変身願望ブルゥス   作:アルファるふぁ/保利滝良

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異形というのは恐ろしい
主人公を始めとした沢山の人々を変貌させてしまった
だが本人たちは喜んでいます
なぜなら、産まれてこれまで味わったことのない快感を得られるのだから



衝動のままに

 

ファストフード店から自転車で五分

清仁の目の前には、殺風景な広場があった

立ち並ぶブナを除き、遊具もベンチも水飲み場もない

元々はこんな何も無い場所ではなかったのだろう

地面のへこみが、かつてこの公園に遊具があったのであろうことを物語っている

こんなつまらない場所に、人が来るわけもなく、そこには緑と赤のツートンカラーの化け物だけがいた

自転車を停めて鍵をかけ、清仁はそのまま指の骨を鳴らす動作をした

その体は既に、人のものではなくなっていた

黒い異形が走り出す

目標はたった一つ、視線の先のツートンカラー

肘を引き、拳を握り、走る

だが敵の方が早く行動を起こした

背中に回した腕から、何かを取り出した

それは礫だった

清仁の鼻っ面に小石がめり込む

頭部に強い衝撃を受け、黒い異形はもんどりうって倒れた 肘、肩、腰の順で地面に触れる

そこへ、腕をしならせた怪人が、石を投げつける

肘で地面を押して、清仁は転がった 頭すれすれのところへ岩石の弾丸が撃ち込まれる

地面に突き刺さる石

うつ伏せになった所で両手を地面に着け、起き上がる 脚を回して視界に敵を捉え、走る

反撃の時間だ

相手はもう一度小石を投げつけるつもりだ

その前に敵に近付く必要がある

黒い異形は脚を折り曲げた 関節が曲がる 腰を落とす

刹那の間、清仁は脚に力を込めた 大地を蹴って立ち幅跳び

風を切って敵へ突っ込む

石を握っていたツートンの怪人の鼻先へ、一瞬で到達する

無げのフォームへ入っていた敵の腕を掴む

これで動きは封じた

頭を大きく後ろへ引き、目の前の鼻っ面に額を叩き付ける

人生初の頭突きはうまくいかず、多少意識がクラクラした

よろけた相手の腹に足裏を捩じ込み、押し込むようにして蹴る

背中から倒れ込んだ敵を見下ろして、清仁は背中の剣を引き抜いた

ゲルブレードスラッシャーを使うつもりだったが、やめた

体液を噴射するあの技は、相手が弱りきっていないタイミングで使い仕留め損なった場合の危険性も高い

ならば、体液を固めてハンマー状にし、噴射せずにいればどうか

ゲルブレードの先端に球体が現れた それは全体に棘が付いていた それは黒の怪人の頭部より巨大だった

そしてゲルブレードに、ハンマーの頭が付いた ゲルブレードクラッシャーと名付けることにした

倒れた敵が起き上がる 膝を伸ばして立ち上がらんとするツートンカラーの異形に対して、清仁はゲルブレードクラッシャーを振り上げた

敵が一瞬固まった ハンマーで殴られるとは思っていなかったのだろう 想定外の事態に呆けてしまったのだろう

それが隙だった

球体は勢いよく降り下ろされる

ぐしゃり、とハンマーがめり込む

ぶん殴られた異形が両手で頭部を押さえて後退りした 透明の液体が滴る

黒い怪人がさらにハンマーを振った 地面に落とした球体を横に構え、全身を使ってスイングする

横殴りを食らったツートンカラーの怪人が、横たわって動かなくなった

その直後、爆発が起き、清仁の目の前に火柱があがった

 

 

 

 

 

変身を解除した清仁は、自転車のサドルに跨がった 晴れやかな気分だった

異形たちはとある欲望に苦しめられている

怪人と戦えば、その苦しさは一時的にだが無くなる

つまりこの異形同士の戦いが、清仁をはじめとした怪人達を狂わせていた

いや、もともと人は狂った生き物なのかもしれない

異形でない普通の人間たちが、自然を文字通り根こそぎ破壊し、同族同士で積極的に殺し合い、自らの母星である地球を破壊できるところまで来た

生き物として狂っている

今さら欲望が増えたってなんの問題もない

むしろ、戦いの後のこの爽快感は、何物をも寄せ付けない

たとえ失恋であっても

清仁は自転車の籠からハンバーガーの包みを引っ張り出した

歯で破き、かぶりつく

冷めていた

それがどうしたのか

「うめぇ」

殺し合いの後の飯は最高だ

清仁の頭から、藤野美奈への想いは消えていた

 

 

 





いよいよ本作も後半に差し掛かってきました

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