変身願望ブルゥス   作:アルファるふぁ/保利滝良

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戦闘だけです、いつもの現代社会ディスはないです!



襲い掛かる者、襲い掛かられる者

 

夜が更け、辺りはすっかり暗くなっていた

街灯の光が、冷たく道路を照らす

そしてその光に照らされて、二人の男が対峙していた

二人とも険しい表情をして互いを睨んでいる

やがて、片方が格闘技の構えをとった

すると、構えをとった方の男の体がみるみる内に変化していく

体が甲羅に覆われ、人間らしさが何一つ無くなったのである

二の腕が太い、茶色の化け物に、男は変化した

その変化を見て、もう一人の男の体も変貌した

すらりとした細身の体型だが、その頭部には弁髪のようなものが一房存在した

紫の色をしたその怪人も、拳を握って腰を深く落とした

茶色の異形と紫の異形が、互いに睨み合う

出来の悪いホラー映画のような光景に、観客は誰一人といない

それが幸か不幸かは誰にもわからない

他に人がいないということは、この光景が世間に広まってしまうことはないが、今から始まる殺し合いを止める者がいないことも意味する

そう、彼らは今から殺し合いを始めるのだ

お互いの、堪えきれぬ欲望と衝動に駆られて、血で血を洗う闘争をするのだ

じりじりと、二体の怪人が互いに近寄っていく

しかしまだ攻撃には至らない

ゆっくりと、ゆっくりと距離が詰まっていく

怪人どもの甲羅が、街灯の光を反射する

夜の中に鈍く光る、鎧

突然、紫の怪人が走り出した

拳を握り、茶色の怪人の顔面に一撃を繰り出そうと近付く

だが、茶色の怪人の方が早かった

丸太を彷彿とさせる両手で紫の異形の首を掴むと、全力で握り締めた

太い二の腕がさらに膨らむ

しかし紫の異形は奥の手を使った

弁髪がしなり、先端から針が飛び出す

針が茶色の怪人の腕を突いた

しかし痛みに構わず、怪人は首を絞める腕に力を込めていく

紫の異形は針を刺したままだ

紫の怪人の首からぎちぎちと耳障りな音が聞こえる

絞殺されるのは時間の問題だった

ここで、茶色の異形の腕から力が抜けた

首を掴む腕を弾き、紫の異形は後退した

茶色の異形が首を掻き毟る

やがて倒れた

刹那、茶色の怪人が、爆発した

閃光と共に火柱が吹き上がる

紫の怪人はそれを眺めた

弁髪持ちの勝利だった

 

 

 

 

 

唐突に、その場に黒い異形が出現した

何の冗談か、自転車を立ち漕ぎしながら猛スピードで紫の異形に近付いてくる

爆発の跡の手前で止まると、黒い異形は自転車のブレーキをかけた

唖然とする紫の怪人をよそに、黒い異形は自転車の鍵を外す

そして、紫の怪人に向き直る

紫の異形が弁髪を振り回しながら黒い怪人へ走り寄る あわよくば、弁髪の先端に付いている毒針を突き刺して殺そうという魂胆だった

黒い異形は足を上げた 高速で右足を振り上げ、踵を敵の腹部にめり込ませたのである

走ってきた方向とは逆の方へ、紫の怪人は吹っ飛んだ 何回か回転しながらも、紫の怪人はゆっくりと立ち上がる

蹴りが強烈だったのか紫の怪人が軽かったのか、それともその両方か とにかく、黒い異形との距離が開いた

二本の足で地面を踏み締めつつ、紫の異形は弁髪をくねくねと動かす

意識を毒針に向け、確実に毒針を突き刺すために

しかし黒い異形は背中から剣を抜いた

どう見ても刃が潰れて使い物にならないそれは、突然に割れた すると、透明の液体が凄まじい勢いで吹き出た

黒い怪人が一歩を踏み出す

否、一歩ではない 跳んだ 黒い異形は跳んだのだ

宙へ舞う黒い怪人に、紫の怪人は一瞬対応を遅らせた

黒い異形は、目にも止まらぬ早さで剣で薙いだ 液体の刃、ゲルブレードスラッシャー それは弁髪と、紫の異形の上半身と、ついでに刃先にあった街灯を真っ二つにした

切断面が見える暇もなく、紫の怪人も爆発を起こした

閃光と共に火柱が吹き上がる

街灯が破壊されて灯りがなくなってしまった通りに、紫の怪人が起こした小さな花火は照明となって辺りを照らした

黒い異形はそのまま振り向かず、そそくさと自転車に乗った

鍵を刺してペダルを漕ぐ頃には、そこには怪人はいなかった

 

 





一つの武器に頼ってはいけません

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