勝だぜ……」

 

息を切らしながらも見栄を張る魔理沙は、箒からゆっくりと紅魔館の廊下に降りて

意識を失って倒れている咲夜に向かって若干の憤りを込めて呟いた。

 

 

「ったく……『私の弟なんかじゃない』とかよ、家族を(ないがし)ろにするようなこと

の方こそ、二度と言うなっての。アイツは紛れも無いお前の弟、それの何が悪いんだ…………」

 

 

衣服の端々に付いた埃をパンパンと手で払いながら、彼女はクルリと向きを変えた。

箒を自分の肩に乗せて、魔理沙は不敵に笑いつつ自分達の戦いを見ていた彼女に声を掛ける。

 

 

「おいおい、全く………次から次へとよくもまぁやられに来てくれるぜ。

相手する私の身にもなってほしいけどな、吸血鬼(よいこ)は寝てる時間だぜ? フラン」

 

 

魔理沙の言葉に名前を呼ばれた彼女が、ニッコリと笑って返す。

 

 

彼女の姉と同じ純白のナイトキャップに、煌びやかに照り輝く金髪のサイドポニーの髪。

彼女の姉とは違って、血のように赤い半袖シャツとスカートと腰の巨大な白いリボン。

そして紅夜と同じ深紅色(ワインレッド)の眼に、不気味ながらも流麗な輝きを放つ(いびつ)な形状の一対の翼。

 

吸血鬼の妹こと、『フランドール・スカーレット』がそこにいた。

 

 

 

フラン(フランドールの略称)は魔理沙の後ろで倒れている咲夜を一瞥した後、

今もまだ大図書館の中で戦っているであろう彼の方向へと目線を動かす。

その行動の意図が読めない魔理沙は、首を傾げながら再度彼女へ問いかける。

 

「なあおいフラン、お前ら何でまた性懲りも無く異変なんか起こしたんだ?

アタシにとっちゃ丁度良い肩慣らしになるから別に良かったんだけどさ?」

 

「…………私じゃないもん。この異変は、紅夜の望んだ異変なの」

 

「紅夜って、アイツが?(なんかフラン、急に大人びた話し方になった………か?)」

 

「うん、お姉様が言ってたの。紅夜が本当の意味で私達の仲間になるために必要だって」

 

「へぇ……あのお姉様がね、俄然胡散臭くなってきやがったぜ」

 

 

二人はとりとめの無い会話を終わらせて、臨戦態勢に入る。

魔理沙は再び箒を魔法で浮かせ、フランは羽根をはためかせて宙に浮く。

ミニ八卦炉に光が灯り、吸血鬼の瞳に灼熱の朱が宿る。

 

「さぁてと、久方ぶりに遊ぼうぜフラン‼」

 

「うん! いっぱい殺し合お(あそぼ)うね、魔理沙!」

 

 

紅魔館の大図書館前で、再度弾幕ごっこが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは紅魔館、ヴワル大図書館内。

先程まで図書館内を埋め尽くしていた紅い霧も、段々と晴れてきていた。

紅白の巫女、博麗 霊夢は自分の仕事がやっと終わったと小さく息をついていた。

今の今まで自分と弾幕ごっこを繰り広げていた少年は、床に倒れて動かない。

その様子を遠巻きから見ていた文とパチュリーはそれぞれ違った反応を見せた。

 

「霊夢さん、とうとう終わりましたね! いやー長かった!」

 

「……………………」

 

パチュリーの沈黙に少し違和感を感じた霊夢だったが、まず文の言葉に反応した。

 

 

「そう? 前の異変に比べたら割と楽勝だったわよ」

 

「あっはは、やっぱり博麗の巫女は言うことが違いますね~!」

 

(おだ)てても今回の宴会の酒代持ち、アンタだから。変更なんてしないわよ」

 

「あはははははは______________はぁ………」

 

 

霊夢の言葉に肩を落とした文だったが、すぐに気を取り直して自分の職務を果たそうと

カメラを手に、未だ本棚の近くで倒れている紅夜に近付いて写真を撮ろうとした。

だがその時、唐突に紅夜の身体がビクンと跳ね、血走った眼で自分を見下ろす文の顔を覗き込む。

息も絶え絶えに驚いた文の足を掴み、ゆっくりと膝を立てつつ口から言葉を漏らす。

 

 

「い、いけませんねぇ…………これは……! もう、時間が、足りないぃぃ……………」

 

「ひっ‼⁉」

 

「文⁉ 」

 

 

ゆらゆらと幽鬼の如き動きで立ち上がる紅夜を見て、文は悲鳴を上げた。

霊夢もまたその姿を見て、異常なまでの何かを感じ取っていた。

その時、彼女は文が言っていた言葉を脳の片隅から引き揚げて思い返していた。

 

 

『あの少年がどうも苦手と言いますか…………』

 

(ああ、そうだった。仮にも鴉天狗最速の文が恐れていた相手だったのに!

完全に油断した、あの男のスペルの謎すらまだ分かってなかったのに(・・・・・・・・・・・・)‼)

 

内心で焦りながら霊夢は消した陰陽玉を再び召喚し、弾幕を放とうとした。

しかし文を開放し立ち上がった彼はすぐさま能力を使って姿をくらませる。

文はすぐその場を離れ霊夢の後方へ下がるが、霊夢と同じく顔は引き攣っていた。

そんな中、一人だけ沈黙していたパチュリーがようやく口を開いた。

 

 

「……………紅夜、大丈夫なの?」

 

 

パチュリーが心配そうな声色で尋ねると、図書館内にいつの間にか

再び集まり始めていた紅い霧の中から彼の声が響いてきて彼女に答えた。

 

 

「はい、まだ………まだ僕はやれます……………」

 

「止めておいた方が「まだやれます‼‼」…………そう、分かった」

 

紅い霧のどこからか聞こえてくる声に渋々と言った体で頷くパチュリーだったが、

図書館の外から時折響いている大きな音に気付いて扉の方へ向かった。

そして扉に手を掛けながら、小さく呟いた。

 

 

「信じてるわよ、あなたの強さ」

 

「………………かしこまりました」

 

木製特有のひび割れたような音と共に開閉する図書館の扉から出て行ったパチュリー。

彼女の後ろ姿が見えなくなった直後、立ち込めていた霧に変化が現れた。

ゴウゴウと唸りながら中心へと集まって濃くなっていく霧は、段々と姿を変えていく。

その変化をカメラのシャッターを切りながらも後ずさる文と霊夢は傍観していた。

少しずつ何かへと変貌していく紅い霧の中から、再び彼の声が聞こえてくる。

 

 

「ははは、ははははははは‼ さぁ、今度こそ最終ラウンドです‼」

 

「くっ…………まだやる気なの⁉」

 

「あややや、霧が!」

 

 

彼の声が、霧が姿を完全に変えようとするにつれてクリアになってくる。

そしてとうとう霧は霧で無くなってしまった。

文は完全に唖然とし、霊夢は手にしたお祓い棒を力を込めて握る。

やがて、彼の姿が二人の視界に映った。

 

 

「こ、これは…………」

 

「紅い、鎧……?」

 

深紅騎士(CRIMSON KNIGHT)、と呼んでもらおう』

 

 

中世時代の騎士が纏っているような形状の甲冑の如き風貌、

手にしている槍や盾ですらも紅蓮に色付き、棚引いている。

目の前に突如として現れたこの騎士が、全て霧で出来ているとは信じられず

二人はその巨体にいつまでも圧倒されていた。

 

「クリムゾンナイト………さっきと同じスペル⁉」

 

『ええ、その通り。ですが先程とは全くの別物なんですよ』

 

「別…………物?」

 

「確かに、どう見てもさっきと同じとは思えないわ」

 

『………先程のお礼をたっぷりしましょうか、いざ尋常に‼‼』

 

 

その声と共に、紅い霧の騎士【クリムゾンナイト】が槍を振るう。

巨大な重鎗(ジャベリン)が図書館を横薙ぎに払われ、風圧で本が舞い飛ぶ。

騎士の攻撃を飛んで躱した霊夢は、まずは先制とばかりに陰陽玉から弾幕を放つが

紅い騎士の全身を隠してしまうほど巨大な盾ではじかれ、効いている様子が見られない。

ならばと今度は何枚かの札を取り出し、勢いをつけて投擲した。

だが、紅い騎士の目のような部分に光が灯った直後、その巨体が忽然と消えた。

 

「えっ⁉ アイツみたいに消えた⁉」

 

「霊夢さん、また上です!」

 

『遅いッ‼』

 

文の叫びを聞いて霊夢は真上を見上げるが、そこには先程まで目の前にいた紅い騎士が

右手の巨大な重鎗を振り抜かんとしている姿で彼女を待っていた。

霊夢はすぐに槍を避けて体勢を立て直そうとするが、騎士の鎧の隙間から無数のナイフが

自分をめがけて飛んでくるのを目にして慌てて防御態勢に切り替えた。

札を四枚取り出して空中に放って陣を作りナイフを遮断して防ぐが、今度は紅い騎士の

槍の突き出された先端によって陣を破壊され、霊夢は再び宙に浮いて攻撃を避ける。

そんなやり取りを見ていた文が、霊夢にまたアドバイスをした。

 

「霊夢さん、後ろなら攻撃が通るはずです!」

 

「出来たらやってる‼」

 

『まだ、まだまだぁあぁァァ‼‼』

 

 

紅い騎士が槍を振るっては霊夢に躱され、彼女が弾幕を放てば彼のナイフで相殺される。

一進一退の攻防が続く中、紅い騎士が大きく振りかぶった槍を霊夢に向けて突き下ろした。

だがその先に彼女の姿は無く、ただ一瞬だけ黒い点が見えただけだった。

辺りを見回す紅い騎士の後ろに突如として黒い円が浮かび上がり、その中から霊夢が

札を重ね持ちしながら飛び出してきた。

完全に背後を取った不意打ちに、紅い騎士は動揺するような素振りを見せた。

 

「出た、【亜空穴】‼」

 

「これで終わりよ‼ 霊符______」

 

『無駄だッ!』

 

霊夢が背後からの奇襲でスペルカードを宣言しようとした時、

紅い騎士はその巨体をまたしても掻き消して、霊夢とは遠く離れた地点へと移動した。

そのまま再び無数のナイフを霧の装甲から射出して霊夢に防御させようとする。

だがそれを霊夢は放った弾幕で相殺する。

 

「夢境【二重大結界】‼」

 

『ッ! 盾を持っていたのは僕だけじゃないと……』

 

「そういう事! そんで今、アンタは無防備‼」

 

『たかがナイフを防いだ程度で、舐めるなぁぁあぁぁァァッ‼‼』

 

 

霊夢の結界を砕こうと、さらに物量を増やしてナイフを放つ紅い騎士。

その攻撃を結界で防ぎながらも、霊夢は手にした札に霊力を込めていく。

繰り返される攻防に文はただただ、シャッターを切ることしか出来なかった。

レンズ越しに二人の激闘を見ていた文は、ある違和感に気付いた。

 

 

(アレ………霧が無い? あの少年しか映ってない? 何で⁉)

 

 

その事に気付き再び顔を上げて肉眼で戦いを見つめるが、やはり目の前にいるのは

ナイフを放ち続ける巨大な紅い騎士と、結界でそれを防ぎ続けている紅白の巫女だった。

自分の見ている二つの光景に戸惑いを隠せなかったが、それでも自分にできるのは

今起こっていることをありのまま記すだけだと胸に刻み直して、再びシャッターを切った。

 

 

 

『こ………ま………れ、な…………や……‼』

 

「(動きが鈍った⁉ 今なら……………)いける‼」

 

 

文が違和感に気付くまでナイフを飛ばし続けていた紅い騎士の攻撃が突然止んだのを

結界越しに確認した霊夢は、すぐさま飛び出して活動を停止した騎士の懐へと突っ込み

彼女が亜空穴から飛び出した直後に発動しようとしたスペルを、今度こそ宣言した。

 

 

「これで本当に終わり! 霊符【夢想封印】‼‼」

 

 

霊夢がスペルカードを発動させた途端、彼女の周囲に無数の札が張り巡らされ

そこから色とりどりで大小様々な輝く弾幕が生み出され、空間内を飛び交い始めた。

やがてただ無秩序に辺りを動き回っていた弾幕が、一気に紅い騎士へと向かって行った。

 

 

『_________けあ_____お___う_______さ、まぁァァッッ‼‼‼』

 

「はあぁぁぁぁぁ‼‼」

 

 

霊夢が雄叫びを上げながら無数の弾幕の奔流を操り、紅い騎士を飲み込んでいく。

一面の光の中で紅い騎士は、紅夜は、腕を空へと伸ばして何かを掴もうとしていた。

轟音と共に全てが眩い光に飲まれていき、そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___________幻想郷中の紅い霧が晴れ、月は西へと沈んでいった。

 

 






次回、東方紅緑譚


第十九話「紅き夜、異変の真相」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。