変身願望ブルゥス   作:アルファるふぁ/保利滝良

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こいついつも戦ってんな



アメイジング・バトル

 

県内有数の高層マンション

天高くそびえ立つ住宅

その下には、住民が使う公園や駐車場が広がる

誰もいない寂しげな雰囲気の広場に、男二人

片方はスーツを着ていた

不適な笑みを浮かべている

もう片方は黒いジャンパーを着ていた

怒りを瞳に宿している

スーツの男、松井京二が口を開いた

「来るとは思ったが・・・」

その顔を、ジャンパーの男が鋭く睨み付ける

「だから彼らを焚き付けたんだがな」

「ほざいてろ」

松井に憤怒の形相を向け、志田清仁は吠える

「殺す気なのは知っていた・・・なんで直接来なかった?」

松井の口角が吊り上がる

その視線には、僅かな侮蔑の色がある

昔からいじめの対象となっていた清仁は、それに敏感だった

敏感になってしまったと、言うべきか

「志田君、君は、どれくらいのペースで異形と戦う?」

「・・・少なくて月に一度、多くて週に一度」

「やはりか」

清仁の返答に、松井は返答を重ねる

「だから、汚い手を使ってでも君を葬ろうとしたわけだ」

「何?」

清仁は眉をひそめる

こいつは何を言っているんだ、というような疑問の気持ち

それに気付いたか、松井は続けた

「この県に、異形はもういない・・・なぜだと思う?」

「互いに殺しあっているんだ、すぐにいなくなって当然だろう」

「違う」

「は?」

意味がわからないというふうな清仁の目を見据えて、松井県知事は言い放った

「君が粗方殺し尽くしたからだ」

「何を・・・」

「異形の者達は東京のとある駅にある奇妙な石に触れたことであの姿を手にした」

清仁の一言をまたも無視して、松井は続ける

「だが、あの石に触れたあとは勝手に行動ができる、つまり・・・この田舎には異形が留まりにくく、そして」

「・・・なんだってんだ」

「ただでさえ少ない怪人を、清仁君、君がハイペースで倒していったから、ここにはもう異形がいない」

喋り終えると同時に、清仁の目の前の男はその姿を変える

趣味の悪い黄金の怪人だった

陽に煌めく表皮が、ただただ頭に来る

「君は異常だ」

 

 

 

 

 

清仁は考える

最初、自分はこの男を殺すためにここに来た

異形として戦うためでもあったが、別の理由があった

清仁は松井に対し怒りを持っていた

松井京二は、青島を唆し、怪人に変化させ、清仁を襲わせた

さらに、別の地点にいる怪人にも声をかけ、二体の怪人で清仁を始末しようとした

結果的にそれは失敗に終わったが、問題は以前の松井の行動だった

奴は清仁と停戦協定のようなものを結んでいた

それなのに、あのような行為を行ってきた

だが、冷静に考えれば、怒るような理不尽はない

青島は、異形の力に憧れて自分の意思で怪人となった

その本性を現し、清仁にトドメを刺された

もう一人の方もそうだ

遅かれ早かれ彼と清仁は戦っていただろう

停戦協定が破られたのも、清仁の危険性を松井が重く見たからだ

週一ペースで殺人を繰り返す男など、県知事としてはなんとしても排除したいだろう

それにそもそも、松井はかなり怪しかった

裏切りを予測できなかった自分の方にこそ非がありそうだ

では、なぜ自分は怒っているのか

これでは、理不尽なのは、自分の方ではないか

 

 

 

 

 

 

そこまで考えを巡らせようとして、清仁はあることを思い出した

今は、戦闘が始まっていることに

地面から蔦のような物が現れる アスファルトを突き破って出てきた伸縮性のそれは、清仁の首に巻き付いてきた

そのまま力強く締め付けてくる

清仁はその姿を変えた

皮膚は外骨格へ 顔は恐ろしげな人外のそれへ トゲと背中の剣が生え、日焼けの少ない体色は、濁りのない黒へ

変身を遂げた清仁は、体に力を感じた このくだらない肉体から、別の力強い何かへと変わりたい この力には、彼の願望がこもっている

首に巻き付く触手を掴む 全握力でもってそれを握り締める

戦闘が、本格的に始まった

 

 


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