東方紅緑譚   作:萃夢想天

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暫くは一日一回の投稿ペースで行けそうです。

いよいよ、彼らの物語が動き出します。
作者共々、長い目で見守ってください‼


~幻想『狩人夜来』~
第壱話「名も無き狩人、緑の道と往く」


__________瞬間、目の前に亀裂が走った。

 

 

 

たった今目撃している現象に、僕はただ呆然とすることしか出来なかった。

何が起きているのか、全く把握出来ない。出来そうもない。

 

(いきなり目の前の空間に亀裂が走る訳がない‼)

 

やっといつも通りの思考が出来そうになってきたものの、真っ先に浮かんだのは

現実に起きているこの現象への____________

 

(…………幻覚か⁉)

 

 

________否定、だった。

 

 

ある意味で現実逃避をしていた僕の視界に、更に不可解な映像(げんじつ)が飛び込んできた。

 

空間に突如走った亀裂のひび割れから、スルリと手が伸びて来た。

その手は亀裂を拡大し、徐々に大きな穴を作り上げていた。

この瞬間、この地下施設で培われた防衛本能が叫びだした。

 

 

_____________敵襲だ、と。

 

 

僕はすぐさま亀裂から離れ、警戒態勢を取った。

所持している武器は、一振りのナイフのみ。

(………正体不明の敵を相手に、心もとないな…)

 

心の内でそうぼやきつつも、目だけは亀裂の奥を見据える。

 

 

そして、とうとう人一人通れるほどの穴が開いてしまった。

奥から伸びていた手が引っ込み、ゆっくりと全身を穴から出してきた。

 

 

 

____敵は、異様としか言えなかった。

 

 

背丈は僕とほぼ同じくらいの、日本の作務衣?のような衣服を身に纏っている少年。

足には、甲の辺りが露出しているブーツもどきを履いていて、その腰には鞘に収まった_____刀。

この時点でも十分に異様ではあったが、僕が一番異様だと感じたのは…………顔の部分だった。

 

 

(…………………布? いや、褌? とも違う…。何なんだ、アレ)

 

 

その少年の顔は、布で覆い隠されていた。

しかもその中心に、筆で書かれたであろう達筆な文字があった。

 

 

 

(アレは……"(みどり)"、か?)

 

 

 

 

「____________違う、"(えにし)"、だ」

 

 

「‼⁉」

 

 

衝撃が走った。目の前の少年は、今何をしたのか。

 

 

(なんだ……⁉ 声には出してない、はず…。読心術の類か⁉)

 

 

 

「………それも、違う。読んでいる訳ではない」

 

流石に二度目ともなると、最初ほど驚きはしなかった。

代わりに、幾つもの疑問が比較的冷静な脳内に浮かんできた。

 

(今コイツは、読心術ではないと言った…。半信半疑でいいとして、思考は確実に読まれた‼)

そう、肝心なのは少年の言葉よりも、「思考を読まれた」という確かな事実だ。

突然何の前触れもなく現れ、その上、他人の思考を読むこの少年に対して、僕は恐怖と興味が

混ざり合った、何とも言えない気分に困惑していた。

 

「……読んでいる訳ではないのなら、何故___」

 

「時間が惜しい、お前の疑問には後々答えよう」

 

取り付く島もない、まさにそんな状態になってしまった。

すると、少年は僕に近づいてきた。

 

味方だと判断出来ない相手を、わざわざ接近させるわけにはいかない。

あらためて距離を取ろうと、足に力を込めた。

 

「______距離を取ろうとしても、無駄だ」

 

「‼⁉」

 

________________背後から、少年のくぐもった声が鼓膜を揺さぶる。

 

 

僕の肉体が、無意識に、反射的に攻撃に移る。

右手に逆手構えに握っていたナイフを、腰の辺りから振り向き様に胴体を袈裟斬りにするように

躊躇無く、一気に振り上げた。

(完全に胴を捉えた、貰った‼)

 

 

僕のナイフが背後にいる少年を切り裂いた_________はずだった。

 

 

(手応えが無い! 避けたのか、この距離で⁉)

 

そう思い、切り上げた腕に合わせて身体ごと後ろを振り向く。

しかし、そこにはまだ少年はいた。なのに手応えが無い。

 

「何をしても無駄だ…………今のお前ではな」

 

振り上げたままの腕を、左手で掴まれた。

見た目とは裏腹に、凄まじい握力を持っているようだ。

ミシミシと締め付けられる痛みが、尋常ではない。

 

しかし、これで戦闘不能になるのなら、僕は既にこの世にはいない。

 

掴まれている右手を、こちらへ引き寄せる。

そのまま、距離を取ろうとして力を込めていた右足で僅かに跳躍する。

僕の右腕を掴んでいた左手ごと、こちらに倒れ掛かる少年。

 

腕を引き寄せる右回りの力と、相手から掛けられる体重。

その二つの力を上乗せした_____________

 

 

「_____シッ‼‼‼」

 

___________ 渾身の左足空中半転蹴り(レフト・シュナイド・キック)を放つ。しかし、

 

 

(また………手応えがッ‼‼)

 

 

確実に当たる距離での不発。どう考えても有り得ない。

決まるはずだった攻撃の失敗と、ジワジワと湧き上がる恐怖に、

僕は冷静ではいられなくなってきた。

 

すると、不意に右手の拘束が解かれた。

少年が僕の右腕を掴んでいた左手を放したからだ。

 

「……言っただろう、今は時間が惜しいのだ。抵抗はしないでくれ」

 

少年が僕に語り掛けてきた。今までこんな施設にいたせいなのか。

それとも目の前にいる少年が異様過ぎるからなのか。

たった数秒の戦闘で、絶対の自信を打ち砕かれたからなのか……。

 

 

僕の中にあった抵抗の意志は、なりをひそめていた。

 

 

「………分かったよ。そちらの話を聞かせてもらおうかな?」

 

「……やっと話が出来そうだな、『十六夜 咲夜の弟』よ」

 

 

 

________________?

 

 

 

「…………………誰の、何だって?」

 

「その事も、まずは向こうに着いてから話そう。では行くぞ」

 

そう言うや否や、彼は僕の腕を再び掴んで引っ張る。

 

「待、待ってくれ!いきなり何だよ。そもそも、行くって何処に?」

 

まるで事情が分からない僕を見て、彼は何かに気付いたような素振りを見せた。

 

 

「……そうか、今のお前は知らなくて当然か」

 

「………今の?」

 

 

「とにかく、急ごう。行くぞ___________『幻想郷』へ」

 

 

 

急かされるまま、彼と共にさっきの亀裂の穴へと入ってしまった。

 

 

 

そして、いつの間にか意識を失っていた僕が次に見たものは____________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________見た事も無い世界だった。

 




もっとスマートに書くはずだったのに……。

幻想入り一歩手前でこの文字数、『弾幕ごっこ』の時とか
一体どうなるんだろうか………今からもう怖いです。




次回、東方紅緑譚


第弐話「名も無き狩人、幻想の地を歩む」

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