東方紅緑譚   作:萃夢想天

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最近疲れがたまって、執筆にまで
影響が出てきてるかもしれません。

どうか皆様、暖かい目で見守ってください!



それでは、どうぞ


第十話「緑の道、白玉楼なる真殿楼」

 

 

 

 

 

 

______________此処は、『冥界』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだ者の魂は、自らが天国行きか地獄行きかを『三途の川』を通った先にある

裁判所で決めてもらう。しかし、裁判は知っての通り時間がとにかくかかる。

そこで、裁判の順番待ちをしている魂や、他の理由で居場所がなくなった霊魂などが

留まっているのが、『生きている者には辿り着けぬ世界』_____つまり冥界なのだ。

冥界は昼間でもほとんど薄暗く、半透明で尻尾のような部分が長くたなびく魂が

フワフワと見渡す限り一面に浮いている。まさしく、幻想的な風景だった。

 

その景色の中に、突如一筋の切れ目が生じる。

その切れ目は徐々に広がり、その端には手が添えられている。

やがてソレは人が通れるまでの大きさになり、中から二人の人影が出てきた。

 

 

「………此処が、『白玉楼(はくぎょくろう)』か 」

 

「……………行くぞ」

 

 

先に現れたのは、"縁"と書かれた布で顔を隠している少年『八雲 (えにし)』。

続いて来たのは、九本もの金色の尾を持つ流麗な女性『八雲 藍』だった。

縁は初めて見る光景に少し驚いていたが、藍に急かされ本来の目的の為に歩き出した。

彼らは『白玉楼へ向かえ』という自分達の主の命令通りに動いていた。

しかし、そこで何をするのか等の詳細は聞いていないため、一先ずは

とある人物に会う事にした。

 

少し歩いた先には、見上げても終わりの見えないほど長い階段のふもとに着いた。

何段あるのか数えるのも億劫な程の長さに、縁は感嘆の声を漏らした。

 

 

 

「……確かに、生者の住まう世界には無い物が多い」

 

「黙って歩け。紫様のご命令でなければ、私が貴様にここまでする義理は無いのだぞ」

 

 

かなり機嫌の悪そうな藍。その態度を意にも介さない縁。

藍は元々、縁のことが気に食わなくて仕方が無かった。

かつて今の主人である『八雲 (ゆかり)』に仕えてから既に数千年を共に

生きてきた藍だったが、自分が彼女の式神であることに誇りすら抱いていた。

ところが三週間ほど前、突然主がどこからともなく連れてきた一人の『人間』。

その少年はやって来てから今日までずっと主のそばにいたのだ。

 

そこにいることが、当たり前だとでも言うように。

 

 

初めはただの食料かと思っていた。

主は『スキマ妖怪』。その食性は肉食_____もとい、人食。

つまり、人間を食べて暮らしているのだ。

普段は普通に米や野菜などの普通の食事で暮らしてはいるが、彼女の能力の

『境界を操る程度の能力』を多用した日などは、多くの力の補給を必要とする。

そういう時には人を食べるのだ。だから、人間が八雲の邸にいる事自体はあまり

無いにしろ、珍しいことでもなかったのだ。

 

だが、今回ばかりは違った。

三週間という妖怪としても人間としても短い期間ではあったが、常に離れずにいた。

主は聡明な方だった。故に、自分とその極身近な人物以外には一片の信頼も

寄せる事は無いはずだった。しかし、その方が少年にベッタリとくっつき離れない。

 

(______違う、このようなお姿……紫様であるはずがない)

 

 

そう思えてしまうほどの豹変ぶり。

その原因は間違いなくこの男だ、と藍は警戒度を最大まで上げていた。

それは今、主のいないこの時でも変わらなかった。

 

「………アレか、白玉楼は」

 

「そうだ。さて、貴様への道案内はここまでだ。後は自分でどうにかしろ」

 

「…何?帰るのか」

 

「貴様には関係無い」

 

 

そう吐き捨てるように言った藍は、転身の妖術を使って消えた。

そういう類の術式に慣れていない縁には、気配を追うことは出来なかった。

仕方なく向き直り、大きな純日本建築の木扉を開け放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__________? 何だろう、この気配」

 

 

庭に映える見事な枯山水の手入れをしている一人の少女が、何かを感じる。

彼女の名は、『魂魄(こんぱく) 妖夢(ようむ)』。

色褪せた緑の上下一体のロングスカートに、下地はシンプルな白いシャツ。

頭部の右側頭部には、黒いカチューシャのリボンが一点あしらわれている。

光沢のある白髪(はくはつ)との相反する色が、逆に際立っているようだ。

そんな彼女の周囲をクルクルと旋回しているのは、ひときわ大きな霊魂。

そして彼女の背と腰に携えている二振りの刀。

 

彼女こそが、『半人半霊の庭師』その人だった。

 

彼女はいつもの日課通りに庭の手入れをしていたところ、白玉楼の門前に

妙な気配を感じたので、どうしようかと少し悩んでいた。

だが結局のところ、彼女の頭の中の、かつて出ていった師の残した言葉が

いつものように彼女を突き動かすのだった。

 

 

 

「……とにかく、斬ろう。斬れば分かると『お爺様』も言っていた………良し!」

 

 

そう結論付けた彼女は、庭の整備もそこそこに出ていった。

そんな彼女を、白玉楼のとある一室から見つめる影があった。

 

 

 

「……………知りなさい、妖夢。『強さ』の意味を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縁は門を通って、辺りを見回してみた。

しかし敷地が広過ぎて、全容を把握出来なかった。

先に帰ってしまった藍にもう少し詳しく此処の情報を聞いておけば

良かったと惜しみつつ、邸宅の玄関に向かって歩を進めようとした。

 

その時、

 

 

 

 

 

「止まりなさい、そこの侵入者‼」

「_____此処の者か、丁度いい」

 

 

縁の前に、一人の少女が飛び込んできた。

その背中と左腰には、それぞれ一振りずつ刀が納まっている。

随分威勢良く突っ込んできた彼女に、此処の事を尋ねようとした。

 

 

「突然ですまない、私は________」

 

「いいです結構です貴方が誰でも構いません。

寧ろ聞かずに斬った方が早いので斬りますね斬ります」

 

 

会話が成立しない。

早くも話しかける相手を間違えたと考える縁だったが、

そんな彼にもお構いなしで、さっきと同じ早口でまくしたてる。

 

 

「貴方の腰にあるのは刀ですね素晴らしい尚良しですよ同じく剣に

生きる者同士確実に決着が付けられますね良かったですさぁお覚悟‼‼」

 

 

 

脚に力を溜めて、一気に跳躍する少女。

既に二振りの刀は抜刀され、刃は自分に向けられている。

縁は刀を抜いて接近してくる彼女に対して、ただ一言『警告した』。

 

 

 

「________私は誰にも『負けてはならない』」

 

「ぐぅッ‼⁉」

 

既に勝負は着いていた。

縁は自らの『全てを(つな)ぐ程度の能力』を使って、

自分の右手首だけを少女の喉笛に結いで、握り締める。

一度もその身体に触れる事無く、少女の敗北が決まってしまった。

苦しさにもがきながらも、少女は抵抗を続ける。

 

 

「…………それが紫様からのご命令なのだ」

 

「うぅ……ぐっ…(紫様って……なんでこの侵入者が⁉)」

 

剣を使って振り払おうとするが、掴んでいるのは右手首のみ。

体、つまり本体は5mほど手前にいるため、全く無意味に空を斬る。

しばらく首を抑えていた縁だったが、ふと手を放して右手首も戻した。

 

「かはッ‼ げほっえほっ‼‼」

 

「手荒ですまない、だがこちらの話も聞いてもらいたい」

 

 

地面に膝をついて気道の圧迫からの解放に喘ぐ妖夢。

それでも目だけはひたすらに縁を見つめて揺るがない。

それは剣士としての矜持からなのか。

それとも剣術指南役としての自責からか。

 

 

「そこまでよ妖夢。今は下がりなさい」

 

 

 

すると、玄関口に一人の女性が姿を現した。

無数の幽玄な色合いをした胡蝶を引き連れて。

 

 

 

「『幽々子(ゆゆこ)』様⁉ 危険です、お部屋にお戻りを‼」

 

「あらぁ妖夢、戻るのはあなたよ~? 聞こえてたわよね?」

 

「えっ……で、ですが幽々子様‼ 目の前に侵入者がいるのに」

 

「剣振り回してる不審者が言える立場ではないわよ~。いいから下がって」

 

「……………みょん」

 

 

 

最後の言葉が効いたのだろうか、妖夢と呼ばれた少女はかなり落ち込みながら

おぼつかない足取りで玄関へ戻っていった。

入れ替わるようにして、少女を咎めた女性がこちらにやって来る。

 

 

「ごめんなさいね~?ウチの妖夢が迷惑かけちゃって」

 

「いえ……。それよりも、貴女はまさか」

 

「あら、やっぱり紫から聞いてる?」

 

「………『西行寺 幽々子』様でいらっしゃいますね」

 

「だーい正ー解‼ 流石紫のお気に入り君ね~‼」

 

 

明るく気さくで、この冥界には似つかわしくなさそうな雰囲気の女性。

彼女の名は『西行寺 幽々子』と言い、この冥界で霊魂の管理をしている。

桃色の長くも短くも無い曖昧な長さの髪。

着ているのは、フリル付きの水色の和服。

頭部にも同じ色の頭巾を被っているが、そこには本来、

死人が葬儀の際に頭に付けるはずの三角巾を付けており、

三角の部分には霊魂のような模様が描かれているのだった。

「それで、貴方が縁君でいいのよね?」

 

「……恐れ多くございます幽々子様。どうぞ縁とお呼びください」

「あら、いいの?それじゃそうさせてもらうわ~。よろしくね~」

 

深いお辞儀で頭を下げる縁。その姿に若干驚く妖夢。

その姿を横目で確認しながら、幽々子は縁に白玉楼へ上がるように言った。

 

「紫から聞いてるわ~。とにかくいらっしゃいな、歓迎するわ」

 

「…………………」

 

 

こうして縁は白玉楼へ入っていった。

この後におこる様々な出来事のことなど、思いもせずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいま戻りました、紫様』

 

「あら、随分早いじゃない……………あの子は?」

『冥界へ連れて行く事が目的でしたが、ヤツがしばらく残りたいと言ったので

能力のこともありますし、自力で帰れると判断したため、置いてきました。』

 

「………………そう」

 

『ハイ。それよりも紫様、今晩の夕食をいかがなさいますか』

 

「……そうね、狐の丸焼きなんて珍しくていいかもね」

 

『……え?ゆ、紫様……?』

 

「藍、私は言ったはずよ。『付き添いをしなさい』とね。ならば貴女は

あの子が何と言おうとそばにいることが最も重要なのよ。……嘘も相手を選びなさい」

 

『_______ッッ‼‼』

 

「もういいわ、私が直接そっちに行くから。ついでに幽々子にも会いにね」

 

『あ、あの紫さm_____』

 

「そこで待っていなさい。私の命に背いた事を後悔くらいはさせてあげるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………縁、貴方は私が守るわ。貴方を否定する世界の全てから……」

 

 

 

 

 







書いてる途中で気付きました。



今日、ディケイドの更新日やん(`・w・)


ごめんなさい、一日ずらしたの忘れてました…。
明日は必ず向こうを更新いたしますので、それでは



次回、東方紅緑譚


第十壱話「緑の道、幽雅の桜と眠る胡蝶」

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