ゴールデン*ラビットガールズ!   作:ルヴァンシュ

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 今回は、ごちうさサイドの話です。尚、5人のうち1人が居ませんが、彼女はそのうち出てくる予定なのでご安心を。


魔法界へようこそ その2

【第6話】

扉を開けたら見知らぬ世界

 

 

[007]

 

 フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラー(以下FFI)。ダイアゴン横町の中にあるアイスクリーム専門店である。

 店主は、その店名が示す通り、フローリアン・フォーテスキューという初老の男。彼は人当たりが良く、立地条件はそこまで良いとは言えないために、店はいつも大繁盛という訳では無かったが、その人徳のお陰で、ある程度の固定客を掴むことに成功していた。彼にとっては、客が少なくても、必ず来てくれる人は居るというだけで、この商売は大成功だと言えた。

 

 これは、そんなアイスクリームパーラーで起きた不思議な出来事。5年間と少しの間の、5人の少女達にまつわる物語。

 

 

[008]

 

 その日は、何時もと何ら変わらない日の筈だった。何時も通りの時間に起き、何時も通りの時間に朝食を食べ、何時も通りの時間に開店準備をする。フォーテスキューは何時も通りであることに不満は無く、サプライズを求める事もない。

 しかし、己が望まぬとも、運命というものはその者の意思を一切考慮せずにイベントを発生させる。それ故、自分の身に何が起こるのかを予見出来る人間は居ないし、居るとしてもほんの一握りだけでしかない。勿論彼も例に漏れず、自分の運命を見透す事など出来ない者である。

 

 開店まで後1時間程度。

 

 フォーテスキューは材料の仕込みを始める。アイスクリーム専門店だけあって、FFIのメニューは多岐に渡る。しかし、基本一人で経営しているが故に、やはり作ることが出来るメニュー量にも限度があり、この界隈では精々下の上程度のメニュー量である。尤も、それでもマグルのアイスクリーム店の倍ほどのメニューがあるが。

 それでもこうしてダイアゴン横町に店を構え、大繁盛とはいかないまでも一定の評価を受けているのも、一人で経営していながらまるで衰える事のない手腕と、そのメニューを全て完璧に覚えている人間離れした記憶力のお陰といっても過言ではない。彼の先祖は偉大な魔法使いだったが、その偉大なる血をしっかりと受け継いでいる。

 

 さて、材料の仕込みと言ったが、このFFI、その辺の店とは違う所の一つとして、『作り置きをしない』という特徴がある(彼曰く、『作り置きなんてしたら味の質が落ちる』とのこと)。だから、この店はある程度予約制となっており、開店前に予約してもらった分を作り、開店してからは、注文を受けてから作り始めるというスタイルで営業している。

 

 閑話休題。

 

 そんな訳で、何時も通り、予約されていたものを作ろうと厨房に入ったところ、彼の目に異様なものが目に入ってきた。

 

 それは、桃色の髪でサクラの髪飾りを付けた少女。

 

 それは、紫の髪をツインテールに纏めた少女。

 

 それは、東洋人を連想する濡れ烏の如き長髪を持つ少女。

 

 それは、金髪でウェーブの癖毛を持つ少女。

 

 床に倒れこみ気絶する、4人の少女の姿が、そこにはあった。

 

 

[009]

 

「だ、大丈夫かね!? 大変だ! 聖マンゴに梟を――」

 

 普通こんな惨状を見た場合、大抵の人間は自分の安全を優先するため、思考停止するか現実逃避するかだが、彼は自分のことよりも倒れていた彼女達のことを優先したのだ。彼の人徳が窺える。

 

「梟、梟――あ! そうだ、フレーバーの奴、今は散歩の時間だった――迂闊だった! じゃあどうすれば――!?」

 

 フレーバーとは彼の梟のことである。因みに種類はオオフクロウ。

 

「くっ――エネルベート! 活きよ!」

 

 何もしないよりはする方がマシであると判断したフォーテスキューは、活性化呪文を唱えた。効果は見込めないだろうと思いながら、桃色の髪の少女にかけた。

 

 しかし、それは誤算であった。

 

「…………かはっ」

「おおっ!?」

 

 少女は、目を覚ました。

 

「大丈夫か!? おい!」

「……ん……あれぇ……? ここどこ……」

「ここは――何と言えば良いのか――アイスクリーム屋だ!」

「えっ!? アイスクリーム!? 食べたい食べ

たーい!!」

 

 目が醒めると路上からアイスクリーム屋に移動していたと考えると、非常にシュールな状況だが、桃色の髪の少女――ココアにはそんなことは関係なく、アイスクリームというワードに反応して、頭にかかっていた霧が即座に消え去った。

 というか、状況が状況でなければ普通に不法進入であり、通報される危険性さえあったのにも関わらずアイスを要求するというのは、この少女のメンタルの強さを裏付ける。

 まあ、そこまで頭が回っていなかったと言えばそこまでだが。

 一方のフォーテスキューはと言うと。

 

「アイスだね!? よし、分かった! ここで待ってなさい!!」

 

 こちらもこんな調子だったので、どっちもどっちであろう。

 

「楽しみ――えぇ!? 千夜ちゃん!? リゼちゃんにシャロちゃんまで! 何でここに!?」

「どうした!?」

「た、大変! 千夜ちゃんとリゼちゃんとシャロちゃんが気絶してるよお!」

「誰だそれは!?」

「この3人だよ! 何とかしないと――!」

「よ、よし! 私に任せるんだ!」

「何とか出来るの!?」

「出来るとも――多分――エネルベート! 活きよ!!」

 

 活性化呪文をツインテールの少女――リゼにかける。

 

「エネルベート!!」

 

 活性化呪文を黒髪の少女――千夜にかける。

 

「エネルベート!!」

 

 活性化呪文を金髪ウェーブの少女――シャロにかける。

 

「これで……どうだ」

 

 少しの静寂。そして、

 

「…………かはっ……こ、ここは――」

 

 リゼが目覚めた。一呼吸置いて、

 

「…………ん……あら? ココアちゃん?」

 

 千夜が目覚めた。一呼吸置いて、

 

「…………けほっ、けほっ……はっ!? 私はいったい!?」

 

 シャロが目覚めた。これで、聖マンゴへ手紙を書く必要性は無くなったのだった。

 

 

[010]

 

「みんな! 元気になったんだねー!」

「ココアちゃん! 良かった……生きてたのね」

「シャロ! 何でこんなところに!?」

「リ、リゼ先輩こそなんで!? あと邪魔じゃないですからね! 絶対ですから!」

「まだ引き摺ってたのか!?」

「おじさん凄い! まるで魔法みたいだよ!」

 

 ココアが目を輝かせて言う。

 

「どうやったの!?」

「どうやったと言われても……魔法を使ったとしか言えんのだが」

「あはは、確かに魔法みたいだったよ! 木の棒なんか持ってて、凄く様になってたよ!」

「木の棒っていうかこれ杖……」

「物事は形からっていうけど、姿を似せただけで魔法に似たようなことが出来るんだね! 凄い!」

 

 まるで噛み合っていない。噛み合っていないというか、歯車がある場所がそもそも違うかんじである。

 

「ところで……ここはどこだ」

 

 リゼが尋ねる。

 

「アイスクリーム屋さんだって」

「アイスクリーム屋? 何だってそんなところに……」

「つまり……あの闇の中は、ここに繋がってたということなのかしら?」

「闇!? ま、まだどっかにあるの!?」

「落ち着けシャロ! ここにはない!――ん? 何で千夜があれのことを知ってるんだ?」

「リゼちゃんも知ってるの!? つまり――私達みんなあれに呑み込まれて――それでアイスクリーム屋に――駄目だわ、訳が分からない」

「そりゃ、こんな意味の解らない状況を分かってたまるもんですかってのよ――アイスクリーム屋って……どこのアイスクリーム屋?」

「あ、そういえば聞いてなかったよ――すみません、ここって、何処ですか?」

 

 ココアが再びフォーテスキューに尋ねる。

 

「あ、ああ。ここは、ダイアゴン横町だよ――それにしてもさっきから何の話を? 言ってることがさっぱり分からん」

「いや、私達も、あんたが言ってることがよく分からないんだが――ダイアゴン横町なんて聞いたことあるか?」

「知らないですね」

「知らなーい」

「知らないわ――少なくとも、私達の街にはそんな所無かった筈よ」

 

 少しでも謎を解決しようとした結果、さらに謎が増えてしまった。謎だらけである。

 

「君達は、何故ここに? そもそも何処から来たんだい?」

「そ、そんないっぺんに訊かれても分かりませんよ! 私達だって、色々考えるのに必死なんですからっ!」

「シャロ、本当に落ち着け」

「そうね――何故ここに来たのかという問いには答えられないわ。すみません。私達も良く分からないの――もう一つの問いには答えられるわ、けれど――そうね、その前に、一つだけ」

「何かな?」

 

「ここは何処ですか?――今度は、国名でお願いします」

 

 『ここは何処ですか?』3回目の質問だが、三回目にしてようやく、彼女達が危機感を覚えるほどの答えが返ってきた。

 

「ここはイギリスだよ。イギリスのロンドンだ」

 

 それは余りにも重大で、無視することが出来ない程の、新たな問題であった。

 

 

[011]

 

 イギリスのロンドン――?

 

 つまり、ここは日本では無いということ――だとすれば、何故そんな遠い所に私達は居るの? あの闇は何だったの?

 分からないわ――情報が少なすぎる。

 

「イ、イイイイ、イギリス!!? な、なんで!? イギリスなんで!? なんで私達そんな所に居るの!?」

「頼むから本当に落ち着けシャロ!――くそっ、さっきから私これしか言ってないぞ!」

「またまたー、そんな訳無いじゃんおじさん。私達こうして話しているんだよ? イギリスな訳無いよー」

 

 ――そういえば、そうだ。

 私達はさっきから日本語で話している――筈だ。会話が成立しているのだから。

 ここが本当にイギリスだというのならば、私達は英語で話さなくてはいけない筈。それに、この男の人だって、英語を喋っている筈だ。

 

「私達、日本語で話してるでしょ?」

「え? 儂らは英語で話しているだろう? 日本語なんて、儂は喋れないからね」

 

 ――まただ。

 またよく分からないことが起きた――これはもう、疑う必要は無いだろう。この人は嘘を吐いているようにも見えないし、ここから議論を進めても平行線にしかならないわ。

 

「う、嘘よ! じゃ、じゃあ私達は、何語で会話してることになるのよ!?」

「日本語でしょうね」

 

 私は言う。

 

「はあ!? じゃあやっぱりこの人が嘘吐いてるってことじゃない!」

 

 シャロちゃんはそう言う。少なからず冷静さを失っているように見えるけれど、失っていなくても、誰だってそう思うに違いない。

 

「いいえ、そうでもないわ」

「何よそれ!? 煙に巻こうとしても無駄だからね!? 千夜!!」

 

 煙に巻くってそんな使い方だったかしら?……まあ、今は用法とかはどうでもいい。

 

「こう考えるのはどうかしら――私達は日本語を喋っているけれど、向こうからは英語に聞こえている。対して、向こうも英語を喋っているけれど、私達には日本語に聞こえる」

 

 実際、それしか考えられない。互いが嘘を吐いていないとなれば、結論はそれしかないだろう。

 それに、もう一つ、気になったことがある。これが確証されれば、私の説は十中八九正解だろう。

 

「すみません、ええと……」

「フォーテスキュー。フローリアン・フォーテスキューだ」

「ありがとうございます。フォーテスキューさん、何度もすみません、ですが、これが私からの最後の質問です」

「ふむ、どうぞ」

 

「貴方は、『魔法』が使えるんですか?」

 

 フォーテスキューさんがココアちゃんに言ったことを、私は忘れていなかった。

 

 ――魔法を使ったとしか言えんのだが。

 

 これが真実なら――その言葉通りならば、この数々の不思議な現象、状況に、ある程度の理由付けがされる。

 『魔法』がどんなものかは分からないけれど、私達がイメージしているようなものならば、異なる言語を瞬時に翻訳する事も出来るだろうし、日本からイギリスという離れた場所へ、いっきに4人を転送することも出来るだろう。

 

 魔法を使えるのか? 彼が返した答えを聞いて、疑念が確信に変わった。

 

「勿論使えるとも――君達だって使えるだろう? 同じ魔女なんだから」

 

 

[012]

 

「おっと、もうこんな時間だ! 急いで準備しないと――このままでは間に合わないぞ!」

 

 彼には重要なことを言ったという自覚は無かった。当然である、それが普通なのだから。このダイアゴン横町にいるということは、魔法が使えることがまず大前提にあるのだから。

 

「ま、魔女だと!? 私達が!? おい、どういう事だ! 説明しろ!」

「そのままの意味だよ!――まずいぞ、後10分しかない! 今日の予約は、えっと――ロングボトムさんがストロベリーチーズとシュガーナッツ――パーキンスさんがスターゲイズパイ――グリースさんがマスクメロン――ジョーダンさんが――良くない! 時間が無い!」

 

 彼方此方へ行ったり来たりと、先程までの落ち着きは何処へやら、狼狽えっぷりが半端ではない。

 

 それもそのはずである――予約してもらった客を待たせた事は今まで一度しかない。それもFFIを立ち上げてからたった3日目の事だ。それ以来、彼は決して待たせた事がないのだ。もしここで3日目が再来すれば、今まで築き上げてきた信頼が全てパアになり、もしかしたらまた一からのスタートかも知れない、いや、最悪店を畳まなくてはならないかもしれない。この小さな店がここまでやってこれたのは偏に信頼があってこそ。その信頼が無くなるとなれば、どんなことが起こるのか、想像に難くないだろう。

 ああ、彼はもうお終いなのだろうか。否、この後も彼は普通に店を続けることになる。

 彼にとって幸運だったのは、彼が一人では無かったということだ――この状況が発生したのは彼女達の所為と言っても過言では無いのだが、そう。彼女達が居る。

 

「ふふふ、お困りのようだね」

 

 ココアが不敵な笑みを浮かべつつ、フォーテスキューに語りかける。

 

「私達が手伝うよ! 考えててもどうせ時間の無駄だし、暇だし、面白そうだし!」

「なっ!?」

「お、おいココア!?」

 

 リゼが困惑したような声をあげる。

 

「いいじゃん! だってアイスクリーム屋さんだよ!? 良い機会だと思うなー。こんなとこで働けることなんてそうそうないよ?」

「な、何よそれ!? こ、こんな状況でまともに動けると思ってるの!? 寧ろ邪魔になるだけよ!」

 

 シャロが困惑したように叫びをあげる。

 

「大丈夫! これっぽっちも問題無しだよ! シャロちゃん、クレープ屋のアルバイトやってたし、こういうの得意でしょ?」

「いや、得意とかじゃ無くてえ! ていうかクレープとアイス全然違うし!」

「いいわね、私はココアちゃんに賛成よ」

 

 千夜がココア側に名乗りをあげる。

 

「千夜!? あんたまで何言ってんの!?」

「だって、この人が大変なことになっているのは私達が質問責めにしていた所為なのよ? そう思うと、少しはやる気が沸くんじゃないかしら? まあ、マッチポンプもいいところだけれど」

「で、でも……! リ、リゼ先輩!」

「成る程な……確かに、そう考えれば、これは私達に責任があるかもしれない。そうなると、寧ろ手伝う義務があるな」

「リゼ先輩まで!?……ああもう、分かったわよ! やればいいんでしょやれば!!」

 

 ヤケクソ気味にシャロが叫ぶ。

 

「決まりだね! ねえ、良いでしょ? もう時間無いみたいだし、人手が多い方が絶対良いよ! ベストだよ!」

「し、しかし――だ、大丈夫なのか!? 君達はここのことを何も知らない――」

「問題ありません! 大丈夫です! さあ! 悩んでる時間なんて無いよ! はやく始めないと!」

 

 勢いづいてココアが言う。

 

「さあ、マスター! 指示を! 私達ティッピーラビッツがいる限り、この店に客が居ない時間なんて与えないよ!!」

「ラビットハウスはあんまり客来ないけどな」

「ティッピーラビッツって何よ、ネーミングセンス……」

「さあ、フォーテスキューさん!」

 

 千夜が促す。

 

「あ、ああ! よし! じゃあ頼んだぞ、君達!」

 

「「「イ、「イエッサー!!」」」

 

 開店前の店内に今まで聴いたことが無いほどの大声が響く。

 開店まで後5分。FFIの運命や、如何に。

 

 

[013]

 

 フォーテスキューにとって、5年間と少しという短い、しかし、これ以上ない程充実した日々が幕を開けた。日々を経て、最期に彼が得るものは、何なのだろうか。




 どの時空でも働く少女達、それがごちうさ勢なのだ(殴
 という訳で、早いものでもう第5話です。そろそろ更新頻度が大幅に落ち始める頃なので、気長に待つほどの心の余裕を持ってご覧下さい。

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