変身願望ブルゥス   作:アルファるふぁ/保利滝良

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いよいよ終盤です



旅立ち

 

財布よし

金よし

リュックサックよし

地図よし

携帯はいらない

充電器も

家の鍵もいらない

一応ペンとノートを持とう

二冊のライトノベルも持っていこう

あとは買えばいい

死んだ男から貰った金で

 

 

 

 

午前四時

朝昼夜とは比べ物にならないほど静かな時間帯

一人の男が、家の扉を開けた

黒い短髪、暗い眼光、三白眼

まあまあ老けた面構えは、岩のような無表情であった

志田清仁

それがこの男の名だ

ただ今彼のしようとするところは一つ、家出だ

望んだことではない

そうしなければいけないからだ

清仁はある日、異形の力を手にした

それは、同じように異形の力を手にした者達と殺し合いするための力だった

異形との戦いを定期的に行わなければ、欲望や渇望が生まれ、その者の精神を蝕む

よって、彼らはお互いに戦い、殺し合う

そこに一切の例外はない

清仁はこの異形の力を歓迎していた

実際に、この異形達の習性に従い、幾人もの人間を無惨に葬ってきた

しかし今回の家出のきっかけは、それの罪滅ぼしだとか、周りの人間を巻き込まないためだとかという理由ではない

異形が、彼の周囲から消えてしまったからだ

清仁は生来人一倍欲望などが強い

飯は多量に食い、昼間も眠りこける

暇があって人の目が無ければ頻繁に自慰にふけり、様々なものに目が眩む

異形による戦闘欲求も高く、自分の住んでいる都道府県の異形は全て殺し尽くしてしまった

だが、戦闘欲求は収まらない

ひたすらに、清仁に異形同士での闘いをするように命じる

清仁はそれに応えることにした

自らの故郷を捨て、隣の県へ旅立つことにした

異形と戦い続けられる土地が良いということで、首都東京をチョイスした

あそこには、普通の人間を呼び込んで異形と化させる『石』があり、田舎の県よりか異形が出やすいだろう

それに元々人口密度が高いので、異形がいる確率も高い

幸いにも、清仁の故郷は東京の隣の県だ

今回の旅にはもってこいだ

移動手段は歩きだ

こんな旅に出るのなら、なるべく脚の着かない移動手段がいい

異形などの事情を他人に一切口外しない清仁は、家族を含めた一切に自分の足取りを知られたくなかった

それに、殺し合いをするために旅立つのだ

家になど、帰れるはずもない

 

 

簡単な遺書は書いた

バイト先は辞めた

学校は今は冬休み

絶好の家出日和だ

こんな季節なので、陽はいまだ昇らず

しかし流石に夜は白けてくる

清仁は歩き出した

未だ見ぬ、未来へ

 

 

 

 

何時間歩いただろうか

脚がミシミシと音を立てる

視線を上げれば、看板があった

県境、東京まで三キロメートル

 


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