東方紅緑譚   作:萃夢想天

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久々にランニングをしてみましたが、やはり
体力が落ちてますね……………若いっていいな。

そんな羨みの視線を近所の中学生に
送りながらこのssを書いているそんな毎日w

そろそろディケイドの方も書かないと、と
思いながらもこちらの方が手が進むので
こちらを優先させちゃいます、それでは、どうぞ


第十六話「紅き夜、相対す紅白の巫女」

 

いつもと少し違う赤い霧の漂う湖に佇む紅魔館から、二人の少女が歩いて橋の袂にやって来る。

白黒の服装の少女、霧雨 魔理沙は全身に小さな傷や埃が付いており、傍らには手にした手帖に

忙しなく何かを書き込んでは消している赤い頭巾(ときん)を被った制服姿の鴉天狗、

射命丸 文が空中に浮きながら魔理沙と共にいた。

そんな道中で魔理沙が帽子を深く被り直して呟いた一言に、文が首を傾げながら尋ねる。

 

 

「ほ、『方向』を操れる……?それはまたどうしてそう思ったのか気になりますね」

 

「別に大したことは無いぜ。あん時、勝負が決まるって一瞬だった…………」

 

 

魔理沙は悔しそうに眉を歪ませながら、先程の弾幕ごっこの決着の瞬間を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔理沙は自分のとっておき、魔符【スターダストレヴァリエ】のスペルカードを発動させて

目の前で高笑いしている紅夜に向かって、最高速度の弾幕と化して突貫していった。

しかし一筋の弾幕となった愛用の箒の柄が紅夜の腹部に接触する直前、ソレは起こった。

紅夜が振り上げていた両手を自分に向けて突き出して、至近距離に居る自分にだけ聞こえるような

本当に小さな声だが、確かに宣言した。

 

 

「裂昇【クライミングスクリーム】………!」

 

「何‼⁉」

 

 

紅夜が宣言したのは、新たなスペルカードだった。

だが既に魔理沙は懐に入り込んでいた為に、もう遅いと眩い光の中で小さく笑っていた。

しかしその笑みはすぐに消え去り、驚愕に染まった。

 

 

「う、うわああぁぁぁ『ドスドスドスッ‼‼』ぁぁぁぁ………‼」

 

 

今まで上から降り注いでいた無数のナイフが、下から上へと進行方向が真逆になって

魔理沙の身体に突き刺さり始めたからだった。

それでも彼女のスペルの勢いは殺されず、そのまま直進していった。

だが、すぐに紅魔館の廊下に不時着してそのまましばらく進んでいった。

魔理沙は突然の事に頭が追い付かなかったが、一つだけ理解出来たことがあった。

未だ廊下に落ちた時の痛みで立ち上がれず、顔だけを上げて震える声で呟く。

 

 

「な、何だ………何が起こった?アタシは、負けたのか………⁉」

 

 

呆然となってその場から立つことも忘れてしまった魔理沙。

近頃は弾幕ごっこをしてなかったとは言え、幻想郷ではかなり名の知れた強者である自分が

突然現れた謎の男に、とっておきを出しておきながら無様に敗北を喫したという事実を

受け入れることが出来ない彼女の後ろから、小気味良い靴音を鳴らして紅夜が近づく。

自分の真後ろで止まった靴音に少し驚きつつ、後ろを振り向いた魔理沙に

紅夜がにこやかに微笑みながら弾幕ごっこの勝敗を口に出した。

 

 

「さてこの勝負、僕の勝利ということでよろしいですね?」

 

「あ………え、や! ち、違う! 違うぜ、まだアタシは負けちゃいない‼」

 

自分の敗北を決めつける紅夜の言葉を、魔理沙は慌てて否定して再戦の意思を見せる。

だが紅夜はそんな彼女の必死の否定を何の躊躇もなく切り捨てた。

 

 

「いいえ負けです。僕が貴女のスペルをブレイクし、貴女は心の片隅で敗北を認めた」

 

「み、認めてない! アタシはまだやれる、まだ弾幕ごっこは終わっちゃいないぜ‼」

 

「往生際が悪いですね…………いいでしょう、ではこの勝負の勝敗を一旦預かりましょう」

 

「何だと? そりゃどういう事だ」

 

 

魔理沙は紅夜の言った言葉の意味が理解出来なかった。

とにかく今彼女の頭の中にあるのは、目の前の少年と早く弾幕ごっこをして今度こそ

油断せずに完璧な勝利を得て今回の異変を解決すること、ただそれだけだった。

しかし紅夜は右手を魔理沙の居る方へと向け、左手を文の居る方向へ向けた。

その行動に意味を見出せない魔理沙を見つめながら、紅夜は話を続ける。

 

 

「今回はここまで。まだ本命(・・)が来てませんからね……………順番待ちですよ」

 

「はあ?順番って、一体何の」

 

「それでは、またいずれ」

 

魔理沙が言い切る前に、紅夜はその力を発動させていた。

 

 

その一部始終を見ていた文だったが、カメラのシャッターを切ろうとはしなかった。

正確に言えばシャッターを切っても、もう意味が無かったのだ。

何故なら彼女は、彼女達は今、紅魔館の門前に立っているから。

あまりにも突然の出来事に驚くことも忘れた二人だったが、門の横の塀で立ち寝していた

門番の紅 美鈴が声をかけたおかげで正気に戻ったのだ。

 

 

 

そして、時は現在に戻る。

 

 

 

「てな訳で、アイツは多分上から降らせたナイフの進む方向を逆にしてアタシを

下から貫いたんだと思う。いつのまにか紅魔館の外に居たのもそれで説明が着くぜ」

 

 

魔理沙と文の二人は先程の紅魔館での出来事を話し合っていると、目的地に着いた。

そこではいつも見ている紅白の色合いの服の少女の他に、もう一人別の人物がいた。

文はその人物を見つけた途端すぐさま飛んでいったが、魔理沙は控えめにそこに降り立った。

二人がやって来たことに気付いた紅白の少女が、頬杖を突きながら寝そべりつつ尋ねる。

 

 

「ねぇ魔理沙、アンタ異変解決は任せろとか言っといて何で逃げ帰って来てんのよ」

 

「べっ、別に逃げ帰った訳じゃないぜ! キチンと紅魔館へ行って…………それで………」

 

「え?何、アンタまさか………負け「負けてないぜ‼」……あっそ」

 

 

魔理沙が不機嫌そうに目的地__________博麗神社の縁側にドサッと座り込む。

それを少し意外に見ていた少女、博麗 霊夢は横に来ていた文に何があったのかを聞いた。

 

 

「それで文、アンタまで魔理沙と一緒に帰ってきて…………ネタはどうしたのよ」

 

「あ、あやや…………あるにはあるんですが、どうにも信じられないネタでして」

 

「はあ?何よそれ、アンタの新聞より信じられないものなんて…………心当たりあったわ」

 

質問に歯切れの悪い返答で返した文の言葉に僅かに反応した霊夢は、魔理沙の座った

場所の反対側に居る人物へとわざとらしい視線を送る。

視線の先に居た人物を見て、文も確かにそうですねと頷く。

霊夢からの視線に気付いた彼女は、視線の送り主である霊夢に問いかけた。

 

 

「霊夢さん、その心当たりって何ですか?」

 

「アンタのとこの宗教勧誘の内容よ、早苗(さなえ)

 

「何言ってるんですか! 『神奈子』様も『諏訪子』様も、信者の皆さんの為を思って」

 

「あーハイハイもういいわ、アンタの相手すると疲れるって忘れてた」

 

「何ですかソレ! 現人神(あらひとがみ)への冒涜ですか‼ そうなんですか⁉」

 

「暑苦しいから離れなさい、爬虫類臭いのよアンタ」

 

「ヒドいっ‼‼」

 

 

涙を浮かべながら今も抗議を続けている少女は、『東風谷(こちや) 早苗』

 

爽やかな薄緑色のロングヘアーに、蛙のヘアピンを付けた明るい雰囲気の少女。

顔の左側で特徴的な白ヘビの止め具で髪を束ねている、少し斬新なヘアースタイル。

白を基調とした青い袖のラインが映える巫女服を着ており、理由は分からないが

同じ巫女である霊夢のように、脇が外部に露出したデザインなのだが

この幻想郷では、誰もその点について言及はしないのだ。

下半身のスカートは霊夢ものとは、色も異なるが作りも少々違っている。

霊夢のにはフリルが付いているが、早苗のには付いていない。

そんな彼女の抗議を遮って、魔理沙が腰を浮かせて霊夢に言いよる。

 

「そんな事はどうでもいい! 問題なのは、この異変だぜ」

 

「どうでもいいって…………まあ確かに、この霧じゃお洗濯も出来ませんし」

 

「何よりアレですよ、空を見てください。とうとう月が太陽を追い越しちゃいましたよ」

 

「月が太陽追い越して東に戻ってく………いよいよヤバそうだぜ霊夢」

 

「そのようね。……………はぁ、しょうがないか」

 

 

ため息をつきながら霊夢がよっこらせと立ち上がる。

横で見ていた文はそれを見て少し興奮気味に声を上げる。

 

 

「おお! とうとう博麗の巫女の出陣ですか‼」

 

「行くのか霊夢、だったらアタシも!」

 

「敗残兵は引っ込んでなさい。それと早苗、アンタはここで留守番ね」

 

「ええ⁉ 私、お留守番ですか!」

 

「私が居ない間に参拝客が来たら、誰が賽銭を催促するのよ」

 

「お賽銭は催促するものじゃありませんよ……………」

 

「はい、ざん……へい………?」

 

呆れ気味に早苗が肩を落としながら、渋々というように腰を下ろす。

魔理沙は霊夢からの辛辣かつ容赦の無い言葉に弾幕ごっこ以上の傷を負った。

それを見た霊夢は息を大きく吸い込みながら背伸びをして、背骨をポキポキと鳴らす。

いい感じに身体がほぐれたのか、彼女愛用のお祓い棒を右手に持って出発の準備を済ませる。

 

「さてと……文、アンタは私と来なさい」

 

「ええ⁉ なんで私だけ強制連行なんですか、おかしくないですか‼⁉」

 

「アンタはその例の男の事、しっかり見てたんでしょ?

なら相手の情報を出来る限り入手したって事よね?

それを行く途中でいいから私に全部教えなさい」

 

「ええ、まあ、それくらいなら………というか魔理沙さんが、何処見てるか

分からないほど虚ろな目してますけど⁉ 大丈夫なんでしょうかアレ!」

 

「早苗なら奇跡で治せるでしょ。ホラ、私達は紅魔館へ行くわよ」

 

「あやや、ホントに大丈夫でしょうかね………早苗さん、後は頼みます」

 

 

文が早苗に向けて敬礼をした後、霊夢と共に異変の元凶たる紅魔館へと向かった。

二人を見送った早苗は一人、誰も来ないであろう博麗神社の縁側に座って律儀に

留守番をしようとしたが、それよりもまず先にやることがあったと顔をしかめる。

 

 

「全く………魔理沙さーん、大丈夫ですかー?私が分かりますかー?」

 

「………ハハ、はいざ、ん………HEY……?」

 

「返事が無い、ただの屍のようだ……………くううぅッ‼‼

一度やってみたかったんですよねこのやり取り‼ まさか実現出来る日が来ようとは!

流石幻想郷、常識に囚われてはいけませんね! いやぁ満足ですよ、ねぇ魔理沙さん‼」

 

「………HEY?」

 

「……………割と重症ですね、これマジで」

 

 

早苗は顔を引き攣らせながら、安請け合いしたことを若干後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館のヴワル大図書館前、紅夜はパチュリーに介抱されていた丁度その時

二人の会話と紅夜の身体の異変を目撃していた人物が、廊下の角で佇んでいた。

朱い長髪で両側頭部に小さなコウモリのような黒い羽を生やした少女、小悪魔だった。

彼女は自分の主人であるパチュリーに言われて、侵入者(魔理沙)の撃退を命令されて

いたのだが、敵うはずもなくやられて大図書館へ戻って来た直後だった。

廊下の角を曲がろうとした途端聞こえてきた絶叫と嗚咽、彼女は驚いて身を竦ませて

角の前で止まってしまった。だから聞こえてしまった、だから知ってしまった。

この館の新たな住人、メイド長の弟、十六夜 紅夜の秘密を。

 

(紅夜さんが、死ぬ………? なんで?どういうこと?)

 

 

突然の事で理解が追い付かない小悪魔は、顔を僅かに角から出して様子をうかがう。

すると彼女の目には、自分の主が普段の姿からは想像がつかないほど優しい表情で

口や鼻から血を流して息も絶え絶えな紅夜の頬を撫でている光景が飛び込んできた。

顔を引っ込める小悪魔だったが、その顔は彼女自身の髪よりも朱く染まっていた。

たった今見た光景を思い返して、頭に湯気が上るほどのぼせ上がる。

 

 

(ぱ、パチュリー様が!パチュリー様が紅夜さんに、あんなこと…………)

 

 

少しだけ呼吸を荒げて、小悪魔が思考にふける。

ついさっき聞いた話では、紅夜がもうすぐ死ぬのだと言う。

そう言っていたパチュリーが、血みどろの紅夜の頬を今まで見たことも無いほど優しい表情で

彼の頬を撫でている…………全く以て理解が出来ない状況だった。

 

 

(と、とにかく咲夜さんに報告をしなきゃ! 確かお嬢様のお部屋の前で……)

 

 

一度ふやけた頭を大きく振るって、冷静さを取り戻そうとした小悪魔は

両手をグッと握りしめて紅夜の姉である咲夜の元へこの事を報告すべく

グルリと方向転換をして走り出そうとしたその時。

 

 

 

 

 

 

「どこへ……行くん、ですか……」

 

「あっ、紅夜さん……」

 

 

目の前に紅夜が一瞬にして現れた。

足をふらつかせながら、立っているのやっとのような状態にも関わらず

ただひたすらに自分を睨みつけているその目に、小悪魔は恐怖を覚えた。

紅夜が咳き込む度にネバついた血の塊が廊下に飛び散るが、紅夜は構わず小悪魔に尋ねる。

 

 

「こ、あ……さん。どこへ行く、つもり……です…………か」

 

「え………それは、その………咲夜さんの所へ「ダメだッ‼‼」ひっ!」

 

 

小悪魔の口から『咲夜』という言葉が出た瞬間に、紅夜は目を見開き声を荒げ叫んだ。

そのあまりの気迫に小悪魔は小さく悲鳴を上げて後ずさる。

紅夜が手を伸ばして小悪魔の肩を力強く掴んで前へ押し出す。

勢いに負けた小悪魔が後ろへと倒れこみ、紅夜はそのまま彼女へ馬乗りの体勢になる。

名前のように悪魔の眷族である小悪魔にとって、いくら全身を改造(・・・・・・・・)されているとはいえ(・・・・・・・・・)

ほとんど死にかけの人間の腕力など、本来なら跳ね除けるくらいは訳ないはずだったのだが

何故かその行為を受け入れて、なし崩し的に今の状況になってしまった。

 

 

「ダメ………だ、絶対…………ね゛え゛ざんには、言わ……ない゛で………」

 

「紅夜さん…………紅夜さん!」

 

 

喉から溢れ出る血が今も口から噴き出る紅夜を、小悪魔は抱きしめた。

力強く両腕で抱き込み、手で彼の背中を優しくさすって温もりを広げていく。

目の前の少年のただひたすら健気に姉を想う気持ちに、心を動かされたのか。

それとも、血を吐きながらも異変を成す為に誰にも心配をかけたくないだけか。

どちらにせよ、小悪魔は彼を抱きしめずにはいられなかった。

 

「こあ、さん………? ど………して……」

 

「紅夜さん、大丈夫ですよ。大丈夫ですから………!」

 

 

泣きじゃくる子供をあやす母親のように、ただ優しく紅夜を抱きしめる。

紅夜からすれば、小悪魔が何を思ってこんな事をしたのか分からなかったが

小悪魔もまた、何故自分が彼を抱きしめているのかは分かっていなかった。

二人して廊下のカーペットの上で抱きしめ合いながら時を経ていく。

だが、ここは廊下の角から押し出された場所である。

つまり先程までパチュリーと紅夜がいた場所からは、丸見えの位置なのだ。

 

「…………何してるのあなた達」

 

「うひゃああぁ! パチュリー様⁉」

 

「廊下の端っこで何で抱き合っているのかって聞いてるの」

 

物音がしたため歩いて角までやって来ていたパチュリーに今までの事を全て

見られていたことを把握した小悪魔は、また顔を朱くして頭から湯気を上げる。

馬乗りになっていた紅夜は、パチュリーの声を聞いてよろよろと立ち上がった。

パチュリーはボロボロの紅夜を見て顔をしかめながら言った。

 

 

「服は替えがあるからいいけど……………来なさい、軽めの回復魔法なら使えるから」

 

「は、はい……」

 

「ああああの、パチュリー様。その、もしかして、怒ってます?」

 

未だに紅夜に押し倒された状態のまま動かない小悪魔がパチュリーに聞いてみる。

するとパチュリーはゆるりと振り向いていつも通りの感情の読めない無表情で答えた。

 

 

「怒ってる?私が、何に対してかしら?」

 

「えっ……い、いえ何も」

 

「ならいいわ。………怒って見えるのね」

 

「パチュリー様?」

 

「いいの、とにかくまずは紅夜の回復が最優先。魔法陣の用意手伝いなさい」

 

「は、ハイ!」

 

 

倒れていた小悪魔はパチュリーの命令を聞いて立ち上がり、

服についた埃を払いながら大図書館の扉を開けて中へと入っていった。

その背中を普段通りのジト目をさらに細めつつ見つめて、パチュリーが小さく呟く。

 

 

「怒ってます、ね…………もしかしたらそうなのかもね」

 

「パチュリーさん……?」

 

「紅夜、あなたも早く中へ入って魔法陣の真ん中に立っていなさい」

 

「分かり、ました……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……………コレが、『嫉妬』ってヤツかしら。嫌な気分ね、本当」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館の門前までやって来た霊夢と文は、寝ている門番の横を素通りして

館の中へと入っていったが、既に魔理沙が特攻をかけていたからなのかは分からないが

妖精メイドの妨害も無く、拍子抜けするほどあっさりと大図書館の前まで来る事が出来た。

文に言われるままここまで来たところで、霊夢がもう一度道中で聞いた話をおさらいする。

 

 

「……で、魔理沙がここにある魔法陣か何かを破壊しちゃえば、とりあえずこの霧は止むはずって

言ってたのよね?一言一句間違いは無いわね?もしここにそんなの無かったら……いいわね?」

 

「……………ゑ?それって私のせいじゃありませんよね⁉」

 

「うるさい。いいからさっさと済ませて帰るわよ」

「え、あの、ちょっと霊夢さん聞いてます⁉」

 

「パチュリー、居るんでしょ? 魔法陣か何かがあるなら壊すけど、ここにあるかしら?」

 

 

扉を開けながら良く通る声で物騒な事を言いながら、この大図書館の主の魔女を探す霊夢。

すると奥の方から靴の鳴る音が近付いてきて、霊夢達から少し離れた場所で止まった。

その音の止んだ方向へ目を向ける霊夢と文に、目当ての人物が声をかけた。

 

 

「あるけど駄目に決まってるでしょ。せっかく作った物壊されて、喜ぶ人がいると思うの?」

 

「ここにいるわよ。アンタらの霧のせいでこっちは、洗濯が部屋干しになっちゃったのよ」

 

「それは災難だったわね。なら、災難続きで悪いけど………ここで倒されてくれない?」

 

 

強気に言い放ったパチュリーが右手に持った魔導書を開いて魔力を集める。

普段の彼女からは想像出来ないほど好戦的な態度に、霊夢も文も面食らってしまう。

だが霊夢はお祓い棒で文を下がらせ、自分はパチュリーに向かって一歩踏み出す。

お互い睨むように相手を見つめるが、横合いから声が響いた。

 

 

「待ってくださいパチュリーさん。この人は、僕の獲物ですので」

 

「………紅夜、あなたはまだ休んでなさい」

 

「霊夢さん、彼です! あの少年が咲夜さんの……」

 

「コイツが咲夜の弟ねぇ………言われてみれば似てるかもね」

 

 

パチュリーと霊夢の視線を遮るように現れたのは紅夜だった。

深い黒色の燕尾服を綺麗に着こなし、既に手にはナイフがズラリと顔を覗かせている。

初めて見る相手に少しだけ警戒の色を強めた霊夢に、三度目の邂逅にも関わらずまたも

後ろで紅夜の姿をカメラで撮影し始める文、紅夜の体調を心配するパチュリー。

三者三様の反応を見せる中で、紅夜はただ一人を見据えて臨戦態勢に入る。

 

 

「貴女が博麗の巫女、ですね? 僕の名前は十六夜 紅夜と申します。

ご存知の通り、この紅魔館のメイド長である十六夜 咲夜の弟でありながら

フランドール・スカーレットお嬢様の執事も務めさせて頂いております」

 

「フランの、執事……? 普通の人間が?」

 

「霊夢さん気を付けてください。この人、只者じゃありませんよ」

 

「分かってるわよ。仮にも魔理沙を倒した奴らしいしね」

 

霊夢も文の忠告を聞きながら、お祓い棒を握る右手に力を込める。

パチュリーは紅夜を止めようとしたが、無駄だと悟って魔導書を閉じた。

文もまた巻き添えは勘弁と言わんばかりに図書館の隅の方へ移動した。

ナイフを指の隙間に挟み、いつでも投擲できると言いたげな紅夜が話しかける。

 

 

「さぁ、博麗の巫女。これから一つ、賭けをしませんか?」

 

「賭け?何をしようっての?」

 

「簡単です。僕が負ければ異変は解決、貴女が負ければ幻想郷は我らが支配する。どうです?」

 

「何が賭けよ、全く以て論外。博打の何たるかを勉強し直して来なさい」

 

「ハハ、中々に厳しいですね。………勝負だ、博麗 霊夢」

 

「かかってきなさい、咲夜の弟」

 

 

幻想郷を覆う紅い霧の異変の決戦の火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

『完璧で無辻な執事』十六夜 紅夜

vs

『楽園の素敵な巫女』博麗 霊夢

 

 

 




いかがだったでしょうか。
ご意見ご感想、いつでもお待ちしております。



それでは次回、東方紅緑譚


第十七話「紅き夜、主無き玉座」

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