変身願望ブルゥス   作:アルファるふぁ/保利滝良

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いよいよ終わりも見えてきました



東京珍道中その一

 

地図を開いて現在位置を確認する

この住宅街を抜ければ、あの廃ホームまでそう時間はかからない

清仁はネックウォーマーをずり下げながら辺りを見回した

住宅街とは、家が沢山建っていて、道路はまるで迷路になったかのように入り組んでいる

落ち着いて進まねば困ったことになるのは必然だろう

油断も隙もない

カーブミラーを通り過ぎ、もう一度地図を開く

が、この地図は流石にこんな住宅街を集中的にマッピングしてくれることはできないようだった

迷った

そう認識する頃にはもう遅く、足を止めた瞬間、焦燥感がどっと押し寄せてきた

ここはどこだ

元来た道を戻ろうにも、同じような一件屋が続いてはそれすらできない

いっそのこと近隣の住民に聞いてみたらどうかとも思ったが、それもできない

今の時間帯が真昼間だからだ

高校生とおぼしき人間が慣れない場所を彷徨くのは、どう見ても怪しい

警察のお世話になんかなったりしたらそれこそ終わりだ

ではその他の手段があるかと言うと、無い

完全に手詰まりとなっている

このまま無理矢理進んで通りすぎてしまおうかと考えた、その時だった

清仁は背後に強烈な気配を感じた

そして振り向く前に異形へと姿を変えた

刺の生えた体表の黒い怪人 清仁の体が一瞬にしてその禍々しい正体を晒す

飛び掛かってきた敵対者は、変化した清仁の姿に怯えることもなく、片手を降り下ろしてきた 鉄色の鈍い光が視界に飛び込んできた

黒い異形は飛び下がった 跳躍で僅かに浮遊した感覚を味わいつつ、互いは互いの姿を凝視した

左右で色の違う怪人 右側は藍色、左側は黄緑 相対しているならば、向こうにとって右手は黄緑で左手は藍色なのだろう

そして黄緑の方の手に握られていたのは、普通の家ならまず見かけないような長柄の斧であった

武器である 清仁は、今までこのように露骨な武装を持ち出してきた怪人を知らない 自身が背負っているゲルブレードでさえ、線引きは曖昧だが黒い怪人の体の一部なのだ

しかしあの二色の怪人は、恐ろしいことにハルバードで攻撃を仕掛けてくる 自動車にへこみを付ける拳を耐えられる表皮に鋼鉄の武具が通用するかはともかく、相手の間合いはかなり大きい

先端の速度はとても早い 怪人の怪力によって振り回される武器が、長い柄による長リーチによって襲い掛かる 思わず清仁は浮き足だった

上からの振り下ろし 半身を逸らして避ける

振り上げてからの右からの横凪ぎ 脇腹に食らう

引いてからの兜割り これも食らう

怯んだ所へもう一閃 これは避けた

転がりながら攻撃から逃れる 相手は無茶苦茶に振り回しているように見えて実はこちらを追い詰めるような攻撃をしてくる 安易な戦法では勝てない

だが、今の一合二合で突破口は見えた

黒い異形は、背中から剣を引き抜いた 首と長い管で繋がっているその剣こそ、必殺のゲルブレードである

ゲルブレードの先端が開いた 液体が染み出し、球体を形作る 剣の先端に、人の頭ほどの大きさがあるトゲ付き鉄球 ゲルブレードクラッシャーだ

ハルバードで殴りかかってきた二色の異形に、黒い異形は回避をしなかった むしろ、正面から突っ込んでいき、攻撃を加えた

ゲルブレードクラッシャーを叩き付ける

右から迫る刃が、左から走る鉄球と正面衝突した 堅い物質がぶつかり合い、勢い任せの物理的衝撃が二体の怪人の持ち手を襲った

清仁は腕を痺れさせる程度で済んだ だがしかし、相手はそれだけでは済まされなかった

吹っ飛ばされた敵は、黄緑色の側からアスファルトへ叩き付けられた 強く打ったのか、腰に手を当てて悶えている

あんなに何度も斧を叩き付けても清仁を仕留められなかった時点で、二色の異形の膂力不足は目に見えていた 純粋なパワーのぶつけ合いに持ち込み、黒い異形は勝ったのだ

素早い連撃は驚異のものであったが、一手で形勢は逆転した

黒い異形が敵に迫る 寝転んだ体勢のままの相手を見下ろして、ゲルブレードクラッシャーを天高く振り上げた

《ま、まってくれ・・・》

機械で雑に加工されたような、やたらと低い声

怪人同士が会話するとき、このような声で発声が行われる

清仁は今喋るために口を開いた覚えはないので、これは二色の怪人から発されたものだ

《ワシには孫が》

だが声を聞くことと話を聞くことは全く別の対応である

そして清仁は、命乞いに興味はなかった

ゲルブレードクラッシャーは哀れな誰かの祖父

の頭へ吸い込まれるように迫っていった

 

 

 

 

 

 

爆風や爆音が付近住民にバレることがなく、清仁はホッとした

家族が全員いないか冬休みの旅行シーズンであるか

理由としてはそんなものだろうか、二体の異形が争った場には人っ子一人来なかった

誰かが様子を見ている様子は見られなかった

爽快感と快楽に包まれて、清仁が住宅街を通り過ぎた

地図にあった通りの大きな道路

これに沿って歩けば、廃ホームへの最短距離だった

 

 

 


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